昼間は賑わうホームセンターも、夜とあっては静まり返っている。
これが24時間営業の大型スーパーなら別なのだろうが……。
真っ暗な駐車場の一つで、青白い光が灯り始めた。
ポツポツとナニカが浮かび上がり、クルクルと魔法陣のように回って居る。
光が大きくなるにつれてナニカの姿が魚型をしているのだと判るころ、円の中央に奇妙な姿が突如として現われたのだ。
『……』
兜の中央が陰で塗り潰されたか、それとも仮面でも付けて居るのか。
鎧兜姿で剣を持った男は、ゆっくりと街並みへと歩き出した。
●
「下級死神が起こしている事件を聞いたことはあるか? 過去に倒した罪人のエインヘリアルを蘇らせるという面倒なことをしてくれる奴だ」
ザイフリート王子が溜息でもつきそうな調子で話し始めた。
彼にしてみれば身内の恥がようやく消えたのにというところであろう。
「ルベロスが撃破した罪人エインヘリアルを、変異強化した上でサルベージし、周辺住民の虐殺を行ってグラビティ・チェインを補給した上で、デスバレスへ持ち帰ろうとしているようだ。サルベージされた罪人エインヘリアルに今度こそ引導を渡して欲しい」
王子はそういうと、その事が市民を守ることに繋がるからなと付け加える。
「エインヘリアルは変異強化により、知性を無くして居る。わがままな性格の筈なのだが、戦いしか知らぬかのようだ」
そういって周囲の避難は勧める様だが、あまり広い範囲を避難させると死神は他で事件を起こしてしまうとか。
ゆえにケルベロスが敗北して、他所に行ってしまう事は避けなければならない。
「周囲に下級死神もいるが、精鋭と呼んでいいケルベロスからみれば大したことは無い。むしろ速やかに片付けたり、逃げるのを追う時に邪魔になるだろう」
そういって王子は、ケルベロス側が優勢になると撤退を試みるようだと教えてくれた。
ただし、その時は死神もエインヘリアルも行動が出来ないので一方的に攻撃できるとも。
「下級の死神は知能が低い為、自分達が劣勢かどうかの判断がうまくできないようだ。つまり、ケルベロスが、うまく演技すれば逃がさない様に戦えたり、逆に不利な時に有利な振りをすれば撤退させられる」
王子はやり方次第だと告げて、優先は市民を守ることだと最後に締めくくった。
参加者 | |
---|---|
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836) |
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658) |
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004) |
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578) |
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957) |
●
「く、くらいね……街灯はあるけど遠いし」
寂しそうな表情でメリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)が呟いた。
広間は賑わう大型スーパーの駐車場も、夜では最低限の明かりのみだ。
これが24時間スーパーならば別なのだろうが、そうもいかない。
「ふっふーん。これ見て~。いいアイデアでしょー」
「ランタン? 腰に付けるのだね。でも、そんなに一杯……」
得意そうな顔で平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は真っ平らな(当然だが)胸を反らせた。
メリノはそんなに一杯どうするのと言おうとしたが、勇気を出して尋ねる前に先に答えを告げられてしまう。
「持ってない人には貸してあげるねー。持ってないひと手ー挙げてー」
「俺は借りるっす。警察の他、この辺を回る警備の人たちに紹介してもらってるんでいつでも行けるっすよ」
和が腰に付けてあげようとすると既に持っている何人かが腰をポンポンと叩く。
逆にカーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)は素直に頭を下げて借り受けることにした。
「王子の話ではそろそろの筈なんすけどね……」
「シッ……。ふぅ……現れたね」
カーラがワイヤーを掛けてスーパーの屋根の上に登ると、そこには気配を消したクロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)が待機して居る。
そして彼の唇に人差し指を当てて静かにさせながら、ゆっくりと指先を敵が現れた方向に指し示す。
(「罪人エインヘリアルが復活するなんてザイフリート王子も大変だね……。しっかり葬り去るから安心してね」)
言葉には出さずクロエは敵の居る方向にロープを掛けると、他の仲間の位置を確認。
そして移動を開始したのを見届けてから、腰のランプを転倒し速やかにラペリング降下したのである。
「むむー。せっかく倒した敵を復活させるなんて、本当、死神ってやらしい奴らなのー! ぎったんぎったんに返り討ちにしてやるんだからー!」
