血と破砕の再臨

作者:雷紋寺音弥

●蘇る狂気
 深夜、誰もいない通りの真ん中にて、妖しく漂う3つの影。
 刃の如き牙が突き出た巨大な口に、鎧を思わせる強固な鱗。灰色に濁った瞳が不気味に輝き、巨大な3匹の怪魚達は、青白く発光しながら空中を泳ぎ回る。
 やがて、その泳ぎ回る軌跡が魔法陣の如き紋様を紡ぎ出したところで、その中心に一際巨大な影が現れた。
「ウ……ァァァ……」
 そこにいたのは、青函なる肉体を持った緑色の髪の大男。かつて、この地でケルベロス達によって倒された、エインヘリアルに他ならず。
「オ……オォォォッ!!」
 既に言葉さえ失ったのか、復活を遂げたエインヘリアルの青年は、力任せに右腕を振るった。その叫びに呼応するかのようにして、醜く肥大化した右腕は舗装された道路を容易く砕き、深夜の街に轟音が響き渡った。

●忌むべき帰還者
「このような時分、招集に応じてくれ感謝する。千葉県にある市街地にて、死神の活動が確認された」
 もっとも、出現した個体は下級の怪魚型が3体ほど。これだけであれば、さしたる相手でもないと告げつつも、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はケルベロス達に、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「怪魚型の死神は、以前にお前達が撃破した罪人エインヘリアルを変異強化した上でサルベージし、周辺住民の虐殺を行ってグラビティ・チェインを補給した上で、デスバレスへ持ち帰ろうとしているようだ。市民の命が掛かっている以上、これを黙って見過ごすわけにも行くまい」
 敵は変異強化によって知性を失っているが、純粋な攻撃力は上昇していると考えて良い。おまけに、周囲にはエインヘリアルをサルベージした怪魚型の死神までいることを考えると、なかなかどうして面倒な相手である。
「今回、サルベージが確認されたのは『砕拳のミュラー』というエインヘリアルだ。一年程前、お前達の手によって倒された、倒錯的な思考を持ったアスガルドの罪人だな」
 生前は、その右腕に装着した戦籠手を武器に、獲物の鎧や骨が砕ける音を楽しみ、ともすれば気に行った部位を収集するという悪癖を持っていたエインヘリアル。変異強化に伴い、それらの性質は失われているが、同時に彼の右腕は以前にも増して強化されている。
 肥大化を遂げ、腫瘍の塊の如き肉塊に変貌した右腕は、振るうだけで凄まじい衝撃波を巻き起こす。鈍器として用いれば鋼の鎧さえも容易く砕き、内骨格を槍のように変異させて射出することで、突き刺した相手に氷の魔力を注ぎ込んで凍結させることもあるという。
 また、それらに付き従う怪魚型の死神は、噛み付きや怨霊弾によって攻撃して来るようだ。復活したミュラーの周囲を守るようにして戦うため、放っておくと面倒なことになるのは間違いない。
「到着までに周囲の避難は行われているので、お前達は戦闘に集中してくれて構わない。だが、仮にお前達が敗北した場合、かなりの被害が予想される。この戦い……負けることは許されんな」
 唯一の幸いは、敵の怪魚型死神が、そこまで賢くないということだ。彼らは劣勢になると、サルベージしたエインヘリアルを撤退させようと試みる。だが、その際は一切の行動ができず、こちらが一方的に攻撃できる。
「敵は知能の低さ故に、自分達が本当に劣勢か否かの判断ができぬ。お前達の演技次第では、優勢なのに劣勢と思いこませることも、その逆も可能だろう」
 これを上手く利用すれば、より優位に戦闘を行ったり、こちらが劣勢に陥った場合に敵を撤退させて最悪の事態を防いだりすることも可能となる。本来であれば全ての敵を撃破したいところだが、まずは市民の命を優先して欲しい。
