ケルベロス大運動会~南米スポーツ特集号!

作者:つじ

●開幕、ケルベロス大運動会!
 昨今の度重なる「全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)」の発動により、世界経済は大きく疲弊してしまった。そこで、この経済状況を打破する為、おもしろイベントで収益を挙げようという動きが、今年も自然と巻き起こった。そう、それがケルベロス大運動会である。
 ケルベロス達に通常のダメージは効かない。そこで、世界中のプロモーター達が、危険過ぎる故に使用できなかった「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々を持ち寄り、スポーツの祭典を行う事になった。
 例年のことながら、人智を超えたスポーツの光景は市民に大人気である。

 そして今回、第3回ケルベロス大運動会の開催地に選ばれたのは、ブラジルの『アマゾン』! 広大なアマゾン川と鬱蒼たるジャングルで、様々な種目が繰り広げられる――!
 
●サンパウロ空港
「良いか、何事も出だしが肝心だ! ここで押さえた映像が後々効いてくる事も、十分あり得る。有力選手は絶対に逃がすなよ!」
「分かってますよ、我々だって素人じゃないんですから」
 空調の利いた部屋から怒鳴る上司をあしらいつつ、サンパウロ空港に陣取った取材陣達は各々に器材をチェックしていく。
 カメラにマイク、レコーダー。テレビ局陣営との提携もあり、照明やら何やらでいつもよりものものしい。
「とはいえ、普通のスポーツとは毛色が違うからな……『誰がどの競技に出るか』ってだけでも価値はあるか」
 ――『〇〇として有名なA氏があの競技に挑戦!』、などという感じだろうか。意気込みも添えられればなお良い。
「あとは、そうだな。『どれくらい凄いか』ってのが記事にしやすいと助かるんだが」
「何かパフォーマンスしてもらえると話が早いな」
 こればかりは、取材される側であるケルベロスのサービス精神次第だろう。
「パフォーマンスと言えば、たとえばあれか。俺達取材陣を振り切って逃げた、とか」
「まさか。いくら何でもそれは無理だろ」
 記事に落とす上での見立てを語り合っていた一同が、はっはっは、と快活に笑う。よく見ると、スタッフの体つきは軒並み――。
「よし、そろそろ飛行機が着くそうだ。いくぞ!」

 ……この人達なんか足速くない?
 そんな事を考えている間に、ケルベロス達は取材陣に取り囲まれることになるだろう。


■リプレイ

●インタビュー映像
 サンパウロ空港。記者達が焦れながらも待ち受けるそこに、ケルベロス達を乗せた飛行機が到着した。
 着陸した飛行機は、ゆっくりと滑走を走り、やがて停止する。
 出入口にタラップがついて、扉が開く。その瞬間に、誰よりも早く一人の男が転がり落ちてきた。
「……!?」
 戸惑う記者達を他所に、その男……蒼眞は平然と起き上がり、空港外に向けて歩き始めた。
「……おい、話聞いて来いよ」
「は、はい!」
 上司に促された新人ライターが蒼眞の話を聞きに行き、取材から戻ってきた。
「何か……女性の胸に飛び込もうとして、蹴りだされたらしいです……」
「ええ……」
「そうか、あれが例の」
「ああ、『落ちる男』ってやつか……?」
 こんなものどうやって記事にしろと言うのだ。記者達は頭を悩ませながら、次の乗客に注目を移した。
「璃音さん、南米スポーツです! 是非お話を!!」
「やあ、お出迎えありがとう」
 2世ケルベロスとしての名声もあるのだろう、飛行機を降りるなり全力疾走でやってきた記者達を優雅に迎え、璃音は快くインタビューに応じる。大運動会のための水着は勿論、その上にゴスロリのドレスを着込んだある意味厚着だ。
「衣装の拘りが素晴らしいですね! でも暑くありませんか?」
「大丈夫だよ、いつももっと暑いところにいるからね」
 南米の太陽の下でそう言い放ち、笑みを交わしたところでインタビューは本題へ。
「音撃スナイパーとして勇名を馳せる璃音さんですが、今年の出場競技は?」
「もちろん、『サンバdeブラボー!』だよ。また初見で最高得点を叩き出してみせるからね」
 トレーニングもばっちり、と璃音は練習した曲を口ずさみながら敵を倒す仕草を見せる。パフォーマンスに集まっていた野次馬達も湧く、が。
「おい、課題曲ってこれだったか?」
「いや……あんな自信満々なんだから、な?」
「どうかした?」
「いえ、何でもありません!」
 そんなやりとりを交えた後、璃音は皆に手を振って去っていった。
「それでは、本番での活躍を期待していてね」
「もちろんです!」

