真夏の鮫には無機質な触手

作者:stera

 赤い翼をもつその女性の姿をした死神は、眼の前にある無機質な体内に、球根のような『死神の因子』を植え付ける。
「お行きなさい、ディープディープブルーファング。グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺され……私の研究の糧となるのです」
 愛でるように、優しく撫でると彼女はその『ディープディープブルーファング』を外に放つ。
 まるで、水面を跳ねるかのように中空高く飛び上がると、『ディープディープブルーファング』は、人が多く集まる場所へと移動を開始した。
 ヘリオンにて、皇・基(en0229)は集まったケルベロスの仲間たちを前に今回の事件の概要について詳しいい説明を始める。
「富山県 魚津市に、死神によって『死神の因子』を埋め込まれたダモクレスが向かっているようです。 ダモクレスは全長5mの鮫型で、空中を泳ぐように移動して市街地に到着次第、住民の虐殺を行うでしょう。 今回の事件は、これまでの死神の因子の事件と、少し違う背景がありそうですが、今回私達ケルベロスがやるべきことに変わりはありません。死神の因子を植え付けられたダモクレスを撃破し、人々を守ってください」
 ディープディーブブルーファングは、海岸線近くの観光客や地元の人で賑わう道の駅に現れます。
 駐車場には十分な広さがあります。
 大型バスが数台停車しているもののそれなりの見晴らしの良さはあります。
 建物に近い場所には、自家用車が多く停められているようです。
 建物から少し離れた場所は、広いスペースがそのまま残っています。
 道の駅はそこそこ大きい建物なので、その場にいる人々全員を収容することは可能だと思われます。
 ただ、その場にいる全員を道の駅の中に避難誘導させた場合、建物の中は逃げた人たちで溢れることになり、戦闘するスペースはなくなります。
 道の駅には正面に広い入口一つと、裏手の2箇所に出入り口があり、どちらもシャッターを下ろすことが可能です。
 ディープディーブブルーファングは、全長5mのサメの形をしたダモクレスで、『メカ触手』と『サメ魚雷』を利用した攻撃を行います。
 量産型のダモクレスとしては高い戦闘力を備えた高い完成度の個体のようです。
「死神の因子を植え付けられたデウスエクスは、撃破されると、彼岸花の死の花が咲き、死神に回収されるという特性がありましたが、今回のダモクレスは、そういった特性は持っていないようです。ただ、逆にこのダモクレスがまるで死神を模したような魚類型であること等、気になることもありますね。……死神の動き自体は読み切れていないので不気味ですが、まずは暴走するデウスエクスの被害を食い止めなければいけません。どうぞよろしくおねがいします」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
ロイ・リーィング(紫狼・e00970)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
ヴィクトリカ・ブランロワ(碧緑の竜姫・e32130)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
フィーリ・フィオーレ(乱舞フロイライン・e53251)

■リプレイ

●緊急避難
 突如上空に現れたヘリオンと、次々とそこから降り立つ人影。
 トン、と建物の屋上に飛び降りたメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)。
「死神……何を考えているのかわからないけど、悩むのは後にして、今は被害を増やさないようにしないと」
 隣に降り立つペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)は、外套の下インカムを取り付ける。
「空飛ぶ鮫など、三流映画だけで十分さ」
「鮫は可愛らしくて好きですけれど……陸地で暴れるなど、少々おいたが過ぎるというもの。三枚におろしてさしあげましょう」
 インカムごしに、フィーリ・フィオーレ(乱舞フロイライン・e53251)がそう答える。
 ロイ・リーィング(紫狼・e00970)も、少し緊張した面持ちでインカムを取り付けながらあたりを見回す。
「こちらの準備も整った」
 駐車場に降り立った、ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)から連絡が入る。
「職員の方へも、説明を急ぎましょう」
 レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)の声。
 少し間をおいて、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)は、殺界を形成し駐車場の人々に呼びかけた。
「外は危険です、建物の中に、避難を!」
 上空に舞い上がったヴィクトリカ・ブランロワ(碧緑の竜姫・e32130)。
 敵の姿を探しながらも、外にいる人々に呼びかけた。
「お店の人の指示に従い落ち着いて避難するのじゃ!」
 その場に居た人々は、彼らがケルベロスで有ることを理解し、慌てて避難を開始する。
 間もなくして、屋上のメリルディが、何かこちらに向かって動く物体を発見する。
「こちらに向かって、何か動いてくる。正面右側の道路だよ」
 地上のファルゼン、フィーリが駆け出す。
 飛行中のヴィクトリカが違う角度に移動し、確認する。
 鈍色に光る鋼鉄の鮫が、中空を泳ぐように勢いよくこちらに向かって進んでいく。
 間違いない、ディープディープブルーファングだ。
 未だ、一般の人達の避難は完了してはいない。
 2班に別れ警戒していたこともあり、一気に全員で敵に相対することも不可能だ。
 地上に居て先行していたファルゼンとフィーリがいち早く敵と対峙する。

