白の純潔決戦~侵略者の母性

作者:ハル


 攻性植物の拠点である大阪城周辺は、住民が避難を終えた事もあり静けさに満ちていた。
 ……ある街の一角を除いては、であるが。
「あらあら、種子様はおっぱいがお好きですわね。そんなに吸い付かれても、何も出ませんわよ? ……ふふふっ」
 その庭付きの住居に住んでいたのは、人ではなかった。庭の中心に据えられた等身大の樹木。その頂点の籠に寝かされた赤ん坊――白の純潔の種子を白の純潔の巫女があやしていた。
「もっと素早く殿方を誘惑するためには、どうしたらいいのかしら?」
「そうですね……視覚だけでなく、嗅覚に訴えてみるのもいいんじゃないでしょうか? 女性経験の少ない殿方は、女性の香りについても幻想を抱いていると聞いた事がありますから」
「……ああ、実際は香水であったり、シャンプーやボディソープの香りなのにねぇ」
 その場に姿を確認できた巫女は、3体。
 一体が赤ん坊をあやし、残りの二体は戯れに摂取する必要もない食事を作りながら、誘惑の効率性に対して話し合っていた。
「……んぁっ」
 辺りに食べ物の良い香りが漂い始めると、食欲を刺激されたのか種子の吸い付きが強くなる。苦笑を浮かべた巫女が種子の頭を愛おしそうに一撫でしてからテラスのテーブルにつくと、その前に様々な料理が並べられる。
「「「カンパーイ」」」
 グラスにワインを注ぐと、彼女達をそれを掲げた。
 そして、微笑みあいながら、思い思いの料理に手を伸ばし始める。
 今だけは、誘惑の事も、ケルベロスの事も忘れて……。

「大阪城と、大阪市街地の間にある緩衝地帯が、攻性植物の活動拠点となっている事は、皆さんもご存じだと思います。現在あそこは、攻性植物に制圧されている訳ではありませんが、万が一に備え、一般の方々を遠ざけているというのが現状です。そして、今回その事態を踏まえて、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)さんや、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)さんに調査をして頂いた所、白の純潔事件の元凶と思われる攻性植物を発見する事ができました」
 素晴らしい成果に、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)の頰が緩んだ。だが彼女は、すぐに表情を引き締めると、話を続ける。
「情報を纏めると、緩衝地帯の数か所で、数体の白の純潔の巫女たちが、樹木型の攻性植物を守護するように集まっているようです。守護されている攻性植物は、二種。元凶と見られる『白の純潔』と、白の純潔の巫女を増産し、かつ『白の純潔』が撃破された際には、次代の『白の純潔』として成長する役割を持つ『白の純潔の種子』です」
 要は、『白の純潔』をただ撃破しただけでは、事件は終結しないという事だ。終結に導くには、全ての『白の純潔の種子』を撃破した上で、『白の純潔』を撃破しなくてはならない。

「今回私共が立案した作戦は、急襲作戦となっております。それも、作戦に挑む全チームが、同時に急襲を行わなくてはなりません。……と、いいますのも、どこか一カ所が襲撃された場合、その情報が他の白の純潔の巫女に伝わってしまい、他チームが急襲を行えなくなる可能性が高いからです」
 そのため、『全チームが無理なく同時に攻撃できる』ように、タイミングを合わせた市街地への潜入が必要とされる。
「ただ、全チーム同時と言いましても、それ程難しいものではありません。特別時間を有する行動や隠密行動の失敗がなければ、5分前前後には目的地点に到達できると想定されているからです。あとは、急襲のタイミングを合わせるだけですからね」
 ただ、周辺では携帯や無線通信は一切使用できない。作戦の関係上、狼煙やサイレンの使用も不可だ。
「もしも、何らかの原因によって、敵側が急襲タイミングよりも先に迎撃体勢を整え始めた際に関しては、他チームが隠密行動に失敗した可能性が高いので、すぐに襲撃を開始してください」
 そこまで言って、桔梗が一息置く。そして、巫女や種子に関する資料を提示した。
「白の純潔の巫女は、三体。見習いのようでして、以前の依頼で皆さんが戦ってきた巫女よりも、戦闘力は劣ると見られています。完全に油断しているようでして、庭の中央に設置されたテラスにて、食事やお酒を楽しんでいるようです。急襲が成功すれば、さらに容易に撃破できるでしょう」
 白の純潔の種子は、成長段階で戦闘力は皆無だ。移動も出来ず、一方的な攻撃が可能だ。
「しかし、種子が攻撃を受けると、巫女達は決死の覚悟で赤ん坊を守ろうとします。先に巫女を撃破した方がいいかもしれませんね」
 ただ、そんな巫女の性質を利用できる作戦があるならば、先に種子を狙うのもありだろう。
「これまで、女性経験の少ない多くの男性が狙われてきました。大阪城の攻性植物の拠点攻略の一歩になる可能性は大いにありますし、皆さんの協力をお願い致します!」


