ここで会ったが101年目!!!

作者:つじ

●復活する宿敵?
 深夜、とっくに営業時間の終わったショッピングモールの中央広場に、青白く光る怪魚が現れた。ゆっくりと空を泳ぐその身体、輝く軌跡が薄く光の線を引く。
 現れた3匹は絡み合うようにその場を泳ぎ、青白い光はやがて魔法陣を描き出した。
「ウオオオオオオオオオッ!! ヤツはドコだアアアアアァァッ!!!?」
 雄叫びと共に、魔法陣の中心に巨大な男が召喚される。人間の標準的なサイズを超えるその体躯は、エインヘリアルの証だろう。
 が、状況はそれだけには留まらなかった。
「ガアアアアアアアアッ!!!!!」
 死神による変異強化。手にしていた大斧は腕と完全に一体化を遂げ、代わりとでも言うように、背中から鉤爪を持つ巨大な腕が新たに生える。
「我が宿敵ヲ! 粉微塵に!!!!」
 三本腕となった巨人は、夜空に向けて大きく吼えた。
 

「皆さん聞いてください! 島根県浜田市にて、死神の活動が確認されました!」
 大きな声で元気よく、白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が集まったケルベロス達にそう告げる。
 とはいえ、現れたのは死神の中でもかなりの下級、空を泳ぐ深海魚型で、知性をもたないタイプである。
「その怪魚型死神ですが、そうやら以前皆さんに撃破してもらった罪人エインヘリアルを、変異強化した上でサルベージしようとしているらしいのです!」
 死神は、復活したエインヘリアルに周辺住民を虐殺させる事でグラビティ・チェインを補給し、デスバレスへ持ち帰ろうとする。
「被害が出る前に死神を撃破し、サルベージされた罪人エインヘリアルに今度こそ引導を渡してやってください!!」
 サルベージされたエインヘリアルの名は、『オルドゴート』。以前は大斧を手に暴れ回った個体だが、今回は鉄爪相当の三本目の腕も使った攻撃を行ってくる。変異強化の結果、かなり攻撃力が高くなっているので注意が必要だろう。
「ただ、その分知性を失っている、ようですね……?」
 微妙な感じでヘリオライダーが言う。元々理性的だったとは言い難いが、より意思疎通が不可能方向に寄ったと思えばいいだろう。とはいえ、宿敵を求めているのは変わらないようなので、その辺りを突けば多少は反応が見られるかも知れない。
 随伴している怪魚型死神は、『噛み付く』ことで攻撃してくるが、こちらはあまり強くはないようだ。
「皆さんが駆け付けた時点で、モール周辺の住人の避難は行われています。ですが予知に関わるため、戦闘区域外の避難までは実行できません。皆さんが敗北した場合にはかなりの被害が予想されますので、油断なく、確実に敵の狙いを阻止してください!!」
 また、下級の死神は知能が低い為、自分達が劣勢かどうかの判断がうまくできないようだ。つまり、ケルベロスが、うまく演技すれば、優勢なのに劣勢だと判断したり、劣勢なのに劣勢では無いと誤認することがある。
「これをうまく使えば、より優位に戦闘を行なう事もできますし、皆さんが劣勢に陥った場合でも、敵を撤退させて市民の被害を防ぐ事が出来るでしょう!
 その辺りの工夫も含め、皆さんの奮闘を期待します!!」
 そうしめくくって、慧斗は一同をヘリオンへと案内した。


参加者
ティアン・バ(映・e00040)
流・朱里(陽光の守り手・e13809)
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
月井・未明(彼誰時・e30287)
ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)