●交戦開始!
 (「避難完了にはまだ時間がかかるか、短期で決着のつくような相手でもない……」)
 ファルゼンの放出したオウガ粒子が、超感覚を呼び起こす。
 可憐な姿に見合った流麗な動き、それに反し力強く振り上げたルーンアックスをいっきに振り下ろしたフィーリ。
 二人の攻撃を物ともせず、ディープディープブルーファングは、彼らをすり抜けるように道の駅へと進んでいく。
「建物の中へ、急ぎ避難してください!」
 スピーカーから響く職員の声。
 緊張と喧騒に包まれる。
 屋上から飛び降りたメリルディ・ペル・ロイ・刃蓙理の3人。
「道の駅へ、急いでください!!」
 ロイの声が響く中、
 少し下がった位置に立つメリルディは、手にするmain gaucheで地面に守護星座を描くと、輝く光芒で状態異常から前に立つ仲間たちの身を護る。
「そら、刺し身にしてやるぞ?」
 近接したペルが白い日本刀を振り下ろす。
「こっちを見ろ……」
 まだ、逃げ遅れた一般人がいるなか、積極的に敵の気を惹く刃蓙理。
 地面を蹴る音と共に、仲間の元へ駆けつけるレクシア。
「お待たせしました」
 職員への事情説明も終わった様子だ。
 ヴィクトリカが放った大量の紙兵も、仲間たちの護りを固める。
 ディープディープブルーファングは、グラビティ・チェインを求め、隙きあらば一般人に食らいつこうとケルベロスたちの護りを破ろうと必死だ。
 小さな子供を抱きかかえ走る母親に狙いを定めた敵は、ガシャガシャと機械音を響かせると、魚雷を発射する。
「キャァ!!」
 爆炎に包まれる中母子の悲鳴が響いたが、それを身を呈し庇った刃蓙理。
「急いで」
「ありがとうございますっ!」
 最後の一人が入り口を潜ると、音をたてシャッターが降りていく。
 ディープディープブルーファングは、それほど高い知能が備わっているわけではない様子で、視界から一般人が消えるとそこを無理に攻略しようとするのではなく、単純に目前のケルベロス達に攻撃の目標を変えた。
 カシャリと身体の一部が開き、そこから伸びた触手が、ドンッという衝撃を伴って、ロイの脇腹を刺す。
「ディープディープブルーファング……君みたいな強い敵と戦えて、とても、楽しみだよ」
 鋼鉄の体躯に刻まれた僅かな傷跡も見逃さない。
 ロイは、霊気を纏う刀の切っ先を、敵の傷跡に更に喰らいこませ、更に傷を広げていく。
 しかし、5メートルにもなるディープディープブルーファングは、その巨躯に見合うだけのパワーと体力を有し、そう簡単には倒れない。

