●
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は背中でドーンという爆発音を聞いた。
爆風に押されてよろけながら振り返る。
「なんてことだ……」
さっき渡ったばかりのスクランブル交差点が消滅していた。
北の道路わきに建てられていた銅像の根元から、放射状に亀裂が伸びてアスファルトを刻んでいる。無数の人が倒れ、おびただしい血が白線の上を流れていた。
ピュウ・ピュウという信号音がやけにのどかに響く中、遅れて悲鳴があがり始めた。
「なんてことだ……」
リューディガーはもう一度つぶやくと、シャツの上からドッグタグを握りしめた。
同僚の命を奪った過去の惨劇が脳裏に蘇り、火柱と煙に覆われたベルリンの街角と目の前の風景が重なって世界が揺れはじめる。狂気を加速させるかのように、憎き相手の高笑いが鼓膜を震わせた。
幻聴を断ち切ろうと頭を振ったとたん、また爆発が起きた。今度は東だ。横から石つぶてを纏う巨大な空気の拳に殴りかかられたが、なんとか倒れず踏み止まる。
「お、ケルベロスか?」
背中を蹴られて前から倒れた。
すぐに体を転がして横に逃れる。
立ち上がろうとした瞬間に胸を踏まれて、熱いアスファルトに背を押しつけられた。
ぐっ、と短く息を吐き、歯を食いしばって顔をあげ――目を見開く。
「そうか、そうか。お前、ケルベロスか……んん~? どこかで見たツラだな。まあいいや、死ね。グラビティ・チェイン回収の邪魔だ」
ああ、彼女と一緒に出掛けなくてよかった。憎悪に醜く歪んだこの顔を見られずにすむ。
リューディガーはささやかな幸運と偶然に感謝した。
――紅蓮のアルハザード。
口の端を捲りあげて踏みつけた相手を見下ろしているこの男こそ、リューディガーがケルベロスになるきっかけを作った因縁の相手。数年前、祖国で起きた爆破テロ未遂事件の主犯だった。
●
「このあとリューディガーは反撃に出るんだけど、タイミングよくっていうか、悪くっていうか」
ヘリオライダーのゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は顔を曇らせた。
「交差点の南と西の銅像が同時に爆発するんだ。螺旋忍軍――紅蓮のアルハザードは煙幕に紛れて攻撃をかわすとリューディガーの後に回り込み、日本刀で背をバッサリと切る」
ここまでが予知されたこと。
当然、ケルベロスたちに緊急招集がかけられたからには、これは変えられる未来だ。
「うん、変えて欲しい。最悪の結末をみんなで回避するんだ」
いまから現場に向かえば、北の銅像が爆発する数十秒前に到着できる。このときリューディガーは、スクランブル交差点を北から南へ向かう途中だ。
「最初の爆発自体は防げないかもしれないけど、みんなで頑張れば死亡者をゼロにすることはできるはずだよ。そして、リューディガーとも無傷な状態で合流できる」
紅蓮のアルハザードが潜伏している場所も、予知であらかた目星がついている。スクランブル交差点を渡った先にあるビルの二階、大手ハンバーガーショップだ。
「あー、でも、アルハザードをハンバーガショップの中で倒そうとはしないで。四か所同時に爆発させてしまう可能性があるから。第一、ハンバーガショップにいるお客さんやスタッフたちを危険にさらしてしまうからダメ」
恐らく、アルハザードは北の銅像を爆発させたあとに時間をずらして東、南、西と時計回りで爆発させるつもりだったに違いない。救助にやって来た救急車やパトカー、やじうまたちを次々に巻き込んで、被害を大きくしようという計画だ。
ちなみに、ハンバーガーショップに事前連絡を入れることはできない。
なぜなら、客やスタッフたちの不自然な動きに気づいた時点でアルハザードが逃亡してしまうからだ。
「この機会を逃せば、きっとまた地下に潜ってしまうよ。もし、逃がしてしまったら……次のテロを予知できるとは限らない……」
だから、ここで倒さなくてはならない。
「螺旋忍軍、紅蓮のアルハザードは単独で行動している。武器は日本刀。特に変わっているところといえば、炎使いってところかな」
グラビティの一部がオリジナルのもに変わっているという。
「詳しいことは資料の中に。ヘリオンで読んで」
続いてゼノは爆弾が仕掛けられた銅像について説明を始めた。
