COOL! 薄荷風呂明王

作者:狐路ユッカ


「めっちゃ暑い!」
 ビルシャナはとある町はずれの小さな銭湯に現れた。営業時間前の銭湯は、今まさにお湯を張り終えたところだ。
「えっ、お客さ……ま」
 ばりーんと力ずくでドアを壊してご入場のビルシャナに、番台の老婆はヒッと息を飲む。ぞろぞろと5人の信者も引き連れて、入って行ったのは男湯。
「わ、なんだあんたら。まだ準備ちゅ……」
 備品の整備と掃除をしていた男はその異形に腰を抜かす。
「退けるのだ!」
 ビルシャナは男の横をすり抜けると、湯船にずんずんと近づく。
「な、何をするんだ、おい……っ」
 勇気を振り絞って声をかけるが、ビルシャナが止まるはずなどない。その手に持っていた瓶から、何かをどばどばと湯船にぶちこんだ。
「これでヒンヤリスースーなのだ!」
「やったー!」
 ふわんと漂うのは薄荷の香り。――瓶の中身はハッカオイルだ!
「ばばばば、バカやろう! そんなことしたらスースーして……!」
「煩い! こんな暑い時に熱い風呂に入るなど愚の骨頂! 全ての湯船はヒンヤリになるべきである!」
「おおおおお!」
 信者達が手を叩く。ああ、もうだめだ。こいつら暑さで頭がイカれてやがる……。

 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は、ぶるっと身震いをした。
「……薄荷風呂明王が現れたんだよ」
「薄荷風呂?」
 ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)はことりと首を傾げた。
「そう、ハッカオイルってあるじゃない、あれをね、湯船にいれるんだ。そしたら、浸かってもすーすー! 上がってもすーすー! 何してもすーすー! っていう状態になっちゃうんだよ」
 夏でも真冬のすーすーだよ! と祈里は涙目になっている。
「それは……銭湯も商売あがったりですね」
 いくら暑いとはいえ、お肌への刺激が過激すぎる。
「場所は町はずれの銭湯。こぢんまりした、大きめの湯船とサウナと水風呂があるところだよ。営業時間前だから、経営しているおじいさんとおばあさんがいる他は誰もいないね」
 みんなで助けに行って、二人は避難させてあげれば大丈夫だよ、と付け足す。
「で、配下だ。5人いる。ぶっちゃけ暑くて変になっちゃってるだけだとおもうから……まあ、薄荷風呂のヤバさを伝えるなり本来のお風呂の良さを教えるなりして出て行ってもらおう」
「そうですね」
「ビルシャナは……まあ、もう手遅れだからやっつけちゃって」
「はい」
 このビルシャナ、なかなかやっかいで何やら薄荷まみれな攻撃をしてくるようだ。涼しいような、ありがたいようなありがたくないような。
「片が付いたら、お風呂で汗を流してくるのも良いかもしれないね」
 あ、薄荷が投入されてるんだっけ……と祈里は口を噤む。
「洗って入りなおすもよし、ちょっと薄荷を体験するもよし、ですか?」
「うん、まあ……」
 苦笑いする祈里。
「薄荷はちゃんとした使い方をすればすーっとしてキモチイイし虫よけにもなる素晴らしいものなんだけど……致死量お風呂に入れるのは違うと思うんだよね!」
 そう言うと、祈里はケルベロス達をヘリオンへと案内するのであった。


参加者
天矢・恵(武装花屋・e01330)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
遠野・葛葉(鋼狐・e15429)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
那磁霧・摩琴(シャドウエルフのガンスリンガー・e42383)
氷室・狩魔(ヴァルキュリアの妖剣士・e64445)

