秘密の花園

作者:七凪臣

●夢に幻、光る花
 何かに呼ばれるよう、夜の帳が下りた森をバレンタイン・バレット(ひかり・e00669)は跳ねていた。
 波音にも似る豊かな葉擦れの歌は、何処か故郷を思わせる。
 余りに生い茂るものだから、空に蓋をしてしまい。月や星を隠してしまっているのは残念だが。
 雰囲気そのものは悪くない――はず、なのに。
 不思議な胸騒ぎが、バレンタインの小さな胸を掻き立てる。
 そして彼は、出会った。
「……」
 深い夏宵に、色とりどりの花が咲いていた。
 そこだけ月灯りを浴びてるかの如く、淡くぼんやりと虹色に輝いている。
 その真ん中に、ふわりと。
 少女が、一人。
 すべすべの白い肌、サラサラで柔らかそうな長い髪。精緻なレースで彩られた白いドレスをふわりと纏い、楽しそうに花と戯れて。
「あら?」
 バレンタインに気付いた少女が、花園に二本の足で立ち上がる。
 それよりも、バレンタインの瞳は、彼女の頭上に浮く花冠と、鳥のような純白の翼に釘付けだった。
 ――あれは。
 まるで。
 絵本などに綴られるままの、天使。
「あなたも、お花。好きですか?」
 可愛らしく小鳥のように囀り、少女は瞠目するバレンタインへ、にこりと笑む。
「なら。あなたもお花にしてあげますね」
 その手に、獣を殺すライフル銃を持ち。
「ああ、でも。その前に」
 一歩一歩、バレンタインへ近付き。
「――――」
 何かを、言われた。
 だがその意味を理解するより早く、バレンタインは後退り、身構える。
 ――あれは。
 『天使』などではない。
 地球に害なすデウスエクス、死神だ。

●夏の宵、ウサギは窮地に跳ねる
「急ぎ皆さんを現地へお送りします」
 バレンタインがデウスエクスの襲撃を受けるのを予知したリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、集ってくれたケルベロス達を急かす。
 危険を報せようとしたが、連絡はつかなかなかった。ならば直接、救援に赴くしかない。
 バレンタインの窮地に、リザベッタは知り得た情報をケルベロス達へ手短に語る。
 相手は死神。場所は余人が近付くことなどないだろう森の奥。
「夜だということもありますし。誰かが紛れ込んでくる心配は一切ありません。皆さんはバレンタインさんを助ける事に集中して下さい」
 攻撃は銃を用いたものと、惑いの風を起こす羽ばたき、無数の小花を己が身へ降り注ぎ傷を癒すものの、計三つ。
「配下はいません、相手は死神一体。花を好むらしく、花を傷付ける者を狙う習性があるように思いますが……これはあまり使いたい手段ではないですね」
 幾らデウスエクスを滅ぼす為とはいえ、懸命に咲く花を散らすのは気が引ける。もしもの時は、已む無しかもしれないが。
「どうか皆さん、バレットさんの事を宜しくお願いします」
 最優先は彼と――ケルベロスの命だと言い足して、リザベッタはヘリオンのハッチを開けた。


参加者
ラビ・ジルベストリ(恩讐ここに無く・e00059)
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
バレンタイン・バレット(ひかり・e00669)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)
角行・刹助(モータル・e04304)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
花露・梅(はなすい・e11172)

■リプレイ

●記憶
 跳び退ったバレンタイン・バレット(ひかり・e00669)は、ピンと立てた兎耳をくしりと掻いた。
 アイツは、何と言ったか。
『お迎えに来ました、レイタウルさま』
(「確かに、そう聞こえた!」)
 喉に絡んだ呼気が、ハッと荒く短く吐き出される。
 ――レイタウル。
 それ、は。バレンタインの本当の名前だったもの。師匠に今の名前を貰う前に、故郷のものだけが知っていたもの。
「花に、なりましょう?」
 天使にも似る美しい死神が、白い手をバレンタインへ伸ばす。
 ふわり、漂った花の香りに。ぶわり、バレンタインの全身が総毛立つ。
(「間違いない!!」)
 呼び覚まされる記憶。脳裏を駆け抜けてゆく森の風景。そして、そして――。
 コイツは。
 オレの、家族を殺した――あいつだ!
 幻想的な夜の花畑が、怒りの色に染まる。心臓がドクドクと五月蠅い。理性が、遠退く。そのまま駆け出しそうになる。
 その瞬間。
「おい、ガキ。落ち着け」
「!?」
 闇を貫いたラビ・ジルベストリ(恩讐ここに無く・e00059)の声に、バレンタインは息を飲んだ。

