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青森県の縁日――。
縁日の神社は大変な賑わいである。
境内一円に屋台が出ており、そこでは詰めかけた客が焼きそばやかき氷などの定番を食べている。
中央の櫓では地元出身の噺家が面白おかしい噺を披露し、客が笑い転げている。
昔ながらのいい空間であった。
そこに突如、3メートルの巨躯を持つ男が、鉄塊剣を携えて現れた。
子ども達の悲鳴が上がる。
「笑う……な……!」
男……エインヘリアルは、楽しそうに笑っていた櫓の見物客に斬りかかった。
「笑うな……笑うな……」
続いて屋台の周りで飯を食べて笑っていた客達にも斬りかかる。譫言のようにおかしな事を呟きながら、エインヘリアルは罪もない一般人達の惨殺を続けるのであった。
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ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達へと説明を開始した。
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)は真面目な顔で話を聞いている。
「エインヘリアルによる、人々の虐殺事件が予知されました。このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられます。急ぎ現場に向かい、このエインヘリアルの撃破をお願いします」
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ソニアは説明を続ける。
「エインヘリアルが現れるのは青森県の縁日です。昔ながらの地元の行事で、神社の境内一帯に屋台や櫓が出ており、そこに大勢の客が詰めかけています。そこに現れて、楽しんでいた人々を惨殺するのです」
ソニアはぱらぱらと資料をめくった。
「境内のスペースはかなり広いですので、一般人さえ避難させれば戦うスペースには困らないでしょう。エインヘリアルが出現するのは午後五時半時頃とされていますね……。ケルベロスは早くて15分前に到着出来ると思います。人払いには殺界形成やキープアウトテープを使うといいと思います」
ソニアは資料を配った。
「使用武器は鉄塊剣です。こちらが性能になります」
デストロイブレイド。
頑健 近単 破壊+【怒り】。
巨大な鉄塊剣を腕力だけで御し、単純かつ重厚無比の一撃で敵を叩き潰します。
ゲイルブレイド。
頑健 近列 斬撃+【武器封じ】。
横薙ぎによって強烈な旋風を生み出し、敵群を斬り飛ばします。
ウェポンオーバーロード。
理力 自単 ヒール+【破剣】。
内部に「地獄」を注ぎこむ事で、鉄塊剣を蹂躙形態に変形させます。
タルタロスクラッシュ。
頑健 近単 破壊+【毒】。
2本の鉄塊剣で敵を十字に斬り裂いた上、敵の傷口を一時的に「地獄化」します。
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最後にソニアはこう言った。
「アスガルドで凶悪犯罪を起こしていたような危険なエインヘリアルを野放しにするわけにはいきません。皆、必ず敵を討伐してください」
参加者 | |
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楠・牡丹(スプリングバンク・e00060) |
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
陽月・空(陽はまた昇る・e45009) |
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135) |
不動峰・くくる(零の極地・e58420) |
ニルヴァーナ・アーリマン(外法のぽんこつ猫・e61577) |
桜衣・巴依(オウガのゴッドペインター・e61643) |
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青森県の縁日がエインヘリアルに襲撃される――。
その情報を得たケルベロス達は、ただちに行動を開始し、現場に到着した。
