●8月28日、朝
アラームが鳴る前に、意識が覚醒する。
いつもの事、いつもの朝。
髪を結いながら、片目を瞑って本日の予定を確認。
仕事欄は空白。
代わりに、電子カレンダーに自動的に登録されているケーキマークのスタンプが目に入る。
本日、レプス・リエヴルラパン34歳の誕生日。
特別祝う年でも無いだろう、しかし折角だからと仕事を入れる事を止めている日だ。
「朝飯作っかァ……」
今日の朝ご飯は何にしよう。
ちょっと良いベーコンを分けてもらったんだよな。
分厚いベーコンをカリっと焼いて、付け合せにサラダ。
後は、半熟の目玉焼きにしようか。
そういえば、もうバケットも食べてしまわなければ行けなかった筈だな。
薄く切ってトースターに放り込んで。
ああ、折角誕生日だ。ちょっとハレの日っぽくバターににんにくを混ぜて、バケットに塗って焼こうか。朝からビールだって良いかもしれない。
「くぁ……」
ベッドから立ち上がると、彼は大きく伸びをした。
●いつもの始まり
本日の予報は曇り、時々雷を伴うにわか雨。
雨の影響か、気温はそこまで上がらないらしい。
近所の子供が育てている朝顔の鉢。
ジョギングをする女性。
朝から飲んだビールは最高に旨かった。良い気分だ。
いつもこの時間にすれ違う散歩中の犬にヒラヒラと手を振り、遊歩道を歩む。
「さて、今日は何をすっかなァ」
そんな何でもない、いつもの火曜日。
●
昼下がり。
喫茶、鴉の宿り木亭のランチタイム。
「お前達はオムライスが食いたいとか言ってたっけ?」
事務作業をする翌桧が、サヤとアラタに尋ねると二人共頷き。
「はあい、オムライスの気分ですとも!」
「食べたい!」
書類とにらめっこ。翌桧は少し考え。
「たまにはアラタの作った飯を食ってみたいな、何か店で働いてんだろ?」
「ん! 良いぞ、今日はアラタが作ろう!」
一流のシェフを志すアラタは腕まくり。料理人たるもの毎日切磋琢磨だ。
「アラタご飯……! 作ってるとこ、見てもよろしーです?」
サヤはそわそわ。アラタはふわふわと薄焼き、二種のオムライスで対応だ。
「デザートは」「ぱんなこった!」
「いいぞいいぞ、食材はあるだけ好きに使え」
笑顔で誰かと食べるご飯は、美味しい幸せの味。
「さてはごちそうになってばかりですね? 次の機会にはサヤがつくっ」
「いや、次は俺が作る」
「だいじょうぶですよ」
アラタは首傾げ、翌桧は不安顔だ。
予報は曇り時々雷を伴うにわか雨。だから、今日は家でのんびり。
「今日は俺がしてやるから」
「何だか、してもらうのって久しぶりだなー」
耳かきはするのもされるのも好きだ。慶の膝上に寝転がり、瞳を閉じる真介。
他愛のない話題。
ふと会話が途切れた瞬間。
「……その、雷が鳴ったら。この前みてえにしちゃ駄目か?」
慶は尋ねる。雷は苦手だ。
「雷?」
うとうとし始めていた真介が小さく頷き。
「いいよ、勿論。鳴っても、鳴らなくても、一緒にいるから」
柔く笑む慶。
でも、彼が傍にいてくれれば落ち着ける。
「……俺も、慶が一緒にいてくれたら、安心する」
微睡みの中、真介は囁いた。
「すみませーん水銀を5瓶程」
「それと榊の葉を2束。これも良いなあるだけ入れてくれ」
帳が店員に問う横。サワメは彼の買物カゴに遠慮なく商品を盛る。
「ちょっ、予算カツカツだって知ってますよね!?」
「これが無くては巫術が使えぬのだから、仕方なかろう。ホラ、さっさと金を払うが良い」
「……ガサツで図々しいところは昔から変わりませんね」
「仮にも我の上司なら、我のために腎臓の1つや2つ売ってみせろ!」
売り言葉に買い言葉。2人が店を追い出されるまで、そう時間はかからない。
「我は悪くない」
「はいはい、すみませんでしたね」
同郷2人組は何だかんだ言いつつも次の店へ向かう。
教会の墓地の片隅。淡黄の花束に、一輪の彼岸花が赤く。
「付き合わせて悪いね、冥」
「ううん、一緒にってお声がけ光栄よ」
「アイツの話を聞いてくれたキミに一緒にきてもらいたくてさ」
R.I.Pと刻まれた十字架に、友達だよとレスターは報告を。
「天の墓参りを済ませて、キミの方は気持ちの整理がついたのかい?」
「あはは、むしろねーえ。整理するの止めたかも」
