ケルベロス大運動会~ボン アペチッチ 日本食!

作者:柊透胡

「『熊本滅竜戦』、お疲れ様でした。ドラゴンを相手に、一歩も退かぬ皆さんの勇姿に感服しました」
 沈着な声音は相変わらず。だが、何処かホッとした風情でケルベロス達を見回す都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「ですが……『菩薩累乗会』に続き、今年に入って2度目の『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』発動により、世界経済は大きく疲弊しています」
 この経済状況を打破する為、おもしろイベントで収益を挙げようというのが、ケルベロス大運動会の趣旨だ――今回で、3度目となる。
「ケルベロスの皆さんに通常のダメージは効きません。そこで、世界中のプロモーター達が、危険過ぎる故にお蔵入りとなった数々の企画を持ち寄り、現在、アトラクションの設営が急ピッチに進んでいます」
 来る8月11日、第3回ケルベロス大運動会の開催地は『アマゾン』! 広大なアマゾン川と鬱蒼たるジャングルで、「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」が君達を待っているぞ!
「それで……ケルベロス大運動会の当日、日本とブラジルを始めとしたアマゾン流域の国々との国際交流の一環として、ケルベロスによる日本屋台村を運営する事になりました」
 こちらも毎年の恒例となってきている屋台村は日本政府の協賛なので、食材の準備等は日本政府が責任を持って行ってくれる。又、店長のケルベロスが競技に出ている間は、日本人の料理人が代わりに仕切ってくれるので、運動会の参加も問題ない。
「屋台村は、客層によって3箇所に設置されるので、その場所に合った屋台を考えて下さい」
 創が担当する屋台村は、値段としては中間に当たる。
「1人分の予算は、1200円前後が目安となります。日本からの輸送費用は原価に含まれませんので、実際に日本で食事したらこのくらいの値段という目安で、メニューを作成して下さい」
 会場はブラジルのとあるビーチ。白砂の海岸沿いに、屋台が海の家のように軒を連ねる事になるだろう。常より海水浴、ビーチバレーやビーチサッカーが盛んで、地元の人々で大いに賑わっているという。
「謂わば、ブラジル市民向けの屋台村です。美味しくてボリュームのある料理が求められるでしょう」
 日本食ではあるが、和食に限定はされていない。日本で独自にアレンジされた洋食でも問題ないし、日本らしい雰囲気があればオリジナルの創作料理でもOKだ。
「ブラジルらしさを取り入れても良いですが……くれぐれも、保護動物は食材にしないように」
 ちなみに、ブラジルの公用語はポルトガル語だが、優秀な通訳が同時通訳してくれる。
「ですから、気軽に国際交流を楽しみながら、素晴しい日本食をご紹介下さい」
 ボン アペチッチ 日本食!(日本食を召し上がれ!)――あなたの美味しいお料理とアイデアをお待ちしています。


■リプレイ

●ボン アペチッチ 日本食!
 第3回ケルベロス大運動会当日、開催国との国際交流の一環として、ケルベロスによる日本屋台村が運営されるのも3回目。
 予算1200円、中間の客層を想定した屋台村の会場は、ブラジルのとあるビーチ。白砂の海岸沿いに屋台が軒を連ねつつある。
 コンスタンツァ・キルシェとレスター・ストレインのメニューは、栄養満点夏野菜カレー。
「スタン……キミ料理できるの?」
「修行中っす!」
「不安だ……」
 まず野菜を切る。
「あれ、玉ねぎ切ったら涙がとまらない……うう~、ジャガイモでこぼこっす」
(「ほら、言わんこっちゃない」)
 不器用なコンスタンツァにはらはらして、フォローするレスター。それでも、一緒に作るのは楽しい。
「レスターは器用っすね……いいお婿さんになるっすよ!」
 夏野菜とルーをじっくり煮込んで完成。トマトのお陰で赤みが強い。
「どうだい、ご感想は。キミが切ったのも形は歪だけどおいしいよ」
「ふふん、アタシの手料理なかなかイケるっしょ?」
 確かに、一緒に食べるとより美味しく感じる。
「よくできました。接客は任せたよ」
 ブラジルは南半球の国。8月は冬の終わりで、猛暑厳しい日本より過ごし易いかもしれない。
「ふ~! でも、鉄板の前って結構キツイ!」
 瑞澤・うずまきは、天道・晶と大盛り焼きそばを準備中。
「海の家のおばちゃん譲りの味、皆の記憶に刻み込むぜ!」
 髑髏の刻印入りヘラを駆使する晶の額には、既に幾つもの汗の珠。
(「俺を焚きつけるような熱気はゴキゲンだけど、そろそろ水分補給を……」)
「うわっ!?」
「あわわ、ビックリさせちゃった! ゴメン~!!」
 冷たい不意打ちに身を竦めれば、凍らせたペットボトルを手に慌てて謝るうずまき。
「全くー。調理中の悪戯は危ないぞ~」
 窘める晶の声は優しくて、今度は後ろから抱き付いた。
「あっ! 美味しそう~! ねねね! ボクも一口だけ味見味見♪」
 一日一緒が嬉しくて頬も緩んでしまう。まるで奥さんみたい?
