鋼の魚は空に遊ぶ

作者:baron

『お行きなさい、ディープディープファング。グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺され……私の研究の糧となるのです』
 赤い翼をもつ女性が、魚の形をした機械に球根のようなモノを植え付ける。
 するとディープディープファングと呼ばれたソレは、空を泳ぎ出した。
 まるで海の中を泳ぐかのように動き出すと、なにも言わずに何処かへ移動し始めた。
 向かう先は人々が大勢集まる浜辺である。


『神奈川県の浜辺に死神によって『死神の因子』を埋め込まれたダモクレスが向かっているようです」
 セリカ・リュミエールは地図を手に説明を始めた。
「ダモクレスは全長5mの鮫型で、空中を泳ぐように移動してビーチに向かいます。人々を見付け次第に虐殺を行うでしょう」
 他にも類似の形状が見られたようで、今回の事件は微妙に違っている。
 だがこれまでの死神の因子の事件と少し違う背景がありそうでも、ケルベロスがやるべきことは変わらない。
 まずは死神の因子を植え付けられたダモクレスを撃破し、人々を守ってほしいとセリカは説明した。
「この敵はダモクレスゆえか、魚の様な動きをしますが機能的には関係ない様で、触手と魚雷で攻撃してきますので、噛みついたりなどはしません」
 セリカはそう言って戦闘方法を説明した後、少し間を置いて説明を続けた。
「死神の因子を植え付けられたデウスエクスは、撃破されると、彼岸花の死の花が咲き、死神に回収されるという特性がありましたが、今回の敵はそのような特性を持たない様です」
 今のところ戦力補強として回収されるわけではないようだ。
 だからと言って油断できるわけではない。戦闘力も高いらしいので注意が必要だろう。
「今回の敵であるダモクレス、ディープディープブルーファングが、まるで死神を模したような魚類型であるのにも、何か理由があるのかもしれません。注意は必要ですが、まずは人々の犠牲を無くすためにお願いします」
 セリカは改めて伝えた後、軽く頭を下げて出発の準備を整えるのであった。


参加者
月枷・澄佳(天舞月華・e01311)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ


「夏の浜辺に機械仕掛けの鮫が迫り来る、と……。B級パニック映画ならともかく、現実に起こるとは思いませんでした」
 ふよふよとホバリングしながら、柚野・霞(瑠璃燕・e21406)は物憂げに呟いた。
「サメのメカか。ああ、知ってるぜ……幽霊だったり首が二つだったり竜巻の中の群れだったりしない分、やり易いってもんだろ」
「そうですそうです。頭が沢山あったり、知性があったり、竜巻と共にやってきたりしない分まだマシと言うべきですよね」
 アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)と霞は顔を突き合わせて思わずクスリと笑った。
 どうやら似た様な事を考えて居たらしい。
「サメサメサメ! 陸でサメと戦うってなんだか不思議だなー!」
「俺に言うなよ。文句があるならデウスの連中に……っと、今回は死神なんだっけか。そいつらに言ってくれ」
 二人の間にチェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)が顔を出し話題をさらっていく。
 その様子にアンナはあきれた様子で兎は寂しいと死んじまうもんな。と勝手に結論付けた。
 というかマジ言われても困るつーつか、俺にゃあ関係ねぇ。
「まあ倒しちゃ言えば一緒だよね。どの道、あとは来たら倒すだけなんだし……。準備はいいんだよね?」
「ええ……。手配は終わってます」
 チェリーが可愛く首を傾げると、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)は言葉少なに頷いた。
 彼は他の仲間と共に警備員や警察に連絡し、戦闘が始まる前後で避難誘導をお願いして来たのだ。
「……結界も、張ってる、よ」
「それならきっと、戦い始めれば無理して人のいるほうにはいかないよね!」
 兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)がぽつぽつと付け加える。
 ならば問題無いとチェリーは拳を握ってガッツポーズを決めた。セルフでえいえいおーと付け加え、颯爽と敵が来るという方向に向かって歩き始めた。

