千影の誕生日~夏のお山のシマエナガ

作者:森高兼

 綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)は巫女修行のために北海道の山林を赴いていた。その山は野鳥観察にやってくる者もいる。
(「ここで良いでしょうか」)
 人の来なさそうな場所を見つけると、1人用の小さなゴザを敷いた。
 瞑想しようと正座した千影に話しかけるように、5羽の小鳥がとっても愛らしい鳴き声を上げてくる。
(「あの小鳥達は『シマエナガ』ですね」)
 不意に、千影の眉間目がけて体当たりを見舞ってきた1羽のシマエナガ。その後に距離をとって睨んでいるようだけど、瞳は円らだ。
 うっかりと縄張りに入ってしまったのかと思って、千影が若干まごまごしながらもゴザを回収しようとする。
 そんな千影の頭飾りに……4羽のシマエナガは左右2羽ずつに分かれてバランス良く乗っかってきた。環境のおかげで随分と人馴れしている子達らしい。1羽だけがちょっと元気過ぎたのだろう。
(「このままでは動くこともできませんっ」)
 まだ少しまごついている千影が、そっと両手を頭飾りに近づけて人差し指の上に誘ってみた。
 4羽のシマエナガは素直に移ってくれて、ふと先程よりも長くさえずってくる。それは間もなく誕生日を迎える千影に、祝福の歌を贈っているみたいだった。

 イベントのことを耳にしてやってきたケルベロスに、サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)が告げてくる。
「詳しい話は千影から聞いてくれ」
「皆さん、夏のシマエナガに会いに参りましょう!」
 千影は相変わらず何事にも一生懸命な様子でイベント内容を伝えてきた。
 『雪の妖精』と呼ばれるシマエナガは、愛称の通りに冬の姿が有名な白っぽい小鳥だ。一言で説明すると、寒い時期にふっくらもふもふしている。
 しかし、現在は夏の終わり頃。夏場はすっきりしているという。
 時期外れにもかかわらず、千影が両拳を握り締めながら企画を練った理由を熱弁してくる。
「納涼の意味もありますが。シマエナガは夏にあまり出会えないのです。夏の姿に興味はありませんか?」
 ひょっとしたら、他の小鳥と変わらない……なんて感じるかもしれないけど。
「夏のシマエナガを近くで眺めるチャンスに違いはない」
 サーシャの捕捉も確かで、新たな魅力を発見できるだろうか?
「本来縄張り意識の強いシマエナガですが、今回向かう山林の子達はネットに包んだ脂身を指定の木々に設置する給餌がとても有効的です。試したい方は申し出てくださいっ」
 大体の説明を終えても熱い視線を送ってくる千影。彼女の瞳には夏の暑さにだって負けないような熱意が帯びていた。


■リプレイ

●こんにちは、シマエナガ
 本日は晴天だった。気温も高くないから、ケルベロス達が野鳥観察するには最適の環境だろうか。
 シマエナガをびっくりさせないように、緋色が入山前にハイテンションで千影を祝う。
「誕生日おめでとーう! 次の1年もすばらしくいい年になりますよーに!」
「ありがとうございます。赤星さんの1年も素晴らしいものになると良いです」
 千影はもう知らない仲じゃない緋色のノリに慣れてきたみたい。でも、やっぱり真面目だ。
 皆で山林を進んでいくと、シマエナガの鳴き声が耳に届いてきた。
 緋色がデジタルカメラを持ってカモフラージュネットを被る。だが鷹のポーズで全て台無しかも?
「うまくいったらだけど、綾小路さんとシマエナガが一緒に写ってる写真撮ってあげる」
「え、えっと……」
 ツッコミを求められているのかと勘違いしていそうな千影。
「大丈夫大丈夫」
 両翼を広げた鷹のごとく、緋色は千影の周囲を一周してみた。絶対に大丈夫じゃない。
 知らぬ間に枝の上に並んでいた6羽のシマエナガが、威嚇の鳴き声を上げてくる。緋色に体当たり後、3羽は千影の頭飾りに乗った。もう半分の子達も両手を上げた彼女の人差し指に合流する。
 この山のシマエナガは基本的に人馴れしているらしい。
(「最高のシャッター・チャーンス!」)
 電光石火の早業にて構えたデジ一で、緋色は千影達を激写した。シマエナガ達には一目散に飛び去られたものの、得意気な顔で画像を表示させる。
 記念写真を確認した千影が……自然な微笑みを湛えてきた。