「あ~ん……うん! すごく美味しい!」
「よし! パックに詰めて売ろうぜ~」
 四辻・樒と月篠・灯音は、栃の実亭出張屋台。
「暑い時は、冷えた辛いものが良い」
 メニューは盛岡冷麺。麺の独特な歯応えとキムチの辛味、冷えたスープの美味さを堪能して欲しい。具材も盛り沢山だ。
「好みで酢を加えると、更にさっぱりしてお勧めだな」
「月ちゃんも食べたいのだ」
 樒の手際に見惚れながら、灯音の担当はデザート――ずんだ餅を乗せたパフェスタイルのほうじ茶和風かき氷。
「甘さの中にある芳ばしさ。ほうじ茶スイーツは美味しいのだ」
 氷の中にもずんだ餅を仕込むサプライズ。ブラジルの豆料理は塩味が基本。甘い餡子はカルチャーショックとなるかも。
「灯、繁盛するといいよな」
「うん、樒♪」
 後でブラジル料理も一緒に食べようと約束して――もうすぐ、開店の時間。
「ブラジルの方々に楽しんで頂ける様、頑張っていこう!」
 『龍髭学園 番犬部』のメニューは――おにぎりと蕎麦。焼き鳥は塩とタレ何れも、又は海老天とかき揚げ。味噌汁と緑茶も用意した。
 千桜・エル曰く――和食の特徴は一食での品数。予算内で選び放題のバイキング形式はきっと面白い。
「和食作りはお手の物、任せるが良いぞ!」
 調理担当の一之瀬・白は藤色の浴衣を襷上げ、タオルの鉢巻を巻いて奮闘中。ビハインドの一之瀬・百火は、金魚柄の浴衣にフリル付きエプロンで売り子の予定だ。
「一之瀬の調理人ルック、かっこいいね」
 アンセルム・ビドーは藍色の浴衣姿。勿論、常に一緒の人形は真っ先に浴衣でおめかしだ。
「仁江の割烹着、可愛いね」
「わくわくどきどきです! ぼん あぺちっち おにぎり、ですよ!」
 仁江・かりんは心を込めてにぎにぎ。摘み食いの誘惑と戦いながら。
「アンセルム、簪つけんの?」
「売り子担当だしね……こんな風に髪を纏めるの、初めてなんだ。素敵な感じでお願い」
「俺が可愛くしてやっから任せなっ」
 ミントグリーンの浴衣にチョコレートブラウンの帯のエルは、自信たっぷりだ。
「可愛さを活かした客引きなら任せてくれよな」
「バイトで鍛えた接客力、今こそ見せる時ってね」
「みんな、とてもお似合いです。大繁盛間違い無しですよ」
「うーん、ちょっと胸元が苦しいかも……おかしくないかな?」
 かりんがニコニコと請け合う一方、ベルベット・フローは、エルに着付けて貰った初の浴衣に戸惑う。
「温かさに美味しさを感じるのは日本文化特有らしいね。心の籠ったあったか~い接客で地球の裏側でもファンを作っちゃうぞ!」
 でも、意気込みは人1倍だ。
「これ飾ってもいい? クールジャパン!」
 ベルベットが広げたのは、無骨な墨文字で大きく「番犬部」と書かれた幟と提灯。
「ぼく、風鈴持ってきたので……でも高い所は届きません」
「ボクが付けておくよ」
 アンセルムがベルベットの力作とかりんの心遣いを軒先に飾れば、準備万端!
