ケルベロス大運動会~海外要人饗応会

作者:白石小梅

●ケルベロス大運動会・アマゾン流域大会
「皆さん……お疲れ様でした」
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)は胸に手を当て、俯いて。
「熊本の地で連続する過酷な任務を乗り越えてのケルベロス・ウォー……ドラゴンたちの軍勢を相手に、私も今回ばかりは駄目かと思いました。本当に……ありがとうございました」
 長い沈黙。
 番犬たちは微笑みを浮かべ、小夜は瞳を拭って顔を上げた。
「……さあ! 勝利を言祝いだ後は、戦後のお話です!」
 ふっと息を吐き、彼女はけろりと仕事人の笑顔に戻る。
「世界を守るためとは言え、我々は毎度、莫大な戦費を消費し経済に打撃を与えております。この経済状況を打破するため、我らも経済貢献を行わなければなりません」
 ああ……うん。知ってる。
 番犬たちは、半笑いでため息を落とす。
 そう。デウスエクスとの闘いは人類文明を守るために必要であるが、経済面で得られる利益は何もない。戦費は塵と消えるのだ。
「そこで我々が収益を上げる為、毎年開催しているのがケルベロス大運動会です。世界中のプロモーター達に作られた、一般人には危険過ぎる『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄るスポーツの祭典。開催国のみならず世界中に経済的影響を及ぼす、一大興行です」
 すなわち、世界最大の見世物ショー。
 と、誰か言ったか言わなかったか。
「今回の開催場所は『ブラジル・アマゾン流域』です。広大なる大河と鬱蒼と茂る密林にて、大運動会を開催いたします! 黄熱病の根絶も終わり、準備は万端です」
 その活動を全面的に支える後援者たちがお望みとあらば、拒否の表明など出来ようはずもない。
 それがケルベロスの、辛いところだ。

●日本屋台村、海外VIP招致区画
「さて。実は、集まって頂いた皆さんには、大運動会の他にもう一つ仕事の依頼があります。では、説明してください」
 そう言われてパネルを引いてくるのは、朧月・睡蓮(ドラゴニアンの降魔拳士・en0008)とアメリア・ウォーターハウス(魔弓術士・en0196)。
「睡蓮ですわ。ご機嫌いかが? 例年、大運動会当日には日本と開催国の国際交流の一環として、日本政府協賛の屋台村を運営いたしますの。皆さんの仕事とは、屋台村の運営ですわ。食材、設備は政府が責任を以って用意するのでご安心なさって」
 店長が競技に出ている間は、腕の立つ日本人料理人が代理として取り仕切ってくれる。運動会へ参加しても問題なく運営可能だという。
「アメリアだ。……屋台村は客層に応じて三箇所に設置されるんだが、私たちの担当は、現地や海外の有力者たちの饗応区画となった。つまり最も、気を遣わねばならないところだ」
 パネルには、広大なアマゾンの川辺に作られた人工の白浜と、密林からの木漏れ日に挟まれ、優雅に佇む東屋が並ぶ写真。ここに各国のVIPを招待し、屋台村という名目のパーティを開催するわけだ。
「この区画ばかりは国籍問わず有力者が集まるでしょう。警備上、あまり派手なパフォーマンスは出来ませんから、料理の味やもてなしの質、施設の豪奢さで勝負する事になりますわね。一人分の予算は『日本円で一万から三万円程度』でお願いしますわ」
「尤も、例えばジュースの専門店を出したい場合に単品三万円というのは難しいと思う。そういう場合は、その値段帯の高級レストランのコースに出せるような品であれば、OKだ。値段の高さは気にしないが、グレードが低いのは嫌がる人々だからな」
 更に、保護が叫ばれている動物は料理しないよう気を遣う必要もある。
「料理や盛り付けの腕に覚えがある方はもちろん、品の良いもてなしの企画を思いついた方は是非参加してくださいまし」
「本音を言えば、配膳でもいいから出来る限り参加を募りたい。相手はこちらの最有力のパトロンたちだ。気を良くして帰ってもらわねばならないからな」

 そして、小夜が議題を引き取る。
「そう。これは今後の後援をきっちり勝ち取ってもらうという重大任務です。豪奢に、かつ優雅に、そして大胆に……戦略的接待を成功に導く。なに、戦場が少し小奇麗なだけの、いつもの仕事ですよ。では、よろしくお願いいたします」
 そういって彼女たちは頭を下げ……出撃準備を、希った。


