●破砕の跫音
夏の匂いのする風が、花々を揺らした。
本日は晴天。
広場で開催されている大きな朝顔市では、爽やかな風に焦げた匂いが混じり始めていた。
「逃げろ、逃げろッ!」
怒声、砂埃、悲鳴。
「デカいヤツが来る!」
騒然たる人々を蹴散らすように、巨体が腕を振るった。
菓子の様に壊れ落ちたビル壁が、花弁諸共人々を飲み込む。
広がる朱色は、喪われる鼓動の色。
「助け……っ」
子を庇う母の上に落ちた影、それは抗うことの出来ぬ質量。
巨大な機械には、小さな命乞い等届きはしない。
街を壊し、命を踏みしめ。
巨大な機械――ダモクレスの蹂躙を止められる者は、この場には居ない。
●命の炎
「たいへん! 巨大なダモクレスが街で暴れる予知がでたよ!」
赤い髪を跳ねながら、ヘリポートに一番に飛び込んできた野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)の後ろから、マイペースにレプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)が歩いてくる。
「おう、オラトリオの調停期末期に封印されていたダモクレスが復活しちまうようでな」
イチカに補足するように言葉を次ぐと、設置されたベンチに腰掛けるレプス。
「復活したばかりの奴サンは、グラビティ・チェインが枯渇しているからな。戦闘力こそ低下しているが、放っておけば人々を殺してグラビティ・チェインを補給しちまう」
「それでグラビティ・チェインを溜め込んだダモクレスは魔空回廊で撤退するんだけど。そのまま放っておくと更にいろーんな場所でたくさんグラビティ・チェインを回収した後、体内の工場でダモクレスの量産を始めちゃう、てゆう事みたい」
イチカはベンチの後ろに立つと背もたれに腕をかけて、資料の展開を始めたレプスの掌の上を見た。
「そんな事にならねェように、お前サン達ケルベロスクン達の出番って訳だ」
瞳を細めて、レプスは笑むように。展開した資料が、ほどほどに栄えた街の地図を示した。
「今日は街の中心で大きめの朝顔市が行われているそうでな。そっち側に向って奴さんは進む予知が出ているぞう」
「んん、ダモクレスは出現してから7分立つと、魔空回廊が開いて撤退しちゃうんだって。魔空回廊まで追いかけられないから、それまでにしゅしゅっと倒しちゃお!」
イチカがしゅしゅっとする様を横目に、頷いたレプスが資料を切り替える。
映し出された八階建て程のビル程はありそうな巨大ダモクレスのイメージは、人の形を模しているとは言え。必要であるからそのパーツが在る様な、無骨で実用的な形のパーツを寄せ集めた印象だ。
「奴サンも目覚めたばかりの腹減りで、全体的な性能は落ちちゃァいるが腐ってもダモクレスだ。もともと馬力の高いタイプってのもあってな、鉄筋の建物程度ならば壊す力は当然在る。障害物を踏み潰して、破壊しながら進もうとするぞ」
そして、奴には隠し玉が一つ、と付け足すレプス。
「戦闘中一度だけ、全身からミサイルを打ち出すフルパワーの攻撃を行ってくるみたいだ。奴サンにも大きな反動が在るみたいだが、まともに喰らえばお前たちも無事じゃ済まないだろうな。どかーんだ」
「ひょえっ、こわい」
イチカがぴょんと赤髪を揺らして、相槌一つ。
「で、実は市民にはもう避難勧告を出してあるぞ。街が壊れてもヒールで直しゃァいい。――街を壊してもいい、壊されても良い。だが、確実に敵サンを撃破して欲しい」
「ふんふん。……よおし、このイチカにまぁかせて! 遠慮をしなくていい相手ならば遠慮なく、しゅしゅっと! 日々、こう、きたえてますので!」
再びしゅしゅっとしたイチカに、肩を竦めるレプス。
「おうおう、信頼してっぞ野々宮クン。無事帰ってきたらお菓子をやろうな。ここで食い止められなきゃ、ダモクレスどもによる被害が増えちまう可能性が高いからな。――頼んだぜ、ケルベロスクン達」
おー、と腕を上げるイチカ。
レプスは瞳を細めて、ヘリオンの扉を開く。
彼は信じている、ケルベロス達が無事に敵を倒してくれる事を。
皆の命を救う事ができるのは、彼女達だけなのだから。
参加者 | |
---|---|
花道・リリ(合成の誤謬・e00200) |
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357) |
ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081) |
黒江・カルナ(夜想・e04859) |
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344) |
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602) |
月井・未明(彼誰時・e30287) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
●
周りの見渡せる、見晴らしの良いビル上。
「時間だね」
「はい」
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)は呟くと、頑丈そうな腕時計のボタンを押し。
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)と黒江・カルナ(夜想・e04859)が返事も合わせて時計を操作した。
同時に、割れた大地。
高速道路を支えるコンクリートの橋脚が内側から引き抜かれ、鋼の箱桁が苦しむような軋み声を上げて薙ぎ倒される。
隙間から覗いたのは、機械の身体だ。
土深くに眠らされていたのだろうが、その装甲に朽ちた様子は見受けられない。
低い駆動音に、高速道路と近隣の店舗を崩し壊す無骨な巨躯。
「でっかいな」
白靴下柄の翼猫の梅太郎を頭に乗せて。
風に垂れ耳を靡かせながら、月井・未明(彼誰時・e30287)は思わず呟いた。
見舞うこと無き巨大ロボ。
穏やかな橙色の瞳が、感情に揺れる。
「……信頼には応えねばな。しゅしゅっと尽力しよう」
その瞳に鈍い光を宿した、巨大なダモクレスは周りを見渡し――。
「全く。時間に正確な様子で、本当に助かるよ」
相棒の黒き翼猫――キヌサヤがひょろりと尾を揺らし、大きく広げた翼に加護と風をはらむ。
スナイパーゴーグルを引き瞳を保護したアトリは、両脚に影の気配を纏わせて。
ビル上より、軽い調子でぽん、と飛び降りた。
「冥く鋭き影、猛禽の剛爪の如く」
緑髪をたなびかせ。
纏う影は刃と成り、猛禽の如くダモクレスの装甲の隙間を裂きながら着地した瞬間。
「――刺し貫く!」
アトリの落下の勢いを殺した影の刃は、一変。狂爪をダモクレスの脚先へと剥き出す!
「とーーうっ!」
同時にその顔にブチかまされる流星めいた蹴り。
両手に構えた杖をダモクレスの装甲の隙間に突き刺し勢いを殺して。
てっぺんに立つのは、フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)の姿だ。
「ちょーっと大きいからって、私の前ででかい顔するなんてね! 神様を見下そうっていう、その心意気だけは認めてあげよう!」
びし、と杖の先で足元――ダモクレスを示し差すとフェクトは薄い胸板を張った。
「目標妨碍感知、排除開始」
脚を影に喰らわれ、脳天に一撃を貰いながらも感情無き音声を漏らすダモクレス。
「でっか」
攻撃に移らんと腕を上げたダモクレス――、しかし半透明な御業が腕を抑え込むように掴みあげる。
「バカみたいに図体ばっかりでっかいんだから、態度くらい大人しくして貰いたいわね」
長いまつ毛を重たそうに伏せた花道・リリ(合成の誤謬・e00200)が、腕を引く。
リリより伸びる御業が膨れ上がり、機械関節を軋ませ――。
「なんだっけ、あぁ、そう――しゅしゅっといきましょ」
砂埃、轟音。
引き倒されて無理やりバランスを崩されたダモクレスが、建物を巻き込んで背より転げる。
完全に敵と認識したのであろう。
かしゅん! と軽い音を響かせ、素早くバランスを立て直したその巨体が少し浮いた。
同時に地が割れ揺れる程の衝撃と、衝撃で割れた地そのものがと礫と化してケルベロス達に襲いくる。
「ミルタ」
共に在る翼猫の名を呼ぶ、ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)の小さな声。
わかってるわよと言った態度で翼を広げた翼猫は、野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)の前へと飛び出し。加護と癒やしを皆へ与え。
