救命のレゾンデートル

作者:長谷部兼光

●心其処にあらず
 夏の夕刻。とある廃病院。
 よからぬ輩が屯していたのだろう。罅割れた床はゴミに塗れ、朽ちた壁は仕様も無い落書きで汚されていた。
 そんな廃病院の待合室に、大きな姿見が鎮座している。
 アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)がここに足を踏み入れた理由は、廃墟の奥より落陽を反射するその鏡の存在がどうにも気になったからだ。
「これは……」
 異物だ。人の世のモノではない。そう察知した刹那、不意に鏡が映し出したのは……在りし日の養母の像。
 思わず振り向けば、そこには亡くしたはずの養母が居た。
「この廃墟。人を救い続けてきた病院の果てとしては哀れよね」
 養母は語る。
「手を伸ばし、誰かをデウスエクスや病から救っても、その誰かは人災で別の人間(ひと)に殺されるかもしれない。天災があっけなくその人の命を奪う事だってあり得るでしょう。そうじゃなくても、人は精々百年程度しか生きられない」
 ――いいや。違う。これは母の形を模した、全く別の何かだ。
「命を守り、命を救い、命を繋ぐこと……本当に意味があるのかしら? デウスエクスの糧となって消えた人々の生に、意味はあったのかしら?」
 何故。なぜ。どうして。矢継ぎ早にそう問いを投げ掛けてくるその外見は間違いなく養母(おとな)の物。しかしそれを見たアイラノレが不思議と想起するのは……誰かに答えをせがむ稚い童の姿だ。
 アイラノレは構える。何れにせよ、問答だけで終わるまい。
「この『姿』をしていた人。魅力的だと思ったけれど、私の欠けた存在意義を満たしてくれることは無かった。あなたは……どうかしら?」

 病が、満ちる。

●他が為に
 アイラノレが襲撃される予知を見た。
 ヘリポートに集ったケルベロス達に、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は慌ただしい様子でそう告げた。
「いくら試みても通信は繋がらない。こうなれば現地へ直接乗り込んで、物理的に敵を退けるしかないだろう」
 戦場となるのはとある大きな廃病院、そのロビー周辺。建物内は戦闘を待たずして荒れに荒れている様子だが、それでもこちらの動きを遮るほどの障害物は存在しない。
 アイラノレを襲ったデウスエクスはエマノンと言う名のドリームイーター。病を生み人を衰弱させ、鏡で姿を映し活気に満ちていた頃の姿に変わる力を持つと言う。
「死神の様に屍人を利用するのではなく、原理としては変身に近い。故人の姿を模す宿敵(デウスエクス)、と言う訳だな」
 エマノンが従える鏡はそういう形状の『武器』と捉えるのが妥当だろう。彼女が健在の間は傷一つ付かないが、彼女を撃破すれば同時に砕ける筈だ。
 また、彼女はポジションに限らずチーム内の『回復役』をよく狙う傾向があるらしい。その上バッドステータスをばら撒いてくるスタイルだ。万一回復手段に窮すれば、そのまま押し切られてしまうかもしれないと王子は警告した。
「人を助けるのに理屈はいらない、そんな『理屈』を返したところで件のドリームイーターは納得しないのだろうが……しかし、揺るぎの無い事実であるのもまた確かだ。アイラノレの救援、任せたぞ」


参加者
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)
尾守・夜野(虚構に生きる・e02885)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
カグヤ・ローゼンクロイツ(強き炎の赤・e44924)