●ゆめ、うつつ
「バレちゃん、大丈夫よ。わたくしたちが来たもの!」
 次の声の主は誰だとバレンタインが確認する間もなく、白い毛並のボクスドラゴンが死神とバレンタインの間に割り込む。直後、バレンタインの足元に守護の魔法陣が月灯りのように輝いた。
「メイア!」
 守り手である小さきドラゴン――コハブを走らせ、盾の加護を授けてくれたメイア・ヤレアッハ(空色・e00218)をバレンタインは振り返ろうとし、
「あなたでも、そんな顔をするのね」
 駆け抜けた黒い疾風に、またバレンタインは目を瞠る。
「リィ」
「イドはバレットをお願い」
 気遣いを置いていくよう長い竜尾で子兎少年の傍らを叩いたリィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)は戦斧を掲げて敵を目指し、残された黒い匣竜――イドはバレンタインへ己が属性を注ぎ込む。
「邪魔を、するの!?」
 逢瀬を阻まれた死神の心情が全身から醸される。顰められた眉。居丈高に構えられる猟銃。その前へすかさず、リィとイド、コハブが体を張る。
「みんな!」
「お手伝いに来ました」
「風よ、嵐を告げよ」
 庇われて、守られて。ようやく見渡す隙の出来たバレンタインの頭上を掠め、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が放ったオラトリオの弾丸が死神の翼を貫く。そこへ花園の縁に陣取るカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が喚んだ異相の氷晶嵐が吹き荒れた。
(「此方から踏み込まない限り、花は大丈夫そうですね」)
 ふらつき鑪を踏むも、死神が花を避ける様にカルナの胸中に安堵が落ちる。これならば、『もしも』が起きぬ限り森を大きく傷つけることはあるまい。
「少しは周りが視えるようになったか」
 最初に声を届け、今は禁断の断章を唱え力を呉れるラビの愛ある皮肉に、バレンタインは「おう」と少し見栄を張って頷く。
 本当は、まだ。心はチリチリとざわついている。けれど。
「さあ男になれ」
 ――ケリをつけてこい。
 背を押され、バレンタインは走り出す。
「相変わらず面倒な大人だ。うさぎ、お前は真っ直ぐ育て」
「なんだ、それ!」
 ラビの不器用さを淡々と評し、神殺しのカプセルを放る角行・刹助(モータル・e04304)の激励に、子兎の裡に勇気が膨らむ。
 ずっと逃げていた。自分の力が、足るかは分からない。
 でも!
「バレンタイン様! この梅が再び助けに参りましたよ!! 後ろは、お任せ下さい!!!」
 上空を並走したのは、翔け星と化した花露・梅(はなすい・e11172)だ。
「梅!」
 追い抜いて、鋭い蹴りを見舞って、即座に間合いを取る梅の俊敏さに負けぬよう、頭上を飾っていたゴーグルをつけ直し、兎印のリボルバー銃のグリップを握り締めた。
 視界の中央に、敵を捉える。
 引き金をひく指に迷いはない。

 ――花園に銃声が響いた。

 むかし、むかし。
 子兎がまだ幼い兎だった頃。
 ウサギはひかる森ので花に遊ぶ翼の少女に出逢う夢を見た。
『レイタウルさま!』
 ウサギは少女の視線に籠る熱の意味を識らず、理由も知らず。

 でも。果たしてそれは。ただの、夢?