 最後に、それだけ言って、ザイフリート王子は改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)
御影・有理(灯影・e14635)
鉄・冬真(雪狼・e23499)

■リプレイ

●死の十字路
 夜の帳が降りた後の交差点。既に車も人も通らなくなった、草木も眠る丑三つ刻。
 その中央、大通りの交差する真ん中へ、誘われるようにして現れる3つの影。明滅する信号機の灯りに照らされた姿は、深海に住まう魚を思わせる。
「ウ……ァァァ……」
 魚達の泳ぐ軌跡が青白い糸となり、それは奇怪な紋様の描かれた魔法陣を紡いで行く。その中心より、まるで地の底から這いずるようにして現れたのは、青函なる肉体を持った緑髪の大男。
「オ……オォォォッ!!」
 肥大化し、既に腫瘍の塊にしか見えない右腕を掲げ、大男は夜の闇の中で雄叫びを上げた。
 砕拳のミュラー。その美貌とは裏腹に、他者の骨や鎧の砕ける音を好み、打ち倒したデウスエクスの変じたコギトエルゴスムや、人間の瞳を収集する趣味を持った危険なエインヘリアル。
 だが、そんな彼も、今となっては粗暴で醜い異形の化け物以外の何物でもなかった。その目的は、人々を殺戮してグラビティ・チェインを集めることのみ。デウスエクスとしては、これ以上にない純粋なる理由。もっとも、それを見過ごしてしまうほど、この地球の守りは甘くなく。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
 巨大な光弾が闇夜を照らし、怪魚の群れを蹴散らして行く。その光の中、翼を広げて降り立つシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)。慌てふためく怪魚達に、彼女は杖先を突き付けて。
「死神どもよ。せっかく蘇らせたところで悪いが、その砕拳のミュラーとやら、私たちがすぐに倒してやるとしよう!」
 正々堂々、正面からの宣戦布告。敵は人語を解さぬ存在かもしれないが、それでも注意を引き付けるには十分だ。
「キュ……キュ……」
「キュル……キュル……」
 果たして、そんな彼女の読みは正しく、死神達は一斉に、壊れたテープを巻き戻すような奇声を発し、怨嗟の塊を猛毒に変えて吐き出して来た。
「密約の相手……どうせイグニスなのでしょう? あなた達に尋ねたところで、まともな返事は期待していませんが……」
 すかさず、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が稲妻の障壁にて毒を中和しながら口にしたが、死神達からは何の反応も見られない。
 まあ、連中は末端の使い魔的な存在に過ぎない相手。元より何の期待もしていないと、相棒のテレビウムをけしかけて。
「どんな敵であれ、斃れたのならば安らかな眠りにつくべきだ。……彼には悪いが、もう一度眠ってもらおう」
 クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)が杖先から稲妻を放ち、死神達を翻弄する。
「ァ……ウォァァァッ!!」
 己が狙われたと勘違いしてか、荒れ狂うミュラーが肥大化した剛腕を力任せに振り回し、叫んだ。強大な膂力によって生み出される一撃は、それだけで敵を巨木を薙ぎ倒し、岩をも砕く威力を持つ。
「……ッ!?」
 杖を支えにして耐えるクリムだったが、それでも衝撃は骨の髄にまで響き、思わず意識が飛びそうになった。
 冗談抜きで、これは強敵だ。知性こそ感じられないものの、こんなものを何度も食らえば、演技など関係なしにこちらの身体がバラバラにされてしまう。
「皆気を付けて。以前より手強くなっているようだ」
