ミッション破壊作戦～異形なる屍に引導を

■リプレイ

●ミッション２０－２「松阪市防疫戦」
　三重県松阪市――古くは伊勢商人を輩出した商業町であり、現在も三重県の経済拠点の１つ。尤も、松阪牛の生産地という方がよく知られるだろう。
　彼の地にフライガールなる屍隷兵が出現して、それなりの時間が経つ。ミッション破壊を試みるのも、今回で２度目だ。
「松阪市の中央か……」
　地図から撤退ルートを確認していた水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、無意識に顔を顰めていた。屍隷兵は松坂市中央の巨大な肉塊から出現する。考えるだにおぞましい。
「あれは、うちらの『罪』や。間に合わんかった。気付けんかった……救えんかった。それを、忘れたらあかん」
　だが、屍隷兵は不完全ながらも神造デウスエクス。地球の生物の肉体をベースにしている。フライガールも例外でなければ、八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）の心中は穏やかではない。
（「名物の松阪牛だけでなく、そこに住む人々までも食らうとは……だが、屍隷兵達も犠牲者だ」）
　そして、スルー・グスタフ（後のスルー剣帝である・e45390）も、瀬里と同様の忸怩たる思いを抱える。
（「犠牲者の命を弄び、尖兵とした者が何処かにいる。主謀者が凶行に至る前に倒せなかった……赦せ」）
「これ以上被害を増やさんように、がんばろな！　早よ回廊潰して、美味い肉食お」
「うむ！」
　だからこそ、瀬里が見せた曇りない笑顔に、スルーも力強く応じる。
「確かに、松阪といえば牛肉のイメージしかナイが」
　肩を竦める目面・真（たてよみマジメちゃん・e01011）自身は、ゆるーいベジタリアンらしい。それでも、世の肉好きの為にも、とボクスドラゴンの翔之助と並んで生真面目に頷く。
（「松坂牛を無下に扱うその行為、言語道断……！」）
　その「世の肉好き」の１人であるダリル・チェスロック（傍観者・e28788）も、内心で闘志を燃やす。ケルベロスとして松坂市の人々を救い、一介の肉好きとして松坂牛を救う――そこに、難しい御託など無い。
（「救い、護る。私の信念は揺るがない」）
「……よし。皆も、撤退の最短ルートは頭に入れたか？」
　そろそろ、松阪市上空。グラディウスを鎖で自らと繋ぎ、仲間に確認の声を掛ける卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）。ジャンクアームに取り込む形でバスターライフルを装備し、更にその左腕を鞘のようにして、エクスカリバールをねじ込む。戦闘準備も万全だ。
「久しぶりの依頼、緊張してしまうわね」
　梟のような翼を揺らし、高橋・月子（春風駘蕩たる砲手・e08879）は胸を抑える仕草。確かにヘリポートからの出撃は去年の春以来だが、ニコニコと柔らかな笑顔に余分な気負いはない。
（「何で一緒の依頼を受けてしまったのか……」）
　寧ろ、千歳緑・豊（喜懼・e09097）の方が、何とも言えない表情か。レプリカントの豊だが、月子は地球での母と言える存在。予想外の偶然でヘリポートで顔を会わせた時、思わず天を仰いだものだ。
（「まあ、誰と仕事に出ようがきっちりノルマはこなすがね」）
　例えるなら、母親に授業参観に来られたむず痒さ。月子もそれが判っているから、にこやかに彼の肩をポンと叩く。
「気恥ずかしい？　じゃあ、私が先に降りるわね。下で会いましょう」

●叫びを引導として
　ヘリオンのハッチが開き、強風が唸る。
「先行って、敵を牽制しておくぜ」
　思わず目を細める月子より先に、鬼人は躊躇いなく、身を躍らせる。
