疾星の呼び声

作者:雷紋寺音弥

●黄泉路からの誘い
 日中の茹だるような暑さが嘘のように、夜の街を吹き抜ける風は涼しかった。
 街を見下ろせるビルの屋上。何をするわけでもなく蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)は、その上から眼下に広がる夜景を見降ろしてみる。宵闇の中、星と街の灯りに照らされた白い髪が、柳の枝のようになびいていたが。
「……風が……変わりましたか?」
 突然、生温かい風が頬を撫でたことで、静葉は思わず後ろを振り返った。
 気が付けば、辺りから人の……否、およそ生き物と呼べる存在の気配が全て消えている。現世でありながら、しかしこの場所に漂うは常世の空気。そして、その中心に佇んでいるのは、大鎌を携えた一人の少年。
「やあ……随分と探したよ、静葉」
 まるで、かつての旧友の如く、少年は静葉に語り掛けた。もっとも、その全身から放たれる異様な殺気が、彼が人外の存在であるということを物語っていた。
「君を迎えに来た……と、言っても、君は了承しないだろうけれどね。だから、僕は決めたんだ。ここで君を殺して……その魂を回収すれば、理想の君を手に入れることができるって」
 それだけ言って、少年は貯水タンクの上から舞い降りると、大鎌を構えて静葉に迫る。己の歪んだ願望を成就させるべく、少年は青き刃を静葉の首筋目掛けて振り下ろした。

●疾風の妖星
「召集に応じてくれ、感謝する。蒼龍院・静葉が、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知された。なんとか連絡を付けようと思ったんだが……生憎、連絡を取ることができなかった」
 敵の狙いは静葉の命。このまま捨て置ける事態ではないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「静葉を狙っているのは、トピアスという名の死神だ。『疾星』の異名を持ち、その名の通り俊敏な身のこなしを誇る。大鎌を武器にする他にも、怨念を固めた黒い弾丸を爆発させて、周囲に猛毒を撒き散らすこともあるから、気をつけてくれ」
 そんな『疾星』トピアスだが、見た目は人間の少年のそれと大差はない。だが、それでも相手は人知を越えた力を持つデウスエクス。油断してかかれば、瞬く間に命を刈り取られることは想像に難くない。
「今から向かえば、静葉が敵に襲撃される瞬間に介入することができる。場所は、市街地にあるビルの屋上だ。貯水タンクと室外機以外には、大したものも置いていないからな。普段は人も立ち入らないような場所だから、戦闘中に一般人が紛れ込むこともないだろう」
 加えて、敵は何らかの方法で人払いをしているようで、そもそも屋上に一般人は近づいてこない。静葉と合流した後は、戦闘のみに専念できるのは幸いだ。
「敵が死神であることを考えると、戦いに負けた場合は、『死ぬだけ』では済まされないこともあるからな。他者の魂を好き勝手に弄ぶような連中に、静葉の命を奪わせるわけにはいかないぜ」
 敵の目的がなんであろうと、ここで静葉を見捨てるという選択肢はないだろう。なんとしても、ここでトピアスを撃破して、死神の野望を砕いて欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
水無月・実里(ストレイドック・e16191)
清水・湖満(氷雨・e25983)
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)
桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)