■リプレイ


 薄荷オイルのボトルを一本湯船にぶち込んで高笑いするビルシャナの元へたどりついたケルベロス達は、そのすーすー具合に眉を顰める。
「ひ、ひぃ、湯船が……」
 震えている老夫婦に、那磁霧・摩琴(シャドウエルフのガンスリンガー・e42383)はそっと声をかけた。
「大丈夫、ボク達がすぐに追い払うから……避難していてね!」
 ナズナ、お願い。ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は摩琴の目配せに頷き、老夫婦を番台の方へ撤退させる。その様子を確認すると、摩琴は殺界を形成した。
「わ、凄い……薄荷の香り」
 マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)の呟きに、ビルシャナはうんうんと頷く。
「そうであろう! 薄荷はこの香りこそが最の高!!」
「暑くて溶けそうになるから、すーすーしたい気持ちは判るけどずっとお風呂にいるのは不便じゃない?」
「へ?」
 信者の1人が呆けた顔をした。
「その格好で外を歩いたりするの?」
 信者達は皆、腰にタオル一枚だ。まさかこれでお外を歩いたら警察の御厄介になってしまう。
「……それに全身すーすーしたら困りそう」
「す、すーすーがいいんだもん!」
 年甲斐もなく言い張るオッサンが可愛くなくてげんなりするケルベロス達。
「濡らした冷却タオルにハッカオイルを振りかけて首に巻くと気持ち良いよ」
「え!?」
 信者の1人がハッとした顔でマイヤを見た。
「外も歩けるし。便利グッズは正しく使ってこそだと思うな」
「そ、そーなんだ……」
 何も風呂じゃなくていいんだ。ブツブツ言いながら、信者の1人は去って行った。それでも残って薄荷の香りに酔いしれている信者とビルシャナに、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は眉を顰める。
(「薄荷風呂とはビルシャナの者は珍妙なことを考えるのう。そもそも、ヒンヤリ涼しくなりに銭湯に来ている時点でおかしいのじゃ。こんなに暑いのならプールにひと泳ぎにいくのが一番なのじゃ……」)
「のう」
「うん?」
 振り向いた信者に問う。
「なぜ、涼しくなりに銭湯に来ている?」
「え、薄荷……」
「涼しくなりに行くのならプールや海がよい。それに……ケルベロス大運動会で水着コンテストがあるじゃろ?」
 プールに行けば水着のおねえさんが見れるぞ。なんてな。
「そういえば、ナズナおねえはどんな水着にするのかのう?」
 ちら、と番台の方へ視線を向ける。今は老夫婦を匿っているナズナ。妄想の翼を広げるよう仕向ける。
「いいなあ、水着」
 ぼそりと呟いた信者を引き留めるビルシャナ。
「水着のおねいさんを見ても涼しくはならぬぞ」
 やはり薄荷に限る。ビルシャナが微笑むと、信者は大きく頷いた。
「薄荷風呂……ヤバいですね」
 氷室・狩魔(ヴァルキュリアの妖剣士・e64445)は、このすーすーした湯気の空間にため息をひとつ。
「入ってる最中はまだいいかもしれませんが出た後絶対ヤバいですよ」
「出た後もすーすーでよろしいのだ」
「スースーしすぎて暖房とか付けるハメになりますよ……」
「このクソ暑いのにそれはなかろう」
「それにお風呂は熱いからいいものです。お風呂の後は体が濡れてるんで、しっかり体を温めておかないと冷えて風邪引きますし……素直に水風呂でもやったらいいんじゃないですかね」
 やだやだーっ、とごね始める信者達。水風呂じゃヤなんだもん薄荷が良いんだもん。そんな駄々っ子達を見かねてか、
「ハッカオイル、使い方を間違えたらどうなるか、お主ら知っとるのかのぅ?」
「えっ」
「知らぬか、そうか。ならば入ってみると良い。ほれ」
 何者かがビルシャナの背を押した。