「さあさあいらっしゃい! 番犬部の屋台は和食がテーマ!」
「ここだけでしか食べれない特別製だよ」

●鉄板なアラカルト
「私達の家庭の味、美味しく召し上がって頂けると嬉しいです」
 御影・有理は、鉄・冬真と屋台を切り盛り。
 メニューはだし巻き卵に、今が旬のカジキの照焼き、キュウリとワカメの酢の物をワンプレートに。おにぎりと味噌汁、デザートに抹茶アイスも付けた。冬真曰く、特にだし巻き卵が絶品だ。
(「結婚して、僕の為に頑張って覚えてくれた愛情詰まった日本料理。現地の方だって気に入ってくれる筈!」)
「有理……先に一口、もらっていい?」
「うん。味見お願い」
 とっても美味しそうな彼が愛おしい。喜んでくれるからこそ料理も楽し。
「はい! 僕の自慢のお嫁さんです」
 丁寧な拵えの日本食は好評で、作り手を問われた冬真は誇らしげ。その笑顔にときめいて、有理の頬も自然と綻ぶ。
 ブラジル人が好む日本食と言えば、寿司と刺身。焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、天ぷら、カレーも評判が良い。
 ウォーレン・ホリィウッドと八島・トロノイの屋台はテマケリア――手巻き寿司。
「5つ1セットで花の形に並べて、と」
 ウォーレンの担当は、ベジタリアン向け。キュウリやお新香と伝統的なネタから、クリームチーズとアボカドを巻いた天ぷら、マッシュルームのソテーと野菜、バナナとクリームチーズ等々、種類は豊富。
「……大丈夫?」
「油ハネをモノともしない、これこそ和の心だ」
 八島・トロノイは魚と肉の担当。滾る油を前にエプロンも無い水着姿だ。良い子は真似してはいけない。
 エビやイカのフライでボリューミィに。アボガドサーモンや照り焼きチキンはヘルシー重視。宗教的配慮も心掛けるが、ブラジル人の大半はカソリック。食の禁忌に厳しくないのは幸いだ。
 デザートは一応、外郎。トロノイは水着の女性客に花にカーヴィングしたパパイヤをサービスしているが。
「大丈夫、俺達の分はちゃんと取ってある!」
「そうじゃなくてー」
 都築・創の視線的に、ちょっとダメっぽい。忍犬に扮したオルトロスのベルナドットが、駄菓子を配る程度にしておこう。
「都築にここのヘルプをと、言われたんだが」
 自前で用意した資材を抱え、九条・カイムが訪れたのは屋台村の隅っこ屋台。
「ホント? ありがとう!」
 ドワーフの少女はホッとした笑顔だ。
「私は結城・美緒。よろしくね♪」
「わたくしは貴峯・梓織。よしなに」
 聞けば、美緒達の屋台は広島焼だとか。
「美味しいお好み焼きも色々よね」
 広島焼のキャベツは火が通り易いよう千切りだが、美緒は色々大雑把らしい。そこで包丁の扱いが得意なカイムの出番。瞬く間に出来上がる千切りキャベツの山。合間にデザートの果物の飾り切りも。
「凄い凄い! 私も負けてられないわね」
 鉄板の前に踏み台を置き、美緒も中々のヘラ捌きだ。
「落ち着いたら、休憩してね」
 そう言われても給仕の梓織も忙しい。一休みは暫く先になりそうだ。
(「あぁ、このソースの香り、お腹空いてくるなぁ」)
「ね、ヴィくん、味見してもええ?」
「あ、味見だよね味見! ちょっとくらいなら、うん、だいじょぶ」
「ちょっとだけや! ばれへんばれへん」
 断じて、つまみ食いではない。
「うん、美味しい! 2人で作ったから一層美味しいね!」
「皆にも喜んでもらえそうやな!」
 ヴィ・セルリアンブルーと香坂・雪斗の屋台は、日本のお祭りメニュー。焼きそば、たこ焼き、お好み焼きを、ワンプレートに好きなだけ。りんご飴、チョコバナナ、鈴カステラから選べるデザート付き!