「悪臭振りまき、蝿の女王気取りってか？　無駄に喰らってぶくぶく太ってさぞ満足だろうが、それもこれまでだ！」
　荒々しく吐き捨て、グラディウスを構える。
「貴様らに食われた命の無念、苦しみ……全て返してやるから、覚悟しておけ！」
　左切り上げ、右薙ぎ、袈裟――三撃の刃筋が重なる中心を、光る刺突でぶち抜かんと。
「あらあら、先を越されちゃったわね」
　クスリと笑み、月子は徐に身を投じる。
（「全盛期の力はなくなってしまったけれど、気持ちは昔と変わらない」）
　聖王女の遺志、「調停」を続ける事。
「この命が使える限り、私は地球を侵略する全てのデウスエクスと戦う。それが『不完全な神造デウスエクス』でも、退ける意思は変わらない。戦略拠点、破壊します」
　静かに、強く言い切る月子。グラディウスを構えるや、滑空も束の間。ハヤブサのように、翼を閉じて急降下。
（「この汚臭の元は、オマエ達が喰らった人々だろう」）
　スンと鼻を動かし、真は顔を顰める。けして看過出来る所業ではない。
「クサイのはお断りだが、オマエ達に追い出された人達の為にも、その醜い塊を蹴散らし根絶してくれる。さあ、覚悟はできたか？」
　翔之助と共に、光刃を握る真。
「グラディウスよ、ヤツ等を吹き飛ばせ！」
　ピンとコインを弾き、泰孝は作戦の成否を占う。結果は――思い切りよくヘリオンから飛び出す。
「喰う事、増える事しかできねーって奴か……幾ら増えたって、テメーらのチップはもう命って価値が尽きてんだ」
　だから、ここでゲームセット。フライガールを作り出した元凶に目にもの見せる為、そして――ミッション地域をぶっ壊して、報酬アップを目指す為。
「コイツをくらって爆ぜやがれ！」
　……ちなみに、破壊成功したから追加報酬とか、そんな確約はない。
「この糞ったれな悲しみの連鎖を、ここで食いちぎる！　それがうちにできる償いや！」
　屍隷兵も犠牲者と考える瀬里も、その作り手に怒りの声を上げる。
「……地獄の番犬が１人、八蘇上瀬理！！　そこのデウスエクスの喉笛食いちぎったるぁああああ！！」
　獰猛なる白虎の叫びが空に轟く。
「その肉は貴様達の為にあるのではない。ただ美味しく食べられる、その為に育てられたのだ」
　ダリルは、特産を食い散らかされる現状を憤る。
「牛に飽き足らず人まで襲う非道、許せない、許さない、許される筈などありはしない」
　フライガールも地球侵略の尖兵ならば。一切の情け容赦なく、苛烈に言い放つ。
「いつまでも居座るな屍隷兵共！　一刻たりとも猶予無く、疾くこの地から消え塵と成れッ！」
「松阪の人々と牛を手に掛け、それに飽きたらず、犠牲者を糧とし増えるとは」
　甲冑の内から眼光鋭く、スルーはミッション地域を睥睨する。
「延々と続く死と偽りの生の連鎖を今こそ……ここで断ち切る！」
　屍隷兵も犠牲者。そう思うからこそ、これ以上、更なる被害を増やす訳にはいかない。
「お前達を救えなかった我が罪……その無念、我が心とグラディウスに刻もう！　悉く打ち払え！」
　些か、仲間の言葉と重なる所もあったが……叫びと共に、グラディウスを振るった。
（「松阪牛は松阪市以外でも生産出来るけれど、やはり生産地域のど真ん中はいただけない。『屍隷兵の陣取る松阪市の松阪牛』のイメージは早く取り除かないとね」）
　月子だけでなくケルベロス全員見送って、最後に残った豊はハッチに近付く。彼も又、ミッション地域の土地柄を想う。
「私自身は料理のできない飲食店経営だが、食材の確保には信頼を置いて貰ってるし。ここは１つ、日本三大和牛に付いたケチを取り除き、生産者と消費者を安心させてあげようか」
　軽やかに、魔空回廊目掛けて降下する豊。
「君達も随分長く活動して疲れたろう！　遅めの夏休みでもとりたまえ！」

●フライガール
　８度の剣閃に、爆炎も８度。逸早く、エアライドを以て鮮やかに着地した鬼人は思わず舌打ちする。