「わあ、縁日って人いっぱいだね。美味しそうな食べ物もいっぱいだしとっても楽しそう。みんな楽しみにしてるのに、エインヘリアルも重罪人送り込んで邪魔するのは許さないよ! みんな、がんばろうね!」
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は喜びつつも気を引き締めているようだ。
「夏祭り、独特の雰囲気があるみたい……そう、ベビーカステラ美味しそう。お土産に買って帰ろうかな。焼きとうもろこし? ……始まる前にモグモグ」
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)は早速食べている。
「エインヘリアル共も、いやがらせの様にこまごま重犯罪者送ってきて、恐怖を振りまきつつ、処分をこっちに任せるとはつくづくせこい奴らでござるな。人々の楽しみを邪魔する輩には早々に退場願うとするでござるよ」
不動峰・くくる(零の極地・e58420)は憤慨しているようだ。
「日本の縁日って楽しそうですのに。まずは仕事」
桜衣・巴依(オウガのゴッドペインター・e61643)は物珍しそうだったが、すぐに真面目モードに切り替えた。
縁日は大変な賑わいだった。薄暗い中、提灯の灯りに照らされながら、屋台や櫓を中心に浴衣や甚平に着替えた人々が笑いあい楽しんでいる。
ケルベロス達は情報の15分ほど前に到着していた。
「みなさん! 私達はケルベロスです。まもなくエインヘリアルが現れ、この境内は戦場になります。早く避難してください!」
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)は割り込みヴォイスを使用しながら、避難誘導を開始した。
「あと残り時間は15分、迅速に行動しなきゃ!」
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)も、緊張感のある表情だ。
「みなさん、エインヘリアルが現れます。早く逃げてください」
彼女も凛とした風を使用しながら、辺りの一般人達に声をかけた。
「にゃぁに、今回は15分も時間があるにゃぁ。落ち着いてのんびり粉もん食いながらにげとったらええんにゃ。ほれ、のんびに逃げるんにゃ」
ニルヴァーナ・アーリマン(外法のぽんこつ猫・e61577)も仲間とともに一般人の避難誘導をする。
(「日本のお祭りも楽しそうですね」)
巴依は母星との文化の違いを噛みしめながら避難誘導を手伝った。
一般人達は驚きつつも、ケルベロスと聞いて慌ててその場から逃げ出し始めた。
そのとき、そこに――。
「笑う、な……」
不気味なうめきのような声を立てながら、3メートルを越す巨漢の男が現れた。
「わら、うな……」
男はその言葉だけを繰り返しながら、手にした鉄塊剣を一般人の方へと振りかざした。
「ここから先は通しませんッ!」
巴依はオウガメタルで飛び出、足止め役としてエインヘリアルの前に立ちはだかった。
「ニャーの聞いたトコによるとお前、笑われるんキライにゃんか? 笑顔が気に入らんちうんちがうにゃ? ニャーが思うにお前、自分が笑われるん許せんかにゃ?」
ニルヴァーナは小首を傾げた。
「したら、わろうてやるにゃぁ。にゃーっはっはっは」
そしてわざとらしいぐらいに大声でエインヘリアルを笑い始めた。
エインヘリアルは鉄塊剣を持つ手をぶるぶる震わせている。
そうこうしている間にルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)が殺界形成を、空がキープアウトテープを貼り終えて人払いを行った。
「わー、本当に出てくるとは思わなかった。何でこう皆が楽しそうにしてるの壊そうとするのが好きなんだろうね。縁日を無事に再開させる為に頑張ろう! 地元の警察の方の協力も得られるとよいよね」
ルリカはエインヘリアルの方へ駆け寄ってきて叫んだ。
「縁日は楽しむものだよ。暴れるところじゃないもんね。って、そんなことをエインヘリアルに言っても通じないのかな。私たちとは目的が違うもんね。なんにせよ、邪魔するものは皆殺し! じゃなくて、なんだっけ。なんかそんな感じの!」
牡丹も駆け戻ってくると、エインヘリアルの方へ立ち向かった。
続々とケルベロスはエインヘリアルの前に集合し、隊列を組む。
