ディープディープブルーファング、襲来

作者:坂本ピエロギ

 女の白い手が、鉄の魚に球根を植えつけた。
 球根は死神の因子。鉄の魚は試作用量産型のダモクレスである。
 因子による影響か、ダモクレスは数回身震いすると、すぐに暴走を始めた。
「ピー……ガガガ……ガオオオオオオオオオオン!!」
 女は赤い翼を広げながらそれを見届けると、うっすらと微笑を浮かべる。
 夢に描いた計画が順調に進んでいるという実感を覚えたからだ。
 この計画が達成された暁には、死神種族は大きなアドバンテージを得ることだろう。うまくいけば他種族との覇権争いをリードすることも夢物語ではないはずだった。
「お行きなさい、ディープディープブルーファング」
 優しい声でダモクレスの名を呼んで、死神は暴れる試作機を人間の里へと送り出す。
 もう二度と見ることのないであろう青い鉄の背中に、手向けの言葉を送りながら。
「あなたは私の研究の糧となるのです。グラビティ・チェインを蓄え、そして――」
 そして、ケルベロスの手にかかって死になさい。
 私達デスバレスの繁栄のために。

「緊急事態だ。巨大な魚型のダモクレスが、島根県の松江市に向かっているようだ」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は緊迫した表情で告げた。
 彼が操作したモニタに映し出されたのは戦闘機を思わせる鮫のような姿のダモクレスだ。死神の因子を埋め込まれているらしく、出現の背景は不明だと王子は言う。
「敵の名称は『ディープディープブルーファング』。現在このダモクレスは空を泳いで松江の市街地へと向かっていて、到着と同時に住民の虐殺を行うものと思われる」
 ディープディープブルーファングの全長は5メートル。これだけ巨大なダモクレスに襲撃を受ければ市街地は壊滅し、多大な犠牲は免れ得ない。市街地の手前で敵を迎撃し街の人々をこのダモクレスから守ることが、今回の作戦目標だ。
「敵の攻撃手段はメカ触手と魚雷の2つ。加えて、回復手段として妨害性能向上を兼ねた修復機能も有している。高いレベルで調整が施された戦闘マシンというのが私の印象だ」
 それと、これは依頼とは直接関係ない事だが――王子はそう言って、情報を付け加える。
「今までの戦いでは、死神の因子を植え付けられたデウスエクスは皆、倒された後に彼岸花のような花を咲かせた死体を死神に回収されていた。だが、今回の敵にはそういった特性が存在しないようなのだ」
 そこから分かるのは、黒幕の目的がグラビティの収奪や死体のサルベージとは別にある可能性が高いということ。もっとも現時点では、憶測の域を出ないが。
「不明な点については、これから戦いが進む事で明らかになるかもしれん。ともあれ、まずは敵の撃破が最優先だ。絶対に撃ち漏らすことのないよう万全の準備で臨んでくれ」
 王子は話を締めくくると、急いでヘリオンの発進準備へと取り掛かった。
「暴走するダモクレスを撃破し、死神の企みを阻止できるのはお前達だけだ。頼んだぞ!」


参加者
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
ペテス・アイティオ(君は流星のエンジェル・e01194)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)