 題して『日本のお祭り欲張りプレート』! 炭水化物だらけは気にしたら負けだ。
「どんどん作るから沢山食べてね!」
「日本のお祭りの美味しいところ、知っていってな!」
 もう1つ、夏祭りの定番と言えばかき氷。ルムア・フェネークとクー・アアルトの屋台に、氷の旗と風鈴が揺れる。
「あれから2年、早いものですね」
 かき氷は、2人の大切な思い出。砂の国出身のルムアには甘い冷たさが震える程美味で、ラップランド生まれで暑さに弱いクーにも贈った。
「今年は更に沢山の人達に味わって頂きましょう」
 ふわりさらりの口溶けの為、氷は意地で運んできた天然もの。かき氷機でガシャガシャするのが楽しい。
 シロップは日本らしい抹茶や宇治金時、定番の苺にメロンにブルーハワイ、全部纏めてレインボー。トッピングもカーニバルのように派手に飾った。
「クーさん、こっち向いて下さい」
 忙しい合間に、あの日の既視感――差し出された一匙に、クーは頬を赤らめ破顔する。
「オウマ式カレーは如何ですか? 凄く美味しいですよ♪」
 鬼城・蒼香の声が響き渡る。看板にポルトガル語のアルファベットで「オウマ式カレーライス」。旅団「駆逐艦【オウマ荘】」の名物だ。
 メニューは、ビーフカレーとピラニアのフライを乗せたシーフードカレーの2種類。しっかり煮込んでコクがあり、予算の許す限りの具沢山。相馬・泰地の力作だ。
 やはり泰地のアイデアで、メニューを写真とポルトガル語で紹介しており、その判り易さが受けたか、開始早々から盛況だ。
「次の人、シーフードカレーできたでー! ほい、召し上がれ! そっちのお姉さん達、もうちょい待ってな」
 機敏さはウェアライダーならではか。手際よく客の列を捌く八蘇上・瀬理。
 接客担当の3人娘は、コンテスト用の水着の上にオウマ荘のロゴ入りエプロンで、それぞれ魅力をアピール。不埒な客がいないか、目を光らせるミスラ・レンブラントだが、ケルベロス相手に無体を働く者もいないだろう。
 ちなみに、恋に情熱的でセクシーなブラジルの女性はその実、身持ちが堅いとか。
「フライはピラニアだ。小骨まで食べられるぞ」
 元より明るくオープンなお国柄。忽ち打ち解けて、国際交流を愉しむミスラ。
「日本のライスはジャポニカ米で……」
 蒼香も予習の甲斐あって、メニューの質問に丁寧に答える。
「ビーフカレー、上がったぞ」
「えーと、何て言うんやった? ヴォンアチチ?」
 首を傾げる瀬理に通訳さんがそっと耳打ち。
「え? あ、あー、それや、うん。こほん……ボン、アペチッチ! オウマ荘カレー!」

●和のうまみ
「なるほど、アマゾン川は川魚の宝庫なのですね」
 ブラジルの人々は肉を好むが、川魚もよく食べられる。殆ど臭みはなく、フライやソテーが多いとか。
「和食と言えば魚料理、現地の方々の舌に合うよう、作っていきましょう」
 島国の日本では新鮮な魚料理も多い。という訳で、旅団「魔法喫茶 LEV」のメニューは魚料理の定食2種。
 ロジオン・ジュラフスキーが作るのは川魚の煮付け定食。ブラックコロソマの半身を、醤油、酒、みりん、生姜で甘辛く。サラダにご飯、大根と油揚げの味噌汁を付ける。
 ビスマス・テルマールは唐揚げ定食担当。ピラニアを焼き解し、白味噌と薬味と醤油と砂糖で調味。繋ぎを加えて成形し2度揚げすれば、ビスマスが愛してやまないなめろう風唐揚げの完成だ。やはりご飯と味噌汁と小鉢が付く。
「皆さんも試食します? とても美味しく出来ましたよ」
「アマゾン川の魚で和食とは考えたものだな。馴染みある食材の方が、初めての人も親しみ易い」
 ムフタール・ラヒムは感心の表情。ビスマスの試食も気になったが、宗教の戒律の兼合いでグッと我慢だ。
「煮付定食1人前となめろう唐揚げ定食1人前、お待ち遠さま!」
 開店すれば、お店は忽ち盛況。配膳と会計を担当するムフタールは、素早く丁寧に動き回る。
「ボン アペチッチ!」
 にっこり笑顔のソールロッド・エギルは主に配膳を手伝う。屋台に飾られた水彩画は、彼の作品。温かみのあるタッチから友好の気持ちが伝わってくる。
「……なめろう。皿まで舐めろという事でこの名がついたそうですよ」
 接客を手伝う死道・刃蓙理は、アスリートの世界ではその0.1秒が……という訳でハイパーリンガルを使用。直接、現地の人に説明している。一方で、現地のお勧めの魚を聞き込んで、食の国際交流が叶ったようだ。
「……そういえば、番犬部も出店してるらしいが、盛況かな?」
「あちらも人気のようで」
 沢山の屋台が並んで、皆一生懸命で、楽しそう。
