其れは揺蕩う朝顔の様に

作者:秋月きり

 静岡県富士宮市狩宿。
 春ともなれば満面に咲き誇る山桜の朱色に沸くこの地も、夏の頃合いともなれば緑豊かで、されど彩りに欠けるそんな風景を映し出している。それが深夜であれば尚の事。闇に染まる田舎景色は街灯の少なさもあり、色合いを無くしていた。
 ――その筈だった。
 そんな風景の、開けた砂利の広場で、怪魚が3匹、舞っていた。夜の空気を水中と変わらぬ様子で舞う彼らは、各々が青白い燐光を纏い、淡い軌跡を残している。
 やがて三つの軌跡が複雑な紋様を生み出していく。それはまるで、魔法陣の様にも思えた。
 そして、光が収束する。
 眩いばかりの発光が収まった時、そこに一人の少女が立っていた。
「アアアアアアアアっ!」
 しかして、闇夜に蘇った少女がただの少女である筈はなかろう。
 身長は2メートル強。巨大な斧を抱く彼女は悲鳴のような咆哮と共に、狂乱に染まる瞳を周囲に巡らせる。
 魔女、ドミドヴェルド。それが生前の彼女の名前。
 変異強化し、一介の獣に堕ちたエインヘリアルの復活に怪魚達は笑みを浮かべるが如く、悠然と揺蕩う。

「静岡県富士宮市で死神の活動が確認されたわ」
 それがリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の視た未来予知のあらましだった。
「死神と言っても知性の低い浮遊する怪魚タイプの下級死神ね。彼らの目的はみんなが撃破した罪人エインヘリアルを変異強化し、周辺住民を虐殺。そうして得たグラビティ・チェインと共に、そのエインヘリアルをデスバレスへ持って――いえ、連れて帰ろうとしている様なの」
 周辺住民を守り、死神と共にサルベージされたエインヘリアルへ引導を渡す事が、此度の任務となるようだ。
「今回に任務にあたって注意点がいくつかあるわ。まず、みんなが到着した時点で、周囲の避難誘導は開始される事になる。でも、広範囲に渡って行うと『グラビティ・チェインを確保する』未来予知と食い違いが発生してしまう為、避難誘導は最小限に留める事になるわ」
 万が一ケルベロス達が敗北すれば、エインヘリアルと死神は周辺地域から魔手を伸ばし、近隣地域の虐殺を行う事になるだろう。そうなれば甚大な被害を及ぼす結果になる。
「エインヘリアル――魔女ドミドヴェルドの攻撃は前回と同様、ルーンアックスで攻撃して来るわ」
 前回と違い、攻撃に重きをおいているようだ。或いは変異が進み、それ以外をする事も出来なくなっているもつかなくなっているのか。攻撃は獣の如き猪突猛進となる為、一撃毎のダメージは気を付けるべきだとリーシャは助言する。
「あと、死神は戦闘で劣勢になると、せめてもエインヘリアルを逃そうとするようね」
 撤退を行う数秒間は死神、エインヘリアルとも攻撃を行わない為、ケルベロス達が一方的に攻撃出来るようになるようだ。ただし、当然ながら、それで倒しきれない場合、撤退を許す事にもなる。
「ただ、先も言った通り、下級死神は知性が低い為、みんなの演技次第では劣勢や優勢を取り違えさせる事が出来るみたいなの」
 逃がさない為にも、敢えて撤退させ地域住民達を守る事も、演技次第で出来るようになるだろう。
「死神達はエインヘリアルのサルベージを優先しているきらいがあるわ。これはもしかしたら、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が危惧した通り、死神とエインヘリアルの間に何らかの密約が取り交わされた可能性があるかもしれないわね」
 事件解決後、その調査も必要かもしれない。その感嘆の後、リーシャはいつもの言葉で締めくくる。
「それじゃ、いってらっしゃい。頑張ってね!」


参加者
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
リエラ・ガラード(刻腕・e30925)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)