「時間がないからこれも簡単に済ませるよ。爆破物が仕掛けられた銅像はスクランブル交差点の四か所、東西南北に建てられている。可愛らしくデフォルメされた動物の銅像だよ。その銅像の首または体に、花輪の形で取りつけられているんだ」
爆弾解除自体は専門知識が必要だが、ゼノはその場で解除する必要はない、と言った。
「信管破裂による内部からの刺激がない限り、簡単には爆発しないみたい。起爆信号を受信する『蜜蜂』型の受信機さえ壊せばいいからね」
人々の避難は同行するセルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)に任せて欲しいとゼノは言う。
「だから、みんなはリューディガーと一緒に戦って。爆発テロを繰り返し起こすこの憎むべきデウスエクスを倒すんだ!」
参加者 | |
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ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403) |
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918) |
物部・帳(お騒がせ警官・e02957) |
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288) |
フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
ルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511) |
朧・遊鬼(火車・e36891) |
●
地を裂くような爆発が起こった。
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は、熱く重い風に背を押されて前につんのめった。
(「なんだ!?」)
爆風で巻き上げられた土くれが再び地面に落ちる音、鉄がひしゃげる音がコンマ数秒遅れて鼓膜を振るわせた。少し遅れて特殊火薬の臭い、そしてゴムや鉄の焦げる臭いが漂ってきた。
振り返る。
ありふれた日常の風景が戦場に変わっていた。リューディガーは一瞬で気持ちを警官、いやケルベロスモードに切り替えると、はや駆けだしていた。
いくらも交差点を戻らないうちに耳になじんだ声が思いがけず聞こえてきて、足を止めた。
「ルーディ殿! こっちは私たちが引き受けます。そのまま引き返して交差点を渡ってください!」
警官の制服を着た物部・帳(お騒がせ警官・e02957)の肩の向こうに、特科刑部局員の顔がいくつか見えた。ほかにも見知ったケルベロスの顔がいくつか見える。みなケルベロスコートを着用しておらず、平服姿だった。
すぐにデウスエクスによる襲撃事件だと見当がついた。どうやら偶然巻き込まれてしまったらしい。出動者たちが平服なのは、ケルベロスであることを隠しておかなくてはならない理由があるのだろう。
ならば局長である帳の指示に黙って従おう。行けと言うからには、交差点を渡り切ったところで詳細が聞けるはずだ。
体を返す。再爆発を恐れて逃げるフリをしつつ走る。
(「え? どうして彼女が……」)
早くも集まって来たやじうまの中に、店にいるはずの妻、チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)の姿をみつけ、再び足が止まった。
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)は爆発で怪我をした人たちの避難を仲間たちに任せ、スクランブル交差点を東へ渡った。
(「リューディガーさんの助けになるようにがんばらなくちゃね! うん!」)
爆破テロ魔のデウスエクスは因縁の相手だと聞いている。彼が心置きなく戦えるよう、一般市民の安全を確保し、舞台を整えるのが自分の役目だ。
東の一角に建つビルの一階に、青いラインの看板が見えた。大手コンビニのチェーン店入口脇に、郵便ポストを兼ねたカメの銅像が建っている。
「あれが例の……(二番目に爆発しちゃうからすぐに壊さないとね)。起爆装置を確認、直ちに破壊するよ!」