■リプレイ


「世界中のVIPが相手か……俺の腕を試す良い機会だ。精一杯腕を振るうことにしよう」
 気を吐くは、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)。チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)がその隣で嘆息する。
「いいわね……まさしく南国の、美しく雄大な風景だわ」
 煌きながら降り注ぐ太陽。花の香りが匂い立つような湿気。白い浜と、青々とした木々。
「要人の皆様の饗応ですか……それなりのしつけは受けておりますが、世間知らずの身の上でどこまで通じましょうや」
 黒姫・楼子(玲瓏・e44321)の呟きに、火岬・律(幽蝶・e05593)が頷いて。
「皆さんの料理品目を聞いてリストを作ってあります。まず屋台の動線が混乱せぬよう配置に気を配りましょう」
「あ。アタシも手伝うわ。元々、配膳に徹するつもりだし。お客って気ままに移動するから運ぶの大変でしょ? 小夜ちゃん、いい?」
「もちろんです」
 リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)に、望月・小夜が微笑む。
「うん。皆に気持ちよく食事を楽しんでもらうために、情報把握は大切だ。配膳に回る人は、料理情報を共有してお客の質問に応えられるようにしないとね」
 髪を撫でつけタキシードを着こみ、鷹揚に語る銀髪の青年。ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。
「いきなり大きくなったと思ったらエイティーンか」
 アメリア・ウォーターハウスがため息を落とすと、彼はにやりと肩をすくめる。
「案内所や村のマップの掲示も必要ですわね。お客はかなりの人数だと思いますし。睡蓮さん、運営事務をお手伝いしますわ」
「ええ、よろしく」
 クリームヒルデ・ビスマルク(停職明け戦犯・e01397)に朧月・睡蓮が頷く。
 スタッフが組み立て資材や食材を搬入を始め、南米のリゾートに趣向を凝らした屋台が立ち並んでいく。やがて人々が会場の周囲に列を作り始めて。
「やはり蒸しますね。見目涼やかな葛餅を作りましたが正解でした」
 楼子は紅の振袖をたすきに掛けると、外周の屋台に艶やかな葛餅を並べて、息を吐く。
「さあ、いざ! 開場です……!」
 そして、煌びやかに着飾った人々が会場へ流れ込む。

●外周付近
 【静真撃剣会】は親族三人、それぞれ飲み物専門に三角形の陣を張る。
「さあ、こちらは大人の方向け……日本各地の地酒だ。鏡開きも体験できるぞ」
 神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)の前には、麗しい切子硝子のグラスと酒樽の列。鏡開きを体験しつつ、南米の紳士淑女は地酒を掬って。
「いいね。何か一言頼むよ」
 そう言われ、皇士朗は咳払いをし、グラスを掲げる。
「我々が今日まで闘えたのは諸外国の支援があってこそだ。支援してくださった皆様の勇気と英断に感謝し、決して侵略には屈しないことを、改めて誓わせて頂く! 乾杯!」
 歓声と共にグラスを突き上げる人々。
 その騒がしさを背に微笑むのは神楽火・國鷹(鬼愴のカルマ・e37351)。
「……さて。俺が用意するのは、日本各地から取り寄せたお茶です。煎茶はもちろん、抹茶や日本産紅茶、様々な種類を用意しました」
 無論、茶器も最高級を用意している。陶器に鉄器……渋く、深くも、色鮮やかに。
「素敵な香りね」
「ええ。皆さまにひと時の安らぎを差し上げることができれば幸いです。その上で、我々は地球に生きる同胞として、経済を立て直す皆様をあらゆる脅威から守りましょう」
「黄熱病からも護ってくださったものね」
 國鷹は抹茶を立てながら語らう。
 一方、神楽火・勇羽(蒼天のウォーバード・e24747)の前には子供たちが集まって。
「ふふ。我は地サイダーを用意したのである。質のよい水を使ったサイダーは格別だぞ。ここは暑いから、キンキンに冷やしたグラスでご提供だ!」
「わー、ビールみたい!」
 勇羽は愉しくジョッキをぶつけ合う。子供の面倒を見るほど親の負担が減るので、大好評だ。
「ふむ……要職にある者が集う場所と聞いたが。なるほど、よい面構えの者ばかり。そこなお方。名のある御仁とお見受けするが……我に武勇伝を聞かせてくれぬか?」
「おお! 良いとも!」
 そして勇羽は、酒の席から流れてきたおじさんの適当な武勇伝を聞くことになる。
 面白かったか否かは、評価の分かれるところだろう。