 ドヴァッシャーン!!!!
「どうじゃ。涼しいじゃろう」
 沈みゆくビルシャナの背後に立ち、にぃっこりと微笑むのは彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)。
「しかし、良いのかのぅ?」
 ぶくぶく、あぶくと共に、ビルシャナが浮き上がってくる。
「一瓶まるまる入れたんじゃろう、ほんの数秒入ってるだけでも、ヒリヒリしてきてるのではないか?」
 ばしゃぁっ、と薄荷湯飛沫と共にビルシャナが顔をだした。
「ん、んぐっ……」
 ひょえぇ、と一人の信者から声が上がった。
「カカッ! さぞ寒かろうな。ほれっ!」
 びしゃぁん、と手桶から水が放たれる。ビルシャナの顔面に思いっきり。
「ん、んおおおぉぉぉぉっ」
「うわぁ、これは……」
 寒そう。
「んぎもぢぃいいぃぃぃんっ!」
 恍惚とした表情でビルシャナはばっちゃばっちゃと湯船の中で踊り狂っている。
「ぅゎ」
「そうじゃろう、お主には氷水をぶっかけられたように思うじゃろうな」
「これこれ! これがいいのぉぉぉっ!」
 ビルシャナが絶頂しているのを見て、ドン引きしている信者がひとり。さすがにここまでとは。しかし残りの三人はいいなぁとか呟いてる。ヤバい。
「その状態でこのクソ暑い猛暑の中出てみろ。暑くは感じぬだろうが熱中症にもなりやすくなるんじゃよ」
「え、そうなの」
「風呂の温度も、外の気温も変わらんのじゃ。感じる温度は違くても、実際に身体が受け取る温度というのはな。それならば、氷水にでも浸かっとるほうがよっぽどマシじゃろうてな?」
 戀の説得に、ビルシャナへのドン引き値が高まっていた信者は頷く。
「お主らも、こうなりたくなければ、程度は考えるべきじゃの?」
 そうだよね、と呟くと、信者は銭湯を出て行った。ビルシャナは気付かずうっとりと湯船に身を沈めたままだ。
「……此処が何処だかお分かりですか」
 眼鏡をツイッと上げながら、シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)は残る信者達とビルシャナに問うた。
「万人受け入れる癒しの湯、銭湯ですよ。そのお湯に、明らかに適量を遥かに超えている薄荷オイルを入れるとは何事ですか」
「何事って涼しくて良いだろ!」
 はぁ、とため息をつき、シデルは続ける。
「薄荷オイルは多すぎれば肌が荒れますし、消化器系にダメージがある副作用も懸念されます」
「うん、結構強力な神経毒成分が含まれてるから危険だよ?」
 摩琴はシデルの説明に頷く。
「まず血圧上昇効果があるから高血圧の人はすごく危険だね。お風呂で温まることで血流も早くなるし清涼効果で汗も出にくくなるし……その神経毒成分は経口摂取で肺炎起こしたりするよ。薄荷風呂は湯気が凶器ってことだね」
 うんうん、と二人で頷き合うと、信者の1人、年を取った男が不安げに口元をおさえた。血圧に何か不安があるのだろう。
「銭湯のお得意様層であるお年寄りがこんな夏バテな時期にお腹なんて壊したら……! 命に関わりますよ」
「で、でも涼しくなりたい……」
「体を冷やしたいならもっと良いものがあるではないですか」
「えっ、何……」
「サウナに入って限界まで身体を熱した後の水風呂です。デトックスも出来て完璧です」
 シデルが木の扉を指さす。そっかぁ、と目が覚めた信者は、薄荷風呂に浸かる異形に気付いて後ずさった。
「開店までに整えておきますので、一度外へ」
「あ、ああ、わかった!」
 ビルシャナは1人で恍惚としている。
「でも、このすーすーした香りサイッコー!」
 残った信者の発言に、天矢・恵(武装花屋・e01330)が刺さりこむ。
「薄荷の匂いは覚醒作用がある。かぎ続けていたら眠れなくなるぜ」
「ん!?」
「ぐっすり眠る快楽味わえなくて良いのか」
 せめぎ合う睡眠欲とすーすー欲。
「柔らかい布団に横になって目を閉じる」
「う」
「一晩ずっと意識がある……どれだけ辛ぇか」
 恵は何を思ったのか、風呂場の窓を全開にして歩きながら話を続けた。
「疲れている筈なのに眠れず疲れが溜まり、失敗、敗北、不の感情をリセットできず日々を過ごすことになる……」
 そしてどこかから持ち出した七厘に火を入れた。
「え、ちょアンタ何して……?」
「眠れねぇから成長ホルモンなど必要な分泌物もでねぇ。そのまま薄荷臭い匂いに包まれていては……次に眠れる時は永眠する時になるぜ」
「ヒッ」
 言いながらも、手元では何かパタパタやってる。うちわだ。網の上になんか乗ってる……うなぎだ。
「それで良いのか? 暑さ対策だけに命を賭けるとは馬鹿らしいだろ」
「で、アンタ何やってんだ……」
「腹、減らねぇか。美味ぇ鰻の蒲焼を用意したぜ……風呂からあがってくれば食えるぜ」
 餌付けだ! わかりやすい! 餌付けだ!! しかしそんなことに気付くほど冷静な信者ではない!
「暑いときには精力をつけねぇと越せねぇだろ。スースーより美味ぇものだ」
「はいっ!」
 素直に頷いてビルシャナから離れる信者。ちょろい。ちょろすぎる。ちょっとスースーした香りの鰻な気もするが、もうそんなことはどうでもよかった。