■リプレイ

●病巣
『炎症』などと誰が嘯いた。
 classyをエマノンに投げ当てた直後、ひとたびアイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)が咳き込めば、吐き出した血液はマグマの如き熱を帯びて腕(かいな)を伝い、焦がす。病と呼ぶには、それは余りにも苛烈過ぎた。
 だが。血へと落ちゆく赤は紛う事無く人のもの。
 そうだとも。自分をただの機械から、血の通う人間にしてくれた養母(ひと)が居た。母の病を治すため治癒魔法を紐解いた自分が居た。その血液(ルーツ)が隈なく全身を巡り、今の自分が存在する。
 苛烈程度の障害で、膝を折る理由が今更どこにあろう。
 バトルオーラを介添えに、エアシューズ・Sky Walkerで地を踏みしめて、脚部へ集めたオーラを反逆するようにそのまま蹴り出した。
「……お前が私を呼び寄せたのかというのも、お前が母を殺したのかというのも、まずはいい。病を操るなら私の敵だ」
 冷徹な表情の下に決意を秘めたアイラノレを見、それよと、夢喰いは歓喜する。
「病の淵に立たされて、それでも決して揺るがない存在意義。私はそれが欲しい」
 夢喰いはただ一度、軽く指を鳴らす。ただそれだけの動作で、不可視の病毒は侵略を開始する。
 ――刹那、けたたましい破砕音が病院内に響く。
 外壁の硝子を強引に砕き、戦場に乱入したカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)のボクスドラゴン・ボハテルが夢喰いに体当たると、カジミェシュ自身はアイラノレの前に立ち、彼女に迫る病毒を全て受け止めた。
「祖国の守護者よ、シュツェパヌフのスタニスワフよ! 暴君に仇名した英雄よ、我が輩に敵打ち破る力を与えたまえ!」
 カジミェシュが聖スタニスワフへと捧げた祈りは、アイラノレの痛みを沈め、彼女の携える武器達に破魔の力を与える。
「悪い、遅くなった。怪我はないか?」
「ええ。大丈夫です……けれどカミル、今度はあなたの顔色が良くありませんよ?」
「何、この程度、病の内にも入らない……相手が誰であれ、これ以上手出しはさせん」
 改めて、カジミェシュは盾を構える。不可視なれど、庇えたのであれば通常のグラビティと捌き方はそう変わるまい。
 そんな二人の遣り取りを見て、アイラノレの無事を確認した綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)がまずはほっと胸を撫で下ろす。
「遍く日影降り注ぎ、かくも美し御国を護らんが為、吾等が命を守り給え、吾等が力を寿ぎ給え」
 祝詞を唱え、自身の心の臓付近から湧き出るように顕れた光球が、大きく拡がってアイラノレを包み癒し、鼓太郎はエマノンと相対する。
「吾が身は生まれついての猟犬、外つ神を討つべくして生かされし者。癒し、戦う事こそ吾が務め。貴様の好む存在意義とやらは此処に在り。如何なる禍事罪穢れも祓い落とさん――掛かって来いや」
 カジミェシュがアイラノレを護るのならば、これ以上の心配を抱えるのは野暮と言うものだ。
 あとは、自分の『役目を果たす』事に傾注するのみ。
「禍事・罪・穢れなんて言い得て妙だねぇ。アイラノレさんのおかーさんの姿をして、その人がしないような事、言わないような事を見せつけて死者も思い出も愚弄するとか……はっはっ! ……ろしてほしいのかなぁ?」
