美女に竜牙兵は似合わない

作者:一条もえる

 暦の上ではすでに秋。
 しかし暑さは未だ衰えず、このビーチも多くの人々で賑わっていた。だが、それは過ぎゆく夏を惜しもうという切なさが、いくばくか含まれていたかもしれない。
 そんな中、ビーチパラソルのもとで寝そべる若い女性たちがいた。
「あー、どこかにいい男いないかなぁ~?」
「盛ってるんじゃないわよ、無駄巨乳」
「ひどいッ!」
「……そう言うくせに、それほどがっついてもないでしょ?」
「まぁねー。アンタとぐだぐだやってる方が、気楽かなぁ」
 スレンダーな友人に答えて、豊かな双球を持った女性はうつ伏せになった。
「まして、軽々しくナンパしてくるオトコなんて、ねぇ……?」
「王子様の方が好みなんでしょ? 可愛らしいこと。巨乳のくせに」
「ひどいッ!
 ……あによぅ。運命的な出会い求めて、なにが悪いのよ。そういうアンタこそ、ちょいワル親父が好みなの、知ってるんだからね」
「うん。……エロ親父じゃない奴ならね」
 そう言って、スレンダーな友人は肩をすくめた。
 生産性のない会話はともかくとして、ビーチには穏やかな時間が過ぎていた。なにもないなら、まぁそれでいいじゃないか。夏気分を味わうだけで、楽しい。
 ところが。
 突如として、海面で爆発したように水柱が立ち上る。その飛沫はふたりにまで襲いかかった。
「な、なんなのよぉ!」
 もうもうと立ちこめる水煙が晴れたとき。そこには、5体の竜牙兵が立っていたではないか!
「きゃあああ!」
「カカカカ、イイゾ、ソノ恐怖、ソノ拒絶……!」
 人々が悲鳴を上げて逃げ出すと、竜牙兵どもは哄笑しながらその後を追った。
 2体の竜牙兵がふたりを取り囲むが、腰を抜かしたふたりは後退りすることしかできない。レジャーシートが濡れる。
「う、運命的な出会いだわ!」
「こんな運命、いやぁ! アンタこそ、ちょいワル好きなんでしょ?」
「『ちょい』で済んでないじゃないの!」
「カカカカ、怯エテオル!」
 竜牙兵がふたりを見下ろし、歯を鳴らす。
「オイ、オ前タチ。コチラニハモット多クノ獲物ガイルノダゾ?」
 ほかの客を追う竜牙兵が、同胞に苦言を呈した。しかし、
「ヨイデハナイカ。コノフタリノ恐怖、スバラシイゾ」
「ソウヨ。ドラゴン様ヘノ供物トスルニハ、コレホドガヨイ!」
 竜牙兵は笑って、オーラの燃え上がる拳を叩きつけた。

「ドラゴンの配下が現れるのですね」
 先日の熊本城下での激戦に加わっていた朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)は、深いため息をついた。
 竜牙兵どもはそれとは関係なく常日頃から蠢いてはいるが、やはり、その報を聞けば緊張が走る。
「夏の終わり。移りゆく風。そこに、血の臭いが混じる……」
 是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)が睫毛を伏せて、頭を振った。
「私たちは行かねばなりません。狂風を払う、旋風となって」
 ヘリオライダーによれば、事件が起こるのはとあるビーチの昼下がりである。そこは多くの海水浴客で賑わっている。
 なんとしても凶行を阻止しなければならないが、襲撃が始まるまでは動けない。ビーチから人々がいなくなってしまえば、敵も襲撃を諦めてしまうからである。
「最初の攻撃さえ防ぐことができれば、人々のことは大丈夫でしょう。敵は、私たちの姿を認めればこちらに狙いを変えてくるでしょうから。
 ……この命を奪うまでは、決して退くことなく」
 静かに昴が言った傍らで、奈々がぶるりと身を震わせた。
「……準備する時間は十分にあるのでしょう? でしたら、事前に現地に乗り込んで体勢を整えておいた方がいいかもしれませんね」
「み、水着になるんですか?」
 奈々がそう言って、自らの胸元を見下ろした。靴の爪先がよく見える。
「……別に水着にならずとも、ビーチになじむ格好はできると思いますよ」
 出現する敵は5体だが、そのうち3体は逃げまどう人々を追いかけて惨殺していく。しかしのこりの2体は、へたり込んでいる若い女性ふたりを取り囲んでいるようだ。
 2体が狙うのはたったふたり。対して3体が狙うのは数十人の人々、ではあるが……。

