ヒマワリサブマシンガン

作者:零風堂

 大阪市の市街地に舞う、謎の胞子。
 ふわふわと舞い上がったそれは、子供たちで賑わう公園の端に咲いていた、ヒマワリの花壇に落ちていく。そして胞子がヒマワリに取り付くと、みるみるうちに凶悪な攻性植物へと変形を始めた。
「なんだあれ!」
 子供のひとりが声を上げると、何人かがそちらを見た。
 もはや太陽の位置に関係なく、ヒマワリの花を獲物に向けた攻性植物たちの姿を――。
 がががががががっ!
 連続で撃ち出された種子は弾丸の如き威力と速さを持っており、幼い命を蹂躙していく。
 楽しいはずの夏の一日は一瞬にして、悲劇の舞台へと塗り替えられてしまうのだった。

「例の話、結果が出たんで聞いてもらいたいっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)を始めとした何人かのケルベロスたちに向き直った。
「今回は、こちらのエレ・ニーレンベルギアさんの調査によって、大阪で攻性植物の事件が起きることが分かったっす」
 紹介されたエレの肩に、大きなリボンが特徴的なウイングキャットがぴょんと跳び乗った。そしてどこか誇らしげに、主人の頬にスリスリと身を擦り寄せている。
「既にご存知の人も居るかもしれないっすけど、攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行っているっす。それで一般人を避難させて、大阪市を攻性植物たちの拠点にしようって計画みたいっすね。このままじゃあ大阪市に住む人たちに被害が出たり、住む場所が失われていってしまうっす。それにゲート破壊の成功率も『じわじわと下がって』いくみたいっすよ」
 敵の侵攻を食い止めるためにも、力を貸して欲しいと言うダンテに、ケルベロスたちも頷いた。
「今回は市街地の公園で咲いていたヒマワリが攻性植物に変化するみたいっす。予知では、公園で遊んでいた子供たちが犠牲になってしまうのが判明したんで、事件の発生する時には、その付近は立ち入り禁止にして、周辺の人たちにも避難してもらうことになったっすよ。ただそれでも、攻性植物たちは一般人を殺害しようと行動するみたいんなんで、放っておくわけにはいかないっす」
 それからダンテは、敵の能力についても説明を始めた。
「ヒマワリの攻性植物は全部で4体。花の部分から無数の種子を連続で、弾丸のように発射するのが得意みたいっすね。この4体は、だいたい全部が同じくらいの強さみたいっす。一応、同じ種類だから……ってことなのか、固まって行動して、戦闘中もある程度は連携を取った動きをするみたいっす。と言っても、戦い始めれば逃走することもないみたいなんで、残らず倒して欲しいっすよ」
 ダンテの言葉に、ケルベロスたちも同意を返す。
「子供たちの遊び場を、攻性植物なんかに荒らさせるわけにはいかないっす。皆さんで力を合わせて、平和な公園を取り戻して欲しいっすよ」
 ダンテはそう言って、ケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)