■リプレイ

●死へ誘う風
 粘つくような不快な空気が、風となって肌を撫でる。『疾星』トピアス。少年の姿をした死神は屈託のない笑顔を浮かべつつも、しかし情け容赦なく大鎌を振るい、蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)の命を刈らんと迫る。
「ふふふ……。激しく抵抗する獲物は、その分だけ苦しんで死ぬことになる。……それが分からない君じゃないだろう?」
 どうせ殺すのであれば、苦しまずに死なせてやりたい。たとえ、今は想いが届かずとも、それでも苦しむ姿はなるべく見たくない。そう言って迫るトピアスの刃を捌きつつも、静葉は言葉を返すことができなかった。
「私は……私の願いは……」
 脳裏を過る微かな記憶。軽い頭痛を覚えつつも刃を握るが、しかし手には力が入らない。
 果たして、自分の進むべき道は、本当にこれで正しいのか。死神の誘う先に正義があるとは思えないが、それでも今の自分の行き付く先とて、望まぬ未来に繋がっているのであるまいか。ふと、そんなことを考えた時だった。
「さあ、そろそろ観念したかい? 大人しく、僕に殺され……っ!?」
 再び大鎌を振り上げたトピアスの身体が、横殴りの衝撃によって鉄柵まで弾き飛ばされた。辛うじて踏み止まったものの、その顔には先程までの余裕が消え、怒りと驚きの色に染まっていた。
「……誰だい、僕の邪魔をするのは?」
「壊す者や奪う者が居るならば、当然守る者も居る。……助けに来ました」
 ライドキャリバーの緋椿を携え、鉄柵の上に舞い降りる桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)。先程の一撃は、彼女の繰り出した強烈な蹴りと、緋椿の突撃によるものだ。
「静葉、助けに来たよ」
「来い、死神。お前にこの人の命は取らせはしない」
 清水・湖満(氷雨・e25983)が静葉の手を取り、それを守るようにして立つ水無月・実里(ストレイドック・e16191)。そんな彼女達の姿を見て、思わず静葉も顔を上げた。
「大丈夫? まだ、立てるわよね?」
 己の気を分け与えつつ、ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)が静葉に問う。その言葉に頷く静葉だったが、しかし敵であるトピアスもまた、既に体勢を立て直していた。
「……不愉快だね。僕と静葉の間に割って入る……何様のつもりなんだい、君達は?」
「銀月の戦巫女、ウェントゥス。私の友達は奪わせないし、逝くのはお前だけだ!」
 返事の代わりにハンマーを構え、そのまま一気にエリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が距離を詰める。振り被った槌を叩き付けるような動作を見せるが、それは見せ技。本命はこちらだとばかりに、強烈な蹴りで相手の中心を捉え。
「真昼の月と夜の月、どちらを見ていても、人は絡め取られ立ち止まるものだ」
 いつの間に背後へ回っていたのだろうか。御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)の一撃が、あらゆる理との繋がりを断絶するが。
「ふっ……それが答えかい? まあ、最初から気の利いた返事は期待していなかったけれどね」
 一瞬、身体のバランスを崩したものの、トピアスは怯む素振りさえ見せなかった。
 果たして、これは彼の実力か、それとも単なる痩せ我慢か。どれだけ追い込まれても、ポーカーフェイスを崩さない。こういう手合いは流れを読ませず、それだけに厄介な敵でもある。
 だが、それでも、ここで焦っては敵の思う壺。まずは足を止めるべく、レオンハルト・ヴァレンシュタイン(医龍・e35059)もまた仕掛け。
「ゴロ太よ、格好つける場面じゃぞ! 竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 オルトロスのゴロ太が念を放ってトピアスの身体へ火を放つ。そこへ狙い澄ました蹴りを食らわさんと迫るが……今度ばかりは、敵もそう好きにはやらせなかった。
「どいつも、こいつも蹴りばかり……。なるほどね、君達の狙いは読めたよ」
 鎌の柄でレオンハルトの脚を受け止め、トピアスは鬱陶しそうに振り払いながら後退した。瞬間、放たれた無数の怨嗟は地獄の亡者の叫びと化し、それらは漆黒の弾丸へと姿を変えて、ケルベロス達へ襲い掛かった。
「……っ! これは!?」
 怨霊の叫びが猛毒となり、雨の如く降り注ぐ。1つ1つは大した威力もない攻撃だが、重ねられると後が拙い。
 もう、これ以上は迷っている暇もなかった。どの道、ここで死ねば全てが終わる。理想も夢も、語るに及ばず。肉体を失った魂を弄ばれ、死神の眷属と成り果てるだけの未来しかない。ならば、自分の目指すべき、掴み取るべき未来は、決まっている。
「此処で諦める訳にはいかない。『蒼月の戦巫女』当代、竜宮・乙葉。参ります!」
 己の真名を名乗り、二振りの刃を掲げて静葉は跳んだ。黄泉平坂の階段へと誘われる運命を、自らの手で覆すために。