「それでもっ、俺は暑さに勝ちたい勝つには薄荷だ!」
 退かぬやつが1人。ビルシャナはやはりうっとりと薄荷に浸かっている。大丈夫かこの教祖。
「確かに暑いな!」
 ようやっと口を開いたのは遠野・葛葉(鋼狐・e15429)だ。
「だが、心頭滅却すれば火も亦た涼しであろう? 我々はまだ鍛錬が足らんということだ」
「えっ、え?」
「そこで我は考えた。本当の熱さを知らないのではないか?」
「あつ、暑、熱……?」
「熱さを知り寒さを知りさえすれば無の境地に至れるであろう! という訳で、江戸っ子も顔が真っ赤になる熱さの風呂を用意した!」
 葛葉がビッと指を指した先は、ぐつぐつと煮えたぎる熱湯風呂であった。なるほど、これを準備していたから喋らなかったんですね。
「さぁ涼しさを得るため、共に修行しようではないか!」
 ぐいっと信者の手を引き、有無を言わせず熱湯風呂へ着衣のまま飛び込む。
「どあああああああああ」
「うむん! 熱いッ、これぞ修行―ッ!」
 着衣のまま入って無事で済むような熱湯ではないが、さすがのケルベロス。ダメージにはなっていない。……けど一般人大丈夫か。泣きながら上がって行ったぞ。
「おお、流石に無理であったか! では寒さを知ろう!」
 ザバァッと上がると、今度は信者を氷水風呂へ突き落す。
「んぎゃわっ……わぶぶっ」
 信者、涙目である。ぶるぶると震えながら、脱衣所へダッシュしていった。
「……五人目の人、すごく泣いてましたけど何かあったんですか……?」
「大丈夫、命に別条はなかろ」
 ナズナはいぶかしげな顔をして説得にあたっていたケルベロス達に合流するのであった。
「えっ……もしかして我のお風呂仲間みんな……」
「帰りましたよ」
 シデルが眼鏡の位置をなおしながらしれっと告げるとビルシャナは慌てて風呂から上がる。
「んんっ!」
 そして身震いをひとつ。
「……毎日暑くて溶けちゃうよね。わたし、暑いの苦手」
 マイヤは涼しくなる方法があるなら良いけど、と、うんざりしたような顔でため息をつく。
「ラーシュも苦手でしょ?」
 傍らのボクスドラゴンに問うと、同意するかのように肩を竦めた。ビルシャナもうんうんと頷き、薄荷を勧めようとする、が。
「でも、暑過ぎるからって、人に迷惑掛けちゃダメだよ」
 言葉尻にのせるように、時空凍結弾を撃ちこむ。
「ひぇっ、つめたっ。よーし我もーっ!」
 ビルシャナの指先から薄荷のビームが迸る。前衛の仲間を庇うようにウィゼとラーシュが躍り出るも、カバーしきれなかった者達は薄荷を浴びる羽目に。
「全く……悪質です、ね!」
 シデルのヒールが、ビルシャナの顔面にめり込む。
「もぎゃぁ」
「げほっ、うう、すーすーするー!」
 摩琴はひょいとタクトを振るって自身を含めた後衛の仲間にボディヒーリングを施した。
「ダメージは癒えますが……目に沁みますねこの閃光!」
 狩魔はエアシューズを駆ると、ビルシャナに蹴りを叩きこむ。
「ごふ、まだまだ!」
 薄荷の香り漂う氷の輪を放つビルシャナに、恵が合い撃つようにドラゴニックミラージュを放った。
「相殺、ってな」
 氷が彼を打つことは無かったが、強烈な薄荷臭があたりを包む。
「冷感状態が長く続けば、熱中症や脱水などの危険性もあろうと言うに……まさしく鳥頭じゃな」
 と、戀は狂詩曲『殺戮の紅月光』を奏で上げる。
「ぴぎょおお!」
「こっちは、どうだっ!」
 葛葉は鋼の鬼と化した握り拳で思い切りビルシャナの腹部を抉る。ぶっ飛ばされたビルシャナ、しかし葛葉は己の手を擦りながら呟くのだった。
「すーすーしおる……殴った方の手も痛いとはこのこと」
「うう、薄荷最涼最良爽快……」
 念仏を唱え始めるビルシャナに、矢を放った直後のナズナが膝を着いた。
(「……なんだか頭がすーすーするような……」)
「ナズナおねえしっかりー! うう、さあ行くのじゃ、誇り高き魂を持つ英雄。アヒルちゃんミサイル発射なのじゃ!」
 ナズナを背に庇うようにして、ウィゼはアヒル型ミサイルをドンドコ放つ。
「ぎゃっ、お風呂に浮かべる奴じゃないーっ」
 ビルシャナは半べそをかきながら読経を止める他なかった。
「大丈夫?」
 摩琴がナズナに走り寄り、大自然の護りでその傷を癒す。
「すみません……ありがとうございます」
「上を向いて、きっと願いは叶うから」
 マイヤの声に応じて、流星群がビルシャナの頭上を踊った。
「お、おお、おわ……」
 光の群れに侵食されるビルシャナ。
「さようなら」
 シデルの冷たい声が響いた。どの暑さ対策より、冷たい声が。――栗鼠寅だ。あっけなく、ビルシャナはお星さまの仲間入りを果たすのであった。