「良い思い出に、なりますね」

 今回の屋台村で、1番規模が大きいのは旅団「玄舞紗の社」のおむすび屋台『あまぞんず』。おにぎりに非ず、おむすびだ。
 入口の赤い鳥居に刀と月の絵と『あまぞんず』が書かれた幟。すだれが涼しげで、スポットクーラーと扇風機で風通しも万全。提灯と風鈴が如何にも日本らしい。日本のバンドの夏っぽい曲や日本のサッカーアニメソングが流れている。
 自慢のメニューは、選べるプチ贅沢定食。
 メインのおむすびは、焼きピラニアの混ぜご飯、じゃことマテ茶のご飯、梅シソご飯、海老掻揚げ、鳥の塩焼、豚の味噌焼、牛しぐれ煮の7種から3品。
 飲物はマテ茶、玄米茶、自家製甘酒から。デザートは水羊羮、或いはコーヒーゼリー入り蜜豆を選ぶ。
 照焼きは、貴重なピラルクタラにから変更。鯉濃風スープのピラニアも、正規食用品を選んだ。
「おむすび屋台『あまぞんず』、如何ですか!」
 シャルラッハロート三姉妹の呼び込みの声も元気よく。お手製のチラシを配って回る。
 カレンは紺色、ルリィはピンク、ユーロは紅色、それぞれビキニにカーニバルぽいアクセが目にも鮮やか。
「私のオススメは、焼きピラニアの混ぜご飯と海老のかき揚げね」
「鳥の塩焼と豚の味噌焼も美味しいけど、牛しぐれ煮もいいよ」
「あ、鯉濃風というのは……ぷりちーな店長さんが説明してくれるわ」
「……ふぇ? ぷ、ぷりちーって!?」
 調理場の中心でおむすびを作っていた維天・乃恵美は、話を振られて目をぱちくり。正統派浴衣に南国風のアクセサリーがよく似合う。
「いらっしゃいませっ!」
 確かに、マスコット的可愛らしさだ。
 対照的に、ルベウス・アルマンドは、浴衣に襷掛けで黙々とタラの照焼きを作る。おむすびに合わせて味付けは甘辛くやや濃い目。残念ながら、グラビティを使うと食材も悲惨になるので、文明の利器を活用している。
(「訝しげな視線を感じるけれど……仕事はしなくては、ね」)
「……アルマンドさんは器用ですね」
 焼き物・揚げ物を担当している瑠璃堂・寧々花は、感心の風情で呟く。常は甲冑姿だが、今日の戦場は厨房だ。割烹着と三角巾、相応しい格好で奮闘している。
 接客が苦手でも適材適所。特にルベウスは普通に調理している割に、雰囲気がすごく胡散臭いのは……きっとキノセイだ。
 ネリシア・アンダーソンはおむすび作りを手伝う。7種類もあれば、注文も引っ切り無し。
「少しなら皆も試食良いよ」
「お、流石だね……むっちゃんも食ってみる? 美味いで」
「あるちゃんありがとう! ……わぁ、このちょっと焦げたのがたまらないー!」
 ワッフルメーカーで焼き目をカリカリに付けた、ワッフル焼きおむすびは店員にも好評だ。
「お待たせしました! ごゆっくりお召し上がりください♪」
 店内に大きな声が響く。カウンター席の接客担当の音穏・あるけみぃは営業スマイル全開。
(「……ふ、働いた事ないのにこの完璧な接客、もしや天才では?」
「こちら、お気に召しましたらどうぞお買い求め下さい♪」
 ネリシアに頼まれたワッフル焼きおむすびの試食のお勧めもバッチリだ。
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」
 目の回るような忙しさの中、水色のビキニにエプロン姿で、注文メモ片手に元気よく応対の深街・睦月。
「私のオススメですか? うーん、梅シソご飯と牛しぐれ煮かな! 癖は強いかもしれないけど!」
 持ち前の明るさと路上演奏で培った接客?スキルで、常に笑顔の睦月。楽しそうにちょこまかと。
「いらっしゃいませー! こちらにお掛けになって、お待ち頂けますか?」
「しぐれワッフル2つ、お願いしますー!」
「オーダー入りましたー!」
 白いビキニが眩しいジークリット・ヴォルフガングも慌しく行ったり来たり。ハイパーリンガルを駆使して、直接言葉を交えて接客する。万が一のトラブルには助け舟を出す心算で目配りしているから、皆も心強いだろう。
「おまたせしました、『じゃことマテ茶のご飯』でございます!」
 客の出入りは引っ切り無し。1日中忙しかったけれど、彼らの笑顔は輝いていた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:易しい
参加:39人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 1
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