和は味方が完全に動き出す間に、流体金属を散布してガイド役にした。
一同の意識にオウガメタルが囁き、敵の位置を教えてくれる。
「戦闘開始だな。……いけ」
クロエは着地と同時にグラビティを放ち、仲間達の間をつないで陣形を構成した。
左右から迫る者、後方で待機する者、速やかに突撃を仕掛ける者とそれぞれに役を振り分けて戦闘演劇を開始する。
そして最後の一役もまた、自分の役目を理解して動き出すのだ。
「こ、こっち来ないでー!」
「いま助けに行くッすよー!」
涙目に成ってイヤイヤしてるメリノを庇って、カーラがワイヤー伝って飛び出したのだ。
嵐の様に回転しながらエインヘリアルの剣の前に飛び出して、回転運動で弾き返して行く。
「絡みつけよっ、封縛鞭。動きを止めろ!」
すれ違いざまに鞭を伸ばして、隣に居る魚型の死神へ鋼の糸を絡め合う様に敵の姿に伸ばして行く。
それはっ途中で太く形成されながら、蘇ったエインヘリアルに絡みついて行くのだ。
「ご、ごめんね? 痛いよね? 今助けるから」
演技と本音が入り混じった表情で、メリノは黄金の果実を空に掲げた。
カーラ君は西部劇の騎兵隊みたいで恰好良いのだが、残念ながらメリノは頼もしさをレジストしてしまっている。
誰か勇気をくれないかなあ……と悲しげに呟いていると、ファミリアのタルタリカが髪の毛を毟るのであったとさ。
●
「夜に死神とは似合ってるのぅ。じゃが、エインへリアルをサルベージして連れて行くんじゃったらこの動きは止めねばならん」
「あこはこのタイプで編成してくる死神は初めてなのです!」
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)の言葉に頷きながら、八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)が興味深々な目(おっと)を隠して視線を反らせた。
夜中に怪しげに光る姿は、怨霊の様で魚型であろうと不気味である。
「とはいえ魚か、むしろ鳥であれば魂を運ぶと言われておるんじゃがのぅ」
「入り江の地方だと魚もだけどね」
ララの知識に遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)がフォローを添えて、ニパっと笑顔を浮かべた。
決して笑う所ではないのだが、親しいメリノなどはそのまま笑顔で居て欲しいな。不気味な話をするの止めて欲しいなと思わなくもない。
「さてさて、もうお盆は終わったし、死者にはお帰り頂かなくっちゃね。みんな纏めてごりごり呪ってあげるんだから!」
「永遠の眠りから起こされるのもかわいそうだし、知性なく戦わされる戦士なんてもっとひどいわよね」
篠葉が急加速を掛けて殴り飛ばすと、コーンという声が何処からか聞こえて来る。
その音に狐の啼き声はケーンじゃないっけと首をかしげつつ、ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)も走り出した。
「死神におしおきして、もう一度眠らせてあげましょうか」
「その前に援護するのですよ。ベルも頑張るのです」
ルチアナが息を位を付けてジャンプすると、あこは陣形に再修正を掛けてグラビティを流し込んだ。
焼けつくような蒸気と破魔の魔力が体中に行き渡り、どこかワクワクと殺る気が出て来た。
翼猫のベルなどは尻尾を立てろと言ってくる(気がする)が、残念ながらルチアナに尻尾は無いのでバトンの代わりに青い棍を振り回しておいた。
「これの実験台になるといいのじゃ。ふふふ……さぁ撃ちまくって成果を見るわよっ!」
ララは期待感に思わず素を出しながら、実験中の新型弾を弾倉に込める。
脈動する重力が常に変動し、周囲にオーロラを出すほど空間を収縮させる。圧倒的なグラビティが圧縮されてエインヘリアルの動きを束縛するのだ。
「良い子のみんなには素敵な呪いをプレゼント! 良い子じゃないみんなには……、特大の呪いをプレゼントしちゃいまーす!」
「それはどっちも呪いではないかの? 人を呪わば穴二つと言うことかのぅ」
ララと篠葉は動きを入れ換えた。
飛び込んで居た篠葉は炎の灯る宝珠を掲げ、込められた呪いの炎で焙り出す。
逆に銃撃していたララは槍を掲げてダッシュを掛けた。怪しい色をした炎が照らす中、輝く翼を広げて疾走する。
「とったどー。なのです?」
「残念ながらまだじゃな。直撃はさせたが落とすには遠いわ」
あこの質問にララは渋い顔をするのだが、正直言って苦戦ムーヴかどうかは判らない。
普段から演技して居る彼女のこと、本気で言っているのか困っているのか判らなかったので、とりあえず考えるのを止めた。
まずは自分達の傷を癒し、早めに倒せたらラッキーと思うのです。と扇でパタパタ、お魚さんに噛みつかれてるベルを労わって治療する。
『うおおおおお!!!』
「うそ……でしょ」
「馬鹿……な」
ここでエインヘリアルが凶声を上げる。
剣を地面に叩きつけながら、猛烈な冷気を波のように飛ばして来たのだ。
「おっと、それはやらせないっすよ!」
「あこ達が居るのです!」
そこへカーラとあことベルが立ち塞がった!
