「よっしゃ、説明を始めるで。
鎌倉奪還戦とおんなじタイミングで、ドラゴンの勢力が三浦半島南の端っこ『城ヶ島』を制圧して、拠点作ったんはを知ってるやろ?
『城ヶ島』から出よったドラゴンは、みんながちゃちゃーっと撃退したさかい、今は守りを固めながら、オークや竜牙兵、ドラグナーら使って全国津々浦々で色々と悪さしよんねん。
めっちゃドラゴンおるみたいやから、現在までちょっと手ぇ出してへんかったんやけど、ユフィーニアさんらから現状を把握する為にも、強行偵察をする必要があるんちゃうかって話があって、確かに後手後手に回ってる事もある事やし、ちょっとやってみよか! って話になったんやわ。
なかなかに危険な任務やねんけど……やるやろ?」
ニッと笑う杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)の口元に八重歯が光り、今回の作戦立案の一人がユフィーニア・フェルズヴォルン(騎馬無き竜騎兵・e11961)である事を紹介する。
「ドラゴンの籠る城ヶ島を正面から攻略するんは正直難しいと思うねん。
せやから小規模の部隊でいろんなとこからの侵入を試みて、1つだけでもえぇから、潜入して中がどないなってるか調べて帰って来て欲しいって事やな。
城ヶ島の中の敵の戦力や情報がわかったら、内容にもよるけど、攻略作戦を立てる事もできるさかいな。
潜入方法はみんなに任せるけど、ドラゴンがいっぱいおるとこにヘリオンで飛んでいくんは、まったくもって自殺行為やからでけへんで。
三浦半島南部までは問題なく行けるはずやから、そっからは作戦に従って潜入してや」
今は中がどうなっているか解らないが、城ヶ島の地図を広げて千尋が説明を続ける。
「一応、小型の船舶や潜水服、水陸両用車程度なら用意してくれるって事になってるから、必要なんがあったら言うてくれたらえぇで。
で、敵に見つかったらたぶんドラゴンと戦闘になると思う。ドラゴンとの戦闘になったら、勝っても直ぐに別のドラゴンが来よるさかい、とてもやあらへんけど調査を続けんのは無理や。
もしそうなったら、できるだけ派手に戦って他の調査班から注意を逸らすってのも1つの手かもしれへんから、覚えといてな」
とケルベロス達の目を見る千尋。
「相手は拠点を守るドラゴンや、めっちゃ危険な任務になるやろうから、心して掛ってや。退き時を間違えたらえらい事になるからな。ほんま頼むで」
千尋はそう説明を締めくくったのだった。
参加者 | |
---|---|
真靱・サキ(アニマの欠片・e00395) |
ハンナ・リヒテンベルク(舞謳う薔薇乙女・e00447) |
織神・帝(レイヴンドマーセナリー・e00634) |
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(バッドエンドフェアリーテイル・e01185) |
不破野・翼(参番・e04393) |
ヴァルスタート・オラクル(愛を求めるガンスリンガー・e08415) |
ユフィーニア・フェルズヴォルン(騎馬無き竜騎兵・e11961) |
レム・ホワイトノーツ(睡魔には勝てない・e12996) |
●城ケ島大橋
「今後の攻略に大きく影響する作戦だしね、派手にやるわよ。必ず成功させましょう」
海上の風を受け真靱・サキ(アニマの欠片・e00395)の藍色の髪が揺れる。
三浦半島から城ケ島を望んで正面。他班からの花火を合図に城ケ島大橋近くの海面をホバークラフトで走る一行。左右には同じ経路で侵入を図る2艘の船が並走している。
「ドラゴンよ」
ハンナ・リヒテンベルク(舞謳う薔薇乙女・e00447)の声が示す様に、橋の辺りを警戒していたと思われる3体のドラゴン達が、真直ぐこちら目掛けて飛んでくる。
「水中からかと思ったが空からか、妾が引き摺り落としてやろう」
「けど、できればやり過ごして上陸したいところよね。そうはさせてくれないだろうけど」
