ケルベロス大運動会~アマゾン奥地部族の村に体験入村

作者:ほむらもやし

●ケルベロス大運動会
 低空を飛ぶ、飛行船から勇ましい曲と共に強気なお姫様風のナレーションが響き渡る。
 デウスエクスとの戦いは激しさを増している。
 度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動によって世界経済もまた試練の時を迎えている。
 戦いを支えるべき経済が後退すれば、あなた方ケルベロスを支えられない。
 故に経済活動を活性化させ、収益を挙げるイベントが必要だ。
 パンが食べられなければ、面白いイベントを打ち上げて、景気を良くすれば良いのよ!
 ケルベロスはデウスエクスと同様、グラビティでしか、ダメージを受けないわよね?
 ご存じで無いですって?! なら今、知ればいいでしょ!
 世界中のプロモーターたちが、危険過ぎる故に開催を断念してきた『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄り、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げ、ケルベロスたちに競って頂くの。
 ――それこそが、ケルベロス大運動会なのである!
 栄えある第3回の開催地は『ブラジル』のアマゾン流域が選ばれたわ。
 期日は、8月11日(土)。
 さあ、ケルベロスよ! アマゾン各地を巡り、過激なアトラクションに挑戦するのよ!
●体験入村者募集!
「熊本での戦い、お疲れ様でした。賞賛に値する見事な戦いだった。すばらしかった。正に諸君は英雄だよ!」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、微笑みと共に言葉を紡ぐ。
「で、今回の運動会の舞台となる、アマゾンには、昔ながらの個性的な生活を続けている部族が少なからず存在する。君らにはこれら少数部族の村に滞在して、そこでの作法に則った生活を体験して貰いたい」
 文明とは程遠い環境であっても、幸せに生きている部族の個性を知ることは、様々なことを他人任せにする文明的な生活に一石を投じるだろう。
「滞在を快諾してくれた部族は、全部で5つ。すべてが少数民族の村だから、いくつかの班に分かれて、希望する一つの村に滞在すると流れになる」

『髪の毛ふっさふさ村』
 老若男女皆、髪の毛がふさふさである。朝夕の不思議な儀式、独特の食文化、温泉など、何が髪の毛に恩恵を与えているかは謎だが、髪の毛が薄い者はいない。
『鰐と仲良し村』
 とにかく鰐と人が仲良く暮らしている。鰐と人が川の字の形になって寝ている風景が見られるほど。
『石と木の村』
 金属の道具を使わない村。代わりに石器や骨角器がなどが使われている。美しい織物を作る技を持つ。
『樹上の村』
 すべての家が樹上にある。狩人の村、狩猟や採取で生活の糧を得ている。素材の味を生かしたグルメの村。
『虫喰いの村』
 たくさんの虫が毎回食卓に上る。芋虫た甲虫など様々な虫を美味しく食べる知識や調理技術を持っている。

 かくしてケンジは5つの村の大まかな特徴を告げる。
 興味が沸いたなら、恐らくは二度と無い機会だから、この機会を逃す手はない。
 但し、部族と同じ生活を体験するのだから、その心づもりで。

「持ち込んではいけないものは、現地に入る前に全て預かるから、心置きなく部族の生活を体験できる。部族の人たちにとってもケルベロスに会う機会なんて滅多に無いから、きっと盛大に歓迎してくれると思うよ」
 その気になれば、簡単に壊せてしまえそうな、部族の生活だけど、手出しをしなければ、文明社会が滅びてもなお、森がある限り、遠い未来まで続きそうな部族の生活。
 変化し続ける宿命を背負った文明に対して、変わらぬ持続を目指す暮らしに、人々は何を思うだろうか?
「光の無い夜は怖いというけれど、星明りは明るく見えるよね」
 夜は単に闇ではない。文明という壁のおかげで、見過ごしていることは意外に多いのかも知れない。


