電子時計なオクロック

作者:baron

『デ・じ・タ・る、置く、クローック!』
 と叫びながらシャッター商店街からナニカが飛び出した。
 潰れて何年にもなる時計屋だった筈だが……。
 出て来たのヒビ割れたり一部がへこんでいる、壊れた電子置き時計だった。
『午後、二時をお知らせします!』
 ボウっ!
 灼熱の炎が近くの店を焼く。
 だが時計屋と同じ様に潰れた店ばかりだったようで、慌てて出て来る人は居ない。
 そいつは暫くしてそのことに気が付くと、大通りを目指して移動して行った。
 文字の形状をした弾丸をばらまきながら……。


「とある寂れた商店街に放置されていた家電製品の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生するようです」
 どうやら修理中か何かで放置されていたのだろうと、セリカ・リュミエールが説明した。 あるいは店主の個人所有だったのかもしれない。
「幸いにも閉店した店が並ぶ区画だったようで、発生した直後には被害は出ません。ですがダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう」
 その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいとセリカは頭を下げる。
「敵は電子置時計が変形したロボットのような姿をして居ます。と言っても判り難いでしょうから、四角い画面の大部分に時間を表示し、余った部分にサブの情報を映すモノだと思ってください」
 四角い紙の上部分が時間、下半分に温度だったり湿度が表示されるらしい。
 高価な物だと他の国の時差も表示されることもあるらしいが、コレはそこまでの物ではない。というよりも初期型なのでサブ情報があっても温度くらいだろう。
「攻撃手段は文字の様な弾丸を飛ばしたり、爆発せたり。炎を吐いたりします。どうやらレプリカントの方とガトリング砲のグラビティが近い様ですね」
 セリカはそう説明し、メモ紙に現在時刻を書くと三角柱を造り横倒しにする。
 それがダモクレスのイメージなのだろうが、手足の代わりにおいた複数のペンがシュールである。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。よろしくお願いしますね」
 セリカはそう言って資料を置くと、急ぎ出発の準備を整えるのであった。


参加者
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
ノイア・ストアード(記憶の残滓・e04933)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
晦冥・弌(草枕・e45400)
カミュ・アルマデル(だったモノ・e61762)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)

■リプレイ


「置くクロックってO'clockとかけてるのかな?」
「ちょうどその時、だったか。まるでその当時から動か無い、この街のようだな」
 楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)が首を傾げると、難しい顔をしてカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)は唸った。
「シャッター街だったのが幸いと言うべきか、それとも廃業してなければこんなダモクレスは生まれなかったと言うべきか」
 先ほどから歩いている駅前商店街は、殆どが閉店しシャッターを降ろしているので往来そのものがない。
 僅かにコンビニや食事処と言った店が開いており、そこにも疎らであるのみだ。
「まぁ旧式らしいし直すのもなーってのはわかるけど…………直さないし稀少でもないなら処分すればいいのにね」
「初期のデジタル時計って、アナログな時計よりもぞんざいに扱われ易いわよねー」
 牡丹の言葉に心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)は頷きながら、ちょっとだけ説明を始めた。
 今では電光掲示板についでのように使われる技術が、出た当時の事だ。
「出た当初は大活躍だったのだけど、電子機器の発達が凄いものねー。あっという間に必要サイズが半分以下に成ったわ」
 括は子供達が好きなヒーロー型の時計を例に出し、手の平を広げて説明を開始し、終わるころには指先だけで四角系を造った。
 最初のころは卓上に置く像の半身を埋めた物だが、今ではベルトやアクサリー部分だけで済むレベルだ。
 当然ながら時計としての機能のみならず、人形としての造形に大きな変化をもたらした。最初の頃に造られたものなどコレクター以外には殆ど見向きもしない。
「こういうのを諸行無常と言うのかも、なんてね」
「もう少し見回って来るか。結界を張る前には戻る」
 蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)の言葉は淡々として、感想を告げているのか事実を告げて居るのか判らない。
 おそらくはどちらでも良いのだろうと思いつつ、カジミェシュは念の為に足を使うことにした。
 もしかしたら寂れ行く街並みに、過去の栄光を失った故郷を思い出したのかもしれない。
「そろそろ……だと思う」
「では始めますか。気配を感じればその内に戻ってくるでしょう」
 ヒアリが不意に顔を上げて説明された場所だと告げると、カミュ・アルマデル(だったモノ・e61762)は殺意の結界を広げて人々の接近を禁じた。
 周囲に殺意が満ち渡るころには、ダモクレスの姿を見付けだす。
「居たわねー。時代の先駆けとして頑張ってくれた子に悪い事をさせないよう止めてあげて、しっかりと休ませてあげないとね!」
「同情は無いでも無い。でもそれは時計にであってダモクレスにじゃない。さあ、解体だ」
 括は重力で制御した鎖を拡げ、星々を散りばめるが如く幾つもの輪を戦場に放った。
 合わせてヒアリは鉄甲から光の球を膨らませ、シャボン玉の様に飛ばして行く。
 それは仲間達の姿を映し出して、一時的に戦力を増強していく。
「ここは通さん。故に塵も残さん」
 カミュは無造作に抜刀をして斬撃を浴びせた。
 それは摩擦で静電気を引き起こしグラビティで拡張して、『ここで痺れる、1回休み』と静かに呟きながら雷電へと強化する。
 パリパリと光が待って、ダモクレスの中に流れ込んで行った。