■リプレイ


 島根県松江市。
 和久羅山の東に広がる田園地帯で、ケルベロス達は敵の襲来を待ち受けていた。
 作物の収穫を終えた畑は一面の更地で、周囲に人影は全くない。リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)の視線の先に映る中海は平穏そのもので、穏やかな波が呑気に潮騒を奏でていた。
「死神の因子を持ちながら、死体やグラビティは目的ではない? 一体何が目的なのだ」
「確かに情報が少なすぎるな。死神め、何を企んでいるのだ……」
 不穏な声で眉間を抑えるリカルドに、マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)が同意を示した。
 ディープディープブルーファング――グラビティも死体の回収も眼中になく、暴れて死ぬ事が目的のダモクレス。背後で糸を引いているであろう死神の意図は闇の中だ。
(「熊本の戦いが終わったと思えば、死神に攻性植物か……何事もないと良いのだが」)
 生ぬるい潮風に、妙な悪寒を覚えるマルティナ。その傍では、仲間達が着々と迎撃の準備を整えていた。
「罪のない人達の暮らしが脅かされないように、絶対に敵を止めないとね!」
「策謀は良い、巡らすのも、暴くのもな。まあ吾は後者の方が得意ではあるがな!」
 園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)の準備は既に万端だ。妖刀『天狂瀾』の狂おしげに哭く声が今日は一際強いことを、藍励の獣耳ははっきりと捉えていた。
 隣では戦いを待ちわびるように、オウガの少女オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が金色の籠手を打ち鳴らして呵々大笑する。外見こそ小柄な少女のオニキスだが、定命化するまでに彼女が経た年月は長い。
「魚は三枚おろしにすると相場が決まっておる! いや、開きの方が良いか?」
 赤い瞳に宿すは、純粋さと豪快さが同居した光。相棒のチェーンソー剣を担ぎ、敵を待ちわびるように海を眺めていると、小型カメラを手にしたアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)がぽつりと呟いた。
「……来たようね」
 アウレリアのカメラが捉えたのは、海面すれすれを飛行しながら向かってくるサメのような機械。死神の因子を持つダモクレス、ディープディープブルーファングに間違いない。
(「彼岸花の件が解決する前に新手が出るなんてね……本当に謎ばかり増えていくわ」)
 全てのカメラを録画モードへと切り替え、所定のポジションへと移動するアウレリア。
 謎の解明には正確な情報が命だ。彼女はそのために、どんな手も試みるつもりだった。
「アルベルト、妨害のサポートを頼むわね」
 自身のビハインドに指示を出す間にも、敵の機影はどんどん大きくなる。こちらの存在に気付いたのか、体の後部から展開された鉄の触手がはっきりと見えた。
「ガオオオオオオオオオオオン!!」
 咆哮を轟かせケルベロスを排除せんと迫るディープディープブルーファング。その行く手を塞いだのはペテス・アイティオ(君は流星のエンジェル・e01194)だ。
「待ちなさいメカザメさん! そんな武器を街中でぶっ放そうだなんて非道極まりなし!」
 ペテスの制止に、敵は怯む様子を見せない。
 むしろ手頃な的が見つかったとばかり、一直線にペテスへと接近してきた。
「貴方の悪事、たとえ皆既日食とかで太陽が見逃そうともこのペテスがきゃあああ!?」
 体当たりをすれすれで躱し、振り返るペテス。
 大鮫は機体を翻し、鋭い咆哮をあげて再びケルベロスへと向かってきた。
「分かってたですけど、本気みたいですね……絶対に人里まで行かせないです!」
「あーあ、本物の鮫だったら料理して食べられるのに、ダモクレスで死神の因子付きかぁ」
 ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)は小さく溜息をつくと、ドラゴニックハンマー『オルトリード』を構える。迫る大鮫を前に、ノルンは一歩も退かない構えだ。
「煮ても焼いても食えないようなやつは、さっさと倒しちゃおう!」
 目に映る生物を皆殺しにする勢いで迫る大鮫の姿は、まさに死神。尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)はそんな相手を真正面から睨み返して、笑顔で告げる。
「よお、壊れるのがてめえの任務か? いいぜ、壊してやるよ」
 戦闘用ブーツで地面を踏みしめ、攻撃態勢を取る広喜。
 円柱の如き敵のメカ触手が立てる微かな風切り音が、戦闘開始を告げた。