死者は忘却された時に本当の死を迎えるの、と冥は笑む。
「全部抱えてようって。弟は何を思いこちらを見てたのかを探してく」
そうかと瞳を細めるレスター。
「……俺も愛してるよ、スパロウ」
最後の言葉を噛み締める様に呟いた。
「独りぼっち同士身を寄せていたあの頃みたいね」
絵本を辿るアレクセイの膝上には、ロゼの金髪。
「違うよ、ロゼ」
猫の様に丸くなった、愛おしき姫を撫でる掌。
「独りではないよ、僕には貴女が。貴女には僕がいるから」
気に入りの絵本に、ロゼは問う。
「ねぇ。わたしが白鳥になれなくても、貴方は傍にいてくれる?」
「ええ勿論。白鳥でなくても雀でも鴉でも僕はずっと貴女の傍におりますよ」
――愛しておりますから。
囁き声に蕩ける微笑み。瞼裏に浮かぶは大好きな皆の顔。
「こんなに沢山の幸せがあるなんて思ってもみなかったわ」
おやすみ、僕のお姫様。目覚めたら、たまには昔の様に――。
カフェの窓際テーブル席。
「薔薇作り、私も挑戦してみようと思って」
「いいんじゃない?」
購入したばかりの薔薇のジャムに紅茶。
珈琲を口に運ぶ炯介に、俊は薔薇園の食用花拡張計画を語っていた。
「リサーチは大切よね」
薔薇アイスを一口、優雅な香りに眸を見開く俊。
くるくる変わる表情を眺める視線に気が付くと、更に表情が転がる。
「食べたいの?」
「頂戴?」
「一口だけよ」
見ていたのはアイスでは無いが、あーん。
「うん、美味しいね」
穏やかな笑み。
窓外に視線をやった炯介は、口の動きだけで言葉を。
俊が首傾ぎ振り向くと。窓外であえて指でハートを作るレプスに言葉を失った。
おうちデート前、スーパーでのお買い物。
「何か食べたいものあるかな?」
希望が無ければ好きな具材で天ぷらでも、とアクレッサス。
「うーん、今日はお魚かな……」
わ、と天ぷらにブラッドリーも賛成だ。
買物カート座席に座るはこも頷き。
「ん、魚だな。この時季だとキスが美味しいな」
「小さい、おさかな? だっけ?」
鮮魚コーナーに移動して二人は魚と睨めっこ。
「あ、ねぇねぇアーク、デザートとかも、天ぷらに出来るんでしょう?」
試してみてもいい? とブラッドリーは首を傾げ。
「面白そうだな、やってみようか」
果物やアイスなんて、と提案に花が咲く。
そんな日常が凄く楽しい。
しとしと泣き始めた空。
雨の日は、飛び回るには向いていない。
雨音に混じる、紙を捲る穏やかな音。
サイフォンで淹れた熱い珈琲にミルクを落とすと、白と黒が混じりあう。
工学雑誌、料理本。
本に囲まれ、蛍はソファにて読書中。
「よし、今日はこの本のレシピを試してみようか」
本を閉じ、立ち上がるといざキッチン。
アベルは車に客人を乗せてスーパーへと。
「んで、肝心の献立は?」
「ハンバーグ、スペアリブ、ローストビーフ」
エリアスの好きそうな献立を並べれば、分かってんなと満足げに彼は頷き。
「じゃ、そこに3ポンドステーキも追加で頼む」
量は5人前位しか食わねえが、野菜は無くて良いからなと念を押す彼に。野菜は嫌いと、アベルは好みを把握。
手際良く食材を選び、カートに入れ歩く。
「野菜はスープにすっから肉と一緒に楽しめよ」
荷物持ちはエリアスの仕事。
遠くで聞こえる雷鳴とセッションする腹の虫。
「よし、戻りますかね」
アベルは笑い、相棒の扉を開く。
海の蒼、ガジュマルの翠、日焼け跡。夏休みまるごとの旅行も、もうすぐ終わり。
「やり残したことはない?」
「シュノーケルもフィンも大分うまく使えるようになったよ」
いつもの珈琲を飲みながら、取り留めの無い会話。
「隣にいてくれて、ありがとう」
ここ十年のここでの夏は、失くしたものを悼むだけの時間だった。
君がいたから『これから先の時間』を、この景色に重ねることができた。
あかりは陣内の大きな手を握る。
「お礼を言うのは、僕の方」
沢山の知らない景色を、あなたを見せてくれて。
「ありがとね、陣」
ほら、雨音も止んだ。
夜の終わりも明けの始まりも、これからも一緒だよ。
腹筋、腕立て、スクワット。
お手軽筋トレメニューだと、シズネは言っていたけれど。
割と本気で辛い。でも最後までやり遂げた。
ラウルはへたり込み、不在の腹筋を撫でる。少しは割れたんじゃないだろうか?
