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――大阪城周辺の住宅街。
庭付きの住居の一つ。
人の背丈位の樹木の上に人の赤ん坊と同じ位の何かがいる。
「眠れ良い子よ。眠れ、眠れ」
白きドレスに身を包んだ2人の女が、庭にある樹の上に作られた揺り篭の赤ん坊に子守歌を歌う。
「交代のお時間ですよ」
その合間に家の窓から現れ、外に出てきた1人の女。
衣服を殆ど纏わぬ姿で現れた彼女に頷き、2人の女が家の中へと戻り、声を掛けた女はそのまま赤ん坊に子守唄を歌う。
2人が戻ってきたその中にはドレス姿の1人の女と、先程の女と似た衣服を殆ど纏わぬ1人の女が居た。
「もう! 何時まで待たせるの?! 私、ずっとお腹すかせて待っていたんだよ?」
「ふふ……貴女は食いしん坊よね。もう少しお待ちなさい。お疲れになっている2人の分も合わせて又作るからね?」
喚く薄着の女にたおやかに微笑んだ台所にいたドレス姿の女が慣れた手捌きで料理を行う。
「そう言えば、アンタ達は、何か良い方法思いついたの?」
「何を?」
薄着の女の言葉に、交代で入って来た2人の女の内の1人が首を傾げた。
「どうやって、男達を落とす方法よ」
「もう、リコったら……」
室内に入って来たもう1人の女の微苦笑に、リコと呼ばれた薄着の女がむっ、とした表情になるのに、もう1人の女が微笑を零し、食事を準備していた女も又、クスクスと悪戯っぽく笑い続けている。
それは、何気ない日常の一風景。
――そう、彼女達白の純血の巫女見習い達にとっての何気ない日常。
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「攻性植物の拠点となっている大坂城と大阪市街地のある緩衝地帯で鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)さんや、シィカ・セィカ(デッドオアアライブ・e0162)さんの調査により、白の純潔事件の元凶と思われる攻性植物が発見されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・e00002)が静かに告げる。
「雅貴さん達の調査と情報に依れば、緩衝地帯の数箇所で数体の白の純潔の巫女達が樹木型の攻性植物を守護する様に集まっている様です」
守護されている樹木とその頂上に赤子の姿をした存在を抱くそれは、『白の純潔』と言う名の攻性植物及び、『白の純潔の種子』と呼ばれる『白の純潔の巫女』を増産する性質を持ち、また、もし『白の純潔』本体が撃破された場合に、新たな『白の純潔』として活動する役割を持っている様だ。
「つまり、この作戦を成功させるためには『白の純潔』本体を倒すと同時に『白の純潔の種子』も撃破しなければなりません。皆さんには、この『白の純潔の種子』の一つを撃破して頂きたく思います」
セリカの言葉にケルベロス達はそれぞれの表情で返事を返した。
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「今回の作戦ですが、隠密行動を行い、油断している敵に強襲を掛けることが重要になります」
但し、何処か一個所でも強襲が掛けられた場合、他の白の純潔の巫女達に情報が伝わってしまう。
「つまり、全班の皆さんが一斉に無理なく襲撃できる様、タイミングを合わせて市街地に侵入する必要が有ります」
尚、特別に時間の掛かる行動や隠密行動の失敗が無ければ、襲撃タイミングの5分前には無事戦場に到達出来る筈である。
「万が一敵が何らかの警戒行動・戦闘行動を行った場合、他班が隠密作戦に失敗し、既に情報が敵に伝わっていることになります。その場合は、直ちに攻撃を開始して下さい」
尚、この班が相手取る巫女は5体。
とは言え、まだ見習いである以上、通常の白の純潔の巫女よりは戦闘能力が若干低い。
「彼女たちはある庭付きの一軒家で交代で白の純潔の種子をあやしつつ、食事をとり、休息をしている様です。皆さんには、この食事のために部屋に2体の白の純潔の巫女見習いが戻り、1体が白の純潔の種子の護衛に、もう1体が食事をねだって直ぐに出て来ない、つまり、白の純潔の趣旨の護衛が1人しか出てきていないタイミングを狙って頂きます」