 丘やガードレールくらいしか何も遮るモノが無い場所である、暫くして敵の姿が見え始めた。
「見たところ……言われた通り種などは無い様ですね」
 ふよふよと空に浮かぶソレは下級死神のようであり、メタリックな色合いはダモクレスにも見える。
 霞が確認したところ特に何かが植えられた様子も外面上は見受けられなかった。
(「……忍務開始」)
(「死神の、因子を、持った、新しい、でうす、えくす。なにを、するつもり、かは、わからない、けど、虐殺、なんて、させない、よ」)
 二人の忍者は言葉には出さず、静かに動き始めた。
 遊鬼は逆手に刀を引き抜き、十三は低く身を沈めて歩きだす。
(「天蓋に輝くは蒼く輝く氷月」)
 遊鬼は言葉も所作もなく、逆手に持ったままの刃に雫を垂らす。
 最初は数適、徐々に量を増してやがて完全に覆い始める。その時には動き出す事で、何が起きたか感じさせず……。
 切りつけた時には水を硬化させたり集中させて伸ばしたり、接近向きまで縮めるのだ。
「あなたの、相手は、じゅーぞーたち、だ、よ。解放……おいで、凍える、怨霊たち……刃に集いて、敵を、絶て」
 一方で十三は妖刀の中で無限に凍え続ける怨霊を呼び出し、殺意を乗せて解放。それらを刃にまといつかせた。
 遊鬼があくまで斬撃のフォローであるとすれば、十三のソレは凍りつかせ恨みをもって直接に敵を切り刻むのである。
「まあ余裕あるなら殴っとくか」
 アンナはそんな事を言いながら蹴りを放った。
 後ろの方で誰かさんが自分も蹴るから可愛くコンビネーションしようと言うが聞いてれるか。
「まずは小手調べ、いっくねー!」
 ピョーンと可愛くステップ決めて体重を掛けずに軽快な飛び蹴りを放つ。
 ズシンと響いてダモクレスが揺れるが、これはグラビティの影響なんだからねっ。


「死神……何を考えているのでしょうか……」
「判りません。今は倒してみるしか……っ!?」
 荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)が小首を傾げると、月枷・澄佳(天舞月華・e01311)は被りを振って答えた。
 今までは変異強化や植えつけた因子が判り易い事もあり、最悪、相手が成功した時に丸判りな面もある。
 だが今回は謎のままであり、似たような敵と遭遇した者の話でも判ったことは無いらしい。
「させないの……です。でもグルグル巻きも嫌なの、です」
 綺華は後方に向けて放たれる触手に立ち塞がった。
 籠手で弾いたと思った瞬間、パンと乾いた音がしてキュルキュルと巻き付いて来る。
 動けない、そう思った時。不意に周囲が歪んだような気がした。
「間に合いました! 今の内に脱出を!」
「ありがとなのです。……助かりました。です」
 見れば霞が海水を巻きあげて凍らせ、薄い氷の壁を出現させていた。
 ソレが首や胸元に巻きつく触手を防いだと知って、綺華は自分の周囲を爆発させて一気に脱出する。
 自分を巻き込む事に躊躇いを覚えない姿勢に、仲間達も奮起する(まあグラビティが噴き出すだけなのだが)。
「先ずは、その動きを鈍らせます。……汝、冥府を泳ぐ、熾炎の硬魚」
 澄佳はトンと掌で大地を叩いた。
 指にはさんだ護符から滲みでる様に、炎が湧きだして次々に魚の形状を造り出して行く。
 回遊する炎の魚は鋼の魚に向かって飛び付き始めた。
「効いて無い?」
「そんな事は無いっすよ。堅くて浮かんでるからそう見え難いだけっす。中々の相手っすねっ~」
 澄佳は平然と飛び出して来る相手に驚くが、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)はダモクレスだから判り難いだけだろうと告げた。
 そしてペロリと舌で唇を舐めると、一直線に飛び出して行く。
「すっごい硬そうな敵っすね! どんなに硬くたって楓さんの剣で切り刻んでやるっすよー!」
 楓はそのまま空中でトリプルアクセル!
 キンコンカーン! と刃を叩きつけワザと着地に失敗して低い体勢を取る。
 狙うは相手の死角への移動、そして自らをあえて窮地に追いやることにより意識とグラビティを極限まで集中させる為である!
「これでもくらうっす!」
 殆ど転がった体勢からの逆転の一撃。
 楓さんのアッパーはダモクレスの死角を突いて現れた!
 その一撃はしたたかに顎に当たる部分を直撃し、一瞬だけ重そうな怪魚が揺れたのが判る。
「確かに。判り難い様ですが効いては居る様ですね」
「鎧とか、剥げば、判り易い、と思う。次は、その装甲を、切り裂く、よ」
 澄佳の言葉を十三が捕捉する。
 表情もなく肉厚な装甲ゆえに判り難いので、装甲板を割くなり穴でも開ければどれだけ効いているか判り易くなるだろう。
 今も澄佳が放った闘気は判り難いが、十三の突き刺した槍は傷痕を持って威力を示して居た。
 動きを止めれば次に狙うは、その守りだろう。