参加者
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)
ナイン・クローバー(アーティフィシャルローズ・e51019)
デュオゼルガ・フェーリル(月下の人狼・e61862)

■リプレイ


「この暑い最中に、これまたうんざりするような草木だらけの場所ね」
 音や匂い、光源に気を払い、ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)は、ようやく件の住居を発見する。
 リミットまで、ちょうど五分前の事。
 道中、若干の歩調の乱れこそありつつも、所定の場所に到着する事ができた。ユーシスは慎重に息を吐き出しながら、汗で首筋に張り付く、纏めた金の毛並みを払う。
「「「カンパーイ」」」
(「デウスエクスが食事とは、酔狂なものだな」)
 螺旋隠れで気配を消しながら、ルーク・アルカード(白麗・e04248)は、ワイングラスを傾ける巫女達に、呆れ混じりの視線を。
(「打ち合わせ通りに……打ち合わせ通りにしないと!」)
 時間が迫り、デュオゼルガ・フェーリル(月下の人狼・e61862)は、学生服の上に羽織ったコートの襟を握りしめ、どうにか緊張を逃がそうとしている。
 ナイン・クローバー(アーティフィシャルローズ・e51019)達は、隠密気流での気配遮断以外にも、一様に迷彩柄のコートや、ふわり持参の似た柄のマントなどを着用し、場から浮かないよう配慮していた。
 そのおかげか、現時点では、敵側に気付かれている様子はなく、
「赤ちゃん可愛いし、皆幸せそうなのー! ふわりも混ざりたいのー……♪」
 小声で呟く盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)の言葉通り、巫女達は暢気に食事を楽しんでいる。
「……第一段階は……クリアね……」
「他の地点で奇襲失敗していそうな気配も、今の所はないわね」
 フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)と、鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)が、状況を見定める。
「白の純潔の巫女達の表情にも、変化はありません」
 誘われている可能性を考慮し、4-48ELCAN SPECTOR DRタイプスコープを覗き込む鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)が、確信を補強する。
 ルークとデュオゼルガが腕時計をジッと見つめる中、ケルベロス達は、その時を待った。
 そして、作戦開始五秒前、ついにルークの腕が上がる。その腕が、グッと前に振り下ろされた瞬間――!
 ケルベロス達は、一斉に急襲作戦を実行するのであった。


