オーク倒すべし、慈悲はない

作者:零風堂

 暑い日差しが水面に反射し、きらきらと無数に漂う光の鱗のように連なって揺れている。
 汗ばむほどの陽気の中で飛び交うのは、少女たちの歓声。
 この、とある女子高の屋外プールでは、泳力に自信のない者や、体調不良で授業に参加できなかった者のための、水泳の補習授業が行われていた。
 授業の内容は初歩的なものや基礎練習が多く、それほどハードなものではない。また担当の女性教諭もまだ年若く、特に厳しい人物ということもなかった。
 それ故に、水泳の補習授業が穏やかな雰囲気で進んでいたのだが……。そこへ招かれざる客が現れた。
「きゃあああああっ!」
 突如として開いた魔空回廊から、次々とオークたちが這い出してくる。オークたちは下品な笑みを浮かべながら触手を振るい、女子生徒たちを捕らえて弄び始める。
「ブフォフォフォフォッ!」
 そうして女子生徒たちはオークたちの魔の手によって、何処かへと連れ去られてしまうのであった。

「……という事件が発生するっていう予知があったっすよ」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の話を聞いて、ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)を始めとしたケルベロスたちは、真剣な表情を浮かべていた。
「魔空回廊を使い、女生徒たちを連れ去ろうだなんて……。放ってはおけませんね」
 ティニの言葉に仲間たちも頷く。
「ただ、先に女生徒さんたちを避難させてしまうと、このオークたちは別の場所に現れるようになってしまうらしいっす。こうなると何処に出るか分からなくなって、被害を防げなくなってしまうっす。ですから女生徒さんたちの避難は、オークが出現してから行う必要があるっす。避難が完了しないまま戦闘になってしまうと、戦闘中にオークが女性に悪戯しようとするかもしれないんで、出来るだけ避難させてあげて欲しいっす」
 オークから守りながらの避難となるので、注意しなければならないだろう。
「ただ、現場は屋外のプールっす。敵の出現から即座に降下できるんで、潜入なんかの手間はいらないっすよ」
 それからダンテは、敵の詳しい情報について説明を加えていく。
「現れるオークは全部で12体。特に強い個体とかリーダーなんかは居らず、だいたいが同じ強さみたいっすね。例によって触手を使った突き刺しや絡みつき、溶解液なんかで攻撃してくるっすよ。女性たちは生徒が18名と先生が1名っす。プール内に生徒が居る場合もあると思うんで、逃げ遅れる生徒さんが出ないよう注意したほうがいいかもしれないっす」
 プールは足の着く高さなので、特別に水中呼吸などが必要になるほどでは無いだろう。と、ダンテは付け加えた。
「オークの好き勝手にさせる訳にはいきませんね。皆さんで力を合わせて、女性たちを助けましょう!」
 意気込むティニに応えるように、ケルベロスたちも頷くのだった。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)
深園葉・星憐(天奏グロリア・e44165)
シャイン・セレスティア(光の勇者・e44504)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
ニーベルン・フェリミニオン(ドラゴニアンのゴッドペインター・e64638)

■リプレイ

 眩しいほどの日差しの中で、女子生徒たちの歓声と共に水飛沫が舞う。平和なプールでのひと時は、異形のデウスエクスの出現によって打ち破られてしまう。
「ブフォ、ブフォッ、オンナ、オンナッ」
 異臭を放ち、背から生えた触手を不気味に動かしながら、オークたちが魔空回廊から這い出してくる。
「きゃあああっ!」
 異変に気付き、悲鳴を上げて逃げ惑う女子生徒たち。しかしオークの触手は容赦なく伸び、女子生徒たちを嬲り、連れ去ってしまう――。そんな悲劇が、もうすぐそこまで迫っていた。

「オークごとき、勇者であるこの私が蹴散らしてあげます!」
 ほんの少し前に、特殊迷彩を施されたヘリオンが女子高の上空に到着し、機内ではシャイン・セレスティア(光の勇者・e44504)が服を脱ぎ捨て、下に着ていた水着姿になっており、降下の準備は万全といったところだった。
 予知を変えることのないように、オークの出現を待って……。ケルベロスたちは次々に降下を開始する。

