大火を喰らいて死地を踏む

作者:雨屋鳥


 踏み出した脚先で藍色の炎が、小さな花を焼いて散った。
 また一歩、踏み出した先で草花が黒く染め上げられて塵と消える。
 彼女の後ろ、タイルでモザイク模様のあしらわれた小さな広場に、歩いてきたのだろう焼け焦げた足跡が続いている。
「なんだ、お前」
 九十九折・かだん(スプリガン・e18614)が胡乱気に彼女を睨め上げた。揺らぐ熱気で皮膚が湿って罅割れていくような感覚に嫌気が差し、当てどなく夜の街を歩いた先。駅のロータリー。
 樹木の周りに円状に作られたベンチに腰掛けたかだんは、捻じり締められている様な空腹感に気怠げに両足を投げ出したまま、草木の焦げる匂いに眉を顰め、見た姿にため息を吐いて、かだんは立ち上がった。
 それは対極にいる存在に思えた。
 白い竜の鱗に体の大半を覆われた細い姿。
 ただあるだけで命を奪い、大地を焼くその姿は。
 だが同じような存在とも思えた。
 憂うように半ばに伏せられた赤い瞳。
 ただあるだけで命を奪い、大地を焼くその瞳は。
 誰何の声に、彼女は返さない。拘束具じみた口元の装飾の奥で白く濁った肌色が動く気配はない。
 だが、その存在を理解した。恐らくその瞬間、互いがそれを悟った。
 月も無い暗い夜に、緑と赤の殺意が交わる。


「九十九折かだんさんがデウスエクスの襲撃を受けます」
 ダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)の言葉は端的だった。
 当のかだんには連絡はつかず、今から急行し救援する必要がある。
「相手は恐らく、ドラグナー……藍色の火炎を操るドラゴンの因子を受け継いでいるものと思われます」
 かだんに接触したのは、偶然か、思惑があるのか。兎も角、件のドラグナーはドラゴンの力を色濃く表出させていて、かだん一人では敵わないとダンドは言う。
「確認できたのは、火炎と体術を合わせた戦法です」
 炎の瞳、吐息に加え、炎を纏う体術。それを合わせた攻撃を行うと説明した後、不幸中の幸い、とダンドは周囲の状況について説明する。
「場所はロータリー内の広場。深夜である事もあってか周囲に人はいません」
 広さも十分にあり他に人が隠れている様子もない。戦闘を阻害する要素はほぼ無い。
 今から向かえば、遭遇の瞬間に間に合うだろうとダンドは告げた。
「即急に、かだんさんの救援に向かってください」


参加者
桐山・憩(コボルト・e00836)
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
黒姫・楼子(玲瓏・e44321)

■リプレイ


 伸びた角。色鮮やかな瞳。纏う火。
 酷く歪んだ鏡を見ている様な心地すら感じた。名を知らず、声を知らず。ただ、それでも明確に、相容れないと悟った。
 湧き上がるのは、歓喜と憤怒と哀愁と安堵、そして、嫌悪。
 踏み出した先でまた一輪、花が燃えて朽ちた。