 尾守・夜野(虚構に生きる・e02885)は点滴台・Cynthiaに寄りかかったまま、縛霊手の掌をゆっくりと開き、エマノンへ翳す。
「ボク自身、おとーさんいなくしちゃったしねぇ。自分にされたらと考えると……控えめにいっても腸煮えくり返るよね?」
 目の下に出来た大きな隈が疼く。今夜は、いいや、今夜もきっと……眠れない。
 万感の殺意を籠めて、夜野は殲滅砲を発射する。
 巨大光弾が病院内をみしりと軋ませ、剥離した塵と埃がロビーに降り注ぐ。この病院の来歴は知れないが、余程長い間野晒しにされていたのだろう。
「ローゼンクロイツ戦場訓! 一つ、勝利への最短距離を駆けよ!」
 ドリルを回すまでも無く、カグヤ・ローゼンクロイツ(強き炎の赤・e44924)がロビーの真上、二階の床に駆動したチェーンソー剣を突き立てれば、数秒足らずで大きな吹き抜けが出来上がった。
 アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)がカグヤに先んじて跳躍し、吹き抜けへ飛び込むと、重力も味方に、流星の蹴撃でエマノンを穿ち、彼女の足を奪う。
「そこまでであります、デウスエクス! これ以上アイラ殿に手を出させはしません!」
 塵芥を掻き分けて、間髪入れずにカグヤが狙うのは、アウラの付けた傷の痕。唸りを上げる鋸刃がジグザグにその痕を広げ、さらに足取りを鈍らせる。
「アイラノレおねえ、あたしも助けに来たのじゃ……が、むむ、何なのじゃ。このアイラノレおねえにそっくりの者は。本当に倒してしまってよいのかのう?」
 ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は数度瞼を瞬いて埃を払い、ちらとアイラノレの顔を見る。彼女は冷たい表情のまま、こくりと一度だけ頷いた。愛する養母には亡くなった時点でもう会えないと、既に完結しているのだろう。故に、どれだけ母の容を模そうと、アイラノレにとって、ケルベロスにとって、眼前の夢喰いは只の打倒すべき敵でしかないのだ。
「見た目に惑わされないとアイラノレさんご自身が仰るのでしたら、私も遠慮なくエマノンに引導を渡しましょう……」
 そう静かに呟いて、アウラは次撃の布石に、『符』を創り出す。
「うむ。最後までお付き合いするのみじゃ」
 地形に対しても、敵に対しても、加減する必要は無くなった。ウィゼは右腕にブラックスライムを巻き付けると、膂力に任せて殴りぬき、打撃の余波が地を伝う。
 揺らぐ硝子片が映すのは、揺らがぬ神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)のその姿。
「鳥はなぜ自分が空を飛ぶのか考えないし、花はなぜ自分が咲いて散るのか語ることはありません。それらの有様に意味を見出すのは人の心だけが為し得ること。人の心を持たないデウスエクスが命の意味を問うなど滑稽としか思えませんね」
 魔導書・アペルピシア神葬歌。そこに収められた禁忌の一篇を唱え、みやびはアイラノレをさらに癒し、強化する。
「貴方が見失った存在意義ごと、貴方を滅ぼして差し上げます」
 書を閉じ、みやびが見据えたその先、夕陽の中でエマノンは小さく首を横に振った。
「そうはいかないわ。何にも成れないまま……死にたくは無いもの」

