赤き死神が生み出した牙

作者:宮下あおい


●発端
 赤い翼が揺れる。
 彼女はその手に持っていた球根のようなものを、目の前の奇妙な機械に植え付ける。
 ディープディープブルーファング。
 魚のような、犬のような試作用量産型ダモクレス。知性も動物並みしか与えられておらず、会話は行えない。
 しかし戦闘力は量産型としてはかなり高いレベルで調整されており、人里を目指して突き進んで、人間を虐殺しようと行動する。
 赤い翼を持つ女性が、ゆっくりと人里のほうを指さす。
「お行きなさい、ディープディープブルーファング。グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺され……私の研究の糧となるのです」

●概要
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は、事件の説明を始めた。
「福岡県福岡市で、死神によって『死神の因子』を埋め込まれたダモクレスが向かっています」
 ダモクレスは全長5mの鮫型で、空中を泳ぐように移動して市街地に到着次第、住民の虐殺を行う。今回の事件は、これまでの死神の因子の事件と少し違う背景がありそうだが、ケルベロスがやるべきことは変わらない。
「死神の因子を植え付けられたダモクレスを撃破し、人々を守ってください!」
 出現場所は市街地、往来の人も車もある。雑居ビルや電柱、車、街路樹、横断歩道、至って普通の市街地だ。
「使用されるグラビティですが、メカ触手とサメ魚雷を使ったものだと思われます。攻性植物の蔓触手形態、オークの触手刺し、ガトリングガンのガトリング連射、この辺りのはずです」
 効果や攻撃範囲に変わりはないため、これまでの戦闘経験から参考にできる。全長5メートルという巨体も注意すべき点だ。
 人が多いとなれば避難誘導も必要だが、警察などと連携することも視野に入れるべきだろう。
「死神の因子を植え付けられたデウスエクスは、撃破されると彼岸花の死の花が咲き、死神に回収されるという特性がありましたが、今回のダモクレスはそういった特性は持っていないようです」
 アーウェルはケルベロスたちの顔を見やる。
「死神の動きは不気味ですが、まずは暴走するデウスエクスの被害を食い止めましょう!」


参加者
暁星・輝凛(獅子座の星剣騎士・e00443)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)
ココ・チロル(箒星・e41772)
陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)

