ケルベロス大運動会~わくわくぷちぷら屋台村

作者:絲上ゆいこ

●ケルベロス大運動会
 地球にケルベロスが誕生してから、およそ50年を経た2015年9月13日。
 その日、人類史上初の『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』が発動されてから早3年。
 デウスエクスとの戦いは、日々激化の一途を辿っている。
 彼の日より重ねられた『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』発動回数は9回を数え、世界経済は大きく疲弊してしまった――。
 そんな中。
 疲弊した経済を立て直す収益を挙げる為に、一つのイベントの企画が立ち上がる。
 ケルベロスたちはグラビティでしか、ダメージを受ける事は無い。
 そのケルベロス達の特性を利用して、世界中のプロモーターたちが危険過ぎる故に開催を断念してきた『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げケルベロスたちに競わせるスポーツの祭典。
 ――それこそが、ケルベロス大運動会なのである!

 第3回ケルベロス大運動会の開催地は、『ブラジル』の『アマゾン川流域』に決定した。
 さあ、ケルベロス達よ!
 広大なアマゾン川と鬱蒼たるジャングルを巡り、様々な種目に挑戦するのだ!

●アマゾン屋台
 例年通りケルベロス大運動会の当日には、日本とブラジルをはじめとしたアマゾン流域の国々との国際交流の一環として。狙いの客層によって幾つかの場所に分かれて、ケルベロスによる日本屋台村が運営される事となっている。
 そこで。
 料理の腕に覚えがあったり、面白い企画を思いついたケルベロス達には、ぜひ屋台運営をお願いしたい、との通知が行われた。
「と、言う訳で。アタシ達は、大衆向けの格安屋台を担当する事になったわ!」
 天目・なつみ(ドラゴニアンのガジェッティア・en0271)は、パンフレットを広げてケルベロスを見た。
「ここで取り扱うのは、1人分の予算は日本円で『300円』前後のメニューだそうよ」
 ブラジル市民達に向けた格安のメニューではあるが、全ての食材は日本から輸送されてくる。しかし全て協賛である日本政府が準備を行う為、食材輸送費は原価に数えなくて良いそうだ。
 その上で日本で販売するとしても、『300円』程度で提供できるメニューを考えてね、となつみは語る。
「例えばだけど」
 安いけれど、美味い。
 安いけれど、ボリュームたっぷり。
 安いけれど、珍しい。
 安いけれど、面白い。
「みたいな、色んな『安いけれど』が有るメニューなんて素敵よねー」
 パンフレットの概要を読み上げ。
「あっ、ブラジルらしい料理を目指しても良いけれど、勿論保護動物とかは使っちゃダメよ。捕まっちゃうわ」
 冗談めかして付け加えたなつみは、顔を上げ。竜翼を揺り動かしてから、ケルベロスに向って笑みに瞳を細める。
「ふっふっふっ。ミンナの屋台に行くのが、本当に本当にとっても楽しみだわ! 食べ歩いちゃうわよ、食いだおれちゃうわよっ! 美味しい料理期待しているわよっ」
 楽しみで仕方が無いのであろう。
 なつみは弾んだ声で、ケルベロスに期待をたっぷり籠めた瞳を揺らした。


■リプレイ


 浴衣に鴉のワンポイントのエプロンを身に着けて、売り子としてサヤは意気込んでいた。
 下拵えに怯んだ訳ではけして無いのですよ。
 翌桧が魔法の様に作り上げるのは、キャッサバとスルビンのフィッシュ&チップスだ。
「ブラジル市民からすると珍しくもないだろうが、今回は観光客相手って事で」
 サヤはそわそわ。
「試食してもよろしーです?」
「おう、勿論」
 客が来れば、出来たて熱々を鴉印の包みでお渡しだ。
「あ、あすなろ。客足が落ち着きましたら千歳のとこに敵情視察に行ってもよいですか?」
「よし、じゃあ俺の代わりに挨拶よろしくな」
 お土産片手に、少し飴屋まで。
「飴屋すずの世界進出第三弾。アマゾンまで来ちゃったわね」
 客のリクエストに応え、手慣れた様子でどんどん飴細工を仕上げて行く千歳。
