星に踊るメロディ

作者:崎田航輝

 夜の丘が、きらめく星に照らされていた。
 なだらかな傾斜で揺れる草は星明りでぼうとした藍色に染まる。丸みを帯びた丘の天辺は空との距離が近く、流れ星にも手が届きそうで、今日のような澄んだ夜は満天の星が眩しいくらいだった。
 綺麗に描かれた絵のような世界。けれど自然のもの以外に、動く存在がある。
 丘をよじよじと登るそれは、小型のダモクレス。コギトエルゴスムに機械の脚の付いたそれは、一角に打ち捨てられたものを見つけていた。
 美しい装飾の施された、オルゴール。
 電動モーター式のそれは星と魔法の世界を描いた作品で、壊れたふたから見える内部には、きらびやかな世界に立つ人形が配置されている。
 ローブを纏った星の魔法使い。動かせばきっと円盤が回転して、綺麗なメロディと共に踊りだすものだったのだろう。
 けれど壊れたそれは動かない──ダモクレスと一体化するまでは。
 きらきらとしたメロディが響いた。
 ダモクレスに同化されて機械の命を得たそれは、動力もスイッチもゼンマイもなく動き出す。瞬く光を振りまいて、杖を持つのは星の魔法使いだ。
 金属光沢か星の光か。ぴかぴかと体をつやめかせて、ローブを揺らして魔法使いは歌う。
 幻想の世界を魅せるように、星に舞うように。
 綺麗な星の夜は、光とメロディで一層きらびやかに彩られていた。

「星の魔法使いさん、でございますか。可愛らしい見た目をしておられるのでしょうね」
 夜に動き出す音人形。
 ころころとした音色と一緒に、杖から星を振りまいて。
 丘に現れるというその敵の話に、ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は空を見つめていた。
「星の下だと一層輝きそうで。だからこそ、ダモクレスでなければ良かったのですが」
「そうですね。けれどデウスエクスとなってしまったからには……綺麗なメロディも、輝く光も、人を殺す道具になってしまうのでしょう」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)も、ほんの少し物憂げに応えた。
「それでもここで倒すことで、被害を出さず終わらせることは出来るはずです。ダモクレスとなったオルゴールを、殺人の凶器にさせることなく倒してあげてください」
「もちろんですっ。しっかりと戦って参りましょう!」
 ラグナシセロは星色の髪と翼を夜空に映えさせて、ぐっと自分の拳を握ってみせた。
 きらりと光る翠玉の瞳に、イマジネイターも頷く。
「現場は丘です。なだらかで自然の草に覆われた、綺麗な丘みたいですね」
 イマジネイターは資料データを投影しながら語った。
 遠くから見ると丸いシルエットを持つ丘は、夜にはまるで絵本の背景のようらしい。
「人はいませんので、避難誘導などは必要ありません。星がよく見える場所なので、灯りなどは無くても戦闘には充分でしょう」
 敵は光と音を零しているので見つけるのは難しくないはずだ。
 そのダモクレスはオルゴールから変容した、魔法使いの帽子とローブを纏った人形だ。精緻な細工のままに、人間より少し小さいくらいの大きさになっている。
「飛行と呼べるほどの能力はありませんが、ふわりと飛んだり、星の光をまいたりするようですね」
 オルゴールとは一体化していて、綺麗なメロディが鳴っているようだ。ラグナシセロはすこしぱちくりした。
「本当に魔法使いみたいなんですね」
「メロディと一緒に自分の世界を見せてあげられることを喜んでいるみたい──なんていうのは、こっちの勝手な感覚なのでしょうけど」
 倒すまでの短い時間だけ、それを間近で見てあげればいい。
「敵に心はないですけれど。全力でそうしてあげたら、きっと元のオルゴールも浮かばれるんじゃないかと思います」
 だから星の夜の戦いを。
 ラグナシセロもこくりと頷いた。
「はい、行きましょう──星降る丘に!」


参加者
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エゴイスト・e01772)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
アイン・シュヴァイニッツ(ウェアライダーのガンスリンガー・e02920)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)
鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)

