エルヴィの誕生日~たまにはプールではしゃぎたい!

作者:狐路ユッカ


「暑い」
 エルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)は、ぐでぇっとソファに寝ころびながらテレビを注視していた。海水浴場の特集が流れている。
「うん……海も良いのよね……けど……」
 暑い……。焼けたら真っ赤になって痛いし。エルヴィが、はふぅとため息をついたその時だった。
『新しくオープンした全天候型プールから中継でーす!』
 がばり。エルヴィは勢いよく身体をおこす。
「これだーっ!」


「というわけでね、こう毎日暑いとしんどいじゃない? みんなでプールに涼みにいくのなんてどうかなって」
 エルヴィは作ってきた資料を掲げてケルベロス達に提案する。
「屋根がついてるタイプのプールで、雨が降っても大丈夫! 暑くても空調でへっちゃら! 日差しもガンガン来ないから日焼けも気にならない……のが、屋内のプール。外にも夏限定ガーデンプールがあるみたい。ウォータースライダーに……流れるプール、波の出るプールもあるわよ」
 それとねー、とエルヴィは二枚目の資料を取り出した。
「このプールはスパもついてるから、そっちを楽しむのもアリね。思いっきりはしゃぐのもよし、リラックスしに行くもよし!」
 夏、満喫しにいきましょう! とエルヴィは足取り軽くスパバッグを手にヘリオンに乗り込むのであった。


■リプレイ

「すっごーい、かさね、こんなおっきなプール来たの初めて!」
 波の出るプールに、噴水、ウォータースライダー。目に映るすべてが楽しそうで、七楽・重(七楽の教え・e44860)はわくわくを隠せない様子であちこちを回る。流れるプールでフロートに乗ってぷかぷか流されているエルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)を見つけると、重はぶんぶんと手を振った。
「エルヴィ! 涼んでるー?」
 重に気付いたエルヴィは、フロートから身をおこして手を振る。
「うん! 気持ちいい~!」
「よかったらかさねとあそぼ!」
「今いくわね!」
 わたわたとフロートから降りると、エルヴィは重の元へ走っていく。
「遊ぶのはねー、じゃーん、これだよ!」
「わっ、すごい……!」
 重が見せたビニールバッグの中には、大小様々な水鉄砲の数々。
「好きな水鉄砲選んで、水掛けあいっこしよー?」
「いいわねぇ……、よし、いきましょっか!」
 二人で移動する先は、水鉄砲バトルエリア。
「かさねは、小型で使いやすい水鉄砲二刀流だよ♪」
 蛍光色の水鉄砲を両手に持って、重はくるりと回して見せた。
「じゃあ、私はこれで!」
 エルヴィが選んだのは巨大なタンクを備えた加圧式の水鉄砲。
「エルヴィ、覚悟はいいよね?!」
 重は笑いながら水を放つ。
「ひゃっ! 負けてられないわね!」
 顔面に思いっきり水を浴びたエルヴィは、笑いながら高水圧のウォーターガンをぶっ放す。二人はへとへとになるまで存分に水鉄砲バトルを楽しんだようだ。

 太陽が照りつける屋外の波の出るプールにフロートを浮かべ、二人で揺られる。寝そべるイレネ・ラトゥリ(華尖晶・e27660)のビキニに水がかかった。玉の肌は水を弾き、丸い水滴をいくつも作る。その水をかけた主は、
「こうして普段とは違う空間で2人で過ごすのもたまには良いよな」
 出雲・緋霈(歪みの道化師・e33518)だ。妻であるイレネが暑くないように、と、こまめに水をかけてやっているのだ。イレネは、ふふ、と小さく笑い、
「アナタとならどこでも楽しいけれど、デートは特別で楽しいわ」
 と答えた。二人乗りギリギリの小さなフロートでは、どうしても密着せざるを得ない。少し暑くなってきたのか、緋霈はフロートから水の中へ、さぷん、と降りた。
「暑いけれどプールは水に入れば涼めるのが良いわね」
「おいで」
 小さく囁けば、イレネも愛する夫の元へ飛びこんでいく。
「水着姿のイレネを見るのは初めてだが……周りの誰よりも魅力的だぞ」
 そっと、後ろから包むように抱きしめれば、イレネは擽ったそうに笑って、腰に回された彼の手を応えるように握る。
「アナタの水着姿も格好良いし素敵よ」
 シンプルなハーフパンツの水着は、引き締まった体躯をより際立たせる。
(「私にとっては緋霈はいつでも誰よりも格好良くて素敵な旦那様だもの」)
 耳を擽る愛しい人の吐息に、幸福を噛みしめながら、イレネは満足げにそっと瞳を閉じるのだった。
 夜が更けて向かう先は、室内プール。そっと寄り添って、天井を見上げる。映し出されるプラネタリウムに、ほうっとため息を。――それに照らされる伴侶の横顔を、胸に刻みながら。

