祭りを汚す竜牙兵

作者:七尾マサムネ

 日中の暑さもいくぶん和らいだ夕方。
 由緒あるその神社の境内には、出店が並んでいた。
 地元の夏祭りの真っ最中だ。子どもや親子連れをはじめ、たくさんの客でにぎわっている。
 だが、境内の楽し気な喧騒をかき消すように、突然、巨大な牙が突き刺さった。
 何事かとざわめいていた人々の声は、すぐに悲鳴に変わる。牙が、竜牙兵の正体を現したからだ。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ!」
「ゾウオとキョゼツ、オマエたちのフのカンジョウを、ドラゴンサマにササゲヨ!」
 祭りばやしは叫び声に。祭りののぼりは血の色に。
 夏祭りは終わり、殺戮の祭りが、幕を開ける。

「楽しい夏祭りが、竜牙兵に襲撃されるっす!」
 夏の暑い日。黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、ケルベロスを招集した。フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)の情報提供による予知だ。
「現場は神社のお祭りだよねダンテくん! 神様のいるところで暴れようなんて、同じ神様として許せないよ!」
「『同じ』神様、っすか?」
「そう!」
 神様を目指す高校生、それがフェクト。
「と、ともかく、竜牙兵が出現した直後に、攻撃を仕掛けてほしいっす。その前にお客さんを避難させると、竜牙兵が襲撃ポイントを他の場所に変更してしまって、事件を阻止できなくなってしまうっすから」
 介入のタイミングさえ守れば、後は、警察が避難誘導を担当してくれるので、竜牙兵の撃破に専念できる。
「戦場は神社の境内で、屋台もたくさん出てるっすけど、お客さんが避難した後なら、広さは十分確保できるっす」
 襲来する竜牙兵は5体。
 バトルオーラを使うクラッシャーが3体。ゾディアックソードを使うディフェンダーが1体。そして、簒奪者の鎌を使うスナイパーが1体という構成だ。
 なお、竜牙兵は、劣勢に陥っても撤退する事はない。グラビティ・チェインを奪うという使命のため、破壊されるまで戦い続けるのだ。
「屋外に集まった人々を狙う竜牙兵にとって、夏祭りはこれ以上ない場所っす。皆さんの力で祭りを守って欲しいっす!」
 竜牙兵を倒したら、再開したお祭りの屋台を見て回るのもいいかもしれないっす。
 そうダンテが付け加えたので、フェクトのテンションがいっそうハイになった。


参加者
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)
上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)
楪・熾月(想柩・e17223)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●血祭を中止せよ!
 伝統ある夏祭りは、始まって以来初めて、竜牙兵の襲来を受けていた。
「サァ、ヒメイをアゲロ!」
 各々の武器を振りかざし、祭り客を恫喝する竜牙兵。
 だが、先頭に立って拳を繰り出そうとしていた一体が、突如、地面を転がった。
「ナ、ナニモノダ!」
「こんな神聖な場所を襲うなんて、とんだ罰当たり者だね!? オレらで懲らしめて粛清してやるから覚悟するといいよ!」
 マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)が、ウイングキャットのネコキャットとともに、竜牙兵の進軍を阻んだのである。
「デタナ、ケルベロス!」
「化け物みたいに言って! 神様だよ!?」
 フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)がいつにもましてハイテンションなのは、ここが神社……神様に近い場所だからだ。いいとこ見せたい。
「ココの神様こんにちは! 神様のよしみで私が守ってあげよう!」
「そうです、折角のお祭りを邪魔するのはダメですからね」
 神さまことフェクトの手伝いに駆け付けたのは、上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)だ。超会議でもらったお守りも携えて。
「竜牙兵にハレの日を邪魔されるわけにはいきませんねえ」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)も張り切る。フェクトのおごりと聞いて、という部分は、とりあえず心のうちに秘めておこう。
 地元警察によって一般客の避難が始まる中、ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)も、屋台への被害はなるだけ抑えたい。防衛重点は、焼きイカとジャガバター。
「カタヌキってのはあるカ? じゃあそっちもダ」
 忙しい。
 そうしてケルベロスたちが注意を引き付けている間に、進む避難誘導。
「ニガサンゾ!」
 竜牙兵が鎌を投じた。その先には、避難中の親子。
 だが。
 がきぃんっ!
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が鎌を弾き、軌道を逸らした。
「お祭りハ、人々の楽しみ……この賑わいヲ、壊させはしまセン」
「オノレ、ケルベロス! サキにキサマラをカテとしてクレル!」
 竜牙兵たちも、ケルベロスへと矛先を変えざるを得なかった。
「敵さんも毎度ご苦労なこって。風情も何もない不粋な連中にゃお帰り願おうか」
 誰かが落とした水ヨーヨーを踏み潰しながら迫りくる竜牙兵へと、アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)が二振りの刀を抜き放つ。
「お祭りは楽しく有るべきだ。それが神様のお膝元なら尚更ね」
 楪・熾月(想柩・e17223)も、罰当たりな竜牙兵の攻撃を受けて立つ。因果応報、というものを、その身に教えてやるために。

