巨大攻性植物の襲来

作者:宮下あおい


●予知
 大阪の市街地。
 どこからともなく聴こえる流行の音楽に、雑踏に紛れて聞こえる人々の話し声。学生や親子連れ、スマートフォンを片手に持つ会社員。
 何気ないいつもの日常にそれは突如現れた。
 全長7メートル、肉厚の花びらのようなものは透けて見え、ナイフのように根は鋭い。
 ゆっくりと浮遊して移動するため、ビルは破壊され、轟音とともに倒壊する。
 逃げ惑う人々の絶叫。
 敵は全長7メートルの攻性植物、サキュレント・エンブリオである。

●概要
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は予知された事件の説明を始めた。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです。
 攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしています」
 大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのだろう。大規模な侵攻ではなくとも、このまま放置すればゲート破壊成功率もじわじわと下がっていってしまう。
 それを防ぐためにも、敵の侵攻を防ぎ、隙を見つけて反攻に転じなければならない。
「今回現れる敵はサキュレント・エンブリオと呼ばれる巨大な攻性植物で、魔空回廊を通じて大阪市内へ出現することが予測されています」
 大阪市民と市街地に被害が出る前に、サキュレント・エンブリオを撃破するのが肝心だ。
 続いて周囲の状況の説明を始めた。
「サキュレント・エンブリオは1体のみで配下はいません。
 出現位置は確認されているので、出現後の市民の避難などは、警察・消防の協力で行えることになっています。市街地での戦闘となる為、市街の被害はどうしても出てしまうでしょう」
 被害を少しでも減らすなら、短期決戦での撃破が望ましい。
 サキュレント・エンブリオ出現地域の周囲には、中高層の建物も多く、攻撃時の移動経路として使用することもできる。電柱などを利用して、戦場である市街地を立体的に使えれば、有利に戦えるかもしれない。
 市街地の被害は、最終的にヒールで回復できるため、確実に素早く撃破できるような戦い方が望まれる。
「攻撃方法は埋葬形態、蔓触手形態、捕食形態に似たグラビティになるようです。効果や攻撃範囲は今までの攻性植物と同じと考えていただいて構いません。グラビティもさることながら、その大きさもあるので、周囲のビルごと薙ぎ倒すような攻撃もあるでしょう」
 アーウェルは集まったケルベロスたちを見回し、質問が出ないのを確認した。
「今回敵の動きを事前に察知できのたも、多くのケルベロスの皆さんが警戒してくださったおかげです。この頑張りを無駄にしないためにも確実に敵を倒しましょう!」


参加者
ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
ドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
山内・源三郎(姜子牙・e24606)
紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)