■リプレイ

●星の邂逅
 瑠璃と紺を混ぜた深い空に、光が瞬いていた。
 眩しさの筆でぱっと刷いたように、疎らに、または密に星が輝く。
 バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)は目元の地獄にもそんな光を映しながら、宵空を仰いでいた。
「─ム。まさに……wish on a star。星に願いを……掛けたくなる光景だな」
「星は船の上でよく見ていたが、場所や季節によって見えるものは違うからな……何度見ても見飽きるということはないな」
 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は海尉であった頃を想起し呟く。
 星は変わらず美しく。そしていつも新しい。
 しかし、その視線を下ろした。
「こんな星空にオルゴールという組み合わせなら、もう少し風情があっていいものだが……始まるのは戦い、か」
 そこに優しい金属音が響いてきていた。
 丘を飛んでくるのは、光を零して踊る人型。楽しげにローブを揺らす1体の人形だった。
 ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は翠玉の瞳を柔らかく細める。
「星の魔法使いさん、とても素敵でいらっしゃいますね」
「ええ。あのように可憐なオルゴールなら、我が愛しの姫も喜んだでしょうに」
 アレクセイ・ディルクルム(狂愛エゴイスト・e01772)は夜闇色の髪をそよがせて、ひとりの人を心にいだく。
 自らが狂愛する、愛しき薔薇の姫。己が行動原理たる最愛の女性。ふと、その華やいだ笑顔まで想像して。
「──なればこそ、壊さねばならないのは残念ですね……」
「ああ。音色に細工。本来の形であれば、捨てるには惜しい代物なのだろうな」
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)は目元を隠す面相の下でも、それが美しい品なのだと分かる。それほどきらびやかで、魔法使い自身がそれを誇るようだった。
 だが縁は迷わず武器を握る。刃のない鞘である斬機神刀『牙龍天誓』。
「それでも、ダモクレスとなった以上は闘うしかない」
「─ム。ダモクレスという闇を抱いてしまった星の曇りは──オレたちが晴らそう」
 バーヴェンは俺らしくないことを言ってしまったな、と呟きながらも、戦意を確かに携えて。刀の刃紋を星明かりに煌めかす。
 アイン・シュヴァイニッツ(ウェアライダーのガンスリンガー・e02920)も立ち位置を整えて、真っ直ぐに視線を注いでいた。
「さぁ、始めるか。……向こうも、やる気みたいだしな」
 その目線の先。星の魔法使いが丁度戦いの間合いへ、銀盤を滑るように浮遊してきた。
 縁は受けて立つとばかり、牙龍天誓を地に打ち付ける。生まれる衝撃は『龍咬地雲』。たわんだ風を竜に形作り、人形の足を絡め取っていた。
 そんな間もころころとメロディが鳴る。
「オルゴールをBGMに星空の下で、なんて。戦場にしては珍しくロマンチックよね」
 稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)は戦闘態勢を取りつつも、思わず零していた。
 そんな晴香自身も、愛用のリングコスチュームに抑えめのラメを含んで目を惹く姿。平素より、どこか優美な風合いもあった。
「とはいえ、情けは無用だからね──お盆の夜空にしめやかに送り出してあげる」
 言って手に取るのは“Chain Death Match!!”。名の如く、始まる戦いを予期させる鎖。それを奔らせると華麗に魔法陣を描き、仲間を守護していく。
 ラグナシセロもまた、両手に光の粒を零す金色の果実を握っている。
「皆様に、星の加護を」
 ふっ、と優しく吹くと、果実は光へ。星色の粒子に解けて味方を纏っていった。
 そこに虹色を織り交ぜるのは晟。星雲のように鮮やかな光を撒くことで、仲間の魂と力を鼓舞していく。
 魔法使いはそんな光景を喜ぶように、星屑を放ってきた。
 けれどそれは完全にこちらを捕らえない。
「美しくて、鋭い星屑──ですが、心配ありません」
 鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)が声と共に電撃杖flores:cruxを構えて、光の壁を作り上げていたからだ。
 それは眩い雷を治癒の力で溶いた、淡い輝きのヴェール。
 見目に美しく、星屑の一つ一つを打ち消してきらきらと散らせる。煌く光の防護は確かに、仲間に傷を残さなかった。
 バーヴェンは反撃に翼で翔け、炎の斬撃を加える。それでもぽろんぽろんと愉快に踊る魔法使いに、アインは感情の薄い表情を向けていた。
「楽しそうだな。互いに楽しめるんならまぁ、最高だが」
 その声音もどこか、平坦なもの。けれどアインの心は言葉通りで、戦いを楽しめるならそれこそが何よりの事だ。
 瞬間、獣化した拳で一撃。跳躍して殴り下ろし魔法使いを下方へ煽っていく。
「まだ落ちねえか」
「──では、私が」
 地面すれすれで浮いて光の曲線を描く魔法使い。アレクセイはその姿を目にしながら、麗しい表情に親近感を浮かべていた。
 元よりアレクセイは、星詠みの一族の生き残りにして星の魔術師。
「ならばこそ、我が星をもって貴方を送りましょうか」
 星空を宿した角と翼を煌めかせ、ふわりと跳んで線引くのはきらりと光る軌跡。
「星の瞬きは永遠にして一瞬。今宵、その全ては貴方を送る彼岸に添える煌めき──」
 ──さぁ、踊れ。
 美しい流線が螺旋を描く。
 宙を踊るように相手をあしらいながら、アレクセイは光の蹴撃を打っていた。弾ける輝きに見送られ、魔法使いは地面へ落ちていく。