「当たるも当たらぬも表裏一重、てな」
　健在の魔空回廊を見上げ、こんな結果など当たって欲しくなかったと泰孝は苦笑する。
　魔空回廊を背に、太陽の見える方角を目安に集う。速やかに集合出来るよう、指針は月子の発案だ。
「グラディウスは……各自で、でしょうか」
　後衛予定の月子とスルーにアイテムポケットは無い。戦闘もあるし、各自で管理の方が身軽だろう。ダリルの言葉に頷き、スルーは自らのグラディウスを安全帯で固定する。
「これはまた、酷い臭いだね」
「アレがウワサの肉塊か。聞きしに勝るおぞましさだな」
　打合せたルートで撤退を図って程なく――視界の端に醜怪を捉える。豊が鼻を摘み、真が嫌悪を浮かべる暇があればこそ。
「ウジュルジュルジュル……！」
　肉塊から不気味な屍隷兵『フライガール』が這い出る。
「これを蹴散らさなければ退却できないとは面倒なコトだよ」
　不敵に赤茶の眼を細め、身構える真。
「文字通り、血路を切り拓いてみせようか。行くぞ！」
「……っ」
　ぎちり、と歯噛みする瀬里。屍隷兵見る度、憤怒が身を焦がす。
（「屍隷兵の回廊、早いとこ全部、潰したらんとなぁ」）
　ゴバァァッ！
　ケルベロス達が動くより先に、フライガールは両腕広げて飛び掛かる。
「熱烈歓迎ってヤツか」
　死の抱擁は、前衛をすり抜け泰孝へ。力任せの攻撃に対して、彼の防具は即していない。敵も眼力を具える。瞬時に判断したか。
　だが、ケルベロス達もすぐさま反撃。瀬里はパイルバンカーに「雪さえも退く凍気」を纏わせ、風穴から凍結させんと。
「かたぁ……」
　確かに肉を貫いたにも拘らず、手応えに思わず顔を顰めた。
「ディフェンダーですか」
「何にせよ、悪食ガールに、食あたりの恐ろしさってのを叩き込んでやるよ」
　空の霊力を帯びた鬼人の無名刀が瀬里の軌跡を正確になぞれば、肩を竦めたダリルは全身を「光の粒子」に変えて突撃する。
「しもべ達よ、皆を守れ！」
　翔之助に泰孝の回復を指示し、真自身はヒールドローンを展開。だが、前衛は５人＋１体。加えて使役修正も加われば、列ヒールの強化は厳しい。殊、短期決戦を旨とする撤退戦で、実用的と言い難い。
「あら、火力強化の方が良かったかしら？」
　月子が用意した強化ヒールもヒールドローンのみ。戦場に出るのも久々で、眼力が報せる命中率も相当に厳しい。無理を圧して攻撃するより、回復専念が良さそうだが……前衛６に対して中衛は１。単体の共鳴ヒールと列の強化ヒールの使い分けも悩ましい。
「ま、月子さんの判断に任せるよ」
　魂の叫びを経て、いつもの調子に戻ったか。豊の口調は常の余裕を感じさせた。大丈夫、『楽しく殺し合う』のに邪魔な照れや遠慮は、もうない。
「フォロー」
　実戦経験に差異こそあれ、比較的歴戦の猛者が揃う今回。それでも、最初から全て命中とまではいかない。故に、言葉少なに地獄の炎象る獣をけしかける豊。牙剥く大柄な獣は光る目が５つ、長くしなる尾に１本の棘。フライガールの進路に回り込み威嚇する。
「そら、お返しだ！」
　泰孝はフロストレーザーをぶっ放す。欲望塗れの本音を覗かせながらスリルを愉しみ、成すべきは成す。それが彼の流儀。
（「一流所に比べると、俺の腕前は数枚落ちるだろう……だが、出来る事はある筈」）
　後方からよくよく狙い付けるスルーは、今回唯一のスナイパーだ。
「貴様の悪行もここまでだ！　潔く我が剣の露と消えるがいい！」
　一刻も早く一斉攻撃の体勢を調えるのが、何よりの役目。裂帛の気合で啖呵を切る様は――正に、地獄の番犬の雄叫び。

●異形なる屍に引導を
　ガバリと骨管を振り上げ、突き刺す。一転、その骨を交差して守りを固めるフライガールは、同類の増援まで粘る気なのは明らかだ。
「く……」
「すぐ、治してあげるわね」