「え!?」
 突如姿を見せたケルベロスに、巫女達が唖然とした表情を晒す。
「お邪魔するわね?」
 気付いた時には、もう遅い。妖艶な笑みを浮かべる胡蝶が、ジェット噴射したパイルバンカーで、一体の巫女を吹き飛ばした後の事。テラスを吹き飛ばし、食器類が散乱した。住宅の壁に巫女が激突し、ようやく残りの巫女は敵襲である事を認識するが。
『(そこだ! アサシネイト!!)』
「……がッ!」
 ルークに背後を取られ、巫女がまた一体、地に伏せさせる事を余儀なくされる。
「お料理、美味しそうなのー……♪」
 そして、最後の一人も、ふわりに背後から抱きつかれ、拘束されていた。料理は散乱しているというのに、いつの間にくすねたのか……ふわりはモグモグと幸せそうに咀嚼しながら、片手で巫女の豊満な胸を揉み、もう一方の掌に握られたナイフで――。
「愛してあげるの。いつでも、いつまでも……一緒なの」
「……あ゛! ぐ、ぎぃ!」
 不思議な甘い芳香を振りまきながら、巫女の急所に的確にナイフを突き刺した。
「……このまま……包囲陣計を維持するよ……いい……?」
「ええ、一斉除草作業開始よ」
 ルーク、ふわり、胡蝶が一旦後退すると、入れ違いにフローライトとユーシスが前に出る。
「いくよ……葉っさん……皆を護る為に……『小楯形態』……」
 メメント・モリの背後に浮かんだ魔法陣によって加速力を手にしたフローライトが、瞬時に巫女との間合いを詰める。右肩の葉っさんに、盾のように硬化してもらったフローライトは、勢いそのままに巫女へショルダータックルを喰らわせた。
 さらに、ユーシスが発する魔力が籠められた咆哮が、追撃をかける。
「種子様をお守りするためにも、態勢を立て直さなくては」
「それは分かっているわ、でも!」
「三次攻撃が来ます!?」
 巫女達も、反撃に転じなくてはならない事を当然理解している。しかし、完全に先手を取られた以上、ケルベロス達の攻勢を今は堪えるしかなかった。
「分かってるじゃェか、好きにはさせない!」
 デュオゼルガが、コートと学生服を脱ぎ捨てて身軽となる。
「大阪市街地をお返しして頂きましょうか」
 ナインが、ケルベロスチェインを展開し、巫女を縛り上げた。
「旅人だからってナメんなよ……! 俺にも狼の意地ってもんがあるんだッ!! 餓狼の拳、その身に叩き込んでやるぜェ!!!」
 デュオゼルガは、ナインの鎖によって動きの鈍った巫女を中心に、三体の懐に潜り込むと、グラビティ・チェインを集中させた超硬度のガントレットを装備した拳で、連撃と衝撃波を叩き込んでやる。
「ひっ!」
 その時、巫女の一体が怯えを見せた。自身の死に対する恐怖ではない。このままでは、遠からぬ未来、白の純潔の種子がケルベロスの手によって葬り去られる未来に対する怯えであった。巫女にとっての種子は、自分達を生み出した父であり、守らなくてはならない幼子であった。父と母と子が、小さな世界で完結しているといえよう。だからこそ、巫女は怯える。この世界を破壊されてしまうという絶望に……。
「浮足立っていますね」
 その心の移ろう様を、橘花はスコープ越しに覗き見ていた。
「術式弾装填、目標基部の拘束を試みます」
 戦場では、そういった動揺は、すなわち死に直結する。橘花は、殺意もなく、心を無にして、ただ引き金を引く。精密に放たれた短時間拘束型グラビティ弾が着弾すると、直撃を受けた巫女が、弾かれたように吹き飛んだ。
「そこですか!」
 ようやく、ケルベロスの猛攻が一段落した時、巫女は橘花の狙撃ポイントに視線を向けるが、そこにはもう橘花の姿はなかった。
「まずは守りを固めるわよ! 種子様のために!」
「ええー!」
 二体の巫女は、手を合わせて、種子のために祈る。巫女達を覆うように、小規模の透明な壁が生まれた。そして残った一体が、ケルベロスの動きを阻害しようと動く。前衛に向けて、巫女の姿を象った草花を操り、一斉に大地を浸食。纏わり付かせようとする。
「――っ!」
 背後から『埋葬形態』と化した巫女の一部に抱きつかれ、ルークの鼻先を香水と体臭が混ざり合った微香が掠め、彼の心を奪おうとする。
「ふん……俺は雌に欲情したことないんでなァ 匂いを使おうが無駄だ!!」
 だが、デュオゼルガが誘惑を振り払った事もあり、自分だけ無様な姿を見せられないと、ルークもその場を強靱な精神力で以て脱し、咆哮を上げた。
「……本当……『大きい』ね……」
 フローライトが、偽翼に仕込んでおいた武装を抜き放ちながら、ポツリと呟く。彼女の視線は、巫女が動く度に揺れる胸に吸い寄せられていた。
「んー? フローライトちゃん、ふわりのおっぱい見てどうしたの?」
「……なんでも……ない……」
「そうなの?」
 視線を感じて振り向くふわりに、「……あなた……じゃない……」フローライトが、首を横に振る。
(「……お姉様と代わって……良かったかも……」)
 巫女のみならず、仲間の中にも色っぽい女性が数人いる状況。あんな事があったにも関わらず、変わらず自分を『妹』と呼んでくれる『姉』が、この場にいた時に見せるだろう私怨全開の表情を想像し……無表情な口端に、親愛の情を垣間見せたフローライトは、メメント・モリから膨大な光を発し、仲間を後押しする。
「何だか良く分からないけど、とりあえずお料理美味しかったの! ご馳走様なの-!」
 ふわりが、混沌の波を放った。
「俺の拳は硬いぞッ!」
 デュオゼルガが、狼の拳で高重量の一撃を繰り出す。オルトロスも神器の剣で斬り掛かる。
 さらにナインが、大量のミサイルで、広範囲を燃やし尽くす。
「遅いです」
 端的に、無機質な声色でナインが言った。奇襲によって一気に攻撃を叩き込まれた影響は色濃く、万全ならば躱せる攻撃も、今の巫女は躱しきる事ができない。
「……余計なお世話ですわよ!」
 初撃とは役割を変え、祈りを捧げていた二体が攻撃に移り、残った個体が守護を宿す。前衛と後衛に、「埋葬形態」の巫女が浸食する。デュオゼルガをオルトロスが、フローライトを胡蝶が庇いに入った。ルークは回避に成功する。
(「案外、人慣れしてるようで、していないのかしらね?」)
 奇襲の際に見せた露骨な動揺もそうだし、ルークやデュオゼルガへの対応もそう。さらに言えば、異性に対する効率性を話し合っていた事もそうだ。以前出会った見習いを卒業した巫女すらも、胡蝶にとっては未熟と言えた。
「まだまだ、経験不足ね。男性を誑かすのに、効率性なんて考えたらダメよ?」
 胡蝶が、クスリと笑う。猛烈に回転する杭で、ガードする壁ごと巫女を貫き、内部から破壊した。
 だが、敵陣も頭を使って対応してくる。とりわけ、高火力を有するルークには、機動力を落とそうと、ツルクサが絡みつく。
 すぐさま、フローライトが左手のペイル・ファイアフライ――蛍石の御守を輝かせ、電気ショックを飛ばす。
「紫の帳に抱かれ……甘美な痺れに酔い痴れなさい」
 ならばと、ユーシスも、巫女の動きも阻害しようと手を打った。
「まったく、誰のお家かは知らないけれど、人様の家を植物だらけにしてくれて……後で誰が片づけると思っているの? この時期の草刈りは、この歳になると骨が折れるのよ?」
 ――農家のおじいちゃんから、草刈り機でも借りてくれば良かったかしら? そうユーシスは嘯きながら、紫を帯びた甘い香気で巫女達を包み込む。
「戯れ言を!」
 巫女達が、後方へ飛びすさった。
「見えていますよ?」
 橘花の瞳は、カラスなどと同等の力を有しているという。カラスは、人以外では珍しく、三原色以外や紫外線までもを認識できる、人を遥かに超越した視力。その橘花の瞳は、巫女の一挙手一投足を見逃さない。赤い瞳が煌めくと、魔力の籠もった咆哮が、巫女達に逃げ場など存在しないのだと、言葉よりも雄弁に叩き付けられる。
 ツルクサを撥ね除け、ルークが操るブラックスライムが、巫女を喰らう。
「――ぁ」
 半身を抉られた巫女が、力なく倒れた。
「文句は受け付けないわ。人様に危害を加えたことを……後悔しときなさい」
 ユーシスが、仲間の死に唇を噛みしめる巫女に、流星の如き飛び蹴りを炸裂させた。


