私達は『友達』だからきっと同じものが好き

作者:stera

「また、断れなかった……」
 誰も居ない屋上へ隠れるように逃げ込んだ、あさみ。
 週末、皆で集まって人気俳優の恋愛映画を観に行き、帰りにSNS映えしそうな多段アイスを食べに行く、という絵に描いたような女の子的集まりに参加することになってしまった。

「溜息なんかついて、何があったんだ?」
 驚いて声のした方に振り向くと、そこにはあまり見ない顔の、少し不良っぽい服装をした自分と同じくらいの歳の女が立っている。
「実は、クラスの皆と遊びに行くんだけど、ちょっと気がすすまないっていうか、他のことをしたいなぁっていうか……」
 曖昧に答えるあさみ。
「お前の本当の心は、どこにあるんだ? 他人に合わせて、自分の心を見失っていないか?」
 彼女が言った。
「本当の心? あ、うん。……私甘いモノって苦手っていうか、本当は激辛が好きなの。 皆で観に行こうって約束した映画の主役もそれほど好きな芸能人じゃないし、気がすすまないんだけど……皆が行くって言ってるのに嫌だって言うわけにもいかないし」
「周りにムリに合わせて、何の価値がある? お前はお前で価値があるんだ、他人に合わせてしまえば、その価値が無くなってしまう!」
「私の、価値……」
「誰を気にする必要がある? 自分の価値は自分で決めるんだ。他人に何を言われようと自分を貫け、何を遠慮しているんだ? 好きなことを好きなだけすればいいじゃないか? 嫌なことに付き合う必要がどこにある!」
「……そ、そうよね! 嫌なことは嫌だって言えば良いわよね!!」
「そのとおりだ」
 ドン!
『フレンドリィ』は、あさみの胸に鍵を差し込みひねる。

「あさみちゃん、遅いね~」
「そうだよね、どうしたのかなぁ」
 集まっている少女たち、そこに一体のドリームイーターが現れる。
 モザイクによって崩れて霞む顔、なんとなく彼女たちの友人あさみに、雰囲気が似ているような気がしなくもないが……着ている白いTシャツには大きく『私は自由だ!』と書いてある。
「また、空気を読んで仲良しごっこ? お前ら何が楽しいんだよ? 何もかも嘘ばかり、上辺だけの仲良し……価値のないお前たちなんて、生きる価値がないんだよ!!」