 屋台のベテラン相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、シェフ姿で接客をこなしつつ、伊勢海老の殻を飾ったカレーライスを素早く盛り付けていた。
「こちらは日本で俺……失礼。私が所属している旅団【オウマ荘】で売っている、日本風のシーフードカレーです」
 ポルトガル語で書かれた看板には、オウマ荘のカレー屋台と明記されている。
「ほう。この具は何だい?」
「鮑です。海鮮に合うよう、ルーにはこの伊勢海老を贅沢に用いていますよ」
 入ってきたばかりの客も帰り際の客も呼び止めて捌く手際に狂いはない。大運動会で屋台を回した経験では、そう簡単には後れを取らぬ古強者の貫禄か。
 そこから少し離れて、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は、優雅にカウンターに身を預けて。
「これはお菓子なのかな?」
「その通り、うちは和菓子の店だよ。これは、ブラジルの国花である黄色のイペー。こちらは日本の国花。桃色の菊だ。それに日本の夏の風物詩、赤と黒の金魚を封じ込めた錦玉羹。氷出しの冷茶もどうぞ」
 たすき掛けにした着物も涼やかに、彼はするりと練り切りを盆に載せて。
「おぉ甘い……黄色いのは、卵かい?」
「いいや。和菓子は原料に卵や乳といったものを使わないのが殆どなんだ。作るところを見せようか?」
 丁寧な手つきで和菓子を作る彼の周りには、いつの間にか人だかりが出来上がる。

 一方【Gattaca】の真柴・隼(アッパーチューン・e01296)は藍の作務衣姿で、飾り切りの野菜を補充している。
「どぉ地デジ? この慈姑、松笠に見える?」
 相棒のテレビウムは、大仰に頷いて。
「やった、お墨付き貰いました~!」
 その隣では、アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)が甘鯛に綿花油をかけて。
「こうして、柔かい鱗を立てて表面を揚げ……串を打ち上下の網に備長炭を配した焼場で挟んで熱を通す。すると鱗はサクサクの衣に。身はふんわりジューシーに……ってね」
 アラタの繊細な作業に、感嘆の声を漏らすお客たち。のぼりには『日本海産甘鯛の鱗揚げ』という文字が踊っている。
「お疲れ、シェフ! さて、甘鯛用のタレは三種類あるよ。柑橘風味の酒醤油、黄蕪と柚子のナージュ、葱と浅蜊の和風ソース……風味を変えて召し上がれ!」
 大根の菊花や胡瓜の亀を添えられて、次々に出される漆皿。運ぶのは、律だ。
「鱗揚げの別名は松笠揚げ。松は長寿と繁栄を象徴する樹木であり松笠とはその種子。この交流の種子が、強く美しく育つ事を願っております」
 説明の中、鯛に舌鼓を打つお客たちを眺めて、隼はアラタの背を叩いた。
「いい雰囲気じゃないっすか。ヨッ、店長カッコいい! これで魚や日本の新たな魅力に気付いて貰えたら万々歳っすね」
「むっはー! 嬉しいけど、熱で顔がもう真っ赤だ……でも手は抜けない。そっちこそ華やかで涼やかな盛り付け、ありがとうな♪ さあ、まだ頑張るぞ!」
 次々にやって来るお客を、地デジが整列させている。盛況は、まだまだ続くのだった。

