白の純潔決戦~悪魔の種子と白の巫女

作者:洗井落雲

●悪魔の種子
 大阪城周辺。
 その被害により人類は避難を余儀なくされ、今や人の存在しない場所となったはずの、その場所で、それは息づいていた。
 大阪城周辺の、一軒家である。その小さな庭には、奇妙な木があった。
 高さは、1mほどだろうか。先端に行くにつれて、枝は大きく、まるで掌のように広がっており、その中心には籠のようなモノがある。
 その籠の中には、緑色の赤子の様なモノが居た。
 それは植物の一部なのか、あるいは果実のようなモノであるのか、それは分からない。だが、その赤子は生きているかのように蠢き、まぶたをぱちぱちと開いたり閉じたりしている。
 一軒家の、大きなガラス戸が開いた。中から現れたのは、白い衣装を着た少女である。少女はその木へと近づくと、哺乳瓶の様な瓶を取り出して、中の液体を、『赤子』へと飲ませた。
 本物の子供をあやすような、優しい手つきである。
 さて、そんな少女が現れたガラス戸からは、家の中の様子が覗けた。大きなリビングの真ん中にあるテーブルと数脚の椅子。それに腰かけ、なにやらを話し合っている様子の3名の女性は、その全てが、同じ顔をしていた。
 当然、庭へと現れた少女も、同じ顔をしている。
 家族、という事ではあるまい。緑色の赤子をあやし、育てるための奇妙な共同体――。
 そこは、『白の純潔の巫女』と呼ばれるデウスエクス達の拠点の一つであった。

●拠点襲撃
「集まってくれたようだな。それでは、今回の作戦について説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、作戦参加のために集まったケルベロス達へ、そう言った。
 アーサーによれば、攻性植物の拠点となっている大阪城と、大阪市街地との間にある緩衝地帯――つまり、デウスエクスの拠点に近いため、避難が行われた市街地にて、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)や、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)らによる調査が行われたという。その結果、一連の白の純潔による事件の元凶と思わしき攻性植物が発見されたのだ。
「持ち帰ってきてくれた情報によれば、緩衝地帯に存在する住宅の何か所かで、白の純潔の巫女たちが、樹木型の攻性植物を守る様に集まっているのだそうだ」
 巫女たちによって守られているのは、『白の純潔』という、事件の元凶となる攻性植物。それから、『白の純潔の種子』と呼ばれる、白の純潔の巫女の生産プラントであると同時に、白の純潔本体が撃破された際に新たな白の純潔へと成長するという、白の純潔の予備のような存在の二種類だという。
「白の純潔を倒すだけでは、白の純潔の種子が成長し、新たな白の純潔が誕生してしまう。よって、今回の作戦は、全ての白の純潔の種子を倒した上で、白の純潔を撃破する、という流れになっている」
 今回の作戦は、隠密行動を行い、敵が油断している所を強襲する、というプランになっている。なお、襲撃の情報は、白の純潔の巫女たちにより他の拠点へと瞬く間に伝わってしまう恐れがあるため、ケルベロス達は『全チームが無理なく、かつ同時に攻撃できる』様にタイミングを合わせて市街地へと潜入し、奇襲を行うことになる。
「特別時間のかかるような行動や、隠密行動そのものの失敗などが無ければ、襲撃作戦開始の5分前くらいに攻撃地点に到着できると予測されている。後はタイミングを合わせて、同時に攻撃を行ってもらいたい」
 なお、大阪城周辺の緩衝地帯では、デウスエクスの仕業なのか、携帯電話などの無線通信は使えないようだ。また、狼煙やサイレンの様な、敵にも見られてしまうような方法で連絡をとろうとした場合、不審に思った巫女たちが警戒を強めてしまい、奇襲作戦は失敗となってしまうだろう。
「もし、攻撃開始タイミング以前で、敵が迎撃態勢を整えているなどの異変が発生した場合、何らかの要因で、他班が敵に発見されて、戦闘が発生した可能性がある。そう言った場合は、敵を発見次第、速やかに攻撃を開始してくれ」