■リプレイ

●真夜中の花
 静岡県富士宮市狩宿の夜は深い。
 周囲に広がる田園風景は当たり前にも田舎の夜を彩っており、街灯はまばらにしかない。幾らかの民家は点在するが、そこに明かりは灯っていなかった。
 ただ、青白い燐光を振り撒く3体の怪魚、そしてその中心に立つ身長2m超の幼女を除いて。
(「周辺住民の避難は完了、と」)
 赤髪のヘリオライダーは上手くやってくれたのだろう、と佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)は笑顔を浮かべる。ならばあとは暴れるだけ――死神と蘇ったエインヘリアルを撃破するのみだ。
「この時期に、屍人の復活劇かぁ」
「お盆だからって、何も本当に幽霊騒ぎを起こさなくても良いでしょうに……」
 愚痴にも似たギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)の呟きに、物部・帳(お騒がせ警官・e02957)が相槌を打つ。如何にお盆と言え、死者が蘇るのは如何かと、憤慨する二人であった。死者は生家に帰るもの。決して蘇るものでは無い。
「一度倒した敵が復活なんて厄介だなぁ」
 天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)の言葉は死神の能力に対する忌避感、或いは嫌悪感だった。ドラゴン、そして敵の将等、ケルベロス達が倒したデウスエクスは枚挙に暇がない。
 同じことを想起したのだろう。リエラ・ガラード(刻腕・e30925)もまた神妙な顔で頷く。
「不気味だねぇ。何を企んでいるのやら」
 疑問符と共にエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は語句を吐き出す。数多くいるデウスエクスの中で、未だ謎に包まれている死神。それがどのような事態を引き起こそうと、不思議では無いが……。
「クソ死神の考えなんてどうでもいいわ」
 それよりもまずはやるべきことを為す。小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)の小気味よい断言に、却ってエリオットは微苦笑を浮かべる。
 そうだ。今はその時ではない。調査や思考は後回し。まずは彼らを撃破し、この町に平穏を取り戻さなければならない。
「可哀想に。命を歪められて、心を、失くして」
 その悪夢に、終止符を。
 エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)の独白が、開戦の狼煙となった。

「折角死んでいたのに、突然起こされてさぞ眠たかろう……なんて」
 軽口と共にエリオットの鉄塊剣が死神、そしてドミドヴェルドの身体を吹き飛ばす。細い体躯に関わらず、生み出される膂力は嵐の如く吹き荒れ、デウスエクスを吹き飛ばしていく。
「アンタの相手は私だよ、クソガキ。骨バッキバキになるまで遊んでやるからさァ!」
 踏鞴踏むドミドヴェルドに叩き付けられる鋭い一撃は、里桜の振るう鈍器――釘バットであった。否、釘バット風に魔改造されたバールは、その凶悪な刃でエインヘリアルの肌を切り裂き、表皮に血を滲ませる。
「あああああああ」
 涎混じりの凶声は蘇生による変異強化の現れか。理性を感じさせない叫びは、もはやそれが一介の獣に堕ちた証でもあった。
(「まぁ、報告書を読む限り、そもそも理性があったかも怪しいが」)
 黒色の太陽を具現化させながら、ギルフォードが首を振る。過去にケルベロス達が遭遇したエインヘリアルの罪人、魔女ドミドヴェルドは幼女と言う擬態が過ぎたのか、理知的と言うよりも純粋無垢、或いはそれに染まり切っていたようだ。思い込みの力とは斯くも恐ろしい。
「絵に描いたような厄介な相手だけど……頑張ろう」
 戦いは舌戦から始まっている。そう体現するよう、蛍が嘯き。
「ええ。そうね。復活したエインヘリアルと死神。難儀な相手である事に違いはないわ」
 オウガ粒子を散布するエヴァンジェリンもまた、それに続く。
「せめてもの置き土産って奴です。まあ、お互いに頑張りましょう」
「いてまうぞ、コラ」
 帳の弾丸と照彦の放つミサイルの雨嵐は死神とドミドヴェルドに突き刺さり。
「狙い撃ちますっ!!」
 続いて突き刺さる漆黒の剛矢はリエラの放つ一撃だった。死神の一体を貫いた投槍の如き一撃は死神の心を砕き、微睡みの色を目に宿す。
「フシュルルル!」
 響く唸り声は、怨念と共にケルベロス達へと叩き付けられた。