 次の取材対象を探していた記者達が目を付けたのは、狼の尻尾振りながら降りてくるウェアライダーの少女だった。
「知ってるか、あの子?」
「いや、多分初出場だろう。しかし――」
 手にした巨大なガトリングアックスが、彼女がただものではない事を物語っている。
 記者の勘によるものか、クロエもまた瞬く間に囲まれていた。
「――競技はほとんど出る予定だよ。とりあえず挑戦してみないことにはわからないかな」
 やはり、初出場。この後の彼女の活躍次第では、この映像は貴重なものになるだろう。記者達にも気合が入る。
「でしたら、得意分野は?」
「んー、ロープを使ったアクロバティックな行動が得意だから、クライミングとかは得意かも」
 それぞれに記事の内容を組み立て始めた記者達に、こちらからもとクロエが口を開く。
 語られるのは先のケルベロスウォー、熊本での決戦の記憶だ。彼女も、勿論それに参加していた。
「皆さまの支援を頂きまして、我々ケルベロスが自由に動けるので常に感謝しております。
 運動会頑張ります。声援宜しくお願いしますね!」
 視聴者、そして読者に届くようにとそう言って、彼女は笑顔で跳びあがった。
「それでは!」
 手を振りながら、空中でもう一跳び。ダブルジャンプを決めて、クロエは空港を後にした。

 続けて降りてきたパンツスーツの女性に、取材陣が目を付ける。
「おっ、あれは『街を吹き抜ける風』空国・モカだな」
「一般的な知名度は低いが、ケルベロスマニアには男女問わず人気だよな」
 キャリーバッグを手に歩いていく彼女を追って、彼等はマイクを向けた。
「モカさんもご参加されるんですね。今回、特に力を入れる種目は?」
「昔取った杵柄で、ケルベロスナイパーを頑張ってみようかと」
 一瞬で刃を生み出し、鋭く輝く指先を見せつけて彼女は答える。おお、と取材陣の中から驚きの声が上がった。
「ライバルはいますか?」
「あー、友人には負けたくない……かな」
 少し考え、困ったような微笑を浮かべる。
「グルメのモカさんがブラジルで食べてみたい料理は?」
「色々食べるぞ」
 郷土料理や創作料理、屋台村などイベントは盛りだくさんだ。きっと新たな味との出会いがある事だろう。
 そう笑って、モカは颯爽と歩いて行った。

「スポーツって性に合わないんだ。ルールやら団体行動やらチームワークやら……正直だるい」
「競技が全てってわけでもない。ぼちぼち行こう」
 到着前にそんな事を言っていたイサギと陣内も、早々に記者に囲まれていた。
「お二人も、相当な実力者とお見受けしました!」
「どの競技に出場されますか? 自信の程は!?」
 若干面倒くさい気配を察した陣内は、即刻隣のイサギを売った。
「こいつは羽根があるからな。ジャンプ系は強いぞ。なんだっけ、去年は――『銀の弾丸』? 『ケルベロス界のハヤブサ』だったか?」
 本気かその二つ名、詩情の欠片も無いな。視線でダメ出ししながらイサギが話を合わせる。
「『天翔る白銀』だよ。『漆黒の弾丸』君。
 日常的に空を駆けるオラトリオの能力を以てすれば、ジャンプなど障害でも何でも無いさ」
 銀色の髪を風に流したイサギの言葉に、おお、と記者達から歓声が上がる。
「それに彼、ウェアライダーの敏捷さには目を見張るものがある。今回はサッカーがあるというね、活躍を楽しみにしているよ」
「いいか、言っておくがウェアライダーはボールじゃないぞ」
 弾丸の名から想像される『活躍』に釘を刺しつつ、陣内は一歩下がる。自分が言い出したこととはいえ、記者の反応は少々白熱しすぎている。
「どうする?」
「逃げるぞ、このままではきりが無い」
 頷き合って、行き先を確認、そして。
「日頃の援助に心から感謝いたします。運動会をお楽しみ下さい」
 そう言ったイサギに、小さなクロヒョウに変じた陣内と、猫が飛び乗る。
 黒翼が一打ちされ、『天翔ける白銀』と『漆黒の弾丸』はその名の通りに舞い上がっていった。

