グランヘッド

作者:baron

 それは実に奇妙な姿をして居た。
 一言で言えば、空中に浮かぶ巨大な頭である。
 そいつは飛行と言うよりはホバリングに近い形で、街を目指して彼方から進軍していた。
『発見。グラビティ収集を開始』
 巨大な顔面の眼が輝き、怪光線が発射される。
 放射された対象は郊外側にある大型スーパーであり、人々の生活が一瞬で破壊された。
 あくまで単一目標の攻撃ゆえにそれで中の人が全滅などしないが、だからと言って助かった訳でも無い。
『殲滅』
 そいつは大きな口を開くと、歯の様なミサイルを次々に射出した。
 炸裂した場所に生き残る人などおらず、煙を上げ炎上する車や建物が残るのみだ。
 そして人々を虐殺してグラビティを収穫すると、どこかへと去って行った。


「千葉県のとある町にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知があった」
 ザイフリート王子は地図を手に説明を始めた。
「復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインが枯渇している為、戦闘力が大きく低下している。だが放置すればグラビティを取り戻して力を取り戻すだけでは無く、内部の工場を稼働させてしまうだろう」
 そう言いながら相手は七分ほどで回収されてしまうので、時間の勝負だと付け加える。
「敵は巨大な頭の形状をして浮遊している。特に飛行して居る訳ではないので普通に戦うことが出来るだろう。その時に街を足場に戦っても問題ない」
 既に避難勧告を行っているらしく、建物を足場に戦うことが可能だそうだ。
 街はヒールで修復する事が可能であるし、建物の上に居れば合図なども出し易いだろう。
「攻撃方法は目から光線を放ち、口からミサイルを放つ様だな。腕は無いが髪を伸ばして代わりに格闘する事が可能な様だ」
 またレーダーも強力なので、建物の陰から攻撃しても死角には成らないらしい。
 そして足りないグラビティを使ってしまうものの、一度だけ全力攻撃が可能だと注意をくれた。
「巨大ロボ型ダモクレスが回収されれば、ダモクレスの戦力強化を許すことになってしまう。そんなことはさせられん。後は頼んだぞ」
 ザイフリート王子はそう言うと、出発の準備を整えるのであった。


参加者
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
遠野・葛葉(鋼狐・e15429)
シャンツェリッゼ・イニクロニク(速さの無駄遣い・e30061)
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
アンナマリア・ナイトウィンド(月花の楽師・e41774)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)
甘津屋・アサリ(レプリカントの心霊治療士・e64142)

■リプレイ


「聞いてる限りレプリカントと似てるけどね……。サイズ大きいし射程だけは油断しない方がいいけれど」
「も、もし違ったらどうしま、しょう」
 アンナマリア・ナイトウィンド(月花の楽師・e41774)に甘津屋・アサリ(レプリカントの心霊治療士・e64142)はおずおずと尋ねた。
 喋るのも苦手だが、それ以上に経験が無い。予想外の事が起きたらと不安で仕方がない。
「みんな居るから、なるように成るですょーぅ」
「俺も初めての時は戸惑ったけど、困ってたら誰かがフォローしてくれるから大丈夫ッすよ」
 人首・ツグミ(絶対正義・e37943)の言葉はぶっきらぼうだが端的にケルベロスを現して居る。
 そのことを知り、戦いに慣れない気持ちも良く知るカーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)はちょっと前を思い出しながらフォローの言葉を投げた。
「あ、ありがとうございます。こ、この御礼はき……」
「気にする事は無いっすよ。なんなら次の人を助けてあげてください。なんか俺も似たようなことがあって、聞いたら自分が熟練者になった時に初心者に返せば良いって」
 申し訳なさそうにするにするアサリに、カーラは依頼だったり旅団だったり色々と思い出しながら笑った。
 ケルベロスというよりは冒険者の流儀の様で、実際にはMMOとかゲームのセオリーらしい。
 熟練者が初心者に返してもらえるものは少なく、ゆえに気持ちだけで十分。次の初心者に親切にすれば良い。カーラはその時の言葉を実行に移したのだ。
「それじゃ、そろそろ準備しておきましょうかね。……モアイ像ってああいう感じだったかしら?」
「時間の設定もやっておいたですょーぅ」
 アンナマリアは屋根を足場にすると遠目に敵の姿を眺めた。
 同じ様にツグミ達も展開し、あるいはアラームをセットして戦いに備える。