頷いたジゼルがその身にグラビティを纏わせると、ヒールドローンの群れが一気に展開された。
ドローンのそれぞれに意志在るが如く。
仲間を庇って礫を受け止め、そして弾き飛ばされゆく。
加護を煙に乗せ、爆破スイッチを押しこむ未明。
「大きいだけあって、大雑把な攻撃だな」
「ひょえっ、ありがと、ミルタ! 大雑把で派手な攻撃だねえ。でも、負けてらんない! それじゃあ、しゅしゅっとやっちゃおっ!」
大きな礫をその身で受け反らしてくれた翼猫を片手で受け止めたイチカが、紫電纏うライトニングロッドをふるって残りの小さな礫を叩き落としながら、大きく横に薙いだ。
鋭く駆ける雷に合わせて、えぐれた大地をスタンピング。
腕時計を付けた近代的時計うさぎのカロンは、友達のフォーマルハウトを抱えてロボの腕を駆け上り。
腕より払いのけられる寸前に、装甲の切れ目に腕から飛び出したフォーマルハウトが噛み付き。重ねて鋭く蹴りを放っったカロンは、払われる勢いに任せて半回転するように宙を飛ぶ。
「うわー、やっぱりロボだけあって硬いですね……!」
「それでも、倒さない訳にはいきませんものね」
呟くカルナ。かつては、自らも眼の前で暴れるモノと同じく、同じ冷たい機械であった。
しかし、自らは心を得た。
冷たかったこの身と心に、温もりを教えてくれたこの星の為に。
「しゅしゅっとやっちゃいましょう」
「はい、しゅしゅっとですね!」
すとん、と地に降り立ったカロンと背中合わせ。
カルナは掌を友に伸ばす。
「さぁ、どうも思うままに」
小さき友、漆黒の身に月の輝きを灯す双眸。
黒き猫の精霊はその爪に術式を。瞳に魔を宿してダモクレスへと襲いかかった。
●
満月に似たまあるい光珠。
「気をつけて、また暴れるつもりみたいだ」
未明の重ねる癒やしと、月の呪い。
「わっわっわっ、ひとは踏みつぶすものじゃないよ!」
「勢い任せに踏んでるの? 踏み潰すならよく狙いなって」
ダモクレスがうっとおしそうにケルベロス達の上に脚を落とし。
軽く跳ねただけで避けたイチカが苦情を、アトリが皮肉めいて瞳を揺らした。
フェクトが笑って、ケルベロス達を潰そうとした脚の上に飛び乗り。その足裏にオウガメタルを纏ったアトリが潜り込んだ。
「人の上を通るときは注意しなきゃいけないよ、神様が居るかもしれないからね!」
「足裏にも注意だね、危険なモノがいるかもしれない」
フェクトが杖をゴルフのスイングめいて引き絞り、アトリが拳を振り上げ――。
「せーのっ」
脚の裏と表から同時に与えられる撃。
「吹っ飛べーっ!」
ばきん、と大きく割れた装甲の中で軋むモーター。
「ここは私たちの場所! 好き勝手に暴れて、ただで帰れるなんて思わないことだね!」
バランスを崩す前にダモクレスの脚を蹴り、ビル壁を蹴り。
距離を取るフェクトとアトリ。
「すまーっしゅっ」
その間に身体を駆け上ったイチカが、轟音を轟かせて。
勢いをつけた槌で、ダモクレスの頭を顎ごと持ち上げるように突き上げた。
顎を吹き飛ばされながらも身を捻り。道路に轍を生みながら、その身を場に齧り付かせるダモクレス。踏み込んだ勢いで地へと亀裂を広げながら、ケルベロス達にその拳を突き出した。
迫る拳の前へと割り込むのは、ジゼルだ。
後ろに飛んで勢いを殺しながら。解けない魔法の靴で、なおも迫るその拳を蹴り上げる。
緑瞳の奥で行われる高速演算。
「危ない、よ」
拳を叩き込まれる前に、拳上で手を付きハンドスプリング。
衝撃に灰髪を揺らしながら。手首の関節へと、大きく口を開いた攻性植物が食らいついた。
決定的に拳を叩き込まれる前に、ジゼルは腕へと避難する。
ビル壁を豆腐のように割り、衝撃が大地を揺るがした。
「邪魔」
たった一言。リリが思うがままに口にする言葉。
先程ジゼルが攻撃した手首へと、重ねて叩き込まれる拳。
その拳は、武器を持つよりもよっぽど恐ろしい一撃なのかもしれない。
音を立てて千切れ飛ぶ拳のパーツ。
ジゼルは瞳を瞬かせる。
「この先に咲いた綺麗な花を、楽しみにしている人達がいるのです。その歩みは阻ませていただきます」
黒髪揺らし、壊れたパーツに暴れるダモクレスよりステップで距離を取ったカルナ。
しかし、その橙瞳の狙いはブレる事は無い。
「行きますよ」
刳り切られ、火花の散るパーツの切れ口へと。魔力弾と化したファミリアを叩き込んだ!