■リプレイ

●樹上の村
 研究者が見れば腰を抜かしそうな超巨木群がそびえる森にはむわっとした熱気がこもっていた。
 やってきたのは、世界初公開、秘境中の秘境とも言われる村だった。
 樹上に作られた家と家は縄吊り橋で繋がれていて、それらが蜘蛛の巣の様に巡らされた空中の街だった。
 何しろ樹周りが普通の家一軒ほどもある巨木がそこかしこにあるのだから半端ではない。
 ケルベロスというすごい人が来ると言うことで、おもてなしに用意されていたご馳走は、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)が、想像はしていた通りの素材感あふれるもの。
 大きな幼虫、発酵させた魚、見たことの無い果物、共に来た毒島・漆(医猟咒師・e01815)は興味深げに楽しんでいるようだが。
「リルはこういうのも大丈夫なんですか?」
「虫とか形がはっきりしているのはあれだけど、やっぱり樹の上だから火はあまり使わないのかな? でも素材の味がそのまま分かるのはいいよね」
 形状として見慣れた食物はバナナと芋くらい。生きた幼虫とかは無理だけど、他の物ならば。骨まで蕩けるような魚の漬物、熟れ鮨みたいなものだろうか、鮮烈な酸味と濃厚なチーズの様な味わいにメリルディも漆も破顔する。醸す力はすごい。
「これってどうやって作るの?」
 メリルディは思わず問いかける。その好奇心に満ちた眼差しに村の女は笑みを零すとそれなら今から一緒にやろうと誘ってくれた。

 Casa Mille fiori――同じ寮の仲間と共に訪れた、アイリス・リーヴィゲイタ(カキツバタの花言葉・e28244)にとっては見る物全てが新鮮だった。この巨木が極相林を成しているのも知らされていなかったことだ。
 高度な情報化社会とは言ってもデータセンターに蓄えられた以上の情報は無い。そこには過去に人類が紙に書き留めた情報の多くも入力されてはいない。今回の様な人の見聞や記憶に頼るような情報であれば尚更だろう。
「縄文文化は1万年以上続いたそうね。この村はどのくらい昔からあるのかしら?」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は首を傾げる。世界では数え切れない程の文明が興り滅びたと言われる。この村をそうした文明の一つとするならば数千年以上続いているのかも知れない。
「いつから……か。考えもしなかったな」
 此処には異文化を知る為に来た。矢を作る技も火を起こす技も便利に使える様に極められている。ジークリットが作って見せた道具とは、実用性や精度の面で比べものにはならなかった。
 原始的なやり方に付き合おう、自らの牙と爪で仕留めるのも一興と、余裕を見せていた、クラウス・シュナイダー(邪智暴虐の赫眼・e64618)も思い知らされることとなった。
 上空に飛び上がった所で極相に達した森は濃い緑にしか見えず、獲物を追い立てようと獣道を進んでも、動物の影すら認めることは出来ない。半日森を駆けずり回って何も得られなかった。
 それは森のルールを分かっていないから当然。この森では君らはルーキーだと案内人は和やか笑う。
「少しわかったような気がするんだよ。銃もグラビティも使う必要、無いんだね」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の言葉に案内人は誤魔化すように頷いた。他文明との接触があるのだから、街に出て暮らすようになった者もいるだろうし、情報も得ているのはわかった。
 と言うわけで、日が悪いということで、狩りは早々に切り上げられた。動物は狩人の都合には合わせてくれない。
「え? そんなに安易に諦めてよろしいのですか?」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)の表情が驚きの色に染まる。初めて来た者には想像もつかないが、此処に住む者は、この森には手を伸ばしさえすれば食糧にできるものがいくらでもあることを知っている。
 果たして狩りは一羽の鳥も得られない惨憺たる結果に終わるが、別の所で巨大な鰻が捕れたとかで大忙しらしく、果たして、夕食もまた、バナナと芋以外は、初めて見るような食材が大量に並んでいた。