●瞬く凶星
 真夏の夜空よりも仄暗い、深淵の闇より舞い降りし凶星。疾風なる星の名を冠する通り、ケルベロス達の動体視力を以てしても、トピアスの動きを捉えることは困難を極めた。
「ほら、どうしたんだい? さっきの勢いは、まぐれだったのかな?」
 紙一重のところで太刀筋を見切り、トピアスは流れるようにケルベロス達の攻撃を捌きながら言った。その言葉は決して誇張でも驕りでもなく、実際にそれを言わせるだけの駿足を、死神の少年は持ち合わせていた。
 このまま闇雲に狙っても勝ち目はない。多少、運任せな部分もあるが、せめて相手の足が止まったところを狙わねば。
「行きなさい、緋椿」
 俊敏に動き回るトピアスへ、巴依は敢えて真正面から緋椿を突進させる。無論、そのような攻撃は容易く避けてしまうトピアスだったが、その避け終わった瞬間はチャンスでもある。
「やれやれ……。そのな見え透いた手で……ガッ!?」
 着地した瞬間を狙い、懐に飛び込んだ巴依が鉄杭を敵の脇腹に叩き込んだのだ。
 たちまち、凍結して行くトピアスの身体。至近距離から、ましてや内部から冷気を注入されれば、酷寒の冥府より生まれし死神とて無事では済まない。
「まだよ。ついでに、これも持って行くといいわ!」
 続けて繰り出されるユスティーナの一撃。ウイングキャットのなんか可愛いヤツにフォローを任せつつ、横薙ぎに繰り出された斧が敵を穿つ。鈍重にしながら、しかし研ぎ澄まされた一閃もまた、敵の身体を凍らせるには十分過ぎるものであり。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
 間合いを読ませず、身体の影から一気に放たれた白陽の刃が、トピアスの身体を抉るようにして斬り裂いた。
「なるほど、なかなかどうして、君達もやるようだね。でも……誰にも僕の邪魔はさせないよ。静葉の魂は、僕がいただく」
 それでも、凍り付いた肉体を意にも解さず、トピアスはあくまで静葉を狙い、大鎌を勢いよく放り投げた。
「……っ! 下がるんだ、静葉!」
 間一髪、実里が身を挺して静葉を庇ったが、その傷は思いの他に深い。怨霊の猛毒こそ防げても、彼女の纏った防具は大鎌の斬撃を軽減するだけの力を持っていない。
「無理はせんと、身体張るのも、程々にね」
 破れた衣服の箇所を覆うようにして湖満が実里に黒い葉を纏わせた。その一方で、レオンハルトは相棒のゴロ太と共に仕掛けつつも、改めて死神の少年に問うが。
「トビアスとやら、なにゆえ静葉殿に執着する?」
「何故かって? ふふ……そんなのは、簡単なことだよ。彼女は僕のお気に入りなんだ。だから、魂だけでも連れ帰りたい。そういう気持ち、君達には解らないのかな?」
 返って来たのは、狂った愛情の果てにあるドス黒いエゴ。自分が好意を抱いていれば、相手の気持ちなど関係ない。あまりに幼稚で、あまりに手前勝手な死神の理屈に、思わずエリンが顔を顰めた。
「歪んだ恋というか、片思いなのかな。歪み過ぎてるけど」
 こういう手合いが、俗に言われる『ヤンデレ』というやつなのだろうか。否、それは少々違うだろう。自分の都合ばかり押し付けて、相手の幸せを全く考えていない時点で、こいつは単なるサイコパスだ。
「今のケルベロス達に思う事は有ります。だけど護りたいと思う人達が、私の事を信じてくれる人達が居る。死神の花嫁はお断りさせていただきます!」
 歪んだ願いを真っ向から拒絶し、静葉の刃がトピアスを斬る。それに続け、エリンもまたチェーンソー剣を腰溜めに構え、唸りを上げる刃を真横から叩きつけ。
「ぁ、私もお断りなので。そもそもデウスエクスは倒さなきゃ」
 振動する刃が凍り付いた肉を砕き、木っ端微塵に破砕する。さすがのトピアスも思わず表情を歪めたが、しかしこの程度で倒れる相手でもない。
「残念だけど、君達の都合は関係ないんだ。静葉は僕がもらう……それを邪魔する連中は、僕がこの手で殺してやるよ……」
 暗闇の中で光る赤い瞳。全身から淀んだ気を溢れ返らせ、トピアスは不敵な笑みを浮かべると、再びケルベロス達へ向けて大鎌を構えて襲い掛かって来た。

