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「おはようございます」
「おはようございますー」
早朝の植物園にて、清々しい挨拶が行き交っている。
職員が植物園の奥から運んでくる鉢には大輪朝顔。
一般の人達が搬入する変化朝顔。
「やあ、沢渡さんのところは凄い朝顔が咲きましたな」
「ふふ、頑張りました」
「今年も日記は展示されますか?」
「ええ、お願いしたいです。
娘と一緒に観察日記をつけるのも、もう三年目です。そちらも頑張りました」
「それはそれは、今年も和やかな展示となりそうですね」
職員に話しかけられた三十代半ばらしき女性――沢渡・由美(さわたり・ゆみ)はにこやかに応じて、自身の朝顔を見た。
花の形は獅子咲。多数の花弁はまるで流星のような、変化朝顔。
それを展示場に設置し、由美は他の朝顔を運び入れる前にお手洗いにいくことにした。
朝顔の展示というだけあって、多種多様な朝顔があり、それを見ながら歩くだけでも癒される。
変異したものもいいが、おなじみの朝顔も見ているだけで和む。
展示場には鉢植え、植物園を歩けば地面に植えられて緑のカーテンを作る朝顔もあった。
「……あら? この花……」
ひと気がなくなった場所に差し掛かった時、鮮やかな青の朝顔が揺れた――ように、由美は感じた。
気のせいかしら、と首を傾げ立ち止まった瞬間、朝顔の蔓が由美の足に絡みつく。
「――ひっ」
ざあっと蠢く蔓の動きは速かった。彼女を覆い、葉が増えていく。
そうやって由美を飲みこんだあと、巨大化しながら円錐形の花を開いた朝顔は、満足そうにその花弁を振るうのだった。
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「この時期は、各地で朝顔の展示会がありますが、どうやら懸念が当たってしまったようです」
そう言ったのは藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)だ。
展示案内の広告をいくつか手に持っていて、そのうちの一枚を集まったケルベロス達の前に置いた。
広告には開催地などの情報と写真が載っている。
鮮やかな大輪の朝顔、そして、
「変化朝顔ですか。見ているだけで楽しくなるような、そんな花の形をしていますね」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が微笑みながら言った。だが、すぐに顔を引き締める。
「改めて、お集まりいただきありがとうございました。
今回、藤守さんが注意していた各展示会の内一つにて、攻性植物の発生が確認されました。
なんらかの胞子を受け入れた朝顔が、攻性植物へと変化してしまったのです。
そしてこの攻性植物は、主催側一般参加の一人の女性を襲って、宿主にしました。
皆さんには、急ぎ現場に向かって、攻性植物を倒してほしいのです」
そう言ったのち、セリカは現場の情報について説明をはじめた。
攻性植物は一体のみ。配下はいないようだ。
発生した直近の民間人は被害を受ける一人のみで、急ぎの避難などは必要なさそうだ。だが植物園の一角ではあるので、キープアウトテープなどの簡単な人払いは要るだろう。
「取り込まれた女性――沢渡・由美さんは攻性植物と一体化していて、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます。
ですが、適宜ヒールをかけながら戦えば、戦闘終了後に取り込まれていた彼女を救出できる可能性があります」
ヒール不能なダメージがあるので、回復行動をしつつ、粘り強く攻撃を続ければ攻性植物もいずれ倒れる。
「確実に、救出してあげたいですね」
景臣の言葉に、セリカは頷いた。
「はい、是非、お願いします。
敵を倒し、沢渡さんを無事に救出できたら、皆さん、どうぞ朝顔展示を堪能していってください」
