海水浴場に竜牙兵襲来!

作者:柊暮葉



 島根県、海水浴場――。
 夏休みに入り、砂浜は海水浴客でいっぱいである。
 浜辺でビーチボールをしている者、テトラポットのところまで泳いで競争している者、あるいはパラソルの下でソフトドリンクを飲みながら寛いでいる者――皆、夏の日射しと海を存分に楽しんでいた。
 その砂浜のど真ん中に、突如、『牙』が落下して突き刺さった。
 牙はみるみるうちに鎧兜を纏った3体の骸骨兵士、竜牙兵に変身した。
「貴様ラノ、グラビティ・チェインヲ、寄越セェ! 死ネェエ!!」
 竜牙兵達は、ただ海水浴を楽しんでいただけの一般人達に、惨たらしい虐殺を行った。


 ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
 レオンハルト・ヴァレンシュタイン(医龍・e35059)は真面目な顔で話を聞いている。
「島根県の海水浴場に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました。急ぎ、ヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください。竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまう為、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまいます。皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられるので、竜牙兵を撃破することに集中してください」


 ソニアは説明を続ける。
「出現する竜牙兵の数は、3体です。装備している武器はゲシュタルトグレイブです。彼らの狙いは海水浴の一般人ですね」

 稲妻突き 敏捷 近単 斬撃+【パラライズ】。
 稲妻を帯びた超高速の突きで、貫いた敵の神経回路をも麻痺させます。
 ゲイボルグ投擲法 理力 遠列 破壊+【催眠】。
 手もしくは足で射出した槍が天空で分裂し、敵群に降り注ぎ混乱を与えます。
 グレイブテンペスト 頑健 近列 斬撃+【足止め】。
 高速の回転斬撃を繰り出し、周囲の敵群を薙ぎ払います。
 百烈槍地獄 敏捷 近単 斬撃+追撃。
 2本のグレイブを駆使して、敵に無数の突きを繰り出します。

「なお、竜牙兵は戦闘が開始されると敵に集中し、人々を襲ったり撤退するという事はありません。強さは我々ケルベロスよりやや強いものと思われます」


 最後にソニアはこう言った。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」


参加者
ディーヴァ・ブラン(決意を抱いて歌うディーヴァ・e21800)
イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)
ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)
真田・結城(銀色の幻想・e36342)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
コレット・クロスハワード(地球人の巫術士・e64233)

■リプレイ


 島根県の海水浴場が竜牙兵に襲撃される――。
 その情報を得たケルベロス達は、ただちに行動を開始した。

 夏の海の浜辺には、大勢の海水浴客が詰めかけていた。
 白熱の夏の日射しを受けて波はキラキラと輝いており、その波の狭間で若者達が泳いだりサーフィンを楽しんだりしている。
 眩しい光の下、砂浜でもビーチボールをする者、砂に埋まってしまう者、実に大勢の人間が、たくさんの方法で夏の海を楽しんでいた。

「初依頼だ! 頑張るぞー!」
 コレット・クロスハワード(地球人の巫術士・e64233)はケルベロスになって初めての依頼に気合い十分である。
「夏休みの思い出を邪魔するのは許さない」
 真田・結城(銀色の幻想・e36342)は、無表情にそう言った。
「こう暑いト、水辺へ引き寄せられる人々の気持ちハ、わかる気が致しマス……人々の日常ヲ、護りマス」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は、語尾に機械音響を滲ませながら呟く。彼は歩きやすい撥水ブーツを履いていた。
「竜牙兵とは……やっぱり分かり合えない……かな?……いや、今はまだダメでも……いつかは……」
 ディーヴァ・ブラン(決意を抱いて歌うディーヴァ・e21800)は何やら考えこんでいるようだ。

 人混みにごった返す海水浴場、日曜正午。
 突如、眩しい青空を不穏な物体が過ぎる。
 物体は、『牙』であった。
 牙はあっという間に、海水浴場の浜辺のど真ん中に突き刺さった。
 悲鳴とどよめきが広がる中、牙はみるみるうちに鎧兜を纏った3体の骸骨兵士に変身した。竜牙兵である。

「貴様ラノ、グラビティ・チェインヲ、寄越セェ! 死ネェエ!!」
 竜牙兵達は手に手にゲシュタルトグレイブを構えながら、海水浴客に襲いかかろうとした。
 ほぼ同時に、密かに配備されていた警察官達が飛び出、泣き叫ぶ一般人達の避難誘導を片っ端に開始した。

