リチェルカーレをもう一度

作者:犬塚ひなこ

●探求の音色
 古びた廃校の奥に眠るのは、旧い電子オルガン。
 校舎ごと放棄されたそれは埃を被っているうえに所々に鼠に齧られたような穴があり、二度と動かぬものと成り果てていることが分かった。嘗て誰かが弾いていたのだろうか、譜面台には煤けた楽譜が置いてある。
 廃墟の奥の音楽室にて朽ちた楽器。それはもう誰の目にも触れることはないはずだった。
 朽ちたオルガンの運命を変えたのは、廃墟に忍び込んだ小さなダモクレスだ。コギトエルゴスムを抱えた蜘蛛のような小型機械は器用に部屋に入り込み、電子オルガンの隙間から内部へと侵入した。
 そして、死んでいたオルガンは生きた機械へと変貌する。
 手足めいた機械部位が生えたそれは自ら鍵盤を叩き、奇妙な音を響かせた。
「――♪ ――、――♪」
 奏でられたのはパッヘルベルのリチェルカーレ、ハ短調。しかしそれは一小節しか奏でられず延々と歪んだ音を繰り返すのみ。
 やがて、鍵盤から手を離したそれは重い体を引き摺って廃墟を出ようと試み始めた。
 何十年ぶりかに響かせた音色を誰かに聞かせる為、そして――其処に宿る力を奪い取る為に、狂った機械は歩き出した。

●響かせる音色
 とある廃校に残されていた電子オルガンがダモクレスとなってしまった。
 そして、里に下りたそれが人を音色で殺すという未来が見えたと話し、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)はケルベロス達に事件の解決を願う。
「今から向かえばダモクレスが音楽室から出る前に戦いに持ち込むことが出来ます。周りに人がいないのと、お部屋が広いのでおもいっきり戦えます!」
 現場は或る山の麓にある廃校ゆえに一般人が入ってくるようなことはない。そのため幸いにもまだ被害は出ていない状態だが、ダモクレスを放置すれば廃校近くにある町の人々が虐殺されてしまう。
 音楽室までの道も解っているので迷うこともなく、対峙後は全力で戦えばいい。
「ダモクレスは元は電子オルガンということもあって、音に関する攻撃をしてくるようです。皆さまで協力すれば勝てる相手ですが油断は禁物でございます」
 敵の攻撃は痺れ効果のある歪んだ音色、心を惑わせる繰り返しの旋律、更には強力な追撃効果のある大音量だ。
 一応の注意を告げたリルリカだが、番犬達ならば大丈夫だと信頼の宿った笑顔を見せた。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは許せません。それに……昔は学生さんに素敵な音色を聴かせていたはずのオルガンさんが人殺しをする道具になるなんて、絶対ダメです」
 かのオルガンはもう既に役目を終えたものだ。
 どうかそのまま静かに眠らせてあげて欲しいと願い、リルリカは仲間達を見送った。


参加者
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
小鞠・景(冱てる霄・e15332)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)

■リプレイ

●記憶の音色
 木造の校舎の廊下は歩く度に軋んだ音を立てる。
 嘗ては子供達が元気よく通っていたであろう学校も今は寂れ、何処か悲しい雰囲気に満ちていた。小鞠・景(冱てる霄・e15332)は廊下奥の音楽室を目指し、歩を進める。
「電子オルガンがダモクレスに、ですか」
 それはきっと、昔は綺麗な音色を奏でていたはず。
 誰かに聴かせるために――聴いてもらうために。
「人に必要とされた時間を終えて、ようやく眠りについたのに……」
 メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)は景が紡いだ言葉にちいさく頷き、それが大事にされていたであろう過去を思う。
 羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)もまた、想像を巡らせた。
「廃校にあるオルガンということは、音色に合わせて子供たちの歌声が響き渡るような、とても幸せな時間を過ごしてきたのでしょう」
 紺の思いを聞き、ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)はそうかもしれない、と前方に見える音楽室の扉を見つめる。
 幼い頃、心臓を患っていたルト自身は大勢で歌ったような経験はない。それでも何故だかオルガンが過ごした過去の光景が思い浮かぶようで、静かに目を細めた。
「でも、それが今は死を呼ぶ存在になってるんだよな」
「可哀想だけれど、もう一度壊してあげましょう」
 ルトの真剣な声に対してメロゥが凛とした眼差しを向け返し、決意を口にする。
 そうして橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は目の前の扉を見据え、内部で何かが動く音に耳を澄ませた。
「それこそ、何十年ぶりに息を吹き返したって感じね」
 行くわよ、と芍薬が目配せを送り、ケルベロス達は戦いの場となる音楽室へと足を踏み入れる。其処には元のオルガンからは想像できないほどの奇妙な形状に変形したダモクレスが居た。
「重そうな体を引きずって、何所へ行くというのです?」
 ソールロッド・エギル(々・e45970)が紫瞳を薄く細めると、敵が此方を向く。
 すると、エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)とエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は入り口を塞ぐ形で立ち、宣戦布告めいた言葉を投げかけた。
「音を奏でるのに音楽室以上の場所があって?」
「やあどうも、素敵な演奏家さん。最後の聴衆が欲しけりゃ適任がいるぜ」
 両腕を組んで敵を瞳に映したエルモア、その一歩手前に布陣したエリオットは穏やかな笑顔を向ける。
 対するダモクレスは此方のグラビティ・チェインを狙おうと決めたらしく、戦闘態勢を整えた。機械の内部が軋む音が聞こえ、景は静かに告げる。
「その音を、聴かせてください」
「ああ、聴いてやるだけならオレ達にだって出来るぜ」
 ルトが敵の攻撃に備えて腰に携えたジャンビーアを手にした瞬間、ダモクレスが奏でた音が音楽室中に響き渡った。