 マイペースに歩いていた所を、記者達に取り囲まれてしまった者も少なくない。
「ケルベロスの方ですよね! お名前を教えてもらっても?」
「はい、八千草と言います」
 保もまた、その一人。
「失礼ながら、八千草さんは本大会が初出場でしょうか?」
「一昨年、ぱずるでちょっとだけ顔が出ましたけど。……昨年はお昼寝してたら終わってしまい……そやね、お昼寝の八千草ってとこです。……あかん?」
「はあ……」
「それでは、えーと……ど、どの競技に自信がおありですか? できれば意気込みもお願いします!」
 明らかに反応に困った様子で互いの顔を見た後、インタビュアーが問う。
「そやね、『ジェットパッカーで頭を角にぶつける早さが天下一品』。それなら、有名になれそな気がする……うん、そんな感じで」
「ええと……?」
「困っておいでですか? いけませんねえ」
 困惑する取材陣の合間に、人ごみから流されてきたサヤが到着する。
「只ひとつ言えることは――……そうですね。
 大運動会とは、肉体の強靱さを競うばかりではないということです」
 ふふん、と笑うその姿は、まるで核心をついたかのよう。
「戦場の華を愛でることもたしなみのひとつ。
 記者の皆様におかれましても、多様な視点で運動会を楽しんで頂けましたら幸いです」
 格好いいセリフは記者達に歓声を上げさせる。だがもう数人にはバレていそうだが、実際の所、サヤは当日売り子やったりパズルしたりで忙しい。
「ちなみに、サヤさんはどの競技に?」
「……ふふ、それは当日のお楽しみです」
 こちらも堂々と言い切った。が、どうにもマイペースそうな外見もあり、疑いの目は幾つも向いている。
「何や恥ずかしゅうなってきましたわ」
 ばさりと翼を広げ、保が飛び上がるのと同時に、彼等は驚愕の声を漏らした。
「おい、アイドルが降りてきたぞ」
「quatre☆etorirか?」
「いや、違うな――!」
 がやがやとした騒ぎの後、彼等はすぐに移動を始める。
「あっ、あとあと、屋台村の鴉の宿り木亭をどうぞ宜しくお願いいたしますねえ」
 次の流れに飲み込まれていくサヤの声を背景に、空港の天井で頭をぶつけた保が降ってきた。

「着きましたね! 運動会頑張りましょ……う?」
「A.Aさんと鞠緒さん……『にじいろミューズ』ですね! 是非お話を!」
 飛行機から降り、伸びをしていたロゼと鞠緒はあっという間に記者に囲まれてしまった。歌手にアイドルユニット、舞台女優と複数の顔を持つ彼女等なら、それも仕方ない事か。
「スポーツ紙と言っても、本格的なものなのですね」
 南米スポーツ、という名乗りを聞いて鞠緒が呟く。実のところ運動が苦手なロゼは内心慌ててしまうが……。
「参加される競技について、意気込みを聞かせてください!」
「踊るのは好きだけれど、実は運動はそれほど得意では……。
 でも動物が好きですから「ジャングルの戦士」で触れ合えるのを楽しみにしています」
 堂々と答える鞠緒に続いて、すぐに眩い笑みを浮かべた。
「私も、七彩の薔薇の様に華麗に艶やかにパズルを解いてみせます!」
 アイドルとは、常に笑顔で期待に応えるもの。目配せを交わした二人は揃って走り出し、健脚自慢の記者達が反応する前にばさりと翼を広げた。
「ああ……」
 逃がしてしまった、けれど感嘆の息を漏らす記者達の上に、虹色の薔薇と水色の牡丹が舞う。
「ごめんなさいね!」
「それでは、皆さんにこの曲を――」
 ウインクを一つ投げて、ロゼと鞠緒が歌いだす。
 曲は『にじいろミューズ』の、『光と虹のポルカ』。
 二人の歌声に合わせて、雪の結晶と虹の光が踊りだす。南国の太陽を受け、それらは眩く輝いて。
「運動会、ご期待あれ!」
 記者と野次馬、観光客の拍手と声援に手を振って、二人は空港から飛び去った。