 さて、今回襲撃するのは、緩衝地帯に存在するとある一軒家だ。そこでは、合計4体の白の純潔の巫女が、白の純潔の種子を守る様に生活している。
 ここにいる白の純潔の巫女は、見習のような存在で、数は多いが、強敵とは言えない。
 1体は、庭で種子の世話をし、残りの3体は家の中で何やら話し合いをしているようだ。
 もし奇襲作戦が成功していた場合は、敵は混乱して、戦闘力が大きくそがれると予測されている。
 白の純潔の種子は、戦闘能力はなく、移動などもできないため、撃破する事は簡単だといえるだろう。しかし、種子が攻撃された場合、巫女たちは決死の覚悟で種子を守ろうと行動を始める。種子を攻撃するのは、巫女を全て撃破した後にした方が良いと思われるが、もしこの性質を利用できる作戦があるのならば、先に種子を攻撃するのも有効かもしれない。
「大阪城の攻性植物を攻略するきっかけとなるかもしれない作戦だ。君達の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言ってアーサーは、ケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
罪咎・憂女(刻む者・e03355)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)
輝夜・形兎(月下の刑人・e37149)
天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)
大神・小太郎(血に抗う者・e44605)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)

■リプレイ

●ゴースト・タウン
 ケルベロス達は、大阪緩衝地帯へと足を踏み入れた。
 敵の完全な勢力圏である大阪城と、人類が生活を続ける都市部、その、間の地帯。
 そこは、あまりにも――静かすぎる場所であった。
 ここがデウスエクスの勢力圏であれば、デウスエクスの存在を感じることができただろう。
 ここが人の勢力圏であれば、人々の存在を感じることができただろう。
 だが、ここには、そのどちらもない。
 どちらの勢力圏でもないからこそ、どちらの勢力もこの場所では息をひそめざるを得ず、それ故にここは、敵対者同士の領土の接点でありながら、場違いな静寂に支配された場所でもあった。
 その静けさは、ある種の『寂しさ』を、ケルベロス達に感じさせたかもしれない。人類はこの地より去ったものの、残された建築物の大半は無事である。多くの住宅がその姿を残しながら、人の気配が一切存在しない――あるべきものが存在しないという強烈な違和感は、不安や寂しさとなって、この景色を見る者の心に訴えかけるのかもしれない。
「大阪ですか……被害は最小限に抑えたはずですが……」
 そんな景色を目に映しながら、罪咎・憂女(刻む者・e03355)は呟いた。大阪城近辺となればまた違った景色が広がっているのだろうが、ここは敵の勢力圏からは些か外れてはいる。
 あるいは、先の戦いによるケルベロス達の活躍が無ければ、この場所もまた、無残な景色を晒していた可能性は充分にあるだろう。この場所は間違いなく、ケルベロス達が戦いの果てに守り切った場所だ。
 なれば次は奪還。
「大阪城と、その周辺地域の奪還……その為の、第一歩。この作戦、必ず成功させましょう」
 倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)が言う。今回の作戦は、大阪城の攻性植物による一つの事件の根絶と、それに伴う大阪城奪還への糸口となるかもしれない物だ。
 作戦の成功イコール大阪の奪還と言うわけではないが、そのための足掛かりになるだろう。
「占拠されてから、かなり時間が立ってしまいました」
 憂女は一度、決意を固めるように頷いてから、
『少しでも開放がはやくなるように励むとしよう』
 そう続けた。憂女の言葉に、柚子が頷く。
「……行きましょう」
