燦めきの季節

作者:崎田航輝

 水際の泡まで陽光にきらめく、夏。
 燦々と輝く太陽は眩しいくらいで、けれど手に触れる海水はひんやりと冷たくて。温度と光のコントラストが、今まさに夏本番であることを伝えていた。
 海水浴場は、シーズン真っ盛り。
 白い砂浜には笑顔が咲いて、はしゃぐ声は海の中まで続いている。人々は陽が中天に昇る爽やかな青空のもと、遊びに泳ぎに食を楽しみに、こぞって渚に訪れていた。
 海の家から食べ物を買ってくれば、パラソルの下で日陰の涼みを楽しむ。ビーチバレーを楽しむ数人の背景では、岩礁から海面へジャンプする子どもたち。広い海辺では人の多さに比して狭さを感じることもなく、皆が皆、夏の旺盛を存分に満喫していた。
 だが、頭上に広がるのが曇り無い空である分だけ、翳りは闇を強く落とす。
 太陽が一瞬だけ暗くなった気がしたのは、空を高速で飛んでくる物体があるからだった。
 それは漆黒の牙。
 砂の粉塵を巻き上げて、人々が目を細める暇もないままに異形の騎士へ変容したそれは竜牙の兵隊達。骨の鳴る耳障りな音を立てると、身の丈の超えるほどの刃を掲げていた。
 全てがあまりに一瞬のこと。悲鳴が上がったのは騎士らが刃を振り回し、周囲の人間が血に沈み始めてからだった。
 打ち寄せる泡は濁った赤色に染まる。それを踏みつけて闊歩する骸骨騎士は、それが何よりの行楽だとばかりに笑い声を上げていた。

「敵サンは、相変わらず時も場所も選ばないねェ」
 ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)が頬杖をついている、ヘリポートの片隅。そんな日陰にも夏の風は吹いて心地よかった。
 こんな陽気に、牙が海を襲う。
 ほんのちょっと先の未来に起こるそんな事件に、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)も困った表情だ。
「本当ですね。折角の海ですよ。太陽に、かき氷、焼きそば、海遊び……こんな楽しそうなところに襲ってくるなんて!」
 だからこそ、皆さんにこの未来を覆してほしい、と語る。
「そうすれば、たくさんの人々の笑顔が消えずに済みますから」
「勿論。こっちも番犬ですから、出来ることをやりましょうかね」
 頷くウィリアムも、それには異論はなかった。
 イマジネイターは資料データの投影を始める。
「敵は竜牙兵です。見てください、色は漆黒で……なんだか熱を吸収して熱そうで……じゃなくて、中々戦闘力はありそうです。現場はお話ししました通り、海辺ですね」
 海水浴場となっているところで、シーズン中の今は海水浴客が訪れている。人気の場所でもあるということで、人の入りは中々のものだ。
「その人達、先に逃しておくことはできねェか」
「ええ。予知がずれてしまい結果的に被害を防げなくなってしまいますので、事前の避難は出来ません。ただ、今回は警察や消防の協力が得られることになっています。敵出現とともに市民は迅速に避難しますので、皆さんは一般の方々についての心配は要りません」
「成程。俺達は戦うだけでいいと」
「はい。戦闘に集中し、全力でうち倒してくださいね」
 イマジネイターはそれから、資料をスライドさせる。
「無事に勝利できれば、海で遊んでいってはいかがでしょう? 海の家があったり、バナナボートがあったり……とっても楽しそうですから!」
 スイカ割りをする家族がいれば、サーファーもいて、ふらっと涼みに来た人もいる。老若男女が楽しめる海で、夏のひとときを過ごしていくのもいいだろう。
「海ね。ま、行きてェとは思ってたところだ」
