たたかううさぎさん。

作者:藍鳶カナン

●はなさくうさぎさん。
 なにわのあきんど。
 ――もとい、大阪在住のとある資産家邸には広々とした庭があった。
 資産家夫妻の趣味であるガーデンパーティーを催すための芝生の庭を初めとして、四季の花々が咲き溢れる庭や、異国の水辺が再現された庭など、様々な顔を見せる資産家ご自慢の庭である。
 美しい花もたくさん咲いているけれど、今もっとも不思議な花が咲いているのが涼やかな異国の水辺を模した一角だ。水気も涼気もたっぷりなそこには、まるで草原できゃっきゃと戯れるうさぎの妖精みたいな花達が咲いていた。
 白くてちっちゃくてほんのり透きとおるようで。
 うさぎさんの耳とまるっこいからだみたいな形の、可愛らしい花。
 愛らしきうさぎさんの花を咲かせるその植物の名は、ウトリクラリア・サンダーソニー。通称ウサギゴケ。苔と呼ばれても苔ではないウサギゴケ達は、この日もうさぎの妖精っぽい花々を水辺の風に揺らしていたのだけれど、そこへ何かの花粉か胞子のようなものがふわり舞い降りてきたことで、変化が起きる。
 ぽよよんっ。
 愛らしきうさぎさんの花がおっきくなった。
 ぷよよんっ。
 おっきくなったうさぎさんの花は葉とか根とか茎とかをないないした。
 つまり吸収して栄養にしたっぽい。そして。
 ぴよよんっ。
 大地から解き放たれたうさぎさんの花は自由に、好きなように動けるようになった。
 おっきくなって自由になったうさぎさんの花達は全部で四体。うさぎさん達はきゃっきゃうふふな感じで楽しげにくるくる回って、やがてぴょこぴょこ跳ねつつ移動をはじめた。
 ぷにぷにだった。
 とっても愛らしかった。
 だがしかし! 彼らはなんと!!
 ぷにぷにだけどとっても凶暴で、ぽよぽよだけど見つけ次第ひとを殺しにかかるという、恐るべき攻性植物に変化してしまったのである!!

●たたかううさぎさん。
「熊本滅竜戦お疲れ様でした! それでは早速、ねむと大阪に飛んでくださいっ!!」
 元気溌剌系ヘリオライダー笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、明るくケルベロス達を労いながら、容赦なくその勤勉さを発揮した。
 熊本でドラゴン勢があれこれしている間も攻性植物勢は大阪でいそいそ侵攻作戦実施中。あちらほど派手ではないにしろ、勿論こちらも放置はできない。
「今からねむがヘリオンをかっとばせば、このウサギゴケの攻性植物達がまだ庭にいる間に間に合います! みんなにはこのうさぎさん達をばーんと撃破してきて欲しいんですっ!」
 庭がやたらと広いのが幸いしたらしい。
「更に幸いなことに、なにわのあきんど……もといこのお宅の御主人である資産家さんは、家族でバカンス中でお留守です! バカンス先に連絡したところ『なんちゅーこっちゃ! うちから出てご近所さんに迷惑かけへんうちに倒したって!!』って言ってもらえたので、遠慮なく思いっきりばばーんと戦ってくださいっ!!」
 勿論ご近所さんには避難勧告もばっちりだ。
 敵を捕捉できるのは、彼らがちょうどガーデンパーティー用の芝生の庭を移動中のこと。広々としていて障害物もない、戦うのに適したところだ。派手な戦いを繰り広げても芝生が荒れる程度で済むだろう。
 戦うべき相手はうさぎさんの花の攻性植物、四体。
 白くてほんのり透きとおるようで。
 うさぎさんの耳とまるっこいからだみたいな形の、可愛らしい花。
「それが1mサイズになった感じですっ! ぷにぷにぽよぽよで!!」
 ぷにぷにうさぎさん達はひえひえの氷あたっくをしてきたり、ものすごいジャンプからの急降下あたっくでプレッシャーをかけにきたりするという。ぷにぷにくるくる踊って自分を回復したりもできるらしい。勿論きゃっきゃうふふな感じで連携もしてくるだろう。
「そしてですね、とってもうさぎさんっぼいことにですね、ポジションはまるっと四体全部キャスターですっ! 作戦とか対策とかがしっかりしてないと、ちっとも攻撃が当たらないうちに負けちゃったってことになるので、油断禁物、全力でお願いします!!」
 ぐぐっと握りこぶしでねむは力説した。
 そう! 全力でうさぎさん達と戦うのだ!