「ガオオオオオオオオオオオオオン!!」
 鋼鉄の円柱のごときメカ触手が、一斉に襲い掛かってきた。
 ディープディープブルーファングの咆哮と同時、メカ触手の一群はまるで自律した意思を持つかのように次々とランダムな軌道を描いて前衛のケルベロスに食らいついてゆく。
「勝負だね。受けて立つよ!」
 ノルンは藍励を触手から庇うと、掌に雷を帯電させ始めた。敵の真横から跳躍し、紫電をまとう拳を横面めがけて叩きつける。
「ライトニング・スタン、受けてみろ!」
 空気が震え、大鮫が激しくのたうった。青い装甲に拳型の陥没痕を刻み込まれるも、敵の動きは全く衰えない。開放された背面から魚雷を出し、リカルドとペテスが回復している前衛に再び狙いを定めたようだ。
「む、まずいな。魚雷が来る前に治療を終えなければ」
「皆さんファイトなのです! 空飛ぶサメなんかに負けないで下さいです!」
「ああ、任せとけ!」
 広喜は拳を握り固めると、全力疾走で並走しながら敵の姿を注意深く観察する。
 鋼鉄のボディは新しく、ヒールで修復された痕跡は見当たらない。塗装も綺麗なものだ。死神の因子は機体内部に根付いているのか、肉眼では発見できない。
(「ピッカピカの新型機ってところか。残骸だけでも回収したいけどな……」)
 それを考えるのは後でいい、そう広喜は考えた。
 今は戦うのみだ。広喜は右腕を振り被り、地獄の炎を纏う拳を大鮫めがけて振り下ろす。任務に忠実な敵に敬意と親近感を込めて、全力で破壊するのだ。
「ぶっ壊し合いといこうぜ。直せねえくらい、壊してやるよ!」
「ガオオオオオオオン!!」
 癒しを阻害する炎で傷を負った大鮫は、アルベルトの金縛りを回避しながら怒りの咆哮を轟かせた。それを見たアウレリアとマルティナが、エアシューズで加速の態勢に入る。
「まずは動きを封じた方が良さそうね」
「そのようだな。スターゲイザーを使う!」
 連続して煌めく流星の蹴りが、鋼鉄の横腹を蹴り砕いた。敵の鈍った動きを好機とみて、藍励とオニキスが仕掛ける。
「ヴェルミリオンさん、チャンスだよ」
「うむ! サメごときが空を飛ぶなどおこがましいわ!」
 オニキスの『龍王沙羯羅大海嘯』が、大波のごとき水龍を呼び寄せた。
「挨拶代わりだ、受け取るがよい!」
 龍の波に乗ったオニキスは、藍励の呪怨斬月が斬り裂いた傷に狙いを定めチェーンソー剣を手に突撃。剣に埋め込んだ竜の牙を回転させ、敵の装甲を滅茶苦茶に切り裂いた。
「挨拶代わりに思い切り殴りつける、これが得策よ!」
「気をつけろ、来るぜ!」
 広喜が旋刃脚のラッシュで敵を切り刻み、追撃を叩き込もうとした正にその時、大鮫の背からサメ魚雷が次々と発射された。小さな青い鮫型の魚雷は弧を描いて宙を舞うと、前衛の4人に着弾炸裂し、赤黒い花を次々と咲かせてゆく。
「みんな、ダメージは平気か? いま回復するからな」
「がんばるです! 必ず勝って帰るです!」
 ブレイブマインで仲間を癒しながら、キュアが満足に行き渡らない事にリカルドは微かな焦燥を感じた。ペテスもまた、オラトリオヴェールで仲間達を優しく包み込むが、全員のバッドステータスを取り去るには至らない。
(「大丈夫、まだ動ける……」)
 藍励は仲間の無事を確認すると、家宝の呪刀を手に、全力で攻めに出た。
 唯一の前衛火力である藍励は状態異常の回復手段を積んでいない。ひたすらに攻めて敵を防戦に追い込むことが、彼女に果たせる最大の貢献であり仕事だった。
「天狂瀾、力を貸して……!」
 地面を蹴って駆け出す藍励の背を押すように、ノルンとマルティナが援護する。
「オルトリードの砲撃、甘く見ないでよね!」
「怯むな、進め!」
 ノルンの轟竜砲が炸裂し、マルティナのサイコフォースが風を裂いて着弾。さらに先行したオニキスとアウレリアが敵の装甲をはぎ取るべく、息を合わせて攻撃を仕掛ける。
「ほれ、そこよ! 鱗がないぶん楽に捌けるわ!」
「弱点は……そこね。遠慮なく突かせてもらうわ」
 オニキスがチェーンソー剣で切り裂いた装甲に狙いを定めて、引き金を引くアウレリア。正確無比な部位狙撃が敵の傷口をジグザグに押し広げてゆく。
「ええいっ!!」
「ガオオオオオオオオオオオオン!!」
 爆炎と土煙で黒茶に染まった空気を突き破り、憑霊弧月の一閃を叩き込む藍励。
 軋むような大鮫の悲鳴が、松江の空に響き渡った。


