プールだオークだスライムだ!

作者:七尾マサムネ

 オーク達は、スライム忍者・雷霧からの訴えを受けていた。
「出撃するのなら、私のスライムも、また連れて行ってはくださいませんか!」
「いいブヒ」
 安請け合いするオーク。だが、別のオークが首を横に振った。
「待て、この忍者に恥ずかしい事言わせるとか交換条件出しとくブヒ」
「お主もワルよのう、ブヒ」
 雷霧が泣きそうになったり、オークが興奮したり、なんやかんやあって、オーク達は出撃した。
 今回の襲撃地点は、プールだ。流れたり、波が来たり、スライダーだったり。お客さんもいっぱいだ。
 そして、ぷかぷかと上流から流れて来たオーク達は、水着姿の女性達に次々と襲い掛かった。野郎はどうでもいい。
 どこぞにしまいこんでいたスライムを取り出すと、女性めがけ投げつける。
 するとなんということでしょう、みるみる水着だけが溶けてなくなってしまうでありませんか!
「キャー!」
 プールが悲鳴に包まれた。

 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)がケルベロスを招集したのは、オーク達による女性襲撃事件に備えてのものだった。
「槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)の予想に基づきこちらでも予知を行ったところ、とあるプールに、オーク達が出現する事が判明した」
 オーク達の目的は、女性達を略奪する事。それも、最近確認されている、妙なスライムを利用するタイプだ。
「このスライムには、衣服だけを溶かす、という不可思議な性質がある。このままでは、婦女子にとってよろしくない状況となるのは必至。したがって、ケルベロス達はオークの出現を待ち、女性の避難を敢行。その後、オークの駆逐にあたってほしい」
 襲撃現場は、複数のプールからなる施設だが、オークが出現するのは、その1つ。流れたりしない通常のプールだ。
 オークの標的となりそうな女性は、20名程度。オークは、15才以下の女性と、全ての男性はスルーするので、この女性達を守る事が肝心となる。
 オークの数は、全部で16体。そこに標的となる女性客が加わるため、避難誘導やオークの足止めをきっちり行わなければ、カオスな状況となる事は必至だ。具体的には、女性達の水着が溶かされる。
「オーク達は、秩序だった戦闘行動を取ることはない。全員がクラッシャーで、戦闘能力に個体差はない。1体あたりの戦闘能力は、ケルベロスより少々弱い程度だ」
 全員まとめて相手をしてもいいし、何らかの作戦で、戦力を分散させて戦ってもいい。
「全くこりないものですね、女の敵、オーク……!」
「む、士気が高いのはいいことだ。手早く対処に成功したならば、プールで水遊びに興じるのもよいのではないか?」
 怒りのオーラを放ち、怖い笑顔を浮かべる紫織の横で、ザイフリートが言った。


参加者
アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
エージュ・ワードゥック(もちぷよ・e24307)
雁・藍奈(ハートビートスタンピード・e31002)
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)
レーア・ステニウス(灰獅子・e61519)