「己が楽しめぬからと、楽しむ人々を襲うとは、ひがみ根性丸出しでござるな? 残念ながら、貴様相手は拙者たちでござるよ?」
出て来たエインヘリアルに向かって、牽制の攻撃を放って注意を引くくくる。
「轟天、震天の力、とくと見るでござるよ?」
両手の巨大手甲を打ち合わせながら言い放つ。
ガジェットである一対の巨大手甲『轟天』と『震天』を武器として戦うのだ。『轟』と『震』と描かれた腕輪から展開される。
「ウ、ウ――」
八人のケルベロスを前にすると、エインヘリアルは流石に狼狽を表情に表す。
しかし、すぐに元の茫洋とした表情に戻ると、鉄塊剣を振り上げた。
「笑う、な――」
エインヘリアルは巨大な鉄塊剣を横薙ぎに振り払う。
竜巻のごとき旋風がそこに生まれ、ケルベロスへと襲いかかった。
前列に並んでいた牡丹、ルリカ、くくる、ニルヴァーナが、竜巻に体を引き裂かれてしまう。
すかさず牡丹は自身のグラビティで小型治療無人機(ドローン)の群れを操り、自分と味方を警護し回復させていった。
巴依は全身を覆うオウガメタルの装甲から光り輝く粒子を飛ばす。その光のオウガ粒子が仲間達の超感覚を目覚めさせ、回復を行う。
空はエアシューズで流星の煌めきと重力を宿した跳び蹴りをエインヘリアルに炸裂させ、相手の機動力を奪った。
「ここはキミが来る場所じゃない! あるべき場所へ還してあげるから覚悟しときなよ」
そしてルリカは【竜語魔法】を操る。その掌から「ドラゴンの幻影」を放ち、エインヘリアルを焼き捨てようとした。
「もう! 楽しいときには楽しいって笑っていいんだから、縁日を楽しんでる人を傷つけるなんて、絶対させないんだからね! もしかして笑われるのが嫌なの? それならちゃんとしないとダメなんじゃないかな。こんなふうに襲ったりしてたらダメだからね」
そんな事を言いながら、イズナは半透明の「御業」により炎弾を放ち、ルリカに続いてエインヘリアルを焼き尽くそうとする。
エリザベスは精神を極限まで集中し、エインヘリアルの鉄塊剣の爆破を試みた。
くくるは怒りを激しい雷に変えて、離れたエインヘリアルへと解き放つ。
ニルヴァーナは高々と跳躍すると、流星の煌めきの尾をたなびかせ、重力をこめて跳び蹴りをエインヘリアルに放った。
「笑う……な――」
エインヘリアルはまだそんな事を呟いている。
口の中で、笑うな、笑うなと繰り返しながら、鉄塊剣を小刻みに振っている。
そして、巨大な鉄塊剣を腕力のみでコントロールすると――。
くくるへと、その巨大すぎる剣を力任せに叩きつけた。
シンプルかつ重厚無比な一撃にくくるが吹っ飛ぶ。
「私が立っている内は誰も戦闘不能なんてさせませんよ」
間髪入れずに巴依は、くくるの肉体にカッコいいグラフィティを描いて、戦闘力をアップすると同時に一気に回復させた。
「よーし、金魚すくいの要領でひょいっと……さすがに大きすぎてひっくり返らないかな?」
牡丹はくくるに追撃させまいと、自身が空高く跳躍していく。そして美しい虹を描きながら急降下蹴りでエインヘリアルを踏みつけ、怒りを自身に惹きつけた。
「僕は笑わないよ、屋台を粗末にする君には笑われる資格もない」
空はドラゴニックハンマーを構えると、「砲撃形態」へ変形させる。そして竜砲弾を充填し、エインヘリアルへと発射させた。
イズナは、ゲイシュタルトグレイブの先端に稲妻を帯びさせると、超高速で突きを繰り出し、エインヘリアルを感電させて麻痺させた。
ルリカは影のように見えない斬撃を繰り出し、密やかにエインヘリアルの急所を掻き斬り傷のダメージを倍加させた。巨大な敵を前に縦横無尽に飛び回り、華麗に攻撃を決めるルリカ。
「攻撃に合わせるわ! 続くねっ」
エリザベスはハードロックスター(ファミリアロッド)をペットに戻すと、そのペットに魔力をこめてエインヘリアルへと発射した。ルリカに続いて傷が増して行く。
ニルヴァーナは、獣化した手足に重力を集中し、高速かつ重量のある一撃を放った。
『左腕『震天』、氷結粉砕機構稼働。 唸れ絶対零度の氷刃! 凍結手裏剣!』
続いてくくるの左腕『震天』・凍結手裏剣(サワンシンテン・アブソリュート・ゼロ・シュリケン)。
左腕『震天』の氷結粉砕機構を単独稼働し、巨大な氷の手裏剣を形成し、敵に投擲する。氷の手裏剣は敵を切り裂いて深々と突き刺さったところで炸裂し、無限大に対象の熱を奪い凍結させる。