一般参加の変化朝顔展示。そしてこの植物園は、期間限定の散歩コースを設置し、様々な朝顔の展示を行っている。
開催時間帯は午前のみなので、無事に解決できたなら、楽しんできてほしい、とセリカは言うのだった。
参加者 | |
---|---|
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) |
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339) |
月霜・いづな(まっしぐら・e10015) |
花守・蒼志(月籠・e14916) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015) |
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154) |
深幸・迅(罪咎遊戯・e39251) |
●
ヘリオンから植物園へと降り立った時、ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は瞬時に違和感を覚えた。
だが、と、ボクスドラゴンのボクスを仲間と同道させビーツーは駆ける。
遠くの人の気配、蠢動の気配。その中間にキープアウトテープを巡らせた時、違和感の正体に気付く。
「――蝉の声がしないのだな」
常ならば蝉の合唱で賑わう植物園。ある種、静か過ぎる園内で踵を返したビーツーは、戦場を目指す。
「これで、付近の方の安全は確保できましたわ」
到着すると同時に、殺界形成を施し告げた薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)は、うぞりと蔓を地面に這わせる攻性植物へ翠の瞳を向けた。
辿れば蔓が――太い幹ともいえる状態で何かを覆うようにして自立している。
鮮やかに咲く花は、いっそ誇らしげでもあった。
あの中に沢渡・由美が取り込まれているのだ。
「それでは、長期戦に備えるとしよう」
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)が告げ、彼を起点に黒き鎖が地に陣を描く。
(「決して命が毀れ落ちぬよう――出来得る最善を」)
そう願う藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が精神を集中させ気を紡げば、攻性植物の特性にも自然と気付いた。
「朝顔らしいと言いますか……生命力は強そうですね」
加えて、地植えの朝顔は蔓が太くなり他の植物に巻き付いて相手を弱らせる――ケルベロス達は恰好の餌食ともいえた。
その予想を仲間に共有したのち、彼は対象を爆破する。
「つづら、おしごとですよ!」
月霜・いづな(まっしぐら・e10015)が背負っていた和箪笥を降ろせば、和箪笥が突如として攻性植物へと向かっていった。ミミックのつづらである。
「あさがおは、ひかりの中にさく花。
見る方を、えがおにするお花だと」
(「こんなことは、みすごせませぬ)
確りと気持ちを整え、いづなは神事に挑む。
「天つ風、清ら風、吹き祓え、言祝げ、花を結べ――!」
切幣が凉し清風に乗り、攻性植物へと舞い吹雪く花渡風のなか、太蔓に喰らいつくつづらとタックルするボクス。
「きゅー」
同じボクスドラゴンの鈴蘭が翼をはためかせ、仰け反る動きを見せながらブレスを吐く。
次いでウイングキャットのヴィー・エフトがその黒い尻尾を回し、赤のリングを飛ばした。
「おらよ、行ってこい」
深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)が言い、縛霊手の祭壇から中衛に紙兵が撒かれる。
迅の霊力を帯び大量に散布されゆくそれは、彼の気質に染められているのだろう。果敢ともいえる勢いで放たれた幾つかが加速する――戦場内へと入ったビーツーを守護するもののようだ。
地を這う蔓が加速し、いづなに向かい伸びる。