●魔女の眠りを妨げるのは誰ぞ?
 ゆらゆらと揺蕩う燐光の中、死神達は、そして彼らに連れられた魔女ドミドヴェルドは応戦を開始する。
 怨霊弾が、牙が、そして斧の一撃が襲撃者――ケルベロス達を梳り、その都度、呻き声を零させている。
 だが、死神達にとってそれは歓喜ではない。
 そう、彼らは困惑していた。
 音に聞く地獄の番犬とやらは、この程度なのか、と。

「と言った処でしょうか」
 死神の動きに精彩さが欠ける事を認めた帳は眉を顰める。
 未だ、彼らがケルベロス達の演技に気付いた様子はない。当然だ。演技だけではなく、程よく勘違いが出来るよう、攻撃を操作している。列攻撃主体のグラビティ、そして、敢えて集団戦のセオリーを無視し、狙いを偏らせない攻撃を死神達がどう判断するか――。
 がちりと牙が噛み合わさる音が響く。盾と受け止めた照彦からむぅと呻き声が零れ、しかし、その傷は蛍がカバー。
「特別製だよ、ヒーリングバレット!」
 三体と一人。計四度の斬撃を受け止めた照彦の傷は、如何に治癒に専念する蛍のグラビティであれ、完治にまで至らない。だが、エヴァンジェリンの生む幻影、そして彼自身の治癒によって全快までの治癒となる。
「Heinrich Emil Ida Ludwig Emil Nordpol Eins=Bahner_08」
 重苦しい合成音は照彦から。続く目頭を押さえる動作は、治癒グラビティの弊害で、目のピントがずれてしまった為だろう。
「テレ坊。任せた!」
 その隙を縫い、更なる牙を突き立てる死神の一撃を遮ったのは、主に付き従うサーヴァント――テレビウムのテレ坊による凶器の一撃だった。渾身の一撃と叩き付けられたそれは怪魚の鱗を砕き、血肉を抉り取る。
「お前達の相手は俺だ」
 そこに続く横薙ぎの旋風はエリオットが生んだ斬撃の衝撃波だった。宙を泳ぐように直撃を回避した怪魚達はしかし、ずたずたに裂けた魚体がその被害の大きさを物語っていた。慌てて蒼光の鱗粉で自身らの傷を癒し、その暇をカバーするよう、ドミドヴェルドの斬撃がエリオットを捕らえ、頭蓋を割らんと叩き付けられる。
「――やらせん」
 そこに割り込むのはギルフォードの黒と白の刃だった。魔女の一撃を受け止めた彼はしかし、その口から似つかわしくない呻き声を零してしまう。
「ぐっ」
「シャアアアアアア」
 それを好機と捉えたか。
 交差する刀を怪力で無理矢理押し込み、禍々しい刃でギルフォードの胸を抉る。
 魔女が夢見た未来はしかし。
「あんたの相手はアタシって言っただろう? クソガキ。――狂奔を詠え、奏でるは焔雷」
 鉄槌と見舞われた紅焔、そして紫電の一撃に大仰な体躯は横っ飛びに吹き飛ばされる。術を組み上げた里桜の笑みは、何処となく嗜虐的な色に染まっていた。
 地面を削り、しかし、体勢を崩さずの着地を成功させたのは、身体能力の高さか、或いは戦闘種族である矜持か。
 だが、その彼女へ追撃の刃は向けられない。
「行ける!」
 歓喜の声と共に放たれたリエラの一撃が貫いたのは、自己治癒に勤しむ死神だったく。氷の尾を引き、鱗を梳られた死神はキシャーと威嚇を以て、それに応じる。
 乱戦。泥沼。
 可能ならば避けるべき状況に移行した戦いに、死神達は困惑を、そしてエインヘリアルは狂乱を振り撒いていた。