「恐れることはありません。聖王女はすべてをご覧になっています。
 皆様にも、人々にも、聖王女の恩寵がありますよう……」
 昴は胸の前で両手を組み、祈りの言葉を紡いだ。


参加者
篁・悠(暁光の騎士・e00141)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)

■リプレイ

●砂浜に轟く轟音
「あ、いたいた。きっとあの人たちだよ」
 白い翼を大きく広げて、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は砂浜で遊ぶ人々を上空から見下ろしていた。
 ときおり、こちらを見上げては手を振ってくる子供たちに笑顔を返しながら辺りを窺っていると、まもなく、予知に現れていただろう女性のふたり組を発見する。
「こちらでも確認したよ、スノーエル君」
 水着姿の小柳・瑠奈(暴龍・e31095)は、横目で女性たちを見ながら携帯電話で各所の仲間たちと連絡を取っていた。
「そこね。……うん、やれるだけやるわ」
 少し離れたところにいた円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)も、その場所を認めて頷く。
「……あー、暑い。
 ひと泳ぎしたいけど、いまはそれどころじゃないし……。
 でも……おじさーん、スイカジュースひとつー!」
「あいよー」
 呑気だなぁ、とでも言いたげに、木陰でうずくまっていた白猫が「にゃあ」と鳴く。
「……いいじゃない、熱中症対策よ」
 パラソルの下に置いたデッキチェアに腰掛けて、朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)が辺りに目をやる。今のところはまだ、楽しい海水浴場そのものだ。
「襲撃までにはまだ、時間のゆとりがあるみたいですね」
 腰掛けた拍子に、豊かな胸が暴れるように揺れた。とてもとても、水着の上からTシャツを着ている程度で隠しおおせるものではない。
 その様子に思わず目をやった是澤・奈々(自称地球の導き手・en0162)は、パーカーのジッパーを目一杯上げる。
 昴のことは諦めよう。しかし瑠奈とは同い年ではなかったか。水着に包まれた褐色の肌。そこで主張する、やはり豊かな胸。
 細身というならば、伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)もそうではあるが。
 長身の彼女は、言うなれば引き締まったモデルのような体型。黒の上下にデニムのパンツという水着姿も、実にセクシー。単なる痩せっぽっちの奈々とは、違うのである。
「ぁ? なんだよ、ちらちら見やがって」
「い、いいえなんでも!」
 様子を窺われているとはつゆ知らず、ふたりの女性は、
「あー、どこかにいい男いないかなぁ~?」
 などと、笑いあっている。
「いや本当、どこかに素晴らしい殿方はいらっしゃらないでしょうか……いやホントに、ガチで」
 ステイン・カツオ(砕拳・e04948)が、深い深いため息をついた。
 近頃、疲れがとれていない朝がある。思えばもう40歳。マジで? もう40なのかよ!
「焦ったって、そればっかりはどうしようもないねぇ」
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が呵々と笑いながら、どっかりと腰を下ろした。
 派手なアロハシャツと短パン、そして大きなサングラスという格好は、完全に男の目を気にしていない。
「……むしろあんたがチンピラみたいだぜ」
「はは、ほっとけ」
 笑った翔子の手には缶ビール。
 そのとき、轟音とともに水柱が立ち上った。ビールを荷物の上に放り、翔子は勢いよく立ち上がる。
「おいでなすったな!」
「性懲りもなく……奴らにゃ、暑さも関係ないってか。まったく、ご苦労なこって!」