『午後、二時をお知らせします!』
「置き時計ってあんまりイメージわかないけど、あぁ……こんな感じだったっけか。なかなかシュールだよね」
 ダモクレスは周辺に炎を呼び出した。
 最も暑い時間帯の気温を越えて、火炎放射と化す。
 むしろ筆箱とか体重計見たい。とか言いながら牡丹は炎を体で遮りながら剣を抜いた。
「爆発したり火吹いたり、最近の時計って芸達者なんだなぁ。でも残念。今は大道芸は期待してないんだよね」
 剣を掲げ星の輝きで照らし出し、障壁を築くと同時に治療を開始。
 輝きは炎の勢いを殺し、傷付いた体を癒して行く。
「誰も居ないとはいえ、商店街を壊すのはいただけないなぁ」
「まぁ、破棄されて可哀想ではありますけど、人に危害が加わる前に倒しましょう」
 晦冥・弌(草枕・e45400)とミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は左右から迫った。
 挟み討ちを掛けてダモクレスの侵攻を防ごうと言うのだろう。
「このまま放置して被害が増えるのも目覚めが悪いし、きちんと綺麗に始末しておきましょうか。ていうか時計が爆発したり、炎を吐くのってどうなんです?」
 弌は回転を利用して強烈なカカト落としを掛けた。
 華奢なのに生命力にあふれたドワーフ特有の体が唸りを上げる。
「この蹴りを受けて、痺れてしまいなさい」
 そこへミントの回し蹴りが決まり、二人はバックステップを掛けずその場所に留まる。
 あえて言うならばミントがやや前方で仲間達を守る構えだ。
「人から顧みられる事もなくなり、果ては侵略の尖兵に利用される。何とも哀れな……。だが、平穏を乱すのならば破壊するしかあるまいな」
「忘れ去られてしまうことは悲しいことですが、ダモクレスになってしまってはしかたがありませんね……破壊します」
 見回りから戻ってきたカジミェシュと、USBよりデータをダウンロードしたノイア・ストアード(記憶の残滓・e04933)が上下より迫る。
 カジミェシュは低くタックルを決めるような体勢でシールドバッシュを掛け、ノイアは高い打点の蹴りでダモクレスを抑えつけた。
 そして彼女だけがバックステップを掛けるところが先ほどの二人と違う所だ。
 間合いを開けた距離を活かして助走を行うと、ミントが先に蹴りを放って居た。
「私が先に仕掛けます」
「了解です。少しずつ削って行きましょう」
 ミントの蹴りは炎を宿してダモクレスを燃えあがらせる。
 そこへノイアが再度やって来て、拳の周囲でグラビティを回転させながら鉄拳を浴びせた。
「あれでも破壊できないのか。元のサイズより随分大きくなったみたいですね。それじゃあ使ってもらえないと思うけど」
 わぁと弌は小さな歓声を上げた。
 相手の能力を図るようでいて、僅かに楽しげな期待が見えた。
「まぁ、壊れちゃったんだから今更もう関係ないか」
 手刀を浴びせて装甲を引き割きながら、弌の口元はホンの少しだけ歪んだ。
 こんなので壊れないでねと、歪な期待を込めて。