■リプレイ

●望まれぬ再会?
「オオオオオオォッ!!」
 冥界から引き戻され、異形と化したエインヘリアル、オルドゴートが吠える。元の粗暴さを凶暴性に塗り替えたそれに、空野・紀美(ソラノキミ・e35685)は思わず耳を塞いだ。
「もーっ、また出てきたの!? 何度きてもおんなじなんだからねっ」
「よもや、本当に『ここで会ったが』と言う事になるとはな……」
 同じく、人より長い耳を伏せながら月井・未明(彼誰時・e30287)が言う。そう何度も会いたい顔でもないのだが。
「貴様、キサマ等ァァ! あの時はよくもオオオ!!」
 敵の側はそうでもないようだ。二人に向かって牙を剥くオルドゴートの姿に、ティアン・バ(映・e00040)がそっと息を吐く。
「宿敵、宿敵か。一度でいいよ、ティアンは」
 あの『百足』がこうして戻ってきたら。そんな想像は一瞬彼女の眉を顰めさせるが、それもすぐに消え去った。
 そんな彼女等の前に、流・朱里(陽光の守り手・e13809)が進み出る。
「死してなお、か」
 鞘に収めた日本刀に利き腕を添えて、いつでも抜き放てるよう、低く構えた。細められた眼光、そして一瞬走った紫電が漆黒の鞘に光の文様を描く。
 それに記憶を刺激されたように、オルドゴートもまた斧と一体化した腕の筋肉を膨れ上がらせた。憎い相手の姿に、噛み締められた歯がぎりぎりと音を立てている。
「復讐だ、決着を、決着ヲォォ!!」
「――ああ、また私が終わらせてやろう。どちらが塵となるか、勝負だ」
「るうおおおおおおアアアアアアッ!!」
 歓喜と憎悪の雄叫びを上げ、地を蹴るオルドゴート。それを見遣り、多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)は彼女のミミック、ジョナと共に密かにほくそ笑んでいた。
「ククク、彼は気がついてないですよ、ジョナ。タタンが実は何者かということに!」
 そう、彼女の正体に気付いた時、敵は驚愕の表情を浮かべることになるだろう……。
「……そうなの?」
「そウみたい、何があっタのカしら?」
 アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)の問いかけに、ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)の抱いた巻き毛の人形が答える。
「該当データなし。……?」
 アイズフォンで『そんな感じ』の記録を検索していた款冬・冰(冬の兵士・e42446)は、そうして首を傾げた。