■リプレイ

●戦闘開始!
 福岡県福岡市。人の行き交う真昼の市街地にそれは現れた。
 ケルベロスたちが到着したのは、ディープディープブルーファングが現れるのとほぼ同時。
 事前に公共機関に協力や連携の要請はしてある。既に誘導も始まっているはずだ。皆それぞれの持ち場へと走り出す。
 ディープディープブルーファングの姿を見た人々の誰かが言った。
 機械ザメ、と。
「さあ、こっちです! 落ち着いて、充分時間はあります!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が、拡声器を使い、人々を誘導していた。警察や消防と協力し、取り残された人々がいないかをチェックしていく。
 機械ザメが空中を泳ぐようにして現れる。
 全長5メートル、その巨体が通ったところは電柱やビルが倒れ崩れ、轟音が響く。
 足を止めずそのまま、攻撃へ。初手は機械ザメが気づくより早く。
 暁星・輝凛(獅子座の星剣騎士・e00443)が踏み込んだ。髪と瞳が金色と化し、全身に光の粒子をまとう。
(輝きよ、全てを超えろ――昨日の僕を、あの日の君を!)
「――超えて、みせるっ!!」
 金色獅旋疾風脚――レディアント・テイル。
 体内に宿す膨大なグラビティ・チェインをひとつに紡ぎ合わせ、『輝凛自身がグラビティそのものと化す』ことで身体能力・反応速度を極限まで高める『レディアント・モード』を、部位を限定し瞬間的に発動。攻撃速度を突如として跳ね上げることで相手のリズムを崩し、金色の閃光を引く強烈な回し蹴りを叩き込む。超パワーと高機動で翻弄し、締めの一撃で光の奔流を叩きつけた。
 続いた燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)は、皆から視認できる範囲で低い場所に陣取る。
「ぁ? 文句あんのかよ。――おぅ、ヤローども、殺っちまえ」
 Burning BlackSun 侵――バーニング ブラックサン シン。
 対象の心の中にのみ術者の背に浮かんだ強烈な黒い日輪を見せ、熱波を感じさせる。攻撃を受けた者は術者へ不気味な敵愾心を抱く。
 ココ・チロル(箒星・e41772)が装備しているルーンアックスは、彼女の背丈ほどもあるが機敏に振るっている。ココのサーヴァント、ライドキャリバーのバレも主人に従い、行動を始める。
「支援は、任せて、ください」
 ボディヒーリング、エクトプラズムで疑似肉体を作り、味方の外傷を塞ぐ。また邪気から身を守ってくれる。
「基地はもうすぐ総攻撃だ、とっととこいつを倒して目論見をぶっ叩いてやるぜ!」
 七種・酸塊(七色ファイター・e03205)が避難誘導を終え、現場へ戻ってくる。翼飛行で上空を周回していたため、そのまま機械ザメの頭上から落下する重力に従い、一撃を叩き込む。
 流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りは敵の機動力を奪う。
 それに続いた陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)は、ハンマーを「砲撃形態」に変形させ、竜砲弾を敵を撃破する。
「底が見えねえ戦いとはいえ、こうも好き放題されちゃ、気に入らねえな」
「さぁて……オマエは私をどれぐらい楽しませる事ができるのかな?」
 ガトリングガンの連射音。クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)は、まだ崩されていないビルの屋上で、皆の援護を引き受けた。
 ジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)とサーヴァントでシャーマンズゴーストのトーリも駆け出す。
「電気ショックの時間だぜぇ……ひひっ!!」
 雷掌撃――ライショウゲキ)
 電気を纏った掌で相手に触れる事で電撃を浴びせるグラビティだ。
 初手の度重なる連撃、ダメージは確実に重ねている。砂埃が舞い、轟音が響く。
 砂埃の中、メカ魚雷が発射された。

 機械ザメの反攻。無数のメカ魚雷が周囲の建物を破壊する。
 最初は大きな岩になった建物も、いくつかが跡形もなく消え、砂埃へと変わる。
「……っ!! おっと……しくじったか……!」
 ジンが魚雷に直撃、ではないものの、態勢を崩し片膝をつく。脇腹からは血が溢れていた。
 主人を守ろうとしているのか、トーリが非物質化した爪を振り上げ踏み込んでいく。
「ジンさん! 今、治し、ます」
 ココが満月に似たエネルギー光球をジンに向けて放つ。傷を癒すと共に力を高めてくれる。
 バレも主人の支援をしようと巨体の足を止めようと、激しいスピンで周囲の足を轢き潰す。
 グラビティを放った後、ココは様子を見ようとジンへと駆け寄る。
「行かせないぜ! おまえの相手はアタシらだろ!」
 一方、酸塊がハンマーを『砲撃形態』に変形させ、竜砲弾を発射した。
 それと同時にミリムが放出した無数の黒鎖は、敵を捕縛した。その網を抜けようと、全長5メートルの巨体が暴れ、ガラスが割れる。粉々になったガラスは日光に照らされ、キラキラと輝く。
「人々を死なせはしません! 護ってみせます!」
「真武活殺法連ね打ち、ってね!」
 黒鎖で捕まえたところに、輝凛が踏み込む。体内の豊富なグラビティ・チェインを破壊力に変え、拳に乗せて叩きつける。
 3連打。
 宙に浮いた敵の胴体に、一拍遅れで輝凛の拳の痕がついた。機械の体にヒビが入る。
「ほう……、ぴちぴちと元気だな? 蜂の巣になるがいい」
 クロエはロープを使い、崩れていないビルの屋上や家の屋根など、足場を変える。移動しながらも、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射した。
 暴れる尾が電柱をなぎ倒す。電線から火花が散った。道路には魚雷が着弾した穴がいくつも開いている。
「メカジョーズか。ま、そんな珍しいもんでもねぇか」
 すかさず亞狼が攻撃に移り、ナイフの刃をジグザグに変形させた。ジグザグスラッシュは、敵の肉を回復しづらい形状に斬り刻むものだ。
「メカ魚雷に触手……なるほど」
 煉司は事前の情報と脳裏で照らし合わせつつ、機械ザメを観察する。もちろん、攻撃する手を止めたりはしない。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、敵の機動力を奪った。