 ぷにぷにぽよぽよ、きゃっきゃうふふなうさぎさん達と、全力で戦わねばならないのだ!


参加者
連城・最中(隠逸花・e01567)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
佐野・優之介(左狼・e34417)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●たたかううさぎさん。
 超絶に可愛かった。
 螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)がヘリオン内で皆に振舞ってくれたうさぎだいふくが。
「敵の愛らしさも超絶でしょうが、油断しません。……シマセン、ヨ?」
 夏空から跳んだ時にはもうカタコトになっていたのは、大福にきゅんとしてしまった老舗和菓子屋次男坊こと連城・最中(隠逸花・e01567)、眩く光るような風を突き抜け降下する先はこれまたきらきら緑の煌き広がる芝生の庭園、そしてそこには――。
 ぽよよんっ。
 ぷよよんっ。
 瑞々しい芝生の上を白くておっきくてほんのり透きとおるようなぷにぷにうさぎさん達がぷにぷにぽよぽよきゃっきゃうふふ、そしてぴょこぴょこ跳ねていた!!
「あざとい……あざとすぎるの……」
 着地と同時に朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)は敵の可愛さにふるふる震え、
「けど多分! ハコのがぷるぷるでぷにぷになんだから! ってあ痛ー!!??」
「うん。ハコ、確かにぷるんぷるん」
 純白の首長竜っぽいボクスドラゴンにべちんとされつつ、その氷のブレスが迸るのに続け蒼き焔の翼を展開、後衛陣に破魔の力を授けたなら、うっかり前に出かけたけど何とか狙撃位置についたリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が制圧射撃をぶっぱなす!
 だがスナイパーの攻撃でもその弾丸が抉ったのはぷにぷに四体中三体、
「ぽよぽよならうちのも負けんぞ! 何せ名前がもうポヨンだ!!」
 木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)の声と同時にぽよんっと重箱に跳び込んだ水属性な箱竜の突撃もぴよんっと躱され、彼が命中強化のため流体金属の粒子を振りまいた、瞬間。
 ああ! なんてこと!!
「雪の中できゃっきゃするうさぎっぽく見えて可愛いけど倒すぞ! 倒すんだからな!!」
「何かファンシー度ましましだが、見た目に騙されんなよ。騙されんなよ!?」
 前衛陣にキラキラした銀の粉雪っぽい流体金属越しに見るうさぎさんという涼やかっぽい光景に衝撃を受けながらも、長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)と佐野・優之介(左狼・e34417)も銀の粉雪を解き放ち、仲間の視界を更に幻想的に彩っていく……!!
「……まさか、これほどの強敵とは」
 眼鏡なしで見た雪の中のうさぎさん達。無表情ながらもときめきMAXで息を呑んだが、それでも最中は一番痛手を負ってるうさぎさんへ刃を一閃! 千翠によって三重に超感覚を覚醒された達人の一撃が決まれば、ざくうと裂かれたうさぎさんが跳ね――。
「きゃー!!??」
 彼でなくフィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)にぷにぷにひえひえ!
 更に連携ぷにぷに攻撃が彼女めがけて殺到、これは彼女が「うさぎさんなのっ!」と瞳をキラキラさせていたからではなく、誰にも心を繋がず皆と連携する意志もないため出遅れたところを狙われたのである。一撃はハンドバッグなミミックが庇ってくれたが、
「ああああ大福も可愛かったけどこのうさぎさん達も……って、あれ? セイヤさんは?」
 殺到したうさぎさん達に埋もれた少女が彼の不在に気づいた、そのとき。
 ふっと頭上を見上げたうさぎさんがハイパージャンプ! 流れ星を相殺した!!
