ヒマワリ閃光弾

作者:零風堂

 大阪市の市街地に舞う、謎の胞子。
 ふわふわと舞い上がったそれは、とある民家の庭で咲いていた、ヒマワリの花のほうに落ちていく。そして胞子がヒマワリに取り付くと、みるみるうちに凶悪な攻性植物へと変形を始めた。
 そこに民家の住民だろうか、ひとりの老婆が庭に面した縁側に現れる。攻性植物に変じたヒマワリたちも老婆の存在に気付いたらしく、一斉に、不気味な花を老婆に向けた。
 ぽんっ、と吹き出されたテニスボールほどの大きさの球が、閃光を放つ。
「……!?」
 突如として視界を奪われ、あまりの驚きに声も出ない老婆は、そのまま成す術も無く攻性植物たちに殺害されてしまうのだった。

「…………なるほど、よく分かったっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、細かく文字の書かれた大学ノートをパタンと閉じる。向かい合っていた神宮時・あお(囚われの心・e04014)は小さく頷いてから、その場に訪れたケルベロスたちに視線を移す。
「今回は、こちらの神宮時・あおさんの調査によって、大阪で攻性植物の事件が起きることが分かったっす。既にご存知の人も居るかもしれないっすけど、攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行っているっす。それで一般人を避難させて、大阪市を攻性植物たちの拠点にしようって計画みたいっすね。このままじゃあ大阪市に住む人たちに被害が出たり、住む場所が失われていってしまうっす。それにゲート破壊の成功率も『じわじわと下がって』いくみたいっすよ」
 敵の侵攻を食い止めるためにも、力を貸して欲しいとダンテは言う。
「今回は、住宅街のとある民家で、庭に咲いていたヒマワリが攻性植物に変化するみたいっす。予知では、そのお宅に住んでいたおばあちゃんが、すぐに襲われて殺害されてしまうっす。それだけでなく、更に一般人を殺害しようと行動するみたいんなんで、放っていたらかなり危険な状態になってしまうっす」
 それからダンテは、敵の能力についても説明を始めた。
「ヒマワリの攻性植物は全部で4体、花の部分から発射されるボールのようなものから凄まじい閃光が放たれて、敵の目を眩ませる攻撃を得意としているみたいっす。この4体は、だいたい全部が同じくらいの強さみたいっす。一応、同じ種類だから……ってことなのか、固まって行動して、戦闘中もある程度は連携を取った動きをするみたいっす。と言っても、戦い始めれば逃走することもないみたいなんで、残らず倒して欲しいっすよ」
 被害が出る前に片付けてしまおうと、ケルベロスたちも頷いた。
「あと、民家のおばあちゃんをはじめ、周辺の一般人の皆さんには、事前に避難しておいてもらう手筈になってるっす。ですので、戦闘に集中できると思うっすよ」
 ダンテの言葉にケルベロスたちはありがたいと返事をして、この事件に挑むのだった。


参加者
神宮時・あお(囚われの心・e04014)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
レイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
カーラ・ラクシュ(剛毅壊断・e50415)
フィーリ・フィオーレ(乱舞フロイライン・e53251)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

 夏の日差しが降り注ぎ、汗の滲み出るような暑さが地上に広がっていく。そんな地上でもヒマワリたちは整然と手を広げ、希望を求める民衆のように天を仰いでいた。
 綺麗に並んだその列から、ゆらりと動き始める異端児たち。謎の胞子によって攻性植物と化したそいつらは、人々をその手で嬲り殺さんと、獲物を求めて彷徨おうというのか。