そこをどいて、とやじうまたちに向けて左腕を横へ大きく薙いだ。たん、とアスファルトを蹴って跳ぶ。涼子はカメの首にかかった花輪にとまる蜜蜂型の起爆装置を、素早く繰りだした拳で殴り飛ばした。もちろん、自分の動きがデウスエクスに見られないよう、ちゃんと銅像の死角に回り込んだうえでの行動だ。
「ここにいると危ない。直ちに離れて!」
一分一秒を惜しんだ涼子は、着地するなり避難誘導を始めた。
しっかりと抱き合う夫婦を横目に、ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)はスクランブル交差点の南にある地下鉄の入口へ急いでいだ。
驚くべきことに、誰一人として地下鉄の階段を上がってこない。どうやらセルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)が駅に連絡を入れて出入り口を閉鎖したらしい。地下鉄入り口の周りにいるのはすべて、爆発音を聞いてやってきたやじうまばかりだ。
やじうまたちは誰もが腕を高く上げてスマホのカメラで事故現場を移しているが、自制心が利いているのか交差点を渡って現場へ近づこうとするものはいなかった。もっとも、そのせいで地下鉄入り口付近が大混雑を起こし、こうして移動に苦労しているのだが。
ユーリエルはやじうまたちを押しのけて、花輪を首にかけたトリの銅像へ向かった。たどり着くとまず一息ついてハンカチで汗をぬぐった。雑居ビルの二階を見上げる。
(『……大丈夫ですね。誰もこちらを見ていないようです』)
それでも用心して、敵に気取られないよう最小限の動きでマインドリングを飛ばし、蜜蜂型の起爆装置だけを壊した。
『一先ずはこれでよし、ですね』
トリの銅像の首に残ったこった花輪――爆弾はそのままにして、交差点を回り込みながら西の銅像へ向かった。
同刻、北からまっすぐ西へスクランブル交差点を渡ったラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)は宝槍の先をイヌの銅像の首へ向けていた。
「万が一もあり得ます。危険ですから直ちにここから離れてください。――あ、わたし、こう見えてもケルベロスです……え? あ、本当ですってば!」
隣人力も良し悪しか。ラリーの幼い外見と相まって、いまひとつサラリーマンたちに危機感を抱かせることができないようだった。すぐそばに建つ銅像にも爆弾が仕掛けられているとは思ってもいないらしい。
だが、いまそれを説明してパニックを起こしては大変だ。
(「あ~、う~、どうしましょう。しかし、もたもたとしていると危険ですね」)
しかたない。避難誘導は後回しだ。
ラリーは宝槍をぐいっと突き出して、花輪にとまる蜜蜂型の起爆装置を突き壊した。そこへユーリエルが駆けつけて来た。
『これで爆弾は何とかなりましたね。後は元凶を倒すだけです』
紅蓮のアルハザードはスクランブル交差点を見下ろす窓際の席に座ってチーズバーガーを頬張りながら、北に続いて東西の銅像が爆発するのを待った。が、なにも起こらない。
周りのやじうまたちと同じように構えていたスマートフォンを置いて、トントン、と指で机をたたいた。
もう一度スイッチを押す。
やはり何も起こらない。そんな馬鹿な。起爆装置に何か問題が起きたのか。
ここからではよく見えないが、どうやら北の爆発地点で制服警官と数名の有志市民が避難誘導をしているようだ。現場から少しずつ人が流れ始めている。大規模殺戮を計画していたのに、これではただの爆破テロだ。こんなことならこの店にも爆弾を仕掛けておけばよかった。
アルハザードは残りを一口で食べきってしまうと、包装紙をくしゃくしゃに丸め、トレーをもって席を立った。
ひどい煙が一段落するとフィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)は、優雅に手つきでドレスの前についたコンクリートの破片をつまみ取り、落とした。
相棒の『スームカ』は依然としてピンクのバックのフリをしたままだ。一般市民を庇ってまともに爆発の衝撃を受け止めたので、『スームカ』にもそれなりにダメージが入っているはずなのだが……さては寝ているな?