●中盤戦
 戦闘開始からしばらく。回復と攻撃と交代しながら、よくよく機械ザメを観察して、判明したことは互いに知らせた。
 ジリジリと機械ザメへダメージを蓄積していく。
 真昼の市街地に、土煙があがり、時に電線から火花が散る。バキリと街路樹が折れる音、水道管を破壊してしまったのか、水も噴水のように溢れていた。
 機械ザメは5メートルの巨体。暴れた反動で、コンクリートの欠片が降り注ぐだけでなく、時には他の攻撃と重なって爆風が来ることもある。
 それらをかいくぐりながら、細かな傷を作りながら、ケルベロスたちは戦っている。
 輝凛が崩れたビルの影から飛び出した螺旋を籠めた掌は軽く触れただけで、敵を内部から破壊するものだ。
「手強い……けど、皆を助けて、街を守る! 人々を守る!」
「機械ザメなんざ、フカヒレにしてやらぁ!! ひひっ!」
 ジンが鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムで敵を貫く。
「そら、喰らいやがれ!」
 亞狼が斬りかかる。敵の返り血を浴びることで、自己回復する血襖斬り。
 機械とはいえ、鮫だけあって、暴れる様はやはり魚を思わせる。
 機械ザメの反撃。先端が尖った触手が、ケルベロスたちを狙った。紙一重でメカ触手を避ける。
「いっ……たぁ……っ!」
 クロエの肩を触手が貫いた。
「介すは焔の鼓動、弓絃葉二片、夕紅一雫。――さあ、どうぞ、召し上がれ」
 癒の策・天恵――テンケイ。
 ココのグラビティ。古き魔導書に記された、対象に与えることでその体力を大幅に回復させる治癒の丸薬を生成する。効き目は確かだが、丸薬の味はその日の調子により異なる。
「ありがとう、ココちゃん」
 生成された丸薬を口に含めば、ミントの香りが口いっぱいに広がった。
 回復を邪魔されまいとしてか、バレが炎を纏い機械ザメに突撃する。
「5メートルという巨体は、侮れませんね」
 ミリムは街中に張り巡らされた電線や電柱を足場代わりに移動し踏み込む。ブルーフレイムソードでの精密な攻撃は、武器や身体部位を狙ったもの。いくつかのメカ触手を叩き斬る。
「何企んでんのか、分からねえ連中だぜ。――酸塊!」
 煉司がバスターライフルを構える。命中した敵の熱を奪う凍結光線を発射した。煉司に応えて、酸塊が踏み込む。
「おう! どうりゃ!」
 両断――リョウダン。 水平に手刀を叩き込んだ。