「おいおい、まだうぉーみんぐあっぷ、ってやつだぞ? これからが本番だ!」
そこに届くのはシズネの非情なお知らせ。崩れ落ちるラウル。
「本日のラウルの筋肉はお休みします……」
「おめぇ、腹筋12個に割れてるって言ってただろ! 余裕だろ!」
「それは、ええと俺の腹筋は今お散歩中でいないからっ」
「あ、こら! おまえはまだやれるこだー!」
どうして見栄を張ってしまったのか。
揺れる買物袋。今日の夕御飯は練習中のカレー。
「夏雪も手伝ってくれたら嬉し……て、夏雪?」
足を止めた夏雪の指差す先は、アイス屋。
「今日で何度目ですか?」
仕方ない、と月は苦笑して財布を取り出し。
「よーう」
「あ、レプスさん。お誕生日ですよね。よかったらアイス、ごちそうしますよー」
●
「あぁ、今日も良い物件が見つからなかったよ……」
そろそろネカフェ難民から脱出したい猫晴は、空を見上げ。雲の隙間から見える夕日は赤く。
「……たまにはビルの屋上で野宿ってのも良いかもしれない」
最近は涼しくなってきたし、こんなにも夕日が綺麗ならば。
「明日は、良い日になると良いな」
商店街まで手を繋ぎ。歩調を合わせて歩む穏やかで幸せな時間。
いつものお魚屋さん、本日のオススメは鯖だ。
「鯖か、煮つけはどうかな?」
「うん、煮付けにしよっか。腕に寄りをかけて作るからね」
仲睦まじい有理と冬真に、今日も仲が良いねと冷やかす店主。
「はい、幸せ者です」
冬真の言葉に頬を染める有理。負けたと笑った店主は勘定をオマケだ。
そこに一粒雨が降ってきた。
急いで帰ろうと引く手、感じるは彼の体温。
「ね、冬真。やっぱり、ゆっくり帰ろっか?」
「雨に濡れると大変だからくっついて帰ろうか」
もう少しこうやって。
相合い傘、ぎゅうっとくっつけば雨だって冷たくない。
ヴィクトルの前には90年代に流行ったラジカセ。家電修理屋『Mauseloch』に持ち込まれた本日最後の修理品。
「対応した部品が手元にあって幸いだったな。さて」
動作確認。窓外を見ればレプリカントの男が傘を差す所。
「一雨来そうだな」
ノイズがかったラジオが明日の天気を告げる。
教室から覗く空は突然の雨。大好きな星を隠す雨は憂鬱だ。
とぼとぼ友達と歩く春乃が、玄関口で折りたたみ傘を出そうとした瞬間。
「またねっ」
友達と別れを告げて、大急ぎで校門前へと駆け寄る。
「アルさん!」
「お疲れ様、春乃。今日はどうだった?」
アラドファルの差し出す傘に、春乃は飛び込む。
「迎えに来てくれてありがとうっ」
「受験生が風邪を引いたら大変だから。帰りは、おやつでも買おうか」
君の好きそうなドーナツ屋を見付けたと言う彼。
抱きつきたい気持ちを抑えて、彼の手をぎゅっと握りしめる春乃。
「ドーナツはもちろん、わけあいっこね」
二人で食べると、もっと美味しい。
強くなる雨足。コンビニに逃げ込むレイラ。
「もーサイアク。髪濡れちゃったじゃん」
「……レイラ、さん?」
店内の先客。
「あなたも雨宿りですか?」
「あれ。セッカクだしいっしょさせてもらおかな」
笑うレイラの濡れた黒髪。いつかの夜を思い出して心臓が高なり、慌てて目をそらすオルン。
「何も買わず雨宿りだけなのも何ですね」
「お腹すいちゃったしなんか食べよかなー」
「それでは、肉まん一つ」
悩むレイラ。肉まんを眺めるオルン。
「食べないん?」
「ああいや、僕は熱いものが苦手で」
悪戯っぽく笑ったレイラは、肉まんを一口。
「へぇ、猫舌?」