「お、あれか。よし片づけくるかっ!」
 ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)は、竜牙兵が現れ次第すぐさま戦闘を開始する。
 先程までイヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)とともに、水着姿で海水浴場に紛れ込み、襲撃ポイント付近で待機していたのだ。
 ちなみに水着は黒ビキニである。
 同じくイヴリンも前に飛び出し、真っ先に敵の前に出ることにより、一般人の安全をはかる。
 他のケルベロス達も、避難誘導は警察官に任せて竜牙兵達の方へと駆けつけた。
「人が多く集うところに現れるとはやっかいな存在だ。彼らにとってもグラビティ・チェインを得るというのは切実な問題なのだろうが……」
 イヴリンは竜牙兵を前にしてそう言った。
「折角の海だってのに竜牙兵も空気読めよなー」
 ライラットは昔の血をたぎらせている。
「海辺だってのにご苦労なこって。こんなとこでも出張ってくるとなると暇なんかね? そんなことはどうでもいいか。さて、思いっきり楽しませてもらうぜ? 龍の手先どもよ」
 差深月・紫音(死闘歓迎・e36172)は、目尻に戦化粧として紅をさしている。赤い着物を羽織り、靡かせ動き回る彼は、狂気の滲んだ笑みを浮かべ、死闘を楽しむ戦闘狂だ。
「海水浴場に竜牙兵、か。海が人々の血で染まる前に、砕けて砂浜の砂にでもなって頂きたいところだね」
 浜本・英世(ドクター風・e34862)は、冷ややかな口ぶりであった。
 ケルベロス達八名は、竜牙兵の前方を塞いで隊列を組んだ。

「チッ……地獄ノ番犬ドモカ……」
 虐殺を邪魔された竜牙兵達は剥き出しの歯を鳴らして怒りを示した。
「大人シク、死ネ!」
「我々ニ、グラビティ・チェインヲ、捧ゲルノダ!」
 口々に勝手な事を喚きたてながら、竜牙兵達は大仰にゲシュタルトグレイブを振り回した。
 竜牙兵Jm1は、ゲシュタルトグレイブを振り回したかと思うと、高速回転の撃を繰り出し、周囲のケルベロス達を薙ぎ払った。かきみだされる前列。
 Jm2は、虚を突かれた紫音へと稲妻を帯びた超高速の突きを行い、貫いた彼の神経回路を麻痺させようとする。
 続いてJm3が稲妻突きで紫音に襲いかかったが、間一髪、紫音は身をかわした。

「さて竜牙兵の諸君、天気予報は見てきたかね? 守りの雷に癒しの雨、諸君の攻撃を思うように通しはしない」
 英世はライトニングロッドを振りかざすと、雷の壁を構築し、味方の異常耐性を高めると同時に紫音達を回復していく。
 エトヴァも同じく、ゾディアックソードで砂浜に守護星座を描き、仲間達を守護した。
「楽しい、楽しい、死合いをはじめようか」
 立ち直った紫音は、天空より無数の刀剣を召喚し、戦場に解き放つ。無数の刀剣に斬りつけられる竜牙兵達。
「おめーら!海なのにそんなあつっくるしい姿で喧嘩売ってくんなよ! それと水着少しでも傷つけたら海のゴミにも砂浜の塵にもさせず消すからな?」
 ライラットは、太い竜の尻尾を振るい、近くにいる竜牙兵達をまとめて薙ぎ払った。
 ライラットに続いて、イヴリンは肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転させ、威力を増した一撃をJm1へと与えた。イヴリンは年上のライラットを姉のように慕っている。
「……出来るなら、戦いたくない……」
 結城は日本刀を構えると、月を思わせる緩やかな弧を描く斬撃で、Jm1の肘を搔ききり動きを捕らえた。
 そこにディーヴァが畳みかける。
『もう二度と……大切な人を失わせない……!』
 ディーヴァの「希望」(キボウ)。
 かつてとあるダモクレスに感情を与えた歌。今はもういない、二度と会うことはできない大切な人の歌。その歌にこめられた思いはデウスエクスにダメージを与えその足を止めさせる効果がある。
『紫電招来……雷光刃!』
 コレットの紫電・雷光刃(シデン・ライコウジン)。
 紫色の電気を自身と武器に纏わせる事により通常ではありえない速度と威力を発揮する剣技。斬撃の瞬間に凄まじい雷光が迸り竜牙兵Jm1を貫く。紫電招来してから技発動までの間は全身と武器をバチバチと電気が纏ったままの状態になる。

「ウグッ……ナ、ナマイキナッ……!」
 攻撃を受けたJm1を始め、竜牙兵達はカタカタと歯や骨を鳴らして怒りと悔しさを示した。
「貴様ラハ、ドラゴン様ノ餌ナノダ!」
「グラビティ・チェインヲ寄越セ!」
 怒りに染まった竜牙兵達は反撃を開始した。
 Jm1はゲシュタルトグレイブの先端に雷電を宿すと、稲妻突きでイヴリンへと突っ込んで行った。
 刃がイヴリンを貫こうとした瞬間、紫音が前に飛び出て彼女を庇った。
 紫音は無銘(日本刀)で攻撃を受け止め、ダメージを半減して耐える。
 Jm2はライラットへと稲妻突きを行おうとしたが、機敏な動きでライラットは攻撃を避けた。
「小癪ナ!」
 いきり立ったJm3がゲシュタルトグレイブを高速回転させる。勢いよく突っ込んで来た斬撃に切り払われる前列。

