盆踊りの乱入者

作者:神無月シュン

 日も傾き、日中の暑さも和らいできた頃、公園に建てられたやぐらの周りには、浴衣姿の人々が集まり始めていた。
 今日は町内会の主催する盆踊り大会。ちょっとしたお祭りに、周囲には屋台も出ていて賑わっている。
 そんな中、ドスンドスンと地響きが鳴る。突如現れた3mもの大男。
 人の集まっている場所に誘われるように、長い間囚われていたエインヘリアルが公園へとやって来る。
 人々が逃げ惑う中、エインヘリアルは右手に握られた斧を振り上げると、手始めにやぐらに向かって振り下ろすのだった。

「人が集まる場所……やはり来たか?」
 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)がセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の様子を見て呟く。
「はい。ノチユさんの予想通り、エインヘリアルによる、人々の虐殺事件が予知されました」
 このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「皆さんは急ぎ現場に向かい、このエインヘリアルの撃破をお願いします」
 集まったメンバーへとセリカは説明を始める。

「現場は、盆踊り大会の行われる夕方の公園です」
 一般人を事前に避難させてしまうと、襲撃場所が変わってしまう。それを避ける為には、エインヘリアルが出現してから避難させることになる。これから日が落ちて暗くなってくる事を考えて避難場所を決めたいところだ。
「エインヘリアルが出現して、公園内に侵入するまで2分ほどの猶予があります。避難指示がスムーズに行えれば、ギリギリですがまにあうと思います」
 全員で避難を行うか、足止め役を用意するか作戦次第と言ったところだろう。
「出現するエインヘリアルは1体のみで、3mもある屈強な大男、右手の斧を使った攻撃を行ってきます」
 このエインヘリアルは使い捨ての戦力として送り込まれているため、戦闘で不利な状況になっても撤退することはない。

「無事に終わりましたら、お祭りに参加するのもいいかもしれませんね」
 資料を閉じると、セリカはそう締めくくった。


参加者
安曇・柊(天騎士・e00166)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
真田・結城(銀色の幻想・e36342)
ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)

■リプレイ


「結構賑わってるね」
 公園へとやって来たケルベロス達。真っ先に目につくのは、盆踊りの始まりを今か今かと、楽しみにしている浴衣姿の人たち。夕日に照らされて、色鮮やかな花が咲き乱れているかの様だ。
 公園の中央に建てられたやぐらの上では、ねじり鉢巻きをした男性が太鼓の準備をしている。
 さらに外側へと目を向けると、いくつかのテーブルとイスがあり、屋台がずらりと並んでいた。盆踊りを眺めながら、ここで屋台で買ったものを食べる。そんな楽しみ方をする人も居るのだろう。
「うふふ。どこかに、可愛い子は居ないかしら?」
「そういうのは後にしてくださいよ」
「あら、残念」
 参加者を物色し始めようとする、マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)を燈家・陽葉(光響射て・e02459)が慌てて止める。
「今日この日の為に、色んな人達が設営に携わって、長らく頑張って来たんでしょうから……早く、安心してお祭りさせてあげたい、です」
 公園の様子を眺めていた、安曇・柊(天騎士・e00166)が口を開く。
 柊の言葉に皆が頷くと、避難の為に行動を開始する。
 葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が、すぅっと息を吸い込む。
「これからデウスエクスがやってくるよぉ!」
 咲耶の声が『割り込みヴォイス』によって、喧騒の中を駆け抜ける。
「えっ」
「は、早く逃げないと」
「きゃー!!」
 咲耶の第一声に、祭りの参加者は一気にパニックを起こし始める。
 一言目がそれじゃあ仕方ないだろうと、苦笑しつつケルベロス達は避難指示を始める。
「落ち着いて、こっちに逃げれば大丈夫だから」
 安心させるように声をかける陽葉。
「大丈夫、ケルベロスがいるからねぇ、落ち着いて、でも急いでぇ!」
 続けて放つ咲耶の言葉も、パニックを起こしている人たちに届いているかどうか……。
「皆さんこっちです。大丈夫だから慌てないで」
 両手を広げて、真田・結城(銀色の幻想・e36342)が一般人をエインヘリアルの出現予測と逆の方向へと誘導していく。
 そして避難が終わった場所から『キープアウトテープ』を貼っていく。
 避難に手間取っていると、ドスンドスンと遠くから地響きが聞こえ始めた。
「来たな……」
 ケルベロス達は顔を見合わせ、頷き合うと咲耶と結城の2人に避難指示を任せて、エインヘリアルの元へと走った。