オルンは顔を朱に染め、眸を見開く。
傘を忘れてしまった。鈴珠は喫茶店に腰を落ち着ける。
ざあざあ激しすぎて逆に静かな位、強い雨音。
窓外には走る子供の背。
「ケルベロスにならなかったら、私もあちら側にいたんでしょうか」
選んだ事、選べなかった事、他にも沢山。
「……冷める前にお茶を飲みましょうか」
雨はまだ止まない。
「いやその、な? 悪かったって」
ポスターでも予告でも、恋愛映画の雰囲気だったと言うのに。
開始20分からホラー映画になるなんて、誰が想像できただろうか。
「まぁ、うむ。知らなかったと言うのならルルドは悪くないのじゃが」
早苗は唇を尖らせ。
「じゃがー、このなんとも言えない悶々とした気持ちはどこに向ければよいのか! ほんとに怖かったんじゃからな!」
ルルドはその場から動こうとしない早苗に手を伸ばし。
「なぁ、頼むから機嫌なおしてくれよ。欲しがってたいなり寿司抱き枕買うからよぉ……」
お願い。
「物で釣ろうとしたってそうはゆかぬのじゃ!」
「あ、やっぱりだめ?」
お菓子やゲーム、新しいパジャマ。
お泊りの準備バッチリな志苑のお土産は、実家支店茶房のお茶菓子だ。
「今日くらいは、夕食前にお菓子を頂いたっていいわよね!」
「今日くらいはですね」
宿利と志苑は顔を見合わせ笑い、少し早い女子会の始まりだ。
どんな話をしよう。夕飯の準備までお茶と菓子を頂きながら、語らう言葉は宝石のよう。
「話題が沢山あって決まらない時には、ゲームをして勝った方が気になる事を質問するのはどう?」
「ふふ、ゲームの勝敗で質問も楽しそうですね」
女子会だけど、成親は特別。
夜が更ける前からお喋りは尽きず。
他愛のない会話と何気ない日々の特別な一夜。
助けたばかりの市民の願い。
「えっ、カレー屋さん? はいっ、手伝います」
ココナツミルク風味を愛する女アイヴォリーは即答。サイガはまたボランティアかよと眉を潜める。
女子大生と談笑する夜とダイナ。
「良ければどうぞ」
夜がショップカードを差し出せば。
「ココナツミルクのまろやかさが癖になる、ごろごろチキンの濃厚ウマ辛グリーンカレーが待ってるぜ」
キャッチコピーも忘れず伝えるダイナ。
店先呼び込……ナンパをする二人の言い分は、女子客の方が口コミ力が有りそう、だ。
「ご注文はいかがいたしましょう!」
店内に響くハガルの元気な声。
「本日のおすすめはですね……。なんでしたっけアイヴォリーどの!」
「はーい」
そっとアイヴォリーにカンペを渡されると、復唱するハガル。
ぐつぐつ煮える鍋の前。ティアンは鍋の番だ。
注文にカレーをよそう。
「サイガ、頼む」
「へぇへぇ、了解っと」
夜達の姿には転職したら? と、肩を竦め。サイガは料理を提供中。
強まる雨脚、減る客足。
「夜もダイナも雨に濡れる前に入っておいで」
手が空けばわくわく賄いタイム。
「わたくしはグリーンカレー中辛一択で!」
「ティアンも食べてみたいからそれにしよう」
「拙者ラムチョップカレーがよいです!」
「激辛チキンカレー」
「俺は中辛のゴロゴロ夏野菜だな」
「お? じゃあティアンが煮込んでたヤツがいいな」
皆はメニューを口々に。
「夜、一口交換しません?」
「美味いよ」
アイヴォリーの問いに、夜の柔らかい笑みは罠の笑み。
「!?」
激辛も激辛。アイヴォリーはあまりの辛さに崩れ落ちる。
ニヤニヤ笑うダイナは自らのカレーをよそい始め。そこに来客一人。
「ってレプスかよ。晩メシ? おススメはこちら」