「そして隙あらば。所によりメスの雨が降るだろうね」
 英世は冷静な態度でライトニングウォールを行い、異常耐性を高めて前列を回復させていく。
 エトヴァは、バトルオーラを用いて、オーラを溜めて紫音を回復していった。
 紫音は立ち上がると、魔力を込めた咆哮を上げ、竜牙兵の動きを封じていく。
 ディーヴァは、退廃と虚飾に騒ぐ者達の歌で、敵群を混乱に陥れようとした。
 竜牙兵達に次々襲いかかるバッドステータス。
 結城は雷の霊力を帯びた日本刀で、Jm1へと神速の突きを繰り出した。
 骨を貫く刃。
「かっ……がっ……」
 そんな声を立てると、Jm1は脆くもその場に骨くずとなって崩れ去った。
「ナ、ナンダト!」
 残された竜牙兵達へ戦慄が走る。
 イヴリンはJm2へと高速演算で構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を加え、骨ごと破壊しようとした。
「君達の動きはボクには止まって見えるよ!」
 コレットは呪われた喰霊刀の呪詛を載せ、美しい軌跡を描く斬撃を放ち、Jm2を追い詰める。
 ライラットは【竜語魔法】を使う。その掌から「ドラゴンの幻影」を放ち、Jm2を焼き払わんとした。

「調子ニ乗ルナァ!!」
 大音声でJm2が叫ぶ。
 追い詰められた彼は、ゲシュタルトグレイブを威嚇のように大袈裟に回転させた。
 そしてそのまま突っ込んで来る。
 グレイブテンペストで前列を切り払い、薙ぎ払い、吹っ飛ばそうとするJm2。
 Jm3は紫音へと、二本のグレイブを駆使して無数の突きを繰り出してくる。百烈槍地獄に突き刺され、後ずさりをする紫音。

 英世はライトニングウォールで的確に前列を回復させていく。
 エトヴァは気力溜めで紫音を回復。
「なんで……みんな……争う……?」
 ディーヴァは自らもゲシュタルトグレイブを構えると、反撃に出る。
 逆に自分が突っ込んで行き、高速の回転斬撃を繰り出し、竜牙兵達をを薙ぎ払った。
 ライラットは光輝く「聖なる左手」で引き寄せたJm2を、漆黒纏いし「闇の右手」で粉砕した。
 頭蓋骨が粉々に砕け散り、浜辺の砂と化すJm2。
 イヴリンも竜語魔法を使う。その掌に幻のドラゴンを召喚すると、Jm3を焼き捨てるように炎を吐かせる。
 結城は空の霊力を帯びた日本刀で、Jm3の傷跡を正確に斬り広げ、傷のダメージを倍加させていく。
『紫電招来……雷光刃!』
 続いてコレットが紫電・雷光刃(シデン・ライコウジン)。
「雷属性ならボクもちょっと得意なんだよね!」
 凄まじい雷光がJm3を貫き、激しいダメージを与えて行く。
『独学の喧嘩殺法と侮るなかれ! 間合いの詰め方はお手の物ってな!』
 紫音は血煙舞踏・塵(ケツエンブトウ・ジン)。
 一瞬で相手の懐へ飛び込み、両手に携えた武器で切り刻む。滅多切りにしたら止めと敵を蹴り飛ばす。敵との距離を稼ぎつつ、追撃を与える。
 それがトドメとなり、Jm3は滅びた。


 戦闘後、ケルベロス達は海水浴場にヒールと片付けを行った。
「次会うときは……分かり合えたらいいな」
 ディーヴァはそんなことを考えていた。
 そうしているうちに、警察官が一般人達を戻してきて、海水浴が再開された。
「折角だし、遊んで帰らねぇか? 俺は海に入らねぇけどよ……飯もんは俺が用意するかねぇ」
 紫音が仲間達にそう声をかけた。
「ふふ、せっかくだから海を楽しんで行こうか。ラムネ、飲んでみたい。瓶の中のビー玉が綺麗だな」
 イヴリンが乗った。
「ジャジャーン!!!ほれっ!みんなでこれやろうぜ!」
 ライラットがスイカと木の棒を取り出す。
 勿論スイカ割りだ。
 イヴリンは自分もスイカ割りをやってみたいと言った。
 結城もやると言ったので、みんなでスイカ割りを楽しむことにした。
「海で遊ぶ女性陣は眼福ではあるが、私は海の家で食事でもしようかな。おすすめはなんだろう?」
 英世は海の家の方へ歩いて行った。
「とても残念……でも、せっかくの海……焼きそば……焼きトウモロコシ……かき氷……焼きイカ……美味しそうなもの……食べたい……」
 ディーヴァも海の家に向かった。
 エトヴァは靴を脱いで、ズボンの裾を折り、麦わら帽子を被って、少し、波に足を浸してみた。それから、裸足で砂浜を歩いて、海の家へ向かう。
 海の家では、青い海と空、境界の水平線、空に浮かぶ白い雲、そんな景色を眺めながら何か注文をと考え、ふと、店員の運ぶ皿に目がいった。
「珈琲……ト、……あれを下サイ」
 しばらくして、目の前に焼きそばが運ばれてきた。鰹節が踊るのを見つめ、不思議そうな顔をして、一口。それから、フォークで麺を絡めて、美味しそうに食べるエトヴァであった。

 こうして、事件は解決し、ケルベロス達は自分達も海水浴を楽しむ事が出来たのであった。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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