 3mもの大男――エインヘリアルが公園へ向かって歩き続ける。右手に握られた斧は振るうだけで、樹を軽く両断してしまいそうなほど鋭い。
「盆踊りを邪魔しに来るなんて、無粋にも程があるね。そんなエインヘリアルには、お帰り頂こうか」
 エインヘリアルの進行を妨げるように、陽葉が立ち塞がる。
「見てると首が痛くなりそうだな此奴……まぁ、的がデカくて良いな、当てやすい」
 その横に立ったエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)は、エインヘリアルを見上げて呟いた。
「ここから先は通さないよ」
「こんな楽しい場所と時間を邪魔するなんて、許せない」
 柊とノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)も続く。
「欲求が満たせる相手でもないし……まあ、仕事だから真面目にやるけど、ね」
 興味なさげにエインヘリアルを眺めるマイア。
「うんうん、いいわね、その剣気。壊すことしか頭にない、という感じ? ええ、でも、それなら――」
 対照的に、これから始まる戦いに興奮を隠せないでいるユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)。
「戦えもしない人たちより、私たちの方がずぅっと、壊しがいがあるんじゃないかしら?」
 各々武器を構えると、戦闘を開始した。
 マイアの作り出した黄金の果実が、聖なる光を放つ。
「破壊衝動に支配されてる、か。まるでケダモノだね」
「戦闘のこと以外の思考能力、どっかに投げ捨てて来たんじゃねぇの」
 陽葉は拳大の石を拾うと、目にも止まらぬ速さでエインヘリアルの斧目掛け投げつける。続けてエンデが鳩尾目掛けて、電光石火の蹴り。
 柊の蹴りが炎を纏いエインヘリアルに襲い掛かる。合わせるようにボクスドラゴンの天花が体当たりで追撃する。
 喰霊刀『無銘の魔刀』を構え、ユリアが突きを放つ。
 ノルンの掌から放たれたドラゴンの幻影がエインヘリアルを焼く。
「非力な斧使い。子猫のわたしが怖い? 怖くないなら、かかって来るといい」
 ノルンの挑発を聞いてか、はたまた偶然か、エインヘリアルの斧が光り輝きノルン目掛けて振り下ろされる。
「って、本当に来たっ!? うにゃぁあああああ!」
 エインヘリアルの攻撃を受けて盛大に吹き飛ぶノルン。
「なにやってるのよ」
 マイアがノルンに駆け寄り治療を行う。
 その間にも陽葉の拳がエインヘリアルの脛を撃つ。
「っらぁあ!」
 陽葉の攻撃個所に重ねるように、エンデが斬撃を叩き込む。
「これくらいで倒れないでね」
 ユリアが刀を振るう。
「うがああああっ!」
 続く攻撃に煩わしそうにエインヘリアルが叫び、跳び上がる。空中からの体重を乗せた斧の一撃。
「やらせませんよ」
 柊が飛び出し、攻撃を受け止める。あまりの衝撃に地面が陥没し、踏ん張りがきかなくなる。
「ぐああっ!」
 よろめいた拍子に、地面へと叩きつけられた斧の衝撃に耐えきれず、柊の身体は民家の壁へと叩きつけられた。
「みんな、お待たせだよぉ」
 避難を終え駆けつけた咲耶がすぐさま、マインドリングから光の盾を具現化させると、柊の身体を包んでいく。
「助かりました。避難の方は?」
「無事に終わったよぉ」
 柊と咲耶の会話を聞きながら、ノルンがゲシュタルトグレイブ『ブリュンレイス』へと稲妻を帯びさせ、走り出す。
「さっきのお返し! やああああっ!」
 エインヘリアルに向かって超高速の突きを繰り出す。
「自分も居る事、忘れないでくださいね」
 合流した結城もすぐに刀を構えると、突きを繰り出した。