フィアールカは頼もしい相棒に苦笑を禁じ得なかった。
「大丈夫か?」
これから地域の盆踊りにでも繰り出しそうな着流し姿で朧・遊鬼(火車・e36891)が横から声をかけて来た。相棒の『ルーナ』も愛らしい浴衣姿だ。
遊鬼たちも自らの体を盾として、少しでも一般人に爆風が直撃しないよう、爆発直前に銅像の前に割り込んでいた。が、こちらは『ルーナ』のバリアのおかげでほとんど無傷だ。
「……私たちなら大丈夫よ。この程度、なんでもないわ。ドレスの裾が破れてしまったけど、動きやすくなって好都合なぐらい」
さあ、早く怪我をして動けなくなっている人たちを避難させましょう、と平然とした顔でフィアールカはいう。
遊鬼は一も二もなく頷いた。
「しかし、交差点の連続爆破か。計画がしっかりと練られておるだろうな……」
「練られていた、よ。ヘリオライダーに予知された時点で計画はおじゃん。残念ながらここでヤツの命運は尽きる」
「ああ。だが、リューディガーの宿敵故、気を引き締めて行動せねばな」
小さな女の子に覆いかぶさって爆風から庇っていたルルド・コルホル(廃教会に咲くイフェイオン・e20511)が、立ちあがるなり遊鬼を呼んだ。
「この子のお母さんが足をくじいて立てない。避難に手を貸してくれ」
ルルドは膝を屈めて女の子に微笑みかけると、傍に落ちていたバッグを持たせた。
「お母さんのカバン、持てるな?」
女の子がコクリとうなずくと、えらいぞと言って頭を撫でてやった。母親の腕を取って自分の肩に回し、体を起こす。
「すまない。この子を頼む。手を握って連れてきてくれ」
とりあえず親子を救急車まで連れていくことにした。
二人で帳の元へ戻る途中、大声で避難を呼びかけている四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)と目が合った。腕を上げて労をねぎらう。
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)が現場に張ったキープアウトテープを持ち上げ、潜り抜けた。
セルベリアの姿がどこにも見当たらないが、南側で避難誘導を行っているのだろうか。視界の端を、キープアウトテープを張り終えたエリオットが千里とともに東へ走っていく。帳を見つけて声をかけた。
「局長! 二次避難とやじうまたちの抑えは後方支援の三人に任せよう」
ルルドは交差点の南に建つ雑居ビルを睨んだ。
「しかし、やってくれるぜ。白昼堂々とテロ行為を働くとはな。元とは言え警官として見過ごすわけにはいかねぇよ」
●
やつだ。間違いない、奴がすぐそこにいる!