三人掛りでスクラム組むと、あこの頭にベルが載らないとバランス取れない(ションボリ)。というか吹っ飛んだ。
カーラは苛めてやるなよとハンマー変形させて轟音弾でお返ししておく。
「みんな頑張った後に狙うなんて、いけない子ね。……めっ!」
「魚が少々頭良くてエインヘリアルが知性を失っているのでしょうか……? とにかく悪い子なのです」
遅れてやって来た死神が噛みつこうとしたので、ルチアナはバックステップであこの後ろに回り込む。
氷の波を他の子に任せたあこは、肉球(オウガメタル)で防ぎながら仲間を庇う。
そしてルチアナは攻撃的なテレパスを流し込み、死神の精神を攻撃し肉体の動きを奪ったのです。
●
「おにょれー……ただでは倒れてやらないんだから―!」
「なかなか倒れない……強敵だね。……そろそろ切り替え時かな」
戦いが進む中、和がダメージを喰らっても居ないのにプンスコしているのを眺めながら、クロエは戦場全体を確認した。
ここ数分の戦いで同じタイプの回復法術が重なったこともあり、破魔の力はもう良いだろう。
命中率強化の技を忘れたので、これで動きを止めようかとマントの下に隠したガトリングを撫でる。
「いえ、やはり当初の予定通りに行きましょう」
クロエはそう言うと、月光の加護を呼び込んで仲間に力を与えた。
「これでも喰らえー……目からビーム!」
ちゅどーん!
最初のころは、『はははー! どうだ、まいった……むぅ!? 効いてない、だとー!? そんなバカなー!』とか言っていた和のセルフ突っ込み。
今では普通に効いているというか、最初から効いているのだけれどダメージを隠せなくなって来た。
「ひ、ひぃい!? 噛まれた、噛まれちゃった!? コレとって、これとって!?」
「落ち付くのじゃ。それは単に倒しただけ。むしろ誇るが良い」
「ご活躍なのです。えっへん」
それはメリノが敵を倒した姿であった。
スライムさんに頼んで食いつかせたのだが、戦果を見せるネコさんの様に死骸を見せてくれたのでビックリしたのだ。
「大丈夫っすかね?」
気の良いカーラは心配するのだが、他の一同は『演技かな?』とか『素だよね?』とかメリノの驚くべき経済効率にホッコリしたのであった(なお、助けてくれない模様)。
「ぶーんぶんぶん、ヤッリー!」
更に時間が経過し、和がこんなこと言いながら槍を振り回して攻撃しているが、月の狂気を分けて無いので違います。
でも突っ込まれて喜んでいる辺り、素でおこちゃまなのかもしれない(そう言うと怒るけどね)。
しかし演技の方はそろそろ限界だろう。何しろ……。
「さすがに二体目だもんねー」
「まあ盾役居なくなったし、逃げられそうになったら総攻撃でいんじゃないかな」
段々と飽きて来たというか、ロマンもへったくれも無いのでマンネリ感がある。
ルチアナと篠葉は顔を見合わせて、仕方無いよね、うん仕方無いよとクスクスと笑った(笑ったのは主に篠葉の方です)。
共に演技派なのでまだ行けるのだが、相手の方が弱って居ては仕方無い。
「まだやれる、と思わせられるように気を引きたいのぅ。何発かは後ろに入れておいたのじゃが」
「こっちもエインヘリアルに入れてるけど……。とりあえずは後で考えましょ。その時は超弩級……じゃなくて怒涛の連携攻撃よ」
ララが敵中列に塗料を射出したり、篠葉自身も本命を色々呪っている(だからこそこれだけ時間が掛ったのだが)。
だが攻撃担当の全員でソレをやって居た訳でも無く、物事には限界と言うものがある、そろそろ潮時を考えるべきだろう。
「まだ2体目なのー……うぐぐ、ちょっちきついのー」
「そのまま演技しててね? う~ん。手加減しようって入っておけば良かったかな」
和の演技をBGMにルチアナはグラビティの剣を伸ばして、敵中列に切り込んだ。
そろそろ難しいのは判って居る、それでもなお作戦を実行しようとしていたのだ。しかし恐れて居た自体はやって来てしまった。
●
「え? あれ、魔空回廊!? なんで、なんでー!? もうやだー!」
「くっ……。そろそろヤバイと判断したすね。エインヘリアルの方は確実に倒せると思うっすけど」
驚いているメリノの前で、敵が怪しげな光に包まれた。
カーラが鞭を伸ばしてエインヘリアルを拘束すると、敵は避けもせずに喰らっている。
だが鞭の拘束も魔空回廊での改修には通じるのだろうか?