「くそっ。どこが文字盤か判らねえじゃねえか」
「たぶん、見えてるところ全部。想像して居るよりも文字は大きいし、枠の方が少ない」
 カミュが蹴りながら呟くと、ヒアリは仲間の傷を見ながら術を変えた。
 先ほど攻撃を喰らった牡丹は一部が燃えてこそ居るが言うほどの傷では無い。炎を消す為に光の球を調整する。
「冷めたっ……くはないか。それはそれとして、置き時計って使わなくなったなぁ。いけっブローラ! 電撃発射!」
 牡丹はテレビウムのブローラをひっつかむと、思いっきり投げた付けた。
 その様子を見て居た少女いわく。
「電撃、関係ないと思う。それは単に力技で、きっとその子も納得……」
「ふっふっふー、私とブローラの絆は絶対! そう、私の言うことは絶対! この友情の前に跪きなさい!」
 ヒアリが無表情で注釈すると、テレビウムが器用に頭を下げた。
 同意だと言おうとするブローラの様子を、牡丹は納得して頷いているのだと思っているようだ。
 パワー型の人間に何を言っても駄目だと言う瞬間である。
『ぴぴぴ、ピー!』
「むうん!」
 ダモクレスの一部が爆発し、文字の形状をした光を撒き散らす。
 カジミェシュはその内の一つを受け止めながら、ブリキの兵隊を描きこんだ紙片を並べて回復を図った。
「そっちが燃やすなら、凍らせてあげるよ……ほぅら、冷たい」
 弌は鬼ゴッゴを始めるような気さくさで、ダモクレスにそっと触れた。
 その場所からピキピキと凍り始め、雪の華を咲かせて行く。
「残りの傷は私が治しちゃうわねー」
「お願いします。……もるげんすてるん☆、私に力を!」
 括が攻撃の余波を受けたミントに気力を移したので、体の痺れが消えて行くのを感じる。
 ミントは零距離射撃を繰り出し、砲撃は轟音を奏でダモクレスの体を揺るがせたのであった。
「同じ様な事をされたら面倒だ。抑え込むぞ」
「されちゃう時はされちゃうと思うんだけどね。まあ判ったわ」
 カジミェシュは紙の兵士による戦列を広げて、万が一後方が狙われても問題無い様に防御幕を作りあげる。
 彼が防壁によって仲間を守るのであれば、牡丹は逆に敵の弱点を突いて倒す速度を早めることにした。
 計測した場所に特徴的な傷を残り、マーキングを施したのだ。

 だがそれだけでは終わらない。二人はミントと共にガッチリとダモクレスを囲んで、街へ行くどころか仲間に攻撃が行かない様に囲んだのである。
 こうして陣形は道を塞ぐような長方形から、敵を囲む為のV字型に移行する。
『デ・じ・タ・る、置く、クローック!』
 それに対抗したのかダモクレスは光の文字を弾丸のように飛ばし、マシンガンの様に乱射する。
「んじゃ俺も偶には援護くらいしますかね。攻撃の方は任せたぜ」
「了解です。流星群のmp4ファイルをダウンロード……完了。押し潰されなさい」
 カミュは剣圧を放って前衛の手前で炸裂、蒸気の防壁を作りあげる。
 ノイアはその壁を飛び越えながら、蹴りを放ってダモクレスの動きを束縛しておいた。
「一人に沢山って事はないけれど、今回は何人か居るわね。大変大変」
 括はグラビティを込める為に、何時も持ち歩いている包帯を取り出した。
 それを新体操の様に左右に振るうと、大きな胸も左右に揺れる。
 ちょっと年甲斐も無く頑張りすぎちゃったかしら? と首を傾げるが、それで良いのだと下町の英雄は語るだろう。


