白の純潔決戦~ロカ・フラ・ベイビー

作者:鹿崎シーカー

 古びた日本家屋の縁側が、ギシギシと軋み音を立てる。黒ずんだ床板を踏みしめながら歩くのは、古代ローマ人めいた羽衣を着た素足の少女の二人組。二人そろって同じ顔、紫がかった黒の髪と虚ろな紫色の瞳をしていて、首には金の輪、両の腕には白い花咲くツルが巻く。
 古い床を鳴らしつつ、家屋の角を曲がった二人は裸足で中庭に入り、庭の中央に生えた人の背丈程度に高い樹木へ歩み寄る。足を止め、ウツボカズラやハエトリグサが茂る木の頂上を見上げた二人の片割れが、口に手を当て声を張る。
「交代の時間ですよー」
「うん?」
 木の頂上から、二人と同じ姿の少女が顔を出す。彼女は一度頭を引っ込め、木の枝と草に囲まれた藤のカゴの中身に手を振る。飛び降りた彼女に続いてもう一人の少女が降りてきたのと同時、声をかけた少女が口を開いた。
「どうです? 種子の様子は」
「元気だよ。良く育ってる感じ」
 下りてきた方の片割れが答えると、樹上のカゴから赤ん坊の泣き出す声が飛び出した。下りてきた二人は木の上を見て肩をすくめ、歩いて来た二人に向き直る。
「寂しいってさ。行ってあげてよ」
「あたし達は少し休むよ。三時間したらまた来る」
「心得ました。ではごゆっくり」
 歩いて来た方の片割れが頭を下げて、木に居た二人が家屋の方に走っていくのを静かに見送る。二人の背中が角を曲がって消えたところで、残った二人は木の頂上までジャンプした。そろってカゴのそばに着地し中をのぞくと、敷き詰められた花のベッドで泣きじゃくる、植物で出来た赤ん坊の姿があった。二人は微笑み、赤ん坊に手を伸ばす。
「おーよちよち。どうしましたかー?」
「大丈夫ですよ。私達はここにいるので」
 赤ん坊を慣れた様子であやし始める樹上の二人。家屋の角からそれを見ながら、休息に入った二人の少女は顔を見合わせ笑い合った。
「向こう、大丈夫そうだね」
「これでこっちもゆっくり休める。……お茶でも飲もうか」
「さーんせーい!」
 そうして二人が家の奥に消えていく。一方の中庭で、機嫌の直った赤ん坊が嬉しそうに笑いながら少女達の手にじゃれついていた。


「よぅし。それじゃ、これにも決着つけようか!」
 気合いの入った声を上げ、跳鹿・穫は資料の束をめくり始めた。
 しばらく前から出始めている攻性植物『白の純潔』。その元凶と思われる攻性植物が、攻性植物の拠点となっている大阪城と大阪市街地間の緩衝地帯で見つかった。
 緩衝地帯とは、攻性植物に制圧されているわけでは無いが、一般人が住むには危険ということで避難が行われている市街地であり、ここの数か所で『白の純潔』の巫女たちが樹木型の攻性植物を守護するように集まっているらしい。
 守護されている攻性植物は『白の純潔』と、『白の純潔の種子』と呼ばれる『白の純潔の巫女』を増産し、かつ『白の純潔』本体が撃破された場合に新たな『白の純潔』となる個体だと判明している。つまり、『白の純潔』事件を完全解決させる為には、全ての『白の純潔の種子』を撃破した上で『白の純潔』を撃破する必要がある。
 皆には、この『白の純潔の種子』を撃破する役割を担ってもらうことになる。
 そして今回の作戦は、隠密行動と強襲する事をメインとして行うことになる。というのも、どこか一か所が襲撃された場合、他の白の純潔の巫女たちの間で情報が共有されてしまうのだ。こうなってしまうと強襲が行えなくなる可能性がある為、『全チームが無理なく同時に攻撃できる』ようにタイミングを合わせ、市街地へ潜入するという形を取る。
 しかし、道中には敵がいないため、特別時間のかかる行動や、隠密行動の失敗などが無ければ、襲撃タイミングの5分前には攻撃可能地点に辿り着くので、その後タイミングを合わせて強襲してほしい。
 ちなみに、大阪城周辺の緩衝地帯では携帯電話等の無線通信は通じず、狼煙やサイレンなどを使うとほぼ確実にバレてしまう。別のチームとの連絡を取る手段は無いと思ってほしい。また、強襲するより先に敵が迎撃態勢に入った場合は、別のチームが隠密行動に失敗した可能性が高いので、すぐに襲撃するように。
 戦場となるのは古びた和風の家屋で、白の純潔の種子は中庭にいる。人の背丈サイズの樹上に置かれた藤のカゴ、その中にいる植物で出来た赤ん坊がそれ。姿に違わず種子の戦闘能力はゼロで機動力も全くないため、撃破はまさしく赤子の手をひねるようなものだろう。
 ただし、家屋には種子を守る白の純潔の巫女が四体常駐し、うち二体は常に種子のそばで世話を焼き、別の二体は居間で休息している。彼女達はそれほど強いわけではないが、樹木を操る能力を駆使して戦う。特に、種子を攻撃されると決死の覚悟で挑んで来るようだ。
