触手とスライダーとスライムと

作者:遠藤にんし


「この子達にも、活躍の場を与えてください!」
 スライム忍者・雷霧の差し出すスライムを、オークはニタリとした笑みを浮かべて受け取る。
「お願いですから……どうか……」
 潤む目でオークを見つめる雷霧、そんな彼女に手を伸ばすオークたち。
 ――体をいいように触られても、スライムたちのためと、雷霧はぎゅっと目を閉じて堪えていた。


 そのアミューズメント型プールには流れるプールや子供向けの浅いプールもあるが、一番の人気はウォータースライダーだった。
 ねじれる狭い道を滑り落ちるスリルが楽しいのか、比較的空いている時間だというのに、ウォータースライダーには女性たちが並んでいた。
 ざばん! と勢いよく水の中に放り出された女性は、頭までずぶぬれになりながら顔を上げて。
 ――そこに、オークの姿を認めた。


「オークの事件は絶えることがないね」
 呆れた風に高田・冴は言って、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)も小さく溜息。
「最悪ですね」
「ああ、最悪だ。だからこそ、女性が攫われる前にオークを仕留めておきたい」
 冴曰く、オークが現れるのはスライダーの出口の辺りだという。
「オークは15体、女性はスライダーに並んでいるのが5名程度と、スライダーから出た先の波のあるプールで遊んでいる女性が15名程度だ」
 偶然にも全員が女性であり、オークに狙われる危険性がある。
 もしオークから彼女たちを守りたいのであれば、文字通り体を張る必要もあるかもしれない。
「囮になったり、避難の声掛けをすれば、彼女たちに被害が及ぶことは減るはずだ」
 さらに、今回のオークは衣服だけを溶かす特殊なスライムを持っている。
「スライダーの近辺で戦うのなら、特に注意が必要かもしれないね」
 とはいえ、せっかくプールに行くのだから楽しんできてほしい、とも冴は言う。
「色々遊べそうだもんな」
 小瀬・アキヒトも呟いて、何をしようかと考えるのだった。


参加者
マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
イスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
カレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)