「ボク、プールって初めてなんだよ。お空の虹も綺麗だねぇ」
 エトワール・ネフリティス(翡翠の星・e62953)は、室内プールの空に映し出された虹を見つめて上機嫌だ。
 土蔵に暮らしていた雨瀬・紘(流水・e44469)は、初めて見るプールに目を何度か瞬かせた。
「あ、紘くん、ボクあれ乗りたい!」
 そんな紘の手を引いて、エトワールはウォータースライダーを指さす。
「あれは……どうやって遊ぶんだ?」
「ボクの秘密基地の滑り台に似てるんだもん!」
 行こう行こう! とウォータースライダー目がけてまっしぐらのエトワールを追う紘。
「いっくよー!」
 てっぺんに上って、一気に滑り降りる。ばしゃぁっ、と水しぶきを上げ、エトワールはプールへダイブ。
「水ぶしゃーですっごく楽しい!」
 はやくおいでよーっ、と手を振れば、何か納得したように紘は頷いた。
「水で滑るんだ、な、……うお、おおぉぉぉ」
 スライダーの入り口へ腰かけた瞬間、流れている水の水圧が思った以上に強いことに驚く。あっという間に流され、頭から滑り降りる羽目に。
「がぼっ、ごばばぼ」
 沈んで、少ししてから紘はやっと頭を水面から出した。――虹を見る余裕なんてあるはずもない。ぷるぷると水を払うと、エトワールがこてりと首を傾げて問うた。
「……あれ? 紘くんなんか不思議な滑り方してきたね?」
「ん、おぁ……」
 鼻の奥がつんとする。紘は曖昧に頷いた。
「ボクの勢いは止まらないんだよー!」
 もう一回! エトワールは、またスライダーの上に駆け上っていくのであった。
 そうして、何度かスライダーを楽しんだ後エトワールはプールの端にあったフロートを指さして提案する。
「ね! あれ乗りたい! えーと、ふろーと?」
 くるくると興味が移る様は、本当に無邪気だ。
「……ふろーと?」
 たたっと走ってフロート置き場に。彼女が選んだのは、可愛らしいイルカのフロートだった。
「この子がいい!」
「でかい……さかな……?」
「イルカさんだよ!」
 首を傾げながらも、紘は流れるプールを指さす。
「じゃあ、向こうで遊ぶか?」
「うん!」
 しかし、流れるプールで不安定なイルカ型のフロートに乗るのは中々に難しい。
「あれ?」
 つるっ。
「あわわっ」
 ぼちゃ。
「ううーん」
 ばしゃーん。
 エトワールはそんなことを繰り返すこと五回ほど。
「乗れたーっ!」
 フフン、とドヤ顔をして見せれば、
「……そりゃ5回も落ちればな」
 と紘に零される。
「む、じゃ次は紘くんの番」
 乗って乗って! と半ば強引に紘をフロートの上へ。
「なんだ」
 ばしゃ。
「けっこう」
 べちゃ。
「すべる」
 ぱしゃ。
「ぞ」
 つるっ。
「これ」
 びたーん。
「……ほら乗れたァ!」
「ほーら、紘くんも5回おーちた!」
 顔を見合わせ、思わず笑い出す。――と、天井はやがて暮れて、夜空に。
「わぁ、お空が星空に変わってく」
 見て見て! と促す。紘は、ぽつりと呟いた。
「……お、流れ星。イイコトある、だったっけな」
「いいこと?」
「うん」
 エトワールは、とびきりの笑顔で答えた。
「じゃ今日がそれだね! すごく、楽しかったもん」
 この夏の思い出として、プールも、星も。楽しかった時間は消えない。