「ぜひ、楽しい時間のために。頑張ってきてくださいね!」
 イマジネイターはそう言って健闘を祈った。


参加者
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
藤守・つかさ(月想夜・e00546)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
シオン・プリム(種・e02964)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)
神子柴・甚九郎(ヒーロー候補生・e44126)

■リプレイ

●海辺にて
 陽光注ぐ波打ち際に、笑顔が咲く。
 水音に笑い声。漂う食べ物のいい匂い。夏の浜にウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)は思わず視線を巡らせていた。
「青い空アンド海! コイツはイイね」
「うん、みんな楽しそうだ!」
 神子柴・甚九郎(ヒーロー候補生・e44126)も朗らかな顔。尾も揺れるのは、人々の喜ぶ顔に感化されたからか。
 しかし、だからこそ迷惑だとばかりに上方を仰ぐ。
 空にあるのは、降下してくる黒色の牙だった。
「本当に、どこにでも現れてその癖空気は読まない奴らだなーもう!」
「賑わいにふらふら引き寄せられる、蛾みたいなものよね」
 翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)は見上げながら、その表情は薄い。けれど真っ直ぐな翠の瞳には、物静かな奥にきらりと戦意が光っていた。
「蛾よりずっと厄介だけど──さっさと倒して、遊びましょ」
 皆は頷き、疾駆。牙の落下と同時に戦闘の間合いへ入っていく。
 現れた竜牙兵は全身が黒色だ。立ち上る陽炎に、甚九郎は思わず呻いた。
「黒い! 暑苦しい!」
「肉焼けそうな黒だな……」
 ウィリアムも呟いていると、竜牙兵はこちらに気づく。
「イキナリ失礼ナ輩メ! 何者ダ!」
「番犬──だなんて答えるのも何度目だろうな」
 緩く首を振るのは、藤守・つかさ(月想夜・e00546)。人々の壁になりながら、呆れたような色をその深い黒の瞳に含めた。
「ホント、懲りない上に学習能力もない。ドラゴンサマに捧げるものはここにはないぜ?」
「フン、ソレハ我等ガ決メル!」
 竜牙兵は問答無用と刃を握る。だが既にウィリアムがそっと手をのべて、淡い人影を生み出していた。
 ──謡えシェヘラザード。
 それは揺蕩う妃の姿。囁く『千一夜の恋』は甘い愛の世界を作り上げ、竜牙兵を惑わせる。
 次いでそこへ降ってきたのは、丸いシルエット。
「そのまま、どんどん落ちちゃえー! にゃんだむ!」
 ぶんぶんと腕を振るっているのは水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)。行使しているのは巨大達磨型ロボを次々に落とす大型幻術『絡繰猫達磨』だった。
 押し潰される衝撃に竜牙兵が藻掻く。その間に、シオン・プリム(種・e02964)は人々へとつぶさに声をかけていた。
「大丈夫、私達ケルベロスがついている。警察の誘導に従って安心して避難してほしい」
 誰一人傷つけさせはしないから、と。
 真摯な瞳と言葉に、人々は勇気を得て逃げていく。竜牙兵がそれに気付いて見回せば、シオンは遮るように言葉に感情を乗せた。
「無辜の者へ刃を向けるべきではない、けれど。君達も孤独なのだろうな──私のように」
 伝搬する心のさざ波は、『永久の残響』となって竜牙兵の魂を揺らす。