●屋台村内周
「お飲み物をどうですか? よろしければ、こちらの果物も」
 グラスを片手にうろついている淑女に、ヴィルフレッドがシャンパンを差し出しつつ。
「こちらはブドウの女王『マスカット・オブ・アレキサンドリア』です。……ああでも困ったな、マダムはこれよりお美しいのにお口に合うでしょうか」
 優雅な対応に、淑女は微笑みながらそれを受け取った。
 配膳の者たちが頑張る中、ビュッフェのように料理を配る者も多い。
 鹿威しを背景に精進料理の小鉢を並べているのは、因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)。
「これは精進料理だよ。古くは殺生を禁じた仏教の戒律に基づいて作られたものだから、お肉は入っていないよ」
「ムスリムなんだけど、食べられるかな?」
「うん。こっちのコーナーはアルコール抜きの調味料を使って似た味に仕上げてあるよ。さすがにハラール順守じゃないけど、食べても大丈夫だよ」
 喜ぶ青年たち。混雑なく小腹を満たせるため、白兎の店舗はリピーターも多い。
 一方、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)の店舗では、配膳のリリーがメニューの雑多さに目を丸くした。
「わあ。悠乃ちゃん、色々あるけど……テーマは何?」
「ええ。デウスエクスとの闘いで一番頼りになる力は人々の協力……以前に参加した屋台村イベントで名刺を頂いた一般の料理人の方に調理のご協力をお願いしたんです」
 並んでいるのは、各ケルベロス・ウォーのテンションアップで師団が用意したものを再現した料理。例えば、熊本滅竜戦からは串焼きだ。
「日本の人々がデウスエクスとの戦いのために協力してくださっている、その貢献に触れてほしい。そしてそれを支えてほしいと思いまして」
「へえ。アタシたちの歴史なんて素敵じゃない。お手伝いするわよ!」
 悠乃の屋台はケルベロスの活動に興味のある客でにぎわい、様々な質問が飛び交う。
 趣向を凝らした店舗は、刺されば強く心を引くものだ。
 例えばユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)が手掛ける屋台のテーマは……。
「さあ、日本発祥のランチプレート『お子様ランチ』よ。量が程よく、いろんな味が楽しめるわ」
 目にすることの少ないプレート料理は、女性や子供たちを多く引きつけている。
「今回は豪勢に作ったわ。メインはブランド牛・豚の合挽ハンバーグ。付け合わせは八代産トマトのナポリタン、車海老のエビフライ、烏骨鶏の卵のオムレツ。デザートは熊本メロンとあまおう苺のシャーベットよ」
 最後にライスに国旗付きの爪楊枝をさせば、採算度外視のお子様ランチの完成だ。子供たちと母親たちへ、ユーシスは次々と華やかなプレートを配っていく。
 片や、ブラジルの料理のアレンジで現地の人々を喜ばせる者もいる。河井・珠緒(北辰の太刀・e07049)の屋台で販売されているのは……。
「おぉ、シュラスコだ!」
「ご名答。遠い異国、日本の素材をふんだんに使ったアレンジだ。お好きな量に切り分けよう。我々が戦う地に思いを馳せていただければ幸いだ」
 実際には低温でじっくり炙った和牛のタタキに近く、調味料も醤油とニンニクを用いている。親しみやすく、日本の味わいにも触れられる逸品だ。
「こちらはバルサミコソースでカルパッチョ風にアレンジしたものだ。冷えても美味しく食べられる。お連れのご婦人もどうぞ」
 飽きさせない工夫を施された、酒の進む肉料理。珠緒の前には、すぐに行列が出来上がっていく。
「もう少し裏方の手伝いもしたかったが、こうも盛況ではな……」
 珠緒が微笑みながら次々に肉を切り分けて行く、その一方で。
「外周は飲み物やデザート、一品料理が多いです。時計回りに回るのがおすすめですよ。……あら? どうしたの?」
 クリームヒルデが、すすり泣く少女を見つけた。
「お母さんいないの……」
「まあ、大変。一緒に探しましょうね」
 ほどなくして少女の母親は見つかり、会場は終始和やかに時を刻んでいく。

●屋台村中央
 漆喰で彩られた東屋に、天使の絵画が飾られている。
「巨匠ブーグローの複製絵画です。当店では『天使等を描いた美術作品に着想したコース料理』をご提供させていただいております」
 見ていた人々を誘うのは、ウィングカラーのシャツにブラックシルバーのベストを合わせた玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)。
 店内にも複製絵画が並べられ、さながらそこは宮廷のサロンだ。
「あちらの絵は?」
「あの碧い羽根の天使は……拙作ながら、私の描いたものです」
「素敵ね」
「レディ、どうぞこちラへ」
 メニュー表を携えて現れるのは、アスコットタイと白手袋で身を固めた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)。前髪をオールバックに纏めた容姿は、黒い毛並みの相棒と対称的だ。
「こちラはフィオレンティーノの『奏楽の天使』を表現したホタテとサーモンのカルパッチョになります。メインはラファエロの『システィーナの聖母』のプレートを用いたラムステーキ……」
 上質な芸術空間を演出する店舗には文化人たちが次々と訪う。
「日本食とは少し違うが、喜んでくれていルようだ」
「自分が喜ぶものが基本さ。俺もニケのケーキは食べたい。『天使の歌』をイメージしたシャンパンとか、呑みたいだろ」
「そうだな。説明の最中、尾が正直ダった」
「先に言えよ……」
 そうして二人は、微笑み交わすのだった。