「いやっ、やめてぇ!」
「ブヒ、ブヒヒ……」
 転んで逃げ遅れた女子生徒に、オークは荒い息をつきながら触手を伸ばしてきた。濡れた表皮がぬらぬらと不気味に艶めいて、粘着性の高い液体が、ぽたりぽたりと滴り落ちている。
「やらせません!」
 飛び降りざまに振り下ろされた混沌の刃が、触手をぶった切る。ワイルドウェポンを繰り出した深園葉・星憐(天奏グロリア・e44165)に続き、着地したガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)が、オークの腹を蹴って弾き飛ばした。
「皆さん、こちらに逃げてくださーい!」
 星憐は素早く周囲を見回して、避難経路を確認。そのルートを指し示すように、声を張り上げる。
「さあ、先生も急いで避難を!」
 ガートルードはプリンセスモードで豪奢に変身し、女生徒達が怯えて動けなくならないように励ましていた。ハッとした様子で先生の指示もあり、女子生徒たちがプールから逃げ出そうとざぶざぶ水を掻き分けていく。
「ブヒッ、逃ガサンブヒィ!」
 慌てて触手を伸ばして追いかけてくるオークだが、その足元に、無数の手裏剣が突き刺さる。
「お前ら……、そこまでだ」
 一瞬遅れてグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)が着地し、啖呵を切って顔を上げた。
「夏の悪い虫は、まとめて退治の時間だぜ」
 僅かに遅れて降下中に繰り出していた手裏剣たちが、オークの手足や触手に突き刺さっていく。
「この暑さの中で、快適なプールに現れるのは、いつも以上に迷惑ですね」
 東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)は女子生徒たちを励ませるように重武装モードで現れていた。それでも大きなリボンとまんまる眼鏡は変わっておらず、彼女のこだわりを感じさせる。
「この手で……、私の未来を切り開くのです!」
 両手に集中させたエネルギー塊を、追ってきていたオーク目がけて発射する。猫の足跡を思わせるような衝撃が、オークの顔面をバシッと叩いて怯ませた。
「…………」
 嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)は、プールの中で転んで逃げ遅れていた女子生徒を助け起こし、担いで連れ出す。
「あ、ありがとう……」
 オークに怯えながらも、辛うじてそう言う女子生徒に、タツマはやれやれと思いながらも軽く指を立てて応えておいた。
「さあ、しっかりつかまってくださいませ! 遠慮なさらずに、さあ!」
 ニーベルン・フェリミニオン(ドラゴニアンのゴッドペインター・e64638)が手を引いてプールサイドに引き上げ、他にも駆けつけた黒い鎧のケルベロスが、女子生徒たちをプールから連れ出していく。
「に、逃がさんブヒーッ!」
 触手から溶解液を吹き出しながら、オークたちが追いかけてくるが、その目前にカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)が立ち塞がる。
「授業の邪魔はさせませんわよ」
 薔薇の花が咲き乱れるかのような真紅の軌跡を描きつつ、足元に生じた熱を炎に変えて解き放つ。
「この炎で、焼き豚にしてあげますわよ!」
 蹴り出した炎をオークに叩き付けると、カトレアは優雅にドレスの裾を摘んで翻す。同時に凛と涼やかな音が、紅玉の飾りから鳴り響いた。
「……」
 小さく息を吐き、タツマは闘志を高めて構える。愛用のオウガメタルが気配に反応して身に張り付くが、オークの方は相変わらず、女性の尻を追いかけ回すのみ。ここで敵意に反応するような猛者を期待していたわけではないが、あまりにも予想通りで拍子抜けしそうになる。
 それでもタツマは槍を振り上げ、触手を払い、オークを薙ぎながら突き進んでいった。
「ブフェ!?」
「ゲボォ!」
 悲鳴を上げ、蹴散らされていくオークたち。
「光の勇者の力よ、我が剣に宿り敵を討ち滅ぼせ!」
 そこへシャインも降り立ち、オークに向けて光り輝く剣を振り上げる。
「受けてくださいっ! 勇者斬っ!」
 斬撃がオークを脳天から両断し、その活動を停止させる。注目を浴びたシャインに対しては、別のオークが足元に触手を伸ばしてきていたが……。
「邪魔しないでください!」
 星憐がそれにいち早く気づき、巨大刀に変形させた腕で、思い切りぶった斬っていた。
 オークたちの悲鳴が上がるなか、ガートルードがシャインの手を引いて立ち位置をフォローし、続けざまに刃を振り下ろす。刀身に刻まれた蠍座の紋章が煌めいて、地面に守護星座を描き出していく。
「うら若き乙女たちに対する蛮行……。そういうのは薄い本の中だけで結構ですわよ!」
 ニーベルンが胸に手を添えて、黒き鎖を解き放つ。それはニーベルンの内に巣食うエゴに形を与え、力の向くままに暴れさせる暗黒の術。