「すごい……いつも見てる星空と全然違うよ」
「こんな綺麗な……落ちてきそうな星空、現実にも、あるんですね。夢の中にしかないと思っていましたわ」
 手を伸ばせば本当に星を掴めそうな気がすると、アイリスに微笑みを返すルーシィド。思い通りには行かないことばかりだったけれど、何かを試すことを許してくれる村人は本当に優しい。そこには異論がないとジークリットも頷いた。
「受け入れる……か」
 身体能力は圧倒的なのに上手くゆかないのがクラウスには不思議だった。しかし森のことを何も知らないと気づいた今、それはあたり前のことに感じた。
 肌に触れる自然の熱帯の木の感触、自然の風が上や下、左や右を抜けていく感覚は落ち着かないが不思議と嫌では無く、ジークリットの頭の中には昔のこと、自分が故郷と呼ぶ場所での記憶が思い出されていた。
「文明の進む方向が違ったんだね」
「そうね。この大木も樹齢は数千年を下らないでしょう。こんな森を守り続ける技は私たちには無いわ」
 いつもとは違う夜空を眺めながら、人の幸せと科学技術の到達度は比例しないと知る。
 ただ炭水化物からアルコールを醸すのは人類共通の記憶かも知れない。何故ならここでも例外ではなく、それを蒸留したスピリットまであるのだから。
「それじゃあこれは年長組の特権ということで。乾杯~!」
 ジーク、リリ、ルー、クラウス、親しい仲間と過ごす夜、村人たちともすっかり顔見知りで、無遠慮にできるから心地良い。異国のそれは五臓六腑に沁み渡りすぎて酔わない理由を思いつけない。

 樹も草も森も初めて見る物ばかりだったと興奮が冷めやらぬのは、鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)であった。
「秘密基地が村だなんて、文化の違いって面白いな」
 今日は森を歩き回り川で網を引いているだけで楽しかった。ティノ・ベネデッタ(ビコロール・e11985)は、それと気づかずに踏んづけた巨大なエレクトリックイール(電気鰻)を驚きのあまり、その身体には不釣り合いな怪力で投げ捨てるところだったし、でっかいピラニアに指を飛ばされそうになった、尾神・秋津彦(走狗・e18742)も、その瞬間を思い出して額に汗を浮かべる。
「あれは地雷だよ。いきなりバリバリッ! と来たら、誰だってそうするって」
「気をつけていたつもりでありますが、体験するのがケルベロスというのは、理にかなっているのであります」
 そう言って瞳を潤ませるティノに、秋津彦はお陰で、今晩はたっぷりと脂の乗ったと肉料理にありつけたのだから運が良かったのだろうと労う。ケルベロスで無ければ、正に命懸けの体験であった。
「……確かに鰻の味はするでありますが、脂がすごいでありますな」
 確かに食べ始めはよく煮込んだ豚の角煮の様で蕩ける美味だった。但し、その角煮の脂身の部分を1ポンドぐらい食べなければならないとなると、矢張り辛くなってくる。そうなってくると、ティノの推すピラニアの白身肉の旨さの方が際立ってくる。
「ピラニアが、鯛に似た味っていうのは本当なんだね」
「それに電気鰻で感電なんて、珍しい体験だったよな?」
 ちょっとからかう様にヒノトが言うとティノは子どもらしく、ぷうっと頬を膨らませた。
 自給自足は大変そうだと思っていたけれど、森は豊かで木の実も芋も魚も虫も、強敵の獣や鳥も。手を伸ばしさえすれば食べ物は幾らでもある。死と隣り合わせの危険はいっぱいだけれども此処は間違いなく楽園だった。
 お腹も心もいっぱいになったし、この大樹の上の方で、満天の星空を楽しもうと誘うヒノトに、ティノと秋津彦が、行こう。と声を弾ませ、足を滑らさないように駆け登る。
 写真など撮らなくても思い出は記憶に残る。いや忘れるはずは無いだろう。
 空には満天の星、漂う薄雲は星の川に掛かる橋の様で、淡い虹色にも見えた。
 心地よい風が、3人の自然な眠りを誘うが、語り合う話題が尽きることはなさそうだ。

●鰐と友だち村
「まず言っておくが、私を含め竜派ドラゴニアンは鰐ではないからな」
 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)の鬼気迫る表情に、村人たちは恐れをなした。
 ここはアマゾン川の流域でも特に暑い地域なのだろう、そこかしこで鰐と人が一緒に寝ている。
 水着で。
「色も見た目も明らかに違うので問題ないとは思うが、君たちにはどう映っているのか……?」
 純粋に仲が良すぎるだけ。そして鰐も人を好いてくれている。
 お互いに傷つけようとしないから自然に仲良くなったのだろう。
「……折角だから、私もスキンシップを楽しんでみるか。郷に入っては郷に従えと言うからな」
 好き好んでやる訳では無いと釘を刺してから、晟は膨らみのある鰐の腹に顔を埋めた。
「意外に柔らかいのだな、それにひんやりしている」
 解説気味に語る晟だったが、形容しがたい心地よい感触に、次第に表情が緩み始めていた。