花守・蒼志(月籠・e14916)が庇い入れば、蔓は彼の胴に絡みつくと同時に締め上げた。
例えればきつく巻いたレールだ。更に込められる圧迫力が蒼志の血流を妨げた。
蔓よりも、蛇に近いその性質に、蒼志は腕に力を込め対抗する。
「――っ、娘さんと仲がいいのだろうね。
それなら尚更、朝顔を悲しい想い出にしないように頑張らないと」
蒼志が手中の避雷針を蔓へと突き刺せば、迸る雷が付近の蔓内部を砕き、捕縛を解いた。
「蒼志ちゃん、いま回復するのですよ」
自身に獣理扇を振るい、幻夢を顕現させていたヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)が、そのままモフモフした扇を彼に向かって煽ぐ。
厚みを増した幻夢は妖しく蠢き、蒼志を朧へと向かわせる。
その時、肌に触れる空気が弾け、雷気が場を覆った。雷鳴が轟き、鋭い光が走る、雷電。
怜奈がライトニングロッドで雷壁を構築するなか、蒼雷が如く駆けるは信倖だ。
牽制に片鎌槍で蔓を払い、即座に逆手に変えた長柄で真逆の蔓を抑える。
造り上げた攻性植物の隙――刹那的な間合いに、地獄化した龍の腕を繰り出した。
猛る蒼炎纏う拳に零の境地を載せ、攻性植物へと叩きつける。
●
目と目を合わせたビーツーとボクスは、同じタイミングで攻性植物へと肉迫した。
「命が奪われるのを見過ごすわけにはいかない、全力で救助させていただこうか……!」
白橙色の炎を追うようにして、テルミットアクスを振るえば、彼の魔術によりブレス痕の残る蔓が切り開かれた。
繊維が修復されゆく緊急手術で攻性植物を回復させるビーツー。
中衛で役目を終えた紙兵が視界の端で二つ消滅するのを確認したのは彼と、怜奈だ。
「まだまだですわね。
ここは、攻撃を……」
活発に動く攻性植物を見、判断する怜奈の避雷針から放電が起こった。激しさを伴う光の色は赤と菫。
二色が混ざり合うまばゆい紫が集束し轟雷となり放たれる。
瞬間的な雷電流に、大きく震えた地面の蔓をぐっと踏む迅。
「跳ねすぎだぜ」
腰を落とした体勢から払うように斬り上げた長柄を逆手に持ち替えた迅は、投擲の要領で攻性植物を貫いた。
稲妻を帯びたそれに加電された蔓が再び大きくうねる。跳ねた蔓を蹴り上げた迅は、攻撃を重ねるための間合いを作った。
そこへ上から横からと飛びこんでくるのはサーヴァント。
封印箱に入った鈴蘭が降下の勢いで激しくタックルし、前手で庇いに専念し攻撃の手を休めたつづらは武器を作り上げ精度の戻った攻撃を放つ。
「ヴィーくん、頑張るのです」
ヒマラヤンの声に、ヴィー・エフトは黒翼を羽ばたかせ、ケルベロス達の邪気を祓っていった。
ケルベロスに向け、的確な攻撃を仕掛けてくる攻性植物ではあるが、その狙いはいつも単身に向けてだ。
仲間へ気を配っていれば体力の維持は手堅く、加え、清浄の翼に専念するヴィー・エフトの存在が悉くにして攻性植物の有害な部分を潰す付与。
害する攻性植物と中に囚われた一般人を相手にする戦いは、盤上にて精緻な一手を積み重ね続けるようなものなのだろう。
眼前に迫りくる花を視野に、その単純な動線を読んだ景臣は駆け様に身を屈めた。
いとしがさんざめき、景臣を捕食する花弁を押しやると同時に攻性植物を絡めとっていく。
その隙を捉え、跳躍した信倖が花弁を狙って天銘を振るった。
「――舞え、我が炎よ!」
左腕から地獄の炎が噴き上がる。穂先の刃を立て薙ぐ一刀から、弧を描く天銘で続き旋風を巻き起こす信倖。
旋風に乗った蒼炎が鮮やかに刻みの道を作り上げた刹那、花が萎んでいくのに蒼志が気付く。
その情報を仲間へと告げた彼は、続けて言った。
「ちゃんと、弱ってきているみたいだね」
複数ある花のうち、二つがしぼみ蕾となる――その様は何とも朝顔であった。
「そのようですわね。疲れが見えていますわ」
と、怜奈。敵の動きは鈍くなっている。
「がんばって――かなしい日になんて、させませんから」
息吹を纏い、命寿ぐ調べを風に乗せ、いづなが言う。