 敵は不利を感じたのか、自己修復システムで傷を塞ぎ始めた。
「ガガ……ガガガ……」
「よお、もう降参か? もう少し壊し合おうぜ!」
 右手に炎を宿した広喜は、弾幕をかい潜る大鮫の進路に素早く回り込むと、笑顔を浮かべながら二発目の『抉リ詠』を鋼の眉間めがけて叩きつけた。
 アンチヒールを付与された敵をアウレリアのスターゲイザーとオニキスのオウガナックルが再び叩きのめしてゆく。
「注意せよ! 敵の力は剥がれておらん!」
「負けるもんか! 絶対に勝ってみせるんだ!」
 シャウトを飛ばし、毒とアンチヒールを癒すノルン。ブレイクの不発を伝えるオニキスの声に、マルティナは即座に愛用の斬霊刀へとグラビティを注ぎ始める。
「了解、私がもう一度やってみる!」
 レイピア形状の斬霊刀を手に、マルティナは跳躍。敵の間合いに飛び込んで、流星の如き刺突を叩き込むと、妨害能力は今度こそ剥ぎ取られた。
「よし。これで最悪の事態は……ん?」
 胸を撫で下ろし、隊列へ戻るマルティナの藍色の目が、敵の背から再び現れたサメ魚雷を捉えた。その弾頭が向く先は、またもや前衛だ。
「やれやれ、なんとも執念深いことだ」
 後方ではペテスとリカルドが、気力溜めとブレイブマインで傷ついた仲間を癒していた。
 前衛のシャウトも手伝ってバッドステータスは全快。生命力も、防戦一方にならない程度までは回復できた。
「永望、微之型『幻壊』――ディストラクション・イリュージョン」
 芯の通った声で、藍励は天狂瀾を翳した。投影した幻で傷を塞ぎ、破壊の力を増幅させ、最後の激突に備えて気力を練り上げていく。
「ガオオオオオオオオオオオオン!!」
 轟く咆哮。
 白い尾を引いて飛来する魚雷の束から、マルティナが藍励を庇う。
「くっ……!」
 白い軍服が血で汚れるのも構わず、マルティナはエアシューズで加速。
 もがくように空を泳ぎ必死に回避を試みる大鮫を、二つの銃口が捉えた。
「あなたが沈むのは、深く淵き青い海ではない……二度と浮かび上がれない死の奈落よ」
 ビハインドの白銀の銃が火を噴いた。心霊の力で絡め取られた大鮫の傷口をアウレリアの『フルータ・プロイビータ』による狙撃が更に押し広げてゆく。
「ガオオオオオオン!!」
「食らえ!」
 狙いすましたマルティナのエアシューズが、サマーソルトキックの軌跡を描いて鋼の顎を直撃。砕け散った牙の破片をまき散らし、大鮫は悲鳴を上げてのたうち回る。
 破壊衝動に任せるまま鉄のメカ触手を振り回し、サメ魚雷の弾幕で破壊の嵐をまき散らすディープディープブルーファング。ケルベロスのつけた傷で体中を覆われた鋼鉄の死神の咆哮は、すでに悲鳴へと変わっていた。
「そろそろ、かな……園城寺、準備よろしくね!」
「トドメは任せる! 仕損じぬようにな!」
 電を帯びたノルンの拳が、霊体を憑依させたオニキスのチェーンソー剣がうなりをあげて襲い掛かり、身をよじる敵を容赦なく切り裂いていく。
「思い切りぶっ壊してきな! 俺の分までな!」
「さあ、後は任せたぞ」
 敵の動きが精彩を欠き始めたのを確かめて、広喜は左耳のピアスに触れた。蒼石をはめ込んだデバイスを起動し、リカルドと共にブレイブマインで藍励ら前衛を包み込む。
「GOなのです! 突撃あるのみです!!」
「ありがとう、みんな……うち、行ってくる」
 ペテスのオラトリオヴェールに包まれて、煙幕の織り成す色彩の二重奏に勇気を貰って、藍励は駆けた。
 襲い来るメカ触手の嵐を潜り抜け、跳躍。
 大上段で振り被り、天狂瀾の呪詛を込めた一撃を振り下ろす。
「終わりだよ。ディープディープブルーファング!」
「ガ……ガ……ガオオオオオオオオオオオオン!!」
 断末魔の絶叫。断ち割られる眉間。
 装甲の隙間からまばゆい光を漏らし、ディープディープブルーファングは跡形もなく吹き飛んだのだった。