●鏡
 癒し、病み、癒し、病み。潮の満ち引きの如く、その繰り返し。
 敵の攻撃は集中することなく四方に飛散し、治癒の数に不足無く、だが、互いの体力が無尽蔵でないのなら、いずれ終わりは見えてくるのだろう。
「成程。前に見せて貰った写真と瓜二つの姿だ。だが、『きっと、彼女はそんな事は言わない』のだろう。そうだな、アイラ」
 唯一の中衛であるボハテルへと攻撃が流れたその隙に、アイラノレと視線で意思を交わし、カジミェシュは数度目の組み付きを試みる。
「ならこの人は私が未来の義母として挨拶すべき方ではなく――排除すべき敵だ」
 組み付く全身に力を入れる。こちらへの『怒り』すら制すると言うのなら、何度でもやり直すのみだ。
「アイラノレのお母さんと同じ姿を攻撃するのに躊躇いがないと言えばウソになりますが……デウスエクスに容赦するわけにはいかないであります!」
 カグヤは銀色に光り輝くガジェットをドリルに変えると、高速度の回転を維持したまま狙いを澄まし、
「エンジン出力最大! ガジェッティア魂を見せてやるでありますよ!」
 カジミェシュの組み付きがエマノンの背後に及んだその瞬間、ドリルは虚空ごと全てを巻き込んで彼女を貫いた。
「人々の生を啜って生きてきたデウスエクスが、その人々の生を無価値と蔑むとは。まず彼らに感謝すべきが貴女でしょうに」
 アウラが全身より集めたオーラを指先に収束し、一番ダメージの嵩んでいる鼓太郎へと撃ち出す。
「無論、その感謝は独りよがりなものに違いありません。けれど……自身の価値を認めるかどうかというのも、独りよがりなものなのではないでしょうか?」
 ……そこは、それは独りよがりでもいいのではないかとアウラは考える。だが、このドリームイーターは……。
「ふむ。魅力的な人を探し回るその行動、独善ですら無いのじゃな」
 ウィゼは攻性植物より黄金の果実を実らせ、病に溶けた後衛の、あらゆる耐性を再び高める。
 欠落した存在意義と言う名の大きな孔。その孔を埋めるため、他者になりたいと願うこころ。例えるならその有り様は、開きっぱなしの傷口を、如何にか塞ごうとする……そう言う機能や現象に近しい。
 容姿の美醜ではなく精神の強弱に惹かれるが、しかし存在意義(レゾンデードル)を失っているため他者のそれも解せない。結果、模れるのは容姿だけ。
 哀れではあるのだろう。だが、放置するわけにはいかない。
 満天星を爪弾いて、みやびは前衛へ紅瞳覚醒を届け、奮起を促す。
 しかし大きな姿見が、演奏を阻止しようと独りでに、その鏡面にみやびの心的外傷を映し出そうと動き出す。
 が、
「! 夜野さん……!」
「良いから、そのまま歌いなよ」
 みやびを鏡から退かせ、夜野は心的外傷(トラウマ)を引き受ける。どうせどちらかがかかるなら、こちらの方が良い。
 鏡が語るは、青い花の記憶。竜の放ったそれが夜野を苛んで、
「あら? あなたは『どうしてまだ』『生きてるの』?」
 青い花が、否、エマノンが問う。
 ああ。血が。血が。腕に。
「おとー……!」
「いけない! 夜野さん!」
 トラウマへの過剰反応か。鼓太郎は無意識的に満月すら呑み込んで自身の腕を斬り落とそうとする夜野を寸前の所で制止すると、鎧型の『御業』を彼に降ろし、守護させる。
(「夜は未だ……ですか」)
 付与された心的外傷と最大限のダメージは取り除く……現状、鼓太郎が手を貸すことが出来るのは、そこまでだ。
「人の傷を無遠慮に……!」
 口も体も噤ませるべきだろう。アイラノレはエマノンを手術台に叩きつけ、レザーベルトできつく固定すると、メスを始めありとあらゆる手術器具を用い只管正確に病巣(ドリームイーター)を切除する。