「ウサギがスタンピングで負ける訳には」
カロンの呟き。跳ねた彼は、駆け上ったビル上から自由落下。
大きな耳が風に揺れ、重力と流星の煌めきが脚を纏う。
「――いけませんよね!」
そのまま重力を味方に、踵を刳りこむようにロボットの頭に叩き込む!
しかし、へこみはしたがそのまま跳ね返され、ビルの外壁を蹴って反転するカロン。
「や、やっぱり硬いですね……」
リリパンチは強い。
●
敵へと幾度も重ねられた、バッドステータス。
ケルベロス達の身につけた時計が同時に音を立て、時を知らせる。
「皆、たたみかけよう!」
アトリは一瞬だけ敵を見やり、澄んだ声音で号を飛ばした。
古錆びた銀のリボルバーに弾を籠め直しながら、足を止めること無く神経研ぎ澄まして。
狙いは、最初から同じく脚だ。
音を立てる鎖。
歩きだそうとした脚に、ケルベロスチェインを絡みつけたアトリは、ソレを引き絞り。
「エラー発生」
心の伴わぬ言葉。揺れる巨体はなんとか踏みこたえ、尚も前進を続けんと地に拳を叩き込む。
「作戦遂行優先」
ダメージの蓄積、後が無いのはケルベロス達と同じくダモクレスだって同じだ。
音を立てて熱煙を吐き出し、全てのミサイルハッチが押し開けられる。
「来そうよ」
杖を構えていたリリが鋭く呟き。
攻撃が来るという瞬間だと言うのに尚もフェクトは距離を詰め。
両手に掲げた杖に魔力を宿し、一つの刃を成す。
「ねえ、知ってる? 神様が割れるのは海だけじゃないって事!」
吐き出され始めたミサイルを、空中で割り斬るフェクト。
「そう言えばそんな血迷い事も言ってたわね」
肩を竦めて、リリは重ねて駆ける。
後方にある公園まではケルベロス達の足止めもあって、まだ戦禍は達しては居ない。
「誰かを守るって、がらじゃあないのよね」
でも、まぁ。花くらいは。
「しゅっしゅっと、いきましょ」
フェクトの割り開いた道を飛び跳ね。幾つも吐き出されるミサイルを避けて、リリの両手で交わした杖が紫電を纏う。
「せーのっ!」
フェクトとリリの声が重なり、刃と杖の撃がダモクレスを貫いた。
「危ない、危ないですっ!」
街を灰燼に返さんばかりのミサイル量。
壊れた柱を蹴り、馬跳びの要領で瓦礫を跳ね。
ケルベロスの瞳と、大きなウサギの脚でミサイルを蹴り避けるカロン。
同じくミサイルをくぐりながら、イチカは瞳を細めて胸に手を当てた。
「でも、まだ市は無事そうだねえ」
息づく地獄は、心電図を模した炎。鼓動が燃え、嘶き、絡みつく。
頷いたカロンは更にミサイルを蹴って龍槌を握りしめた。
「市まで攻撃を届かせないうちに、ぶちかましましょう!」
「もちろん! きたえたわざで勝ちまくり、ってね!」
ミサイルを避ける事を止めて、獣の脚力で一気に跳ねたカロンは敵へと一直線。
――きみの鼓動を熔きあかすまで。
落ちる重力ごと。カロンが自らの体重を乗せて槌を叩き込めば、冷気を湛えて吠え。
イチカの地獄の炎が更に絡みつき。
フォーマルハウトが大きな口を開いて、重ねて噛み付いた。
今こそ庇う時、と未明を庇い。
「……っ」
ジゼルはオウガメタルを纏わせた両腕を交わして。
ミサイルを一身に受けた彼女は、何とか火傷と傷に塗れながらも地に立っていた。
未明には一目で解る。彼女には癒やしが必要だ。
しかしもう一撃を耐えられる体力も、時間も残されては居なかった。
「平気よ」
紅色の花を揺らし、ジゼルは前を向く。
目的は一つだ。
ミルタと梅太郎が花輪をゆるゆると震わせ、敵を睨めつける。
ジゼルは街に佇む巨大なダモクレスを、瞳の奥に焼き付けた。
「合わせて、ね」
「解った」