戦勝祈願ちびガラスをギュっと握り、ドラゴンを見上げて赤茶色の瞳を細めた織神・帝(レイヴンドマーセナリー・e00634)の隣で、ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(バッドエンドフェアリーテイル・e01185)が赤縁眼鏡を押し上げる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
不安そうに鳴くボクスドラゴンの『シュタール』に頬を寄せ、不破野・翼(参番・e04393)が微笑み掛ける中、遂にドラゴンが射程に入る。
「ここはスナイパーの腕の見せ所だよねぇ。どこでも引いてやるぜ、ハッピートリガーをよ」
仲間の船が散開する中、自分達に向かってくる赤鱗の翼竜に銃口を向けたヴァルスタート・オラクル(愛を求めるガンスリンガー・e08415)が、他のドラゴンも巻き込めとばかりに弾丸をばら撒くと、
「上からイニシアチブを取られるのは好きではありませんね」
ユフィーニア・フェルズヴォルン(騎馬無き竜騎兵・e11961)の体から出たミサイルポッドから、無数のミサイルがドラゴン目掛けて飛んでゆく。それらの攻撃に翼をはためかせ空中で静止したドラゴンは、口を大きく開いて炎のブレスを吐きだした。
「やらせないの」
レム・ホワイトノーツ(睡魔には勝てない・e12996)が仲間にではなく、ホバークラフトにヒールを掛ける。その構造上穴が開くといきなり沈んでしまうからだ。
「しっかり掴まっててよ」
直後、サキがホバークラフトのエンジンを全開にすると、大きな波飛沫を上げたホバークラフトが一気に城ケ島の方へと離脱を測る。それを追おうと慌てて体を回転させるドラゴンだったが、次々と飛ぶ遠距離攻撃が足止めとなって行動が遅れた結果、追い掛けるのを諦め、他のドラゴンが相手取っている船に向かって、体当たりする様に突っ込んでいくのが見えた。
「あぁ、ごめんなさい」
「謝るのは後よ、みどもは彼らの分まで頑張って情報を持ち帰らないといけないの。それが駄目だった時に謝りなさい」
小声で謝る翼の肩に手を置いたジークリンデが諭す。
だが安穏としてはいられなかった。城ケ島から新たに3体のドラゴンが飛び立ったのだ。このままでは確実に気付かれてしまう。
「海に飛び込んで、船は捨てます」
大橋の方では戦闘が起こっていない事を確認したユフィーニアが声を上げて海に飛び込むと、仲間達も次々と海に飛び込む。操縦者を失ったホバークラフトはその場で2度旋回し、三浦半島の方向へと走り始め、それを見つけたドラゴンのブレスにより轟沈する。
「……あぶないところだったね」
ホバークラフトを沈めたドラゴンが、同行していた船の方へ向かって行くのを見て、レムが呟いた。
「さードラゴンが戻って来ない内に頑張って城ケ島まで泳ぐぞ」
立ち泳ぎするヴァルスタートの声に、
「岸近くまで寄れたのは幸いだったわね」
「あぁ、仲間達の為にも頑張って泳ごう」
ハンナと帝が応じ、一行はドラゴンを警戒しながら城ケ島目掛けて泳ぎ始めた。
●上陸
船を捨てた事で当初予定した造船所側へ回り込む事は出来なかったが、結果として大橋と造船所の間辺りに上陸する形になった一行。
「迎撃されないなら、此方の方が駐車場に近いかもしれません」
濡れた服を絞るユフィーニアが言う様に、徒歩での移動を考えると現地点の方が島中央の大きな駐車場に近かった。
「飛んでったドラゴンが全部で6匹ね。いつ戻って来るか分からないし、早く調査に向かおうよ」
レムのいう事は最もで、船の2チームが6体のドラゴンを撃破するなどという奇跡を信じる者はおらず、濡れた服を絞るのも片手間に、一行は周囲を警戒しながら、大橋の付け根辺りに位置する大きな駐車場へと向かう。
(「俺以外女の子ばっかりじゃないか、良い所見せるチャンスだねー」)
仲間を見回したヴァルスタートは、帝のところで一瞬止まるもそのまま見回し終えて決意を新たにする。
「ねぇ? あの建物おかしくない?」
「ドラグナーの黒い塔っぽいよね」