尚、白の純潔の種子自体は戦闘行動が取れず、撃破も容易い。
しかし、巫女達は種子を守るために決死の行動を取るため、何はともあれこの5体を倒すことを最優先すべきだろう。
「ただ……もし、白の純潔の種子を守ろうとする巫女達の行動を利用することが出来るのであれば……白の純潔の種子を狙うのも一つの手、かも知れません」
セリカの言葉にケルベロス達はそれぞれの表情で頷き返した。
「この戦いは、大坂城の攻性植物の拠点に対する攻略の切欠になるかも知れません。どうか皆さん、最善を尽くして頂けますよう、お願い申し上げます」
セリカの言葉に背を押され、ケルベロス達は静かにその場を後にした。
参加者 | |
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水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608) |
瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756) |
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683) |
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145) |
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723) |
椚・暁人(吃驚仰天・e41542) |
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(「出発前の約束を果たす為に……頑張る!」)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)と重ねた手の温もりを思い出しながら、隠密気流を使用して息を殺し庭に通じる入口の近くに潜伏したヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)はそう思う。
此方が隠れていることなど思いもよらないのだろうか、甘やかな声音で中央の種子へとまるで赤子をあやすかの様に子守歌を歌っていた。
「まだ、少しだけ時間があるね」
「そう、ですね……」
瀬戸・玲子(ヤンデレメイド・e02756)の隠密気流に合わせて動き、同じ様に息を潜めて先頭のタイミングを見計らっていたアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が哀しげな表情を浮かべ頷いた。
「やらなきゃならないとはいえ、な」
「まあ、確かに見た目的には戦いにくい相手だけれどもね。一皮剥けば只の植物だから大丈夫だよ」
苦渋を思わせる呟きに、大丈夫と答えるは椚・暁人(吃驚仰天・e41542)。
暁人の思考は理解できるが、それでも見た目に無垢で無抵抗に見える赤子を殺すことは、正直気が進まなく感じてしまうのは、レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)の優しさなのだろうか。
「まっ、気負い過ぎないでねレスター? ……時間みたいだよ?」
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)が他班と合わせた時間を確認し呟く。
彼女達は玲子達に気付かず「後退のお時間ですよ」と声を掛け、樹木の上の赤子に歌いかける様に子守歌を歌う煽情的な衣服を殆ど纏わぬ女が一人になった。
「そうね……」
その様子を見ながら気負った表情でミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)がきつく拳を握りしめる。
(「もう、誰も失わせないから」)
かつての記憶が掘り起こされ、その時の詰りを思い出し一つ頷くミスティアン。
「行くよ」
レスターに促された暁人達は、子守歌を歌う純潔の巫女見習いに一斉に奇襲をかけた。
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「良い子よ……眠れ……眠……?!」
不意に放たれた殺気に反応した巫女見習いの少女が歌が中断させられたのは、レスターが銃身にR.I.P(安らかに眠れ)と刻まれたライフルから魔法光線を放ち、肩に灼熱感を浴びたが故。