 ぷかぷか。ふわふわ。流れの無い穏やかな室内プール、見上げれば満点の星空。桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)と近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)は、フロートに揺られながらのんびりとプラネタリウムを楽しんでいた。
「室内なのに夜空が見えるみたいでなんか不思議な感じ……」
「うん……」
(「夜空の中で揺蕩っているようで……萌花ちゃんの手の暖かさが、とても安心を届けてくれて……」)
 心地良い。如月はうっとりと目を細める。
「綺麗だねぇ……」
「でも」
 萌花の整った顔が、如月の目前に迫る。唇が触れ合うのではないかというほど近くで、渾身のキメ顔で低く囁いた。
「……キミの瞳は星より輝いて綺麗だよ」
「!?」
 その王子様ボイスは反則! 如月は頬を真っ赤に染めて、跳ね上がった心臓と高まる鼓動を誤魔化しながら返す。
「なら、貴方は私の瞳を導いてくれるお月さまかしら?」
 いつもドキッとさせられているから、せめてものお返しだ。その精一杯のお返しに、萌花は、でれでれとはしゃぎだす。
「やぁん、如月ちゃんに口説かれちゃったぁ♪」
 ギュッと抱きつこうとした、そのときだった。
「わ、わ、急に動いたら……!?」
 ばしゃーん。
 案の定。フロートが横転して二人とも水の中。
(「だれもいない……」)
 萌花は、周囲を確認すると水中でそっと如月を引き寄せる。水の中を揺蕩う長い桃色の髪に隠れるように。――そっと、その唇を如月の唇へと重ねた。
(「もなちゃん……」)
 温かな感触に、如月はそれがキスと知る。音の無い世界でのキスは、二人を完全に外の世界から遮断する。そこには、二人きり。誰にも邪魔は出来ない。
 水面から顔を出し、萌花は悪戯っぽく笑った。
「……いいチャンスかなって思ったの」
 如月は、感触を確かめるように唇を指先でなぞる。
「なぁんて、ね?」
「……忘れられないキスに、なっちゃったかも」
 ぽつり、呟いた言葉に、流れ星ひとつ。

 夜の室内プール。1人で遊びに来たソールロッド・エギル(々・e45970)はきょろきょろとあたりを見回し、少し周囲を気にしている風だったが、すぐにビーチサイドでジュースを飲んでいるエルヴィの姿を見つけて彼女へ走り寄った。
「エルヴィさんお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう!」
 満面の笑みで喜びを表現するエルヴィに、ソールロッドはホッと胸を撫で下ろす。まずは、言えた。綺麗なお姉さんにちょっとドキドキしつつ、そっと差し出したのはひよこキャラのぬいぐるみ。
「これ、どうぞ」
「わあっ……! 可愛い! 貰っても良いの?」
 こくこくと頷くと、エルヴィはソールロッドの手からひよこを抱き上げ、ぎゅうっと抱きしめる。
「この子の名前はなんていうのかしら」
「えと、『こひよ丸』です」
 それじゃあ、と言い残し、やはり恥ずかしかったのかソールロッドは流れるプールの方にひよこ柄の浮き輪片手に逃げていく。
「あっ……ありがとーっ! 大事にするわね!」
 エルヴィはその後ろ姿にぶんぶんと手を振って、再度もっちりとしたひよこのぬいぐるみを抱きしめた。
(「……ちょっと子供っぽかったかな?」)
 浮き輪を使って、ぷかぷかと流されながらソールロッドはぼんやりと考える。
「星、観たかったんだ……」
 天井に投影された星が、ぴかぴかと輝いていた。
(「こういうのって友達と来るのが一般的かな? なんて固定観念にとらわれていたけど……」)
 ぱしゃん、とひとつ、水面を撫でる。
 ――今、一緒に観る友達はいないけど、星はみんなの頭上にある。ぐっと、足を伸ばして、リラックス。ソールロッドは満足そうにため息をついた。
 ――勇気を出して来てよかった、と。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月5日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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