「失敗か……!」
 敵が仲間に気を取られるのを翼飛行+隠密気流で見計らっての奇襲を狙ったセイヤだが、既に戦いが始まっている戦場へ戦闘態勢で突入する時点で隠密気流の効果はお察しで、
「スナイパーの攻撃を相殺してくるこいつらの実力もお察しってことか……!」
「なかなかやるのねうさぎさん、相手にとって不足はないの!」
 硝子めいて煌く爪先を電光石火で翻したフィアールカが手近な一体を狙うが、
「そっちじゃなくて最中が攻撃したうさぎを集中攻撃なんだよ。ほら!」
「リリエッタ中が見えてんぜ! じゃなくて、そうだぜ連携は大事だからな!」
 高々と跳んだリリエッタが夏風にミニスカひらり舞わせ、最優先目標をスターゲイザーで狙い撃ち☆ 続け様に優之介が左手の刃を閃かせた月光斬で標的をすっぱり斬り裂いた!
「迅雷破界光でうさぎさん達まとめて牽制したいけど、ちょっと余裕ないんだよ……!」
「わかった、そんじゃ俺がこれで!!」
 暖かな淡黄に燈るオーラの癒しをフィアールカへと注ぐ結が声を上げれば、即座に千翠が揮った星剣から冷たい輝きがうさぎさん達へ襲いかかる。途端、彼らはぽよよんっと弾んでぷにぷにっと散開、だがその一瞬後には再びぷにぷに連携攻撃!!
「ああもう大人しくしてくれ! 良い子だからっ!!」
 咄嗟に跳び込んで一撃を引き受けたケイ、そのとき彼は見たものは!
 仲間うさぎ達が攻撃を仕掛けた隙に――その後方でぷにぷにくるくる踊るうさぎさん!!
「くっ、そんな……そんな可愛く踊ってみせてもダメなんだから!」
 ぷにっぷにのつやっつやに回復して耐性もゲットしたうさぎさんをめがけ、リリエッタの超音速の拳が炸裂、耐性を粉砕した。
 ああ、うさぎさんをぶんなぐってみた感触は、やっぱりとっても――。
 ぷにぷにぽよぽよ!!

●あらぶるうさぎさん。
 たたかううさぎさん達はとっても愛らしいぷにっぷにのぽよっぽよ。
 だが彼らとの戦いは激しさを増すばかり、それを示すよう、
 ――これなるは女神の舞、流れし脚はヴォルガの激流!
 流麗かつ怒涛のピルエットでフィアールカはうさぎさんへ蹴りを叩き込んだれど、それが決まったのは仲間がかけまくってくれたメタリックバーストと、足止めや捕縛のおかげ。
 皆ががっつり対策してくれていなかったらホーミングでも当てるのは厳しかったはずだ。何せ敵はきゃっきゃうふふなキャスター揃い!
「うう。見切られないようにするだけじゃダメだったの、皆ありがとうなの……!」
 だが、仲間達と息が合わないフィアールカは確りばっちり連携してくるうさぎさん達から見れば隙だらけ。『群れからはぐれた獲物を狙うのが狩りの定石だー!』とばかりに彼らはきゃっきゃうふふで彼女を狙いまくる。
「来るぞ! 急降下アタックだ!!」
 思いっきりジャンプしたうさぎさんの射線へケイが跳び込み、別方向からのぷにぷにひえひえをキャッチした優之介は芝生に押し倒され、どうせならうさぎよりも綺麗なお姉さんに喰われたいぜと苦笑。そしてここで、
「知ってるか? こんなぷにぷにぽよぽよで、こいつら元々食虫植物なんだぜ……?」
「な、なんだってー!!??」
 優之介の豆知識が炸裂!!
 ケイは驚愕ついでのシャウトで自己回復した!!
「ほんとあざとすぎるのこのうさぎさん達……! 誰か回復の手伝いお願いなんだよ!」
「あんな涼しげぽよぽよで肉食系かよ! 侮れない、侮れないなほんと、手伝うぜ結!」
 こんな可愛いのに食虫植物だなんて、と戦慄しつつ懸命に掌から癒しの輝きを溢れさせる結に合わせて、新たな地球知識をゲットしたオウガこと千翠も三重の加護を孕む星の聖域を描きだす。
 なお、フィアールカが狙われる理由はもうひとつあった。
 彼女が纏うロマンティックチュチュはひえひえ魔法の力は半減できるが、回避性能はひえひえともあたっくとも相性が悪く、キャスターなうさぎさん達からクリティカルやダブルを喰らいやすい。つまり、防具選択ばっちりな他の面々より狙い目なのだ。
 何度も庇いに入る優之介やケイにミミックの負担もかなりのもの。だがしかし!