●後の祭りにならぬよう
 無事避難は済み、境内にはケルベロスと竜牙兵のみとなった。
 祭りの提灯が揺れ、のぼりがはためく中、両者の戦いは続く。
「ケルベロスのキョウフはサゾビミダロウ!」
「グハハ!」
 高らかに笑う竜牙兵たちを、紫緒が睨みつけた。直後、竜牙兵たちを、蒼の衝撃が襲う。視線を介して魔力を叩き込まれたのだ。
 紫緒もお祭りには思い入れがあるし、どうせならちゃんと遊んでいきたい。そのために、仲間も会場の人たちも、そして会場自体もきっちり守る。
 一般参加の出し物用だろう、設置されたステージにマサムネが立つと、皆の狙いを研ぎ澄ませる歌声を披露した。ネコキャットも、応援するように翼をはためかせる。
「どーん!」
 フェクトが両手で構えた杖から、魔力が打ち上げられた。花火の如く炸裂するかとおもいきや、重力に引かれて落下、竜牙兵たちに降り注いだ。
 地上の花火の次は星。サヤの星座光が、竜牙兵たちを揺るがす。同時に生じた氷は、星の輝きが消えてもなお、その身体をさいなみ続ける。
 とはいえ、派手になりすぎて周囲に被害が出ないよう心がけるサヤ。折角のお祭り。憂いは少ないに越した事はない。
 広場に誘い出された敵へと、ヴェルセアが竜の幻影を現出させた。吐き出された魔力の炎が、竜の眷属たる竜牙兵を焼いていく。
 しかし、熱風の中、ディフェンダーが剣を地面に付き立てた。加護が前衛に展開し、抵抗力を高めていく。
「ケルベロス、ウチクダク!」
 損傷をいくばくか復元したクラッシャーのうち二体が、相次いで拳をぶつけてくる。
「カミコロシテヤロウ!」
 もう一体のクラッシャーが、オーラを小竜の形に変え、放った。
 そして後方からは、スナイパーの鎌が飛んでくる。屋台に当たらぬよう、かばうケルベロス。
「グハハ、マワリをキにスルとはヨユウダナ!」
 竜牙兵の戯言には構わず、熾月が味方の治療にあたる。
 熾月の起こした風は、竜牙兵はもちろん屋台を傷つけることなく、ただ、仲間たちの傷を癒した。シャーマンズゴーストのロティもまた、穏やかな表情のまま祈り、回復の奇跡を起こす。
 サヤに破剣の加護を付与したエトヴァは、深く、甘やかな中にも少しビターな風味の混じる声で、異国の旋律を歌う。
 その力で氷から逃れたアルヴァが、逆襲の気咬弾を撃ち出した。
 とっさに屋台の陰に隠れ、やり過ごそうとする竜牙兵。だが、アルヴァにコントロールされた弾は、屋台を避けて、骨ばった腕を容赦なく噛み砕いたのである。

●牙の宴は手短に
「グハハ、コノテイドか!」
 ケルベロスの攻撃をしのいだディフェンダーが、別の気配を感じると、ちょうど、マサムネが飛び込んでくる瞬間だった。ちょうど上げた顔面に、クリーンヒット。
「グハァッ!?」
 顔を押さえよろめくディフェンダーを待っていたのは、ネコキャットだった。度重なる攻撃により劣化した骨を、爪がたやすく断ち切った。
「バカ、ナ……!」
 こと切れるディフェンダーをちらと確認しながら、クラッシャーの打撃をくぐり抜ける紫緒。繰り出した喰霊刀が、相手を切り伏せる。倒れ行く牙の力を刀ですすり、次なる標的へ。
「チョウシに……ノルナァッ!」
 別のクラッシャーの大振りの拳を見切って、サヤが惨殺ナイフを繰り出した。斜めに断ち切られたクラッシャーの体が2つに分かれて、地面に受け止められた瞬間、砕けて塵となった。
「やったねサヤちゃん! さあ竜牙兵! そんなにグラビティ・チェインが欲しいならたっぷりあげよう!」
 フェクトが杖にご所望のものをこめて、勢いよく叩きつけた。
「ガフッ!? マダ、マダダ!」
 竜牙兵が死を恐れぬように、エトヴァもまた臆する心はなく。相手の拳をぎりぎりでかわすと、反撃。渾身の一撃で、三体目のクラッシャーを宙に舞い上げた。
 ヴェルセアが、空中でもがく敵へと、ナイフで切りかかった。一度ならず、二度、三度。骨身に刻まれた三つの傷は呪いとなり、クラッシャーに死を与えた。
「骨ばかりで血が出ないのは助かるナ。真っ赤に汚れた会場じゃ食欲もわかないってもんダ」
 残るは、一体。
「ここで仕舞いだ、クソ野郎」
 アルヴァが、仲間を失ったスナイパーの間合いに踏み込んだ。とっさにかざした鎌を弾くと、二刀を振り切り、衝撃波を至近から浴びせた。直撃し、吹き飛ぶスナイパー。
 熾月の杖が、ファミリアのぴよへと転じた。竜牙兵の周囲を飛び回り、傷を刻んでいく。よろめいたところに、ロティが爪を突き出し、その魂を一突き。
「サーヴァント、ゴトキ、ガ……!」
 がしゃり。
 地に伏したと同時、最後の竜牙兵もまた、物言わぬ骸へと成り果てたのである。

