●死神の策動
東京。深夜の不夜城。
人もまばらになった繁華街の裏道。人が進んで近づこうとは思わないそんな場所に、それは現れた。
体長二メートル程の浮遊する怪魚。それが三体。
ゆらゆらと、何かを探すように蠢き、宙空を泳ぐ。
青白く発光するその身体は何かの暗示か。光の軌跡は気づけば大きな魔方陣となって術式を完成させる。
召喚――そう召喚の術式だ。
徐々に輪郭がはっきりとしてくる。その姿、形は、嗚呼そうだ。いつか彼らが倒した狂戦士。
血を好み、血に塗れ、そして倒れた――通称『血塗れのゴルド』。
だが、その姿、どこか違う。
そう、死神による変異強化の結果、野獣のように膨れあがった頭部。白目を剥き、荒い吐息を繰り返すゴルドはもはや知性を感じさせない戦闘狂だ。
魔方陣が消えると同時、血塗れのゴルドが大きく咆哮を上げた。
それはきっと、これから起こる血祭りを想像し猛るかのようだった――。
●
「東京都は新宿の繁華街で、死神の活動が確認されたのです」
集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)はそう告げると資料を表示する。
「死神といっても、かなり下級の死神なのです。浮遊した怪魚のような姿で知性を持たないタイプなのですよ」
クーリャによれば、怪魚型死神は、番犬達が撃破した罪人エインヘリアルを、変異強化した上でサルベージし、周辺住民の虐殺を行ってグラビティ・チェインを補給した上で、デスバレスへと持ち帰ろうとしているようだ。
話を聞いていたセニア・ストランジェ(サキュバスのワイルドブリンガー・en0274)が言葉を挟む。
「過去の報告書を見させて貰った。血を見るのが好きな厄介な斧使いということだな」
「そうなのです。三メートルはあるであろう巨躯に二本の斧持つおっかない人なのです。
そんな奴を暴れさせる訳にはいかないのです。
市民を守り、死神を撃破し、サルベージされた血塗れのゴルドに今度こそ引導を渡して欲しいのです」
続けて敵の詳細情報をクーリャは伝える。
「敵は血塗れのゴルドと怪魚型死神三体なのです。
血塗れのゴルドは変異強化の影響で知性を失い暴れるだけなのです。難しい行動や考える行動はしてこないのですよ」
ルーンアックスによく似た武器を持ち、『スカルブレイカー』、『ブレイクルーン』、『ダブルディバイド』に似たグラビティを使用する。
「まさに攻撃一辺倒だな。相手に取って不足はない。――それで、怪魚型死神の方は?」
セニアの問いかけにクーリャは資料を切り替える。
「怪魚型死神も知性はもたず、噛み付き攻撃をしてくるくらいなのです。そう強くはないので相手をするのは容易なのですよ」
ここまで聞けばそう難しい相手ではないが、クーリャはさらに情報を付加する。
「皆さんが駆けつけた時点で、周囲の避難は行われているのですが、広範囲の避難誘導を行った場合、グラビティ・チェインを獲得できなくなるため、サルベージする場所や対象が変化してしまうのです。
そうなれば事件を阻止できなくなるので、戦闘区域外の避難は行われていないのです。
――つまり、皆さんが敗北した場合は、かなりの被害が予測されるのです。敗北は許されないのです」
加えて、番犬達が現れ死神達が劣勢になると、下級死神は、サルベージした血塗れのゴルドを撤退させようとするようだ。
撤退を行う瞬間は、下級死神も血塗れのゴルドも行動ができない。番犬達が一方的に攻撃することが可能なはずだ。
「下級の死神は知能が低い為、自分達が劣勢がどうかの判断が上手く出来ないようなのです。
つまり、皆さんが上手く演技をすれば、優勢なのに劣勢だと判断したり、劣勢なのに劣勢ではないと判断してしまうはずなのです」
「なるほどな。それをうまく使えばより優位に戦闘を行うことも可能か。万が一こちらが劣勢に陥った場合でも、敵を撤退させて市民の被害を防ぐことは可能というわけだな」
セニアの言葉に頷いて、クーリャは資料を置くと番犬達に向き直る。
「エインヘリアルのサルベージを狙ってサルベージをしている事から、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)さんが危惧していたように、エインヘリアルと死神との間になんらかの密約がある可能性もあるかもしれないのです。
とにかく危険なエインヘリアルがサルベージされているのです。市民の皆さんを護る為にも、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
ぺこり、と頭を下げたクーリャは、そうして番犬達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
ユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134) |
ゼレフ・スティガル(雲・e00179) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469) |
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869) |
陽月・空(陽はまた昇る・e45009) |
夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580) |
ウリル・ウルヴェーラ(ドラゴニアンのブラックウィザード・e61399) |
●血塗れの狂人
深夜の不夜城として名高い新宿の繁華街。
しかし避難の行われた今、その場所は静けさに包まれていた。
番犬達は死神とサルベージされたエインヘリアルを探し、不夜城を走っていた。
「どんな気分なのだろうね。
眠りから覚まされる、というのは。
――かれの場合は、寧ろ望む所なのかな」
此度の相手、死神にサルベージされたエインヘリアル『血塗れのゴルド』を思い、ゼレフ・スティガル(雲・e00179)が呟くと、同意するようにユウ・イクシス(夜明けの楔・e00134)が目を伏せながら言葉を零す。
「――難儀な事だ。
静かに眠らせてももらえないのだから、な」
ゴルドに対し、縁も所縁も何も有りはしないが、死を迎え、尚も利用された者の姿には幾つか覚えがあった。
「ふむ、死人の復活とは……悪趣味な話だ」
かつて、魂を導きエインヘリアルとする能力を持っていたヴァルキュリアであるクオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)。戦乙女として死神に利用される偽りの生に、幕を下ろしてやるのだと、心に火を灯す。
「――エインヘリアルと死神はこの宇宙に現れた時点で浅からぬ縁があるようですが、さて」
丑三つ時に死者の蘇りとは、皮肉なことだと目を細める、西水・祥空(クロームロータス・e01423)。二者の関係に深く思索する。
「ふふ、エインヘリアルが死神に踊らされる姿は滑稽で良いのですが、
被害を出させるにはいきませんし、早々に片付けることにしましょうか」
紳士的な態度で、和やかな笑みを湛えるシトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)だが、その実、エインヘリアルに憎悪の炎を燃やす一人であり、死神に良いように使われるエインヘリアルを笑った。
「……使い捨て、と思ってたけど罪人だから一度死なせて、思考能力を無くしてから使うつもりだったんだ。結構酷いね」
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)の考えは、エインヘリアルと死神の関係性を示すものか。それが真実なのだとしたら、エインヘリアルと死神の関係は想像以上に深いものと思われた。
「血塗れの狂戦士……やっぱり、今でも血を求めているのかな」
前回、番犬達に倒されたときも狂ったほどに血に飢えていた『血塗れのゴルド』。サルベージされ知性を失っていても血を求めるとなれば、その本質は疑いようもないだろう。狂人を思い浮かべウリル・ウルヴェーラ(ドラゴニアンのブラックウィザード・e61399)は頭を振った。
同様の想像をしたのだろうか。並走するセニア・ストランジェがまだ見ぬ強敵に対し興味と期待を浮かべると、その様子を見ていた極度の人見知り、夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)が勇気を出してセニアに声を掛ける。
「おや? 随分とたかぶってるご様子……」
「わかるか? ふ、『血塗れのゴルド』なんて大層な名前だ。どれほどのものか……楽しみでな」
セニアの言葉に玲は一つ頷き、
「奇遇ですね、私もなんですよ――だから」
手にしたお面を装着すれば、一変する空気。そこに人見知りの少女の姿はなく――、
「さぁ、夢物語を始めようか……! けひひっ」
玲が独特の笑い声を上げると同時、視線の先に、見える巨躯の人影。
「――見つけた!」
「……大きいですね」
月明かりに照らされるは三メートルを超える頑強な戦士。両の手に血に塗れた双斧を握り、だらんと、首を傾げている。
――血塗れのゴルド。サルベージされたエインヘリアルの狂人である。
周囲に浮かぶ怪魚型の死神三体が、番犬達に気づくように蠢くと、ゴルドが視線を向けた。
「ア……ケ、ケル、ベロス……!