●星に踊る
 剣戟が止まる間も、旋律は響いていた。
 草むらに転がった魔法使いは、体にはまだ破損もなく。つやのある体で、元々の人形に傷がなかったことをも想像させる。
「きっと大事にされていたオルゴールだったのでしょうね」
 どうして丘にやってきたのかは分からないけれど。ラグナシセロはそんな気がした。
 ──だから最期まで、望み通りに。
「可愛らしい魔法使いさん……一緒に踊りましょう。そしてどうか貴方の世界を存分に」
 星色の翼を輝かせたラグナシセロは、誘うように空を舞う。
 魔法使いは応じるように浮かぶと、くるりと回って踊った。
 光が光を追う、星の舞踏。
 輝く星の魔法使いとの共演に、ラグナシセロは心が踊った。そうしてそっと触れるように、綺羅星の曲線を奔らせて蹴りを打つ。
 高度の落ちた魔法使いに、バーヴェンは上方から迫った。
 刃には煌々と滾る獄炎。刹那、放つのは『日龍陽光斬』。太陽のように輝く唐竹割りで、魔法使いの背に一閃に傷を刻んでいく。
「─ム。上に距離を取るようだ」
「星を降らせるつもりでしょう。ならばこちらも、星辰の力で迎えましょう」
 高く浮いた魔法使いを、アレクセイは柔い微笑みで見上げていた。
 星映すその瞳は、蠱惑の満月。
 その魔性には星光すら惹きつけられる。アレクセイが艶めく唇に指をあてて、そっと離すと、生まれたのは流れ星。空から降った光線が魔法使いを捕らえて、地面に連れ戻した。
 魔法使いはそれならばと、淡い幻想を生み出す。
 それは夢に誘う攻撃。けれどその中でも、晴香は惑わず低めの体勢を保っていた。
「まだまだ、よ。寧ろいつもの派手な電飾と違って、こんなロマンチックなリングも悪くないくらいだわ」
 煌びやかなリングに立ち慣れたプロレス界のアイドルスターは、星空でも幻の中でも映える。
 光が弾けて衝撃を生んでも、晴香は真正面から受け止めた。勢い後ろに転がるが、そこまで魅せてこそプロレスラーの矜持。
 晴香を含む前衛の傷には、即座に雨が降る。
「心配は不要です。皆さんの痛みはすぐに浄化してみせます」
 と、エミリが癒やしの力を昇らせ、治癒の雨滴を生んでいたのだ。
 ぱらぱらと注ぐ雫は光を受けて煌く。まるで星のシャワー。雨粒は幻想を消滅させ、皆の傷をも光の中に消していった。
「完治までは、あと少しでしょうか」
「ならばラグナル、行ってやれ」
 晟の声に飛び立つのはボクスドラゴンのラグナル。翡翠色の光を注ぐことで攻撃役を癒やし、皆を万全とした。
「さぁ──行くわよ」
 同時、晴香は反撃態勢。振るった鎖で魔法使いの腕を絡める。
 魔法使いはもがくが、夜空には掴むべきものはなかった。晴香はそのまま引き寄せると、細くしなやかな脚をすらりと伸ばしてハイキック。再び魔法使いを地に落とす。
 そこへ駆けるのは1匹の影。縁のオルトロスのアマツだ。
 寡黙な相棒は縁と視線を躱すだけでその意を汲み、高速で疾駆。魔法使いに通り過ぎざまに斬撃を見舞う。
 再度飛ぼうとする魔法使いだが、そこには晟が空から行く手を阻んでいた。
「行かせはしないぞ」
 長大な戟へ雷光を宿すと、そのまま連続の刺突を繰り出す。
 衝撃で星屑が散れば、さらに眩い雷で突く。演舞のようでありながら、同時に膂力は凄まじく。敵の腕部にひびを生んだ。
「連撃だ。間を開けず行けるか」
「問題ない。やらせてもらおう」
 応えた縁は拳に霊力の灯りを煌々と灯す。飛んできた魔法使いを正確に迎え撃つように、跳んで打突を放ち、下方へ転がせた。
「今だ。やってやれ」
「ああ」
 アインは軽く言って魔法使いを見下ろす。
 魔法使いは起き上がろうとする時にも音色を止めず、曲で周りを彩っていた。ほんの少しでも見てほしい、聴いてほしいというように。
「その音楽を聞いて、その世界を見る内の一人が俺みたいなので良いのかね」
 ふと、そんな思いがアインにももたげる。
 けれどそれで手を止めることは無かった。
「まぁ、他の奴が聞いて、見て、覚えてんだろ」
 だから自分は戦うだけだ、と。星屑の輝きも殴り飛ばして、金属と樹脂の体に強烈な一撃を叩き込んでいく。