 魅惑のシマエナガを探すホリィとボクスドラゴン『サーキュラー』は、前方から歩いてくる千影を目にした。
「千影さん、お誕生日おめでとうー。シマエナガさんは写真で見たことあるけど。もふもふなのは冬の姿だったんだね」
「はい、私も初めて知りました。ですから、皆さんに紹介したいと思ったのです」
 その珍しい姿を直接拝むために探索を再開する。
「いっぱい歩いて探そうね、サーキュラー」
「きゅー♪」
 サーキュラーはアザラシとかアシカっぽい見目で、その赤ちゃんのような愛らしき鳴き声で返事した。シマエナガにだって引けを取ってはいないだろう。
 山林の空気は美味しいけれど、シマエナガに早く会いたい。脂身を使えば楽だったのだろうか。
 ふと閃きを発揮するホリィ。
「そうだ、サーキュラー」
「きゅよ?」
「ちょっと羽ばたくフリをして鳴いてみて。仲間だと思って出てきてくれるかも」
 遠方にいるシマエナガにも聞こえるように、サーキュラーが怖がられはしなさそうな大きさで鳴いてみる。
「きゅよー」
 少し経ってから、6羽のシマエナガはこっちに物凄い勢いで飛来してきた。
「あれはもしかして……!」
 歓喜したホリィだったが、シマエナガ達に素通りされる。次の瞬間、サーキュラーに炸裂するマシンガンタックルを目の当たりにした。
「……なんで? もしかして、大きなシマエナガが縄張りを荒らしてると思われてる!?」
 警戒しているというよりも単なる興奮状態だ。サーキュラーの鳴き声に誘われる以前に……得体の知れない存在にでも遭遇していたのかもしれない。
「誤解、解かなくちゃ」
 主のホリィが慌てふためいているのに、サーキュラーは案外面白そうにシマエナガからぶつかられるのだった。

 ノルとグレッグはお互いに『動物の友』を発動して、シマエナガの受け入れ態勢は万全となっていた。
 満を持して4羽のシマエナガを発見すると、グレッグが共に生きる相思相愛のノルと身を寄せ合って小声で話しかける。
「物音にも注意するべきだろうか」
「そうするよ」
 グレッグに倣って声を小さくしたノルは、自身がドキドキしながらも慎重に人差し指を掲げてみせた。すぐさま降りてきてくれた2羽のシマエナガを丁重に出迎える。
 とっても軽く、夏で一般的な小鳥のサイズになっていてもシマエナガの白さは健在だった。しきりに円らな目で瞬きしたり、小首を傾げたりしてきて忙しない。
 ノルが嬉々としてシマエナガに囁く。
「お前たち、夏も冬もかわいいね。会えてよかった」
 気持ちが伝わったのか……シマエナガ達は交互に鳴いてきた。
 初めてのシマエナガに和むグレッグが、ノルとの穏やかな一時に幸福感で包まれる。新たに小さな命を招くことを彼の空いた手によって促されて、つい躊躇ってしまった。
「驚かせてしまわないだろうか?」
「大丈夫、鳥は素早いから驚けばちゃんと逃げるよ」
 ノルの温もりに勇気をもらったから、そっと人差し指を差し出してみせる。待っていましたと言わんばかりに、2羽のシマエナガから細い脚で指に掴まられた。
「少しこそばゆいな」
「一緒に仲良くなれたね」
 シマエナガと戯れているとノルに笑いかけられて微笑を返す。
 2人と笑い合おうとするように、それぞれの手でくつろいでいたシマエナガ達も揃ってさえずってきた。
 ノルが愛おしいグレッグの手をとる。
「冬も一緒に会いに来よう。約束だよ」
「……約束だ」
「また会いにくるね」
 優しく語りかけられたシマエナガ達は、思い思いの向きや角度できょとんと小首を傾げてきた。