「さぁさ、美人店主が素敵な飴細工を作ってくれるのよ。貴方はどんな動物を見てみたい?」
 アリシスフェイルの勝気な呼び声。いつも見て味わっているからこそ、オススメできる。
「暑い時期にぴったりの冷やし飴カクテルもあるよっ」
 思わず千歳の作り上げる動物飴に見入ってしまったりもするけれど、店員も板についてきた勇が声を重ねて。
 皆の手慣れた呼び込みに負けぬよう。サフィールも声を張る。
「美味しい飴に、東洋の美味しい果実酒カクテルもどうぞご賞味あれ!」
「冷やし飴は現地の方に馴染みがなさそうですので試飲を用意してみる等は如何でしょうか?」
 瓶を片手に、志苑が首を傾ぎ。
「良いわね。どんどん試飲、出していってね」
 千歳の許可も出た。
「オススメはやっぱ梅シロップに梅酒ダケド、ソレに炭酸プラスしても良さそう」
「牛乳で割るのもラッシーのようで暑い日に良いと思います」
 キソラの言葉に志苑も頷き。
「よく冷えた梅酒とのカクテル……」
 しごとちゅう、と首を振る御影。
「アサイーとかサトウキビジュースなんかも……」
 キソラの呟き。試飲がどんどん並んで行く。
「休憩に私もひとつ、冷やし飴いただいてもいい?」
「いいですね、アリシスさんは何に挑戦しますか?」
 勇は、蓮水オススメの梅シロップの牛乳割り、弌はアサイー割りで一息。
「梅シロップの炭酸割り!」
「梅は暑さ対策にもイイというし、休憩ン時はオレも梅シロップの牛乳割り頂こうかな」
 アリシスフェイルが慌てて言い、キソラが笑んで応え。
「梅酒も欲しくなるケド、それは打ち上げの時にドウでしょ、店主サン?」
 千歳も笑う。
「じゃ、打ち上げはぱあっといきましょうか。もうサフィーも成人だったわよね?」
「それは、ふふ、打ち上げが楽しみだな!」
 サフィールは思わず涎を拭い。
「ほら、美味しいでしょう?ひんやりした甘さが元気をくれるんです」
 しゃがんで、弌の声掛けで集まってきた子どもたちに試飲の冷やし飴を手渡す御影。
「これは、日本の『飲める飴』なんだ」
「あら、涼しそうな御影は、試飲のコップに金平糖を入れておいてくれる?」
「ち、ちがう屋台の日陰に入っているわけでは」
 千歳の声に慌てて御影は弁明しつつ、金平糖の仕分けも忘れない。
 お手伝いだけでこんなに楽しいんだ。
 打ち上げはきっと、もっと。
 『グルタネーヴェ』。
 ポルトガル語で雪の洞窟を意味する言葉。
 山盛りスノーアイスを少しくり抜いて。宝物の様に、宝石に見立てたゼリーを忍ばせる。
 ヴィヴィアンと鬼人の二人は、目まぐるしく労働中。アネリーも忙しく客引きだ。
「俺の笑顔、ひきつってないか、ちょいと見てくれ」
「大丈夫、鬼人もいい笑顔だよ♪」
 屋台の中、交わす言葉。
「おう、こうやって二人で色んな人を笑顔にするの、楽しいな」
「うん♪ 休憩時間になったら、一緒にアイス食べようね」
「ならば、張り切ってがんばるよ!」


 夏野菜カレーの煮える匂い。
「いらっしゃい、いっぱい食べていってね」「こっちの唐揚げはお好みで選んでくれよ」
 カラフルで親しみやすい装飾に寄ってきた子に、しゃがんで目線をあわせたノルは笑いかけ。
 幸せそうに食事をする親子達。
 ああ、自分でも少し意外だ。自分の考えた料理を楽しんでくれる人が居る事がこんなに嬉しいなんて。
「色々と支えてくれてありがとう。――ノルがいてくれて良かった」
「……うん。これからも、おれが守るから」
 グレッグは幸せを作って守れる人なんだから。とても大切で、綺麗だと思った。
 鮮やかな薔薇のようなクッキー。塩桜花を添えた桜色のスコーン。
 チョコチップ入りパウンドケーキは断面が西瓜のよう。
「お、美味しく出来たかな?」
 レッドレークの育てたビーツを加工した菓子達を前に、首を傾ぐクローネ。
「良い匂いがしてきたからな、味見にきたぞ!」
 赤い彼が齧る赤い菓子は、派手な見た目だがどこか素朴で優しい味。
「砂糖の魔法使いの魔法は今日も絶好調のようだ!」
「ん」
「よし。皆の空腹も心も満たして祭りを盛り上げていくとしよう! ついでに俺様の農園の宣伝もな!」
 存分に味わわせてやろう!