 少し緊張した面持ちで、天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)が声をかけた。手にした懐中時計に視線を落とし、攻撃開始の時間を、改めて確認する。
「まずは、攻性植物たちが住んでいるお家へ」
 芽依の言葉に、ケルベロス達は頷いた。
 ケルベロス達は、無人の緩衝地帯を行く。今回の作戦は、敵がひそむ拠点への、奇襲作戦となる。それも、複数の拠点へ、複数のケルベロス・チームによる同時奇襲作戦だ。その性質から、攻撃開始を敵に悟られるわけにはいかない。ケルベロス達は細心の注意を払い、道中を進んで行った。
 周囲に生き物の気配はないが、それでも緊張感と不安は消せるわけではない。道の先の角、或いは無人のはずの家の中。どこかに敵がいるような気もする。
 安全を確認し、極力物陰などに体をひそめ、目立たないように進む。
(「予知では、ちゃんとやれば充分間に合うって言われたんだ。これは難しいことなんかじゃない」)
 鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)が、胸中で呟いた。焦らず、落ち着いて。自分に言い聞かせるように。
 大勢の敵が見える中を潜んで進むのとは、また違った緊張感がある。何かから追い立てられるような感覚を覚えた者も、いるかもしれない。
「……人生何が役立つか分からんもんだなぁ」
 そう、苦笑しつつ呟く空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)は、このような状況下でも、冷静さと落ち着きを保ち続けている。
 伝授された忍びの技。それが、空牙が平静を保っていられる理由である。
 さて、ケルベロス達はその努力の甲斐もあり、敵に発見されることなく、無事に目的地へと到着することができた。住宅地に存在する、一件の戸建て住宅である。
「予定通りですね」
 時間を確認しながら、雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)が言った。予知の通り、作戦決行時刻の5分前での到着だ。ここまでの行動を、完ぺきにこなしたという事の証拠だろう。
 ケルベロス達が、慎重に中の様子を窺えば、事前情報の通り、『白の純潔の巫女』と呼ばれるデウスエクスの姿が見える。庭には、不気味な植物が生えており、その中心には緑色の赤子の様なものが蠢いている。これが、『白の純潔の種子』だ。
「う、話に聞いた通り……大きい!」
 輝夜・形兎(月下の刑人・e37149)の言葉に、
「確かに……人間みたいに大きくなんのかな?」
 種子である『赤子』を見やりつつ、大神・小太郎(血に抗う者・e44605)が答えた。
 種子は、本体である『白の純潔』が消滅した際、新たなる白の純潔へと成長するという特性を持つ。攻性植物である赤子がどのような成長を遂げるのかは不明だが――。
「ちゃんと気にしておかないと、ダメかもしんねーな」
 小太郎の言葉に、
「うん……っていうか、ずるいよね、アレ。元からああなのかな。それとも攻性植物の謎のパワーで一気に成長するのかな。うう、ウチも成長したい……」
 胸に手をやり、形兎が返す。何か会話が噛み合っていない気もする。まぁ、それはさておいて。
 巫女たちは、こちらの動きを察した様子はない。これは、自分達はもちろん、他チームのケルベロス達も今の所、敵に発見されていないという事をしめす。
 作戦開始の時刻が、刻一刻と迫る。現時点で他のチームと連絡を取る手段は存在しないため、全てのチームが最適な動きを行っていると信じ、予定通り、時間になったら攻撃を開始するしかない。
 ケルベロス達は、緊張の面持ちで、秒針が巡るのを待った。
 一秒。一秒。秒針が進む。緊張から、心臓が早鐘をうつ者も居たかもしれない。或いは冷静に、時を待っていたかもしれない。
 心境は様々であったが、時は平等に、進んで行った。
 そして。秒針が頂点を指し示し、作戦決行の時が訪れた。

●種子と巫女
 敵の拠点となる一軒家は、ブロック塀にて囲まれている。種子が存在する庭へと強襲するため、作戦開始と同時に、ケルベロス達は跳躍した。ブロック塀を利用し、高く、跳ぶ。