 その先に誰かとわかり合えたらいい。そんなシオンの心まで果たして、伝えることが出来たろうか。3体はただ苦しむように動きを止めた。
 この隙に、つかさは黒色の霊力を周囲に張って後衛を守護。前衛の味方には、明空・護朗(二匹狼・e11656)が金色の杖から雷光を生み出していた。
「これで大丈夫かな、っと」
 放射状に光を広げ、雷をヴェールのように巡らす。それが仲間を守る壁となっていた。
 竜牙兵はそんな護朗へ刃を投擲してくる。が、それを甲高い音が阻んでいた。
「……やらせません、よ……っ!」
 夏風にコートを翻し、碧の双眸で見据えるのは二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)。身の丈を超える斧剣ロギホーンを盾にし、決して退かず、敵の鎌を弾き落としていた。
 余波で体の端々から血が滲む。けれど振り向き心配したのは護朗のこと。
「大丈夫でしたか!」
「こっちは平気です。そっちは」
「私も、問題ありません……!」
 葵は前を向くと『プリベントロアー』。自身を鼓舞し、仲間の心をも強めることで、意志を防御力に変えて傷を癒やしていた。
 敵も他の個体が動き出そうとする。が、先んじて甚九郎がすうと大きく息を吸っていた。
「──密林の王者、ジャガーの咆哮、聞かせてやろう!」
 声音は、刃のように研ぎ澄まされて。刹那、放った咆哮は物理的な圧力を伴って3体を後退させる。
「よし。タマ、今のうちに」
 と、護朗が言うのと時を同じく、素早い影が飛び出していた。靡く毛並みは護朗の髪や尾と対をなす白色。ずっと護朗の傍らにいた小さな狼の、タマだ。
 タマが果敢に敵に斬撃を加えていくと、次いで刃を振り上げたのはロビンだった。
「とりあえず、斬れるところから斬らせてもらうわね」
 ふわりとした声音に対し、その刃捌きは大雑把で、且つ力強く。魔女の大鎌レギナガルナの一閃で剛烈に、竜牙兵の腕を切り飛ばした。

●陽光
 短い静寂にも夏風が吹く。
 その爽やかさに反して、骨の破片を零す竜牙兵は苦悶と呪詛の呻きを上げていた。
「グゥ……ワザワザ海辺ノ僻地マデ邪魔シニ来ルトハ、暇ナ奴ラメ……」
「邪魔は僕たちじゃなくて、そっちでしょっ!」
 蒼月はぴしゃりと言い返してみせる。
「せっかくの夏休みに皆が楽しんでたんだから! そこでおいたする子は、許さないんだからね!」
「そうそう。こちとら遅れたサマーバケーション希望なんだよ。元々、オタクら暑苦しいのと遊んでる時間なんか無いっつーコト!」
 ウィリアムも手をひらひらさせて意を示した。竜牙兵達は激昂して踏み込んでくる。
「遊ビデハナイ! 崇高ナ使命ダ!」
「どちらだろうが、やることは同じだ」
 頭上から響いたのは、甚九郎の声。空を背に跳び、強烈な蹴りで1体を下がらせていた。
 別の2体がその隙を突こうとする、が、その足元が突如闇の衝撃に覆われた。
「まずは俺の相手をしておいてくれよ。よそ見せず、な」
 横合いから言ったのはつかさ。槍を突き出し、『黒雷疾駆』を放って牽制をしていた。
 漆黒の雷撃は黒潮のようにまとわりつき、動きを封じる。そのタイミングで、シオンも二丁のバスターライフルを構え射撃。衝撃の奔流を広域に撃ち出して、敵全体を巻き込んでいた。
 シオンは素早く横に目を向ける。
「二羽、すまないが頼めるか」
「ええ、もちろんですっ!」
 葵は斧剣に淡いグラビティを纏わせると、一気呵成に踏み込んで距離を詰めていた。
 竜牙兵も起き上がりざまに鎌を振り抜く。けれどその横一閃を、葵は正面から刃で受け流した。
「このくらいじゃ──退きませんからっ!」
 勢いで横に回る葵は、刃に遠心力と目一杯の膂力を込める。繰り出された斬撃は意志を体現するように、違わず竜牙兵を断ち切って霧散させた。