●歪む響き
 それは軋む音よりも更に歪んだ、形容しがたいものだった。
 ソールロッドは芍薬とテレビウムの九十九が自分と紺を、エリオットがエルモアを音の奔流から庇ったことに気付き、仲間に礼を告げる。
 そして、ソールロッドは改めて敵を見つめた。
「貴方の音はもう……、いいえ」
 一度止めた言葉の続きは敢えて云わず、癒しの力を紡いだソールロッドは緩く首を振る。痛みを受けた芍薬は仲間からの回復を受け、戦槍を構えた。
「死者が蘇ったみたいな感覚なのかしらね」
 身を翻してダモクレスの死角に入り、稲妻を帯びた突きを見舞う。
 其処へ続いたエルモアが銃口を敵に差し向け、魔法光線を発射した。目の前のそれは朽ちた機械を蘇らせるものか、それとも眠りを妨げるだけのものなのか。
「もう一度素敵な音色を聴かせてもらえるのなら、今日限りは喜んで。でも、歪んだ音色はお断りですわ」
 エルモアの一閃が敵の腕を貫く中、ルトは短剣で星の守護陣を描き、メロゥも守りの雷壁を張り巡らせた。
「無理矢理起こされてしまったのね。ひどいことをするわ……それとも、」
 あなたは、最後に誰かに聴いてほしいと願ったのかしら。
 疑問めいた思いをぽつりと落としたメロゥは緩く首を傾げる。無論、相手から答えが返って来ることはないとも知っていた。
 エリオットは少女の幽かな声を拾い上げ、僅かに頭を振った。
「そう願ったのかもしれんが、惨事を引き起こすなら黙ってはおれん」
 跳躍、そして流星を思わせる蹴撃を打ち込んだエリオットは景に視線を送る。それが追撃の合図だと悟った景は魔斧を握り、一瞬で敵との距離を詰めた。
 其処に言葉は無く、表情すら変えぬまま景は鋭い一撃を振り下ろす。
 それが誰かを殺めることになるのは――きっと、オルガンの作り手も、奏でてきた人たちも、オルガンそのものも不本意だろう。
 胸に抱いた思いは敢えて言葉にはせず、景は敵の動向を観察する。
 紺も攻勢に入り、自らの腕で妙な音を奏で続けるダモクレスを見つめた。
「こんな音は苦しいだけです。優しい時間を与えてきたオルガンが、歪んだ旋律で誰かを傷つけるなんてあってはなりません」
 床を蹴り、高く跳びあがった紺は鋭い蹴りで以て敵を足止めする。
 ルトは再び魔法陣を描き、更なる護りを仲間に与えていった。その際に思うのは眠りを妨げられたオルガンのこと。
「たとえその役目の終わりが望まぬ形であったのだとしても、かつてはこの音色で誰かの心に感銘を与えていたはずなんだ!」
 優しかったはずの過去を守ってみせる、とルトは真っ直ぐに前を見つめた。
 臥せったベッドの上でラジオから流れる音楽に耳を傾けた幼い日々。歪んだ音にも何故か聞き覚えがあったのは、いつかの日に聴いたことがあるからだ。
 ソールロッドも仲間の言の葉に同意を示し、そっと語り掛ける。
「世界は音に満ちています。だから――あなたの音を聴かせてくださいな」
 たとえ気持ちが届かずとも、聞き届けたいと願う心は変わらない。
 そして、エリオットは決してこの戦いに負けはしないと誓った。だが、大音量となった音の波動が紺に襲いかかる。
「これ、は……」
 回避することは不可能だと感じた紺が痛みを覚悟して身構えた瞬間、エリオットが波動を受け止めに駆ける。
「残念、思い通りにはさせんよ」
 すかさず守りに入ったエリオットは衝撃に耐えた。一瞬の出来事にすぐに反応したソールロッドは守りの盾を展開して癒しの力を施す。
 防御面は問題ないと察した芍薬は、九十九に攻撃を行うよう伝えた。
 敵はダモクレスに操られているだけなのだろうが、もし心があるとしたらどのような気持ちなのか。何十年かぶりに息を吹き返し、自分が誰もいない場所に一人きりになった現状を考えると、胸が痛む気がした。
「なんかちょっと感傷的になっちゃったわね。でも、お仕事に手は抜かないわよ!」
 浮かんだ思いを振り払った芍薬は九十九と共に猛攻に入っていく。
 エルモアも銃口を敵から逸らさずに狙いを定め続けた。対する敵も旋律を響かせてきたが、エルモアは動じない。
「……武骨な手。音楽家の手ではありませんわね」
 もっと美しく演奏なさい、と薄く笑んだエルモアはすべてを凍りつかせるほどの光線を放った。更に其処へ、メロゥが解放した石化の魔力が迸る。
「あなたが奏でる綺麗な音色を聴きたかったわ」
 耳障りな音しか響かせられぬ相手にメロゥは悲しげな瞳を向けた。
「もうそれは、叶わないけれど……だから今、思う存分弾いてちょうだいな。全部メロたちが受け止めてあげるから」
 そうして、メロゥは自分の思いを言葉にする。
 その間にも攻防は続き、心を惑わせるような音律がメロゥ達が布陣する中衛に纏わりつくように奏でられた。視界が歪み、メロゥ達は胸の奥が掻き回されるような感覚をおぼえる。
「……っ、」
「……!」
 催眠に抗うメロゥは唇を噛み締め、ルトは拳を強く握った。
 ソールロッドは惑わされかけている仲間を助けたいと願い、英雄の詩を紡ぐ。
「独りぼっちは寂しいけれど、人を傷つけてしまうのはもっと悲しいから」
 思いを歌にした温かみのある声は聴くもののこころを奮い立たせ、危機から救い上げる。それは守護の奇跡と呼ぶに相応しかった。
 エリオットは冷静に敵の様子を窺い、徐々に相手が弱ってきていることを悟る。
「蝕炎の地獄鳥よ、邪なる風となり敵を焼け」
 地獄の炎を足に纏わせ、地面を蹴ったエリオットは鮮やかな煉瓦色の炎鳥を解き放った。炎の化身は火の粉となり、ダモクレスの機体を焦がす。
 尚も音を響かせる敵が身を捩る光景は痛々しい。
 だが、感情を抑えた景は指先を差し向けた。
 ――螢光の箭、ルー・クラン。
 それは極北の碑文の一節。四面を焦がす燐光を纏う螢の群はすべてを灰に還すかのように迸る。
 芍薬は仲間の守りとなれるよう身構え、エルモアも更なる銃弾を撃ち放っていった。
 朽ちてしまった体躯を痛めつけるのは心が痛む。けれど、ダモクレスに利用されて悲しみを生み出すことなんて、きっとオルガンも望んではいないはずだから。
「行くぜ、皆!」
「ええ、畳みかけましょうか」
 ルトが呼びかけた声に芍薬が反応し、紺も頷きを返す。
「はい。素敵な思い出が悲しみに塗りつぶされる前に、撃破させていただきます」
 かつての音が聞けずとも、オルガンの大切な時間を守りたい。
 そして、紺が放った礫は真正面からダモクレスを貫いた。