 ここで一応明記しておくが、未明以外はオルドゴートとは初対面である。

●不協和音?
 地面にひび割れを作りながら飛び上がったオルドゴートが、斧と一体化した腕を振り下ろす。
「全く……会いたくなかったぞ、『宿敵』め」
 仲間に向いた一撃を、起動したマインドリングとバールを重ねて未明が受ける。見た目同様の膂力の差により、彼女の足元が陥没する。
「ウオオオォ! 死して贖えェ!!」
 さらにもう一度振り下ろそうとする敵の足を、月光を描く刃が薙いだ。
「こっちだオルドゴート、私の事を忘れたのか?」
 そのまま傍らを抜ける朱里に敵の注意が向いたところで、未明が離脱。冰がすぐに回復に回る。
「あ……い、今回復しますね」
 おどおどとした物言いと共に光の盾を展開。次の攻撃に備えた、そこに。
 オルドゴートに遅れて深海魚型の死神が追いついてくる。歪に並んだ牙を剥き、死神達は未明、そして梅太郎へと殺到した。
「ひょー! 行くですよジョナ!」
 展開した黒い太陽でそれらを迎え撃ち、タタンとジョナがその前に躍り出る。盾役を務めるのはこの二人と二体。彼女等が体を張れる内に、敵を押し返したいところだが。
「――おいで」
「一緒に躍りましょう?」
 『入水小町』、そして『硝子の靴』。近接攻撃のために殺到する敵達を、ティアンとアイリスが纏めて海原の幻影へと引きずり込む。一網打尽、ではあるが一体に対してのダメージはそう高くはない。
「ちょっとー、そんなんじゃいつまで経っても終わらくない?」
 そこに、紀美が物言いをつける。アイリスとティアンもそちらに耳を傾けてはいるが。
「良いじゃない、まとめてやっちゃおうよ」
「エインヘリアルから倒すって話だったでしょ!?」
「そうだったか?」
「どっちカナ、ドっちダロ、どっちデモ良くなイ?」
「ええー!?」
 嗤う黒い人形がそれを打ち切って、その人形を抱いたヨルが跳ぶ。スターゲイザー、だがオルドゴート単体を狙ったそれは深海魚の一体に阻止されてしまう。
「もう、勝手に動かないで!」
 そこで、紀美の人差し指の先が輝く。ネイルに描かれた『無邪気な射手座』が、敵陣の隙間を縫ってオルドゴートに突き刺さった。
「ぐ、オォ……!?」
 派手な口喧嘩が始まってはいるが、連携自体は『かろうじて』上手くいっている。
「あ、あの、皆さん喧嘩は……」
「こいつ……前に戦った時より確実に強くなっている。皆、気を引き締めろ!」
 冰と共に、普段からは考えつかない焦りを滲ませて未明が吠える。マインドシールドとウィッチオペレーションで負傷を癒す彼等だが。
「オラァァァ!!」
「チッ……!」
 斧に攻撃を弾かれた朱里が跳び退るのと同時に、鉤爪を持つ第三腕が振るわれる。薙ぎ払うような一撃はまた癒えた傷を抉り、そして。
「痛ったぁ……!」
 巻き込まれたアイリスが傷口を押さえて、それでも前に進むべく幻影のリコレクションを奏でる。これもまた、敵全体を一度に退けるための攻撃。しかしその音色を互いに抑え合いながら、怪魚は空を泳いで迫りくる。
「まだこんなにいるの!? ていうか全然減ってないじゃない!」
「何をしている? オルドゴートを狙う作戦ではなかったか?」
 アイリスの叫びに、若干きつい声で朱里が問う。その隣に、怪魚の群れを光弾で薙ぎ払ったティアンが着地した。
「言い合っている場合じゃない。やれるか?」
「ああ、言われるまでもない」
「今日は賑ヤカで楽しイネぇ!」「騒ガしいだケといウのモ考え物ヨ?」
 続く人形達の会話を背景に、ヨルの練り上げた竜の幻影が炎を吐く。オルドゴートを守るように前に出た怪魚が焼かれてのたうつ。そしてそれを踏み越えて迫るオルドゴートに、紀美が仕掛けた。
「その攻撃、前にも見たと思うんだけど!」
「何ィ……!?」
 振り下ろされた斧をやり過ごし、跳躍。エアシューズの一撃が脳天に決まる。そして上を向いた敵の死角で、朱里が刀を鞘走らせた。滑らかな水流のように白刃が舞い、即座に傷口を凍てつかせる。
「グォ……!?」
「はっ、どうした。白羊宮ステュクスで戦闘に不要な記憶は洗浄されるが、まさかそれで忘れたというわけではないだろう!」
「そーそー、あの時も楽勝だったけど、今回もおんなじかな?」
「アア、忘れルもノカ、あの屈辱……! オオォォ!!」
 朱里と紀美の言葉に苦い記憶を呼び覚まされたか、歯噛みしながらオルドゴートは一歩踏み込む。再度薙ぎ払われる鉤爪を前に、進み出たのは不敵な笑みを浮かべたタタンだった。
 戦術超鋼拳による一撃、そしてその表情に何かを感じ取ったように、オルドゴートは、腕を止める。
「ナンダ、まさかキサマは……ッ!?」
「ククク……ようやく気付いたでござますね。このタタンこそが」
「邪魔だァッ!!!」
「あーっ、まだ途中!」
 速攻で蹴り転がされたタタンに代わって、攻撃手が再度仕掛けていった。