 地獄の炎が両脚を包み込み、内燃する熱が血流に流れるように全身が滾る。重心を深く、肩に担いだドラゴニックハンマーは砲筒へとその姿を変えていく。
 九十九折・かだん(スプリガン・e18614)は目の前の白竜を睨む。その踏み出した脚の側で、花が灰となって風に巻かれた。
「……っ」
 その瞬間、竜人はかだんの懐へとその身を滑り込ませていた。舞う灰に意識を奪われた刹那、藍色の火花だけが彼女がそこにいた証となって空を散る。
 強烈な脚力から生まれた速度をそのままに、かだんの腹へと肘鉄が付き放たれた。
 脳で考える暇もなく、反射的に砲塔でその腕を弾けば、横転で衝撃を受け流した白竜が即座に炎を纏わせた後ろ回し蹴りを繰り出す。竜鱗と合わさり、熱刃と化した踵がかだんの逸らした首筋を浅く裂いて、赤が散った。
 走る痛み等は気にしない。交差するように突きつけたドラゴニックハンマーの砲口から耳を劈く轟音が弾け、白い影が躍る。
「な」
 砲弾が竜の体を穿つことは無かった。至近距離から放ったはずの弾丸を俊敏な動作で躱したドラグナーは細い手足を繰る。正拳、貫手、下段蹴り、を切り返しての上段、脛骨を折り砕く蹴脚。
 細身の体からは計り知れぬ剛力はかだんの防御を誘い、弾き、体勢を崩し、どうにか両腕で頭蓋を庇ったかだんの体を白い脚が、強かに打ち据える。くの字に折れんばかりの衝撃を踏ん張り抑え込んだかだんの体が、その両脚が、強い揺れを感じ取った。藍炎が散る。強力な踏鳴が大地を揺らしていた。
 そして、肉薄し迫る縦拳はかだんの眉間を砕く。
 そのビジョンに、しかし、体勢を崩すかだんの体は反射的な指令に応える事ができないでいた。
「――らあッ!」
 その攻撃を弾いたのは、かだんでは無かった。流星の輝きが上空から白竜の体をその地面ごと吹き飛ばしていた。更に、牽制とばかりに無数の弾丸が宙を奔って地面を穿つ。
「おい。ちゃんと生きてるか?」と髑髏の仮面を被る灰色の髪の男性が言い放つ傍から、複数の人影が上空から降り立つ。
 飛散した土煙にその姿をかだんが確かめる前に、空気の流れが変わった。藍色の霧が砂塵を吹き飛ばして周囲を満たす。
 と同時に彼らが駆けた。
「さて、仕事だ!」
 声を上げた女性が無数のドローンを展開すれば、傷を覆い更に装甲となって体に纏わりつく。と、同時に藍霧の中心に爆炎が舞う。
「……九十九折さんも、結構襲われてるんだね」
 サイコフォース、それを放った白髪の男性は砕いた宝石の欠片を払った手でシルクハットを直しながら、爆発に薄れた藍の霧を見据えた。
「……まあ、簡単には下せないだろうね」
 その言葉の先、藍の幕の中に白い姿が立っている。それに小さな影が迫る。そのテレビウムが手に持った凶器を振り下ろせば、少ない動作で受け流した白い影に、死角から迫っていた丸い人影が剣を振りかざす。
 それにすら即応した白竜は、だが、その動きに唐突に精彩を欠く。藍の霧の中で眼を凝らせば、その白竜の体を半透明な腕が鷲掴んでいるのが見えるだろう。
「燃えまくりはよくないわね! 今年は熱夏ゆえ!」と明るい声が響く。
 テレビウム、帝釈天・梓紗の主人である兎耳を垂らす女性の操る御業がその動きを乱していた。
 剣が白竜を裂き、更にそれと入れ替わるように薙刀を手にした女性が白竜へと肉薄する。だが、直前に御業を炎で焼き斬り振りほどいた白竜がその黒爪の斬撃に相対する。
「ねえ、かだん? 狙われすぎじゃあない?」
 と竜の鱗を削った剣を手に、男性がかだんへと話しかけていた。同時に、かだんの体を光の膜が包み、傷を癒し始めた。
「かもな」とふくよかな男性の言葉に同意を示した黒豹のウェアライダーの男性がマインドシールドを展開していた。
「けど、助けに来るの好きだろ」
「否定はしないでおくけど」と表情を変える事無く軽口を返したかだんに、ふくよかな彼は武器を構えなおす。
 裂帛の気合が弾ける。
「チェ、ストーっ!」
 共に突き出された黒爪の腕をドラグナーは絡めとると、扇子と戯れる様にその体を投げ飛ばし、掌打を打ち込み弾き飛ばした。吹き飛んだ体を飛行能力で制御して僅かに浮遊したままかだんの側に降り立った彼女は、柔らかく視線を送りながら言う。
「助太刀に参りました。毅くおうつくしい方」
「てか、次出かける時は声かけろよかだん。いつか痛い目見るぜ?」
「迷惑、掛ける」
 応よ、とかだんに応えた彼女の耳に乳白色の石が軽く揺れた。