「適材適所、派手な演出はお任せしますよ……っと」
 一時コンサート会場のような盛り上がりを見せた空港から、人波に紛れて樹が歩み去る。イシコロエフェクトの効果も交えて、飽くまで普通に、気負わずに。
 彼女等を追っていた記者達はやがて気付くだろう、皆の背に張り紙がされていることを。
「お仕事お疲れ様です、ってね」

●南米スポーツ、ケルベロス特集号
 来たるケルベロス大運動会に備え、南米スポーツは総力を挙げて、サンパウロ空港を訪れるケルベロス達を取材した。

●『実力者、続々到来』
 大運動会の花形と言えば各種エクストリームスポーツに挑戦する実力者達である。この日も、幾人もの実力者達がブラジルの地を踏んだ。かの優秀なケルベロスを両親に持つ『音撃スナイパー』こと夢見星・璃音もその一人だ。例年高スコアを叩き出している彼女は、事前準備に多少穴が見られたが、今年も『サンバdeブラボー!』での活躍が見込まれるだろう。
 『天翔る白銀』月杜・イサギと『漆黒の弾丸』玉榮・陣内も揃ってサンパウロ空港を訪れた。弊社の誇る取材班でも追い切れなかった素早さはその異名に違わぬものだった。空舞う白銀は『アマゾンジャンパー』、地を跳ねる弾丸は『キャプテンサッカー』での動きに注目したい。また、陣内に関しては子供達とのサッカー交流会にも参加が決まっている。
 『街を吹き抜ける風』空国・モカはその名の通り颯爽とサンパウロ空港を駆け抜けていった。友人をライバルと定めた彼女は、『ケルベロスナイパー』を実力発揮の場と見ているようだ。また、『落ちる男』日柳・蒼眞もその名に違わぬ登場を果たした。その力がどの競技に作用してくるのかは未知数。当日飛躍するのか、それとも落下するのか、読者諸君も自らの目で確認してもらいたい。

●『取材班期待の新星はこちら』
 有名選手は数居れど、誰もが最初は無名なもの。そんな新規参加者の中で、南米スポーツ一押しの選手を紹介しよう。クロエ・ルフィール。若干14歳、そしてまだ日が浅いながらもケルベロスとして精力的に活動しており、先のケルベロス・ウォーにも参加、一定の戦果を挙げている。巨大な武器を取り回す膂力、そしてそれを支える身軽さは弊社取材班も太鼓判を押す。初挑戦となる各競技にどれだけ慣れる事ができるかが、活躍の鍵となる。是非とも新風を巻き起こして頂きたい。

●『にじいろミューズ、サンパウロ空港に舞う』
 腕自慢の者達が集う中、別の有名人も姿を現した。アイドルグループ『quatre☆etorir』から、『にじいろミューズ』の二人、遠之城・鞠緒とA.Aだ。舞い降りた天使の如くサンパウロ空港に歌声を響かせてくれた彼女等だが、その飛翔の際の動きはただものではなかったとの情報も得られている。各種スポーツ競技、またはカーニバルやダンス会場にて彼女等を目にすることもできるだろう。

●『コラム:エクストリームばかりではない、大運動会の楽しみ方~昼寝の勧め』
 我等が南米スポーツでは、その名の通りスポーツを中心に取材を行っている。だがそれだけでは満たせない大運動会の楽しみ方について、平坂・サヤ、八千草・保の両名が提言してくれた。各種スポーツ競技を彩る水着姿のケルベロス達、スポーツの祭典に伴う屋台などの出し物、言うなれば戦場における彩りも、この大運動会には欠かせぬ要素である。そしてハイスコアにばかり興味が集まる中で、微笑ましい失敗もまた花を添えるもの。各人、結果ばかりを追うのではなく、時には昼寝を交えつつ、大運動会を余すところなく味わってほしい。

●『編集後記:秘密のままの秘密兵器?』
 サンパウロ空港での激務を終えた取材班の背には、揃って労いの言葉の書かれた張り紙が為されていた。恐らくこれはケルベロスの仕業であり、我々はその存在、行為に誰一人気付けなかったという事になる。
 ケルベロスの中には、まだ見ぬ実力者が潜んでいる……!

●『広告:屋台村にお越しの際はぜひ鴉の宿り木亭へ! 出来立て熱々鴉印のフィッシュアンドチップスが300円!』

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:易しい
参加:11人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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