「娘さんと旦那さんの為にも負けないでください。俺達も手伝いますから」
魔術切開ののち打撃を行った蒼志が攻性植物の中に向け、声を掛けた。
「あ、またひとつ、萎んだのです」
回復、攻撃と重ね続けるケルベロスの行動に、またひとつ、花閉じたのを見つけたヒマラヤンが言った。
ヒールリングから、ほのかに暖かな光を蛍のように顕現させるヒマラヤン。
光を集め具現化した盾が景臣を防護する。
●
「お?」
あれだけビチビチと跳ねていた蔓がぐったりしているのを、迅が気付く。端々まで行き届いていた生命力が尽き始めたのだろう。
ぐ、と踏みこんでも反応のないそこを手にする武器で完全に断つ迅。
容易く切り離せた蔓は徐々に萎れていく。
「相当、弱ってきたみてぇだな」
言いながら、赤茶の瞳は由美に寄生する部分へと鋭く向けられた。
その時別方向からヒールを受けた攻性植物はしなやかな動きを取り戻し、蒼志へと襲いかかる。
迅の影が意思あるように動いた。
「要らねぇモン、喰らってきな」
彼から派生した猛禽の影が、蒼志を覆い尽くすように翼で包みこむ。
還元されゆく生命力に呼応し、取り戻した素早い動き。
蒼志は指輪から小さな針を出し、光を集める葉の根元を傷つけた。
「小さな傷でも、侮るなかれ……ってね」
花という大きなかんばせがみるみると萎み閉じていくなか、りぃんと響く鈴の音。
「御出でなさい」
景臣の鳴らす風鈴――妻より譲受けた誘聲が触媒となり、喚ばれた風精達が朝顔に向けて花の香纏う風の祝福を送り出す。
自身の腕程もある蔓をいなしたビーツーが臙脂の炎をテルミットアクスに纏わせた。
その動作に合わせ、彩りを変化させる白橙の炎。
上方から一気に振り下ろし裂傷を残す斬撃、鋭双熱波。振り抜いた一撃により、放たれた熱波が攻性植物を覆う。
攻撃を受けた部分を補おうと蔓が迫ってくるが、勢いは弱い。ビーツーは薙ぎ払った。
しなる蔓を視界に捉えた信倖が、胴と二腕を駆使した長柄で蔓を叩き落とす。
遠心を尾に流し、翼で若干自身の向きを補正した信倖は、稲妻を帯びた雷速の突きで攻性植物を貫いた。
貫く片鎌槍をそのまま一薙ぎした時、すべての花が萎んだのが確認できる。
「多分もうちょっとなのです、あと少しだけ頑張るのですよ」
自陣を強化するヒマラヤンの声。
ケルベロス達の攻撃に蔓が力を失くし、地面へと落ちるなか、自立する蔓はゆっくりと剥がれ落ちるように。
次の瞬間、いづなの花渡風に生命を吹き込まれたかのように、ぐぐっと震えながら蔓が力を取り戻す。
最後の回復、そして最後の――。
「もう、ここまでですわ」
Die Black Lane。
黒瑪瑙を手に邪なる者を一時的に開放した怜奈が攻性植物の動きを拘束した時、ずるりと蔓がたわむのに彼女は気付いた。
完全に力尽き、ばらけていく蔓の中に由美の姿。
手を伸ばした怜奈が、倒れ込んでくる彼女を支えた。
乱れた髪、夏らしいTシャツは蔓に囚われた時に少々破けてしまったようだ。
「男性陣は見ない! 相手は妙齢の女性ですわ」
怜奈の声に、サッと後ろを向く男性陣と、三拍程考えた末にゆるゆると後ろを向く迅。
蒼志の頭にのった鈴蘭は、由美の様子を眺めている。
「ごぶじですか」
声をかけたいづなに、疲労の色濃い瞳が向けられ、微かに頷く。強張っていた顔は、彼女達の姿を見て安堵したのかやや緩んだ。
「まずは回復するのですよ」
屈んだヒマラヤンが由美を癒していく。
「あなたたちが、助けてくれたのね……ありがとう……」
猫の耳を動かしながら癒していたヒマラヤンは、こくこくと頷いた。
「由美ちゃんが襲われたのは、あくまでデウスエクスのせいなので、植物を嫌いにならないでほしいのですよ」
その間、キープアウトテープの除去がてら、植物園の関係者に事情を説明して、その後は付近の補修、酷い場所にはヒールを、と予定している男性陣も忙しく動いている。
「わたくし、ごかぞくの方のおむかえに行ってまいります! つづら、行きますよ」
つづらを背負ったいづなが立ち上がると、レトリバーの耳がぴこりと跳ねた。