「なるほど、確かに肌触りが良さそうだな」
 そんな一部始終を目撃した、ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)がうんうんと頷いた。
 来てみるまでは色々な心配があったけれど、実際のところ此処では誰もそんな細かいことを気にしない。
「濫獲で仲良しになる機会が無かったのか」
 クロカイマン――黒い鰐とも呼ばれる種に出会いたかった、ビーツーは残念に思う。もしかすると昔は仲良かったのかも知れないが今となっては知る術も無い。
「貴殿は何歳なのかな?」
 優雅に寝並ぶ鰐の中でも特に大きな鰐の脇に腰を下ろす。村人に聞けば触り方に決まりがある訳ではなく愛情を持って接すればオッケーというアバウトさ。だから丁寧に心を込めて背中をさすってみれば、ぐるりと寝返りをうって触って欲しい部位を向けてくる。ビーツーのことをすっかり信用しているようで全く緊張感が無い。
 かくしてビーツーの幸せな鰐村ライフは始まった。

 食べたことはあるけれど味も覚えていない。あと映画で見たことと戦おうと思ったことがあるくらい。
 鰐は触ったことも仲良くしたことも無いから、来てみたと、水無月・一華(華冽・e11665)は楽しげに言えば、僕もだ。と、暁・万里(迷猫・e15680)も灰色の瞳を輝かせる。
「万里くんきてきて! ぷりぷりわにわにしてます!」
 ひんやりした手触りはもふもふに勝るとも劣らない癖になる触感。
 一華は2秒で虜になってしまったらしい。
「鰐! 良いよね、怪獣みたいだし、かわいいね。いっそのことこの子お持ち帰りしたいよね?」
「ふふふ苦しゅうない近う寄れ……なんちゃって」
 言いながらカメラのシャッターを切る万里。
 それにしても鰐の感触がこんなに『よいもの』だったとは。村人が水着になっている理由も分かる気がする。
 まだ着いたばかり、いままで知らなかった鰐を、これから体験しよう。
 それがケルベロスとしてここに来た仕事だと2人は大いに気合いをいれた。
「そう言えば……、此処の鰐のごはんってどうしてるのかな、これだけ大きいと大変だよね?」
 一度飼って見たいと思ってあれこれ調べて断念したから気になった。
 万里の率直な疑問に村人は屈託も無く答えた。
「よく知らないよ。ただ川に出かけて帰ってくるといつもお腹が膨れているんだ」
「自分で狩りをするなんて賢いですわね!」
 細かいことは気にせずに無邪気に応じる一華はすごく納得した風に笑った。

●虫食いの村
「実は私、セミや蜘蛛、ハチノコも食べたことあるのですがね……美味しいですよ」
 到着早々、いきなりでっかい芋虫にかぶりついて濃厚な滋味を堪能するのは、ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)であった。
「これが虫料理か、テレビ番組とかでたまに見るし興味は有ったんだよな」
 一方、常祇内・紗重(白紗黒鉄・e40800)は、大量に並ぶ虫の種類とその調理法を確認していた。
「この大きな蜘蛛はタランチュラみたいだな。火を通してあるのか」
 日本で言えば魚介類と同じ様な発想で調理されているのだとすぐに気がついて、親近感を覚える。
 巨大幼虫やサナギを刺身で食べるのも意外だった。発酵させて保存性を高めると共に味を濃くする様な調理法もある。調理法の多様さを目にした、紗重は此処が特別に『虫喰いの村』と言われるか、分かったような気がした。
 何故かこの村で食材となっている虫は余所に比べてビッグサイズであるように見えた。印象的な形のタガメ、艶のあるカナブンやカメムシ、ソーセージの様な芋虫が日本の魚市場に並ぶ魚介類を彷彿させる。しかもその味は海老や蟹を連想させるものだった。
「ちっちゃくて、かわいい!」
 声のする方を見れば、紗重がボクスドラゴン『小鉄丸』と共に村の子どもたちの中に馴染んでいて、とても楽しそうにしている。
 小さな連れを箱に入れたり出したり。ただそれだけの動作に喜ぶ子供たち。虫取りの仕方を教えて貰えないだろうかと問えば、大物が取れる場所を教えてくれると言う。
 休む暇なんてありはしない。思う存分虫取りも体験できる様だ。