「何……?!」
「御免な」
首に掛けられた希望のロザリオを風に靡かせながら鬼人が無名刀に紫電を帯びさせ鋭い突きを放つ。
異様な手応えを感じつつ、鬼人は微かに顔を歪める。
(「デウスエクスとはいえ、見た目、女子供に刃を向けるってのはな」)
「はたろう、頼んだぜ」
思わぬ不意打ちに恐慌状態に陥っており、満足に仲間を呼べていない彼女を一瞥し、暁人が告げながら銀の粒子をヴィヴィアン達へ。
合わせる様にはたろうが大きく口を開いて彼女へとがぶりと齧り付く。
ギザギザの歯が残虐に彼女を引き裂かれた彼女の悲鳴がアリスの心を苛む。
「攻性植物さんと言っても……まるで人間の赤ちゃんみたいです……でも……被害を出す訳にいきませんし……やるしかないんですね……」
意を決した様にアリスが胸の前で祈りの姿勢を取ると、不意にアリスの髪に白い薔薇『ロイヤル・プリンセス』が咲き、更に周囲の空間に同様の薔薇が咲き乱れる【女王の楽園】を召喚。
「お願い、白い薔薇さん達……女王様に染められる前に、みんなを癒して……」
咲き乱れる白薔薇達が宙を舞う花弁と化して暁人達を守る白き結界を生み出す。
自分達を守るのを感じながら先程の鬼人の微かな苦渋を思い、ヴィヴィアンは微かに自分の考えにざわつきを覚えた。
「さあ一緒に行こう、手と手を取って。みんなの気持ちが集まれば、迷いも恐れも吹き飛んじゃうよ」
明るく希望に満ちたその唄は、守人達を守る為の虹色の結界となり、同時に多少の事では挫けぬ自信と勇気を湧かせてくれるが、ヴィヴィアンの気持ちは何となく晴れない。
(「あたしは、ただ地球の人を苦しめる敵を倒さなきゃって、それだけで……。でも、鬼人やアリスちゃん達は赤ちゃんを倒すことに抵抗を感じていた。……あたし、冷たいのかな……」)
ヴィヴィアンの胸に秘められた想いを察したかの様に美しい蒼白い毛並みを持ったアネリーが玲子に属性インストールを行いその身を守る。
「行くわよ」
アネリーの支援を受けた玲子がブラックスライムに覆われた掌からドラゴンの幻影を呼び出し彼女を焼く。
炎によるそれに痛みからか喘ぐ彼女にミスティアンが胸部を変形展開させた発射口からエネルギー光線を掃射して撃ち抜いている。
「あ……あぐぅ……」
「あなたたちは、此処にいちゃいけないの。お帰り」
苦し気に呻く彼女に告げるミスティアン。
その間に背後に回っていたずっと殺気を殺して背後から忍び寄っていた守人ががっ、と巫女見習いの首を締め上げていた。
「殺しきれないか」
告げながらそのまま首を捻じり切ろうとするが、初手の攻撃の回数が少なく完全にねじ切れず、しょうがないか、と種子への斜線を通せる様に遠方へと蹴り飛ばす。
首を変な方向へ捻じ曲げながら地面に彼女が叩きつけられた時、他の4人の巫女達が、次々に戦場へと飛び出してきた。
「……敵?!」
「そんな、こんな急に……!」
「しっかり、しっかりして!」
現れた4体の巫女の内、一人が首が変な方向に捻じ曲がっている彼女に近付き慌ててその様子を見、他の巫女達も又、殺気を籠めてレスター達を睨みつけている。
「もう! お腹すいている時に何なのよ!」
そう怒る巫女もいたが、まだ飛び出して種子を守る様に布陣するのに手一杯でまだ対応しきれていない。
その隙を見逃さず、首が捻じ曲がり倒れている彼女に守人が瞬く間に接近、手刀で緩やかな弧を描いて既に折れかけている首を断ち切る。
断ち切られた首が転がり、目を開いたまま絶命している彼女の姿に恐怖からか怒りからか、此方に殺意を示す巫女達。
「貴方達は……!」
「最高の女性を知っているからね。どんなに蠱惑的でもさ、ただの植物に魅力を感じないんだよね。人型? そんなもんで止まる程甘ちゃんじゃないよ」
発していた殺気と剣気を隠し、飄々と告げる守人の姿に、巫女達が戦々恐々とした表情になりながら、改めて呼吸を整えて襲い掛かって来た。
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「よくも仲間をぉ!」
「リコ!」
怒りに満ちた声を上げながら、リコと呼ばれた巫女がその手を蔓の茂みの如き触手に変形させて守人を絡め取ろうとする。
「これ以上被害は出させないよ、皆で決着を着ける」