 ニーベルンの精神力で暴走を抑えつつ、オークの触手を捕らえ、四肢を縛り上げていく。
「ブ……、ブフォッ!」
 そんな中でも触手をそそり立たせ、ニーベルンの顔面を狙って溶解液を発射してくるオークがあった。
「させねえよ!」
 割って入ったグレインが、プロテクターで溶解液を受け、それはそのまま捨てて床を蹴っていた。瞬く間に距離を詰めれば、敵が反応するより先に、螺旋の力を掌から腹部へと捻じ込んでいた。
「ガフォッ!?」
 何かを吹き出しながら崩れ落ちるオークから、グレインはバックステップで身をかわす。左右からグレインを追って触手が突き出されるが、その像が揺らいで消えた。
「おう、助かったぜ」
 ティニ・ローゼジィ(旋鋼の忍者・en0028)が分身の術を施していたらしい。ティニ自身はオークの足元を狙って銃撃を続けながら、グレインの声にひとつ頷いた。
(「さすがですねティニ君。私だって……!」)
 シャインが迫り来るオークの触手を跳び越えて、バスタードソードの刃を水平に構え、力を溜める。静かに闘気を高めてゆくシャインに、涎を垂らしながらオークが迫ってくる。
「ブフォフォ……フォ!?」
 そのオークの頬に、ウイングキャットのプリンが尾のリングを投げつけていた。直撃して転んだオークの目前には、菜々乃が踏み込む。
「……一匹も逃がしませんよ」
 猫っぽいパワーを手に集め、獣の咆哮と共にオークの腹へと叩き込む。そこからふわり、と身軽に前転し、プールのフェンスに足を掛けて体勢を立て直す。
「その傷口を、更に広げてあげますわ!」
 カトレアが続いて駆け込み、刀を握り直す。鍔元で輝く薔薇飾りが、手から伝わる霊力を帯びて薄く光を纏っていた。
 ひと振りごとに血飛沫が散り、踊るように紅の髪を弾ませる。進んだ先に構えるオークの両腕を掻い潜り、触手を蹴ってカトレアは駆け抜ける。
「こんな……。オークたちの暴挙は見逃せません」
 ガートルードが左手を突き出し、精神を極限まで集中させる。忌むべきものを見据えるように、腕からその先へと視線を移し……、炸裂させる。
 その力は爆発を起こし、敵を打ち砕いたが、ガートルードはどこか寂しげな眼を一瞬だけ見せていた。
「縛られて動けないオーク……。ニッチすぎるかしら……」
 ニーベルンがぽつりと呟き、いやいや無い無いと首を振る。その間にもグラビティで精製した塗料をばら撒き、オークたちの動きを制限していく。
 ちょうど1体が足元の違和感に気を取られた一瞬に、タツマが触手を掴んで引く。
 ざくっ。
 体勢を崩した相手の股間に容赦なく、ゲシュタルトグレイブでの一撃を突き入れる。
「ガ……」
 言葉も無く、オークは力尽きて倒れ伏す。タツマは倒れた相手には興味を向けず、手のひらに残った触手を握り潰すと、次の敵を求めて歩き出すのだった。
「混沌よ、刃となれ!」
 星憐は仲間の動きにも視線を走らせ、なるべく標的を合わせるように注意しつつ攻撃を繰り出していく。時折オークの触手が自分の身体にも伸びてきたが、それは混沌の刃で容赦なく斬りつけてやった。
「はっ!」
 そして斬り落とした触手の、オークに繋がる側を思い切り踏んづける。
「ブヒッ!?」
 びんっと引っ張られて体勢を崩したオークの元に、カトレアがダッシュで突っ込んで行く。刀の間合いに入る寸前で相棒の残霊を召喚し、自身も刃を振りかぶる。
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 高速の斬撃が薔薇の模様を描き出し、オークの身体を朱に染める。最後の一突きが繰り出されると同時に爆発が起こり、舞い散る花弁の中を踊るようにカトレアは駆け抜けていった。
「おっと、行かせねえよ」
 グレインがガートルードに向かっていた触手を踏んづけて止め、掴んで引っ張る。ぬるぬるとして気持ちが悪いがそこは我慢して、転びかけたオークのこめかみ辺りに、鋭い蹴りを突き立ててやった。そうして倒れたオークの身体を蹴飛ばして、散らばった触手やら粘液やらをプールの端へと追い立てた。
 そうして開けた道を、ガートルードが駆ける。オウガメタルを展開し、自身を鋼の戦鬼と変えながら。
「許せませんとも! きっちり懲らしめてやりましょう」
 星憐が続き、ガートルードがぶちかましを掛けて倒れかけたオークに斬りかかる。
「激しくいきますよ!」
 混沌の太刀は見事にオークを両断し、星憐はガートルードと軽くぱしんと手を合わせた。
「一気に敵を倒してみせましょう!」
 シャインが踏み込み、渾身の一撃を振り上げる。その白い肌にオークも触手を伸ばして迎撃しようとするが、上から地面に繋ぎ止めるようにして、ティニがパイルを叩き込む。
「今です!」
「邪悪なオークが、勇者の聖剣にかなうと思わないことですね!」
 シャインの全力を込めたひと振りは、見事にオークを両断してみせたのだった。