●さよならの音
 鋭く真っ直ぐな一閃が起点となり、戦いは佳境を迎える。
 芍薬は尚も音を歪ませる敵を睨み、叩いて直してやろうかと拳を振り上げた。
「うるっさいっての! 演奏は終わり、アンコールは無しよ!」
 芍薬は力を掌に集中させ、ひといきに距離を詰める。赤熱した輝く腕は宛ら、火葬を誘うかのような熱を散らす。
「昔はさぞ良い音だったんだろうがね。人を害す以上は致し方無しだ」
 エリオットも間もなく戦いが終わると感じ取り、破鎧の衝撃を見舞った。そしてエリオットは射線をあけ、皆に合図を送った。
 それを受けたルトはジャンビーアを構え、それを鍵として異世界の扉をひらく。
 扉の向こうの大空から、ひらりと鷲めいた羽が舞い落ちた。
 たったそれだけではあるが少年にとっては何よりの加護となる。あの日の戦いから、ルトは『彼』が共に戦ってくれているようだと感じていた。
「守ってみせるぜ。未来は勿論、過去だって!」
 宣言と共にルトが刃を振りかざせば、紺が夜色の影を弾丸のように撃ち放つ。
「消え去りなさい、あなたの世界は終わりです」
「大丈夫。僕はその音を、忘れないから」
 それまで癒しに専念していたソールロッドも影の如き一撃でダモクレスを穿った。羽と刃、夜と影の一閃は敵に大きな衝撃を与えた。
「もういいのよ。……もう、眠っていいの」
 メロゥは優しい声を紡ぎ、葬送代わりの星祈の力を顕現させる。
 みちあふれるひかりは、いのりをたたえて。
 淡い光が敵を包み込む中、エルモアは特殊兵装カレイドを展開した。浮遊する鏡のように光を乱反射したそれは色鮮やかな衝撃となり、煌めく。
 エルモアとて機械の身。いつか歌えなくなって、永い眠りについた時に何かの力で蘇ったとして、そのことを喜べるはずがない。
「歪んだ音にはお別れを。さあ、フィナーレですわ!」
 今ですわ、と呼びかけたエルモアの声にしかと応えるように景は鉄爪を掲げた。
 凛と佇む彼女からは怒りめいた思いは見えない。だが、押し込められたままの感情は激しい怒號の雷へと変わり、終焉を与えるものへと変わっていった。
「静かに眠って貰いましょう。――おやすみなさい」
 そうして、爪が振り下ろされた刹那。戦いは言葉通り、静かな終わりを迎えた。