 給餌する場所を見極めるべく、イッパイアッテナはミミック『相箱のザラキ』と山を歩き回っていた。その道中で千影とすれ違って、祝辞を述べた後に褒めちぎる。
「優しく芯のある千影さんは、良い山をよくご存じなのですね。またまた良い場所を共有してくれるなんて……やはり優しい」
「きょ、恐縮です」
「私達もシマエナガと触れ合えたりするのでしょうか?」
 期待を膨らませていて声を張り上げそうだったけれど、静かに観察するために堪えた。
 千影も声を抑えつつ、真顔で力強く言ってくる。
「それはもちろんですっ」
 人の言葉を照れながらも素直に受け止めるし、相手のことは全力で肯定してくる。それが千影という人間なのだろう。
 改めて称賛の意味を込めて、イッパイアッテナが千影に小さな拍手を送る。
「それでは、相箱のザラキに試してもらいますね」
 牙のある口は絶対開かん……そう固く決意していたザラキ。蓋の隙間から絞り出したようなエクトプラズムの手で横合いの木に脂身を設置する。
 イッパイアッテナは移動していく千影に手を振った。
 すでに付近までは来ていたらしく、シマエナガを含めた小鳥達が鳴いてくる。あくまで不定期の給餌だからこそ、即座には食いついてこない。いつも喧嘩はしないそうで、ただ脂身は凝視している。
 我慢できなくなった3羽のシマエナガは、くりくりの目と同じくらいの小振りなクチバシでお腹を満たしていった。その子達にとってザラキは美味いものをくれた親切さんという認識か、蓋の上で羽休めしてくる。ちなみに体をちゃんと綺麗にしてからだった。
 頭を痒そうにしているシマエナガがいて、イッパイアッテナが頭頂部を掻いてあげる。『動物の友』のおかげで、目を細めてうっとりしたかと思えば懐かれた。
(「千影さんの言った通りでしたね」)
 まったりと念願のもふもふを楽しむとしよう。

 奈津美が通りかかってきた千影に祝いの言葉を贈る。
「千影、誕生日おめでとう」
 ファミリアロッドである小動物のシマエナガ『白雪』とルリビタキ『藍』、黒猫のウイングキャット『バロン』は奈津美の周りで羽ばたいていて、実は団体様だ。
「野生のシマエナガを見るのは久し振りだわ。素敵なお誘いありがとね」
「こちらこそ皆さんで来ていただき、ありがとうございます」
 律儀に全員へとお辞儀してきてから、千影は見回りに戻っていった。
 奈津美が貰っておいた脂身を手近な木に吊るす。
「これで良しっと。来てくれるといいなぁ」
 後は木の側にシートを敷いて待機していればいい。
 しばらくして、シマエナガ以外もいる小鳥の群れがやってきた。数分経過すると脂身に飛びついていく。
「冬みたいな丸っこさはないけど……夏のシマエナガも、やっぱりかわいい」
 緑の中で白い羽毛の映えるシマエナガに感心する奈津美。
 シマエナガの中でも特に小柄な1羽が、奈津美の指に乗っている白雪にくっついてきた。諸々の条件が重なっていて若干寒いのかも。仲間より暖かそうな同種の方が良かったらしい。思う存分温まると仲間の傍に帰っていった。
 名残惜しいと訴えかけてくるような瞳の白雪を……奈津美は黙って飛び立たせた。突っつくような藍とバロンの眼差しも彼女に向けられる。
「あなた達も少し遊んでくる? 他の鳥の邪魔にならないようにね」
 シマエナガ達は太い枝に腰を下ろしたバロンの白翼に藍や白雪と潜り込んで、至高のもふもふタイムを始めた。何だかんだ仲がよろしい。