「…………」
 タツマは戦いの渦中にあっても冷静に、戦況を確かめていた。
 もはや大勢は決した。後は残らず叩きのめすだけ……。といったところか。
「……釣りはいらねぇ」
 思考の間も身体は常に最適の動きを保ち、オークとの距離を詰めると触手の連打を掻い潜りながら、握った拳を突き入れる。
「遠慮せずくたばれ!」
 直後に敵の足元を払って転ばせ、自身は跳び退って距離を取る。
 ばごん!
 タツマが拳を入れたオークが爆発、四散し、その歪んだ生を終わらせた。
(「見ていてくださいませお母様、お父様」)
 ニーベルンがオーブに魔力を集中させ、水晶の炎を発生させる。
(「親不孝な娘ですが、人々を助ける自慢の娘だと、証明してみせますわ!」)
 水晶から放たれる炎はオークの触手を薙ぎ、皮を引き裂いていく。
「オークを倒すのに手加減は要らないのです」
 菜々乃がぴょんと飛び込むように跳ねて、足にオーラを集中させる。星型となって輝いたそれが、裂かれたオークのど真ん中に命中して、爆発四散させる。
 やれやれ、なんか暑苦しい相手でした。とばかりに、菜々乃は小さく息を吐き出すのだった。

「……昔っから教師だ学校だってのは苦手なんだ」
 戦いを終えて、タツマはもう用は無いと言わんばかりに立ち去っていた。
 他のメンバーも、避難した生徒や先生の無事の確認、破損個所のヒールなどを終えて、互いに労をねぎらっていた。
「さて、これで万事OKですわね」
 そんな中でシャインは、妙にそわそわしながら帰っていたが……。『水着を着て来たから下着を忘れた』などということではなく、きっと何か、急ぎの用でもあったのであろう。
 夏の日はこうして、平穏を取り戻して過ぎてゆくのであった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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