■リプレイ

●戦闘開始
 ケルベロスたちが到着したのは、サキュレント・エンブリオが出現した直後だった。
 一般人の避難や確認は警察に任せてある。特に問題なく進んでいると、ケルベロスたちはヘリオンから降下前に連絡を受けていた。充分に戦闘に集中できるだろう。
「いた、あれだね!」
 ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)が、7メートルある巨大な花のような攻性植物を指さした パラシュートから降下した後、翼飛行へ幾人かは移行する。
 サキュレント・エンブリオがゆっくりと動くたびに、電柱や木々が倒され、あるいは止められていた車が飛ばされた。
 ケルベロスたちは中高層ビルの屋上、地上に降り立ったり、または翼飛行のまま高度を維持している。
「――さあ、私と1曲踊ってくださいな」
 ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)の金髪には、七彩の薔薇が咲き揺らめく。踊るように、舞うようにサキュレント・エンブリオめがけて一撃を放った。
 流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りは、敵の機動力を奪うもの。
「これ以上の被害は出させないよ!」
 ルージュは、サキュレント・エンブリオの進路途中にある高層ビルの屋上から、躊躇なく駆け降りる。
 周辺の建造物を利用し、上下左右からの多角攻撃は、時に連携が効果を発揮することもある。ルージュは抜刀し、斬りかかった。グラビティは発動していない。気を引くこともひとつの作戦。
 だが、逆にそれを待っていたかのように、サキュレント・エンブリオはルージュへ向かって大きな根を振り上げる。ルージュが紙一重のところで飛びのく。
 振り上げられた根に東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が、高速で体を回転させながら敵へと突撃し、敵の守りを貫く。彼女に合わせて、攻撃をしかけているのは苺のサーヴァント、ボクスドラゴンのマカロンだ。
「こっちもいること、忘れてない?」
「この猛暑でぐんぐん育ったにしては、ちと育ちすぎじゃの」
 山内・源三郎(姜子牙・e24606)が光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えて突撃する。
 ケルベロスたちの多角攻撃に、ナイフのような鋭い根で応戦するサキュレント・エンブリオ。鉄がひしゃげる音、コンクリートが崩れる音。そんな轟音に混じって聞こえたのは、世界を愛する者たちを癒す歌。
「わたしたちがこの街を守るのです」
 アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)の懸命な歌声は、皆に力を与える。彼女は翼飛行と、建造物の足場を使い分けていた。
 上空から急降下したドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)は、地獄の炎を武器にまとわせ、サキュレント・エンブリオに叩きつけた。
「何体だろうと、何度でも駆除してやるぜ」
「ターゲット確認。戦闘開始」
 款冬・冰(冬の兵士・e42446)は、ビルのハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾で放つ。冰はパルクールやロープアクセスを用いて足場を確保している。
 紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)は、ぼそっと呟きつつすぐさま氷結の螺旋を放った。
「7メートル級巨人……って、人じゃないか」
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)、が精神を極限まで集中すると突如サキュレント・エンブリオが爆発した。その衝撃によるものか、サキュレント・エンブリオの根が英賀や創介のほうをめがて、振り上げられている。
 立ち位置上、近くにいた英賀の名を呼び、創介は構える。多かれ少なかれ、距離としても二人とも巻き込まれだろう。
「――紺崎! 来るよ!」

 時を同じくして、ロゼがハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾を放つ。
「私が口に乗せる言葉は鎮魂歌。人も街も守ってみせます! ……山内さん!」
「こんなクソ暑い中、ジジイに肉体労ど……いや、たまには悪くないかのぅ」
 ロゼが源三郎に飛びつく。翼飛行もできるが、ロゼ自身はそれほど得意ではない。
 源三郎がロゼを受け止めると、近くのビルへ放り投げた。ロゼは礼がわりのウインクをした。
 サキュレント・エンブリオがナイフのような根をいくつも地面へ突き刺した。同時に始まる浸食。戦場を侵食する敵を呑みこもうとする攻性植物の攻撃グラビティ。
「……崩落。移動開始」
 侵食から逃れようと、冰がロープアクセスで足場を変える。 苺は地上から、源三郎は上空から同時に攻撃を仕掛ける。
 苺が下から星型のオーラを蹴り込み、源三郎が冥界のパワーを敵に叩きつける。
「させません、行けーー!!」
「闇の深淵にて揺蕩う言霊達が呼び覚ませしは降魔の波動、彼の者の前に驟雨の如く撃ち付けよ!」
 外法幻禍陣――ゲホウゲンカジン。
 轟音。
 ビルが崩れ、あるいはガラスが粉々に割れる。
 根がそれぞれ意思を持っているかのように蠢き、ケルベロスたちを惑わせていた。しかし無作為に襲う根をそれぞれの方法で避けている。とはいえ小石や砂埃が舞う戦場だ。ある程度の小さなすり傷やかすり傷は、どうやっても防ぎようがない。
 間をおかずにアメリーが上空からグラビティを放つ。
「宝瓶宮の殉教者よ、彼の者に枷を嵌め、歩みを止めるです……le Verseau」
 ――ル・ヴェルソー。
 水瓶座の加護を受けた技。魔力で生み出した巨大な水瓶より、勢いよく清水が流れ出る。これを受けた者は水流に足を取られたような感覚に陥り、思うように動きが取れなくなる。
 サキュレント・エンブリオより高所を維持していたルージュが、足場から飛び降りた。アメリーの攻撃で動きが鈍った今、攻めるべきは――根が届かない上空からの一撃。
「……ドールィ!」
「ああ、言われずとも!」
 ルージュはドールィの背を足場に、上空へと飛ぶ。
 落下。
 パイルに雪さえも退く凍気を纏わせ、落下の衝撃も利用して突き刺した。
 ルージュが離れると同時に、サキュレント・エンブリオを英賀が放つ雷撃が襲う。
「さっきのお礼くらいはしないとね」