■リプレイ

 広く明るい公園は、流石にこの時期であれば少々暑いかもしれないが、熱中症にさえ気をつければ、子供たちにとっては良い遊び場であっただろう。
 しかし今は、無邪気な笑い声などひとつも聞こえることなく、辺りには静けさ……、もとい、空気を読まないセミの鳴き声だけが響いていた。
「子供達が安心して遊べるためにも……、頑張りましょう」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)はそう言って辺りを見回しながら、キープアウトテープで立入禁止を示していく。この地は戦場となる。それ故に人払いが施されているのである。
「夏と言えば、ヒマワリ。絶対何かしら起こるかなって思ってたんですよねー」
 エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)は言いながら、ヒマワリの咲く花壇へと視線を送っていた。肩に乗っていたウイングキャットのラズリが地面に降りようとするも、日光で熱せられた土が熱かったらしく、慌てて跳び上がり、再びエレの肩に乗ってしがみついている。
 そんなふうに現場へと到着したケルベロスたちの前で、花壇のヒマワリが謎の胞子の影響で蠢き、攻性植物となって動き始めた。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 沙雪が天の名を持つ刀を抜いて、印を切る。刀身をなぞりながら精神の集中を高め、力を解き放つように高々と刃を突き上げる。
「祓い給い、清め給え、死天、剣戟、急急如律令!」
 空中に召喚された刃の群れが、動き出したヒマワリたちへと降り注ぐ! その攻撃の余波が収まるより先に、敵もヒマワリの種を弾丸の如く撃ち出してきた。
「夏って言ったらヒマワリなイメージはあるですが」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が愛機のプライド・ワンをカッ飛ばし、ガトリングの掃射で迎え撃つ。そのまま敵陣へと突っ込みながら、がしゃん。と焼夷弾を装填する。
「こういう迷惑なヒマワリはお断りなのですね……」
 自身も巻き込まれるのではと思える程の至近距離から、ナパームミサイルを投下する真理。だが彼女には、ヒマワリと心中する気などさらさら無い。投下と同時にスロットルを絞り、急加速して駆け抜ける。
 直後に炸裂する、炎の華。その衝撃で真理はプライド・ワンから飛び降りると、ざっと地面に着地した。
「……折角の花壇が台無し。無粋な」
 その間にマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)は、逃げ遅れた人が居ないかどうか、きょろきょろと見回して確認していた。それからヒマワリに視線を移し、催眠の魔力を込めて見開いた。
 がしゃん。と植物にしては不自然な金属音と共に、花の中央部分で欠けていた種が補充されていく。
「ヒマワリのサブマシンガン。弾丸いっぱいありそうですねえ……」
 それがいわゆる再装填かと思いながら、エレは体内から練り上げたエネルギーを放出し、味方の守りに変えていった。ラズリもしぶしぶといった様子で羽ばたきながら、清らかな波動を生み出し始める。
 ずどん、と足元の地面を穿つ弾丸を避けながら、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)は刀を抜いた。
「ヒマワリとは夏らしくていいじゃないか」
 そのまま種の弾丸を避け、或いは刀で斬り払いながら、逆の手に構えたパイルバンカーを振りかぶる。
「……ただ暴れられてはかなわんな」
 呟きと共に踏み込んで、黒煙を吐き出しながら思い切り杭を叩き付ける!
「たしかに、こんな奴らを放置しておくわけにはいきませんね。なんとかしないと」
 ラジュラムに続き、モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)が身を低くして構えていた。ラジュラムが杭を抜いて飛び退ると同時に、溜めた気を解き放つようにして刀を抜き放つ。
 ひと太刀に見えた斬撃は、超高速で戦場を駆ける疾風の如く。ヒマワリたちを無数に斬りつけ、連携を阻害していた。
 しかしヒマワリは葉を薙がれながらも、弾丸を一斉に射出してくる。叩き込まれる怒涛の衝撃に、モモコは微かに表情を歪めた。
「ヒマワリサブマシンガンの攻性植物とは……。しっかりと皆を守らないといけないのう」
 ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が急ぎスチームバリアを発動させ、僅かに揺らいだモモコを援護する。
「公園はみんなのものよ。楽しい夏の日を邪魔しないでほしいわ」
 その間にアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)が声を上げ、ヒマワリたちの注意を引いて手を挙げた。
「さ、あたしの剣をどうぞご覧あれ!」
 闘気を刃の形に変え、空中に召喚する。そこから精神のコントロールによって敵へと放ち、次々にヒマワリの花や葉を裂いていく。この死天剣戟陣を始めとした幾つかの攻撃で敵の立ち位置を見極め、標的を定めようというのだ。ケルベロスたちは仲間が攻撃するタイミングでも目を光らせ、気を緩めずに戦闘を続けていた。