「すまねぇッ!」
「……申し訳ございません」
 巫女は苦しみながらも、一矢報いるための種を撒いていた。徹底的な前衛への催眠。よやく芽が開き、デュオゼルガが自傷を、ナインがケルベロスチェインで胡蝶の拘束を強いられる。
「気にする必要はないわ。それより、迷惑極まりない相手は、さっさと撃滅してしまいましょう」
 だが、それも趨勢はを変えるような威力ではない。胡蝶が、相手のお株を奪うように誘惑する。
「素のアナタのカラダ……私に見せて?」
 途端、デュオゼルガと力を合わせて剥がしていたいた守護を、胡蝶は一気に突き崩していく。
「……ユーシス、フローラに……協力して……」
「もちろん、そうしようと思っていた所よ」
 後衛にも『催眠』の影響はあるが、フローライトはDfに守られている。ならば、守ってくれている胡蝶含めた前衛のため、ユーシスとフローライトが顔を見合わせた。
 偽翼背後の魔法陣から、再び光照射が。生きる事の罪を肯定するメッセージが、それぞれ力を分け与える。
「ふふふー♪ 効いてるみたいなのー!」
「ひぃっ、ぎぁっ!」
 加え、巫女達が動く度に、ふわりに付与された凍傷が軋みを上げる。
「でもねー、それそろお別れだって、かみさまが言ってるの。だから……バイバイなの。でも、一人じゃないから、安心なの……♪」
 ふわりが、刃を歪に変形させたナイフを巫女に突き立てる。血を吹き出し、手足がダラリと下がった。
「術式弾装填、目標基部の拘束は――必要ありませんね」
 消耗が限界に達し隙だらけの巫女に、橘花は二度目の狙撃を敢行する。銃弾は装甲を貫き、コアに達した。
 崩れ落ちる身体を受け止めたふわりに、頰へチュッとキスされた巫女が、消滅する。
「貴女……! しゅ、種子様ッ……うぅ゛!」
 たとえ一人残されようとも、それでも巫女はここから先は行かせないと、母性という名の盾を手に、立ち塞がる。
 逆転が不可能ならば、少しでも、一秒でも長く、白の純潔の種子を生き延びさせるために。そうすれば、他の場所の戦況によって、何かが変わると信じて……。
 全身にオウガメタルを纏ったナインが、背に鬼を浮かび上がらせながら拳を突き立てる。
「その命、狩らせてもらうッ!!」
 デュオゼルガがジェットエンジンを唸らせつつ、高速で拳を叩き込むと、母性の壁を容赦なく粉砕した。無防備となった巫女をオルトロスが炎上させる。
 オルトロスの炎に、胡蝶がさらに「ドラゴンの幻影」を重ねて焼き捨てると――。
「この件は、今回で終わらせてもらう」
 ルークのナイフに呪言が浮かぶ。美しい軌道を描いた刃は、巫女を一刀の元に切り裂くのであった。