 ノル・キサラギ(銀花・e01639)とグレッグ・ロックハート(浅き夢見じ・e23784)の店舗は、熊本城風の黒壁瓦屋根で飾り熊本の郷土料理を出している。時期も相まって、客も多い。
「応援、いつもありがとう。世界を真に救っているのはあなたがたです。今日のメニューはいかがでしたか? 感謝を込め、腕によりをかけさせていただきました」
 ノルはタキシード姿でテーブルを訪い、晩白柚をにこやかに切り分ける。メディア露出も多めの彼にはファンも多く、傍目にはファンミーティングだ。
 対称的に相棒のグレッグは、こうした煌びやかな場面は慣れていない。
「皆さんに世話になっているのは確かな事実だ。普段の闘いと違って、こういうのは慣れないが……精一杯の礼は尽くす。楽しんでいってくれ」
 尤も、髪を後ろに撫でつけた麗しい武人の対応に、喜ぶ女性客は多いようだ。
 忙しく立ち回りながら、ノルは一息ついて、グレッグに寄り添う。
「アリアンナは元気かなあ。まだ見かけてないけど」
「忙しいんだろう。見かけたら声を掛ければいい」
「そうだね……それにしても、こういうの柄じゃないなあ」
「どこがだ、アイドルめ。付き合わされている俺を見てから言え」
 二人は笑って拳を重ね、再び店を駆け巡るのだった。

 茶店をイメージさせる純日本風の屋台を開いているのは、近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)と桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)。
「お嬢ちゃんが料理を作ってるの?」
 如月に語り掛けたのは、家族連れ。
「うん。私が調理担当。採りたての旬な物や手間暇かけた食材を目一杯使ってご提供するよ。家では料理担当なお姉ちゃんだもの! さあ、好きなものをどうぞ!」
 メニュー写真には筍の炊き込みご飯のおにぎりに、椎茸と豆腐の味噌汁、各種天ぷら。日本を感じさせるものが並んでいる。
「味噌や豆腐は日本のスーパーフードと呼ばれているんです。カロリーは抑えつつ見映えと素材、栄養効率にこだわった日本食です。ぜひ、召し上がっていってください」
 萌花が、素材へのこだわりと家庭料理の温かみを解説すれば、家族連れが共に過ごせる場所として、人々が集まる。
「凄いね、萌花ちゃん! お客さん、一杯くるよ!」
「これでも一応、礼儀作法は小さい頃から叩き込まれてるからね。さ、デザートちょうだい」
「はーい。食後の玉露と、豆乳のムースだよ。持って行って」
 小さく愛らしいシェフと、きりっと身を飾った給仕の少女の屋台は、家庭の団欒という穏やかな時間を提供しながら、ゆるゆると時を重ねる。

 そして今回、最大の店舗となったのは【Mondenkind】だ。ハイビスカスやプルメリアで飾った店舗の中、ヴィクトリアンメイドの格好でチェレスタが前菜を振舞う。
「新鮮な鯛と野菜をワインビネガーと瀬戸内レモンで漬け込んだエスカベッシュです。こちらは北海道産じゃがいものヴィシソワーズ。さっぱりといただけますよ」
「リオデジャネイロの姉妹都市、神戸のブランド牛のステーキだ。口の中でとろけるような味わいだぞ。おろし和風醤油だれとガーリックペッパーの、お好みでどうぞ」
 リューディガーがワインとステーキを運ぶ。豪快さと繊細さを併せ持つコースにお客は大満足の様子で。
「屋台と言う言葉の意味が分からなくなりそうですね。客層もメニューも、高級レストランと遜色ない。これは手が抜けませんね」
 執事服に身を包んで給仕をしていたエリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)が苦笑する。
「旅団の看板も掛かっていますからね。私はあちらにデザートをお持ちしますから、そちらの席からお茶をお願いします」
 アンネ・フィル(つかむ手・e45304)にカップを渡され、二人はそれぞれの席へ。
「食後のアイスハーブティーです。ハイビスカスの酸味とミントの清涼感が、疲れた体を心地よく癒してくれるでしょう。お好みではちみつをどうぞ」
「食後のデザートはいかがでしょうか。店長ヴァルトラウテの旅団で販売している洋菓子でございます。アプフェルクーヘン、ヘクセンハウス……ザッハトルテも」
 説明を終え、二人は時計を見て頷き合う。
 優雅な時間にも、幕の時が近づいていた……。

 そして。
 店舗をスタッフに任せて裏道を進めば、いつの間にか番犬全員が外に集まっている。
 優雅な饗応からエクストリームスポーツへ。
 そう。
 これより、大運動会の幕が上がる。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月11日
難度:易しい
参加:26人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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