 徐々にダモクレスが接近し、その詳細が把握できるように成って行った。
「巨大ロボの頭だけというのは解せませんね。しかも武装が満載という事で怪しさが満点です」
「ということは腕とか足もどこかにあるのか? どっかから飛んできて合体とかしたら面白そうだな」
 リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)の言葉に遠野・葛葉(鋼狐・e15429)はもっともだと頷いた。
 怖がる暇があるくらいならば、さっさと倒して調査をしたいお年頃である。
「まあ多少は気にかけて置くくらいですかねえ」
「その辺は終わってからのお楽しみっすかねえ。んじゃ、いくっすよ!」
 リチャードの言葉に合わせながら、カーラは流体金属の膜を広げて仲間達のガイド役に任命した。
 その動きを見てリチャードは頷き、トントンと屋根の上を伝っていく。
「カーテン・コールの時間だわ。黄昏の中でラスト・ダンスを踊りなさい。お願い、騎士様!」
「オーケー、レディ。私達も始めるとしよう」
 アンナマリアが光で構成された鍵盤によってグラビティを制御すると、リチャードは呼び出された氷の騎士と共に戦場を駆ける。
 そして走り込んだ勢いと共に高速の斬撃を放った。
「え、ええと……。こ、攻撃される前に、使っても良いでしょうか?」
「決めておるなら好きにせい。始まった様じゃし……まぁ、待ってる時間も惜しいし潰すとするか」
 アサリがエクトプラズムで防御幕を造ろうか悩んで居ると、葛葉は適当に頷いて走り出した。
 そして敵の鼻先を蹴り飛ばすしてバックステップをかけると、やや遅れて前衛の姿がぼやけ始めた。
 こうして甘津屋アサリの初依頼が始まったのである。


「オラトリオに関連すると聞いては黙っていられないね。封じるだけでは足りないのなら、完全に葬り去るのみだ」
 目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)は敵の正面に立ちつつ、囲んでしまわない様に迎え討つ。
「やはり封印だけでは、悪の始末は不十分なんですねーぇ。ええ、ええ、では今度はきっちりと」
「薄気味悪い頭だね。封印した先人たちの気持ちもよく分かるよ。こんな厄介なモノを残してイイ理由にはならないけどな」
 ツグミが皆とは反対にダモクレスの浮遊している首元から切り抜け、屋根に乗ってから距離を開ける。
 敵の視線を遮る意味もあり、真はドローンを展開した。それは防壁であり前衛陣を守る盾でもあった。
『敵対反応確認、迎撃開始』
「……しもべ達よ、皆を守れ!」
 そして巨大な顔の眼から放たれる怪光線に、箱竜と一緒に立ち塞がった。
 ジュっと光が肌を焼くが、その大部分はドローンが引き受けてくれる。
「これ以上街は破壊させません。何の罪もない人々の命を奪うなど、大自然の摂理に反しますから……」
 そこへシャンツェリッゼ・イニクロニク(速さの無駄遣い・e30061)が横から飛び入り。
 でかい顔を蹴り飛ばして攻撃を中断させる。
「次……はハズレ。想ったよりも早いですね。それにしてもあの頭って、中はどうなっているのでしょう? 分解してみれば分かるでしょうか」
「目とクチと髪は武器だと分かったが、鼻と耳は何もナイのか?」
 シャンツェリッゼは近くの建物を蹴って拳を放つが、残念ながら今度は外れてしまった。
 ロボ工場の筈だがと、真は答つつ次の攻撃を見越してダモクレスの巨大な口を撃った。
 ライフルから放たれた重力弾が、今に放ちそうと言う唇を覆い隠して行く。
『殲滅、殲滅』
「おおっと。一手遅かったですが、まあ全力攻撃前なら無駄にはならないでしょう」
 リチャードは仲間のカバーに入りつつ、歯の代わりに放たれた白いミサイルをその身で受けた。
 お返しに拳を開いて圧縮した闘気を放ちつつ、砕けて行くガレキや、家屋の屋根の上を跳ね飛んでいく。
「い、いま治療しますね」
「そんな感じで段々慣れて行けばいいんす」
 仲間が傷付いているのを見て、アサリは反射的にエクトプラズムを放った。
 カーラが見たところ先ほどと違って、援護効果の為に使って良いかと言う逡巡はない。
 誰しも戦い始めはこれで良いのかと悩むものだ。
 これが慣れてくればお気に入りの攻撃技数種だけを使って、後は回復という者も結構居る事をカーラは良く知って居た。
「まあ自分も言うほど慣れてる訳でも無いっすけれどね」
 カーラはワイヤーを建物に噛ませると、ジャンプしながら僅かにスピードを上げた。
 一度最大限まで飛び上がって、くだりには使用せず落下速度だけでバールを振り抜く。
 最大速度ではないが今はそれで十分。何しろ戦い始めたばかりなのだから。