「美味しいじゃがバターだよー」
 風花の声に合わせて、なの美がくるくると回る。
 ホクホク蒸したじゃが芋に切れ目を入れてバターをたっぷり。
 イチャイチャを見せつけられてぐぬぬっていた過去とは違うのだ。
 今日は沢山。
「この匂いはジャガ芋かしらー?」
「くんくん……、ばたーのにおいがとってもおいしそうです!」
「ねっ、ねっ、シアお姉さん、せっかくですしたべましょうよ!」
「ふふ、勿論ですわ」
「あっ、風花さんのお店だったんですね、ボクたちにもおいもくーださいっ♪」
 手をぎゅっと繋いで現れたのは、仲睦まじく歩くベルタとシアであった。
「ハイ、ドウゾー」
「シアお姉さん、フーフーしてたべさせてあげますね!」
「まあ、ありがとうございますの」
 ふーふー、あーん。
「……ぐぬぬ」
 今年も風花はぐぬぬであった。
 ブラジルはワインの産地としても有名だ。
「ようこそ日本酒の館へ!」
「あ、こんにちはアウラさん」
 お猪口を片手に。日本酒の呑み比べ屋台を切り盛りするアウラに、頭を下げたアイラノレ。
「エフィジェを操縦する船長さんには日本酒はお勧めできませんから、甘酒をたくさん持っていってくださいな!」
「へぇえ、甘酒って初体験ー、なんだか不思議な心地だよー」
 アイラノレの服裾を引いていたエトワールも、知り合いを見つけて少し一息。
「何か食べたいものや気になるもの、ありましたか?」
 果物系の屋台は無いかなとアイラノレ。
「ボクはチョコバナナとか焼きそばとかあとリンゴ飴食べてみたいかも!」
「ふふー、なら私がおごりましょう」
「わー、ボクたちの船長さんはやっぱり優しいね!」
 エトワールが跳ねる。
「お、その屋台ならあっちだな。後は、みやびの姐さんの屋台がそば扱ってるらしいし其処も寄りたいな」
 事前調査バッチリの雁之助は焼き鳥を齧り。備え付けられた机を陣取る見覚えのある一団を発見。
「しっかし、色んな屋台があるなあ」
「えっへへ~。おいしいものがいっぱいで、みなさんと楽しく過ごせて、わたしすごくすごく幸せですよぉ~」
 周りを見渡す彗の横で、揚げバナナを頬張るアンジュリーナ。
「アタシ達も何か企画すればよかったかしら?」
 トレイの上に様々な料理を乗せて帰ってきたカグヤが首を傾げ。
「それも面白かったかもしれないわね」
 彗に貰ったジュースを飲みながらなつみが笑う。
「よう、カグヤの嬢ちゃん達。お、そのソバ……」
 雁之助が会釈、手を振りご挨拶のエトワール。
「これ? みやびの所のソバよ」
「なにかおいしいものありましたかぁ~?」
 食べ物交換中のカグヤとアンジュリーナ。
「今から回る所なんですよ、あ、アウラさんの甘酒は美味しかったですよ」
 ワイワイ気のおけない仲間との時間。
「へえ、そうなんだね」
 なんとなくアイラノレから距離を取ってしまう彗は、複雑なお年頃であった。
 軽やかな風鈴の音に爽やかな蕎麦と出汁の香りが交じる。
 茶とカレーが名物の喫茶『エンノイア』の看板娘3人は、今日はおそば庵『思』の看板娘だ。
「あ、ありがとうございましたー」
 緊張するけれど、これも地球に慣れる為。硬い笑顔の詩奈は、細く息を吐き。
「ってもう次がっ!?」
 次々現れる客。何時も通りのメイド服で、調理場に立つみやびは柔らかく微笑み。
「頑張ってください。これも地球での生活に慣れるためです。度胸と愛嬌で飲食業界の頂点を目指すのです」
 棒読みの激励。
「た、助けてー! こんなに沢山の人に見られるなんて無理だよー!」
 泣きつく詩奈、恥ずかしがり屋としては頑張った方であろう。
「後はあたしに任せなさいっ」
 天花はよしよし、と詩奈をなだめ。浴衣で笑顔のおもてなし。
「いらっしゃいませ、ご注文どうぞ!」
 これぞ『エンノイア』の看板娘の実力だ。


「安くて美味しい和菓子は如何ですか? 日本の味をどうぞお試しください」
 大福に練り切り。和菓子、胡蝶蘭の出張屋台。
 普段よりも通気性の良い着物に袖を通したキアラとマダラ。
「……こ、こほん。いらっしゃいませー! あまーいお菓子、どうですかー♪」
 可愛く客引きするマダラ。