　豊への一撃を阻んだダリルに、すかさず月子はウィッチオペレーション。真のボクスドラゴンも属性をインストールする。
「ありがとうございます」
　感謝を呟き、如意棒を手繰るダリル。一気に加速した武術棍は、フライガールの胸に開く口中を抉らんと。
「俺の役割はクラッシャー。倒してやるよ」
　敵が守りを固めるなら、その備えを砕けば良い。雷の霊力帯びた愛刀、越後守国儔を以て神速の突きを繰り出す鬼人。左腕からバールを引き抜くや、泰孝も敵の骨を砕かん勢いで叩き付ける。
「もう、ちょっと！」
　仲間の命中の度、傷口を凍らせる敵に瀬理のスターゲイザーが奔る。躍動の一撃が屍隷兵の足を刈る一方、真は些か不機嫌そうだ。敵は単体、その攻撃も単体。列攻撃のキャバリアランページも列キュアのオラトリオヴェールも色々勿体ない。だが、見切りを考慮するならば組み込まねばならず、焦燥を堪えて超加速突撃を敢行した。
（「冷静になれ、精神を研ぎ澄ませ、一瞬を逃すな……仲間を信じろ」）
　凡そ、足止めの機能を見て取り、スルーは「鋼の鬼」と化して拳を振るう。豊も漸く全身を地獄の炎で覆い尽くした。一撃を更に重いものとする為に。
　敵の攻撃１に対して、反撃は７。１と１が回復専念して戦線を支える。ケルベロスらは撤退戦に見えぬ苛烈さで狩り立てる。
「テメーを蝕む１本場。さあ、どこまで伸びるかね？」
　泰孝の魔力が生み出した麻雀の百点棒が、フライガールに突き刺さる。コミカルにも見える百点棒は、回復を阻害する猛毒で屍の身をも蝕む。
　ジャァァァッ――！
　それでも堪え切れず、フライガールの耳障りな羽音が響く。
「ちょっと失礼」
　敵がヒールに回った好機を逃さず、初めて月子はアームドフォートをフライガールに向ける。口径48cm、長さ１メートルの追加砲塔を作り出すや、翼を広げて接近。
　ドゴォッ！
　強かに殴り付けた。メディックの一撃離脱が羽音を消す。
　月子の一撃が敵を捕えるに至り、ダメ押しとばかり、猟犬を放つ豊。
「短期決戦だ。名残惜しいがね」
　異形の獣がフライガールの動きを阻むや、ケルベロス達の攻撃が殺到する！
「破ッ！」
　蹴剣、又の名を無影脚――バトルオーラに包まれた真の脚が、のびやかな軌跡を描いて異形の骨を蹴り砕く。
　謳え雷、地に響け――ダリルが操る雷雲より閃光が轟き、雷鎖が奔る。如何なる術で耳を塞ごうと、破壊の鳴は高らかに。
「我が無念、グラビティの雷鳴となり吼えるがいい！」
　精神集中の果て、スルーの一念は蠢く屍を爆破する。
「我流剣術『鬼砕き』、食らいやがれ！」
　対峙するのが何であろうと、鬼人の剣筋は澱みない。左切り上げ、右薙ぎ、袈裟の三連撃。更には刃筋重なる中心を貫く一撃は、相手を仕留めんという決意を込めて。
　それでも――盾たる打たれ強さは、屍隷兵を屍に還すのをまだ許さない。
　グギャァァァッ！
「ごめんな。助けてやれんで……」
　絶叫するフライガールに、瀬里は腐汁滴る両のバトルガントレットとパイルバンカーを構える。
「せめてあんたの介錯、うちがしたるから」
　慈悲なき鋭い牙の如く。生粋の捕食者たる虎の本能のまま、瀬里の得物は深々と抉り込んだ。

「次、生まれてくる時は……デウスエクスとの戦いが終わってると、良いな」
　恋人から貰ったロザリオを手に、フライガールに喰われた命の冥福を祈る鬼人。
「急ぐで」
　瀬理に急かされ、腐臭立ち込める戦地を駆け抜ける。
「この後、皆で焼肉行きませんか？」
　漸くミッション地域の際まで着いて。ダリルの気軽の誘いは事終えた彼らの笑みを誘った。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年8月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。