●髪の毛ふっさふさ村
 花道・リリ(合成の誤謬・e00200)と、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)が訪ねたのは、アマゾン川の無数にある源流の一つのペルーとの国境付近の火山の近くである。
「おいリリ、アンタの方の進捗はどうだ?」
 案内役の村人の生活をトレースし続けて、数日。ルースは平和すぎる生活に段々退屈して来た。
「そうねえ。温泉は毎度、とても気持ちよいわね。肌も潤う気がするし、あそこの泥や湯で頭皮を洗うことによって毛根の健康に繋がる、なんてことはないかしら」
「温泉……毛根の健康ねぇ……」
 認めたくないが、肌艶は日々増して行き、銀の髪も今や星の色の様に美しく、女神様の様に見えてくる。
「随分と、お楽しみのようだな……」
「何よ、ひとが真面目に調査してやったというのに。そう言う、アンタは何か収穫でも?」
 日々似た様なネタで話していると、大概のことは省略できるようになってくる。
「俺の収穫? ハハッ、まだまだこれから」
 話をごまかしつつ、ルースは床いっぱいに並べていた、メモを片付ける。
「朝夕の祈りのおかげで規則的な生活習慣ができている。毎日食べている温泉池の藻。あとは温泉のリラックス効果……か?」
「根詰めすぎたら 逆にハゲるわよ?」
 一生懸命に結果を出そうとしているのは分かるから、出来ることなら支えてあげたいと思うが、それを真顔で口にするのは嫌だから、ちぐはぐになる。
「……ほんと必……あ、いえ何でもないわ」
「何か言ったか? 今日も頭皮を後10回は洗わねばならん」
 今回の有意義な体験を纏めれば、素晴らしい論文が出来そうだとリースは息巻く。
 必死ね――探している、その『何か』が見つかると良いわね。
 リリは顔をにやにやと邪悪っぽく緩める。照れを滲ませながら。

●石と木の村
 クリームヒルデ・ビスマルク(停職明け戦犯・e01397)の向かった村は、滝壺の裏の洞窟を潜った先にある正に秘境だった。
「石や木で作る道具を一緒に作りましょうか。日本でも、遺跡とかで黒曜石の鏃とか出ますよね」
 まずは、博物館や教科書で見たのと同じ道具を使われている様を見て胸が躍った。
「わあ、そういうの作ってみたかったのですよ」
 しかも、自分が作った道具が狩りの役に立つかもと思えば、やる気が漲って来る。
「よーし、大物とか仕留められそうな業物作っちゃうぞー」
 石器用の石は割れやすく、加工しやすいはず。
 その様に考えていたが、それは本当に簡易な石器の作り方だった。
 実際に作成を体験してみると、形を整える工程、研ぐ工程と、職人的な技が必要だと分かってくる。
「出来ました。物作りは本当に途方もないです」
 たった1つの鏃を切れるように研ぐだけでも、丸一日がかりだった。
 作る大変さが分かるからこそ、大事にモノを使うのだと、実感した。
 道具作りの大変さは充分に体験した。
 作ることばかりに夢中になって、集落の人を見ていなかったと気がついて、村人の一人として生活を共にしてみようと気を配る。
 すると、村の人たちも積極的に話しかけてくるようになった。
「狩りが出来なくても、食べるものはあるから大丈夫だよ」
 森に入れば、虫や魚、芋やバナナだった見つけることができる。
 クリームヒルデは村の人たちにとって森が巨大なショッピングセンターの様なものであると知って、楽しい気持ちになった。お金を払う代わりに、身体を動かしているのだと思うと人間って本質的には同じだ。
 心躍らせて歩みを進める集落への帰り道、クリームヒルデの中にそんなことが思い浮かんだ。
「あ、もう少しゆっくり行きましょう――つかれましたよう」
 自然は豊かで美しいけれど、グラビティも使わずに身体ひとつで活動するのはきつい。
 やっぱり文明はいいものだと、実感せずにはおられなかった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:易しい
参加:19人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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