●ともだち
 首にかけた小瓶を躍らすコハブのタックルが、死神が纏った余剰の加護を砕く。
「やっぱりコハブはカッコイイな!」
「コハブだもの、当然なの」
 バレンタインの口からするりと零れた感嘆に、黒鎖を操り終えたメイアも胸を張る。こうやってコハブへも敬意をもってくれるバレンタイン。小さくて可愛くて、でも格好良くて男気に溢れている、大切で大好きなお友達。
 だからこそ、メイアもコハブも迷わず此処へ来た。
 バレンタインの背中を押す為に。そういう自分で在る為に。
 それにしても――だ。
「終焉の幻、永劫の闇」
 朗々と唱え、時折夢に浮かぶ滅亡した世界を覆う闇を現へ招き寄せ乍ら、エルスは敵の背の翼を不思議な心地で観る。
 自分やメイア、梅のものと似通う二対。ともすると親近感を覚えそうにもなる、が。
(「死神は、死神。惑わされちゃ、駄目です」)
「かの罪深き魂を貪り尽くせ!」
 心の拳をぐっと固め、エルスは蠢く闇にデウスエクスを飲み込ませる。
 ――花を好み、花を愛でる敵。まるで人の心を持つようではないか。
(「デスバレスに花は咲いているのでしょうか?」)
 問うても答が返るはずがないのを知るカルナは、疑問は胸裡で呟くに留め、樹根が絡む不安定な地表を竜翼で低く飛ぶと、回り込んだ背面から凍て付く暴風を逆巻かせた。
「本当に邪魔なのです」
 すると死神は七色に煌く花弁の雨を降らせ、傷と纏わる凝りを消し去る。
 回復と浄化、そしてケルベロスが得た加護を破砕するのに長けた敵との戦いは、膠着状態に陥っていた。無論、蓄積するダメージもある。しかし時間をかけすぎると不慮の事故が起きないとも限らない。
「――それなら」
 流れを変える一手を打ったのはラビだった。
「すごいぞラビ!」
「前を向け、くそガキ」
 刹那瞬く稲妻が如き一蹴りで、死神が首を傾げる違和を宿したラビへ、バレンタインが快哉を口にする。こそばゆい程の素直な称賛に、ひねた大人は冷笑を貌に張り付け、祈る。
(「これがお前の……一つの終着点ということか」)
 鬱陶しい子供だ。だが彼は男で、兎だから。
「負け犬にはなるなよ。私のような……」
「お膳立てくらいはしてあげる」
 剣戟に滲むラビの吐露に、ラビの庇護下に身を置く娘――リィがバレンタインへの発破を重ねた。
 リィ自身、バレンタインの事は無邪気な仔ウサギだと思っていた。戦いなんて、似合わない。野を駆け、銃よりおにぎりでも握っていた方が、よっぽど『らしい』と。
(「仇討ちなんてくだらない」)
 死人に口なし。生きていたとして、彼に仇討ちを望む者は果たしているだろうか? その手を、穢して欲しいと願うだろうか?
(「けど、彼の『怒り』は。『殺意』は……彼自身の、所有物」)
 故にリィは、バレンタインはバレンタインの好きにすれば良いと判断した。
 心の儘に、引き金を引けばいい。
(「そのくらいしか、してあげられる事もないけど」)
 多くを語らぬのも、択ぶ一撃もラビと同じに。リィは一瞬の蹴りで死神の手元を狂わす。