 いなせは鼻に皺を寄せて、水柱を睨んだ。
「死ネィ!」
「させるか!」
 ふたり組に向かって叩きつけられた拳を、翔子が受け止めた。もう1体からは、スノーエルのボクスドラゴン『マシュ』が、体を張って庇う。
「お手柄なんだよ、マシュちゃん!」
 砂浜に着地したスノーエルが歓声を上げ、ブーツに込められた星空のオーラを敵めがけて叩きつけた。
「せっかくの夏、せっかくの海なのに、楽しい気持ちを奪うのは許せないかな!」
「まぁ、無粋だねぇ」
 翔子の掌から光弾が放たれた。竜牙兵どもの鎧で、次々とそれらが爆ぜる。
「ヌヌッ?」
 逃げまどう人々に襲いかかった竜牙兵どもが、背後の様子に気づいて首を傾げた。
 その前に、1匹の白猫が立ちはだかる。
「待てぃッ!」
 怒声とともに篁・悠(暁光の騎士・e00141)は人の姿へと変じ、自らの武装をすべて展開した。それらが陽光を受け、きらきらと輝く。
「貴様たちの企みは、夏の熱気で生まれし幻。叶うことなき机上の空論。
 ……人それを、『精衛填海』と言う!」
 見得を切った悠が長剣を一閃する。
「ピスケスよ輝け! そして凍てつく棺となれ!」
 双魚宮のオーラが敵群に襲いかかり、竜牙兵どもの鎧は真っ白い霜で覆われた。
 続いて昴が、砂を蹴って跳んだ。併せて胸も弾む。高く跳躍した昴は陽光を背に落下し、竜牙兵のドテッ腹に足刀を食い込ませた。
「グゴァッ!」
 たまらず、敵は反吐を吐きながらうずくまる。
「聖王女の御前に額ずき、その罪を懺悔なさい。そうすれば、あなたたちでも救われるでしょう」
「オノレ!」
「なぁにが『オノレ』だ。そう言いたいのはこっちだぜ!」
 と、ステインが吐き捨てる。
「黙レ!」
 竜牙兵のオーラが燃え盛り、ステインの腹に音速の拳が叩き込まれた。その衝撃で小さな体は吹き飛び、砂浜に半ば埋まる。
 しかしペッと砂を吐き出して立ち上がり、
「おめぇらのショボいオーラでくたばるかっての! なめんじゃねぇ!」
 と、吐き捨てた。
「こちとら、竜牙兵の強襲には飽き飽きしてんだよ! ステイン、やってやんな!」
 ヒールドローンを展開し、いなせが怒鳴る。
「おうよ!」
 ステインは全くの準備動作もなしに、
「こっちですよ!」
 と、気取った口ぶりで光の矢を放った。肩口を貫かれた竜牙兵が、怒りの目を向ける。
「今のうちだ、キアリさん! お客さんたちを頼む!」
 悠が声を張り上げて、仲間を促す。
「えぇ。さぁ、皆さん! アロン、足止めを!」
 主の声に応じ、オルトロス『アロン』が『地獄の瘴気』を叩きつけた。
 海水浴客たちはキアリの誘導に従って、海の家の脇をすり抜けて浜を後にしていく。
「うん……このぶんなら、大丈夫」
 誘導は順調に進んでいる。キアリは安堵して頷いた。
「奈々さんも!」
「は、はい……!」
 奈々も悠に促され、慌ててふたりの女性のもとに駆け寄って、その手を掴み取ろうとした。
「我々ノ獲物ヲ横取リシヨウトハ、身ノ程知ラズナ奴メ!」
「ひぇぇッ!」
 頼りなく尻餅をついたのが幸運だったのか、急所には命中しなかったようである。しかしその体はゴロゴロと砂浜を転がり、髪も顔面も、砂まみれになってしまった。
「ぺぺぺ……」
「だ、大丈夫ですか……?」
 ふたりの女性の方がかえって、その身を案じた。
 嵩に掛かって襲いかかろうとした竜牙兵だったが、瑠奈が構えたライフルを、くるりと回した。砂浜でも敵の全身でも、光線が弾ける。
「ここは私が引きつけよう。
 だから仔猫ちゃんたち? 怪我をしないうちに早くお逃げ」
「は、はいッ!」
 奈々はふたりの女性の腰に手をやって支えながら、もしかするとふたりに両腕を支えられながら、浜を後にする。
 瑠奈は苦笑しつつその後ろ姿を見送り、
「さぁ、改めて始めようか。仔猫ちゃんたちを泣かす悪い奴らには、お仕置きが必要だ」