リューディガーは交差点を渡り切ったところで妻から事情を聴いた。北にあった銅像を爆破したのは、数年前に大勢の市民と親友の命を奪ったデウスエクスだと分ったときはショックだったが、自分でもまだ落ち着いていると思っていた。
だが、ハンバーガーショップの二階の窓に奴の顔を見つけたとたん、あっさり自制心が吹き飛んだ。
「いけない!! ルーディ、落ち着いて」
チェレスタが怒気とともに突進しかけたリューディガーの厚い胸に両手を置き、踏み止まらせてくれた。
「あなたがケルベロスになった原因……アルハザードの件は私も知っています。私たちは夫婦です。共に寄り添い、喜びも嘆きも痛みも全て分かち合う。その覚悟で今日まできたのですから……でも、私は……あなたに私怨でケルベロスの力を使わせたくない!」
胸に伝わる妻の手の温もりを感じているうちに、徐々に荒くなっていた呼吸が落ち着いてきた。もし、ここに彼女がいてくれなかったら、きっと周りにいる人々を戦闘に巻き込んでいただろう。
「ありがとう、助かったよ。もう大丈夫だ。君に約束しよう……ケルベロスとして任務を遂行すると」
私怨を晴らすためだけにこの力は振るわない。君と、君が愛するこの世界を守るために俺は戦う。
避難誘導に当たっていた仲間たちが次々とハンバーガーショップの下に集まって来た。ケルベロスたちは周りのやじうまたちにそれとなく解散を求めると、今度は自分たちがやじうまのフリをしながら出入り口を監視し始めた。
後方支援の三人が、なるべく目立たないよう想定される戦闘エリアから人々を遠ざけようとして苦心していた。
「ルーディ、私も……避難誘導を手伝いに行きます」
くれぐれも無茶なことはしないでくださいね、といって妻は離れて行った。
ハンバーガーショップの自動ドアが開き、紅蓮のアルハザードが出てきた。
気取られぬようにすれ違ってから、帳は溜息をついた。
(「どこか人いない場所に誘い込んでと思っていましたが……こうなったら仕方がないですね」)
思っていたよりもアルハザードの動きが早い。ただ、やつが自ら進んでハンバーガーショップを離れ、人のいない交差点に向かって歩いていくのは幸いだった。
さりげなく涼子とフィアールカ、ラリーがデウスエクスの後ろに回り込んで退路を断つ。帳とルルドが左側面に、ユーリエルと遊鬼が右側面に展開し、ゆるいながらデウスエクス包囲網が完成した。
やじうまたちは包囲網からかなり遠ざかっている。戦闘の巻き添えになることはないだろう。
内も外もしんと静まった環の中を、アルハザードが平然とリューディガーへ向かって歩いていく。
一歩、また一歩。銀狼の耳に届くボタンを押し込む音が次第に大きくなる。
アルハザードはリューディガーの手前で立ち止まると、起爆装置を握り込んだ腕を上げて見せた。
カチ、と乾いた音が響いた。
やはり爆発は起きない。
「……さっきまでお前と一緒にいた女、あれもケルベロスか?」
「だったらどうする?」
アルハザードの唇がめくれ上がり、歯がむき出しになった。手のひらを開き、起爆装置を落とす。
「死ね」
起爆装置がコンクリートを叩いた瞬間、勢いよく煙が噴き出した。煙の向こうから踏み込んできた足が起爆装置を砕く。気圧で前方の空気を螺旋回転させる手のひらが、胸の中心に向けて突き出され――。
「『目標捕捉……動くな!』」
アルハザードの額に鋭くとがった剣先が刺さっていた。螺旋掌は胸に触れる寸前でとまっている。
「貴様のことは1日たりとも忘れたことはなかった。俺の同僚の命を奪い、人々を恐怖に陥れた爆弾魔。憎むべきテロリスト」
「おや、どこかで会っていたか? 正直悪いが、覚えが……ありすぎて思い出せねぇな!」
二人同時に後ろへ飛んで離れた。
螺旋を描いて飛ぶ気弾がリューディガーの脇をかすめて飛び去る。
星座の重力を宿した斬撃が分身ごとデウスエクスを切り裂いた。
「あの時俺は、死んでいてもおかしくない重傷を負って……そして再び甦った。 貴様のような逆賊を地獄の底まで追い詰める『地獄の番犬』としてな!」
「そーかい。そりゃ、大変だったな。グラビティ・チェインの回収を邪魔し腐った礼に今度こそ消し飛ばしてやる、この死にそこないの犬が!」