■リプレイ

●真夏のブタ!
 オークの出現が、さほど暑くない日なのは、幸いだった。
 もっとも、年中暑苦しそうなオークだ。わざわざ猛暑日を狙って出撃して来ることもないか。
 客でにぎわう園内を、ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)と雁・藍奈(ハートビートスタンピード・e31002)が歩き回る……と見せかけて、パトロールしていた。
 ロディは、頭の中で避難経路などをシミュレートしながら……。
「夏だーっ!」
 いつオークどもが現れてもいいよう……。
「プールだーっ! 囮という名目で思いっきり遊ぶよっ! ロディくんも一緒だから寂しくない! さよなら、ぼっちサマー!」
「……藍奈、今はマジメにやろうな?」
 SNSにアップしようと自撮りしまくる藍奈に、ロディが釘を刺した。
 もっとも、強い陽射しの下、画面もロクに見えない状態で撮影したものだから、ほとんど使い物にならなかった。藍奈、涙目。
 すると。
 どんぶらこ、どんぶらこ。
 流れるプールの上流から、大きなブタどもが流れてきました。
「ブヒーッ!」
 どばーん、と水しぶきとともに上陸すると、女性率の高そうなプールを目指し、疾走する!
 デウスエクスの襲来に、パニックに陥る園内。
 すると、オークたちの耳に、ひときわ注意をひく悲鳴が届いた。声の主は、ぱっつんぱっつんのスク水女性……囮役の槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)である。
「獲物発見! 連れてくブヒ」
 早速寄って来る。出来るだけ一般女性が少なく、オークから「孤立している」と判断されそうな位置に待機していたかいがあった。
「少しでも軽くするために、邪魔な水着は溶かすブヒ」
「どうか、どうかそれだけは許して……それ以外なら何でもしますから……」
 スライムをもてあそび、雑な論理を展開するオークに、怯えた演技で許しを請う紫織。
 一方、レーア・ステニウス(灰獅子・e61519)は、強気で挑発する作戦に出た。
「どうした腰抜け、ケルベロス相手は水着でも襲う勇気はないのか? オークのくせに豚じゃなくチキンか?」
 わかりやすい挑発だが、お世辞にも頭がいいとは言えないオークにとっては効果的だった。
 多くのオークたちが、囮に引き付けられている間がチャンスだ。
「落ち着いて。わたし達は、ケルベロス」
 恐怖におののく女性客たちに、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が淡々と語り掛ける。
「あっちに、逃げて。仲間が、守ってくれるから、だいじょうぶ」
 無月の言葉通り、ケルベロスたちが避難誘導に奔走していた。
「ここは私達が引き受ける! とっとと逃げな!」
 アルメイア・ナイトウィンド(星空の奏者・e01610)がオークを殴り飛ばしながら、フェスティバルオーラで熱狂化した女性客たちを、出口の方へと促す。
「女の子はこっち~! オークはダメ~!」
 白のワンピース水着風のフィルムスーツで目立たないようにしていたエージュ・ワードゥック(もちぷよ・e24307)が、手を振って女性たちを導く。
 ちょっかいをかけようとするオークがいれば、光の翼でふわっと浮いて、邪魔に入る。
 蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)が割り出した適切な避難経路のお陰もあって、着々と避難をすすめていく。
「そこのお前……」
 オークと目が合うアルタだが、
「なんだ、ガキに用はないブヒ」
 スルーされた。
 オークのストライクゾーンから外れた幼さが役に立った瞬間だった。