 しかし、時々視線はキアラへと。だって仕方が無いだろう。
 自分の恋人が可愛い格好をしているのだ。
「?」
 首を傾ぐキアラ。
 見とれていたマダラは慌てて目を逸らす。
「ここのお稲荷さんは他の所とはかなり違う」
「いなり寿司……ふぉっくす・すし!」
「何故なら早苗が真心を込めて作った、美味い・安い・可愛いの三拍子揃っているからである」
 真顔で淡々と早苗を全開に押し出し売り文句を囁くルルド。
「今なら3つ買えば早苗のスマイルも付いてくる」
「ルルド、ルルドや……」
「何だ?」
「売り込むのは良いんじゃが、もうちょっとこう、愛想よくじゃな……」
「解った」
 解ったのか?
「……まぁよいか、その分わしが可愛くいくとするのじゃ!」
 諦めた早苗であった。
 オウマ式カレーうどんとだけ書かれた板に具の溶けたカレーうどん。
 泰地の提供する料理は質実剛健と言える実直な物だ。
 それでも集まる人々は、カレーの香りは日本人ならずとも惹かれるものなのだろうか。
「めしあがれ!」
 きっと彼の人柄も、味の一因でなのあろう。
「あー、美味しかった。次はどこに行こうか?」
「あっちのお店に行ってみようよ!」
 去年はお店側だったから、今年はお客さんで。
 真白の問いに、屋台を指差す小熊。
「……あ、ごめん。ちょっと止まって」
「ふぇっ!?」
 近づく顔。高鳴る鼓動。
「……」
 突然真白に頬を舐められ、目を大きく見開いたままの小熊。
「ソース、ついてたよ? ふふっ」
「もう、真白ちゃんったら、……ありがとね」
 小熊はくすぐったそうに照れ笑い。真白も悪戯げに笑って、小熊の手を取って歩きだす。
 ロゼ・アウランジェ――アイドル歌手A-Astraea。通称『A.A』のバラードがピアノに乗せて絢爛に響くトラック屋台の店内。
 白に薔薇。金で彩られたカフェスペースに散る星雪は、鯨型星海客船の中の如く。
「いらっしゃい! 爽やかで美味しい甘味はいかが?」
 船のクルーのセーラー制服をなびかせて、季由が誘う暫しの星海旅。
 ここは曲中のカフェ《A-Rose》をイメージしたコンセプトショップだ。
「当店のおすすめスイーツ《星ノ眸-Roseofthesea》はいかがでしょうか?」
 透希がメニューを差し出しながら笑み。
「ステラさん、ちょっといい?」
 ロゼの声に、くるくる、きらきら。
「勿論じゃよ」
 どうか夜明けの微笑みを。ステラが笑って応える。
 星の様に白い睡蓮――ぽんと音を立てて開く花々に、エニーケは声を漏らし。
「演出までお見事ですわね! ふふふ、というわけで……、くーださーいな♪」
「……えへへー。かしこまり、ましたー。頑張るのー」
 魔法は得意、と。動物のオブジェクトを作っていたリィナが頷き。
「いっちょ、あがりなのー」
 差し出されたスイーツをエドウィンがエニーケへと提供する。
 鯨模様の容器に盛られたかき氷の上には星空のラムネゼリー。きらきら琥珀糖に薔薇の花弁。スターフルーツ、薔薇のシロップもたっぷりと。
「どう、エニーケさん?」
「星への憧れに、楽しさがいっぱいなコンセプトメニューですわね!」
 尋ねるロゼへと瞳を輝かせるエニーケの姿に、エドウィンもなんだか感動してしまう。
「……こうして自分のアイデアが形になるって、なんだかとっても嬉しいね」
「うん、うん」
 魔法の動物を作るのも、楽しくて嬉しい。リィナが頷く、そんな店内の一角で漂う豚骨の香り。
 セーラーの上に纏った白衣は彼の魂。
「おつかれさん。そろそろ小腹も減っただろ?」
 にゃ、とミコトが応え。幸せそうに頬張るのはまかないも兼ねた、久遠のラーメンだ。
「ミコト、お前ずっとラーメン食べてるじゃないか! 招き猫でもしてくれ!」
 季由の声にも知らん顔。更に麺を啜るミコトの横にはステラが座り。
「余もいただくのじゃー♪」
 感謝の気持ちは、ロゼの歌声と恋文を秘めて。
「ん、たまにはこんな日もいいものだ」
 笑顔は一番の駄賃。店内を見渡した透希は、満足げに笑った。
 暑い季節にぴったりのアイスクリン。
 アイスクリームよりもあっさりで、とても美味しい。
 そして何より量産がしやすい!