 桐山・憩(コボルト・e00836)はオウガ粒子を振りまきながら、徐々に昂る苛立ちを自覚しつつあった。同じ石を身に着けるかだんが何を思っているか薄々気付いている。
 踊る戦線に、彼女は何度目かの舌打ちを放つと散る白い灰を邪険に振り払った。
「何て、地獄のようなひとねえ」と兎ウェアライダーの片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)は独り言ちた。テレビウム梓紗に味方の回復の支持を出しながら、芙蓉の視線は青い火炎を纏い武術を繰る白い女性を追う。
 先ほどの藍の霧は、細かい炎の霧だ。その霧炎は蝕むように、草木を焼き、石を爛れさせ、白く色を奪っていく。
 その白い死地の中心に立つ女性は、芙蓉の目にはまさに地獄の体現とも感じられた。
 黒豹のウェアライダー、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が陣を鎖で敷き、周囲へと与える防御の加護を受けながら、灰髪のドラゴニアン、相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が肉薄する。
 強烈な蹴撃を放つ竜人に、シルクハットの男性、上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)がファミリアロッドを小鳥に変じさせ、攻撃を合わせた。
 更に、陣内のウイングキャット、猫の光輪が逃げ場を閉じる様に打ち放たれる。
 百舌の羽ばたきが白竜の節々に刻まれた傷を抉り、猫の攻撃を避けた白竜を硬直させた。そこに竜人の蹴りが迫る。
「いい加減、暑ぃんだよ!」
 放たれた豪脚は、無防備な脇腹へと吸い込まれ、臓腑を破らんと白竜を打つ。
 彼女が衝撃を利用し距離を取った所へとかだんが凍結の光線をもって追打つが、転がるように光線を掻い潜った彼女はそのまま、ふくよかな体系の豚のウェアライダー樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)へと燃える腕を伸ばす。
「させる、か……っ」
 正彦はバスターライフルを掃射して牽制を図るが、弾丸が銃口を離れるより早く藍炎の軌跡が弾道を通り過ぎた。
 銃を構え、剣は間に合わない。正彦は構えたバスターライフルを持ち直し真下に潜り込んだ白竜に銃床を振り下ろし、直後、浮遊感と共に視界が回転していた。
「……投げ」
 られた、と気付いた頃には既に、腕が動いていた。
 装填が完了した手応えが腕に返り、正彦の首を掴んだドラグナーの腕を伝って眼前に銃口を突きつけていた。
 炎が触れた肌から立ち昇り、白竜の腕へと伝播していく。自らの生命力を奪い取られる感覚と痛覚に視界を歪めながらも彼は引鉄を引いた。
 吐き出されるのは、術を刻んだ7.62ミリ短小弾。螺旋を描き、音速を超えて至近距離から放たれた弾丸は、ドラグナーの頭を弾き飛ばし、掴んでいた手を緩めさせる。
「……っ」
 弾丸は、白竜の角へと吸い込まれ、発動した術と共にそれを砕き割っていた。腕を振りほどいて距離を取った彼へと赤い瞳が向けられる。強烈な攻撃の直後、追撃を受ければ無事では済まない。
 藍炎が爆発する。
「……っ、大丈夫です」
 その瞬間、割り込んだ蒼炎滾らす薙刀を持つドラゴニアン、黒姫・楼子(玲瓏・e44321)がその攻撃を庇い受けていた。
「皆さんの回復を!」
「ああ」
 焼け弾けた傷口から血流が溢れて、楼子は自身を回復させつつ陣内へとヒールを要請する。負傷も嵩み、炎霧のダメージも無視はできない。
 陣内は既に準備を終えて、楼子に頷く。
 白く砂塵と化した草花の色を記憶から抽出するように、グラビティで形成した筆が褪せぬ色を描き出していく。生みだされた花弁が熱に荒ぶ風の中で舞吹雪けば、仲間を回復させ、そして祝福を与えていく。
 朽ちた花を、その命を描き留めるように。