 合流を果たし、全員でエインヘリアルに対峙するも、歩みを完全に止めることは出来ず、やぐらの傍まで押し込まれていた。
「流石にこれ以上はまずいよぉ」
 あと少し進まれてしまったら、避難した一般人が居る場所。咲耶は焦りながら呟く。
「わかってる。ここで食い止めてやるぜ」
「頼りにしてるよ、エンデ」
「おう」
 エンデが飛び出すのと同時、柊は詠唱を開始する。
「さぁ、行っておいで。……幸せは、僕達が作るものだから」
 広げられた翼から光の雫が溢れ、青い鳥へと姿を変えると、エンデの元へ。
 傷の癒えたエンデが喰霊刀『彩無』を振るう。
「行きなさい、Night shade」
 杖から使い魔を解き放つマイア。そこに陽葉とユリアの突きが続く。
 地面へとケルベロスチェインを展開し、魔方陣を描き出す咲耶。
 ゾディアックソード『シュヴェルトラウテ』へと星座の力を込めるノルン。そしてエインヘリアル目掛けて重い斬撃が放たれる。
 怯んだ所を見逃さずに結城が駆ける。結城の斬撃が傷跡を更に斬り広げる。
 反撃に放たれたエインヘリアルの一撃が、ノルンをやぐらごとなぎ倒す。
 やぐらがガラガラと音をたてて崩れていく。
 その光景を見ながら、これ以上破壊されてたまるか。その思いでケルベロス達は持てる力を振り絞った。
「……そうね、こんなのは柄じゃ無いけど奇蹟なんてものを起こしてみせましょうか」
 マイアの攻撃にエインヘリアルが耐えきれず後ずさる。
「陽の光を以て、断ち斬れ!」
 陽葉が陽光の霊力を込めた一撃を放つ。斬撃に残された霊力の残滓が爆発を起こす。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
 エンデの斬撃が襲い掛かり、柊の蹴りが炎の弧を描く。
 ユリアが無銘の魔刀でエインヘリアルへと斬りかかる。型や流儀もなく無造作に振るう。振るう。振るう。そこに剣技としての美しさなど微塵もなく、ただ命を刈り取るためだけに。
「四つ裂き八つ裂き! 裂かれに裂かれて咲き誇れ!」
 咲耶が御札に封じられた呪を解き放つと、無数の斬撃がエインヘリアルへ襲い掛かる。
「槍神解放」
 ノルンは距離を詰め、炎を纏った槍による連続攻撃からの龍の姿をした炎の一撃。
「これが、本気の力です。……行きます。……狼牙斬・爪牙!」
 日本刀『無銘・陰』へと霊力を込める結城。斬りつけた瞬間、込められた霊力が狼の形となって溢れ出す。
 ケルベロス達の流れるような連撃に、エインヘリアルは握っていた斧を落とし、その場に倒れ伏した。


 避難していた一般人を呼び戻す間、柊、マイア、咲耶、ノルンの4人は戦闘で破壊された箇所の修復を行っていた。
 中でもやぐらの被害は大きく、修復は出来たものの、結構幻想が混じってしまっていた。
「これくらい大丈夫さ」
 頭を下げようとしていると、祭りの運営の人達は、紅白幕で幻想が混じった部分を綺麗に隠したのだった。
 辺りの修復が終わり、人々が戻ってくると、予定より遅れて盆踊り大会が開始された。
 やぐらを囲み、音楽と太鼓の音に合わせて踊り始める人。屋台を見て回る人。イスに座り周りを眺めながら酒を飲む人。祭りの楽しみ方は人それぞれ。それでも皆同じように笑顔を浮かべていることに、ケルベロス達は嬉しくなった。
「向こうに気になる子が居たから、いってくるわね」
 マイアは手をひらひらさせながら、早々に人ごみの中へと消えていった。
「ユリアさん、そんな所に居ないでぇ、盆踊りに参加しようよぉ」
 戦いを終え満足そうにしていたユリアへと咲耶が声をかける。
「ふふ、なんだかもう、随分祭りは楽しんだ心持ちだけど……せっかく、ですものね」
「キヒヒ。それじゃいこぉ」
 咲耶はユリアの手を引くと盆踊りの輪へと混ざっていった。
「盆踊りといえば、日本のお祭り。お祭りといえば、屋台」
 早速と、屋台巡りへ向かうノルン。
「……盆踊り、ってのは知らねぇけど、見てるだけでもまあ楽しいんじゃねぇの」
 のんびりと周りを眺めているエンデ。
「僕も今日は屋台でご飯にしようかな……」
「お、いいね。俺も行くぜ。甘いものもあるといいが」
「それじゃどこから回ろうか……天花おいで、食べに行こう」
 エンデと柊は天花を連れ、食事の為に屋台へと向かった。
 各々が好きなように食べて、踊って、騒いで。祭りの夜は更けていく――。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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