●中盤戦
「なかなかに強敵……今、治すよ」
 苺はオーラを貯め、ダメージを受けた源三郎を回復する。彼女の仕草に合わせて、ツインテールの髪が揺れた。
 飛行中ばかり維持しているわけにもいかない。建物を足場にしていた時になんどかダメージを負った。その回復だ。マカロンも庇ったり、回復したり、皆の手助けをしている。
「なに、この程度、かすり傷じゃ」
「かすり傷……それじゃ、終わったら僕を投げてもらおうかな」
 創介が隣のビルから飛び移ってくる。
 電線に電柱が引っかかり、バリバリと火花を散らす。
 一方、英賀は足場を変えながら、一定の高度を維持しつつ、惑星レギオンレイドを照らす黒太陽を具現化し、敵群に絶望の黒光を照射する。
「だいぶ弱ってる……けど油断は禁物だね、ルージュさん!」
「了解、任せて」
 英賀の攻撃と入れ替わるように、ルージュが地上から呪われた武器の呪詛を載せた、美しい軌跡を描く斬撃を放つ。
 確実にサキュレント・エンブリオにダメージは与えている。
 電柱やビルは薙ぎ倒され、道路もひび割れ、土埃が舞う。
「これだけで、終わらないのです!」
 サキュレント・エンブリオの真横から、アメリーがナイフの刃をジグザグに変形させ、敵の肉を回復しづらい形状に斬り刻みにかかる。
 ロゼは下から緩やかな弧を描く斬撃で、腱や急所のみを的確に斬り裂く。
「鎮魂歌は届いているでしょうか。たとえ意思がなくとも、言葉を持たずとも、きっと伝わるものがあるはず」
 声に出す歌だけが鎮魂歌の形ではない。舞うように、踊るように打つ一手も、鎮魂歌のひとつ。
 ナイフのような根が伸びる。トゲのようなものが無数に生えたかと思えば、サキュレント・エンブリオの根は、ビルの屋上で足を止めたドールィを捕まえた。
 毒を注入する捕食形態だ。
「くっ……! まさか、俺が捕まっちまうとはな」
 まるでぽいっと投げ捨てるように、ドールィを放り投げるサキュレント・エンブリオ。
 どうにか着地こそしたが、ドールィは態勢を崩し、膝をついた。
「アメリー、投擲を要請。……遠慮なく。冰は平気」
「わかりました。行きますよ」
 冰のグラビティも少し遠く、届きにくい。近くにいたアメリーが頷き、冰を抱えて移動をフォローする。
 綺麗に着地した冰は、すぐさまドールィに駆け寄った。
「一定量の負傷を検知。物資提供を開始」
 薬液の雨がドールィの周辺に降り注いだ。