暁人がのんびりと告げながら守人のを庇いオウガメタルの粒子をミスティアン達へ。
放たれた粒子に守られながら大切な人とお揃いの型の多機能懐中時計デバイス、ワンダー・アリス・クロックを掲げ、切々と失われた愛しい想いを歌う。
歌に合わせて不思議の国の少女の細工のされた文字盤が光り輝き歌を拡張、暁人達の傷を癒しながらその命中精度を強化している。
(「んんー? 白の純潔の巫女見習い、で個体名がある……って、ことは、元は攻性植物に憑かれた一般人?」)
愛称の様にリコと呼ばれる純潔の巫女を見ながら玲子は思う。
最も、仮にそうだとしても。
(「もう手遅れかな。なら、やる事は変わらないね」)
そう心中で結論付けながら玲子が魔力を籠めた眼光を放つ。
放たれた眼光から互いに互いを守り合う様にリコをドレスを纏った巫女が庇い、もう一人の煽情的な巫女を、もう一人のドレスの巫女が庇う。
「くっ……」
「貴方方がそう来ると言うのでしたら……」
フラフラと眠気と鈍い眩暈に襲われながら、ドレス姿の2体は自らの足を大地へと一時的に融合して戦場を侵食し、香りだけで眠気を催す様な、蠱惑的な毒を大地から噴出させる。
「鬼人!」
ヴィヴィアンがその攻撃から鬼人を庇い、はたろうが守人を庇っていた。
「ヴィヴィアン、ありがとう」
自分を庇ってくれたヴィヴィアンに礼を述べながらその影から飛び出した鬼人がリコを無名刀に美しい弧を描かせて袈裟に斬り裂き、追随する様にレスターが全てを凍てつかせる光線をペイルライダーより撃ち出し、その身を凍てつかせていく。
「くっ……くぅ……」
急激な体温の変化に苦痛の声を上げるリコに、レスターが微かに目を細めている。
(「まあ、汚れ仕事は慣れているからね」)
この世界は、分かりやすい正義だけじゃない。
キレイなだけが正義でも正しいだけが大義でもない。
だからこそ、誰かが汚れ役を担わなければならないから。
ミスティアンが追随して氷結の螺旋を放ち更にその身を凍てつかせた所に、はたろうが偽物の財宝をばら撒きそれをリコ達に当てていく。
先程の攻撃で意識が朦朧としていた2体の巫女を、今度はリコともう一人が庇い、その攻撃を最小限に抑えるが、その時にはヴィヴィアンが大地を駆け抜けて擦過して生み出した炎をリコに放つ。
「あああああっ!」
炎と氷、二重の責め苦に絶叫するリコを見ながらチラリとヴィヴィアンが目配せをすると同時にアネリーが突進、彼女を吹き飛ばそうとするが……。
「リコ!」
まだ体力に一番余裕の残っていた煽情的な格好の巫女がその前に立ち攻撃を受け止める。
だが、リコの方は既に瀕死に近い状態の様だ。
「貴女がリコさん……何故貴女にだけお名前が……? それは……本当に貴女のお名前なんですか……?」
他の巫女に庇われたリコが自分の体に光を集め、問いかけてきたアリスを攻撃するが、暁人が前に立ち、その攻撃を受け止め紙兵散布を行いながら、ふと呟く。
「……自分の名前と言うか愛称で呼ばれると反応するみたいだね、アリスさん」
はたろうが応じる様に再び口を開きリコに噛みつき、守人が何時の間にかその背後に回り込み、その手でリコの首を締め上げている。
「我、一振りの凶刃とならん」
告げながら凄まじい力で彼女の首を捻じり切り、そのまま地面へと転がし止めを刺す。
その様子に軽く息を呑みながら、白薔薇『ロイヤル・プリンセス』の咲き乱れる『女王の庭園』を召喚し、鬼人達を回復しながら周囲を見やるアリス。
「そう言えば……此処の家の住人の方は……?」
アリスの呟きには何も答えずリコもまた、消滅していった。
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初手で奇襲を受け一人を容赦なくやられ、一番の攻撃役であるリコも落とされてしまった巫女達は、回復をしながら攻撃を繰り返す。
だが……。
「やらせるかよ」
鬼人が無名刀を上から落ちてくる滝の如き剣閃で振り下ろす。
咄嗟に上段からの斬撃から狙われた仲間を守るべく巫女の一人がその攻撃を受け止めるが、其れとほぼ同時に。
「俺も行くよ!」
守人が帯刀していた月華――迅――を一息に縮地の要領で鬼人の狙った巫女に一呼吸で間合いを詰め、そして下段から放った居合の一閃でその身を残虐に斬り裂き、その場に膝をつかせている。
「よくも……!」