「グ、ウゥ……」
ダメージの威力に対して、エインヘリアルは唸り声を上げる。
「ウウ……笑うな……笑うな笑うな笑うなぁあッ!!」
そして突如、大声を上げると猛然と二本の鉄塊剣を振り回し始めた。
戦闘中で誰も笑ってなどいない。愕然としているケルベロスの前でエインヘリアルは構えを取る。
エインヘリアルは大きく鉄塊剣を振り回しながら、牡丹へと斬りかかった。
二本の鉄塊剣による十字斬りが牡丹へと叩きつけられる。
十字斬りの傷口が大きく走り、その部分は一時的に「地獄化」された。
地面に倒れた牡丹へと、巴依は緊急でゴッドグラフィティを描いていく。
「ふっふーん、縁日を前にした私は無敵! このあとの食べ歩きのために、ちょっとやそっとのダメージじゃびくともしないもんね! 凶悪犯罪者だか弱いものいじめしにきたバカだか知らないけど、ここに来たのが運の尽きだね!」
牡丹は即座に立ち上がると、妖精弓から心を貫くエネルギーの矢を放ち、エインヘリアルを催眠状態に陥れようとした。
「笑い声が聞こえるのが嫌なら、耳をなくせば良い。見るのが嫌なら目を潰せば良い……誰かに当たり散らすのは良くない」
空はマインドリングから光の剣を具現化すると、果敢にエインヘリアルを斬りつけていく。
「ふふん、貴方の攻撃は全部無力化させちゃうわっ」
エリザベスは再びサイコフォースでエインヘリアルの鉄塊剣を狙う。左手の柄が爆破され、鉄塊剣の片方が地面へと落ちる。
くくるはローラーダッシュの摩擦を利用して、炎を纏った激しい蹴りをエインヘリアルへと叩きつける。
『花よ! 力を』
ルリカの超・散華(スーパーサンゲ)。
真紅の花びらのようなオーラが敵の動きを麻痺させる。散華の射程を遠隔から至近距離に集約する事で、より当てやすくしたつもりらしい。
「あんまり綺麗な花だから、思わずしびれちゃうでしょ?」
ルリカは笑ってそう言った。
『――狼は逃がさない。地の連環は貪り喰らうもの』
続いてイズナの貪り喰らう魔法の紐(グレイプニル)。
戒めの秘宝。狼を封じる伝承の魔法の紐。小さくも大きくも短くも長くもなる、意思を持つように滑らかにしなる伸縮自在の黄金の鎖が、植物の蔓のように絡みつき、柔らかく力強く締め上げて、大地に繋ぎ止める。
『神意顕現、神威再臨、我ら神を騙るもの。三毒祓え、倶利伽羅剣』
ニルヴァーナは不動明王倶利伽羅剣(アトラナチャータクリカラケン)を使う。
不動明王の神徳、権能を騙り再現する剣戟。根源的な3つの煩悩を払うという伝承により、3つまで術者にとって悪いものを強引に切り払うとされる。
それがトドメとなり、エインヘリアルは滅びた。
「えへへ、これでお爺ちゃんにまた一歩近づけたかしら?」
エリザベスは胸を張りながら自信たっぷりにそう言った。
●
戦闘後、ケルベロス達はヒールと片付けを行った。
「うにゃぁー、したってまた楽しみなおす、にゃぁんてできんにゃろうにゃぁ。ほんにメーワクなやつだったにゃぁ」
ニルヴァーナは脱力しながらそう言った。
そうこうしているうちに、縁日が再開された。
「えへへ、みんないっしょに縁日回ろうよ?」
イズナがそう言って、ケルベロスの有志は一緒に屋台の美味しい食べ物を食べていっぱい縁日を楽しむ事にした。
「あちこちからいい匂いするねえー。最初は焼きそばかな。暑いし、ジュースも飲みたい。りんご飴も捨てがたい。……おいしそうなにおいがする屋台を片っ端から回ろう。そうしよう、うん」
ルリカがそう言った。
「リンゴ飴、イチゴ飴、どれにしようか……全部で」
「たこ焼き、焼きそば、唐揚げ、どれにしようか……全部で」
空はもう全て食い尽くすつもりである。
「たまには遊びもやろう。射的で狙うはお菓子」
真顔でそう言った。
「はーっ、ビール最高、縁日最高でござるな!」
くくるは縁日で焼きそばやたこ焼きやら買いつつも、缶ビールをあおっていた。
巴依は屋台で購入したトロピカルジュースでのんびり楽しんだ。
こうして、事件は解決され、ケルベロス達は、縁日を楽しむ事が出来たのだった。
作者:柊暮葉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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