ケルベロス大運動会~ダンスで魅せろ!

作者:遠藤にんし


「皆さん、いよいよケルベロス大運動会が始まりますっ!」
 全世界決戦体制の発動によって世界経済は大きく疲弊してしまったが、この経済状況もケルベロス大運動会で打破できる、と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は言う。
「ケルベロスの皆さんには普通のダメージは効かないので、危険すぎて使用できなかった『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』で、スポーツの祭典を行うことができるんです」
 開催国は『ブラジル』。
 広大なアマゾン川とジャングルで、さまざまな楽しみ方が出来るはず、とねむは言う。
「ここに集まってくれた皆さんは、リオのカーニバルに参加してもらいます!」
 本来、カーニバルは2月にあるのだが、今回は大運動会に合わせてもカーニバルを催すようだ。
 前夜祭として、3日程度にわたって開かれるカーニバル。
 今回、ここに集まったケルベロスたちには、ケルベロス同士のダンスコンテストを開くことになった。
 どのようなダンスを踊るかは自由。この大運動会の雰囲気に合わせたダンスをして、会場を盛り上げてほしい、とねむは言う。
「こちらではケルベロスだけが参加するカーニバルですから、サンバ以外を踊ってもいいと思います!」
 踊りに合わせて、楽器などを用いて音楽を奏でることだって出来る。
 衣装やダンスの内容、添える音楽まで自由度は高い。種類や参加者が多ければ多いほど、アマゾンに集まった観客たちも喜ぶことだろう。
「ぜひぜひ、楽しんできてくださいね!」


■リプレイ


『スカイクリーパー』のギターアレンジに合わせて、『FAM』の面々は踊りだす。
 元はアイドルソングのような可愛らしさを感じられる曲だが、今回はギターアレンジで、タンバリンをアクセントに挟む。
 ドラムはスルドやカイシャに代えたから、原曲を損なわず、それでいてこの場の雰囲気にもマッチする印象になっていた。
 曲のアレンジを担当したのはミライ――せっかくの素敵なアレンジなのだからと、踊る面々も気合が入っている。
「大丈夫、練習はしてきた……!」
 ふんわりした印象の青色衣装に身を包んだシェミアは、この時まで繰り返してきた練習のためかちょっとだけお疲れの様子。
 それでも仲間たちと一緒に踊っていると、なんだか楽しくなってきて翼もばさっと振ってしまう。
「ふふっ、楽しいね!」
 踊りの振り付けをちょっとだけミスしても、シルの笑顔は変わらない。
 シルの水色の衣装は見ているだけでも爽やかで、そこにプリンセスモードもあいまって非常に華やか。ついつい歌を口ずさむシルの横、キアリは対照的にスタイリッシュモードでどこかクールに決めていた。
 オルトロスのアロンを飛び越えたり、逆にアロンに飛び越えさせたりと練習を重ねてきたキアリ。笑顔は得意ではないから表情は少し硬く見えたが、それもカッコ良く感じられるものだった。
 そうして華やかな衣装の四名に対し、ツカサは装飾も少ない、真っ黒な衣装。
 足元に転がってきたゴミを拾い上げ、あるいは彼女たちのための足場を用意……ツカサの陰ながらの活躍があってこそ、彼女たちはダンスに集中できるのだった。
 ミライのウィンクはシェミアとキアリに。特に練習を頑張っていた二人はそれが嬉しくて、思わず顔を見合わせて視線を交わす。
「シル、いくよ……♪」
 シェミアがシルの手を取れば、二人は腕で輪を作る。
 ふわりと浮く二人――小さな歓声を聞き取ったミライはギターを手にして、生演奏で更に会場を盛り上げる。
「キアリちゃん」
 ツカサはキアリを呼んで、組んだ自分の腕に乗るよう伝える。
「いくよ!」
 大跳躍――キアリがシェミアとシルの高さまで届けば、それは今までに見たことがない景色で。
(「少しは笑ってくれてるのかな?」)
 ツカサは空高くにいるキアリを見て、そんなことを思う。
 ――ミライのギターも最高潮。シェミアはギリギリのところまで頑張って二人と共に飛んでいたが、ついに翼は限界を迎え、へろへろと下降。
「皆、お疲れ様」
 そんな三人を無事に着地させて、ツカサは笑いかける――ミライのギターもフェイドアウト、そして会場に響き渡ったのは、南国風のリズミカルな音楽。
『真夏日上々!!』に合わせて踊るのは、唯覇とテレビウムのカランのユニット『星天桜嵐』。
 人間とサーヴァントという体格差もうまく生かしてリズミカルに、そしてコミカルにダンスを見せる二人。最後にポーズを決めると辺りに歓声が湧きおこり、二人はハイタッチ。見るからに仲良しなところも見ていて癒されるもので、再び歓声が生まれた。
 観衆たちに笑顔を見せ、言葉を交わしながら唯覇はダンスの余韻を味わう……運動会に向けて、体も十分に温まった。これからアマゾンで過ごす時間にも期待ができて、唯覇は改めてアマゾンの空気を吸う。
 ――唯覇の作り出した南国の雰囲気を引き継いで、それでも印象はガラリと変えてしまうのは、フラを踊るマヒナ。
 マヒナもまた、サーヴァントと共に参加している。シャーマンゴーストのアロアロと一緒に、とマヒナはアロアロに目を向けるが、アロアロは物陰に潜んでふるふると震えていた。
「……アロアロ、A'a i ka hula、 waiho ka hilahila i ka hale……『フラをどうしても踊りたいなら、恥じらいは家に置いてこよう』だよ?」
 そう言ってマヒナが手を差し伸べて、やっとアロアロも姿を見せる。
 そんな二人が踊るのは、フラ・カヒコ。
 伝統的なフラということもあり、衣装もティーリーフスカートにココナッツブラとオーソドックスなものにした。
 頭と足首に巻いた、シダの葉で作ったレイも涼やか。イリイリを打ち鳴らすリズムに合わせて詠唱『チャント』を唱えるマヒナの踊りからは、自然と大地への想いが感じられた。
 慣れた動きで、どこか優美さすら感じられるフラ――マヒナの踊りに見惚れる者もいれば、その横で震えながら、マヒナの踊りに一生懸命ついていこうとするアロアロを応援するように見つめる者もいる。
 サーヴァントとの踊りはそれぞれの関係性が見えてくるようで面白く、それは鞠緒とヴェクサシオンも同様。
『オシュマレ』――虹の神をテーマとして踊る鞠緒の頭上、ヴェクサシオンは虹色の蛇柄と黄色のビーズ飾りを縫い付けた布を垂らし、そこにだけ一種独特な空気を作り出す。
 ヴェクサシオンの垂らす布と鞠緒の衣装はお揃い。言葉は誰にとっての母語でもなく、だからこその霊妙さが辺りを包み込んだ。
 声が、身体が、表情が。訴えかけるように婀娜っぽく、それでいて触れてはならないもののように神聖に感じられる――はだしの足先に虹を散らし、脚を上げて一本足の神を示し。
 長く、女性らしい髪もターバンで纏め上げることで、黒に身を包む鞠緒は彼であり彼女であるオシュマレを感じさせるように踊るのだった。