「それくらいしか今は出来ないが」と言葉を隠すように、猫の翡翠の羽が回復を重ねて舞う。
「そらァッ、鈍ってきたんじゃねえか!?」
 竜人が声を荒げた。
 返る言葉はない。だが、彼の言う通りドラグナーの動きは徐々に精彩を失いつつある。序盤、食い破られるかと思われた劣勢を覆し始めているのだ。
 竜人が振るうドラゴニックハンマーが歪な轟音を響かせ、数分前であれば容易く躱し切っただろうドラグナーに直撃した。
「てめえの炎、どれだけの奴から奪ったよ」
 踏ん張りも効かず、浮いた体を引きずるように立ち上がる白竜を追撃する。
「もう腹一杯だろ、いい加減ねんねしな」
 彼は、弓を構えた。空気を食い破る音を響かせながら爆ぜ狂う雷の弓。番う矢は深い影の一矢。
 阻むように向けた視線は、竜人には届かない。憩が、その眼前に踊り出て視線を誘うと、爆発の瞬間に身を躱したのだ。そのまま憩は如意棒を操る。伸縮自在の棍棒が炎の四肢を弾き防ぎ、薙ぎ払う。
 その瞬間を狙いすまし放たれた矢は雷を纏い、過たず白竜の体を打ち貫いた。
「……っ」
 全身を貫くグラビティに、それでも、彼女は体を操る。藍の炎を滾らせ、砕けた角から炎を吹き上がらせる。
「ならば、それも良し、なのよね!」
 その赤い瞳には、未だ強い意志が宿っている。決死の覚悟、何かの為に何かを捨て、何かを手に入れた。それが何かは分からずとも、芙蓉はそれを歓迎した。
「炎の中で燃え尽きるってなら、女神の祝いよ、受け取りなさい!」
 バスターライフルが煌々と輝きを放つ。直後芙蓉の放った弾丸は着弾と同時に陽炎となって刻まれた傷を加速させる熱の花が咲いた。
 刻み込まれた凍結の呪いが加速しては、炎に巻かれた水蒸気を冷やし微細な雪を散し、水蒸気へと戻っていく。
「これも、また風情かしら?」
「……風情を愉しむのは、後でだよ」
 と、追い越し際に芙蓉に言い、零がドラグナーに迫る。
 向けられた視線に、零は躊躇もなく飛び込んだ。爆炎が彼の全身を焼き潰す、が、彼は更に足を踏み込む。
 百舌鳥が彼の背後から飛び出した。彼自身を盾にしたような攻撃に、しかし、白竜は小鳥の素早い動きを捉え攻撃を受け流し、背後に迫っていた楼子の腕を頭上で掴み止めた。
「……っ」
 赤黒い血を垂らす匕首の一撃を止められた楼子は、そのまま、動きを見せていた零へと投げ飛ばされる。
 零と受け止められるように衝突した楼子は、その動きを邪魔したかと顔を上げた瞬間に、否と断じた。
 周囲を警戒し、赤い瞳を運ぶその頭上に小さな棒状の何かがくるくると回っていた。
「――さあ、喰らえ」
 投げられた楼子を地面に着地させながら、零は自らとファミリアロッド、楼子で隠したそれを発動させる。
 小さな杖は刹那膨張し、変形し化け物の頭蓋骨へと変じた。ドラグナーが瞬時に警戒を示した時には、片目の眼窩に宿る赤い瞳が彼女を捉え、その咢を開いていた。
 咢が閉じる。その直前、ドラグナーが自らをつっかえ棒のように閉じる顎を支えていた。
 だが、それは数秒も持たない。拘束具のような装飾の向こうで炎の霧を吐く予備動作を見て取った憩が、ドラゴニックハンマーをぶち込んだのだ。進化可能性を砕き、凍結させる一撃は、企みを過たず攻撃を阻んでその体を押し込んだ。
 猛烈な勢いでドラグナーを呑み込んだ髑髏は一瞬の静寂の後、頭蓋の繋ぎ目から藍炎を漏らし爆発した。
「ハッ、いいツラになったじゃねえか」
 飛散した頭蓋の残骸は、元の姿を取りながら零へと戻っていく。その中で爆炎を纏う女を憩は揶揄した。壊れた装飾は、凍結によって罅割れた口元を晒している。進化可能性としての炎が氷を溶かし、赤い血が溢れ出ている。
 連携は既に済んでいる。ただ、視線を交わしただけでも十分だった。
 髑髏に叩き込んだ後、とっ捕まえろ、と。
「見せてやれ、かだん」
 と正彦が言葉で背中を押す。
「捕まえた」
 追い迫ったかだんが、恐れもなく爆炎纏うドラグナーの首を掴むと、その細い体を地面へと轟然と叩き伏せた。