「大阪城も乗っ取られたままだけど、このままじゃあいられない。攻性植物達との決着にむけて、頑張って来て!」


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
マルコ・ネイス(赤猫・e23667)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)

■リプレイ

 木の上で、赤子をあやす二人の巫女達。簡素な服からのぞく素足や肩、うなじなどを遠目に見、マルコ・ネイス(赤猫・e23667)は赤くした顔を繁みに沈めた。その隣、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)がそんなマルコに目を向ける。
「どうか、した?」
「いや、どうもしねえんけどさぁ……」
 口ごもりつつ、マルコは中庭から目を逸らす。
「そのー……相変わらずすげえ格好してやがるなーと……」
「……へえ」
 平淡に返す無月の近くで、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)と緑のマントをかぶったミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が互いの腕時計を見比べる。ややあって、ジュリアスはそっとメリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)の腕をつついた。
「メリーナさん、最終確認です。時間、これで大丈夫ですか?」
「どれどれ?」
 首を伸ばしてメリーナがジュリアスの腕時計をのぞき込み、笑顔で頷く。
「はい、バッチリです。皆さんのも一応確認しておきます?」
「そうですね」
 そう言って、ジュリアスはミントへ肩越しに頷いた。ミントは腕時計を静かに外し、声を殺して呼びかける。
「さぁ、皆さん。ここからはこの時計が作戦を握ってます。タイミングをしっかり合わせる様にしてください」
 ミントの腕時計が木陰に身をひそめるメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)に渡る。浮かない顔のシエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)と一緒に自分の時計を確認したメアリベルが横を向くと、目を閉じた獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)が小声で何かを唱えていた。
「冷静に、冷徹に……お師匠に言われた通りに……振る舞わないと、ダメだ……」
「……ミス獅子谷?」
「んッ!?」
 小さく驚愕の声。慌てて手で口をふさいだ銀子は首を縮めてメアリベルにささやく。
「ご、ごめんね。何?」
「時間の最終確認ですって」
「ああ、うん」
 差し出された時計を受け取り、自分の物と見比べる銀子。彼女の暗い表情と、思いつめたシエナを交互に見つめたメアリベルは、膝を抱えて沈んだ面持ちで聞いた。
「あのね、ミス。メアリだって、赤ちゃん殺すなんて嫌。でも……災いの芽は、摘まないと。ミス・ジャルディニエも……わかってるでしょう?」
「…………わかってる」
「Compréhension……もちろんですわ」
 重く首肯する二人。一方ジュリアスが時刻を確め仲間達を見回した。
「さて、そろそろですね。時間は合っていますね? ではカウントします」
 八者八様、違った顔を浮かべつつ、わずかに腰を持ち上げる。空気が張り詰めていく中、銀河色の槍を構えた無月が不意につぶやいた。
「わたしも、赤子を殺すことに、思わない所が無いわけでは、ない」
「え?」
 聞き返す銀子の方は見ず、無月は巫女を真っ直ぐ見据える。重なるジュリアスのカウントダウン。
「3」
「けれど、わたしの優先は、すでに決まってる」
「2」
「地球の人々。あれが彼らの生活を脅かすのなら、
「1」
「赤子だろうと、容赦は出来ない」
「ゼロ」
 全員が一斉に繁みを飛び出す! 中央の樹木めがけて疾駆しながら、ジュリアスは耳から取り出し拡大した如意棒をアンダースロー投擲! ミサイルめいて飛翔する如意棒は驚き振り返った巫女の眉間に突き刺さる寸前で弾かれ宙を舞った。木製の薙刀を手にした巫女が走ってくるケルベロスを見咎め殺意を燃やす。
「敵襲!」
「はい」