●決着
 戦闘開始からどれほど経ったか。
「……結構なボロボロ具合だね。――おっと、危ない」
 戦闘開始からどれほど経ったか。英賀は飛んできたコンクリートの塊を、ひらりと避け、隣のビルへ飛び移る。それと同時に雷撃を放った。
 ケルベロスたちは怪我こそヒールで治しているが、汚れたり少し服が破れたり、あるいは小さな切り傷、かすり傷はどうしても避けられない。
 対してサキュレント・エンブリオはダメージの反動なのか、命中する度に根が周囲のものをなぎ倒していく。
 根が絡みついてこようとするが、皆臨機応変に避けている。
「――もし願うのなら、願うのなら、引き金を引いてみせてよ」
 創介の歌が響いた。生きる事の罪を肯定するメッセージが、戦う者達を癒やす歌だ。
 更に冰が回復グラビティで、皆の背を押す。
「С Рождеством Христовым…遠慮無く受領することを推奨」
 冬影「雪娘の贈り物」――スネグーラチカ・パダーロク。
 冰が扮する雪娘、スネグーラチカがプレゼントを贈ることで、味方の傷を大きく癒やす。プレゼントは薬液が封入された回復スプレーと粗品の2つ。
 次が一気に追い詰めるチャンス。それならばと、状況やダメージを鑑みて、ルージュに回復スプレーが送られた。粗品は薔薇の飾りがついたヘアゴムだ。
「冰、ありがとう!」
 根が暴れる中ため、冰もルージュもすぐさまその場から飛びのく。
 ナイフのような根が切り倒したのか、電柱や街路樹が綺麗に切断されているものもある。
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌ーーあなたに終焉を」
 ノルニルの鎮魂歌――ヨトゥンヘイム・レクイエム。
 一族に伝わる時空の伝承の詩、その一節。光纏う終焉の大鎌を喚びだし、ノルニルの紡ぎし運命の糸……時も永遠の命すらも断ち切り葬りさる。その一閃は銀河煌めきを残し、淡く儚く弔うように、鎮魂歌を奏で消える。
 ロゼの詩。それに続いたのは苺だ。苺が選んだのはスピニングドワーフ。
「ひと息に押しきります! 行きましょう!」
「もう一息じゃ、皆、参るぞ」
 源三郎の上空からの攻撃。虚無魔法、触れたもの全てを消滅させる、不可視の虚無球体を放つ。
「敵の足を止めるのです。その間にお願いします!」
 ――ル・ヴェルソー。アメリーのグラビティだ。勢いよく流れる水がサキュレント・エンブリオの動きを鈍らせた。
 デウスエクスの左右上空から、ルージュとドールィがまっすぐに降下する。
「――不可能なんてないさ、僕らならね」
 朽紅の焦業――プロメテウス。
 擬似的な演算を無数に繰り返し、未来を予測することで引き当てる狙った奇跡。 負担が大きいため、常時の使用を行う事は困難だが、最善の一手。
「こいつで終わりだ―――歯ァ喰いしばれェ!!」
 ドラゴンサマーソルトS――ドラゴンサマーソルトスペシャル。限界まで火力を上げた両脚の地獄を叩き付けて敵を粉砕し、蹴り上げる勢いのままに宙返りを決める過激な一撃。
 琥珀の瞳に映るのは頼れる相棒と掴む勝利の未来。その未来にたどり着くまでの数秒、伸ばしたその手が奇跡を掴んだ一瞬だった。

●戦いの後に
「おつかれさまでした、皆さん」
 戦闘が終わった直後、ロゼがふわりと微笑み労う。薔薇の歌姫、アイドル歌手としての笑みは皆を勇気づけるものだ。芸能人、有名人の労いは皆を支える力がある。
 終わった直後は少し休憩し、今は皆それぞれ街の修復に当たっていた。
 アメリーは避難誘導に協力してくれた警察や消防の人に対して、丁寧に礼を言って回っていた。
「皆さんのおかげです。ありがとうございました。……あれ、怪我してますね。猫さん、おかあさんはいないですか?」
 ふいに聞こえた猫の鳴き声。それを辿って物陰へ足を運べば、茶色の子猫を見つけた。とりあえずは手当を、それから親猫探しだ。
 その向こうで苺がビルの修復に当たっていた。苺は眼鏡の位置を直し、寄ってくるマカロンの頭を撫でる。
「あとどのくらい現れるのかなぁ……マカロンもおつかれさま」
「ふむ……建物への被害はあったが、人への被害がなかったのは良かったのぅ」
 源三郎が周囲を見回し、苺の言葉に続いた。
 瓦礫の撤去に当たっているのはルージュとドールィ。
「ドールィ、今度はそれを運ぼう」
「おう、しかし……胞子の拡散は阻止できなかったな」
 被害が建物だけで済んだことは僥倖だ。しかし、胞子の拡散を阻止できなかったのは悔やまれる。
 冰が変化のすくない表情で、ぽつりと呟く。
「……情報通り、胞子は干渉不能。対策が必要と判断」
 少し離れた場所では英賀と創介も建物の修復をしていた。
「――人命に被害が出なくて、良かった」
「ああ、そうだね」
 戦闘中も立ち位置上近くにいたせいか、会話は多かった。しかし互いにそれほどお喋りなほうでもないため、時々奇妙な沈黙が流れる。

 胞子までは止められなかったが、ひとまず撃破は成功した。
 まだこれからも戦いは続く。今は少しだけ、この戦いが終わった安堵に包まれていた。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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