「そんな、そんな」
 ラビの狙いは正しく機能した。仕損じる機会の増えた死神は、思うように戦う事が出来なくなり、苛立ちを募らせてゆく。
「こんなの、すぐに消し――」
「そうははさせませぬ!」
 浄めようとされるなら、浄めきらぬくらいにしてしまえばいい。駆動音を唸らせる刃を手に梅は疾風と駆け、精緻なレースを引き裂き澱を深く凝らせる。
「バレンタイン様、きっと大丈夫ですよ」
 間合いを取り直す為、退がる梅は擦れ違い様にバレンタインへ言う。
「わたくしも、みなさまも。バレンタイン様を見ております!」
 共に過ごした時間は短くとも、想いの丈は十分に。交わした笑みの数だけ、バレンタインを支えたいと。彼の健やかな未来を望むから。
「存分に戦って下さいまし!」
「ああ!」
 激励と気概を注がれ、バレンタインの跳躍力が増す。実際には、さして変化はない筈だ。だが所作のしなやかさが、銃弾を撃ち出す鋭さが冴えてきているような気が刹助はしていた。
 同時に、刹助が思う事がもう一つ。
(「何処かあの時のワイルドハントに似ている気がするんだ」)
 かつて相対したバレンタインの根源を盗み取ったモノと、眼前の敵と。外見や、戦い方はまるで違うのに。例えば深い森や、光を、連想させる――そんな処が。
 けれど刹助に、他人の事情に立ち入る気はない。ただ宿縁というものも、傷痕に刻まれた縁の繋がりだと思うに留めるだけ。
「うさぎ」
 他人のように素っ気なく呼び、彼を守る者が負った傷を刹助は癒し。
「おまえは不特定多数から慕われる相手に恵まれている様だ。まぁ、命の危機によく晒されるやつではあるが」
「バレちゃんは人気者なの!」
 希望の歌を紡ぎ終えた刹助の揶揄を、メイアが晴れやかな笑顔で迎え撃つ。
 だってバレンタインは、常に前を向いて光を浴びている。ウサギと共に銃身に刻まれた四葉の通り――。
「みんなの幸せを守るクローバーの騎士だもの」
「そんなにほめても、なにも出ないぞ!」
 可憐な形に似つかわしくない鈍器で、麗しい死神を殴り倒したメイアの断言に、バレンタインがもにゅりと口を窄める。
 嗚呼、嗚呼。
 自分は、明確な滅びの意図を――負の感情を身の内に滾らせているというのに。染まれない、堕ちられない。こんなにも多くの光が、傍に溢れている。
「オレは、勝つ」
 様々を込め、バレンタインは前だけを向く。
「その為に私たちは来たのです」
「ええ、そうですよ!」
 その眼差しが遮られぬよう、エルスは未来を閉ざす弾丸を撃ち、カルナは高速演算からの拳を見舞い。バレンタインの道を切り開く。