●星夜
 少し風が冷たくなって、少し光が弱まる。
 きしきしと体を軋ませながら、魔法使いの動きはぎこちなかった。それでも奏でられる音は澄んでいて、ラグナシセロは目を閉じる。
「本当に美しく、心惹かれます。だからこそ誰も傷つけて欲しくはないんです」
 ──だから、この音色をしかと心に焼き付けて。
「此処で僕たちが、眠らせてあげましょう」
 魔法使いは退くでも無く、ゆっくりと舞い始める。それが言葉に対する答えに思えて、エミリも杖をぎゅっと握った。
「それが貴方の望みであるのなら。最後の煌めき、私たちで見届けましょう」
「……征くぞ」
 頷いたバーヴェンは、刀を中段に構えて、低空を翔けて肉迫していく。
 魔法使いは丸い光の魔法を放ってきた、が、バーヴェンはそれを一刀に切り伏せると返す刀で連閃。無数の傷を刻む。
 晟はそこへ、戟の穂先に蒼炎を纏わせて迫っていた。
「弱っているだろうが──こちらも加減はできん。全力でやらせてもらうぞ」
 繰り出す一突きは『回禄寸龍』。彗星の如き神速の一撃で、魔法使いを眩しい炎で包んでいく。
「まだ倒れない、か。それでも長くはあるまい」
「一気に攻め込む時だな」
 手を真っ直ぐに突き出す縁は、手元から爆縮したグラビティを放つ。拡散したそれは、星が弾けるような白光を伴って魔法使いの足元を破砕した。
 魔法使いはそれでも、残った光を杖に集めて後方に放ってくる。けれどラグナシセロは『フレイの平穏』を祈り、涼風に星々の瞬きを乗せて仲間を癒やした。
 無傷となれば、エミリは魔法使いへ『灼雷』。星灯りを宿した指先で触れて、機構を内側から停止させていく。
 動きの鈍る人形へ、アインは銃口を突きつけた。未だ静かに流れる音を聴きながら。
「音楽には興味ねぇけど、まぁ悪くなかったんじゃないか。だから──手向けってことで受け取っておけ」
 ヘッドショットはその頭を穿ち、帽子を宙へ飛ばす。
 アレクセイは瞳を閉じた。
「死すれば星になるといいます。貴方の星の煌めきを忘れずに、奏でたその歌とともに空へ送りましょう。本当の星に、おなりなさい」
 そして星魔法を唄う。艷やかで、そして鮮やかな声で紡ぐのは『十二の星裁』だ。
「──星に抱かれたフィナーレを」
 宙に浮かんだ星々の羅針盤は、黄道廻る12の星座。星光の刃と変じたそれは魔法使いへ降り注ぎ、体を貫いていく。
 晴香は壊れゆく人形を、後方から抱えた。
「これでフィニッシュよ。ゴングも何もないけれど、あなたと音色が教えてくれる」
 大きく反り上げて放ったのは、『必殺!正調式バックドロップ』。大きな衝撃で地に打ち付けられた魔法使いは、光と共に破片を散らし、その旋律を止めていた。