●激戦の行方
(「しかし、わからんな」)
 思案するヴィクトリカ。
(ディープディープブルーファングのこの強さ……ダモクレスと死神が協力しておるのか?」)
 これほど手強い敵、死神はそれすら操り手駒として使うほど油断の出来ない存在なのか、それとも同じ地球を侵略するデウスエクス同士、何か秘密裏に密約を交わしたというのだろうか?
「いや、熟考するのは後だ。今成すべきは一人の犠牲も出さずに敵を退ける事ぞ!」
 油断できない強敵を前に、回復の手を緩めることは出来ない。
「落ち着け。合わせろ。呼吸を。意識を」
 回復の手が足りないと判断したファルゼン。
 すかさず共呼吸で、仲間の回復を補う。
 それは、それは看取の妖精として終わりを見続け、永く多くの生命の呼吸を知り尽くしたファルゼンにしか成せない技だ。
 切迫した状況が続く。
 中空を泳ぐ敵より高く、飛び上がった刃蓙理が、急降下虹色の軌跡とともに蹴りを放つ。
 着物の袖を翻し、斬りつけたロィ。
 なかなか、弱る様子を見せない敵だったが、
「手始めに千撃、捌ききれるかしら?」
 フィーリが握る剣のレイピアのように細い切っ先が、鋼鉄の身体の隙間を貫くように、『千刺万攻』何度も刺し貫くと、ディープディープブルーファングが悶えるように、その巨躯をひねる。
「効いてないわけではないんだね。 コル!」
 メリルディがCorneille noireを手に前に躍り出た。
 顔色や表情に変化はなくとも、確実に敵を追い詰めている。
 惨殺ナイフを敵の体深く突き立て、回復の余地を与えないほどジグザグに切り裂くメリルディ。
 もう少しだ。
「弱ってきているようだが? 機械なのだ、バッテリーが切れては困るだろう? 我が充電してやるぞ。死ぬほどな……!」
 そう言って、ペルは己の拳に白き魔力で生み出した強力な白雷を宿すと、一気に打ち込んだ。
 雷に打たれたディープディープブルーファングの身体が痺れ、動きが止まる。
 レクシアの背にある地獄の蒼い翼が、大きく吹き上がる。
「これで、終わりにしましょう!」
 疾風の速さで接敵したレクシアは、この敵を倒す、その熱情を巨躯に叩き込んだ。
 中空を泳いでいたディープディープブルーファングは、何度かガシャガシャと牙を鳴らし口をぱくつかせたかと思うと、音を立てて地面に墜ちる。
 しかし地に落ちたその巨躯は、砂のようにサラサラと崩れ、跡形もなくかき消えていく。
 見送るように、その様子を見つめていたロイ。
(「……とても、いい戦いだったよ、ありがとう」)

●死神の真意は何処に
「破損箇所の修理も完了しました。 敵も倒したので、ここはもう安全です」
 ロイが笑顔で言う。
 建物内へ逃げていた人々は、安堵に包まれた。
「ケルベロスさん、どうもありがとうございますっ」
 母親に手を引かれた小さな子供が、そう声をかけ外に出ていった。
 その後姿をほんの少し淋しげに、しかしすぐ護りきれたと、笑顔で見送るヴィクトリカ。
「被害を最小限に止めれたのは、貴殿達のお蔭じゃ。協力感謝なのじゃ!」
 道の駅の職員へも、労いの声を掛ける。
「それにしても、操られていたなら間抜けな鮫だ。件の因子とやらは、かの黒衣の死神の固有技ではないということか、それも少し特性が違うか? まだまだ少しは面白いことしてくれそうだな……クク」
 ペルの言葉に、つい先日、宿敵である死神と対峙したばかりのメリルディは、複雑な表情でディープディープブルーファングの倒れた付近を見つめる。
「強敵でしたが、ここに居た皆さんにも、私達にも被害がなく何よりです。 そうだ、せっかくですし、皆さんで、なにか美味しいものでも食べませんか?」
 レクシアが言うと、
「そうですわね。 せっかくですから、少しお茶にしましょう?」
 フィーリも笑顔でそう返す。
「いいね、向こうにオープンデッキもあるし。 甘い物も用意しようよ♪」
 メリルディも、それに賛同しテーブルを指差すと、仲間たちと一緒に歩き出す。
 その場に残される、甘く優雅なフローラル系の香り。
 無事、何の被害もなく平常を取り戻すことが出来た。
 ファルゼンが言った。
「任務完了」

作者:stera 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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