駆けて行くと、信倖と景臣とすれ違う。
「無事、救助出来て良かったな」
そう言った信倖に、「はい!」と笑顔のいづな。
入れ違う形でやってくるのは迅だ。
怜奈の用意した衣服に身を包む、由美は瞬きをして一見女性にも見えそうな彼を見る。
「ほら、スポーツドリンクよ。この季節、水分補給も大事だものね」
「家族の方が来たら、付き添ってもらって念のために病院に行った方がいいのです」
迅とヒマラヤンの言葉を聞き、由美は頷いた。
「本当に、色々とありがとうございます。他の皆さんにも、よろしくお伝えください」
強張った体は解れ、青褪めた顔色は元に戻りつつある由美はそう言うのだった。
●
「由美ちゃん、ちゃんと診てもらうのですよ」
しばらくして、迎えに来た家族に由美の身を預け、出入口まで一緒にやって来たヒマラヤン。
手を振って、彼らの姿が見えなくなってから、ヴィー・エフトとともに踵を返せば、後ろで見送っていたのだろうビーツーと目が合った。
「賑わってきましたね。
はぐれぬよう手を繋いで下さいます?」
「ええ、かげさま、お手をどうぞ。わたくしがエスコートいたしましょう!」
展示場は魔法にかけられたような朝顔だらけ――目を輝かせたいづなは、一つ一つ、指さして景臣に名前を問う。
由美の獅子咲の朝顔の前で日記のページを繰れば、花への愛が伝わり、景臣は頬を緩めた。
「いづなさん、観察日記をつけられたことは?」
「一年生の、なつやすみに!
とてもうれしかったのですよ」
すくすくと育つ朝顔。毎朝愛らしい花があると思えばつい早起きしてしまう。
「僕もつけていた時は枯らせぬよう、朝顔に毎日水を遣っては眺めてましたっけ。
良ければ、僕達も観察日記をつけてみません? ただ今年は難しいでしょうか……」
その言葉に、まあ、といづな。
「かげさま。――秋に咲くあさがおは、ご存知かしら?」
「秋に咲く――あ、」
ふと脳裏を過る空の色に目を細め、景臣は言う。
「なるほど、それは妙案です」
開花時期の遅い朝顔。それは、
朝顔の種類は全くと言って良いほど詳しくない迅だが、見目麗しい変わった朝顔を眺め歩く。
歩いていくと、彼が好きな「蒼いの」を見つけた。
抜けるような夏空の色。
これからが旬となる西洋朝顔――ヘブンリーブルー。
「これくらいのサイズだと安心するね」
「きゅー」
蒼志の言葉に応じる鈴蘭。
大輪の朝顔、キレイな変化朝顔に、頭の上で鈴蘭は感動しているようだ。ふわんと尻尾を揺らしている。
「……?」
ふわんふわんと後頭部をくすぐってくる鈴蘭に、蒼志が目を向ける――と同時に降りた鈴蘭は、朝顔の前にお座りした。
自分も負けてないという謎の自己主張である。
まぁるく朝顔に鼻先を近付けるのはボクス。興味津々の様子だ。
近付く近付く、どんどん近付く。
「ボクス」
宥めてくるビーツーに、ぴたりとボクスが止まった。ゆっくりと仰け反るように後ずさりしてから、再びまじまじと朝顔を眺めている。
「朝顔……綺麗ですわね……」
ほうっと感嘆の息とともに紡がれるは怜奈の声。
「普段見るものと違いますわね」
怜奈は花火のような朝顔、艶やかな模様、薔薇のように花弁がいくつもあるもの――様々な朝顔を堪能していく。
一つ一つが宝石のように輝いている。
なじみのある朝顔も、勿論ある。
存在感のあるそれらは等間隔に置かれていて、生育の神秘を鑑賞者に感じさせてくれる。
「見慣れた朝顔であっても、気持ちを込めて育てられたものは、それ以上に美しいものだ」
信倖が言った。子供が描いたと思われる絵ののった観察日記を前に、ふ、と笑む。
「まるで花が、わらっているようですね」
いづなの言葉に、顔を上げる信倖。
ふと周囲を見れば、ともに皆笑顔だ。
いとしたのしと綻ぶ花であった。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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