 残る敵のうち1体が反撃の刃を放つ。が、ウィリアムがそれを腕で防御すると、護朗がすぐにそこに駆け寄った。
「今、治します」
 傷に手をかざし、口ずさむのは『幼き日の憧憬』。
 痛いの痛いの、飛んでいけ、と。護朗の中にある誰かを助けたい気持ちが、言霊に癒やしの力を宿すように。声は光となって傷を消していく。
 攻撃を狙うもう1体には、蒼月が斬撃を入れて動作を許さない。
「させないよっ! まだ海の家で美味しくご飯食べてないんだから、これ以上は暴れさせないからねっ!」
「ああ、仕事は迅速にってコトでね」
 ウィリアムもすらりと刀を抜くと、陽光にも劣らぬ雷光を刃に宿し、刺突。1体の胸部を貫いて瀕死に追い込んだ。
「それじゃ、後は任せますよ」
「ええ」
 ロビンは気負いもなく、静やかに応えて大鎌を振り上げる。
 青空までもを裂くかのような一閃は『無垢なる冷酷』。音も追いつかぬ斬撃で竜牙兵を両断し、塵と消していった。
「これであと一体ね」
「一気に行こうか」
 槍をくるりと握り直したつかさは、黒の稲妻を今度は放たず、穂先に湛える。高速でそれを突き出すことで、直接竜牙兵の腹を穿った。
「よし、今だ」
「丁度いい。スイカの前に骨頭を叩き割ってやる。さぞかしいい音がするだろうな」
 跳んだ甚九郎は、阿頼耶光を如意棒に収束させて振り下ろす。硬質な音と共に頭蓋にひびが生まれると、竜牙兵は呻きつつも攻めるしかなかった。
「コウナレバ、一人デモ、殺ス……ッ」
「いいや。誰も死にはしない」
 シオンは首を振って、歩み寄る。
 デウスエクスすら一個の存在として敬意を感じる心には、それも苦しいこと。けれどその拳に流体“フラワリングメタル”を纏わせるのは、やらねばならないと知っているからだった。
「人々を守る。私は、私のできる事をする」
 ──彼に、笑われないように。
 シオンの真っ直ぐに放った拳は、違わず竜牙兵を打ち砕き、陽光に散らしていった。

●燦めき
 静けさが戻ると、皆は周囲の景観を修復。避難していた人々も呼び戻した。
 葵は帰ってくる人々へ、丁寧に声をかける。
「ご協力ありがとうございます。お疲れ様でした、もう大丈夫ですよっ」
「これで、やることはやれたね~」
 蒼月が見回す頃には、そこは笑顔の咲く渚の風景。賑やかな海水浴場の眺めだった。
 皆がそれぞれに解散すると、シオンはそっと帰路へついていく。
「……」
 歩みながらシオンが想うのは、ずっと会えていない、大切な相棒のことだった。
 どうしているだろうか、と。少しだけ心は彷徨う。
 けれどすぐに目を伏せた。
(「──きっと頑張っているだろう」)
 だから、いつかまた会えるその時まで。
 それだけを胸に、シオンは潮風と波音を背に歩き去っていった。

 蒼月達は海に残っていた。
「そういえば、今年はまだ日本の海に入ってなかったっけ!」
 人々を見やりつつ蒼月は呟く。
 アマゾンには行った、けれど日本では海遊びすらしていない矛盾を感じつつ。
「でもアマゾンでもパズルとかしてたような。……。よしマトモな夏休みするぞーーっ!」
「それで、何して遊ぶの?」
 気合を入れる蒼月に対し、ロビンはぼんやりと見回す。
「わたしは水着以外、なにも持ってきてないけど」
 その格好は黒のビキニ。
 シンプルなデザインだけに、ロビンの無垢な魅力を増す容姿となっている。けれど確かに、持っているものと言えば陽射し避けのサングラスくらい。
「だったら、スイカ持ってきたからスイカ割りしようぜー!」
 と、明るい表情を輝かすのは甚九郎。