 無数にも思える弾丸がばら撒かれる中、エレは出来るだけ仲間を庇えるように構え、輝く槍を地面に突き立てる。ちゃんと種の尖っている方が肌にめり込んできて地味に痛いが、耐え切れないほどのダメージでは無い。
「阿梨、那梨、莵那梨。阿那盧、那履、狗那履……」
 沙雪が言霊に呪を乗せて飛ばし、敵の精神を拘束していく。仲間を庇うつもりなのか、他のヒマワリが弾丸を飛ばしてくるが……。
「悪いですが、全部防がせて貰うです」
 シールドユニットを種の前に広げ、真理が割り込む。衝撃を受け止めながらもアームドフォートの主砲を敵に向け、特殊砲弾を発射した。
 着弾と同時に赤い輝きが、ほのかに煌めく。
 その様子を目の端で眺めながら、マルレーネは精神力でケルベロスチェインを操っていく。前で戦う真理たちを守護するように、地面に守りの陣を描き、その力を発動させた。
「――!」
 グラビティ・ジェネレーターが唸りを上げて、モモコの刀が輝きを増す。そこに『空』の霊力を上乗せして、空間ごと裂くかと思われるほどの、鋭い斬撃を叩き出した。
「早急に対処し、涼むとしよう」
 ふらり、とした足取りながらも、これ以上ないタイミングで、ラジュラムが間合いを詰めていた。モモコの絶空斬を受けて下がったヒマワリの茎に、研ぎ澄まされた一撃を打ち込み、そのままひょいと脇に避ける。仲間の繰り出す攻撃の、邪魔にならぬように。
「にしても、ヒマワリがマシンガンのように種を飛ばすの、シュールですねえ……」
 ちょうどエレが霊力を圧縮し、弾丸を作り上げたところだった。ラジュラムが避けて生まれた射線を使い、心の中で引き金を引く。
「なんかどっかで見た事あるような気がしますけれど!」
 勢い良く射出されたプラズムキャノンが弱っていたヒマワリをぶち抜き、活動を停止させた。
 がががががががっ!
 負けじとヒマワリたちも種を乱射してくるが、ケルベロスたちも反応して身構えている。
「ふむ、助けになればいいがのう」
 更にはウィゼが即座に薬液を振り撒いて、傷の治療に取り掛かっていた。
「この猛暑なら胞子も枯れちゃうかと思ったんだけど、そんなことないのねぇ」
 アミルはあきれるほどに活発な攻性植物を目の当たりにして、やれやれといった気分も含んだ声音で呟く。傍らではウイングキャットのチャロが懸命に清らかな波動を翼から生み出しており、それでもしっかり戦わなければと戦意を奮い立させてくれた。
 アミルはしっかり者の相棒に微笑みを送ってから、拳を握ってオーラを集める。淡い銀糸の髪を揺らして駆けながら、敵の隙を見極めんと金の瞳を僅かに細める。
(「……そこっ」)
 敵の揺らぎを見逃さず、撃ち出した気の弾丸は茎に喰らい付く。
「祓い給い、清め給え。禁縄、禁縛、急急如律令!」
 沙雪が紫の呪符を指先で掴み、半透明の御業を召喚する。それは敵を縛る縄のように巻き付いていくが、それでもヒマワリはもがいて首だけを出すように動き、花の部分から種をばら撒いてくる。
「!」
 ラズリが羽に被弾し、墜落しそうになるが……。間一髪でエレがキャッチしていた。そのまま相棒を肩に乗せて、稲妻を纏う突きを繰り出す。
「……突っ込むですよ」
 真理がプライド・ワンに跳び乗って、手を伸ばす。咄嗟のことに驚きながらも、マルレーネはその手を掴んで後ろに乗った。
「……霧に焼かれて踊れ」
 加速を続けるプライド・ワン。その背でマルレーネは桃色の霧を発生させ、ヒマワリを包んだ。そいつに真理が主砲を撃ち込み、着弾と同時に、炎に包まれたプライド・ワンがぶちかましを仕掛けた。
 っどぉん!
 特撮映画のような大爆発を背景に、真理とマルレーネは颯爽と駆け抜けていく。
「ちゃっちゃと倒して、こども達の遊び場を取り戻しましょ」
 アミルは残ったヒマワリに向かい、ハンマーを振り上げる。冷気を打面に集中させて叩き、魔力の氷で相手を包んだ。続けざまにモモコも間合いを詰めようとするが……。
「マシンガンみたいに撃ってきます!」
 最後の足掻きか、絶え間ない射撃がモモコの装甲を幾度となく叩く。咄嗟にモモコは補強フレームを捨てて囮にし、一足飛びにヒマワリに肉薄した。
「参りますっ!」
 高速の斬撃がヒマワリを上から下まで寸断し、バラバラに斬り崩していくのだった。
 これで残るは1体のみ。ダッシュで向かうラジュラムだが、無数の弾丸が肩と胸にめり込んでくる。
「グワッ、グワッ、グワ、グワ、グワー」
 そこへ鳴り響く、アヒルの一声――! いや何度も鳴いているような気がするが、それはきっと気のせいだ。
 ともあれ鳴き声に鼓舞され、ラジュラムは刀の間合いにヒマワリを捉えた。
「これにて閉幕だ、最後に足掻いてみせろ!」
 挑発と共に、黒塗りの刀を鞘へと納める。そこから水平に刀を構え、誘った攻撃を鞘で受ける。
 っきん!
 鞘を滑らせ攻撃を捌き、現れた刃が静かに鳴る。
 後にはただ、見事に両断され、地面に落ちた攻性植物の亡骸が横たわるのみ――。

「打ち水で少しは涼しくするのじゃ」
 ウィゼがアヒルの鳴き声を響かせながら、辺りをヒールしていく。
「これでもう大丈夫ね。子供たちも楽しく遊べると思うわ」
 アミルも公園の状況を確認しつつ、チャロを抱えてよしよしと撫でていた。
「……」
 沙雪は念のためにと不浄払いの弾指を行う。
「……少しだけ、ファンタジーな公園になっちゃったわね」
 マルレーネはヒールの箇所を眺めて、少しだけ首を傾げていた。その様子を見に、真理がおやつとして持ってきたヒマワリの種をポリポリ食べながら近づいてくる。
「意外と、こういうのも美味しいですね。弾丸にされるくらいなら、こうやっておやつにして欲しいのです」
「…………」
 真理の接近に気付き、じっとその顔を見るマルレーネ。
「……食べますか?」
「それより、冷たいものでも食べて帰ろう?」
 マルレーネの提案に真理も頷き、ふたりは肩を並べて帰路についた。
「さて。こんな日は、キンキンに冷えたヤツをグイっとやりたいねぇ」
 ラジュラムも滲み出た汗を軽く拭いながら、照り付ける太陽を見上げ……。そんなふうに呟くのであった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。