●秘密の花園
 肩を震わす死神の出で立ちは、既に見るも無残な状態だった。翼は痩せ、花冠は崩れ、肌にもドレスにも無数の傷が散る。
 それでも。
「どうして? どうして? 応えてくれないのですか?」
 死神は、恋に狂った少女のようにバレンタインへ手を伸ばし。リィやイド、コハブに阻まれては肩を跳ね上げる。
「この人間たちを殺せば、そうしたら!」
「そんなこと、許さない! 今度は、ちゃんと。オレが!」
 銃口をリィへ定めた死神に、バレンタインが強く足を踏み鳴らす。過去の情景を視界に重ねれば、少年の怒りは紅蓮に燃える。
(「眩しい……?」)
 肌に拾うバレンタインの熱に、リィは言い知れぬ感情を覚えていた。親の顔さえ記憶にないリィ。もし故郷を滅ぼした、血の繋がる家族を殺めた存在が目の前に現れたとしても。それが仇であることに、リィはきっと気付けない。
 だが羨望じみた想いに蓋をして、リィは死神に直接ぶつかってゆく。自分は、自分。花にも死神にも、さほど興味を引かれぬ者。相対している『敵』は、己が人生に関わりなきもの故に。
 意地の翼嵐を気迫で押し返し、旋風の蹴りをリィは全力で見舞う。ぶつかり合う圧に森が震え、イドは宥めるよう癒しの力を使う。
(「成せ。叶えろ」)
 執拗に蹴撃を繰り返し、死神から自由を奪うラビは逸らさぬ視線でバレンタインの行末を見守る。
 ラビもまた復讐者であった。だがさる事情によりラビは復讐対象への恨みを忘れてしまった。それに敗北以上の苦しみを感じるからこそ、ラビはバレンタインの解放を願い、成し遂げた後の歩みを訊いてみたいと欲する。
「死臭匂わす猟銃使い。自身が徒花である事を知るがいい」
 ドワーフとしての本領を発揮し、刹助が死神の間合いへ飛び込み拳で地面ごと白い足元を砕く。死神が殺め奪うのを慈悲とし繁栄する種族なら、刹助はウィッチドクターとして皆を生かし、奪わせぬ事を矜持に戦うのみ。
 この生き方が、幸せなのか、不幸せなのかは知らぬけれど。
 多くに支えられ、励まされ、バレンタインは終わりの瞬間へ一歩一歩、確かに近付く。刹助さえ攻勢に転じた今、それはもう間近。
「バレンタイン様はバレンタイン様の思うように。終わったら、梅むすびで乾杯いたしましょう!」
 得意の忍法ではなく、絆結ぶ少年が本懐を果たす助力となる為に、梅はチェーンソー剣を翳し、瞠目する死神を引き裂く。
 死神は永遠の終りを自覚していた。されど逃げず、バレンタインの内側へ呼びかけるよう手を伸ばし、白い指で宙を掻く。
「迷ってはダメなのよ」
「あたりまえだ!」
 飛ばした喝に返された淀みない応えに、メイアは二度瞬き、くすりと口元を緩めた。
(「バレちゃん、今日はいつもより。ちょっとだけ、かっこいいウサギさんだわ」)
 卵を割るみたいに死神を鈍器で小突き、弾む足取りで身を翻すメイアは、入れ違いで敵へ迫るバレンタインの背中を頼もしく見つめた。
 跳ねる、飛ぶ。
 花を避けて、凹凸のある地面を巧みに子兎が駆ける。
(「くーちゃんより、かっこよさ度は上なの」)
 互いに知る友とほんのり比べ、また笑みを深め。メイアは声を張った。
「バレちゃん!」
「バレンタイン様!!」
 梅も、声の限りに呼ぶ。
「バレット」
「うさぎ」
「いけ、くそガキ」
 リィも刹助も、そしてラビも。重なり響く慕わしき音色に、エルスは静かに身を引く。終わったら、疲れを癒す甘い菓子をバレンタインへ贈ろうと決め。カルナもまたエルスに倣い、竜翼を畳み手を降ろす。
 彼らの出番は、此処まで。あとはバレンタインの『仕事』だ。
「な、ぜ?」
 託され、任されたバレンタインは、戦風を捲いて愛らしい死神の間合いへ飛び込む。
「なぜ? なぜ、――――!」
(「ああ、そうか」)
 触れ合う程の至近距離。問い掛けられ、バレンタインは彼女の瞳が『バレンタイン』を視ていない事に気付いた。
 誘うような満月のひかりに背を向け、育んでくれた森から愛すべき家族によって逃されて。怒りと悔しさに身を焼き、そして多くと出逢い、また育ち。
(「弱いウサギとはサヨナラだ。オレは、新しいオレになった」)
「レ――」
「オレは、バレンタインだ!」
 流れるようにバレンタインは朝露色に煌く銃をひたりと構えた。
「そしてこれは、お前のために磨いてきた銃の腕だ!」
 銃口へ、銃口へと、風が意思を持って吹き、目に視えぬ弾丸が象られる。
「『バレンタイン』のこれまでの全て、受け止めてみろ!!」
「、……!」
「臆病風に、吹かれろよ!」
 吹いた追い風に、全てを断つ透明な刃が爆ぜて舞う。
 余韻は夏の終わりを感じさせる、清らかな爽風だった。

●神のみぞ知る物語
「メロ」
 消え逝く間際、尋ねに返された名をバレンタインは反芻する。
 少年の胸に、その名と今夜の出来事は深く刻まれた。でもきっと彼は囚われない。
「みんな、ありがとう」
 少年はひかりを振り返り、笑う。
 その手に、束ねた花を握り締め。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。