「もれなく3段載せ! さっぱり氷菓のアイスクリンはいかがですか~!」
 麦わら帽子のディアナの呼びかけに、ちりと風鈴の音が重なった。
 はぐれない様に。空を切った掌に月は苦笑を。
 そこで背を突かれ、振り向いた。
「えと、それはどこから……です?」
 巨大な肉、思わず笑みを零す月。あの日の名残だろうか。
「お店、教えてくださいです」
 あの子にも教えてあげよう。月は夏雪と歩みだす。
「さーいらっしゃい、日本の味、冷たい素麺はいかが?」
 元気な小町の呼びかけ。普段は呪いを作る工房の面々は、本日は素麺を販売中。
 茹でた素麺に冷たい汁をかけて完成だ。
「冷たい喉越しで美味しいよ~」
 セイシィスが器を手渡し、マリアが屋台裏で手をひらひら。
 分かりやすく食べ方の手順や薬味の説明のプレートを添えた素麺は、物珍しさもあるのか人々がひっきりなしに訪れていた。
「あっ、それはすんごく酸っぱいから注意してね?」
 梅干しに手を伸ばした客に、酸っぱい顔をしてみせる小町。
「ブラジルで日本の麺料理、というか日本のラーメンが流行っていたのは驚いたわね」
「それもあるのか受け入れが早かったですね」
 雑談しつつも手は止めず。
「ありがとうね!」
「美味しくたべてね~」
「楽しく過ごしてくださいね!」
 三人並んで、笑顔でお見送りだ。
 日本で馴染みの屋台も、珍しい屋台も。
「むむ、悩むわね。こうなったら、端から端までぜーんぶいっちゃいましょ♪」
「慌てなくても屋台は逃げぬよ」
 はしゃぐさくらを呼び止めて、しっかりと手を握るヴァルカン。
「良い匂い! あ、あっちには行列ができてるわよ!」
 彼の気に入ったものがあれば、レシピを知りたい。……だって、好きな人の好きなモノは自分で作れる様になりたいもの。
 焼串を差し出し、緩んだ笑み。
「はい、ヴァルカンさん、あーん♪」
「ん」
 ――ああ、我ながら、心底惚れてしまっているのだ。


「ブラジルでは、日本人のアーティストが結構活躍しているんだ」
 なんて、陣内は店前で絵筆をふるう。
「はいはい」
 笑って応えたあかりの手元は香ばしい匂い。
 タコ焼きを冠していても、中身はチーズ。味見を望み揺れる尾を目で追い。
「はい、どうぞ」
 一番最初に出来たたこ焼きに、モヒートを添えて。
 お代には十分すぎるだろう絵の中には、今日を祝福するみたいに青空に天使が踊っている。
「さて、親指姫のご注文は?」
「タマちゃん特製のカフェオレをお願いしようかな」
 こんなに遠くても、空は繋がっている。
 食道楽、健啖家。アイヴォリーの食への情熱は、何と評するべきであろうか。
「君の胃はブラックホール?」
「まあ、有限の胃袋を悔やんでいるところですよ?」
 肉串を齧る彼女の腰へと夜が腕を回してみても、身体は細いまま。
「貴方が美味しそうに食べていると、わたくし、もっとお腹が空くのです」
 夜が彼女の串を齧ると、屋台ならではの味。
「……ところで、半分こすればより多くの種類が食べられますね?」
 提案に喉を鳴らしてカステラを彼女の口へ放る。
 何を食べても美味しいのは、きっと――。
「はっ、お土産はすもも飴がいいです!」
 蕩ける笑顔は甘味よりも尚甘い。
「たこ焼きを……否! ここはもうひとふた工夫。タコのかわりにワニ肉を具材にしたクロコ焼きといこうじゃん?」
「え、クロコ焼き?」
「更にオリジナルTCGでも使えるカードをプレゼントだ!」
「ええと、調理は将さんにお任せします」