●オークパラダイス!
 スライムに水着を溶かされた女性にバスタオルをかけ、送り出すロディ。危険に身を晒している囮役の仲間の為にも、迅速に避難を終えたい。特に、藍奈は心配だ。色々な意味で。
 ちらり、とそちらをうかがうと、
「みんな無事に逃げた? じゃあ今度はあたしを助けて~!」
「大丈夫なのかお前ー!?」
 まんまと触手に捕まっていた。
 先ほどまでは、「競泳水着は防具だから溶かせないのだー!」と、ひょいひょいスライムを避けながら、お尻を叩いて挑発していたのだが。
 調子に乗った結果、藍奈は触手の餌食となっていたのであった。残念。
 しかし、囮役は果たせているし、それは他の仲間も同じだ。
「ブヒヒ、気持ちいいブヒ……ブヒ?」
 紫織に命令していたオークが、不意に、触手が熱くなってきたのを感じた。
 見れば、触手に触れた紫織の手が、白熱化している。グラビティだ。
「あちちっ!」
「……サービスタイムは、ここまでですよぉ。死になさい、豚共」
 炭化した触手を放りだすと、紫織は、怯える女性の仮面を脱ぎ捨てた。怖い笑顔がこんにちは。
「おい、メスどもがこいつら以外いないブヒ!」
 少しは頭の回る(オーク比)1体が、仲間に声を飛ばした。
 しかも避難を終えたケルベロスたちが、武装して向かって来るではないか。
 それでも大半のオークは、下卑た笑いを浮かべるだけだ。数の優位による慢心。
「オークのやることを、許すわけにはいかない……。女の人達を、守る為に、今回も殲滅、しよう……」
 無月がゲシュタルトグレイブの切っ先をオークに突きつけると、一転、太陽に向けて投てきした。
「ブヒヒっ、どこ狙ってるブヒ!」
 オークたちが嘲笑したのも束の間、幾重にも分かれた光の槍が、頭上から天罰のごとく降り注いだ。
 汚い悲鳴の嵐。無月の心にも、あまり同情はわいてこないが。
「エージュあたーっく!」
 頭上に気を取られたオークの群れに、エージュが突っ込んだ。ブタの肥満体が、ボーリングのピンのように、次々弾き飛ばされていく。
 無事助け出されていた藍奈が手刀を振るうと、オークの腹がどんどん凍り付いていく。
 寒さに襲われるオーク達に、レーアが、獣の咆哮を響かせた。本能的に恐れを感じ、動きが途端に止まる。
 そこに飛び込んだアルメイアが、ストールを翻し、格闘戦を披露する。
 ここからは、各個撃破だ。
 ぼこっ、と集団から蹴りだされたオークに、紫織の放った電撃が直撃した。全身を伝ったしびれは触手まで届き、びくんびくんとけいれんさせる。
 対するオークたちも、黙っているはずがない。
 16匹が一斉に触手を伸ばしてくると、いやらしさもあるが、単純に気持ちが悪い。
 統制がとれていないので攻撃は分散するが、時折、集中攻撃が起こったりもする。
 無月にも、にゅるにゅると、触手が殺到。無表情を羞恥の色で染めたいというのか。
「悪趣味な、奴等」
 無月のつぶやきもどこ吹く風。
 厄介とサヨナラすべく次の標的を狙おうとしたアルメイアが、何かを踏んだ。スライムだ。
 直後、どついてきた触手によって蒼いモノキニが破損した挙げ句、プールに落下した。
「ぷはっ! 水着の種類が変わっちまうだろうがぁ!? って、あっ、この野郎!?」
 水面に顔を出すや否や、足首に巻き付いた触手によって、逆さ釣りにされてしまうアルメイア。
 拘束され、触手にあちこち弄られ……アルメイアもブチ切れた。
 無数のトゲを瞬時に生成し、触手を引きちぎってしまう。
「まったく、オークってのは厄介だナ」
 仲間の悲鳴の中、アルタは水をまいた。プールの水ではない。混沌の水だ。
 それを浴びた仲間たちは、回復するとともに体の一部分が暴走状態のそれに変わるが、害はない。オークたちの方が、よっぽど有害だ。
 さてこちらでは、触手がエージュをぺちぺちと叩いている。豊満なその身体は、オークにとっても親近感があるというか、とっても好みらしい。
「やーめーて~」
 一本や二本逃れたくらいでは済まないので面倒だった。そこにきてスライム。
 エージュが反撃する一方、別のオークたちは、触手をレーアに巻き付け、締め付ける。胸が強調されるような縛り方なのがいやらしい。
 仲間のピンチは放っておけない。ロディがリボルバー銃を斉射し、オークたちの勢いを削ぐ。
 ロディは純情さんなので、女性陣の痴態からは目を逸らさざるをえない。もちろん、そのせいで銃の腕が鈍る事はないのだ。多分。