 巫女二人が樹木を飛び降りた瞬間、素手の巫女が手に木のガントレットを形成。木籠手の巫女は薙刀の巫女と一緒に地を蹴り、籠手から槍じみた触手を伸ばす。頭上で両手を固めた銀子は迷いを浮かべた両目をつぶると、真紅の粒子をまとった拳を振り下ろした。
「こん……のぉぉぉッ!」
 粒子が吹き荒れ仲間達の追い風となる。前線を突っ切るメリーナと無月が伸びる触手を回避し、短剣と槍で輪切りにしながら巫女へ肉迫! 二人の真上に跳び上がった巫女が薙刀を振り下ろす。
「でいッ!」
 素早く下がった二人をかすめ刃が芝生を凹ませ、土を巻き上げる。薙刀の回転斬撃で払った先に二人はおらず、代わりに歌うメアリベルと炎のバリスタが視界に飛び込む。
「誰がクックロビンを殺したの? それは私とスズメが言った。私の弓に矢を番え、私が殺したクックロビン!」
 放たれた爆炎の矢が伏せた巫女の頭上を過ぎる。顔を上げた彼女の前にミントが立つ。
「なかなか機敏ですね。ならばまずは、その素早い動きを奪ってあげます」
 ミントの手からトゲ付き鉄球が砲丸じみて射出! 顔面に直撃を食らった巫女が後ろに吹っ飛び、バウンドした後芝生を転がる。それを見て口元を歪ませる木籠手の巫女背後に回ったメリーナが微笑を浮かべてささやいた。
「どうしました? 私はこちらですよ?」
「ッ!」
 即座に裏拳を打つも姿無し! 隙を突いた無月が心臓狙いで放った刺突を穂先をつかんで防御した巫女は、籠手から触手を飛ばして反撃。身を反らした無月の額を触手がかすめる後方で上がった火柱が巨大な猫の形を取り咆哮! 左目から炎をまき散らしたマルコが巫女達を指差す。
「焼き尽くせ、ビリーッ!」
「Sauvetage! ヴィオロンテ!」
 シエナのイバラが二本腕を作って伸ばし、無月とメリーナを引き戻す。直後、猫の吐いた炎が二人の巫女を飲み込んだ。目を凝らし、ギリギリ種子の樹が無事なのを確かめたシエナの体が大きく揺れる。そして脇腹に刺さった木製の矢を見てハッと目を見開いた。
「Frapper……どこから……!」
 次の瞬間、日本家屋の障子をぶち抜き木の獅子と全身鎧を着た人影が出現! 獅子にまたがり矢無しの木弓を引く巫女と、逆トゲを無数に生やした木鎧を着た巫女。鎧の巫女が憤怒に叫ぶ!
「なにしてんのよッ!」
 鎧の巫女両手首が木の短槍を射出! マルコは左目から炎の大剣を引っこ抜いてそれらを弾き、一気に距離を詰めて上段斬撃を振り下ろす。炎剣を交叉した腕で防いだ鎧の隣で木の獅子が中庭にダッシュ。弓の弦を離すと同時に獅子の口が矢を放ちメアリベルの膝を射抜いた。
「きゃっ!」
 尻餅をつくメアリベルに跳びかかる獅子の前に、バッグ型の影を七つ侍らせたビハインドがインターラプト。指揮者じみてビハインドが腕を振ると共に飛翔した影が獅子の顔に次々命中し爆発! 押し返され着地する獅子の脇腹にミントの蹴りが炸裂した。炎のイバラに覆われた靴が木で出来た腹を軋ませる。
「んっ」
 蹴り足が振り抜かれ獅子が吹き飛ぶ。横転せず焼け野原を踏みしめて制動をかけた獅子の背中で、巫女が改めて木弓を構えた。彼女の隣に炎を振り払った籠手と薙刀の巫女、鎧の巫女が傍に降り立つ。木籠手は焦げ付いた腕に目を落とし、嫌悪をにじませた顔でぼやいた。
「……何が目的でしょう」
「Répondre……種子ですわ。ひとつ、お聞かせ願えますの?」
 応えたシエナは言葉を切って、巫女達の背後に立つ木に目を向けた。響いてくる赤子の泣き声。
「Demander……種子に、スペアの役割を放棄させる方法はありませんの? それに、あの子にも名前があって、貴女方も役目とは別にあの子を愛しているのでは?」
 沈黙。木籠手の巫女はシエナの真意をはかるようにじっと見つめ、やがて呆れ顔で溜め息を吐いた。
「何を言い出すかと思えば……くだらないことを」
 木籠手の巫女の視線に射抜かれ、シエナがぐっと息を呑む。
「あの子は未来の白の純潔。私達はそれを庇護するために居ます。全ては始めから決まっていること。それ以上でもそれ以下でもありません」
 四人の巫女が身構えて、空気が一気に張り詰めた。
「立ち去りなさい。あの子には指一本とて触れさせません」
「あら……決裂しちゃいましたね」
「まあ、仕方ありませんね」
 苦笑するメリーナにジュリアスが返す。唇を噛み、ドレスの裾をぎゅっと握るシエナを横目に彼らも構えた。
「ともあれ、子を慈しむは立派な者である証拠。とはいえ貴方方とは生存競争をしている間柄。確実に一人ずつ討たせて頂きます。……攻撃した後に言う言葉でもないですがね」
 瞬間、両陣営が同時に動いた。疾走する味方の後方で銀子は扇で素早く紋様を描く!