■リプレイ


 スライダーの出口にて、ばしゃん! と大きな水しぶきを上げて女性が一人、滑り落ちる。
 派手に上がる水しぶきに紛れるようにして、触手が水面から覗く――それを見て取った瞬間、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は落ちてきたばかりの女性の前に立ちはだかる。
「毎回プールで暴れるのも、ワンパターンってやつなのです。そろそろ諦めると良いのですよ!」
 言葉と共に真理は神州技研製アームドフォートでその触手を受け止めた。
 女を狙えると油断しきっていたのか、オークはケルベロスの出現に攻撃に驚愕の表情を浮かべた。そこからの反応はオークそれぞれだったが、逃げようとしてかプールサイドへ上がったオークへは、ライドキャリバーのプライド・ワンによって炎に呑まれた。
「貴方たちそんな直ぐにどうにかなっちゃうようなモノよりこっちでお姉さんたちと遊びましょう? 忘れない出来事にしてあげますわ~♪」
 突然のことに逃げきれていない一般人からオークの意識を逸らすように、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)は体をくねらせる。
 深い谷間を見せつけるようにしながら淡雪は百花桜乱。ピンク色の花弁が水中に沈んでいき、真理がドローンに運ばせた薬液と共に癒しの力を増幅させた。
 テレビウムのアップルも閃光によりオークらの視界を奪い、シャーマンズゴーストのまんごうちゃんも長い爪で一撃を叩き込む。
 そうしてサーヴァントらが前線で攻撃を仕掛ける間に、羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)は逃げていない女性たちへと声をかける。
「私たちはケルベロスなの、ここから離れて!」
 黒髪を揺らしながら告げる結衣菜は九尾扇『ムーンゴッデス』を開くと、オークへ向かって扇の羽を伸ばす。
 今回の敵は多人数。攻撃手段も全体へ向けた方が効くだろうという判断からの攻撃に、オークの何体かは切り刻まれるようなダメージを受けて苦悶の表情を浮かべる。
 そんな様子をスライダーの真上から見下ろして、それからマイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)は自分へと視線を送るオークの群れへ視線を移す。
 じりじりと包囲網を狭めるオーク……こちらに引き付けているのは数体というところだが、スライダー周辺のオークはマイが引き付けている。これで、スライダーにいた女性たちは問題なく逃げることができるだろう。
「オークって、女の人がいればほんとどこにでも出るんだね」
 マイや淡雪、真理へと群がるオークの様子に、カレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)は呆れ顔。
 まるで何かの黒い虫のようだという思いと共に、ならばいっそオークホイホイのような捕獲器が欲しくなってくる。
 ……とはいえ、残念ながらオークホイホイは今のところは存在しない。一体一体地道に潰していくしかないのだと、カレンはガジェットの砲身を展開する。
「砲撃するよ! 巻き込まれないでね」
 言葉は仲間に宛てたもの。
 それでもオークの中でも攻撃が来ることを察したのか、逃げようとする個体もいた。
 だが、そうしたオークどもに逃げる暇も与えずにカレンは大口径高速弾を放つ――辺りを揺るがす砲声が響いたかと思えば、水柱があちこちで立ち、カレンの髪にも水しぶきが降り注いだ。
 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)はスライダーを勢いよく滑り降り、中に残された人がいないことを確認する。
 降りた先で当然のように待ち構えている二体のオークへは、赤い双眸で正常な判断を奪い、ダメージを与えた。
 互いの尻に触手をまとわりつかせ合うオーク……そんな気持ち悪い光景を展開するマルレーネは、気にするように真理へと目を向けるのだった。
「くっ……なっ!? 何処を触っているだ!?」
 そんな声は、スライダーの上方から。
 きわどすぎるビキニのイスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)がオークに触れられ、顔を真っ赤に染めている。ドラゴニアンとしての力での攻撃もしてはいるのだが、オークがそれを意に介する様子はない。
 イスズのその様子を見たシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は、灰色ビキニの胸元を開いて。
「そんなに溶かしたいのでしたら……お相手しますよ?」
 オークによる略取は防ぎたいシフカ――逆に、略取以外のオークの行いを止めるつもりはなく、自身の体を舐めるように撫でまわすオークの触手にも抵抗は見せない。
 そんな彼女たちの様子を心配そうに見つつも、小瀬・アキヒト(オラトリオのウィッチドクター・en0058)は避難誘導に専念。おかげで比較的早い段階で、避難は終わったようだった。
 女性たちの姿が消えるまでは触手に身をゆだね、もたらされるものを楽しんでいたシフカも、女性たちの姿が現場から消えたのを認めると、攻撃態勢へと切り替える。
「気持ちよかったわ……では、お疲れ様です」
 冷たい表情で告げるシフカの背後、ビハインドのヘイトレクもオークへと向かって行った。