 でん! とドヤ顔で示してみせたのは大ぶりのスイカであった。まん丸、でっぷりとしていて実に割りがいがありそうだ。
 ビニールシートを敷いてそこに早速セットする。ロビンもそれには目を向けた。
「スイカ割りいいねえ。楽しそう」
「皆でやろうよ! 幽子もやらない?」
「良ければ、ぜひ……」
 甚九郎の言葉に巫山・幽子も応えつつ、早速皆で始めることにする。
 護朗もまた好奇心を浮かべていた。
「えーっと、目隠ししてスイカを棒でぶっ叩くやつだっけ? はじめてだな……」
「じゃあ最初にやってみる?」
 甚九郎に如意棒を渡された護朗は、それならばとタオルで目隠し。ぐるぐる回って、ふらふらになったところで棒を構えた。
「これは……っと、普通に目が回って難しい……」
 三半規管がやられる感覚に、護朗は右左。ととと、と、自分でも既にスイカの位置がわからなくなっているのを自覚した。
「うーん、こっち、かな──」
「わ~! 危ない!」
「目を回して観客に棒振りかぶるのは、お約束よね」
 などと蒼月とロビンの声が聞こえてくるのは、どうやら方向がおかしいかららしい。
 それでも軌道修正しつつ棒を振り下ろすと、スイカを掠めて皮を削る結果となった。
 護朗はなるほど、と頷く。
「難しいんだね」
「すぐに割れても何だし、いいんじゃない? そういえば、ちょっとお腹も空いたよねえ」
 ふとロビンが零すと、歩み出すのはウィリアムだった。
「俺が海の家まで行きますよ。皆、なんか欲しいもんあるかー?」
「あ、飲み物とか必要なら僕買ってきますよ? 年上パシるわけにもいかないんで」
 護朗が言うが、ウィリアムは笑んでみせた。
「なァに、大人は少年少女に奢るもんさ。待っててくださいよ」
「……世話焼き体質ねえ、ウィリアム。じゃあわたし、焼きそばで」
 言いつつも、遠慮なく甘えるロビンだった。
 皆もそれぞれにかき氷やアメリカンドッグなどを頼み、海ならではの美味を楽しむ。
「やっぱイイもんだね」
 ウィリアムは満足げに見渡す。その格好はサングラス、カンカン帽、アロハシャツにサーフパンツとスポーツサンダルと、絶対海満喫するマンの様相。
 スイカ割り監督の傍ら水着のおねーちゃんを眺める簡単なお仕事──と思えば、はりきらない理由もないのだった。
 水着にパーカーを羽織った姿で皆を見ていた葵にも、ウィリアムは食べ物を買ってきた。
「あっ、ありがとうございます。わざわざ……」
 気にすんな、というウィリアムに葵は小さく頷きつつ、皆を見る。距離は少し遠巻きだけれど、それでも皆の空気に触れて少し心楽しかった。
「皆さん楽しそう、ですね」
「まだまだ終わらないよ、次はオレだ!」
 と、目隠しして回るのは甚九郎だ。ぐるぐるする内に、足元が覚束なくなっていく。
「あっネコ科の平衡感覚働かない! 誤算!」
 ちょっとつんのめりつつ、何とか棒を使って平衡も取ろうとする。その内に棒を振り下ろしてずん、と音がしたが手応えがない。
「えーどっちどっち、左? えっ上!?」
 仲間の声に仰ぐと、衝撃で飛んだスイカが落下。甚九郎の顔をどむっと打ったのだった。
「きゅう……」
 甚九郎が伸びている間に、次は蒼月が挑戦。思い切って棒を振り、丁度護朗と逆側の皮を削り取る感じになった。
「やってみると難しいね~」
「こういうのは、気配を探ればいいんじゃないかしら」
 と、次に挑戦するのはロビンだ。護朗はちょっと考え込む。
「スイカに気配は、なさそうだけど……」
「まァ、何にせよ変なトコまで行かないようゆっくりな」
 ウィリアムが声をかけて見ていると、しかしロビンは的確にスイカに近づく。
 蒼月はエールを送った。
「近いよ! ガンバレ~っ! もうちょい前だよ~!」