チ……チッ、チチチィィィィ!!!」
やはり、その本質は死しても変わらず。血を渇望する獰猛な咆哮が深夜の不夜城に響き渡る。
狂気の入り交じる殺意を前に、番犬達は武器を構えた。
サルベージされた狂人『血塗れのゴルド』とそれを操る死神との戦いが始まった――。
●屍は翳す狂いし斧を
巨躯が弾丸のように加速する。尋常ならざる速度を持って、振るい落とされる双斧がアスファルトの地面を破砕し、瓦礫を巻き上げる。
恐るべき速度、恐るべき威力……! 本能的な動きで危機を回避した番犬達は背筋を走る戦慄を感じながら、距離を取り間合いを計る。
「なるほど、強さは本物という訳か。――良い素材を見つけたじゃないか」
ウリルがゴルドの力を目の当たりにし、死神に言葉を投げかける。当然反応が返ってくるわけではなかったが、ゴルドと死神はその力誇示するように立ちはだかる。
「チィ……血ヲ見セロォ……!」
「キチキチキチ――!」
譫言のように血を求めるゴルド。その周りを怪魚型死神がその奇怪な歯を打ち鳴らしながら中空を泳ぐ。
「まったく、蘇って早々の動きじゃないね。
やっぱりこういう事態を待ち望んでいたのかねぇ」
洒落と似せたは竜の鱗。凍える銀流――オウガメタルの粒子を放ち仲間達の集中力を引き上げるのはゼレフだ。その身を銀鱗で包み込めば、死神に向け駆ける。
「血ィ――!」
「おっと、君の相手はまだ先だ――!」
横薙ぎの斧を身を屈めて避けると、勢い殺すことなくゴルドの側面を駆け抜ける。奥に位置する怪魚の一体に狙いをつけて、鋼の鬼と化したその腕で地面に叩きつけるように殴りつける。
ゼレフの力強い一撃で怪魚が空から落ちてくると同時に番犬達が動く。
「けひひっ。狙いは其奴だね」
玲が立体的な機動でゴルドの脇を抜け、地面でのたうつ怪魚に肉薄すると、流星を身に纏い、煌めきのままに蹴りを放つ。衝撃と共に叩き込まれた重力の楔が、怪魚の足を止める。
玲は蹴りを放った勢いままに武器を抜き放つと、その身を回転させながら美しい軌跡を描く斬撃を放つ。呪詛を乗せた一撃は怪魚に逃げる隙を与えずその身を切り裂いた。
「キチキチキチ――!」
仲間を守ろうとするように、怪魚が中空を疾走する。玲を狙うようにその奇怪な歯牙を剥いて迫る。
「やらせるものか――!」
玲と怪魚達の間に割り込み、真正面から攻撃を受け止めるクオン。肌を引き裂く鈍い痛みに奥歯を噛みながら、しかし倒れること無く防ぎきる。
「どうした、死神! もっとだ……もっと私に撃ち込んで来い!!」
クオンは無骨で巨大なメイス――『破壊の王』を砲撃形態へと変形させると、怪魚に向けて竜砲弾の雨を降らす。幾重にも打ち広がる弾丸に怪魚の足が止まる。その瞬間を狙って、自身の光の翼を暴走させ全身を光の粒子に変えれば、逃がすものかと突撃し、破壊の力を叩き込む。
番犬達は高度な連携を見せながら、怪魚の内一体を追い詰める。如何に素早い身のこなしと言えど、行動阻害と誘導を思わせる攻撃を前に、怪魚は為す術がない。
血を求めるゴルドに仲間――主人とも言えるが――を自発的に守ろうという意思はない。番犬達に散発的に攻撃され、反撃に終始していた。
「まずは数を減らすのが得策か――もらった!」