 黒き太陽の力で死神達を足止めしつつ、鉄・冬真(雪狼・e23499)が仲間達に告げた。その心情は、演技半分、本音半分と言ったところか。正面から戦って倒せない相手ではないが、まともな総力戦を考えた場合、こちらの被害も馬鹿にならない。
「罪人エインヘリアルのサルベージ。死神としての動きなのか、それとも利用されているだけなのか……」
「死神の思惑は気になるけれど、今は人々を守る為に、力を尽くさないと」
 御影・有理(灯影・e14635)に促され、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)もまた迷いを断ち切るように頷き、地を駆ける。目的は、敵の撹乱だ。相手の間合いから考慮して、そこまでの威力は期待できないが。
「超加速装置始動。全力で駆け抜けさせて貰うわ」
 それでも、引き付けるだけなら十分だと、敵と敵の間を高速ですり抜け、蹴散らして行く。その動きに相手が気を取られている最中、高々と飛翔した有理の蹴りが、ミュラーの顔面を直撃した。
「グ……ウゥゥ……」
 左手で顔を抑えつつ、ミュラーが唸りを上げて後ろに下がる。間髪入れず、ボクスドラゴンのリムがブレス攻撃を仕掛けるも、今度は死神達によって防がれてしまうが、それさえも見せ技に過ぎないもの。
「まだまだや! こっちにもいるで!」
 多数の釘を生やしたエクスカリバールを振り上げて、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)がミュラーの後頭部に叩き付けたのだ。
「ガッ!? ……ァ”ァ”ァ”ァ”ッ」
 巨体を誇るエインヘリアルとはいえ、さすがにこれは効いたようだ。左手だけでなく、瘤状に変形した右腕も使って後頭部を押さえ、ミュラーが思わず膝を付いた。
「さぁ舞台は整った。開演といこうか」
 敵の動きが止まったところで、チェーンを広げて守りを固めるカトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)。
 これで準備は整った。後はこちらの思惑を悟らせず、いかにして再生したミュラーを撃破するか。
 夜の街に響く雄叫び。異形の怪物と成り果てた罪人エインヘリアルを相手に、偽りの仮面を被った死闘が開始された。

●虚構と真実の狭間
 死神の力によって再生されし、『砕拳』の名を冠するエインヘリアル。知性の低下を抜きに考えても強敵であることは間違いなかったが、今回に限っては、それがケルベロス達の演技を上手く際立たせる要因ともなっていた。
「っく……。思った以上に厳しい、わね」
「さすがやな。なんとかギリギリもちこたえとるけど、つらいな」
 気弾と呪弾でミュラーを狙いつつも、マキナと真奈は敢えて毒に苦しむ素振りを見せる。ミュラーの一撃に比べれば、死神達の攻撃など大したことはない。が、戦いの流れをこちらに向けさせるには、まだ少しだけ時間が足りない。
「氷晶よ、白き牙を築き、忌敵を阻む檻となれ」
 後少し。ほんの少しで壁が崩れる。敵を纏めて酷寒の世界へと誘うべく、冬真は御業より白銀の氷柱を呼び、氷柱の檻を降り注がせるが。
「……ゴォォォッ!!」
 氷結に飲み込まれる死神達を余所に、ミュラーが雪煙を上げながら突っ込んで来た。そのまま腕を大きく薙ぎ払うようにして振るえば、凄まじい衝撃が波となって、有理の方へと向かい放たれた。
「……触れるな、下衆が」
 瞬間、冬真が割り込んで衝撃を受け止めるものの、その一瞬だけ本音が出た。
 先程までの雰囲気を一蹴するほどの凄まじい殺気。さすがに、これには死神達も、動きを止めて冬真を見やるが。
「ありがとう、冬真……。油断したらやられてしまうかも。気をつけて」
 敵の牽制はリムに任せ、すかさず有理が気を分け与えたことで、我に返って顔を顰める振りをした。
「ごめん、有理。気を付けるよ」
「うん。貴方の背中、守ってみせるから」