 周辺のヒールが終わり、黒焦げになった敵の破片をケルベロス達は見下ろしていた。
「これは随分と、派手に壊れたものね……」
 アウレリアはカメラを回しながら、残念そうにかぶりを振った。
 敵の残骸は完全に原型を失い、パズルのピース片と化していた。うまくすれば内蔵カメラやデータ送信機の類が見つかるかもと思ったが、これでは望むべくもない。
「うむ。これだけ木端微塵では、回収は無理よな」
「死神の因子……我々に倒されることで、一体何を……」
 言葉を交わすオニキスとマルティナに、ノルンが頷く。
「死神が因子を回収しないのは、なんでだろう? 嫌な予感がするな……」
「確かに……死神の思惑、気の所為であってほしいな」
 リカルドの言葉に不安を覚え、ノルンは周囲をそれとなく見回してみたが、敵らしき者の気配はなかった。
「きっと、これはただの始まり……見えない大きな流れが迫る気配を感じるです!」
 ペテスは仲間達を見回すと、胸を張って断言した。確かに彼女の言う通り、これが単発の事件で終わるとは思えない――。
 その時、藍励が沈んだ空気を振り払うように手を打ち鳴らした。
「皆、お疲れ様。無事に終わってよかった」
「そうだな。お疲れさんだぜ」
 広喜はニッと返した笑顔のまましゃがみ込むと、地面に転がった残骸に小声で囁く。
(「あんたもな。任務お疲れさん」)
 死神に操られた存在であっても、破壊される最後の瞬間まで任務に忠実だった敵。
 そんな鋼の青鮫に敬意を示し、広喜はそっと黙祷を捧げた。
 きっと事件の黒幕である死神にとって、この結果は想定の範囲内であるに違いない。
 一体何かは知らないが、望みのものを得た死神はほくそ笑んでいるに違いない。
 だが、広喜は思う。黒幕の死神はたった一つだけ、過ちを犯したと。
(「てめえは俺達にケンカを売った」)
 四肢を覆う地獄の炎が、ほんの一瞬ゆらめいた。
 物を燃やす赤い炎ではない。それはすべてを溶かし、無に帰す青い炎だ。
「死神。絶対に許さねえ」
 誰にも聞こえない声で、広喜は呟く。
 ケルベロス達の見上げる青空に、一筋の黒煙が吸い込まれて消えていった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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