●ヘリオンにて
 ヘリオライダーの皇・基(en0229)は、集まったケルベロスの仲間を前に、軽く一礼する。
「この任務にあたってくれること、感謝します。 まずは簡単な説明からさせてください」
 彼が言うには、日本の各地の高校にドリームイーターが出現し始め、ドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪い強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしい。
 今回狙われたのは『守山 あさみ』という女子高生で、空気を読んでまわりに合わせる事に疑問を持っている所を狙われたようだ。
「被害者から生み出されたドリームイーターは、強力な力を持ちますが、この夢の源泉である『空気を読むことへの疑問』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事が可能なようです。要は、空気を読むことの必要性や重要性について上手く説得することが出来れば、戦闘を有利に進めることができるという具合ですね」
 敵はドリームイーター1体。
 駅前の中心、人通りの多いロータリー横の広場に集まる被害者のクラスメイト達を襲撃するという。
 モザイクを飛ばす攻撃をし、回復の手段をも持ち合わせた強力な個体らしい。
 ただ、このドリームイーター、同調意識であつまる友人たちを襲撃することよりケルベロスが現れたら、そちらとの戦闘を最優先するよう命令されているようで、一般人の避難誘導は、それほど難しくはないだろうとのことだった。
「将来について色々と夢や不安もある高校生を狙う攻撃を見過ごすわけには行きません。今回は、ドリームイーターを説得することで揺さぶりをかけることが出来ますが、あまり強く否定しすぎると、被害者が空気を読めない人、もしくは周りの空気ばかりを読み、自己主張の全く出来ない人になる恐れもあるから、そのあたり適度に配慮してあげると良いかもしれません。判断は皆さんにお任せしますので、どうぞよろしくおねがいします」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
レイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
吉良・琴美(白衣の悪魔・e36537)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●私の自由っ!!
 ケルベロスの仲間たちがヘリオンで現場に到着するよりわずかに早く、ドリームイーターとなった守山 あさみは、友人たちを襲撃する。
「また、空気を読んで仲良しごっこ? お前ら何が楽しいんだよ? 何もかも嘘ばかり、上辺だけの仲良し……価値のないお前たちなんて、生きる価値がないんだよ!!」
 混乱するロータリー。
 連絡をうけ駆けつけていた警察関係者も、攻撃を仕掛けるドリームイーターには無力だ。
「このままではいけないな」
 吉良・琴美(白衣の悪魔・e36537)は、想定より混乱する人々を前に呟いた。
「これは、避難を急がせないといけないね」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が、敵の気を引くように声を上げる。
「君が狙うのは、僕たちのほうじゃないのかい?」
 半ばパニックに陥る人々を前に、
「慌てないでください、大丈夫です」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が、そう声を掛ける。
「私は避難誘導に専念させていただきます、デウスエクスに立ち向かえるのはケルベロスだけ、ケルベロスの誰かが一緒に導いたほうがいいでしょう」
 オンディーナ・リシュリュー(希求のウィッチドクター・en0228)は言った。
「ペルギア」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)のライドキャリバーは、ドリームイーターの攻撃で負傷した友人を乗せると人混みを縫うように安全な場所に彼女を避難させる。
「たまにはちょっと優雅にキメてみようかな?」
 プリンセスモードに変身したレイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)。
「さ、あの人達と一緒についていって、ちゃんと逃げるんだよ?」
 絶望的だった空気を払拭するように、可憐な姿で人々を励ます。
「皆様、こちらですわ。さぁ、安全な場所へお急ぎください!」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)も、そう言ってひと目を引きつつ避難を促す。
(「まずは守りを砕かせてもらう」)
 いち早く敵に突進するコクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)。
 しかし、ドリームイーターは弱る様子も見せない。
 敵の姿を捕らえた八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)が遠距離からの攻撃を放つも、敵は眉をひそめたのみだった。
 崩れた顔のモザイクが、一斉に塊大きな口となると、目の前に立ちふさがる東西南北に食らいつく。
 想像以上に重い一撃。
「これは、手強いですね」
「私は……自由だ!! 私を邪魔する存在ケルベロス、この世界から居なくなれ!!」