 互いを想う心は本音ながら、しかし演技は崩さずに。力と力のぶつかり合う戦場において、虚構の仮面は酷く脆い。少しでも気を抜き、感情を露わにしたら最後、それだけ砕け散ってしまうものだから。
「あまりの猛攻でヒールが追い付きそうにない!」
「これは……長期戦に持ち込めるか怪しいところだな」
 流れを元に戻すべく、カトレアとクリムは敢えて自信のない素振りを見せる。その上で、今度はシヴィルが仕掛けるものの、すぐさま杖を片手に口元を押さえ。
「しまった! 使うグラビティを間違えた!」
 火炎弾で敵を纏めて焼き払いつつも、そんなことを言ってみた。
「キュル……キュル……」
「キュ……キュルル……」
 これで、完全に自分達が優勢であると判断したのだろうか。
 死神達は一斉にケルベロス達へと牙を剥くが、その好機を絶奈は見逃さなかった。
「ここで壁を崩されるわけにはいきませんね。ならば……」
 満月にも似た光球を、相棒のテレビウムへと投げ渡す。表向きは、あくまで壁役の体力維持。しかし、本当の目的は、他のところにあるわけで。
「……キュッ!?」
 果たして、そんな彼女の思惑通り、テレビウムの凶器による一撃が、ついに死神の一角を打ち砕く。
 これで敵の壁は崩れ去った。未だ二枚の壁が残ってはいるが、それでも勝負を仕掛けるなら今しかない。
 狂える死者に、再び眠りを。あくまで苦しむ素振りは崩さないまま、ケルベロス達は一斉に、砕拳のミュラー目掛けて攻撃を開始した。

●再び眠りへ
 苦戦の演技から一転し、ケルベロス達はミュラーへと向けて、一気呵成の流れで攻撃に入った。
 もっとも、それでも途中でミュラーに逃げられてしまえば元も子もない。最大限の攻撃を叩き込みつつも、苦戦の演技は途切れさせず。
「くっ、まだ倒れないのか……!」
 苛立ちと焦りを見せながら、冬真はミュラーを鋼の拳で殴り飛ばした。
 正直なところ、これも本音が半分だ。しかし、先の戦いに比べても、確実に敵は疲弊している。攻撃を受け止め続けた結果、死神達は自らを回復して体勢を整えることに始終しており、戦いの大半をミュラーに任せてしまっている。
「早く倒しきらないと、人々に被害が出てしまう……!」
 死神達の間を縫うようにして通り抜け、有理もまた刀を構えてミュラーへと斬り掛かった。
 美しい円弧を描く斬劇が、急所を狙って繰り出される。さすがに拙いと悟ったのか、死神の内の一体が守りに入ったが、それはあまりに無謀な行為。自らの体力の限界を顧みずに庇った結果、怪魚は虚しく両断されて。
「焼き魚にするのはあとでやな。まずはこっちからや」
 リムのブレスがミュラーの顔面を焼くのを見て、今度は真奈が拳に炎を纏った。
 ここで死神を倒してしまっても良いが、最後まで焦りは禁物だ。こちらの目的は、あくまで人々の受ける被害を減らすこと。だが、最も危険なエインヘリアルを倒せるのであれば、倒しておきたいという気持ちは変わらない。
「刃の錆は、刃より出でて刃を腐らす」
 己の喰らって来た魔の力。それを炎に変えて、真奈はミュラーの顔面に繰り出した。幾度となく顔を狙われ、既に原型留めず焼け爛れたミュラーの姿。それは右腕の異形化と相俟って、もはやゾンビと言うに相応しいもの。
「グルァァァッ!」
 野獣の如き咆哮を上げ、ミュラーが右腕を無茶苦茶に振り回す。醜い瘤の塊が不気味に蠢き、中から射出されるは鋭い骨。そのまま、近くにいたシヴィル目掛けて繰り出すが、そんな渾身の一撃も、彼女は翼を大きく広げて高々と舞うことによって回避した。
「右腕が巨大な程度で、私たちに勝てるつもりだったのか? 私たちはこれまでダモクレスやドラゴンのような、右腕だけではなく全身が巨大な敵と何度も戦ってきたのだ!」