 リューディガーの優雅なステップは不意に情熱的になり、寄り添うチェレスタの金髪はふわりと大きく広がる。
 二人が舞うのはアルゼンチンタンゴ。男性が女性をリードする形のダンスだからとリューディガーに身を委ねるチェレスタは、ふとケニアでも踊ったことを思い出す。
(「あの時はダンスに慣れないあなたを私がリードしてたけれど……」)
 チェレスタを包む腕の力強さが、今は頼もしい。
 大胆なステップもすっかり板について、身体を絡みつかせながら、リューディガーは囁く。
「音楽に関しては全くの素人だった俺が、お前とユニットを組み、どうにか形になってきて、今日で1年だ」
 お前がいなければ今の俺はいなかった、そう告げるリューディガーを、チェレスタは見つめて。
「私、改めてあなたに惚れ直しちゃいました」
 チェレスタが身を寄せれば、触れ合う箇所の全てが心地よい。
「これからも、二人で支え合って生きていこう」
 視線から言葉、肉体までもを交わして、互いの愛を確かめ合う――リューディガーとチェレスタのダンスは、そんな成熟しきった愛情に満ちていて。
 一方でムギと紺は、愛情よりも楽しさに満ちたダンスを踊る。
 楽曲は特定のものと決めずにメドレーソング。テンポも曲調もガラリと変われば踊り方も大きく変わり、その目まぐるしさは見ていて飽きないものだった。
 互いに型は気にしてはいない。ステップを踏んだかと思えば、接触テレパスでムギは。
「よーし今度はこうだ、そら回るぞー!」
 ぐるんと紺を回して、真っ赤なバイア―ナドレスの裾を大きく広げさせる。
「ふふ、目が回っちゃいそうです」
 ラテンダンス衣装のムギは色や柄を抑えているがそれが却って魅力的で、紺は気を付けていないとダンスの足を止めて魅入ってしまいそう。
 ――でも、実はそれはムギも同じで。
(「こうして一緒に踊ってると……うん、誰よりもきっと、一番俺が紺に魅せられてるんだろうな……」)
 そんな気持ちも、接触テレパスのせいで伝わってしまった。
「ムギさんたら……そんなに言われると照れてしまいます。ですが、私もムギさんに夢中です」
 浮かんだのは照れ笑い。足取りはどこまでも軽く、いつまでだって踊っていられそうな気分になる二人だった。
 一方、ファルケと共にロックな社交ダンスを踊るコンスタンツァはどこか照れの色が残っている。
 くねらせる腰、密着する身体……意識するとどんどん動きがおかしくなってしまう、と思い切って羞恥心を捨て、コンスタンツァは力いっぱい飛び跳ねる。
 バク転で派手に決めると会場は湧き、ファルケはモノトーン調のカウボーイ姿でリズムに合わせてステップを踏む。
 共に幾度もの戦いを経てきたからこそ、コンスタンツァの動きの癖は知っている。身長差はダンスの調和を乱す可能性もあったが、それも演技に組み込んでうまく利用すれば、観客からは笑い声交じりの歓声が飛ぶ。
 作法も型も知ったこっちゃない、それでもラストスパートに向けて会場は盛り上がりを見せ、タイミングを見計らって二人は腕を目いっぱいに伸ばして手をつないだ。
 くるくる回るのはコンスタンツァ。踊りながら倒れ込むコンスタンツァを、ファルケは胸でやさしく抱きとめる。
(「ふたりなら、何でもできる気がするよ」)
 そんなファルケの想いが通じたかのように顔を上げたコンスタンツァは、顔いっぱいに笑顔を。ドレスの裾をカサブランカの花のように広げて、コンスタンツァはファルケへと。
「……もう離さないで、ダーリン」
 ファルケの首に腕を回してのキス――会場いっぱいの歓声には、口笛も混じっていた。
 ――踊るパートナーへと気持ちを向けるリューディガーとチェレスタ、ムギと紺、ファルケとコンスタンツァ。