「……あぅあぅあぅ……」
 白の純潔の種子は、言葉を発する事も、攻撃する事も無く、ただ手を空に伸ばした。まるで、抱っこをねだるように。ケルベロスの視線に殺意が滲んでいようとも、種子は逃げるという考えを、そもそも抱く事すらできない。
「……あぅあぅー!」
 それはまるで、人間の赤子と同じ。どこまでも、無力な存在であった。
「殺意は必要ありません。ただ己を一発の銃弾として、放つのみです」
 だが、忘れてはならない。種子は巫女を量産する存在であり、量産された巫女は数多くの男性を襲っている。そして、白の純潔へと成長する可能性すらある。
 橘花は一度目を瞑ると、変形させた郵便ポストにも似たハンマーから、竜砲弾を放つ。種子の小さな身体がひしゃげ、耳を劈くような鳴き声が辺りに響き渡った。
「……まっ、後はこの『おばちゃん』に任せておきなさい?」
 最後のトドメは、ユーシスが刺した。「ドラゴンの幻影」が、種子を囲む樹木ごと燃やし尽くす。
 灰になるその瞬間まで、種子の鳴き声は、いつまでも、いつまでも……響き続けた。

「こんなもんでいいか?」
 ルークが手を止める。庭や余波を受けた住宅のヒールが、ようやく完了したのだ。
「……うん……いいと思う……」
 フローライトが確認する。少しばかりファンタジー的な要素が入っているが、それ程違和感はなさそうだ。
「俺が初めて参加した依頼が、終わったんだな」
 デュオゼルガの表情に、安堵が浮かぶ。初めてにしては、若干ヘビィーな内容ではあったが……一先ずデュオゼルガは、蒼の毛皮に包まれた胸を達成感で一杯にするのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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