激辛の文字を指で隠し、サイガは人懐こく笑う。
「んじゃ、ソレにすっかなぁ」
サービスプリンも虚しく、激辛カレーにレプスは無事撃沈。
「ああ、ティアンが煮込んでたの、それだ」
悪い笑顔を浮かべていたダイナの表情も一転。
「え、俺が食うやつもそれ?」
それ。
「エルムー、火付けてくださーい」
「大丈夫か? もし火が点けられないなら僕がやるが」
「初めてですし、頑張ってみます!」
かりんのお願い、頑張るエルム。風よけ代わりに立つムフタール。
今日の番犬部は花火の日。
「夏も終わるねぇ……」
保護者は必要だろうと、缶ビール片手に皆を見守る辛夷。
「何をやろうかなー」
悩むエルム、白が手を上げ。
「おやレプス殿。良かったら御一緒に如何じゃ?」
「辛夷、レプス、見て見て。これすっごく綺麗、色が変わって魔法みたいです!」
エルムと並んですすき花火を持つかりんが駆けてくる。
「危ない危ない」「お、まーぜて」
火花に辛夷が肩を竦め、レプスも喜々と花火を選ぶ。
「こういう手持ち花火も楽しいものだな」
瞳を柔らかく細めるムフタール。は、と白は思い出す。
「そうじゃ、借りてきておったのをすっかり忘れとった。どでかいのを上げておくとするか!」
「打ち上げ花火ですか?」
期待に満ち溢れた瞳のエルムの前に現れたのはケルベロス大砲だ。
「良かったら皆もやってみぬか?」
飛ぶ気の白に、かりんがおずと声を。
「白、ぼくの夏休みの宿題も一緒に持っていってほしいです。無くなったらやらなくてすみますし……」
「消してもいいけど2倍になって返ってくるからおすすめしないぞ」
辛夷の言葉。ぴゃっと耳を跳ねるかりん。
「あ、線香花火したいです」
最初に消えた人が皆にアイスを奢るのはどうかとかりんの提案。
「乗らぬ訳にはいかぬな!」
「僕が勝ってもアイスはいらないからな?」
線香花火は綺麗だけど、少し寂しい。
「またこんな風に皆と遊びにいけたらいいですね」
帰り道。エルムは白の奢りアイスを手に笑う。
缶ジュースを片手にレプスは店の扉を開く。
「お、レプス、来たか」
「よーう、邪魔するぜ」
常連の座るテーブルの間をトレー片手にすいすいと歩く社は、手頃な空き席――レティと談笑する戒李の席を示し。
「雨が止んで良かったよ。こんばんはレプス」
「ええ、雨も上がってすっかり涼しくなりましたね」
誕生日おめでとう、と声を合わせる彼女達の円卓へ。腰掛けた瞬間、巨大なジョッキが現れる。
「約束通りのオゴりだぜ」
「ひゅーマスター愛してるぜ」
マスクを外して乾杯とグラスを上げた彼に、嬉しかねえよと肩を竦める社。
「さあ三人とも、何を食う? 肉でも魚でもパスタでも米でも、メニューにあるものならなんだって持ってくるぜ」
「それじゃ、いつものチキンソテーをまずは頂くよ」
「ふふ、私いつも迷ってしまって」
「そうですね、折角ですから大皿をシェアしましょうか」
「じゃあ、このグリルミート盛り合わせと何かパスタが食いたいな」
ぐい、とビールを飲み干し指差すメニュー。
終わりゆく夏のビアガーデンで一杯。
そんな、何でもない特別な日。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月28日
難度:易しい
参加:50人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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