ウリルの放つ流星纏う一蹴が攻撃を集中されていた死神に直撃する。逃げようとする死神に対し、ウリルは虚無魔法を唱えると、生み出した虚無球体を放つ。球体は、逃げようとする死神を追いかけ逃がさない。とうとう捕まった死神はあえなく球体に飲み込まれ、その姿を虚無の彼方へと消し去るのだった。
仲間をやられた死神は「キチキチ――」と奇怪な歯を鳴らしざわめき立つ。自分達が追い込まれ劣勢なのではないかと考えているのだ。
しかし、ゴルドと戦う番犬達の姿を見て、その考えを思い直すのだった。
ゴルドに振るった攻撃が外れると、空は大げさにぼやきを零す。「当たりそうにない」そうぼやきながら放つ二撃目はヒットするものの、強靱な体躯を持つゴルドは一歩も引くことはない。その様子に、
「効いてなさそう……これ、本当に抑え込める?」
と、弱気に言葉を走らせる。
「なんて素早い身のこなしですか。僕の攻撃が避けられてしまいましたよ」
まるで小馬鹿にするように避けられたことを口にするのはシトラスだ。和やかな表情とは裏腹にその言葉は嫌みの色が濃い。
それが癇に障ったのか、ゴルドがシトラスに向け双斧を振るう。轟音と共に振り下ろされたその一撃を、天から振ってきたと言われる『蒼天を穿つ神意』を持って防ぐ。衝撃に地面に足がめり込み、防ぎきれない双斧の刃が、肌に食い込む。切れ味の悪い肉を押さえつけて削り取るような痛みがシトラスを襲う。
しかしそれだけの攻撃を受けても、シトラスの表情と態度は変わらない。
「おお、これは痛い一撃ですね。すごいすごい」
一連のシトラスの台詞は、額面通り死神に受け取られる。知能が高い相手ならば逆効果だったかもしれないが、怪魚型の死神はゴルドに対して弱腰を見せていると判断した。他の番犬達の態度や動きを見ても同様である。
「くっ……よもやこれほどとは。
私一人では支えきれるかどうか――!」
仲間達を支える祥空はゴルドの圧倒的な力を前に歯がみする――ような態度を見せる。その実、しっかりと回復は行われており、仲間が危機的な状況に陥ることはなかったのだが、祥空の演技は実に番犬達の不安要素を死神達に見せつける形となった。
番犬達が劣勢に見える動きで、立ち回るごとに、ゴルドと死神は調子づき、攻撃を苛烈に変えていく。
特にゴルドは血を求めその双斧を振るい続ける。自身につく傷などお構いなしだ。結果として、夥しい量の血が流れ、ゴルドの身体を血に染めていく。通り名通り、まさに血塗れだ。
その血のほとんどが自身の血であることを、死神はおろかゴルド自身気づくことはできないのだろう。じわりじわりと、ゴルド達を追い詰める番犬達が牙を研ぐ。
番犬達の演技は上々。何もかもを勘違いした死神達は、攻勢を掛けていた。
「死してもなお、狂人としての本質は変わらず、か――。
今一度、此処で幕を下ろそう。
悪夢への道筋は、悉くを断ち切らせてもらう――」
仲間の呼吸に合わせながら行動を起こすユウが、腰に携えた結祈奏を握る手に力を込める。
呼吸を整え、静かにグラビティの流れを感じれば、肉体の内で活性化させていく。
伏せた目が静かに開く。琥珀色の瞳から微かな光が漏れ流れた。
グラビティの高まりを感じ取ったゴルドが迫る。
弾丸のように疾走する巨躯。途方もないプレッシャーを前にしかし、ユウは一歩も引くこと無く腰を落とした。
「――終わらせる」
迫るゴルドが間合いへと踏み込んだ直後、ユウの右手が一閃する。納刀状態から放たれる、瞬閃たる抜刀は、ただ屠る為の一太刀に他ならない。