●プールのオークバスターズ
 ケルベロスたちの猛攻により、オークが1匹、また1匹と撃滅されていく。
「うおっ、『黒光り』がやられたブヒ!」
「オレらの間で開催された触手選手権で見事1位に輝いた、あの『黒光り』が!?」
 よくわからない。
 混沌とした戦場の中で、アルタの周辺は、ある意味安全地帯だった。
 ついでにスライムを観察する。螺旋忍者から預けられたものだというが、攻撃力もなく服と対消滅するだけとは、一体どういう目的で作られたのであろうか。技術の無駄遣いというか、偏ったものを感じる。
 アルタのマッドサイエンティスト魂がうずく。
 その視線の先で、女性陣は相変わらず触手に追いかけられていた。
 レーアも、割と水着が大変なことになったのだが、あまり何も考えていない……わけではないが、戦闘中は基本的に、獰猛とか凶暴とかの類。
 なので、深く考えず、ノーガード戦法を続けていた。
「戦闘に集中してれば気にならないし」
 そう自分に言い聞かせるレーアだが、内心は結構自棄気味だった。
「これで頑張ってくれヨ!」
 アルタがオーラを飛ばして、味方に蓄積した傷を癒した。タイミングと回復対象を見極めるのもメディックの役目。
 ケルベロスに追い立てられたオークに、無月が乱舞を仕掛ける。槍撃に、徐々に銃撃が重なっていく。ミントの残霊の加勢だ。
 そして最後は、槍と弾丸の二重奏が、オークに引導を渡した。
 ロディもまた、華麗な技を披露する。ファニング、という奴だ。瞬時に複数の弾丸を射出してみせる事で、一発の銃声だけで、オークは蜂の巣になった。
「カンベンしてほしいブヒ!」
 命乞いするオークの頭上から、太陽が降って来た。いや、光に包まれた藍奈だ!
 高速で突っ込んできたそれを、受け止めることなどできず、ぼーんと弾き飛ばされたオークは、そのままお星さまになった。
 残ったオーク達の奮闘も空しく。唯一優位の根拠だった数も、もはやケルベロス以下だ。
「さっきの代金はキッチリ生命で払って貰うぜ!」
 アルメイアがギターをかき鳴らし、先ほど捕まえてくれたオークを棘でサンドした。
「おう、薔薇には棘があるんだぜ……!」
 オークのサンドイッチ、一丁上がり。
 そして紫織の掌底が、また別のオークの腹を打つ。肉という鎧を破壊し、肉塊へと変えた。笑顔のまま(ただし怖い)の紫織の所業に、オークたちが震えあがる。
 肘の先からと脚を獣化したレーアが、弱ったオークへと飛びかかった。オークよりキレのある獣めいた動きで、その肉を引き裂いた。
 この期に及んでしつこく伸びてくる触手を払いのけると、エージュが拳をぐっ、と固めた。
「エージュぐーぱん!」
 シンプルな技名とは裏腹に、空間にも干渉した高エネルギー打撃攻撃が、オークを完膚なきまでに粉砕した。
 立っているのは、ケルベロスだけになった。

●水着パラダイス!
 オークは全滅した。
 あれだけ騒がしかったのが嘘のように、プールサイドは静まり返っている。
 出番を失い、未使用だったスライムが落ちている。アルタがつつくと、すぐに消えていく。残念。
 気を逸らす先を失ったレーアは、素に戻るなり、照れ隠しのように暴れはじめた。反動って怖い。
 無月も、大した傷こそないものの、スライムやらオークの汗やらがまとわりついてうっとうしい……というか、正直言って気持ち悪い。シャワーを浴びて、全て洗い流してしまいたい。
 そう、後始末は大事。暴れ回った後のプールのヒールや片付けに、紫織たちが取り掛かった。
「そういや、もうオンシーズンだよなー……」
 一仕事終え、アルメイアが思わずつぶやいた。
 修復が終わり、園内には客たちの喧騒が戻って来る。オークが来る前と変わらない、賑やかさだ。ケルベロスたちを見つけると、感謝を述べる人たちも少なくなかった。
 その後、客に混じり、プール遊びに興じる幾人かのケルベロスたちの姿があった。
 待ってましたー! とばかり、水に飛び込むエージュ。
「まだ時間はたっぷりあるな! 陽が暮れるまで遊び倒すぜ!」
「そうだよ、まだまだ返さないからね、ロディくんっ☆」
 藍奈のはしゃぎっぷりに一抹の不安を覚えつつ、付き合うロディだった。
 夏のレジャー、熱中症とオークには、ご用心。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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