 姓がノクトのルゥ、リアン、クルスは親戚同士で参加していた。
 ボクスドラゴン『アラクネ』を抱っこしながら、ルゥが心情を吐露する。
「アラクネも、いるから、四人いっしょ、だね! 嬉しい……」
「もふもふさん、なでられるかな? お友達になりたいの!」
 リアンは右腕に抱えているパンダのぬいぐるみを抱き締めた。
「4人で出かけるのは久しぶりだよ」
 皆と久しぶりのお出かけではしゃぐリアンを……猫かわいがりしたくなってきたクルス。
 ルゥが今にもリアンを甘やかしそうなクルスに頼んでみる。
「脂身の入ったネット、クルスなら、高い所につけれる?」
「少しは高いところにつけられると思うよ」
 身長は3人の中でクルスが一番高い。彼が誰よりも適任だろう。
「脂身さん食べにきてくれるかな?」
 リアンはふわふわのサモエド尻尾を揺らした。
 給餌の用意を終わらせて、クルスがシマエナガの来訪を祈る。
「ありがと、ありがと、クルス」
「静かに待ったほうがいいの?」
 ルゥに厚く労いの言葉をかけられつつ、そわそわして首を傾げてきたリアンを一旦落ち着かせようと少女の頭を撫でた。
 皆の進んできた道から来た千影が、場の空気を読んで引き返そうとしてくる。参加者名簿から関係性を知っていたのか。
 クルスは後程に千影の誕生日を祝うなどの事を考えていた。丁寧に一礼すると、彼女からも深々と一礼されて……それだけで十分だったみたい。これで心置きなく皆との時間を大切にできそうだ。
 千影が去って間もなく、脂身に釣られてきた8羽のシマエナガ。
 シマエナガ達の到着に高揚するも、ルゥが大声に気をつける。
「シマエナガさん、しろくて、かわいいの」
 あるシマエナガは体を90度くらい倒しながらも平然と脂身を食べていた。意外とお食事の仕方が豪快である。
 2羽のシマエナガはごはんと全身お手入れを済ませてから、それぞれリアンのサモエド耳の上でうとうとしてきた。
 寝顔は拝見できないリアンだけれど、シマエナガが密着してくれたことを喜ぶ。
 アラクネを片手で抱いたルゥは、2羽のシマエナガを指に乗せてリアンと一緒に顔を覗き込んだ。
「かわいい、ね!」
「かわいいの!」
 ルゥの胸の中で、アラクネが首を伸ばそうとする。
「アラクネも、みたい?」
 そう訊かれて意思表示した。
 サモエド耳に居座るシマエナガ達に、リアンがお願いするように声をかける。
「リアと遊ぼ?」
 指を上げると移ってきてくれたシマエナガ達を、もう片方の手で撫でたりもふったりした。ほっこりしている子達を顔の近くに運ぶと擦り寄られて、今度はこっちがほっこりだ。
 クルスも4羽のシマエナガを両手へと歓迎して癒されていた。リアンやアラクネを抱くルゥとは肩を並べている。
「山の神様に感謝だね」
 時間が許す限り、皆はシマエナガ達との思い出を刻んでいくのだった。

 千影やサーシャとシマエナガを観察したい寝猫に、絶好の機会が訪れる。離れた位置に丁度2人で居るところを目撃したのだ。
 右角に1羽のシマエナガが止まっているため、動くに動けないらしいサーシャ。
「やぁ、寝猫か」
「そちらに行けず、申し訳ありません」
 もはやお馴染みになっているのか、シマエナガ達は千影の両手と頭飾りを陣取っていた。
「気にせんといてや」
 寝猫がシマエナガを2人と比較して、本と違って一際ちっちゃいという印象を受ける。間近で見つめられたらノックアウトしちゃいそうだとしても接近するしかない。首に『私は木』というプレートを掛けて、両手に枝を持ちながらにじり寄っていく。
「そ、その……今の格好で参られると……」
 何らかの既視感が爆発した千影は、困惑の表情で口ごもってきた。
 千影の代わりに、サーシャがはっきりと忠告してくる。
「まずいかもしれないな」
 でも、心を無にしている寝猫には無意味だった。
 シマエナガ達が一斉に飛び立っていなくなる。これまたお約束だろう。
 それと同時に、寝猫の心が帰ってきた。とりあえず、シマエナガを呼び込むために一肌脱ぐまでもなかったようだ。目に焼きつけることはできたから、腰を休めようと2人との談笑に興ずる。
「千影はん、お誕生日おめでとうやな。北海道まで来て修行なんて、真面目な子や。おばちゃん、感心するばかりや」
 涙腺が緩くなってきているらしく……眉尻から涙を零した。
 千影が渋い藍染の手拭いを差し出してくる。
「自然に身を置くことは好きですので。そのおかげで貴重な体験をすることができました」
 せっかくの気遣いを断る理由がないため、寝猫は手拭いを借りた。
「観察終わったら、皆でお祝いの赤飯とお重の御節食べよな」
 イベント後のちょっとしたお楽しみになってくれたら幸いなことだ。