腹部を切り裂かれたゴルド。大量の血が噴き零れ、胴体を血に染めていく。決定的な一撃と思われたが、まだゴルドは倒れない。
生前そうであったように、ゴルドは血を見れば見るだけ活力を増し、動きを加速させていく。獰猛な咆哮と共に自らの血を浴び、その瞳を輝かせた。
「まさに狂人。血に狂う獣だな。
ふふ、いいぞ。そうこなくてはな」
セニアが怒りによって生み出した雷を放ち、ゴルドを神経を焼き切る。一歩間違えば自身も怒りによって牙を突き立てるだけの狂戦士となっていたかもしれない。起こりえたかもしれない未来の姿をゴルドに重ね、対峙していた。
血を求め暴れるゴルド。滅茶苦茶に振るわれる双斧は、ただ血が噴き上がるのを見るためだけに振るわれる。
「チッ……技もなにもあったもんじゃないな。
どうする、こうなると手が負えん。退くしかないんじゃないか……?」
などと肩を竦めながら問うフリをみせるゼレフ。その内心では、暴れ回るゴルドを思う。
(「思う存分暴れるといい。
――今度こそ最後になるようにね」)と。
ゴルドの豪速な一撃を受け膝をつくと見せかければ、手にしたナイフを突き立てるゼレフ。
「逃がさない」
生ずるは螺旋の炎。絡げ、灰へと帰す。蒸発していく血にゴルドが悲壮な咆哮を上げた。
「……そろそろ、いいかな。使い捨てとはいえ良いように使われるのは見ていて忍びないね」
具現化した光の剣で切りつけると、勢いそのままに星形のオーラを蹴り込む空。空の度重なる行動阻害と弱体化を狙った攻撃はゴルドの動きをかなり抑え込んでいた。
此度は妖剣士としての力を発揮することはなかったが、十分に貢献したと言えるだろう。
ゴルドの体力の低下を確認したシトラスが、一足飛びにゴルドへと肉薄する。
エインヘリアルに対して並々ならぬ憎悪を燃やすシトラスは、このタイミングで、その想いを武器に乗せる。
ゴルドの振るう斧を手にした神意で受け流し、反撃の一打を叩き込む。ゴルドの手にした斧が受け流された拍子に刃が欠ける。
続けてシトラスはその身を光の粒子に変えるとゴルドへ向けて突撃する。防ぐこともままならず直撃を受けたゴルドが呻き声を上げながら吹き飛ばされる。胸部を抉られ、血が噴き出した。
「さらばだ、英雄よ。今度こそ、汝の魂に真の安らぎを与えん……」
倒れ込むゴルドの前に立ち、虚空へ向けて手を伸ばすはクオン。
『白銀に輝く三叉の槍』を取り出せば、構え一心の元ゴルドの中心部を刺し貫いた。
「オ、オォォ――! 血ィ……血ガ、タリ、ねぇぇ……!!」
燦然と白銀に輝くクオンの槍。最後の最後まで、血を見るのだと斧を振り翳すゴルドを包み込むように発光し――ついにその光で魂ごと焼滅せしめるのだった。
色めき立つのは死神達だ。先ほどまで優勢だと思っていれば、戦力の要であるゴルドが突然やられてしまったのだから。
自分達が今、優勢なのか劣勢なのか一瞬の迷いが生まれる。それを番犬達は逃しはしない。
「今です、一気に片付けてしまいましょう」
回復も十分とみれば、祥空も愛用の十王浄玻璃を携え、死神へと疾駆する。常人には捉えられぬ神速の抜刀はまさに達人の一撃か。切り裂かれた死神が身を捻りながら地面へと逃げ延びていく。
「おっと、逃がしはしないよ! けひひっ」