●強く、そして美しい
「ヤッテミセロ、ケルベロスゴトキガ!」
「私たちの力、存分に見せてあげるんだよ!」
「あとから泣き言言ったって、許してやらないよ!」
 喰らいついてくる竜牙兵のオーラをかいくぐり、スノーエルと翔子とは後方にいる1体に狙いを付ける。
 スノーエルの弓弦が鳴る。放たれた矢は時間を凍結させる弾丸となって、竜牙兵の胸元に吸い込まれていく。
 よろめいたところに、翔子の持つ扇の羽根がぐんと伸びて、敵を打ち据えた。その全身がびっしりと霜に覆われ、凍てついていく。
「いまだ! 穿てッ!」
 悠は砂浜に膝をついた竜牙兵の方を振り返って、バスターライフルを構えた。
 しかし、放たれた凍結光線の前に別の竜牙兵が立ちはだかった。光線は霧散し、あたりにキラキラと氷の粒が散る。
 反撃に出ようとした敵には、瑠奈が放った光線が命中し、そのオーラを貫いたが。
「我ラヲ前ニヨソ見トハ、イイ度胸ダ!」
 悠の目前には2体の竜牙兵が迫っていた。右足に喰らいつこうとするオーラはかろうじて避けたものの、もう1体の拳が側頭部を襲う。
 すさまじい衝撃に、たまらず悠は倒れた。起きあがろうとするが、目の前にはチカチカと星が飛び、焦点が定まらない。
「うぁ……」
 ステインが慌てて駆け寄ろうとしたが、
「ドコヘ行クツモリダァッ!」
 怒りで目を充血させた竜牙兵が、その前に立ちはだかる。
「邪魔なんだよ、この野郎……ッ!」
 敵は氷結の螺旋を喰らいながらも、オーラを叩きつけてきた。腕に深々と喰らいつかれ、鮮血が砂浜に飛び散る。
「この程度……アンタをぶちのめすなんざ、腕が1本あれば十分なんだよ……!」
 顔を歪めながらも、ステインは嘯く。
「そうよ、みんな。わたしたちは、負けない……!」
 キアリの声が戦場に響きわたる。ということは、人々は無事に連れ出せたのであろう。
 地面をキアリのケルベロスチェインが疾走する。描き出された魔法陣が、仲間たちの傷を癒していく。
「熊本でさんざんドラゴンと戦って、そして、勝ったのよ?
 あなたたちなんかに、わたしたちが負けるもんか……!」
「ふふ……」
 昴が、思わず笑みを漏らす。
「仰るとおりです。あの苦しい戦いを乗り越えてきたわたくしたちが、ドラゴンの尖兵にすぎない竜牙兵を、どうして恐れることがあるでしょうか」
「雑魚だよなァ? ハッキリ言えば、よ」
 と、いなせは顔を歪めた。笑ったのだ。竜牙兵どもが不愉快なように。
「ナンダトッ?」
「雑魚は、雑魚よ! 燃えろッ!」
 いなせの言葉とともに、竜牙兵どもを炎が襲った。それは敵を焼き尽くすとまではいかなかったが、炎は敵の身体を舐め続け、
「ビタ!」
 いなせのウイングキャット『ビタ』は敵群に飛び込んで、鋭い爪で顔面をさんざんに引っかいた。
「すべては、聖王女の御心のまま……!」
 さらには、目にも留まらぬ早業で繰り出された昴の刃が、敵の肩を割る。
 支援するキアリを中心にして、ケルベロスたちは集まっていく。それに応じて、竜牙兵どもも一所に集まってきた。
「これ以上、竜十字島の魔竜たちを強化させるわけには参りません」
 敵のオーラが、昴の首筋近くをかすめていく。しかしそれにも怯まず、間合いを詰める。
 1体の竜牙兵がオーラを溜め、仲間たちの傷を癒している。
 やはり狙いは、そこしかない。ステインの御業と、昴の摩擦を利用した蹴りとが、業火を生み出して敵に襲いかかった。
 それを察した竜牙兵が、同胞を庇って前に立った。他の3体が放ってくるオーラは、ケルベロスたちを食い破る。
 しかしそれでも、彼らの狙いは徹底していた。
「邪魔なんだよ、失せろ」
「今度は外さない。貫けぇッ!」
 いなせと悠がそれぞれ構えたライフルから眩い光線が放たれ、敵の全身は氷で覆われ、オーラは消え去り……ついに、竜牙兵は砂浜に倒れ伏した。
「オノレ……!」
「心配はいらない。早いか遅いか、それだけだよ」
「さっさと後を、追っちまいな。
 ……明日の為に。今日を切り開く雨を」