●死神失墜
 この戦いに分水嶺があったとするならば。
 それはケルベロス達が死神を急襲したその瞬間だっただろう。
 もしも、死神達に相応の知性があれば、ケルベロス達の狙いを看過出来たかもしれない。或いは、自身らの使命であるエインヘリアルの確保を優先し、その逃亡を行えたかもしれない。
 或いは。そう、或いはドミドヴェルドに生前と同じ知性が備わっていれば。彼女の復活が変異強化ではなく、ただの蘇生であれば、ケルベロス達の目的を看過する存在に成り得たかもしれない。
 だが、その全ては行われなかった。故に、戦いの結末は決定される。
 それはケルベロス達の目論んだ通りだった。望んだ通りだった。そして、信じた通りだった。
 斯くして、分水嶺は生じる事無く、死神達は己の破滅へと向かっていく。それは、死神の一体の死を端としていた。

 ピシリ。
 それは細かな瑕疵だった。
 硝子細工が砕け散る様な音を残し、死神の一体が消滅する。
 意外にもその瞬間、彼らの浮かべた表情は憤怒ではなく、困惑だった。
(「何故だ?」)
 3体の死神と1体のエインヘリアルはケルベロス達を追い詰めていた筈だ。彼奴等は満足なダメージを与える事が出来ず、対してケルベロス達は数多くの手傷を負っていた。特に蘇った魔女の破壊力は凄まじく、幾合も受け続けたケルベロス達が無事である筈がない。
 その筈だ。
「――私の分までクソ死神の丸焼きヨロシク!」
 叩き付けるような里桜の言い回しも、だが、そこに浮かぶ憎悪と殺意は本物。
 一瞬息を飲んだエリオットはしかし、おうと頷き、拳を握る。
「あぁ任せな、そっちも頼んだぜ里桜嬢ちゃん!」
 その憎しみは理解出来る。否、その想いは――。
 今は亡き家族に想いを馳せ、エリオットは己が地獄を紡ぐ。
「白銅炎の地獄鳥よ、我が敵を射抜け」
 それは地獄からの讃美歌。白銅と黒の炎を纏う麗しき怪鳥は特攻の如く怪魚に突っ込むと、嘴と爪、そして己自身を刃と化して、その魚体を切り刻む。それは鳥が得物を喰らうようにも、獄炎の炎が死神を荼毘に伏す様にも思えた。
「二体目!」
 歓喜の声と死神が息を飲むのは同時だった。
 ――何故だ!
 言葉にならない声はケルベロス達の耳に呪詛として刻まれる。だが、それも無意味。負け犬の遠吠えでしかなかった。
「そうなるように仕込んだからですよ」
 だから当然の帰結だと、リエラは笑う。
 死神に逃亡を選択させない為、皆で知恵を絞った。ケルベロス達が愚かで弱者であると錯覚させる為、敢えて不利な道を選択した。その間、ドミドヴェルドの攻撃で倒れない様、防具を整え、長期戦への布陣を厚くした。
 故に勝ち取った勝利だ。皆が同じ方向を向き、連携し、全力を出し切ったからこそ、勝利の女神が彼らに微笑んだのだ。
 もはや、死神に逃亡を選択する余力はない。ならば、打ち砕くのみだった。
「刻み込めっ! クラウ・ソラスっ!!」
 巨大な剣が、具現化したリエラの地獄が死神を貫く。早贄の如く貫かれた死神はびくりと身じろぎすると、光の粒へと消えていく。
「ちょっと予定とは違ったけど、死神完了。後は――」
「こっちの嬢ちゃん、やな」
 リエラの声に応じた照彦はふぅと溜息を吐く。
 目の前にいるドミドヴェルドは傷付き、疲弊しきっていた。2mを超す巨躯とは言え、小さな子供が傷付く姿を見るのは忍びない。そう物語る表情はしかし、ふるふると首を振ると、一変して戦士の顔へと切り替わる。
「外見は幼子ですが、人々を喰い物にしようとした極悪人でありますよ」
「ああ、判っとる」
 帳の言葉に頷き、照彦は弦を弾く。彼の姿は擬態であり、彼女は不死の期間を生きたデウスエクスなのだ。悪鬼に、まして、ただの獣に堕ちた今、倒す事こそ、彼女を救う手立てとなる。
 それは痛い程、理解している。
「葬送りましょう、私たちの手で」
 エヴァンジェリンの宣誓は、その覚悟の現れ。そして。
「いくぞ」
 ギルフォードはただ、その語句だけを吐き出し、対の刃を握る。大丈夫か? とは問わない。問うつもりもない。ここにいる誰もが同じ覚悟をしている。外見に、そして境遇に同情するだけの輩は何処にも居ない。
 そして、紫電が舞う。ギルフォードの刺突はドミドヴェルドの衣服を切り裂き、血の華を夏の夜に咲かせる。
「いくで、テレ坊!」
 照彦の射撃は相棒と共に。サーヴァントの閃光はドミドヴェルドの目を焼き、照彦の放つ矢はドミドヴェルドの肩口を貫く。
「理解るでしょう? 這いずる闇が。聞こえるでしょう? 怨嗟の声が。見えるでしょう? 貴方が踏み躙ってきた者の姿、水底に烟るその魂が!」
 帳が紡ぐのは死者の怨嗟だった。ドミドヴェルドが無下に殺した幾多の生命は、同じ大地に彼女を落とそうと、その手を伸ばし、深淵へと引きずり落としていく。
「祈る時間は、あげない。――祈る言葉すら、忘れてしまっただろう、けど」
 銀のジャベリンが魔女を貫く。エヴァンジェリンの紡いだ銀の戦乙女は優雅に一礼すると、風と共に消えていく。
「あばよ、クソガキ」
 そして里桜の炎と雷が、ドミドヴェルドの身体を焼く。
「がああああああっ」
 響く悲鳴はしかし、そこに理性の色を見せない。
 やがてその悲鳴が途切れた時、そこに残されたのは巨大な鉄塊の如き斧。そして、それを手繰っていたエインヘリアルの残滓だった。
「一度死んだ者は、蘇らない。……蘇らない、のよ」
 宙に溶けていく光の粒子を前に、ぽつりと零れたエヴァンジェリンの寂しげな声だけが、響いていた。