サキの声に振り返ったジークリンデが、サキの指し示す先……神奈川県水産技術センターを見て率直に抱いた感想を口にする。
「どうします? あちらに向かいますか?」
同じくその異様を確認した翼が、振り返って仲間に問う。
「いや、あそこが黒い塔化しているという情報は得られたのだ。当初の予定通りで行こう」
「そうですね。船を失った今、撤退するには橋を利用するしかありません。戦闘するにしろ陽動するにしろ、橋に近い方がいいと思うよ」
帝とハンナが理由も添えて当初の予定を遂行すべきと意見を述べると、特に反対する者もおらず、一行はそのまま警戒しつつ駐車場に向かって歩を進める。
●駐車場
幸いにも敵に遭遇する事無く、目的とした駐車場に辿り着いた一行。
「これはなんですか?」
その駐車場の有様に翼が声を上げる。
元々止まっていたと思われる車達は無残にひしゃげ、駐車場の隅に纏められており、アスファルト敷きだった広い駐車場には、倒木やら砂利などが敷き詰められていた。
「なにと言われてもね」
翼と目が合ったサキが肩を竦める。
特に儀式的な様相は呈しては居ないが、ドラゴンにより手が加えられているのは明らかだった。
「『巣』じゃないのかい?」
そう発言したのはヴァルスタート。
「なる程、私達を迎撃に来たドラゴン達の待機所と言う事ですか」
その説明に得心が言った様に、ユフィーニアが頷く。
倒木や砂利は無秩序に置かれている様に見えて、先程遭遇したドラゴン達が尻尾を丸めて体を横たえると、丁度いいサイズのくぼみを形成している事に気付く。
「長時間の滞在の為に、寝床をしつらえたって事か」
帝も成程と頷いた時、
「! ……ドラゴンが来ます」
ジークリンデが言い終えるより早く、ケルベロス達は物影に身を潜めた。
その眼前、形成された巣の一つに手負いの紫鱗竜が舞い降りてくる。
「クソッ……小賢しい人間どもめ」
咆える様な声でそう吐き捨てたドラゴンは、忌々しげに己に穿たれた傷を見遣る。
その毒々しいまでの紫色の鱗には見覚えがあった。最初に自分達の船に向かって飛んで来た3体の内の一体……他の船の仲間達の奮戦によって傷つき、先に逃げ帰って来たと言ったところだろう。
(「傷ついててもドラゴンはさすがに手強そうなのー……。無事に帰って布団で眠れるか心配になってきたの」)
(「やりますの?」)
その様子にレムがたじろぐ中、ハンナが念の為問い掛ける。
駐車場付近でドラゴンと戦うのは当初の予定通りであり、幸いにも手負い状態のドラゴンが1体だけで眼の前に居る。ここが巣だとしたら、時間が経つと残りのドラゴン達が戻ってくる事は明白……即ち、今戦いを仕掛けない理由は何一つないのである。
アイコンタクトをとったケルベロス達は、傷を庇ってとぐろを巻くドラゴンに一斉に襲い掛ったのである。
●戦
「戦闘開始……、戦闘モード起動」
サキが腕に収納した弓を展開させる中、
「さーて、いっちょ派手に暴れちゃうかなー?」
「貴方達の領域とは言え、ここは猟犬の狩猟場となりました。そこに入ったことを後悔させてあげましょう」
くるくるっと回したリボルバー銃の銃口を向けたヴァルスタートと、壱陸式光学熱量火器「青閃」の銃口を向けたユフィーニア。2つの銃口から銃弾と魔法光線が飛び紫鱗竜を狙う。
「! ……なんだ!」
物陰からの攻撃に驚いた紫鱗竜は、とっさに回避行動をとって舞い上がった。
「私だってやる時はやる……の」
「竜血により命ずる! 魂をも縛り堕とす重力鎖よ、捕えよ!」
レムが意識を集中し執刀用意する中、帝の声と共に可視化したグラビティ・チェインが伸び、紫鱗竜に絡まる。
「ぐぉッ!」
そのまま引き摺り落とそうとする帝に抵抗し、羽ばたく紫鱗竜だったが、先の戦いで受けた傷から走る痛みに翼が止まり、そのまま地面に叩き付けられる。すかさずシュタールがブレスを吐き、
「私は狂ったお姫様。王子は居らず獣の声が心を壊す。だから未来を下さらない?光り輝く貴方の命で私と獣は嗤えるの。狂喜の炎に喰われよ!」