涼子が加勢にきた。
「旧交を温めあっているところ悪いけど、割り込ませてもらうよ。『かわせるかな? 地摺り焔鮫!』」
涼子が足を振り抜くと、炎の鮫が現れ、アスファルトの上を走った。
着地の瞬間を狙って炎の鮫がアルハザードの足首に食らいつく。何本もの炎の歯に足の肉と骨を噛み砕かれ、食いちぎられる痛みでデウスエクスの体がふらついた。
「ルーディ殿、私が敵の動きを止めます。その隙に攻撃を!」
帳が崩れて落ちる腰を狙って引き金を引く。捕鳥部万の銃口から炎弾が撃ちだされる。弾はデウスエクスの腰に命中し、炎を広げた。
局長に続けと、援護の攻撃がアルハザードに向けて飛ぶ。
「炎使いに炎で攻撃、だ? 洒落たつもりか、くそ犬ども!」
倒れながらも鋭く振り抜かれた刀から火炎があふれ出て風とともに走った。あたりの空気を飲みこみ削りながら、火炎流が鋭い刃となってケルベケスに迫る。
フィアールカとラリーが刃の前に進み出て、仲間達から炎を防ぐ壁となった。
体の前を焼いた炎が消え去ると、フィアールカは電光石火の蹴りをデウスエクスへ放った。
「スームカ! あいつに武装具現化をぶつけて! 避けられるようなら他のでもいいよ!」
ぱかっと開けた『スームカ』の口から、巨大なコンパクトが飛び出した。
――хи、хи、хи(くすくすくす)。
敵の顔の前でフタを開いてパフに石化の粉をたっぷりとつけ、避ける暇を与えず爆発魔の顔に叩きつける。
その間にラリーはヒールドローンに命じて仲間たちの防御力を上げさせた。
「ヴァルトラウテさんのご友人の仇、逃がしたりなんてしません! 一気に畳みかけましょう」
呼びかけに答え、ユーリエルが戦闘回路を解放し最大奥義を発動させる。
『『ヴァンガードレイン回路』起動……。『L・スタンピード』……発動します』
髪が一房、ライトイエローへと変わると同時に、大気を轟かせて高電圧のトナカイが出現した。
ユーリエルは伸ばした腕の先で怒りに歪む男の顔を指し示した。
『あなたを逃がすわけにはいきません。これ以上の悲劇を防ぐためにも……行け!』
トナカイの突進を腹に食らったアルハザードは、分身してダメージの軽減を図った。――と、分身がそれぞれ別の方向に走りだす。
「逃がすかよ!」
――ナノナノ!
遊鬼と『ルーナ』は息を合わせ、同時に別方向へ逃げていく敵の分身を攻撃した。
牙をむく竜の頭が西へ向かった分身を、巨大なハートが回転しながら東へ走る分身を捉えて突き倒す。
たちまち分身が消える。次の瞬間、本体が元の場所に倒れていた。
「ちっ、ただの見せけか……おおっと、動くなよ」
立ち上がろうとしたアルハザードに、ルルドがブラックスライムを変形させて縄を打つ。
「大人しくケルベロスの裁きを待ちな」
ルルドに、さあ、と促され、リューディガーがゆっくりと後ろ手に縛られたアルハザードの前へ進み出る。
「おめおめと逃げ遂せられると思うな。人々の安寧を奪う外道に、最早安住の地など無いと知れ」
しばらくにらみ合いが続いた。
ふいに、アルハザードか笑う。
「はっ! 知ったらなんだっていうんだ、え?」
「……地獄へ落ちろ!」
リューディガーはデウスの怒りを包括した槍を振るいあげると、穢れた炎で死を弄んできたデウスエクスを突き、跡形もなく吹き飛ばした。
●
胸に手をやって玻璃の護りに触れた。
紅蓮のアルハザードがいた場所にうがれた穴をじっと見下ろす。
(「終わった……だが、本当に俺は友の仇を討つことができたのか……」)
視界に、穴を囲う仲間たちの靴の先が入ってきた。
肩にそっと指が置かれて、ぴくりと体を震わせる。
「ルーディ、やったわね。でも――」
「ああ、これが終わりじゃない。デウスエクスを倒しきるその日まで……俺の戦いは続くんだな」
「私たちの、でしょ?」
顔をあげる。
そこには頼もしい仲間たちの笑顔があった。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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