 やはり器用に銃を回転させ、瑠奈は狙いをつける。敵のグラビティを中和する光線は、敵のオーラを霧散させた。
 そこに、翔子の『七つ下がりの雨』が襲いかかる。
「Hasta la vista! 残りは、3体」
「図ニ乗リオッテ!」
 竜牙兵の拳を喰らった翔子だったが、足を踏ん張りかろうじて耐えた。ステインも脇腹を押さえ、顔を歪める。
「大丈夫? これですぐに治してあげるんだよ!」
 スノーエルがすかさず治療に取りかかった。とはいえ、
「痛いのは最初だけだから、ね!」
 召喚した巨大な魔導書を、翔子に向けて叩きつけたではないか。痛い!
 それでも一応、治ることは治った。
「大丈夫、こっちのは痛くないからね」
 キアリが放った光球を受けて、ステインの痛みも消えた。
「ケルベロスノ力、コレホドトハ……」
「気づくのが遅すぎたんだよ」
 スノーエルの拳が敵の顔面に叩きつけられる。そしてステインの『螺旋掌』も、肩口に吸い込まれる。
 さらなる1体には、翔子の蹴りが炎を纏って襲いかかった。
 敵も反撃するが、翔子のボクスドラゴン『シロ』が主の傷を癒し、護る。
 キアリも、幾度も幾度も『サークリットチェイン』を張り巡らせて、敵の攻撃から仲間たちを護っている。戻ってきた奈々も、支援に加わる。
 そうしているうちに1体が、そして、
「カモン、ゴルドリッター! 彼方の地平を超えて来たれ!」
 空に向かってライフルを放った悠のもとに、突如として武装バイクが現れた。それに飛び乗った悠は砂粒を後方に巻き上げながら突進する。
「吹き荒れよ、雷の嵐! 神雷ッ! 爆走ーッ!」
 すさまじい衝撃に、竜牙兵の四肢が飛散する。
「成敗ッ!」
 残されたのは、あと1体。
「セメテ1人ダケデモ……!」
 竜牙兵は耳障りな嘲笑も忘れ、雄叫びをあげて突進してくる。しかし、
「見苦しいぜ!」
 いなせの放った光線に襲われた敵からはオーラが消え失せ、さらに無数の銃弾が全身で弾ける。
「さぁ、終わりにしようか」
 と、瑠奈は諭すように目を細めて敵を見据えた。
「聖なるかな、聖なるかな……!」
 昴のワイルドスペースが全身を浸食していく。美しい肢体はそれに包まれて黒く淀んだ獣へと変じていく。
「聖譚の王女を賛美せよ! その御名を讃えよ! その恩寵を讃えよ! その加護を讃えよ! その奇跡を讃えよ!」
 全身を襲う激痛から正気を保つため、昴は聖王女への祈りを叫び続けた。敵は表情を強ばらせて避けようとしたが、よろめく。
 叫びながら、昴は鋭い牙と爪とを、幾度も幾度も敵に食い込ませる。
 敵の骸が原形をとどめぬほどになったとき。元の姿に戻った昴は、疲れ切った表情で砂浜に尻をついた。
 気がつけば、荷物を置いたパラソルのすぐ側にいた。翔子が置き去りにしていたビールの缶を手に取り、笑ってフタを開けた。
「まだ、冷たいね」

 いなせや悠の懸念をよそに、幸いなことに周辺の被害は少なかった。戦いが砂浜に終始していたためである。
 人々も戻ってきて、キアリや瑠奈は海を楽しんでいる。
「……わたくしは、着替えてまいりますね」
 胸元を押さえた昴が背を向ける。攻撃が首筋をかすめ、水着の肩紐を切ってしまったのだ。つまり、シャツの下は。
「すげぇな、おい」
 ステインも思わず、その後ろ姿を目で追った。
「私たちも水辺に行こうよ。せっかく水着なんだよ」
「え? あぁ、うん」
 フロントジッパーの水着を見下ろし、照れ笑いを浮かべながらスノーエルに手を引かれていく。
 わざわざ水着を着たことに理由なんて。ただ、なんとなく。ちょっと、これに魅了される男性もいないかなぁ……なんて。
 美女たちに似つかわしい男性は、きっとどこかにいるはずである。
 もしかすると、今日、このビーチに。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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