 ――神速の刃に散れ……ッ!!
 ここでセイヤの壱之秘剣・神薙が突破口を開いた。
 神速の居合がぷにっと跳ねる間もなく敵を捉えホーミング効果も併せてクリティカル! スナイパーの恩恵以上に劇的に、一気にうさぎさんを斬り捨て霧散させたその威力は、
「やはりな。ぷにぷにぽよぽよって感じはコレに弱そうだと思っていたが……」
「ええ、できるだけ斬撃で狙っていきましょう。次は――このうさぎさんを!」
 戦いながら最中が探っていたうさぎさんの弱点そのもの!
 突如ご指名されたうさぎさんがぷにっと小首を傾げたりしたが、胸きゅんをぐぐっと押し隠して最中は渾身の月光斬!
「斬撃だね、勿論どんどんいくよ」
 更には鋭い流星となって降り落ちたリリエッタも斬撃を追加し、続く皆の攻勢で二体目のうさぎさんがたちまち傷だらけになっていく。
 俺の手には今なんで制圧射撃じゃなくてコレがあるんだろうなと思いつつ、優之介が戦術超鋼拳でぷにぷに肌を突き破れば、ぷるっとしたうさぎさんはぴょこんと後退し、
 ぷにっぷにの、くるっくる!
「ちっ、あの回復なんとか邪魔できねぇかな?」
「パラライズや石化に賭けるか、アンチヒール付与等でないと難しいでしょうね。ですが」
 ――和んでない、俺は和んでマセンヨ!?
 回復したうさぎさんはぷにっぷにのつやっつや、その姿を目の当たりにした最中は必至に己に言い聞かせつつ、今度は達人の技量が冴える斬撃をお見舞いしに駆けた。そう、いくら敵が回復しても、弱点を突きまくってヒール不能ダメージをガンガン蓄積させればいい!
 けれどヒール不能ダメージが蓄積するのはあちらもこちらも同じこと。
 きゃっきゃうふふと跳ねるうさぎさん達の連携攻撃!
「あー! 日本の夏に負けそうなロシア人にはたまらないひえひえなのー……!!」
 ぷにぷにぽよぽよと突撃を喰らったフィアールカが遂にここで力尽きた!!
「くそ、庇いきれなかったか……!」
「いや、ディフェンダーが多かったからこそ彼女もここまで粘れたんだと思うよ?」
 間一髪で間に合わなったケイが無念そうに洩らしたが、リリエッタが淡々と返す。彼らが庇い、フィアールカ自身もディフェンダーだったから。でなければもっとあっさり倒されていたはずだ。
 標的以外の敵の動向にも気を配っていた者も多いが、只ディフェンダーであるだけでその挙動も意識も無防備な、連携もとれない相手を護りきることは困難なのだから。
「メディックとしちゃ悔しいけど、この機会は無駄にしないんだよ……!」
「うん。ぷにぽよなうさぎでも敵は殲滅だもん、リリの敵は皆殺しだよ!」
 回復不要の機を掴んだ結が両手の扇を広げてくるくると舞った途端、眩い雷光が全方位に迸ってうさぎさん達に襲いかかり、自身でカスタマイズした銃を翻したリリエッタが呪いの魔弾を叩き込む! ぷにぷに集中攻撃されてるの羨ましかったとか思ってないよ!
 そして、実はひえぽよ感にとっても心惹かれていた千翠が、
「さあ碧、行ってこい! 俺の分までぷにぷにぽよぽよ感を堪能してきてくれ!!」
 杖から戻った翡翠色の小鳥を突撃させれば、うさぎさんはぷにぷにぽよぽよあわあわし、
 ぽよよよんっ!!
 ――と、弾けて霧散した。

●とびだすうさぎさん。
 夏空を背にエクトプラズムのきらきらコスメが舞う。
 倒れた主の代わりとばかりに奮闘を続けたミミックもぷにぷにあたっくで散れば、次なるうさぎさん達の標的はやはり仲間との連携を意識していないセイヤ! だが、
「っと! 敵の頭数が半分となりゃ流石に大分楽になったな」
「……すまん、助かった」
 左右から突撃してきたぷにぷにひえひえの片割れを優之介が己が身で防ぎ、セイヤ自身も咄嗟に翻した特殊戦闘ジャケットの回避性能を活かして急所への痛撃は辛うじて外し、ひえひえの薄氷を腕に奔らせたまま月光斬で反撃。続けて、
「もらったぜ!!」
 同じく優之介が放った月の斬撃で、ぷにっとぽよっと三体目のうさぎさんが霧散した!