●静かなる乙女
 深夜の屋上で繰り広げられる激闘。戦いの果てに、落下防止用の鉄柵はひしゃげ、大穴の開いた貯水タンクからは絶え間なく水が溢れ出している。
「……やってくれるね。まさか、ここまで手こずらせてくれるとは、思っていなかったよ……」
 幾度となく攻撃に晒された結果、さすがのトピアスも肩で息をする程にまで消耗していた。
 俊足が自慢の死神とて、絶対に攻撃を避けられるとは限らない。手数の方は、ケルベロス達の方が完全に上手。ましてや、その俊足を封じられたとなれば、後は徐々に命を削られるだけの展開が待っている。
「言ったはずだ。お前に、この人は殺させないと」
 たとえ、そちらが執拗に静葉を狙おうとも、何度も壁になって護ってみせる。そう言ってトピアスを見下ろす実里だったが……それでも、最後までトピアスは邪悪な死神でしかなく。
「へぇ、そうかい? でも……それにしては、君は他の人達に比べても、随分と貧弱そうだね」
 それならば、まずは邪魔な壁から始末する。そう告げると共に、命を吸い取る大鎌の刃で、実里の胸元を斬り裂いた。
「……くっ!」
 途端に、視界が暗くなり、実里は傷口を押さえて膝を突く。今まで、何度も肉の壁となって静葉を庇うことで蓄積した負傷。それが積み重なり、彼女を限界の一歩手前まで追い込んでしまったのだ。
「さあ、これで終わりだよ。君の魂なんて、手に入れても全然嬉しくないけど……ちょっとした玩具として復活させて、元の仲間を襲わせるのも面白そうだね」
 悪辣な趣味を隠すことなく、歪んだ笑みを浮かべたトピアスの鎌が実里へと迫る。だが、冷たい刃が彼女の首を刈り落とすと思われた瞬間、果たして苦悶の表情に顔を歪めたのは、他でもない疾星のトピアスだった。
「ぐっ……! ば、馬鹿な……」
「……まだ、敗けられないんだ」
 傷口に食らい付くようにして放たれた実里の拳。刃が振り下ろされる瞬間を狙い、彼女の反撃がトピアスの骨さえも打ち砕き。
「渡さぬよ。お主がそうであるように我らにも理由がある!」
 ゴロ太が口に咥えた刃で擦れ違い様に斬り掛かれば、レオンハルトが続け様に殴り飛ばし、網状の霊力で敵を捉え。
「その先に暗雲が有ったとしても、斬り拓いてみせる!」
「まだ知らない事が沢山あるまま、離れてしまうのは嫌ですから」
 回転するエリンの刃と打ち出される巴依の鉄杭が凍り付いた敵の肉体を粉々に砕き、果ては緋椿が脚さえも轢き潰し。
「悪いけれど、あなたでは静葉とは不釣り合いよ。出直していらっしゃいッ! ……いえ、出直す機会をあげるなんて優しすぎるわね」
 光り輝くルーンの文字を携えた、ユスティーナの戦斧がトピアスの身体を正面から断つ。
「う……ぐ……う、嘘だ! 僕が……この僕が、こんな連中に……」
 信じられない。傷つき、壊れ、崩れ行く自らの肉体を目にして呟くトピアスだったが、そこに向けられる視線は冷たい。
「静葉を迎えに来たのに残念やったね。ほら見てよ、天国か地獄かは知らへんけど、お迎えきとるよ。あ、死神てお迎え来るのかなー、あはは」
「なっ……き、貴様……」
 湖満の嘲笑に怒りを露わにするトピアスだったが、その様はもはや滑稽にしか映らなかった。
「死を司り、魂を狩るモノが、自らの消滅を前にして怯え、怒るか……。見苦しい」
 命運尽き果てたトピアスへ、白陽はそれだけ言って視線を逸らした。
 己が死せる覚悟なしに生者の魂を狩るというのであれば、それは既に死の神の名前さえ騙るに及ばずであると。
「静葉……き、君は、本当にこれでいいのかい? このまま、番犬として戦い続けて……その先に、何があるっていうんだい?」
 ここに来て、再び静葉に問うトピアスだったが、既に答えは決まっている。しばしの静寂の後、静葉は深く瞳を閉じつつも、紡ぐ言葉だけは、はっきりと。
「この先も信ずる皆と共に歩き続ける為。そして、ケルベロスとして皆を護る為に……私は!」
 大剣と刀の二振りの刃。それを納め、しかしその手に生成するは、蒼き月の御業により造られし新たなる刃。
「纏うは『煌希』、対なる者を祓う蒼月の一閃を受けよ!!」
 これが、今の自分に出せる、そちらの問いへの返答だ。
 御業の魔力を宿した刃で、一閃を放ちながら払い抜ける。蒼き軌跡はトピアスの身体を正面に捉えて両断し……限界を迎えた死神の肉体は、そのまま夜の闇に溶けるようにして消え去った。

●この先にある未来
 夜の街が、元の顔を取り戻す。うだるような熱気を含んだ風は止み、いつしか涼しげなものに変わっている。
「本当に、ありがとうございました」
 安堵で両膝付きながらも、静葉は改めて仲間達に感謝の言葉を述べた。その様子に、レオンハルトが心配そうに尋ねたが、どうやら静葉に致命的な怪我はないようだった。
「ふむ、無事ならなによりよ。皆の衆大儀であった」
「良かったわ……。アパートに出入りする数少ない常識人が、一人減るのは困りものだもの」
 レオンハルトの言葉に続け、ユスティーナもまた安堵の溜息を吐く。なかなかに手強い相手だったが、それでもなんとか仲間を守り通せたと。
「これで、借りは返せたかな?」
 未だ残る身体の痛みに耐えながら、実里がにやりと笑ってみせた。そんな彼女に、静葉も苦笑して合わせつつ立ち上がる。
 死神の花嫁。その先にある未来を否定した今、自分の下にあるのは仲間達と掴み取った未来。
 それを守るために、今は戦い続けよう。その先に待っているものが、希望に満ち溢れたものでなかったとしても。繰り返される絶望や、襲い掛かる困難が運命づけられていようとも、それさえも覆して進んで行こうと。
 疾星の名を冠した死神の忘れ形見を拾い上げ、静葉は心を新たに天を仰いだ。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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