 魔法使いの残骸は、光の欠片になって空に消えていく。
 ラグナシセロはそれを見上げた。
「大丈夫です、ちゃんと貴方のこと、覚えています」
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」
 バーヴェンは静かに目を閉じる。
 その内に、光の残滓も無くなっていった。
 静けさが戻ると、バーヴェンは周囲の修復を始めようとする。
「美しい場所に無粋な荒れ地は似合わぬ、が……修復に役に立つグラビティは、ない……」
「被害はほぼありませんから。これで大丈夫でしょう」
 真面目な困り顔のバーヴェンに、アレクセイは軽く言って周りをヒールした。
 その間も、アレクセイは星空を眺める。
(「……昔は星の光も嫌いだったのだけど」)
 ふとした想いに、思い浮かべるのは愛しい姫の姿。
 ──貴女も同じ空を眺めているだろうか。
 思えば何より、その人に逢いたくなっていた。
 景観が戻ると、晴香は飲み物の入ったクーラーボックスを開けている。
「こんな事もあろうかと用意してきたわ。せっかくの夏の夜空。満天の星を眺めて、一休みしてから帰りましょ」
「ふむ、良いな」
 と、縁も頷いて暫し休むことにした。
 草が厚くなっているところを見つけると、横になって星を見上げる。アマツはその側で伏せて空を見ていた。
「お前も空が綺麗とか、そういう感性を持っているのか?」
 するとアマツはちらと縁に向く。それから『お前よりは持ち合わせているつもりだ』とでも言うように、鼻を鳴らして返事したのだった。
「まぁ、何にせよ星座も良く見える夜だな」
「──ああ。特別空気が澄んでいるようだ」
 と、少し離れたところから声。晟もまた寝転がりながら星空を鑑賞していたのだ。
 海も丘も、今も昔も。星穹は心を惹きつけると、晟は感じた。
 アインも1人、離れたところで藍空を眺めている。
「俺が見るよりもあいつが見た方が意味がありそうだな」
 表情はやはり変わらない。心が動かないのは本当につまんねーな──と。呟く声も色薄く、夜風に流されていった。
 静かな空を、ラグナシセロは見つめる。
 耳に残る音色を鼻歌で思い返していた。
「なんていう曲だったんだろう……綺麗な音楽だったな」
 キラキラ輝く星達と、今はもういない魔法使いを思って。心は暫し空に昇っていた。
 歩み出したエミリも、不意に仰いだ星空に一瞬、目を奪われる。
「デウスエクスと戦ったとは思えないくらい、綺麗な夜……」
 それは心から零れた言葉だった。
 ──いつもこんな風なら良いのだけれど。
 きっと、曇ってしまう時もある。それでも今宵の星だけは美しくて、エミリはしばらくそれを眺めていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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