 藍が燃える。
 緑が萌える。
 炎が散って、葉が散る。
 首を掴んだまま地面に叩きつけたドラグナーはかだんの腕を掴んで、その力を炎へと変換していく。
 かだんは、掴んだ首からその炎を光へと変えていく。
 触れた敵性存在を作り変える能力は、白い竜の鱗を土壌と緑の植物へと作り変えていき、全てを白く焼く藍炎は植物に変じた体を焼き滾っていく。
 芽吹いては朽ち、熾きては潰える。植物の隆盛を早送りするような光景の中でかだんはドラグナーの瞳を見つめていた。
 そこには恐れは無かった。飢餓も恐怖もそこにはない。ただ、孤独と苦痛が溢れている。
 唐突に、白竜の腕がかだんの手から離れ、かだんの顔を掴むように突きあげられ、その半ばから千切れ跳んだ。
「……させねえよ」
 オウガメタルを纏うエアシューズが光を反射する。憩が蹴り斬った腕は離れた所へと跳ねて落ちる。その瞬間にかだんの能力がドラグナーのそれを上回った。
 翠が炎を呑み込んで、覆い尽くしていく。


 緑に呑まれた体は、再燃した藍の炎に呑まれて静かに白に散っていった。
「これで良かった?」
 かだんはヒールの最中ふと手を止め、静かに問いかけた。
 最期ドラグナーが延ばした腕は灰にならずにかだんの能力の影響を残したまま落ちている。
 一矢報いようと、手を伸ばした。訳じゃない、と土塊を見下ろす。
 笑っていた。
 腕が千切れた瞬間。伸ばした腕の先に、炎から遠ざけるように伸ばした腕の先に小さな花が開いているのを見た瞬間。あれは、自らを憐れむ笑みだった。
 ああそっか。そりゃあ、
「何考えてる」
 静かに、だが力強く、憩がかだんの胸元を掴む。
「お前は違う。在るだけで全部奪う生物じゃねぇ、力に身を委ねて好きなもんに触ることもできないクソッタレじゃ――」
「憩」
 その瞳をかだんは覗き込むように、額を突き合わせる。
「私の、あいつの。哀しみも、苦しみも。否定する権利は、憩にだって無いよ」
 静かに重く、声を発して、気付く。
「でも、ありがと」
 眩んでいた視界が戻ったような心地がした。周りが鮮明に映る。
 眼は、醒めた。
 違う。
 そうして苦笑する。ヒールをかけた傍から活性化してしまった植物がタイルを食い破っている。
 周りを見れば明確だった。声を出す。
「悪い皆、もう一手間かける」
 それに応える声が、ここにある。

作者:雨屋鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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