●祭りだ祭りだ!
 再開した祭囃子と、食欲をかきたてる芳ばしい香り。
 周辺の片付けや修復が済み、人々が戻って来たら、あとはお祭りを楽しむだけだ。
 怪我人はもちろん、物的被害も実質ないに等しい。そのため会場は、ケルベロスの勝利を称え、一層の賑わいをみせていた。
「みんな、お疲れさまっ!」
「ナア、俺にしては真面目にやったよナ? 頑張ってただろフェクト?」
 仲間たちを労うフェクトに、ヴェルセアがアピールした。
「うんうん、ヴェルセアくんも頑張ってたね! せっかくの神社だし、今日は神様たる私に全部任せてっ! みんなも欲しいものがあったら言うといいよ!」
「ほんとに? やったー!」
「それじゃ神さま、お言葉に甘えさせてもらいますね」
 何やらとてもいいことがあったらしい。太っ腹な発言に、マサムネが歓声を上げ、紫緒もご相伴にあずかる。
「ありがとうございマス」
 嬉しそうに、注文したカキ氷を受け取るエトヴァ。氷を彩るシロップは、レモンだ。
 りんごあめを手にしたサヤは、それを頬張る前に、
「たくさんがんばったフェクトにも、ご褒美を差し上げますねえ。なんでも食べたいものをご馳走しますとも」
「いいの!?」
「いいですとも。これがWIN-WINというものですよう」
 皆がそれぞれの食べ物を頼む中、アルヴァが難しい顔をしていた。
 フェクトと付き合いこそあれど、自分の方が年長者。ゆえにここは、
「手加減しねぇぜ」
 大人げもなかった。
 ビールたこ焼き焼き鳥焼きそばもろこしイカ焼き……怒涛の夏祭りコンボを決めていく。
 祭りの食べ物は不思議とわくわくするものだが、複数人で食べると、ますます特別感が増すというものだ。
 ひとしきり食欲を満たし、フェクトへのお礼を改めて告げると、熾月はゲーム系の屋台を見て回る事にした。ぴよはまだ食べ足りない様子だけれど。
 ヨーヨー釣りに挑戦してみると、ロティが、なかなか上手い。仲間や一般客から歓声が上がると、熾月も自分の事のように誇らしい。
 紫緒にとってヨーヨー釣りは、恩人にして最愛、そして今は旦那さまになった人とのデートの思い出。ここでも2人の色のヨーヨーを釣って、お土産に持って帰りたい。
「ヨシ、心がけの立派なフェクトのために射的で好きなものとってやろウ」
「おっ、言ったねヴェルセアくん。それじゃ、あのめーっちゃでっかいクマのぬいぐるみをよろしく!」
 今日のヴェルセアはスナイパー。外す気がしない。
「この調子でカタヌキもダ」
 型抜きにもスナイパー効果は発揮されるのであろうか。
 マサムネも、店主から銃を受け取りつつ、景品を吟味する。
「よし、オレも負けてらんないな。えーと……あそこの鼻眼鏡とか取ろっかな、あれうちの嫁が好きなんだよね」
 カキ氷のイチゴシロップで真っ赤になった舌で唇をなめつつ、狙いを定めて……トリガーを引く。
「フェクトフェクト、小遣いくれ」
「もうストレートにたかってくるよねアルヴァくん」
「ほれ」
 くじ引きで強運を発揮していたフェクトに、何かを押し付けるアルヴァ。射的で見事ゲットした景品だった。
 こちらも景品を手に社殿に向かった熾月は、お疲れ様と手を合わせた。大切な家族とずっと一緒に居られますようにと、お願い事も忘れない。
 一方エトヴァは、たい焼きにも興味津々だ。
「日本の伝統的なスイーツですネ……」
 一匹一匹の表情をじっと眺めていたが、屋台を取り仕切る親父さんに、体験させてもらえないか尋ねる。
「俺も、焼いてみたいのデス」
「よし、それじゃあ……」
 その時、空が輝き、どぉん、と大きな音が鳴った。
「……花火、大きイ……綺麗ですネ」
 思わず目を見張るエトヴァ。
「折角のお祭りで、夏休みですゆえ。こやって思い出をつくるのも、悪いことじゃーないのです」
 サヤが、自分や仲間を照らす七色の花を見上げて、つぶやく。
 きっと、ここの神様も、楽しんでくれているはずだ。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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