 パートナーとのダンスを魅せた後に躍り出るトルテは、真っ赤なパシスタ衣装で観客へと愛を振りまく。
「せっかくなので、サンバを踊ります♪」
 攻め一択という具合に腰をくねらせ、Tバックのお尻を振って肉感アピール。
 豊満という言葉では表しきれない爆乳は溢れ出そう。お尻に、胸にと男性たちの視線が注がれるたびに得られる快楽エネルギーが嬉しくて、トルテはうっとりとした表情でますます激しく体を揺らす。
 もちろん視線を注ぐのは男性だけでなく女性も。肉感的で女性らしい肢体に羨望を抱く女性も少なくはなく、楽しそうに踊る笑顔の愛らしさもまた観客を夢中にさせる。
 とびっきりの笑顔と共に、最後は投げキッス。
 熱狂的な歓声が上がるたびに、トルテはその方向へと惜しみない投げキッスを注ぐのだった。
 ボルテージは最高潮、会場に溢れる歓声を身体いっぱいに受け止めて、メリーナはたくさんの羽根飾りを揺らして躍り出る。
「ふはははっこの熱気と私たちのダンス魂どちらが熱いか勝負ですぅ――――!」
 メリーナが披露するのは、額につきそうなほど高々と脚を上げてのダンス。
 サンバ衣装といえば露出度が高いものも多いが、そのあたりは羽根飾りのカバーがあるから、メリーナは何も心配せずにダンスに集中することができた。
 いわゆるサンバ衣装を避けたのはアンナマリアも同じ。もっとも彼女の場合は事務所からのNGが理由だったが、羽根飾りと帽子で雰囲気は十分に出ていた。
 そして、スレンダーなアンナマリアにはチューブトップとショートパンツという姿もよく似合っている。ショルダーキーボードにスピーカーポッドで響きが増幅する中、カロリーナも恥ずかしさを抑えて参加。
 カロリーナはビキニを羽根で彩った衣装で、サンバ衣装よりも露出は控えめ。それでも恥ずかしい気持ちは否めない……思いつつ、横を見たカロリーナは、ミルティの衣装に驚愕の表情。
「ちょっと恥ずかしいっすね……ってミルティちゃんすごっ!?」
「ほらー、ミスティもメリーナちゃんも恥ずかしがらずにいこーよー♪」
 ミルティの衣装は装飾たっぷり露出たっぷり。
 ブラトップとTバックだけで肌をあらわにしたミルティは嬉々として集まった人々へアピールを振りまき、差し伸べられた手を取って老若男女問わずにハグ。
 ビハインドのミスティは青のサンバ衣装が恥ずかしいのかミルティの後ろに隠れていたが、ミスティも引っ張り出してミルティは人々に笑顔を向ける。
「半端ねえっす……ミルティさんて呼ばせてもらうっす……」
 カロリーナはそんなミルティに思わず声を漏らしてから、メリーナの真似をして脚を高く上げ――、
「うにゃっ!?」
 思わず後ろ向きに転倒、後頭部をしたたかに打ち付けてしまった。
「あら、大丈夫?」
「いたた……うん、大丈夫っす」
 アンナマリアの言葉にうなずくカロリーナが立ち上がったところで、『インプロ』の一同は横並びにラインダンス。
「一緒に踊るですよ!」
 メリーナが誘えば、現地の人々や観光客まで引き込まれる。アンナマリアの奏でる音色に合わせて体を動かし、笑顔を交わせば言葉の壁など無いも同然。
 辺りはこの日一番の歓声に包まれて、ダンスコンテストは大成功に終わるのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:易しい
参加:20人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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