 と、言うわけで霞は売り子、将は調理担当となったのであった。
 二人で目まぐるしく働く屋台。
 忙しくドタバタ大騒ぎ。
「こういうの、ちょっと楽しい、っつか……たまには、悪くないね」
「そうですね、たまには悪くないです。でも、今度はもう少しゆっくりしたいかも、なんて」
 リティアの圧力により始まった屋台。
 屋台にも準備は必要だ。食材が魔法の様に現れる事は無い。
 怪力無双。
 さつま芋の箱を抱えた雄太が汗を零す。
「重てェな……!」
 バターたっぷり、お砂糖蜂蜜もたっぷり。
 あつあつほっくり。
「うままぁ~♪」
「なるほど、これが薩摩芋揚げ」
 ふぅふぅ、とテトはよく冷まして一口。
「バターとはちみつがだいぶ罪深い味してますね」
「ほくほくっ。とっても美味しいですよ」
 幸せそうに頬張るルリ。
「では味見も終えた所で早速」
 リティアが水気をよくきった芋を、油に――どばちゃ。
「あっっい!」
 跳ねた油。リティアも後ろに跳ねる。
「リティアさん大丈夫ですか?」
「ふえぇるりるり~」
 駆け寄ってきたルリにすり寄るリティア。
「痕が残ってしまってもいけないので冷やしたほうが良いですね」
「もうちょっとお淑やかに揚げましょうね」
 ノイアが氷嚢を差し出し。クィルが瞳を細める。
「私はいつだってお淑やかですよ!」
「思い切りの良さ、俺は好きですよ」
 くーちゃんたら失礼! と頬を膨らせたリティアに、テトが長い耳を揺らし。
「ああもう……っ! 揚げ物はこっちでやるから、店舗は頼んだ!」
 芋の箱を置いた雄太が駆け込んでくると、女子に怪我をさせるわけにはいかないと揚げ物を始め。
「僕も揚げるのをお手伝いしますね……、でも、すごく暑いですね……」
「確かに屋台で揚げ物は暑いですね」
 並んで芋を揚げ始めるクィル。
 店舗に出たノイアが、飲み物を用意しましょうかと首を傾ぎ。
「暑さは割と平気な方なので、俺とも交代しつつしましょう」
「暑さに耐える少年ズ……、素晴らしき……」
 相談する二人を拝むリティア。
「……ティア、後でかき氷を奢ってください」
 嫌な悪寒、クィルが肩を竦め。
 リティアが指で丸を作った。
「終わったらみんなでカキ氷食べにいきましょ♪ 私のおごりやで!」
「私は働いてもいますから自分で払いますよ」
「ノイアさんは割と律儀な方ですね」
 生真面目なノイアにテトは笑う。
「かき氷もとっても楽しみです♪」
 盛り付けをしながら、ルリも笑った。
「さぁ、お披露目の時間だ!」
「じゃーん、シュラスコ。それに、タピオカだよ」
「絶対美味しいヤツじゃんそれ!」
 リーズレットとうずまきの、上限額を決めてのお買い物バトル。
「私はね、駄菓子!」
 ほら、綿飴もあるんだぞ、とリーズレット。
「あ、後はプレゼント」
 綿飴に瞳を輝かせつつうずまきは、もう一つ。
「ミサンガ!」
 願いが叶って幸運が訪れますように、なんて。
「嬉しい、でも私の願いはもう既に叶ってるのだ」
 一緒に居る事が一番の願い事、なんて。
「り、リズ姉……」
 感極まったうずまきは、リーズレットに――。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:易しい
参加:65人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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