 どれだけ強力な攻撃も、当たらなければ意味を成さない。報告によれば、以前に現れた砕拳のミュラーは、俊足による一撃離脱を得意とする戦士だったという。
 それに比べて、今のミュラーは力こそ増してはいるものの、スピードが完全に死んでいる。単にパワーを上げただけの巨漢など、本気で戦えば恐れるに足らず。
「破壊と略奪の炎よ。荒れ狂え!」
 そちらが暴虐の使途となり蘇ったのであれば、こちらも相応の技で迎え撃とう。破壊と略奪の炎を武器に纏わせ、シヴィルは蛮族の如く荒々しい動きで、力任せに叩き付けた。堪らず、ミュラーが右腕で受け止めるが、それでも炸裂する炎が消えることはなく。
「ここで逃がせば多くの命が脅かされる。この一撃、持っていって貰うわ」
「そうだね。確実に、仕留めさせてもらおうか」
 展開されたマキナの胸元から凄まじい光の奔流が発せられれば、クリムの振るう蒼き魔槍もまた、彼の持つ力を乗せてミュラーを斬る。右腕を穿たれ、薄気味悪い液体を飛ばしながら、魔獣と化した戦士の雄叫びが響き。
「君のために鎮魂歌を作っておいてあげたんだ。とっとと寝たまえ」
 これ以上は、不愉快なものを見たくない。そんな想いも込めつつ、カトレアは楽譜にグラビティ・チェインを注ぎながら、少女を模した式神を召喚を召喚した。
「君たちを讃える歌を用意しておいた。まだまだへばるんじゃあないよ。それでは第6番……“聖女による頌歌”」
 仲間の回復は任せておけ。その間に、そちらは敵への止めを頼む。彼女の目配せから、そんな言葉を感じ取ったのだろうか。
「思い出せもしないでしょうけれど、随分『色男』になりましたね。蒐集家であった貴方が死神の蒐集物になるとは……皮肉ですね」
 かつての非道に対する皮肉を込めて、絶奈は高々と腕を掲げ、眼前に多数の魔法陣を展開した。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 その中心より呼び出されしは、光輝く槍の如き物体。生命の根源を思わせる槍は、あまねく命に癒しを与え、しかし不死なる者には破壊を齎す。偽りの肉体、仮初の命。それら全てを否定する輝きが、ミュラーの肉体を崩壊へと誘い。
「貴方には過ぎたる心遣いでしょうが……誰かの着ぐるみになるよりはマシでしょう。安らかに眠れ」
 そう、絶奈が紡ぐと同時に、異形と化した戦士の身体は溶け落ちるようにして崩れ去り、消えた。

●三度目の死
 戦いの終わった交差点は、再び静けさを取り戻していた。
 ミュラーさえ倒れてしまえば、残る死神など有象無象の雑魚に過ぎない。後片付けのついでとばかりに、軽く始末して周囲を見回せば、戦いの爪跡がそこかしこに残されている。
「有理、大丈夫? 怪我はないかな?」
 周囲の損傷を可能な限り修復した上で、冬真は有理を抱き締め尋ねた。
「大丈夫だよ、冬真。貴方こそ、深い傷は無い?」
 幸い、その心配はないと冬真も頷く。そんな中、絶奈は不審な痕跡を探して辺りを見回っていたが、何の収穫もなく軽い溜息を吐いた。
 エインヘリアル。アスガルドの終末戦争に備えて呼ばれた死者でありながら、神々へと反旗を翻した者達。
 そんな彼らにとって、死とはいったい何だろうか。ミュラーにとっては、これが恐らくは三度目の死だろう。
 その歪んだ嗜好により、常に反逆の使途として戦い続け、最後は身も心も魔性へと堕ちたる者。幾度となく死んでは蘇り、その果てに言葉さえも失った修羅の道。その先に本当の安らぎがあったのだとすれば、これ以上の皮肉は無い。
 夜の闇は何も語らない。ただ、狂える戦士の魂だけを飲み込んで、血と破砕の狂想曲へと終わりを告げた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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