「……」
 ひらりと舞い降りるのは暁光の唄。夜にのみ香る花のように儚げでありながら、確かな輝きを抱いたハンマーを砲撃形態へと変形させて、神宮時・あお(囚われの心・e04014)が降下してきたのだ。
 ふわりと逆立った白髪が重力に引かれて降りるより先に、竜の力を砲弾へ変えて解き放つ。
 轟竜砲が突き刺さり、進もうとしていた攻性植物の出鼻を挫く。しかし、あおは表情を変えずに薄く青みを含んだ白いマントの端を掴んで翻し、斜め後ろに下がって構えた。
 直後に敵から無数の鋭い葉が飛来し、ざくざくと身を裂いて行き過ぎる。
「見てたら元気が湧いてくる素敵な花なのに……。こんな凶悪な攻性植物になっちゃうなんて酷いよね!」
 イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)はヒマワリたちに視線を向けながら、手のひらに金色の火を灯していた。
「わたしたちが、ちゃんと止めてあげるからね」
 ひとつ頷き、想いを込めた琥珀の炎をあおへと飛ばし、その身に金色を宿らせた。
「……大阪の人々の命を守ることは、当然です」
 小さく呟き、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は仲間たちの配置を確認する。そのまま体内で練り上げていた霊気を放出して、前に立つ者の守りの力とした。
「今回の相手は……。ヒマワリですか」
 地獄の炎を握り込むようにして構え、ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)は縛霊手を構えていた。揺らぐ混沌を制御して支えとし、展開した祭壇から紙兵をパラパラと振り撒き始める。
 ちょうどそのタイミングで、ヒマワリの一本からすぽんと何かが吐き出された。咄嗟にロスティは目を閉じ、腕を交差させて備える。
 閃光が迸り、ケルベロスたちの視覚を灼いて感覚を麻痺させる。やはり単純な強い光というわけではなくグラビティによるもので、目を閉じたりサングラスをしただけで防げるわけではなさそうだった。ロスティは思わず『目が、目がぁぁーーっ!』と叫んで狼狽えそうになったが、辛うじて堪えた。
「れいちゃんは折角なら、心穏やかな気持ちで、きれいなヒマワリを眺めたいんだけど……」
 紙兵の守りもあってかレイアーク・ロンドベル(悪戯な輪舞曲・e22359)は素早く体勢を立て直し、駆け出していた。ふたつに纏めた長い黒髪が揺れ靡き、加速しながら敵の懐に滑り込む。
「まぁ、お花に言ってもわからないよね」
 蹴り上げながら敵に突っ込み、輝く軌跡を描いて根元を刈るように一撃する。勢い余って飛んで行きそうになるが、それは塀の上に着地したカーラ・ラクシュ(剛毅壊断・e50415)がレイアークの手を掴んでいた。
「……俺様は攻性植物がだいっ嫌いなんだよ」
 そのままぐりんっと半回転してレイアークを塀の上に着地させ、入れ替わるように自身が突っ込んで行く。
「それが人を襲うとなったら、容赦なく潰せるよな。ハッ、最高の仕事じゃねぇか」
 口にした棒付きキャンディを奥歯で噛み砕き、吹き出して攻性植物の花に突き刺す。一瞬遅れて根元の茎に組み付いてナイフを抜き、執拗なまでに纏わりついて気を引き始めた。
 敵はカーラを振り払おうともがきつつ、鋭い葉を使ってその背を、腕をざくざくと裂いていく。服が破れて血が流れ、痛みも刻まれるが……。カーラが間合いを開く気配は無い。
「私、ヒマワリの花はとても好きなのだけれど……。これは少々宜しくありませんわね」
 フィーリ・フィオーレ(乱舞フロイライン・e53251)は穏やかな口調で言いながら、サングラスをそっと胸元にしまう。