「念の為の回復は、わたしがやるわ。そちらは攻撃をお願い」
「りょうかいなのです。ベル、能あるにゃんこが爪を出す時なのです!」
クロエが回復を引きうけたことで、あこはベルにも攻撃指示を出した。
オウガメタルで作った肉球を流体金属の拳に変えつつ、ベルがひっかくのに合わせて殴りつける。
猫ロケ……虎ロケットパンチがエインヘリアルにヒットした時、大きく体勢が崩れた辺りそろそろ限界だったのかもしれない。
「悪鬼調伏、仕上げるわ。あなたは死神に力を取っておいて」
「うん。任せておいて!」
篠葉は割り込もうとしたルチアナに声を掛けて、臆病な友人に声を掛けた。
まあ実際には行動タイミングの問題なのだが(単にまだメリノが行動してない)、カッコよく言ってみるのが御狐さまである。
「メリノ、呪うわよ! そんな簡単に逃げられると思った? それはちょっと甘すぎじゃなーい? 可愛い怨霊ストリーム、くっらえー!」
「呪うって私を!? ち、違うよね。い、急がなくちゃ……。お願い、力を貸して!」
篠葉が怨霊を固めて作った刃を大地に突き立てると、メリノはアスファルトを割って、雑草達の力を最大限に解放する。
メキメキと割れる大地に涙目に成りながら、後で直さなくちゃ……あ痛っ!? こんな時に止めてよタルタリカ……。
そんな日常的な光景を後にして、スルスルと延びる雑草達は何故か毒々しい色合いと切れ味を見せて居た。
『う、う、うおおー!!?』
「やったのじゃ。残るは死神のみ! ここが踏ん張り時よ!」
「いくわよっ最大火力!」
ララが槍を構えて突撃を掛けると、ルチアナは全身のグラビティを得物に載せた。
その瞬間に体重がズンと軽くなった様な気がして、代わりに棍が地球のように重くなった気がした。
「……ごめんね!」
「あったれー! れーれっれー……あれれー!?」
ルチアナの一撃が死神を粉砕する。
続いて攻撃しようとしていた和は、指先をくわえながら首を傾げる。
「ふむ。どうやら死神の方も限界であったようじゃな。途中で本命以外にも攻撃する者がおらねば、危うく逃げられてもおかしくはなかったかもしれん」
「そういえば死神の体力なんて測ってなかったすね」
「にゃんこの顔は区別つくけど、お魚の顔は区別つかないのです」
ララの言葉にカーラがポンと手を打って、あこが何故か得意げな顔でベルを撫でて居た。
終わり良ければ、それで良いのだ。
「皆さん御疲れ様でした。このまま手分けしてヒールをしていきましょう」
「「はーい」」
クロエが声を掛けると一同は修復を開始した。
「ちゃんとなおすからー」
なんて言いながらメリノも自分が壊したところやら、エインヘリアルがやったところを直して行く。
「罪人とはいえ可哀想だし、弔ってあげないとね」
(「罪人……ね……。わたしには罪人を裁く権利なんて……ないんだけどね」)
全て終わったところでルチアナが鎮魂の歌を唄い始めると、言葉には出さずクロエは月を見上げた。
死神となった兄を思い浮かべて……。
「ひと仕事終わった後はやっぱり甘い物よね。ごほうび買って帰らなくちゃ!」
最後に篠葉はそう言うと24時間やってるコンビニの位置を聞き出し、誰かさんの腕を取って帰還するのであった。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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