●其れは揺蕩う朝顔の様に
 静岡県富士宮市狩宿の夜は深い。
 当たり前の田舎町の、当たり前の田園風景は、まばらな街灯で照らされているのみだ。
 ヘリオライダーへの連絡は完了した。避難した住人達も直ぐに戻って来るだろう。だが、それでも深夜の頃合い。今より闇が晴れる事はないのだろうなぁ、と蛍は何となく思ってしまう。
 それは物悲しく、だが、当たり前の風景であるのであれば、特別に寂しい事ではないと首を振る。
「そうだね。アイス、食べに行こ!」
 しんみりした空気を押し流す様に、里桜の声が響く。それが皮切りだった。
 否、皮切りはエヴァンジェリンが彼女に向けた「……アイス、いく?」との問い掛けであったが、それも些細な問題だ。
「本官はバニラアイスがいいでありますね!」
「おっちゃんはチョコミント……いや、ラムレーズンも捨てがたいわ」
「というか、この時間、何処か空いているのか? ああ、俺はチョコレートにする」
「この際コンビニでいいんじゃないか? ああ、でも、田舎のコンビニは閉まるのが早いか」
「ヘリオンで一飛び……とか如何でしょう?」
 喧々囂々。
 静かになった空気を染め上げる思い思いの声に、蛍はくすりと笑う。
 魔女は死んだ。蘇り、そしてまた死んだ。それが全てだ。それを呼び覚ます死神はもういない。ならば、ここからは生者の時間だ。
「あら? 最近のコンビニ系スイーツも馬鹿に出来ないのよ? フルーツ系フレーバーもね……」
 賑やかな仲間の輪に混ざるべく、蛍もまた、彼らに向かって駆け出すのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。