「っ!? ばすてとさま、たいりょー、です」
「うおっ!? ……おい。通ってねーか、チェリー」
 今度は無数のコバンザメが出現した。
 綺華は翼猫のばすてとさまと共に迎撃し、同様にアンナもビハインドの名もなき面影と共に仲間の前に立ち塞がる。
 受け止めた掌を回転させて勢いを反らし、後ろに声を掛けたところ……『魚だけに、うお?』とか言われたので無視しておいた。
 ただ彼女に良く似た幻影だけが、苦しげな表情を見せている。
「いたいの、いたいの、飛んでけ。なのです」
 綺華はまず輝く翼を広げて傷を癒す事で反撃の糸口に差し掛かった。
 まだまだ傷は残るが、範囲攻撃なので結構減らせる。
「残りは任せる……。つーか、自分でもやんなきゃな!」
「これで全快するならば、そんな心配を掛けなくて済むのですけれどね……」
 アンナは漂うグラビティを掴み取る様に、渾身の力でダモクレスに殴りかかった。
 その間に霞は翼を広げ、仲間達を包み込んで先ほどのコバンザメ・ミサイルの傷を塞いでいく。
「次はさっきの来ない筈。今の内にガンガン攻めちゃおー!」
「……? ……っ」
 チェリーは刀を抜いてミサイルの脅威は暫く無いよ。と気分を良くして攻め掛った。
 油断する気の無い遊鬼ではあるが、同じ属性の攻撃は来ても当たり難い。
 問題無いと頷いて、相手の動きを止めるべく本体よりも胸ヒレや尾ヒレを斬り飛ばすかのように攻め立てる。

 二人が位置を入れ替えながら斬撃を浴びせ、動き出した気配にバックステップを掛けた時。
 予言(?)通り動いたのは触手、そこへ盾役達が飛び込んで行った。
「さっきから無言かよ。やっぱ知能が無えのか」
 正統派ではないとはいえ中国拳法崩れのアンナとしては、無言の攻撃にやり難さを感じないでも無い。
 相手に合わせ、調子を崩すような対応ができないからだ。それはそれとして無視できるような攻撃でも無いのがいやらしい。
 触手を跳ね除けようとするが、次々に巻き付いてからめ捕られてしまった。
「不気味なの、や、です。今度はわたしが、助けるの、です」
 綺華は先ほど的に捕まった時、仲間に助けてもらった時のことを思い出しながら祈りを捧げた。
「父よ……あなたは何でも……おできになります……この杯を……わたしから……取り除けてください……」
 綺華の祈りで光が降り注ぎ、それが雪の様に散る度に触手が剥がれ落ちて行く。
 光が露に変わり、融け終わった頃にはその動きを取り戻して居た。
「わりぃな! 後はやる! どいてろ!」
 アンナは軽く礼を言うと触手ごとダモクレスを蹴りあげる!
 跳ね除けた先に誰かが潜り込み、肩から当たる様に体当たりを掛けて居た。
「……。……!」
 遊鬼は体当たりで最低限の距離をこじ開けると、肘の振りをコンパクトにして掌底を喰らわせた。
 足りなくなる威力を体を螺子って捻出すると、押し込むように打突する。
「少しずつ当たり易くなっているみたいっすね。これならもうちょっとしたら本気が出せそうっす」
 楓は刀を突き込むと引き抜いた刃を確認して、ビュっと空を切る。
 今はまだ当て難いが、仲間達の援護もある。時間が経過するごとに戦い易くなっていくだろう。
 そしてその時は、そう遠くないと思われた。