 庭には、種子と、その世話をしていた巫女がいる。物音に気付いた巫女は反射的に空を見上げた。憂女は、その巫女と、目が合った。一瞬の視線の交差。憂女は跳躍からの落下の勢いを乗せた跳び蹴りを、その巫女にお見舞いした。夜色のエアシューズ、『刻』の装甲が、巫女へと突き刺さる。
 蹴りの衝撃で吹き飛ばされた巫女が、
「ぴゅいいっ!」
 悲鳴をあげる。同時に、ケルベロス達は次々と庭へと着地する。
 オウガメタル『O.C.M.』をその身に纏った柚子が、追撃を仕掛けた。ウイングキャット『カイロ』と共に、巫女を殴りつけ/爪により斬りつける。
 ダメージを負った巫女は、よろよろと立ち上がり、一瞬、赤子へと視線を向けた。すぐにケルベロス達へと向き直ると、自身へと注意を引きつけるように、ぴゅい、と一声、鳴いた。
 人語を話す必要が無いのか、或いは、見習のような存在のためなのか。詳細は不明であるが、少なくともここにいる個体は、人語を話すことはないようである。
 ただ、それでも、赤子を守ろうとしている、という事だけは、ケルベロス達にも理解できた。
「だとしても! 男の人を誘惑して悪いことする植物は、成敗です!」
 愛奈は『トライセラフ』、『ライトアクスェイバー』を両手に携え、翼をはためかせた。低空を滑るように飛翔するや、ふとその姿が掻き消える。常人には、その姿を捕えることはできまい。自分自身の時間の流れを加速して行われる、速度と言う定義では捉えられぬ攻撃。
「これが、時空の調停者の力だ!」
 一瞬のうちに、巫女は複数の傷をつけられていた。その全てが、加速した愛奈の攻撃である。『クロノアバランチ』。時の雪崩は巫女を飲み込み、生かして帰すことはしない。
 家の中から、三体の巫女たちが現れた。襲撃に気付き、増援として現れた巫女たちは、口々に声をあげると、ケルベロス達を睨みつける。
「その存在――狩らせてもらうぜ」
 空牙が呟き、バトルオーラ、『憑装螺旋【殴羅】』を纏わせた蹴りの一撃を、巫女の一体にお見舞いした。巫女は慌ててそれを受け止める。痛みと衝撃に巫女が悲鳴をあげた。
 空牙は蹴りの勢いを利用して、跳躍して距離をとった。
「もぉっ! やっぱり大きいっ! 何食べたらそうなるんだよぉ!」
 若干の恨み節を乗せつつ、空牙と入れ替わる様に形兎が攻撃を仕掛けた。武器に治癒力を阻害させるグラビティを乗せた斬撃。『十六夜』と呼ばれる形兎の一撃が、巫女の体を薙ぐ。
「オレ様殺法、脚断剣!!」
 『人喰刀「月喰」』の刃に指を這わせば、銀色の刀身は赤黒い色へと変貌を遂げる。小太郎は形兎に続いて巫女へと斬りかかった。脚部を狙った斬撃。足を止める事を目的とした、『脚断剣』という技だ。巫女はその足に痛烈な打撃を受け、足を止めた。
「人の姿をしていても、デウスエクス。ならば――」
 足を止めた巫女へ、時雨の『名刀「カランコエ」』の刃が煌いた。一閃。次の瞬間には、ずるり、と巫女の首がすべり、地に落ちる。
「聖なるかな聖なるかな……いと気高き聖王女様、全てを見通すその瞳を持って我らをお導きください……」
 芽依の静かな歌声が響く。『慧眼の賛美(リトル・ヒム)』は小さな小さな奇跡を願う歌だ。その歌声は、聞く者の傷を癒し、その集中力を高めるという。
 巫女たちも、もちろん黙ってやられているわけではない。手に巻き付いた白い花を変貌させ、必死にケルベロス達へと攻撃を加える。我が身を投げうってでも、赤子を守ろうとするその姿に、芽依は少しだけ、心を痛める。
「でも……私達にだって、守りたい物があるんですから……!」
 心の痛みを振り切って、芽依は歌った。
『同情するつもりはない』
 憂女の放つバスターライフル、『捧』の光線が、巫女へと突き刺さる。
「貴方達の守るもの、その存在を、私達は看過できません……!」
 柚子の『O.C.M.』による拳の一撃が、巫女を殴り飛ばした。カイロは羽ばたきによる清浄な風を起こし、ケルベロス達の援護を行う。
 愛奈はトライセラフより時空凍結の弾丸を放ち、巫女を撃つ。それを追うように空牙は駆け抜け、
「敵さんの事情も、子供狙われる怨嗟も憎悪も――知ったことじゃねぇ」