●最後の一撃
 戦いは一進一退を繰り返していた。それでも少しずつ、確実に勝利へと近づている。
 煉司が抑制していた呪詛を一斉開放した。
「……テメェらの相手すんのもうんざりでな。サッサと終わらせるに限る。瘴霧一閃。―――呪縛、解放」
 冥獄絶刀・瘴――ミョウゴクゼットウ・ショウ。
 具現化した妖気で武具を取り込み、擬似的な妖刀を形成。放たれた斬撃は瘴気を纏い、斬り伏せてもなお、獲物を呪詛で蝕み続ける。
 メカ魚雷の連射。コンクリートの塊や街路樹、様々なものが空中を飛ぶ。
 土埃。それに紛れて、メカ魚雷がジンの頭上を狙った。
 それに気づいた亞狼が駆け寄り、ジンを足蹴りする。
「オラっ、子供はどけや」
「俺様は子供じゃねえ!…覚えときなぁこれでも大人だぁ」
 メカ魚雷は直撃こそしなかったが、やはり戦場。亞狼にも衝撃はあったはずだ。
 しかし大怪我には至っていない。ならば、今はこのまま押しきる。
 ジンは態勢を立て直しそのまま、ローラーダッシュの摩擦を利用して、炎を纏った激しい蹴りを放った。
 拳士にして剣士たる輝凛が喰霊刀――クラウ・ディオスを抜いた。
「甘く見ないことだね、僕は拳だけじゃないよ!」
 呪われた武器の呪詛を載せた、美しい軌跡を描く斬撃を放つ。
「皆、もう少し……! がんばろう!」
 ココがエクトプラズムで疑似肉体を作り、味方の外傷を塞ぐ。ずっとココは回復に徹している。
 酸塊が飛んだ。電光石火の蹴りは敵の急所を貫いた。
「よし、だいぶ弱ってきてるはずだぜ!」
 魚雷も触手の数も減らすことが出来た。戦いが始まった時に比べれば、空中を飛ぶ石やガラスの破片、木などの数も少ない。
 バレとトーリが機械ザメの左右から仕掛ける。
 バレは炎を纏い突撃、トーリは爪を非物質化し斬撃を繰り出す。
 確実にダメージは蓄積している。あと少し。
 クロエは機械ザメの尾が薙ぎ倒そうとしたビルの屋上を足場に、機械ザメの頭上をめがけて落下する。
「ブリッツベイル!!」
 ブリッツベイル。
 雷撃呪文を付加した戦斧。電光石火の動きで重たい攻撃を正確に叩きつける一撃。対地上の敵に効果的な攻撃。機械ザメがコンクリートの道路に沈み込むほどの重量級の一撃。これが最後、反撃も、逃げる隙も与えない。クロエと同時にミリムが地上から斬り込む。
「……――裂き咲き散れ!」
 緋牡丹斬り――ヒボタンギリ。
 ミリムのグラビティ。己の剣に緋色の闘気を纏わせ、素早く複雑な緋色の牡丹を描く斬撃を放った。

●勝利の後に
「よっし、勝ったー! やったぜ!」
 酸塊はぐっと背伸びをし、適当な場所に腰を下した。
 全長5メートルの巨体は既に消えている。今は戦闘直後でもあり、皆思い思いに足を止めたり、腰を下ろして休憩だ。
「後ぁ任せたぜ。……どれ一杯ヤってくか。赤ちょうちん赤ちょうちんっと♪」
「亞狼さん、どこに……って、行っちゃっいましたね」
 ミリムが亞狼の背に声をかけようとするが、それよりも早く亞狼はその場を離れていった。
「そんじゃ、怪我してるやつは手当すんぜ。皆、どうだ?」
 戦闘中、回復しながらとはいえ全てを治せるほどの余裕はない。切り傷、すり傷、戦闘に影響のない傷は後回しにしている。それらの手当だ。
 ジンはまず一番近くにいた輝凛へと歩み寄る。トーリも主人の後についてまわっている。
「僕は大丈夫だから、他の人を診てあげて。――あ、ほら、街の人たちも避難してる時に怪我したとかあるかもしれないし」
「それにしても、今後が気がかりだな」
 煉司が頤に手を当て、少し考え込むような素振りを見せた。ちらりとその視界に小さな影が映る。崩れたビルの影に滑り込むように隠れた影の後を追った。
 片膝をつき煉司はそっと手を伸ばした。
 子猫だ。あの戦闘の中、怪我もせずにいたらしい。
 一方クロエは少し周囲を見て回っている。戦闘後だ、ビルが崩れ、信号機や電柱は倒れ、道路は大きく亀裂が走っている。
「あら……派手に壊れちゃったね。きちんと修繕……だね♪」
「そうですね。少し休憩したら、街の修復や片付けに入りましょうか。バレもおつかれさま」
 クロエの言葉に頷きながら、ココは足元にきたバレを撫でた。

 少しの休息の後、街を修復し、ケルベロスたちは帰路についた。
 戦いに勝利した安堵とこれからについて少しの不安を覚えながら。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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