「最後は、ぜんぶ、ずたずたに、して、あげる」
 それから幾らかの時間が過ぎ、装甲が断ち割られて戦況が判り易くなっていく。
 十三のナイフが中身の機械類を剥き出しにして、そこへ氷を叩き込むべく距離を取る。
「判り易くなったことですし……。可能な限りオーバーダメージを狙って見ましょうか」
「そうだね。動きもかなり鈍らせてきたし、良いんじゃないかな」
 澄佳が蹴りで押し込むと、チェリーが触手の一本を斬り飛ばす。
 もはやダモクレスも避けることが難しくなってきたようだ。
「なら、わたしはこれが最後の攻撃のチャンスですかね。後は治療と様子見にしておきます」
 霞は周囲の海水を巻き上げると、時間ごと凍らせて氷の弾丸として放った。
 そして相手の装甲の中に飛び込ませた後、術を解除して中から浸食させていく。
「では援護する、です。もうちょっと判り易く、です」
 綺華は拳を握ってグラビティを集めると、空に巨大な肉球を出現させた。
 そのままペチンと叩いて、相手の装甲板を割っておく。ばすてとさまが相手の触手を千切って欲しそうだが、食べたらお腹を壊しそうなので止めておいた。
「ええと、どの辺から抑えれば良いんだっけ……。まあ今回はそう言う任務じゃないし、できればで良いよな」
「……」
 アンナが盛大に殴ってから仲間の言葉を思い出すと、遊鬼は無言で頷いてから鋭い一撃を浴びせ掛る。
 ダモクレスがからくも避けたと思ったがそんな事は無い。水が勢いを増して凍りつき氷の刃が貫いたのであった。
「そろそろ本気を出すッすよ!」
 楓は刀を担ぐと大上段ではなく斜めに構えた。
 右手一本で支えて走り出し、直撃の瞬間に左手を添える。後はただ斬ることに専念するのみ。
 体を滑らせて引き斬りながら、駆け抜けて行く。

 そして斬り払えば一刀両断!
 袈裟斬りが決まり、ダモクレスは斜めに両断されたのであった。
「いやー、お疲れ様っす。拓きにしたけど、食べられないのは残念っすね~」
「残念だなーボクがトドメを刺そうか想ったんだけどー」
「想うだけならタダだな。だいたい、次はあっちだろ?」
 楓がトドメを確認すると、チェリーとアンナがやってきた。
 そして指差した方向を見ると。
「……これで、しばらく、は、『声』も、おさまるか、な」
 十三が鎌を影にしまって、戦闘態勢を解除した所であった。
「いえ、まだです。念の為に因子を確認しましょう」
「一回では判明しないかもしれませんが、装甲素材や内部を確認すれば何か判るかもしれませんしね」
 霞がダモクレスの残骸を調べ始めると、遊鬼もその一部やミサイルを回収していった。
 金属そのものを解析するのは難しいかもしれないが、燃料や粒子等を調べれば何か判るかもしれない。
「後はヒール、です。傷の治療と修復しておくのです」
「そうですね。まずはそれから。終わったら折角海に来たのですから遊ぶのも良さそうですね」
 綺華がばすてとさまを抱っこしながらヒールを始めると、澄佳も手伝いながら手分けして周辺を修復して行く。
 とはいえ基本的には砂浜であり、傷を直してしまうと後は木々や道路脇のガードレールくらいだ。
 水着やビーチサンダルを持ってきた者は戯れ、濡れるのを好まないものなどは遠慮しながら、それぞれの帰路についたという。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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