 一瞬のためらいもなく、喉笛をナイフで引き裂くシフカ。
 ヘイトレクの金縛りのおかげもあって、シフカの斬撃は性格にオークを捕らえ、その命を奪った。
 飛び交うスライムに真理の水着は溶かされてしまっていたが、水中にいれば水の揺らぎで肝心のところは見えなかった。
 ――かと思えば、迫る触手が真理の足首を捕まえ、その体を引き上げようとする……真理は慌てて身をよじり、真紅の光線を胸から発する。
「そ、そう言うのはいらないですッ!?」
「汚い手で真理に触るなっ!」
 真理の声に重なるのはマルレーネの激情に満ちた叫び。
 叫びと共にプールにはオウガメタルによる絶望の黒光が注がれて、真理の体を引き上げようとしたオークは水中に沈んだまま上がってくることはなかった。
 水着を溶かされたのはカレンも同じ。
 紺色のビキニはほとんどが跡形も残していなかったが、サキュバスの羽と尻尾のおかげで何とかなっているようだった。それでもカレンは焦ることなく、ガジェットを拳銃形態へ変えて弾丸をオークの体へと食い込ませる。
「この手品を見て、シビれるといいわ!」
 結衣菜が降り注がせたのは多量のトランプ。はらはらと落ちるトランプはオークの体を麻痺させ、その瞬間を狙ってまんごうちゃんは炎の攻撃を叩き込んだ。
「百倍返しだ!」
 スライムに溶かされはしなかったものの、マイの体にはオークの触手が巻き付いていた痕が薄く赤く残っていた。
 避難が済むまではミサイルなどで敵の抑えに回っていたマイも、今はもう遠慮する必要がないとばかりにオークの下肢、その重要な部分へと打撃を叩き込む。
「存分に味わえ……!」
 刺激的という言葉で表すにはあまりにも強烈な電気振動。
 アップルも凶器を叩きつけ、オークの一体を再起不能にさせた。
 触手に撫でまわされながらも淡雪はサキュバスの力で仲間たちへと癒しを送り続け、そのおかげで戦いの中で大きな負傷をした者はいなかった。
 オークの数が減り、減った個体も淡雪が引き付けてくれている。
 イスズはオークの拘束から逃れると、耳まで真っ赤にしながらもオークの頭を掴み。
「先程の礼……返させてもらうぞ!!」
 両手に宿した降魔の力で、何度も何度も殴打を叩き込むのだった。

 ――奮戦の甲斐あって、現れたオークたちは残らず撃破された。


 戦いが終わってケルベロスたちが最初にしたのは、プールのヒールだった。
「形変わらないかな……」
 スライダーを癒しながらマイは不安げ。
 結局、幻想は混じってしまったがスライダーとして使い物にならないような事態は避けられた。
「これなら問題なさそうだな」
 独りごちるマイへと、結衣菜はうなずく。
 見れば、仲間たちの手伝いのおかげもあって、プールは全てヒールが完了していた。これなら、避難していた彼女たちを呼んでも問題ないだろう。
「さて、じゃあ……」
 結衣菜が避難していた女性たちにプールの使用ができるようになったことを告げると、彼女たちは安堵の表情を浮かべる。
 今は夏真っ盛り。冷たい水は、きっと彼女たちを癒し、楽しい思い出となることだろう――そう思って、結衣菜は微笑した。
「サウナよ~サウナー♪」
 裂けてしまった服を着替え、淡雪は浮き浮きとサウナへ。
 少しでも痩せるための努力を怠らない淡雪が携えるのは、ファミリアの彩雪。
「貴女からとっても良い香ばしい匂いがしてきたのですけど……塩コショウ付ければ美味しいのかしら?」
 体の大きい彩雪にそんなことを言って脅しながら、淡雪はたっぷり汗をかく。
 シフカも着替えて温泉に入り、汗の引いた体を再び温める。
 もしも体の火照りが収まらない人がいるようなら……と思って横目で周囲を見るが、避難が早々に完了したこともあり、皆お風呂でリラックスした表情を浮かべているばかりだった。
 ――波のあるプールで、イスズは浮き輪の上に乗って水の流れを満喫。
「これで、のんびりとできるな……」
 オークにはひどい目に遭わされたイスズだったが、今はもう元凶はいない。戦いでかいた汗も流れ、肌に触れる水の冷たさも心地よいものだった。
 マルレーネは着替えて、幻想が混じったスライダーを勢いよく滑り降りる。
 ざばん! と弾ける水が楽しい――そう感じた瞬間、マルレーネの体は柔らかいものに抱きとめられる。
 ぎゅっとマルレーネを抱きとめたのは真理――そのまま水流のプールへ行く途中、マルレーネの頬に唇が触れたのは偶然だったのか、あるいは。
 カレンはユーロと共にスライダーを滑り、波のあるプールへと向かう。
「背が高ーい♪ いいなー」
 さんざん遊びつくしてから温泉へ。温泉でそう言いながらすり寄るユーロの頭を撫でてから、カレンはぎゅっと抱きしめてあげる。
 ――プールではいつまでも、ケルベロスたちの楽しそうな声が響いていた。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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