●悩みと迷い
「何故、気が付かなかったんだろう。 自分を表現するって、こんなにも素敵なことだったのに!!」
 迷いと悩みを糧に、元が普通の女子高生だとは思えないほどの強烈なドリームイーターとなった彼女。
 相対しながら泉は思う。
(「誰かの想いを汲み取ること、誰かに想いをくみ取ってほしいこと、二つの想いが折り合いをつけにくい年頃なのでしょうが、この強さ、相当想いを溜め込んでいたということでしょうか」)
「貴女の悩みが深く想いが強いということ、わからなくはありません。 言い出しにくいこともありますよね? それでも、やっぱり言わなければ伝わらないこともあります」
 放った炎の向こうで、ニタリと笑うドリームイーター。
「そう、その通りなのよ。 何を気にしていたんだろう、私は私で良いというのに! 好きなことをして、思うままに振る舞う。それがこんなにも自由で素敵なことだと気が付かなかったなんて! 私は今まで自分の価値について何も気がついていなかった!」
「成程、価値か」
 それを聞いたコクマが言う。
「価値は大事だ。お前自身の価値は他と比べられるものではなく尊きものだろう。 ……しかし、其れは他者の好みや願い、想いと違うからと否定し粉砕しないと自覚できない程脆い物なのか? お前は他者の価値を認めていた。空気を読むとはその上で他者を尊重する事でもある。尊重し尊重される事こそ真の価値であり『友達』ではないのか?」
「とも、だち……」
 ドリームイーターの口がそう動いた。
「あなたは、誘いに参加するよう脅されていたのではなく、皆の事が嫌いじゃないから、断れなかっただけでしょう? 何かのタイミングで、自分の好みをカミングアウトしていれば、皆も受け入れてくれるかもしれない。大丈夫、空気の読める君ならできる!」
 右院はそう彼女を説得しながら、そういえば、自分は空気が読めず思ったことをそのまま口にして、場を凍らせたことがあったような……それを考えると、彼女の周囲との同調力には恐れ入る、と思いつつ。
(「まぁそんなエピソードも、ワイルドスペースの向こうに置いてきたんだけど」)
「想像してください」
 東西南北は言う。
「もしあさみさんが友達と『JKが激辛ラーメン啜るギャップ萌え!』『SNSに投稿しよう!』と盛り上がってる時に、その中の一人が『ごめん、私辛いの苦手で……』と言いだしたら、ぶりっこだって仲間外れにしましたか? 『ごめん気付かなくて、今度は甘い物食べにいこう』と言っていたのではないですか? 空気を読むとは多数派に同調するんじゃなく個性を尊重し合う事。勇気を持って本当の事を友達に伝えたらいかがです?」
「……私は、仲良しごっこをしていた、だけなのよ。だから! 私は自分の意志を、価値を! ちゃんと伝えられる存在になるっ!!」
「『空気を読んで仲良しごっこ』と君はいうけれど、甘いものや人気俳優の映画が心から好きな人がいるってことを忘れていないかい?」
 穏やかに、そう語りかけたのはピジョンだった。
「嫌なものを嫌だということも必要だけれど、好きなものを好きというほうが重要だ。 けど、その主張は場の空気を壊したり、他人の好きなものを否定して、受け入れてもらえるものではないよね? 勇気をもって、ふとした時に『これいいよね』って自分の思いを伝えてごらんよ。 そしたらきっと、応えてくれる人がいるものだからさ」
「誰かの心を読む、なんてことは難しいんだからさ? 必死にはならなくてもいいんじゃないかな?」
 レイアークは、小首をかしげ言う。
「空気を読むっていうのは……そうだね、2手3手先の自分の立場を考えて発言するってことだと私は思うかな? 行き当たりばったりじゃダメだろうけど、生きやすく生きるのが一番楽だし楽しいよ。 そう思わない?」
 レイアークは天真爛漫な笑顔で、思い空気を吹き飛ばす。
「正直、私もこの『空気を読め』という風潮が大嫌いだ」
 琴美は言った。
「自己を押し殺し、埋没させてしまうことが果たして文明人と言えるのだろうか? アイデンティティの有無を見いだせないのではないか?」
 それは、自らの力で自分らしく生きる琴美らしい言葉であり、ドリームイーターとなっているあさみが叫んでいる言葉に近いものがあった。
「まあ、君とは真逆の生き方をしている私が言うのもなんだが、確かに周囲に流されているだけなら問題だ。だが君自身に明確な考えがあってそうしているのなら、周りに合わせることは恥ずべきことではなかろう。そこが厳粛な場なのか、それとも軽い趣味の領域なのかで周囲に合わせる必要性は違ってくる。 その違いを見極めるのが処世術というものだ。 君はその力に長けていたということだ」
 仲間たちの説得に耳を傾けながら、ルーシィドは一つの答えを導き出していた。
「『気遣い』なのですね」
 正直、記憶喪失のルーシィドは、人付き合いは苦手だった。
 空気を読む、ということについて、彼女自身も実感がなかった。
 空気を読むことの、意味と理由。
 仲間たちの説得に同じように耳を傾けていたルーシィド。
「優しさから来る好意が一方通行であるのは悲しいものです。お互いがその気持ちを与えあえたらいいのに、と思います」
 ルーシィドは、ドリームイータに言った。
「空気を読むということは、価値や良し悪しではなく、あなたの『優しさ』だったのではないですか?」