地獄の炎がランドグリーズの鎚に纏わり、ジークリンデの振るう一撃が紫鱗を剥ぎ、光と闇を纏う翼の両拳が、ジークリンデが鱗を飛ばした所に叩き込まれる。
「姓は不破野、名は翼。ただの一人のケルベロスです。貴方の名前をお聞かせ願いませんでしょうか?」
「人間供如きに名乗る必要は無い」
問う翼を一瞥し、サキとヴァルスタートの援護の元、仕寄るケルベロス達を尻尾で薙ぎ払う紫鱗竜。
「逃げた船の輩か! 逃げずに潜むとは命知らずの者供め!」
状況を把握した紫鱗竜が吼える中、大きな魔法陣が現れ純白の羽根が舞い、
「命を知らぬのではないわよ。生きて……ねえ、生きて主は囁きたもうた《汝を愛そう》と、故に此処に顕現す、父なる愛がよみがえる」
ハンナが自分を含め、尾に薙がれた者達に薔薇乙女の祝福を施すと、
「先程の船の輩と言い、可愛げのない者供め!」
紫鱗竜が毒のブレスを吐くが、そのブレスを遮る雷壁。
「私だって……」
ライトニングロッドを掲げたレムが、己の意志がライトニングウォールの固さになるとでもいう様に、唇を噛みしめた。その雷のスパークとブレスの毒が爆ぜ、黒に似た深い紫の靄を起こす。
「可愛げなんてなくて結構よ。だからみどもは獣を飼うの」
「こんな俺の力でも、誰かの助けになるのなら……不破野に伝わる終の型をお見せいたします」
その靄を突っ切ったジークリンデが地獄の炎を纏う鎚を、翼が拳と脚に気を溜めて距離を詰める。
「正面から真っ直ぐとは、手負いとは言えなめられたものだ」
その行動を予見していたのか、紫鱗竜は再度ブレスを吐こうと息を吸い込む。……が、
「ふっ……そっちこそ俺達を、なめてもらっちゃ困るよねぇ」
ヴァルスタートの放った銃弾がその眉間を撃つと、紫鱗竜の首が僅かに仰け反り、毒のブレスが空を焼き、ジークリンデと翼がその隙に攻撃を叩き込むが、次の瞬間、振るわれた竜尾の一撃に弾き飛ばされた。
(「そろそろ、他の竜が帰って来てもおかしくありません」)
幻想を奏でる懐中時計【銀嶺】の時刻をちらりと見たユフィー二アが、バスタービームを放って三浦半島側の空に目をやる。
「竜に告げる! 地獄の番犬が、貴様らの不死に終【死】符を打ちにきたとのぅ!」
帝の怒声と共に重力鎖縛咆の鎖が紫鱗竜を絡め、その身を重力に捕える。鎖を振り解こうと爪を薙ぎ、尾を振るう紫鱗竜。風を唸らせ振るわれるその尾をくぐり、舞う様な動きで距離を詰めたハンナが、
「鬼さんこちら……躱せる、かしら……?」
十字架意匠の銀ナイフの刃を叩き込むと、紫鱗竜の体がビクン! と跳ね痙攣する。
「小娘がァッ!」
怒気も露わにハンナに首を向けた紫鱗竜だったが、その瞳に映ったのはハンナの後ろで大きな弓を構えるサキの姿。
「稲妻と共に踊りなさい……Fulminis Tempestas!」
鏃に雷撃を纏った矢が放たれると、サキのミサイルポッドから幾つものミサイルが上に向って発射され、放物線を描いて紫鱗竜の身を穿つ。
「こんな……人間に味方する者達如きに……」
満身創痍の紫鱗竜が見開く瞳には、サキの攻撃に続いて波状攻撃を仕掛けるケルベロス達の姿。
そして、それがこの紫鱗竜が見た最後の光景であった。
●結末
紫鱗竜を倒したケルベロス達は、他のドラゴンが何時戻って来るかも判らない上に、ホバークラフトも失っている為、退路が大橋しか無い事実も鑑み、即座に撤退を開始した。
橋の上で迎撃から戻って来る竜に遭遇したが、ケルベロス達の動きに守りを固める事を優先したのか、すれ違い様に上空からブレスを浴びせられた程度で、城ヶ島から離れる自分達に対しては追撃等を行って来なかった為、無事に逃げ切る事が出来た。
こうしてケルベロス達は、ホバークラフトは失ったものの、他のチームにより手負いであったとは言え、ドラゴン1匹を屠り、駐車場が見張りドラゴンの巣になっている事や、神奈川県水産技術センターが黒い塔化している情報などを、一人も欠ける事無く持ち帰ったのだった。
作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|