 残るぷにぷにぽよぽよはあと一体! 一気呵成に集中するケルベロス達の攻撃にぷにっとぽよっと果敢に抗ううさぎさん! だが遂に彼はぷにっと後退り、くるっと半回転して、
「あっ! あれ回復じゃないよ!!」
「逃げる気だな、そうはさせるか!」
 真っ先に違和感に気づいた結が声を張ると同時にぴょこぴょこすたこら一目散! 即座に芝生を蹴った千翠が進行方向へ跳び込み、
 ――歪め。蝕め。
 呪いの攻撃を仕掛けたが、そのまままっすぐ跳び込んできたうさぎさんのぷにぷにのひえひえが呪いを相殺! ぷにぷに柔らか、ひえひえ涼やかなその感触が相殺でふうっと消えていく様が――。
 あ、なんか冷たくて気持ちいい……。
 とか思ってない! 思ってないよ!!
 だが千翠の胸元を足掛かりにうさぎさんはぴよーんっと跳んだ!
「皆さん、包囲を……!!」
「いや包囲も跳び越えるだろ、あのハイパーなジャンプで。逃げきられん内に倒すぞ!!」
 追いながら最中が皆へ呼びかけるが傍らを駆けるケイが首を振る。
『外の世界へ向かって! ぷにぷにあたーっく!!』
 あのうさぎさんならそんな感じで包囲も越えていくに違いないのだ。
 正直この広い芝生の庭の向こうに見える純白のガーデニアとか真紅のダリアとか咲く花の庭とか庭師的には超気になるのだが、敵が残り一体になってもそっちに気を回す余裕ない。全然ない!
 そう思った、刹那。
「届け俺の――二刀斬空閃!! とか言うとクライマックスっぽいな?」
 両の手で刃を揮った優之介の剣閃が空間ごとうさぎさんをばっさり!
「うん、クライマックスっぽい。それじゃリリも、届けリリの――猟犬縛鎖!!」
 間髪容れず夏風を貫いたリリエッタの黒鎖に縛られ、うさぎさんはぽよっと墜落した!!
 勿論ずっと鎖で縛りつけておけるわけではないが、一瞬でも隙が生じれば十分で、
「お願い! ハコ!!」
「ポヨンもだ! ぶちかませ!!」
 箱竜達が迸らせた氷と水のブレスが捕縛効果を強めにかかると同時に、小さな拳を一瞬で獣のものに変えた結が黒猫パンチ! 息つく間もなくケイが閃かす不知火刀が達人の技量で斬撃を叩き込む!! 更に、
「ざ、残念なんかじゃないんだかんなっ! 未練とかないんだかんなっ!!」
 明らかに名残惜しそうに叫ぶ千翠が翡翠色の小鳥を射ち込めば、その衝撃でうさぎさんはぷにっところんっと転がって、ぷるぷるした。
 ぷるぷるして、最中を見上げた。気がした。
「――!!」
 ああ。
 在るべき姿を歪められてしまった植物達の姿には常に悲壮感を覚えていたけれど、彼らはとっても楽しそうで、初めて得た自由を謳歌しているように見えて。
 だけど。
「……ごめんなさい」
 表情は動かずとも、思わず零れた最中の声には悲痛な色が滲む。
 無名の業物で揮うのは散リ菊の一撃、ぷにぷにへ突き立てた刃に手を添えれば迸る紫電が白くておっきくほんのり透きとおるうさぎさんの花から光と煌きの紫の菊花を咲かせ、その命と一緒に散り消えた。
 緑の芝生をきらきら煌かせる夏風が、霧散した粒子の最後のひとかけらまで浚っていく。
「……終わったな」
「……終わりましたね」
 呟いた千翠の眼差しが夏風を追うのに誘われるよう、最中も風の行方を振り仰ぐ。
 夏空の青が、鮮やかに眼に沁みた。

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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