「陣営・白き獅子の陣!」
 白銀の光に包まれるケルベロス達。その真っ向から猛進する巫女達のうち木獅子の巫女が弓を引いて獅子の口から矢を繰り出す。三発順番に撃たれた木の矢を無月は槍を取りまわして斬り上げ斬り下ろし下段からの突き上げで全て両断! 飛びかかる獅子に狙いを定めた。
「ミント、行くよ」
 無月の腕が閃き連続突きと高速斬撃を獅子の顔面に叩き込む! 獅子の背より跳躍し無月の頭上をイルカじみて飛ぶ木弓の巫女にミントは銃を全弾射撃。鉛弾の雨を受けつつも木弓の巫女は弦を弾き、ミント背後の地面に生えた矢を射出。木の矢が肩に突き刺さる!
「つっ……」
 わずかに体勢を崩すミントの宙返りして無月を照準。細切れにされて爆散した獅子の尾を矢に変えて弦を引き絞る彼女に、無月が振り返った。獅子に飛び乗りさらに跳躍! 身をひねりながら巫女に突き出される槍。踏みとどまったミントの銃口が無月を狙う巫女を捉えた。
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 弾かれた銀の弾丸が巫女の腕を破壊! 獅子の遺骸に生えかけた矢が止まり、無月の槍が巫女の胸を貫通殺した。空中で噴き出す血飛沫を見上げ、シエナは引き結んだ唇を開く。
「S'engager……ラジンお願いしますの……」
 シエナに応え蜂型の子竜が羽音のような声を出して飛翔した。直後、シエナの背負った巣箱から大量の蜜蜂が噴出! 天まで一直線に伸びた蜂の群れはラジンシ―ガンを追って空中で方向転換、ジュリアスと打ち合う薙刀の巫女へ急降下する! 如意棒で薙刀と鍔迫り合いつつ、ジュリアスは巫女の瞳をのぞき込んだ。
「子育てを悪とは言いません。しかし、貴方方が真に共存を望んでいたならばこの戦いはおきていません。それだけが親としての失敗です」
「共存?」
 薙刀と棒が擦れ合い、耳障りな音を立てる。
「あなた達はただの贄。将来、あの子に食い潰されるのが運命」
「ならば、余計に止めねばなりませんね」
 ジュリアスが押しけた巫女に蜂の群れが殺到! 薙刀で素早く撃ち落としていくも迎撃を掻い潜った数匹が足や腕に針を刺す。巫女は頭に針を突き立てに来るラジンシーガンをなぎ払って蜂の群れを斬り払い、ジュリアスに刺突を繰り出した。後ろに下がるジュリアスの手前で刃が伸び胸を貫く。その時!