 ティアンが怪魚の群れを牽制しながら下がり、味方を庇いつつ回復していた未明と並ぶ。
「まだ無事か?」
「何とか。それよりも……」
 気遣う目で未明が治療中のタタンを見る。
「うう……」
 当のタタンからはまだ途中だったのに、的な不貞腐れた気配が見えるが気のせいだろう。そしてそれに隠れて、回復行動を終えた冰が『それ』を口に含む。
 戦況はとにかく、戦場に鳴る軋みは徐々にその音を増していた。最初に響いたのは、紀美の声。
「――わかってる! でもわたしの攻撃、きいてないみたいで……!」
「くッ、最初から全員狙っていればわからなかったが……!」
「今更ネぇ」「今更だヨね」
「だってこんな強いと思ってなかったんだもん!」
 朱里とヨルの人形達の言葉に、苛立ちを爆発させるようにアイリスが応える。そこで同時に振り下ろされた彼女の刃が、怪魚の一体をものの見事に両断した。

●見せかけの真実?
 おっ、という空気が一瞬ケルベロス達の間に流れる。良い当たりだったとはいえ、盾役の一角が崩れたということは、他の怪魚達も限界にきていると見ていいだろう。勝ち目が近付いた、と言っても良さそうな場面。だがそこでティアンは自分の傷口を改めて押さえ、表情を硬く、そして。
「強敵だな」
 言い切った。
「……ん、く」
 そしてその隣では冰が。
「こ、冰ちゃん、大丈夫!?」
「げほっ! ごほ! ぁ……な、なんでこんな時に……」
 多量の赤い液体を口から吐いて体をふらつかせる。抱き留めた紀美の周りに、芳醇なトマトの香りが広がった。
「何だと……!?」
 一方ではオルドゴートの斧に裂かれた朱里が、広がる血の染みを押さえながら下がる。
「ハハハハハ! 倒れルが良い我が宿敵ドモよ!!」
 敵の哄笑、そして仲間の惨状に「埒が明かない」と言う様に首を横に振って、ヨルが前に出る。かくん、と、そこで操作系統を切り替えた機械のように身体が揺れた。
 紡がれるは『加速度円舞曲』、魔力の糸を四肢に巡らせ、自らを操り人形へと変えて。
「オォォ!!」
 向けられた刃に対して、前触れなく右腕が跳ね上がる。振り下ろされる大斧をルーンアックスで巻き取り、逸らし、傍らに落とす。地響きと跳ねるコンクリート片を無視して、ヨルはその場で跳ねた。
「貴方の刃、全然届いておりませんよ?」
「ヌアァ!! アの時ノヨウにはいかんぞォ!!」
 低空で旋回、弧を描いたルーンアックスを、しかしオルドゴートは第三の腕で受け止める。ヨルの側にも手応えは確かにあった、しかし血飛沫が舞う中、鉤爪が大斧ごと彼女を捉える。
「捕マっちャッたワよ」「あーアー」
 投げ飛ばされかけたそこを、ルーンアックスを振り下ろしたアイリスと、ティアンの喚んだ暴走機械が救い出した。
 しかし、その代わりに攻撃を受けた者が。
「ひょーっ」
「タタンーッ!」
 全く緊張感のない悲鳴を上げて転がったタタンに駆け寄り、未明がその上体を抱き起こす。
「うう……死ぬ前に江刺りんごが食べたかったで……ござます……」
「ちくしょう、回復が追いつかない! なんてことだ! メディック! メディーック!!」
 洋画調に助けを求める未明の方を見て、「どうしましょうこれ」的な目を向けるケリドウェンだったが、主のヨルに促されて回復に向かった。
「よ、よくもタタンちゃんを……!」
「クハハハ! 我が憎シミヲ味わうが良イ!」
 紀美に対して敵が笑う。そう、こうして憎しみは連鎖していくのだ――。