 呟き、ドラゴニックハンマー、『異装旋棍【銃鬼】』へとグラビティを乗せて、叩きつけた。首から下げていたヘッドフォンは、戦闘開始時に、耳へと装着されている。
 敵と味方の関係である以上、余計な事を聞くつもりはない。その意思を表すかのように。
 形兎が簒奪者の鎌を投げつけ、巫女の体を切り裂いた。
「お前をやっつけて、終わりだっ!」
 小太郎が言って、バスターライフルによる射撃を行う。最後の一人となった巫女は、小太郎の光線を受けて、膝をついた。時雨が『名刀「カランコエ」』にて斬りつける。それをかろうじて受け止めながら、巫女はケルベロス達を睨みつけた。
 芽依はエクトプラズムによる仲間の治療を行う。巫女は叫びながら、白い花を変形させて、光線を放った。柚子がそれを受け止める。
 憂女の放った蹴りの一撃が、巫女へのトドメとなった。鋭い蹴りが突き刺さり、巫女は地に倒れ伏した。その死体は他の巫女と同様に、急速に枯れ、消滅する。
 護衛はすべて消え失せた。残るは、赤子――白の純潔の種子のみだ。
 予知通り、それは逃げる事も戦う事もなく、そこにあり続けた。てっぺんの枝の様な部分に取り付けられた籠の中では、赤子のような生き物が、きょとん、とした顔でこちらを見ている。
 状況が理解できていないのか、或いは、これすら擬態であるのか。
 それは分からない。だが、なんにせよ、ここまで来たのならば、やる事は一つ。
 ケルベロス達は意を決し、白の純潔の種子へと一斉攻撃を仕掛けた。途端、種子は大声で泣きだした。
 ケルベロス達の攻撃を受けても、種子はそう簡単に倒れる事はない。そのてっぺんの赤子も同様に。いずれも、この植物がまともなモノではないという事の証ではあるのだが、赤子の様な形状と、その泣き声が、ケルベロス達へ精神的なストレスとなってのしかかる。
 これが擬態であるのならば、見事としか言いようがない。だが、ケルベロス達は意を決し、攻撃を続けた。
 幾度目かの攻撃の後、種子の幹にあたる部分が、急速に枯れ始めていった。それは緑の赤子にまで波及し、その色を枯れた、茶色の物へと変貌させていく。
 それに合わせるように、次第に種子の声も小さくなっていった。数秒の後に種子は完全に枯れ、ボロボロと崩れていく。
 やがて風が吹くと、一斉に種子は崩れ去り、その塵だけが残ったのであった。

●強襲の終わり、反撃の始まり
 戦いを終えたケルベロス達は、周囲のヒールを行った。すぐに人が戻ってこられるわけではないが、それでも、ここに戻ってくる人のために。
「他のチームの方も気になりますが……ひとまず、作戦は成功という事でしょうか」
 柚子の言葉に、
「あたりに異変はないようですし……おそらくは」
 時雨が答えた。
「家の中は空っぽだったぜ」
 と、空牙。中に何か残っていたり、予備の種子でもいやしないか、と、念のため探索していたのだが、家の中はもぬけの殻だったようだ。
「種子は完全に消えたみたいだし、白の純潔事件もこれで終わりかな?」
 種子の枯れた後を探りつつ、形兎。
「でも、まだ攻性植物達は残ってるんだよな」
 小太郎の言葉に、ケルベロス達は頷いた。一つの事件の解決ははかれたのかもしれないが、大阪城付近は未だ攻性植物達に奪われたままだ。
「……でも、きっと、今回の事件が足掛かりになります」
 芽依が言った。その通りだ。今回の件を足掛かりに調査を行えば、或いは、何らかの反撃の手段が見つかるかもしれない。
「その通り! 反撃の時はこれからだよ!」
 びしっ、と天を指さして、愛奈が言った。
「そうですね。近いうちに、必ず」
 憂女が頷いた。
 ケルベロス達は戦いに勝利し、反撃の為の糸口をつかんだ。
 それが実るか否かは、これからのケルベロス達の動きにかかってくるのだろう。
 だが、今は、ひとまずの作戦の成功を祝おう。
 様々な思いを胸にしつつ、ケルベロス達は凱旋するのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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