「まったく、ジャマー相手は面倒くさいな。傷はそれほどでもないのに。呪いとでも戦っている気分だ」
 ヒアリは無表情なままウンザリしたような声を漏らした。
 敵が範囲攻撃を繰り返したために、回復しても回復しても誰かに負荷が残っているのだ。
「あれの時間はもう止まっている。早いとこ眠らせてやろう。愉しんでないで速く終わらせろ」
「え? 楽しそうだなんて、やだなぁ! 皆さんの援護があるから思う存分戦えるなあと思っただけ」
 ヒアリが前衛の姿を光球に移しだすと、弌は確かに笑っていた。
 飛び蹴りを放つのだが、少しでも相手に近づく為に膝蹴りを浴びせている。
「追い込みます。アラン最新式のスペックを見せてあげてください」
「ブローラも攻撃ね。回復役は沢山いるみたいだから」
 ノイアはパソコン型のミイミックであるアランに指令を出し、距離を詰めながら突撃を掛ける。
 合わせて牡丹もブローラを連れて飛び込み、二人と二体で装甲を剥がしていった。
「あとちょいって感じだな。逃がさない様にいこうぜ」
「そうですね。ここまで来て逃がす手はありません」
 カミュがV字からU字に戦列を変更する様に、少しだけ後ろの方まで回り込んだ。
 彼に攻撃を当てさせない為にもミントも前列を伸ばしながら攻撃を行う。
 静電気を帯びた斬撃が通り抜けた後、回し蹴りで蓋をするように仲間達の方へ蹴り飛ばしたのだ。
「ここは攻撃を行うべきか」
「そうねえ。もし何かあったら、ソウちゃんお願いね」
 カジミェシュが再びシールドバッシュでダモクレスの動きを制限し、括は翼猫のソウにウインクしながら弓を引き絞った。
 矢を胸の上に載せて指を離せばプルンと揺れる。
 でも安心して欲しい、弓道ではずっと的を見続ける残心が重要だと言うけど、胸に注目している人は居ませんからね。
「はい、これでおしまい。めでたし・めでたしじゃないのが残念だけどね」
 最後に弌が丁寧にダモクレスを指で引き裂いて行く。
 千切る様に残りの部分を減らしながら、抵抗でき無くなるまで小さくしていったのだ。

「ふう、皆さんお疲れ様でした」
「人の営みが終わった場所は、さみしいなぁ」
 ミントが声を掛けると弌が名残惜しそうに、ダモクレス……そして街並みへと視線を向けた。
「こうしてこんなダモクレスと戦ってると、妖怪退治でもしてる気分になってくるな。ぬいぐるみだったらお寺とかで供養してくれるけど」
「包丁とかもね。……無理に頑張ろうと思わなくても良いのよー? 貴方の後身達が頑張ってくれるわ! だから貴方は安心してゆっくりしましょうねー」
 ヒアリが残骸をツンツンしてると、括がしゃがみながら手を合わせる。
 そもそも霊じゃなくてデウスエクスだから関係ないのだが、弔ってやりたいと言うのは見送るモノの心情だろう。
「では寂れた商店街であれ、いつ人が戻って来ても良い様に綺麗にしませんとね」
「そうですね。残骸整理とヒールで手分けして済ませてしまいましょう」
「暑いから長引くと面倒だものね」
 ミントがアロマオイルを取り出すと、良い香りがした後で修復されて行く。
 ノイアは巻きこまれて壊れた場所を持ち上げたり移動させたりしつつ、牡丹が修復するのを待った。
「ダモクレスの残骸はこの辺でいいのかな」
「そんなところだろう」
 カミュが思い出の品に(?)レアパーツを外した後で運び始めると、カジミェシュもブリキの兵隊に手伝わせたりしながらヒールを行って行った。
 こうしてケルベロス達も帰還すると、街に再び静けさが取り戻されたのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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