 カーラと対角になるよう回り込み、華麗な舞踏のような足捌きで炎を生み出し、蹴り放つ。その優雅な動きとは裏腹に、身体を支える軸足は地面を抉り、煙が滲むほどの猛烈なパワーを持っていることを示していた。
「……ええと」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)はきょろきょろと辺りを見回して、庭の広さと塀の位置、建物までの距離を確かめていた。民家の庭での戦いになるので、できるだけ損傷を生まないようにと考慮していたのだ。
 建物を庇うように背にして杖を構え、ファミリアに変えて解き放つ。それから準備したサングラスをしまい、いつもの大きな眼鏡に掛け直していた。
 ケルベロスたちの登場に、ヒマワリの攻性植物たちは敵意を感じ取ったか、次々に閃光弾を撃ち出してきていた。
 感覚を麻痺させるその攻撃に惑わされぬよう、ケルベロスたちは冷静に、状況と標的を把握しながら戦闘を続けていく。
「……っ、ヒールのお手伝いをしててね!」
 目を細めつつ、レイアークはウイングキャットの『下僕三号』に指示を飛ばす。応えて放たれる清らかな波動でレイアークは耐性を高め、標的のヒマワリに視線を合わせる。
「……分かるなら葉っぱを一回、分からないなら葉っぱを二回飛ばしてごらん?」
 挑発するように言って拳を握り締める。同時に歯車の形をした髪留めが変形し、身を包む鎧のように展開されていく。それは『ダウト=ギア=ドライブ』、髪留めでも歯車でもなく、オウガメタルなのだ――。
「あっ、分からないなら二回って返事もできないよね?」
 言葉と同時に両の拳を突き出して、ヒマワリの茎を殴って吹っ飛ば……。
「テメェ、俺様から逃げんじゃねぇよ」
 吹っ飛ばされるのを、カーラが茎を掴んで引き留めていた。そのまま口端に笑みを浮かべ、逆の手に握ったナイフでズタズタに引き裂いていく。
「太陽のように咲く花、だから美しいのに……」
 フィーリがひらり、と地を蹴った。跳躍時の捻りを活かして回転し、腕の振りも合わせて姿勢を制御、狙いを定め、優美に微笑む。
「本当に太陽のように光ってしまっては、風情の欠片もないのではなくて?」
 告げると同時に舞い降りて、流星の如き鋭い蹴りで花をぶち抜く。
「あなたは糸つむぎの針に刺されて死ぬでしょう。さぁ数えてください。あと……」
 ルーシィドが告げるは幻視の予言。その言葉を実現するかのように、紡ぎ車の錘が真っ直ぐに飛んで行く。その刺し傷はヒマワリの身体を蝕んで、命の終わりを刻み付けていた。
「まだ、戦いますか……」
 ロスティは他のヒマワリが閃光弾を落としてくるのに気付き、素早く鎖を伸ばしていた。精神力を振り絞り、仲間を守るように高速で展開させていく。
「被害が広がる前に早く片付けちゃいましょう、ハイ」
 守護の魔法陣が完成し、間一髪で衝撃から仲間を守ってくれていた。
 その間に悠乃がタクトを振るい、癒しの風を巻き起こす。その指揮は迷うことなき意志と共にあり、一級の楽団を率いる奏者のようにも見えた。
「……」
 あおは黙しながらも、金の瞳で敵を見ていた。誰が、どれだけ攻撃し、自分が、どれを狙うべきか。
 僅かな時間でそれを見極め、真っ直ぐに、白き孤高の刃を向ける。そこから解き放たれた冷気の弾丸が、時空さえも凍結させるかのような冷酷さで、ヒマワリを氷の中へと封じていく。
「植物を大切にしてくれる人を追い出すなんて、許さないんだから」
 イズナが敵の閃光から立ち直り、緋色の瞳をぱちぱちと瞬かせてからカードを取り出す。
 その一枚に宿るは【氷結の槍騎兵】、力を受けて召喚された騎士は真っ直ぐに、ヒマワリへと槍を突き立てた。
「ちゃんと反省して貰うからね!」
 イズナの魔力で騎士は奮い立ち、凍ったヒマワリをぶち砕いてから消滅する。イズナは一瞬だけ、崩れゆく植物に別れを告げて、次の敵へと向き直るのだった。
「これで……」