「大首って妖怪もいたわね、そういえば。西洋だと……まあ今は別にいいかしら」
 アンナマリアは少しだけ思案した後、鍵盤に掛けたままの指を動かした。
 軽やかに調べが流れ出ると、リズムに乗ってグラビティの糸で編まれた縄が紡がれて行く。
 楽譜と言う糸巻きで何度も編み込まれ、何時しか網と呼ぶほどのサイズに仕上がっていく。狙う獲物は無論、大きな顔をしたダモクレスだ。
「うーん。もうちょっと動きを止めた方が良いですかねーぇ」
 ツグミは大型スーパーの屋上駐車場に登ると、その広さを使って助走を行った。
 ダイナミックなジャンプを駆け、ダモクレスの顔面を越えて頭上まで。飛び蹴りと言うよりはカカト落としを決めて着地する。
「ふははは、我、参上!! お、即座に反撃か……」
 葛葉はオウガメタルで作った鉄拳を浴びせた後、脈動する鋼の髪の毛に気が付いた。
 最初はネタでトンボを切ってバク転で下がって居たのだが、間に合わなくなって途中でバックステップに切り換える。
「っち! やらせない。銀色の翼よ、皆を癒せ!」
「おっとすまんの。ふむ、髪の毛で攻撃とは千手観音もびっくりな手数であるな」
 そこへ真がカバーに回り絡みつく鋼を押し返す。そして累積して居る傷が治り切きってなかったので、輝く翼を広げて癒す事にした。
 葛葉は庇ってくれた礼を言いつつ、再度突撃してワザワザ髪の毛の中に飛び込んで行く。
「ちょうちょ結びに固結び、キング・オブ・ノットに自在結び結び方も奥が深いな!」
 葛葉は鋼の毛を蹴り飛ばしながら右往左往、あるいは手で掴んで絡ませ合っていく。
 しかしキング・オブ・ノットとか聞くと、戦艦の様じゃのうとか余裕である。

 やがて数手の時間が過ぎ、一同は囲まない様に抜かれない様に相手の進軍を挟む。
「今こそ喰らいなさい! これが、常(いま)という時間すら絶つ光!」
 シャンツェリッゼは拳と共に魔力を宿した結晶体を後ろに引くと、グラビティを解き放って莫大な推進力を得る。
 高速で接近し殴りつけ、インパクトの瞬間に闘気と魔力を圧縮すると一条の光が敵を貫いた。
 先ほど外した時とは違い今は相手の動きが鈍いから命中したのか、それとも余りの速度にそう感じただけか。いずれにせよ、答は戦いの中で得るだけだ。
「だ、大丈夫ですか? ど……」
「傷の方はお陰さまで問題ありませんよ。……そうですね。次はまたアレが来ると思うのでその時にお願いできればと」
 アサリは思わずどうしましょうと言い掛けて、何とか言葉を呑み込んだ。
 察しの良いリチャードは気が付かないフリをして、アドバイスはせずに回答を先送りにする。
「闇を友とし光で貫く。我前に立つなら覚悟するが良い」
 リチャードは話を打ち切ると、蝙蝠型の手裏剣を四方八方に投げつけた。
 それはブーメランのように緩やかに、あるいは跳弾のように鋭角に曲がる。摩擦熱で塗り込んだ燐が燃えあがり、火を吹く様は古い時代のマッチの様でもあった。
「……な、なら目面さんの治療に専念ですね。よ、よかったら、こ、これ使ってください」
「ありがとう、助かるよ。過剰回復に成りそうな時はちゃんと伝えるから」
 アサリから特別調合したドリンクを受け取った真は、持ち前の面倒見の良さを発揮してアドバイスを入れてあげる。
 イケメンスマイルを見て居ると、学校の先輩に差し入れしている気がするのは気のせいだろうか。
「このまま追い込むですよーぅ」
 ツグミは建物と建物の間を飛びながら、斬撃を浴びせてワザと転がって行く。
 瓦の上で中腰で立ち上がり視線を切った後でライフルに持ち替えた。
「了解ッすよ!」
 カーラは一足先にライフルを構えるとワイヤーで滑走しながら凍結光線を放った。
 そして壁を蹴って減速しつつ、バールで何処を狙おうかとチャンスを窺う。
「おいでませ! 駆け抜けるもふもふ! レッツゴー暴走ボビン! ハムスターローラー!」
 アンナマリアの奏でる曲で、巨大なハムスターが呼び出された。
 ポップでアップテンポなリズムに乗って、……というか巨大車輪に乗ってダッシュする。
 四足で一所懸命に走ることで、回し車など比較にならない速度で体当たりを駆けた。相手が巨大ダモクレスでなければ踏み潰していたかもしれない。