●ふたたび
 機械が崩れ落ち、元の姿に戻っていく。
 異形めいたかたちは跡形もなく、機械の残骸が散らばる。そして、何の音も紡がないままその場にオルガンが倒れ込んだ。
 ルトは短剣を腰に納め、紺とエリオットも戦闘態勢を解く。
「荒らしたままってぇのも収まりが悪い。逆に来る前より綺麗にしちまおうか」
 なんてね、と片目を閉じたエリオットは軽く息を吐き、倒れたオルガンに手を掛けてゆっくりと起こしていった。
 オルガンには所々にひびが入っていたが、掌をかざした芍薬が傷を癒していく。
 九十九もオルガンが気になっているのか、周りをくるくると回って他に傷がないか確かめていった。紺がヒールの様子を見守っていると、これで直ったかな、と顔をあげた芍薬が立ち上がる。
「最後の演奏、悪くなかったわよ。それじゃ……」
 芍薬が目を細めると、その言葉を次ぐ形でメロゥが花唇をひらいた。
「ゆっくり、おやすみ」
 奏でられた音楽は、もう以前のように美しいものではなかったけれど、それでも聴かせてくれてありがとう。メロゥが込めた思いは静寂が満ちる部屋に甘く響いた。
 鍵盤に触れてみても、当たり前だが音は鳴らない。
「是非弾いてあげたいところでしたが……このオルガンはもう役目を終えました」
 その音色が誰かの想い出になっていれば、それで充分ではないかとエルモアは思う。しかし、このオルガンが奏でていた音は何処か寂しげだった。
 ルトは落ちていた楽譜を拾い上げる。予想通り、それは戦いの中でオルガンが弾いていた曲の楽譜だった。
 譜面台に楽譜を戻したルトは小さく呟く。
「……このオルガンが奏でる音楽を、一度でいいから聞いてみたかったな」
 本当の音を、という声を聞き、景は少しだけ俯いた。
「ここで眠らせてあげる方が、良いのでしょうか」
 出来れば再度、音を奏でられるように修理して貰いたかったが此処で眠るほうがオルガンのためなのかもしれない。悩む様子の景に気付き、ソールロッドは思いきって皆に自分の思いを語る。
「誰の目にも触れず、奏でられることもなく、オルガンにはどうして人がいなくなったのか、なんてわかりませんよね。だから……」
 自分がこれを譲り受ける許可を貰えないだろうか、とソールロッドは考えていた。一先ずは戻って然るべき場所に是非を問うところからだろう。
「悪くないんじゃないか」
「そうね。メロも賛成よ」
 彼の思いが強いことを感じ取り、エリオットとメロゥは快く頷いた。
 エルモアと芍薬も反対する理由は何処にもないと話し、景はオルガンを直せる職人を探す手伝いをすると申し出た。
 景がオルガンに触れる傍ら、ルトも双眸を穏やかに細める。
「お前はもう、独りぼっちじゃなくなるんだな。……そうだ、直ったらぜひ演奏を聴かせて欲しいんだけど、良いか?」
「はい、勿論です」
 ルトからの願いにソールロッドは頷きを返し、鍵盤をそっと撫でた。
 もし希いが叶うならば、この手で音を奏でよう。オルガンが最後の最後まで紡ぎきれなかった音を。紡ぎたかったであろう、あの音色を。

 ――リチェルカーレを、もう一度。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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