ジゼルを癒やすよりも、攻撃を選択した未明は丸い硝子瓶を手に。
衝撃を振り切って、軽く跳躍したジゼルは重力を脚に宿す。
――きみの目には、なにがうつる。
「朝の風景と一緒にお前さまを覚えておくから、さっさとおやすみ」
未明の投げた烟る瓶の中身はダモクレスを溶かし、脆くなった装甲をジゼルは踏み割る。
低く構えたアトリと頷きあったカルナが、同時に構えた。
カルナの手には、輪より顕現した光の刃。
アトリが纏うは、自らに忠誠を誓うオウガメタルの形成した刃。
「終わらせようか」
「はい」
此処に散るべきは罪無き命と花ではなく、摘み取るべきは災の芽。
同時に跳躍したカルナとアトリは、交わす形でダモクレスの頸を掻き斬り――。
キヌサヤがその爪をダモクレスに叩き込んだ!
「微睡みの中へ、戻りなさい。……飢えも破壊も忘れて、お休みなさい」
カルナの囁き。
砂が風に吹かれるように。
倒れたダモクレスの身体は、風に溶け消え行く。
●
「……ちょっと壊しすぎてしまったわよね、骨が折れたわ」
「でも、頑張ったお陰で、無事市も開催できそうですね」
ヒールをする以外にも、お片付けは沢山ある。あらかたファンタジックになった街並みを前にリリは肩を竦め。
避難解除の連絡を終えたカルナが、息をついた。
キヌサヤを肩に、アトリも一息。
「一息付きましたし、飲み物でも飲みましょうか」
ちょうど公園の前に集まったケルベロス達。
「全部終えたら、お菓子。よ」
事前の約束は忘れないタイプのジゼルだ。
「あ、お菓子は野々宮以外も貰えるのね、何千円まで良いのかしら」
「あんぱんが良い」
「私はお肉がいいなぁ」
「焼きそば……焼きそばもいいな。肉を焼いた油で焼きそば……」
「お菓子……?」
リリとフェクトと未明も言いたい放題。カルナが首を傾げる。お菓子じゃない。
戦闘が終えたら反抗期まるだしの梅太郎はゴロゴロ、そこはかとなく肉が良いと雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
未明がそんな翼猫を横目に公園の花々を望む。
「朝顔きれい、ね」
ジゼルが言うとおり。
立ち並ぶ、大きく開いた朝顔達。
綺麗にヒールをされた会場は、明かりの灯ったぼんぼりが幾つも並ぶお祭りのような雰囲気。
良い感じの位置にミルタも丸くなっている。
「はじまったら、覗いていきたいな」
「いいね、みんなで朝顔市いってみる?」
未明の言葉に、へにゃっと微笑むイチカ。
「夏の思い出が増える、ね」
ジゼルが頷き。
「そうね。フェクトも小学校で観察日記の宿題が出ているだろうし」
「こーうーこーうーせーいーでーすー!」
リリが嘯けば、フェクトがプンとした。プン。
「何かステージもあるらしいですし……、楽しそうですね」
跳ねるフォーマルハウト。看板をみて、カロンも同意を示す。
イチカが朝顔を見て、思い返すのはあの夏の事。
植物を育てるのは、好きだけれど得意では無い。
ぴょん、と跳ねて振り返ったイチカ。
「イチカ、鉢植えは買わないよ。よさそうな種だけしっかりえらんで買ってくんだ」
そして、イチカはえへへと微笑む。
「それでね、……それでね。――朝顔、今度こそはきれいに咲かせてみせるよ!」
遠くに人々のざわめき。そろそろ、市も再開するだろう。
穏やかに咲く朝顔と笑顔は、ココに取り戻されたのだ。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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