「ハックション!」
 メアリベルのくしゃみと共に巫女の足元から生えたイバラが巫女を縛り上げ、赤いバラを無数に咲かせた。巫女の全身くまなくイバラに締め付けられていく中、シエナの植物が薙刀に巻きついてへし折り、ジュリアスの傷を癒やす。その光景を遠く見ながら、巫女は大輪の薔薇を咲かせるイバラに覆われ尽くした。他方、腹に楔めいて短槍を打ち込まれたマルコが鎧の巫女に引き寄せられる。
「おわあッ!?」
 短槍と繋がった手首の木鎖を手繰り寄せた鎧の巫女は飛来するマルコの胴にトゲまみれのパンチ! 吹き飛ばされるも再度引っ張られた彼は大上段に掲げた大剣を巫女の脳天に振り下ろす! 大剣を防御した鎧の腕がひび割れた。
「おらおらおらぁッ!」
 気勢を上げて滅多打ちにするマルコを木の触手が羽交い絞めにし、締め上げる。触手でマルコを握る木籠手の巫女。そのうなじが斬られて血をまき、触手が輪切りにされて地面を転がる。
「ほら、私はこっちに居ますって!」
「このッ……!」
 振り向きざまの一撃を屈んで交わしたメリーナが大きく跳び上がった。ムーンサルト回転しながら背後に周り背中を袈裟掛けに一閃。よろめく彼女にもう一閃!
「もう、よく見て居て下さいよー」
 メリーナは笑いながら飛んでくる裏拳を回避。木籠手の振り回す触手をすり抜け、周囲を巡りながら肩や素足を引き裂く。全方位に闇雲に攻撃する木籠手の巫女が背後に影を見て腕を振り回した瞬間、零距離密着したメリーナが巫女の首に刃を当てていた。
「残念。ここです」
 短剣が横薙ぎに振るわれ、巫女の首が落とされる。地に転がった巫女の目に、鎧巫女と向き合うマルコが映り込む。
「ニャアアアアアアアッ!」
 炎剣のひと振りを片腕で受け止めた鎧の巫女が刃を押し返してアッパー! 逆トゲがマルコの肉を服ごと抉るのと同時、彼の体に銀色の風がまとわりついて傷口をふさぐ。鎧巫女の懐に飛び込んだ銀子はマルコの短槍を引っこ抜いて殴りかかった。
「うあああああああッ!」
 繰り出される拳のラッシュ。胸元を中心に広がる紋様。神速で放たれる鉄拳のラッシュが木の鎧を粉々に打ち砕き、頭を覆う兜を壊す。露わになった巫女の瞳と銀子の目が合う。憎悪と憤怒を込めた視線に、銀子の顔がくしゃりと歪んだ。
「見ないで……そんな目で見ないでっ!」
 加速するラッシュが巫女の顔から胴体までを乱舞する。骨がへし折れる音を幾度も響かせた銀子は大きく腕を引き絞った。渾身のボディブロウで腹を撃ち抜かれ、巫女の体は水風船めいて破裂した。


「赤ちゃんおちた、ゆりかごおちた、みぃんなおちた」
 シエナに抱えられた種子をあやしつつ、メアリベルが優しく歌う。指にじゃれつく種子。腕時計に目を落としたミントが声をかけた。
「そろそろ時間です」
「……そう」
 悲しげに言い、メアリベルは種子から手を離して数歩後退。代わりに進み出たジュリアスは仲間達が無言で見つめる中、赤子の頭を手刀を入れる。パックリと割れ、即座に枯れて崩れていく死骸をやるせない表情で見つめ、銀子がぽつりとつぶやいた。
「これで……良かったんだよね」
「なんとも言えません。ただ、生かしておけば、そのうち近しい人が死ぬ。私がそう予測したというだけです」
 落ち着いた口調のジュリアスに、無月が無言で首肯する。メリーナは空になった腕を見下ろすシエナの両肩に手を置き、穏やかに諭す。
「ちゃんと伝わっていますよ。大丈夫。……ね?」
「Répondre……感謝しますの」
 沈黙。重い空気が周囲に流れ、ややあってジュリアスが切り出した。
「さて、一度帰還しましょう」
「その前に探索しようぜ。何か見つかるかもしれねえし」
 立ち去っていく仲間達の最後尾に呼びかけたマルコはふと立ち止まり、種子の死骸を振り返る。死骸に屈み、指先で触れたメリーナの背中。
「ごめんね。貴女が人を惑わすものになるなら……助けて良い理由は、見つけられないから」
 静かに歌い出すメリーナを複雑な顔で眺めるマルコ。彼は割り切れない表情で、溜め息を吐く。
「すまねえな。お前倒さなきゃ、被害がふえんだよ……」
 そう言って、マルコは再び背を向けて歩き出した。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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