巫女の一体が自らの体の一部を大地に浸透させ、凄まじい地震を引き起こして暁人達を狙うが、鬼人をヴィヴィアンが、守人をはたろうが庇うことでその被害を最小限に抑えていた。
「守りは任せたよ、皆!」
「任せておいてね、守人」
守人からのアイコンタクトに和やかに手を振りながら暁人が和やかに微笑みながら己を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』と化し、反撃してきた巫女に正拳突きを放ち、その動きを止めさせた直後。
「誰も倒させない……!」
ミスティアンが鬼神の如き表情でコアブラスターを放ち、巫女の一体を射抜く。
その攻撃によろける巫女を見て、玲子は一つの結論に至る。
(「攻め時ね」)
最初に抱いた感傷を振り解きながら玲子が自らの持つ魔導書の魔術全てを解放する。
玲子の周囲に魔導書の紙片が舞う中央でマテバ オートリボルバーを構えた。
「全魔導解放、圧縮開始、銃弾形勢。神から奪いし叡智、混沌と化して、神を撃て!」
叫びながら解放してい魔導書の魔力を全てを圧縮し、一発の弾丸を生み出し、マテバ オートリボルバーの引金を引く。
放たれたそれはミスティアンに続いたはたろうの嚙り付く攻撃によって瀕死になっていた巫女を確実に捉え、その身を射抜いた。
「ああっ……!」
そのまま頽れる巫女を見て、傷だらけになりながらも怒りの形相を浮かべる残り2体の巫女達。
「……御免なさい……」
小さく呟きながら、アリスが【Eat Me!】で光の戦輪を具現化して弱っている方の巫女の体を斬り裂き。
「これで終わりだね」
ヴィヴィアンが大地を擦過して生み出した炎を纏った回し蹴りを放ち、その身を焼き尽くすその隙を見逃さず、アネリーがボクスタックルで全身でぶち当たりその衝撃から、片方の巫女が動かなくなる。
「そ……そんな……!」
最後に残された巫女の呻きを聞きながら。
「……刀の極意。その名、無拍子」
鬼人の何処か罪悪を感じているかの様な呟きと共に、長き時を共に過ごしてきた無名刀を一閃。
極限まで省かれた無駄。
そして、来ると分かっていても決して躱すことの出来ぬ一撃。
可視出来ぬ刃をその身に受け……最後の巫女が遂にその場に頽れた。
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一連の戦いの中で常に状況を観察しその度に最善手を打っていたレスターはペイルライダーを構え、赤子の姿をした純潔の巫女の種子へと狙いを定める。
「……せめて、安らかに眠れ」
多くの想いを抱きながら。
レスターが引金を引く。
この世界は分かりやすい正義だけじゃない。
痛みを背負わず汚れを被らないで何も守れやしない世界だなんてことは、甘くてヌルくて、日和見がちな自分でもいい加減分かっている。
――だから。
「ごめんよ。子守唄が歌えなくて」
レスターの銃口から放たれた全てのエネルギーを中和し弱体化するエネルギー弾が種子のエネルギーを中和し……跡形も無く消滅させた。
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「犠牲になられた方も……私達が倒した敵さんも……せめて魂が安らげます様に……」
アリスが歌声にそれを載せ周囲へのヒールと弔いの鎮魂歌をこの場所に捧げる。
死屍累々たる惨たらしい有様のこの場所に一時の安らぎが得られますように、と心から祈りながら。
ヴィヴィアンに貰ったロザリオに手を当てて無事終わったことを祈った鬼人が、周囲の元住人を探したが、彼女達がいる様子は無い。
「……ってことは、やっぱりリコは……」
顛末を推測し、やりきれない思いを抱きながら鬼人が空を見上げる。
「笑えねぇ、なぁ」
「鬼人……」
再びロザリオを握り、静かに瞑想する鬼人にヴィヴィアンが寄り添い、せめて、魂は安らかに……との祈りを込めてシスターとして教わった鎮魂歌を優しい声音で歌い始める。
「お疲れさま、他班も無事だと良いけれど……」
一通りのヒールの手伝いを終えた暁人に守人やミスティアンが軽く頷きかけて空を見上げる。
ヴィヴィアンが彼の手を握り静かに空を見上げるのだった。
作者:長野聖夜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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