 小さな小さな破壊音。見れば、姿見に罅が走っていた。

●心此処に在りて
「何故救うの? 何のために援けるの? 助けた命が、扶けようとした命が砕け散ってしまった様を見たことがあるのでしょう?」
 姿見に無数に走る罅。尽きぬ問いをこちらへ投げ掛ける彼女の命は、しかし健在とは言い難い。
「そうですね。敢えて問いに答えるなら、俺はあなたを疾く殺める為にアイラさんや夜野さんを癒し続けていたんです」
 嘘だと思いますか? 真実だと思いますか? 鼓太郎は逆に夢喰いへ問うた。
「真偽を糺せぬ問いかけに意味は無く、何故、何故などと、そんな事を繰り返すから見失うのです」
 考える間も惜しい、早く、疾く、癒さねば、祓わねば。御役目を果たさなければ!
 銅貉・虚蒼月。二刀を振るう鼓太郎が、空間ごと夢喰いを斬って捨て、それでも留まる夢喰いに、ウィゼは世界法則さえ捻じ曲げる、自身の理論をぶつける。
「お主は所詮ただの真似事じゃから、人々を癒す思いなんぞないのじゃ。口だけではなく、一人でも誰かを癒し、救ったのなら……いや、詮無い事じゃのう」
 ウィゼの理論は夢喰いの加護を剥がすと、カグヤの装着するアスモデル・ローゼンクロイツの砲塔がエマノン目掛けて侵攻し、零の距離で火を噴く。
「アタシは、戦いたいのに戦えなくて俯いてた昔のアタシじゃない。今のアタシには守りたい人と、守るための力と、戦い抜く覚悟がある。だから、アタシ達は絶対に負けない!」
「確固とした存在意義、私にも、それを……」
 カグヤが燃え上がる勇気の剣を引き抜いて、自前の砲火に追撃を重ねれば、間髪入れず、アウラは自身の地獄をカードの形に凝縮する。
「地獄よ。我、我が身を門として汝を引寄(ドロー)せん!」
 煉獄符夢想火焔撃。今日幾度目かの全てを賭した一射。これを乱射出来るのは、ここまでの経験と、何よりエマノンへの怒りが成せる業なのだろう。
 放たれたカードは崩壊を起こしながらも夢喰いの内部に到達し、大爆発を引き起こす。
 夜野は呪詛と怨嗟を小さく呟きながら、微塵の躊躇無く爆心地へと飛び込んだ。
 怒りに満ちる瞳孔は爛々と輝いて夢喰いを睨む。
 悪夢だ。皆に恐慌を晒したことも、どう足掻いても最早如何にもならないことも。
 銀色の体毛を強引に毟り、それに力を注ぎこむと、数瞬の懊悩の末に生み出した巨大棍棒が夢喰いを抉る。
 遮二無二夢喰いが前衛へと振りまいた炎症に、みやびは満天星を携え、真正面から音楽で抗った。

『さよなら』が思い出になって、面影ははるか遠く。
 あなたの手が、言葉が、笑顔がここにないことはひどく悲しいけれど、
『それでいい』とあなたは言うでしょう。
 涙が育てる花もあると、あなたは知っていたから。
 私の命が咲くように、あなたは願っていたから。

 郷愁を誘うメロディが、カジミェシュを蝕んでいた病全てを吹き飛ばす。
 ゾディアックソード・Slojの柄頭に嵌め込まれた紅玉がきらりと閃く。振り下ろされた達人の一撃は夢喰いの全ての守りを打ち崩し、
「アイラ! 決めろ!」
 そしてアイラノレは、長い付き合いのファミリアロッド・シェリと共に病原の前へ立つ。
「……人を救う意味? お前が魅力的だと言ったその人は、そんなことを考えなかった。考えていたら、きっとあの時の私なんて助けようとしなかった。ニエニズ母さんは、あの心あってあの眩さだった。外見だけ真似たとて、意味がないんだ」
「何なの? どうして外見(わたし)が其処に……いえ、これは……!」
 鏡では無く。自分自身の両眼で物を視る。それは最初で最後の成長だったのだろう。
「私は病を殺す者。迷子の夢食い。お前の病も望みもここで切り除く」
 杖の先端に収束した魔力が無数の矢となって降り注ぎ、誰でもない、少女(オリジナル)の姿に戻った夢喰いは終に消え果てた。
「……お前がこのペンダントを模さなくてよかったですね。模していたら私はきっと、もっと手酷くやったろうから」

 残されたのは、景色を映せぬほどに傷ついた鏡。
「地獄で考えなさい。貴方が失った命について」
 しかし、みやびの言葉が止めとなったか、主の後を追うように鏡もまた……粉々に砕け散った。

●足跡
 駆けつけてくれた皆に礼を言い、そして皆と共に飛行船へ帰れば再び日常がやってくる。
 しかし……アイラノレはふと足を止める。
 エマノンは最期、アイラノレの傍らに何を見たのか。
 このまま振り返れば、もしや……。
 ――アイラノレは柔らかく微笑んで、再び歩みだす。
 振り返りはすまい。

 夕陽を受けてペンダントが煌く。
 受け継いだココロは、此処に。

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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