 ルーシィドが魔力を込めて杖を使い魔に変え、敵へと放つ。リスのような小動物がヒマワリに衝突し、敵はぐらりと僅かに揺れた。
 だがその直後、敵は次々に葉っぱを放り投げ、レイアークの肌を裂いてきた。
「歪みし間合いに、偏る方位。時空の守護を今ここに」
 悠乃の魔力がその時空に干渉し、歪め、守る。さっきまであった筈のレイアークの傷が、無くなっている。
「っさ! ちゃちゃっと始末しちゃいましょ!」
 それを頭で理解するより先に、レイアークは駆け出していた。咄嗟の判断は天性のものか、それともただ、歩みたい道を進まんとする、彼女の心情の成せる業か。
 二度のフェイントから塀を蹴っての急加速で、輝く軌跡の蹴りを叩き込んだ。
「……押し切る。そのまま叩こう!」
 レイアークの言葉に応えるように、カーラが踏み出す。
「加減は無しだ。全力でぶっ転がしてやるよ」
 振り下ろされた超重量の一撃は、空間ごとヒマワリを叩き潰さんと打ちつけられた。
 逃れるように身をよじりながら、ヒマワリが踏み出した先で、フィーリが剣を構えていた。
「手始めに千撃、捌ききれるかしら?」
 どんっ! 圧倒的な膂力によって、連続の突きを面として叩き込む――。
 言葉で示してさえ、異常な破壊力を思わせるフィーリの攻撃を受けたヒマワリは、瞬く間に無数の穴が突き穿たれ、ハチの巣ですらない残骸と化し、消滅していった。
「最近暑いですからね、水不足なんじゃありませんか? 炎入りですけれども気のせいです、ハイ」
 ロスティが残ったヒマワリに詰め寄って、左腕に地獄の炎を纏わせる。その手でヒマワリの茎を殴り、同時に右腕に混沌の水を纏わせた。
「同時に行きますよ、地獄混沌波紋疾走!」
 炎が暴れて刻んだ道に、水を流して駆けさせる。両手を突き出した反動でロスティは僅かに跳び、翼を羽ばたかせて緩やかに着地する。
「植物たちの気持ちを無視したこんな作戦、ぜったいに止めてあげる」
 身体を震わせるヒマワリに向けて、イズナが氷の螺旋を解き放った。吹雪のように激しく、冷たい波動はヒマワリの葉や茎に氷を這わせていき、ばきばきとダメージを刻んでいく。
 苦し紛れか、放たれた刃の葉があおに迫るが――。
「……」
 肌が裂かれ血が流れ出ても、あおは表情ひとつ変えず、魔法を紡ぎ出す。
 それは相手を終焉へと導く、地平線の音色。
 有は無に、無は有に。円環の理によって紡がれる調べは、攻性植物の感覚を奪い、その意識を、命を虚無の最果てへと至らせるのだった。

 こうして攻性植物を倒したケルベロスたちは、戦いで損傷を受けた箇所の修復を行っていた。
(「……これって姉貴の壊したとこじゃねぇの?」)
 癒しの拳を打ち込みながら、カーラがぶつくさとそんなことを考えていると、にっこりとフィーリが微笑みかけてくる。
「どうかした?」
 その笑顔を見て、カーラは何でもないと答えることした出来なかったようだ。
「人々の生活と心を守りたい。人々の思い出も、壊されないように……」
 悠乃はそんなふうに思いながら、丁寧にキュアウインドで復旧作業にあたっていた。
「もし、よろしければ、こちらのヒマワリを……」
 ルーシィドは失われたヒマワリの代わりにと、別に調達してきたヒマワリを、欠けた花壇に植えていた。そのお陰で、立ち並ぶヒマワリの列が欠けるよりも、ずっと喪失感を思わせないようにできただろう。
「えへへ、ひまわりって太陽みたいだね♪」
 イズナは綺麗に並んだヒマワリの花を眺めながら、そう言って笑みを零していた。
「植物たちも大切にしてくれる人には、感謝してるはずなのに……」
 攻性植物たちの動きは許せない。必ず自分たちの力で解決してみせると、イズナは決意を新たにするのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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