 ――と、ここで状況を整理しておこう。
 怪魚型の死神は一体落ち、残り二体も満身創痍。オルドゴートも最前線で戦い続けた代償がそこら中に見えている。一方、ケルベロス達は……。
「まさか、ここまで追い詰められるとはな……」
「い、嫌……このままでは……ごほっ」
「おれももう……否、ここで倒れようと、お前との決着だけは……!」
 傷口が開いた感じに輸血血液をぶちまけた朱里に、トマトジュースで咳き込む冰、そしてタタンを抱えた未明が決死の姿勢を見せている。
 そんな様子を見て、残った死神二体が顔を見合わせる。もう少しで倒せるのでは? そんな緩い判断が透けて見えそうな状態だが。
「ウオオオオッ! ここで死ねェェエ!!」
 オルドゴートの雄叫びがさらにその後押しをした。結果的に言えば、それが致命的な選択となる。
 見切った、とでもいう様に、ヨルのハウリングフィストが敵の出鼻を挫き……。
「ぐっ……俺は貴様ヲ、キサマを倒スまでは……!」
 巨人の背から伸びる第三の腕、その根元に、灰色の煙が纏わりつく。
「結局、お前がどこの誰の宿敵か、そもそもそんな者がいたのか、ティアンはしらないが」
 頃合いを見て取ったティアンは、前のめりになり過ぎた弊害か、傷だらけのその体にゆびさきを添えた。
「――お前も眠っていろ、オルドゴートとやら」
 シャドウリッパー。なぞられた傷が広がり、オルドゴートが前方にふらつく。そこに。
「流朱里だ。今度は覚えて、逝け」
 カチ、と朱里の刀の鍔と鞘が当たる。一瞬で斬り広げられた胸部の傷から血を噴出させ、数歩歩いたところで、オルドゴートは地に伏した。
 巨体の落ちる重い音色。そして、くぐもった声。
「オノレ、まダ、俺は――」
「眠れ。今度こそ、『次』はない」
 そうだろう? あの時の、仲間に代わってそう口にし、未明はエアシューズで最後の一撃を打ち込んだ。

 あれだけうるさかっただけに、オルドゴートの倒れた戦場はかなり静かに感じられる。
 そんな静寂の中で、もう一度死神二体が顔を見合わせ……その後ろに、ひょっこりと紀美が姿を見せた。
「あっれれー? まだ残ってたんだ?」
「お仕事失敗しちゃったね、大丈夫? 怒られない?」
 続けて距離を詰めていたアイリスの声に、死神達がわたわたと動き始める。方向はあっちか、それともこっちか、絡まりそうになりながらも突破口を探す二体を。
「演技をする必要も無いと判断。殲滅開始」
「ふっふっふ……そう簡単には逃がさないでござます!」
 冰とタタン、そしてジョナを先頭に、ケルベロス達が追いかけて行く。

「悪い子はいねーがー!」
 ほどなく、ジョナに目隠しされたまま震えるタタンの横で、焼け焦げた死神が発見された。

●因縁の決着?
 戦闘終了の報は既に届けられている。避難していた住民もやがて戻ってくるだろう。
「皆お疲れ様。……冰も少々疲れたと認識」
 アイズフォンでの連絡を終え、冰が溜息を吐く。疲労と安堵。作戦は無事成功、被害は最小限に収められた。辺りをヒールすれば、任務は完遂したと言っていいだろう。
「冰もお疲れ様……にしても、演技というのはむずかしいな」
 トマトジュースの香りのする彼女にそう言って、ティアンは両手で自らの頬に触れる。戦いの熱が引いてきたそこは、いつも変化に乏しい場所なのだが。
「いや、名演技だった。主に胆力が」
「そうだろうか」
 役者になれるのではという未明の言葉に、ふむ、とティアンは頷いた。
「……?」
 コツの掴めていない者からすると、この場面は全員真顔だ。冗談かどうか判別がつかず、朱里はとりあえず見なかった事にしてヒール作業に移った。ヨルも一度そちらを振り向いたが、それだけで。
「タタンちゃんも演技頑張ってたよね!」
「おー! タタンも女優目指せるでしょか!?」
「そうねぇ、練習次第じゃない?」
 紀美とタタンの会話に、アイリスが笑顔で応じる。
 傍迷惑なエインヘリアルも、今度こそ眠りについただろう。うっすい因縁もおそらく、これで終わり。ショッピングモールの街灯の下に、明るい笑い声が響いた。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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