 寒がりのシマエナガもいたように、山の気温は若干低いかもしれない。
 木陰で涼んでいたミリムが、千影を見かけて呼び止める。
「千影さん、18歳の誕生日おめでとう! 今年の夏は特に酷い猛暑だったから、お誘いすごい助かったよ」
 説明の際に放ってきた熱視線のことも、話のついでに触れてみた。
「お、お恥ずかしいです……」
 ちょっと縮こまっちゃってくる千影。
 ミリムに千影を困らせる気なんてこれっぽっちも無く、早々に話題を変える。
「白くて丸々とした可愛い小鳥、シマナエガだっけ。図鑑で調べてきたけど、まだ実際に見ていないから楽しみなんだ。脂身は木に付ければいいんだね?」
「どうぞっ」
 まだ赤面している千影にネットの巻かれた脂身を手渡された。いつでも仕事はしっかりとこなす、ある意味で器用な照れ屋さんだ。
 千影を見送ると、ミリムは木をよじ登った。途中で動物に妨害されるかとも思っていたものの、何事も起こることなく無事に脂身を取りつける。
 シマエナガ達が小鳥の群れと共に姿を現してきた。
「可愛いー!」
 実物のシマエナガを眺めながら、長毛の尻尾を振るミリム。左に右にリズムが軽快な尻尾で、1羽のシマエナガからはえらく反応されてしまった。恐る恐る後退りする。
「尻尾には止まらないで下さい」
 背後には木があって、完全に逃げ損ねた。
 シマエナガがミリムの尻尾へとしつこく迫ってくる。その場で回り出した彼女の尻尾を捉えるのは難しいけれど、気になってしょうがないから諦めるつもりはないらしい。
 ミリムとシマエナガの不毛な格闘は……しばらく続くことになりそう。

 さえずりに導かれながら広い空間に辿り着いて、宿利とラウルが枝の上で密集していた7羽のシマエナガと出会いを果たす。
 宿利はお気に入りのシマエナガさんストラップを手に乗せていて、本物と見比べてみた。
「夏毛だと大分、雰囲気が変わるけれど。やっぱり可愛いね!」
 上機嫌で明るい宿利の声に、ラウルが顔を綻ばせる。
「少しスリムなのも、可憐で魅力的だよね」
「ストラップの方は冬毛でもこもこだけれど……興味を持って、近くに来てくれたりなんて、しないかしら?」
「俺も……君と同じ事を考えてたんだ」
 顔を見合わせた宿利に笑顔で頷き返した。完成度の高い羊毛フェルトのシマエナガさん人形も彼女の掌に置いてあげる。
 宿利はシマエナガさん人形の心地良い手触りに思わず頬を緩ませて、ラウルと視線を交えれば彼に微笑んでもらえた。
「きっと来てくれるよ」
 2人の柔らかな雰囲気に惹きつけられたのか、シマエナガ達が宿利の掌から溢れてしまいそうになりながらも人形とストラップを包囲してくる。
 翼と尾が黒い本物のシマエナガ達を見やった宿利。そして、真剣で呟く。
「……ねぇ、ラウルくん。毛色がどことなく、豆大福に似ていない?」
 食べちゃいたいくらいに可愛いからって、はむってはいけないけれど。オニギリと例えることもできるだろうか。
「うん、色合いがとても似てるよね」
 微笑ましそうに宿利を見守っていたラウルは、ちょっと瞬いてから柔和な笑みを浮かべた。
 宿利も表情を和らげて、それからシマエナガ達の様子を窺ってみる。
 どうやら、シマエナガ達は人形やストラップの冷たさを心配しているようだ。それで体を温めるために寄り添ったはずなのに……すっかりと眠っている子もいるじゃないか。
 そんなシマエナガ達の行動がおかしくて、2人は心安らぐ時の中で笑い合った。

●またね、シマエナガ
 日の暮れてしまう前にケルベロス達が集合すると、どこからともなく鳥のさえずりが響き渡ってきた。シマエナガ達の挨拶かもしれない。
 そう感じて思いを解放したくなった者達は、もう遠慮せずに全力でお別れを告げるのだった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月16日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。