●崩れるモザイク
 ケルベロスの仲間たちの説得を聞き、動きをとめていたドリームイーターが、突如言葉にならない声を上げ攻撃を再開する。
 泉は、自らの足元に目を落とす。
 人間関係の苦しみが改善されるように。
 その明けない夜が明ける様に、出発前そうおまじないをかけた。
「この靴は大切な方が下さった明けない夜を終わらせるための鍵。 あなたの言い出せない想いを伝えるために、その歪みからまずは元のあなたに戻れるように、drei、参ります」
 狙いすました一撃がドリームイーターに浴びせられる。
 間髪入れず追撃するコクマ。
 右院の放つ致命の爪。
 かつてアスガルド近辺に生息したといわれる呪われた野獣の爪の力を借りた一撃は、敵の回復する術を封じた。
「僕の背骨は避雷針、きたれ臨界、破れ限界!」
 東西南北迅雷、雷の鞭ドリームイーターを捉えると、ガクリと両膝を付き前のめりにその体が倒れた。
 攻撃の手を止めて、ピジョンが駆け寄る。
「息はありますね」
「見て、顔のモザイクが、消えていくよ!」
 同じように駆け寄って顔を覗き込んだレイアークが言った。
「どうやら、無事彼女を救えたようですね」
 ルーシィドは微笑む。
「一旦、場所を変えて診るとしよう。まがりなりにも私は医者だからな」
 そう言って琴美も、不敵に微笑んだ。

●伝える想いと伝わる心
「大丈夫そうだな」
 そうたいした大きな怪我もなく、琴美の治療を受けたあさみは、ドリームイーターになってしまっていたことを知り、肩を落とす。
「大丈夫だよっ、レイちゃんのとびっきりの笑顔で、皆ちゃんと避難させたからね♪」
 そう明るく言ったレイアーク。
「貴方のお友達も、襲って来たドリームイーターがあなただとは知りませんから、安心していいですよ」
 ルーシィドは、言った。
 これは、今回彼女が一番気にかけていたことだった。
 ドリームイーターに変えられるきっかけになるほど、彼女は友達との関係を大切だと思っていた。
 それなら、この関係が崩れないように、護るのもまたケルベロスである自分たちの役割だ。
「あさみさん、貴方と貴方のお友達の絆を信じてください」
 泉は言った。
「……あまりよく覚えていないけど、私無理をしていたのかなって、でも皆のことも好き……やっぱり仲良くしたい。友達だから、私も少し皆を信じてわがままになってみます」
 あさみは言った。
「どうぞ、こちらですよ。お友達のいる場所へ案内いたします」
 オンディーナがそう言って手招くと、彼女は笑顔で一礼しその場を離れる。
「相手のことを想いながら、自分の想いも伝えていく、仕立て屋の仕事に通じるものもあるかな」
「あさみさんの優しさがあれば、きっと大丈夫でしょう」
 ピジョンの言葉に続きそう右院が言った。
「案外すんなり受け入れられることでも、伝えることに勇気がいるということがあるのかもしれませんね。楽観的かもしれませんが、うまくいくと信じています。人は違うからこそ認めあえるんです。 ……ボクにもそのちっぽけな勇気があったら、あさみさんみたいな青春が過ごせたんでしょうか。苦い思い出ですが……」
 東西南北の言葉を受けて、
「結局の所、根底にあるのはエゴなのだ。 それぞれ違う価値観、それでもなお合わせているのは互いが尊重しあっているからこそ。それこそ、真の友情といったものではないか? ……ワシにだってある、美人と楽しい時間を過ごしたい。美味い酒を飲みたい。美味い飯を食べたい。しかし好みというものは千差万別、先によくリサーチするのも大事だな」
 最後は茶化すようにそういったコクマ。
 ひとまず、今回はうまくいったようだ。
 ケルベロスの仲間たちは、任務を成功させ帰路につくのだった。

作者:stera 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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