「おっと。せっかくですし、コレでも使いますか」
 それから何分かの時間が過ぎ、鋼の髪の毛が射出される。
 仲間への攻撃を防いだリチャードは、毛が回収される前に飛び乗った。
 そして傷が痛む時間も惜しみながら、毛の上を疾走して切り込んだのだ。
「六分経過ですよーぅ! 残念ながら、回収なんて認められませんねーぇ」
『最終手段の承認。カウントダウン開始』
 ツグミはライフルで重力弾を放った後、アラームの音を感じて仲間に大声で通告した。
 ケルベロスも強くなった為に、七分全て使わない事もあるが今回は防御や回復重視だったこともありラストタイムに突入したのだ。
「どこにも行けず、届かず、救われず。ここが貴方の終着点、ですぅ」
 自己暗示術により意識を集中させ、ダモクレスを処刑すべく大鎌をグラビティにより形成する。
 その因子に正義の鉄槌を振り降ろし悪の芽を刈り取るべく、魔力にて業火を灯す。求めるのは救いでは無く断罪を!
「タイミング的に例のアレは難しそうなので無理しなくて良いっすよ」
「元々役目だ気にするな。だが翔之助、オマエも手伝えよ!」
 カーラは相手の全力攻撃が八分目に逃走しながらだったら挑発しようかと思ったのだが、七分目なので流体金属を散布して真たち前衛の援護に当てた。
 そして真は箱竜の翔之助にも声を掛けて、攻勢を掛けると共に仲間を守るべく少しだけ陣形を横に伸ばす。
「破砕点はここだね。砕け散れ!」
 真はビームの充填中である、目と目の間に向けて突進するとブン殴ったのである。
 インパクトの瞬間にグラビティを流し込み、包和するエネルギーで装甲を自ら破らせる。
『発射!!』
「す、凄く痛そう……。え、ええと空が……も、もう回収間際なんですね。こ、この場合どうしたら……」
 強烈なビームが発射され、飛び出した盾役の誰かが焼き焦がされて行く。
 アサリはその様子を見ながら、魔空回廊も開き始めているという事実に驚愕した。
「私達が倒せなかったら攻撃してくださいっ!」
「まあその心配は無いじゃろうがの。ダブルケルベロス・キーック!!」
 シャンツェリッゼと葛葉の二人のクラッシャーが同時に飛び出して、ビームの余波を避けながら巨大な顔面を挟み込むように蹴りを放った。
 まるで教師が居眠りしている生徒にグリグリするような感じで、コメカミに強烈なダメージを与えたのである。

 そして巨大なダモクレスが浮遊を止めて、ドシンと地面に沈み込む。
「オツカレサマ」
「終わったみたいね。まあ、途中で回復が多かっただけだから気にしてなかったけど」
 真がトドメを確認すると、攻撃すべく待機していたアンナマリアが中断。
「そ、そうなんですか? ……か、回復とヒールしますね」
「ヒールはありませんが、出来る範囲でお手伝いしますよーぅ!」
 アサリは溜息をついて怪我した仲間達の回復を始めた。
 ツグミは残骸を集め、あるいは固定することでヒールを行い易く調整していく。
「変異は好ましくないのだけれど建物の方もきちんと直しておきましょう、それにしても……アレはモアイだったのかしら、大首だったのかしら、チョンチョンだったのかしら……」
「飛頭蛮や落頭民かもしれませんよ。いずれにせよ助かりますよ。この後で調査したい所ですからね。合体機構でも見つかると面白いのですが」
「我としてはオプション型よりも合体型の方が良いのぅ」
 アンナマリアもヒールに参加を始めると、リチャードは残骸を整理しながら中華系の妖怪の話をしつつ調査を始めた。
 葛葉は頭を飛ばす中華系民族の話を聞きながら、合体こそはロマンだと呟いて修復に加わる。
「……この痛みも、忘れるべきではないのです」
「全部が元に戻らないってのはツライっすねえ」
 街がゆっくりと修復されていく様子を見ながらシャンツェリッゼとカーラはその光景を目に焼き付けて居た。
 無事に守ったということでもあり、どうしても変異してしまう部分もあるのだ。ゆえに街に刻まれた思い出を残す様にジっと見つめて居た。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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