「ここにいる気がするわ」
 と、ロビンは縦に一撃。如意棒で綺麗にスイカを割ったのだった。
「おお、おめでとうさん」
「スイカスイカ!」
 ウィリアムが讃えると皆も盛り上がる。蒼月は割れたスイカを皆に分け、食べ始めた。
 瑞々しくて甘くて絶品だ。
「美味しい~!」
「ん、本当だ」
 頷く護朗はタマにも分けてあげている。嬉しげにさくさくと齧るタマの背中を、護朗は優しく撫でてあげていた。
「みんなで食べると余計においしいね」
「うん、砂めっちゃつくし潮風は毛が傷むけど──やっぱ夏の海って特別心が踊るよな!」
 甚九郎も砂まみれでしゃくしゃく。
 スイカを分けてもらった葵も、申し訳なさげにおたおたしつつも。皆の勧めで一口含むと、夏の味が広がって快い。
「美味しい……!」
 陽光の下でも冷たさと皆の笑顔が心地よくて、葵は控えめに、けれど楽しげに笑みを見せた。

 浜に待ち人の姿を見つけて、つかさは穏やかな表情で歩み寄った。
「お待たせ?」
「ああ。無事か?」
 応えるのはレイヴン・クロークル。静かな声に気遣う色を含め、出迎えている。
 勿論、と頷くつかさはぐるりと視線を動かした。
「さてどうする。海の家も良いけど……いやその前に、砂遊び、かな?」
 と、視線を留めたのはレイヴンの足元。
 テレビウムのミュゲが幼児用のスコップを手に、砂と2人を見てそわそわしているのだ。
 つかさは微笑む。
「ビーチコーミングとかも良さそうだけど──」
「ああ、ビーチグラスとかを探すやつだったっけか。確かに興味があるが……今はミュゲが砂遊びの気分みたいだな」
 言葉にミュゲは、ぴょんぴょん! と跳ねて喜びを表していた。
 というわけで3人は早速、砂山作り。つかさは沢山砂を重ねて大きな稜線を描いてみせた。
「中々のものだろう?」
「おっと、ミュゲはまだ満足していないようだ」
 レイヴンが見ると、ミュゲはくるくる山を回っては、スコップの背でぺんぺん。山を固めつつ、更に乾いた砂を加えて仕上げている。
 2人も加わり、トンネル堀りへ。最終的にミュゲが掘り進んで体が通れる程の空洞を作り上げ完成と相成った。
「よくできたな。それじゃあ、美味しいものを食べようか」
 つかさの言葉に、今度はミュゲもぱたぱたと抱きついてくる。そんなミュゲを抱き上げて、つかさとレイヴンは海の家へ入った。
 奮発して買ったのは焼きトウモロコシに焼きそば、イカ焼きにかき氷、等々フルコース。
 ゆっくり遊んだ後は、まったりと。醤油にソースの香ばしさ、甘みに旨味、ひとつひとつを味わっていく。
「どれも美味しいな?」
「ああ。ミュゲ、ソフトクリームはラーメンを食べ終わってからな?」
 と、またも何かを気にするミュゲに、レイヴンは笑いかけつつ。自分も席を立った。
「つかさ、お代わりがあるなら買ってくるぞ? ……少し追加で食べたいし、な」
 笑われるだろうか、なんて思った言葉にも、つかさは頷いて焼きそばを頼んだ。
 ミュゲもソフトクリームを手に入れて、定位置のつかさの膝の上で爛漫な顔文字を浮かべて味わう。
 それに微笑みつつ、つかさはスイカ割りに興じる皆を遠目に眺めた。
 潮風を感じながらの食事は不思議と一層美味しくて、レイヴンも心地よさを感じる。
「夏らしい、いい日だな」
「ああ。来られてよかった」
 つかさも目を細めて頷いた。
 太陽は眩しくて暖かい。家族の時間に差す明るい陽光を、3人は暫し見つめていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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