駆ける玲の流星煌めく蹴撃が死神をコンクリートの壁に釘づける。流れるように間合いを詰めた玲が一閃すれば、美しき剣閃が呪詛を撒きながら怪魚を二枚に下ろした。呻くような奇声を上げて死神が消滅する。
「残りは一体だ――!」
セニアの声にウリルとユウが疾駆する。
「逃がすわけにはいかないな――!」
「捉えた――!」
立ち並ぶビルを蹴り上空へと舞い上がったウリルが流落する流星を纏った蹴りを見舞い死神に重力の楔を打ち込むと、そこを狙ってユウが抜刀する。視認困難な斬撃からの、神速の斬撃が怪魚を微塵のうちに切り捨てた。
ユウが静かに納刀する。無音のままに刀を納めれば静かな不夜城に、遠く喧噪の音が戻り始めた。
戦いは終わった。
蘇った戦士は打ち倒され、それを操る死神達もまた、番犬達の手によって倒されたのだ。
深夜の不夜城に、少しずつ明かりと人影が戻ってくるようだった――。
●不夜城に戻る喧噪
クレーターのように穴が広がるアスファルトの道。ビルの壁面は叩きつけられた衝撃によって大きく崩れていた。
その悉くが、ゴルドと番犬達の血に染まり、凄惨な現場となっていた。
「派手にやったものですね……。ヒールのし甲斐はありますが」
祥空はそう言いながら、壊れた壁面にヒールを掛け修復していく。
実際かなり派手にやったものだと思う。一度ゴルドが倒された時も、同様に辺り一面血の海だった。
今回は演技とはいえわざとやられるフリをしていたのだから、その影響もあって被害は多く広がっていた。
ヒールを手伝いながら、空がぼそりと呟く。
「エインヘリアルの上の人、本当にデウスエクスって感じ。ドラゴンより……仲間意識無さそう」
「確かにな。罪人とはいえ同胞を単騎で送り出すやり口といい、仲間意識はまったくなさそうだ」
クオンの言葉に同意するのはシトラスだ。
「エインヘリアルなんてそんなものですよ。敵としても信頼できるような奴はいませんよ」
エインヘリアルに囚われていたことのあるシトラスは表情こそ変えないが、その心の内に秘める想いは計り知れない。
「けひひっ。死神との関係も興味深い案件ではありますね」
玲の言葉に、一同は頷いて思案する。
死神の思惑はどのようなものだったのか。死者たるエインヘリアルをサルベージして何を起こそうというのか。疑問はつきない。
瞑目し、黙祷を送るユウもまた、此度の戦い、敵の目的を知る必要があると考える。
「――同じような事件が続くのだろうか。
……やれやれ、血塗れはこれっきりにしてほしいけどね」
ウリルは自身の血塗れな身体を見てうんざりするように苦笑する。見渡せば、番犬達は程度の差こそあれ、皆血塗れだ。
「お疲れ様。
……さすがに気が済んだといいね」
ゼレフの労う言葉に力はなく。さすがに眠くなってきたのだと、身体を崩す。
ヒールを終えて、規制が解除されればすぐにでも人が集まってくるだろう。
不夜城たるこの場所はいつも眠ることはないのだ。
「疲れた僕らはこの場所には似合いませんね」
「ええ、帰りましょう」
血に塗れた狂人は消滅し、血を被った番犬達は家路へと向かう。
深夜の不夜城。新宿の繁華街に徐々に活気と光が戻り始めるのだった――。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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