 さて、とシデルは眼鏡の縁を押し上げ、居住まいを正す。
「お風呂の清掃を手伝いましょう」
「だな……換気もしねぇと次の客が迎えられねぇ」
 恵はドア、窓すべてを開け放ち薄荷の匂いと鰻の匂いを逃がした。皆でヒールをかけて清掃すれば、あっというまにいつもの銭湯に元通り。
「皆さん、本当にありがとうございました……! よろしければこんな小さい風呂だけども入ってってください」
 と、老夫婦たちも一番風呂をケルベロス達に勧める。
「わぁっ、良いんですか!?」
 やったぁ、と燥ぐ女子たち。
「折角ですから、サウナ入りましょうかね」
 シデルは小さくため息をつく。ようやく汗が流せそうだ。

「広いお風呂って大好き……!」
 マイヤは肩まで湯船に浸かり、ほうっとため息をつく。
「はぁ~いいね銭湯♪」
 摩琴は、うーんと身体を伸ばすと、ぱしゃぱしゃと湯で顔を洗った。
「風呂上がりにはフルーツ牛乳飲むって聞いたんだ♪」
「良いですね、よく冷えたのを頂きたいです」
 ナズナも、同じように大きく息を吸って、吐く。薄荷の匂いはもう残っていない……はず。
「次の修行法を考えねばな……やはり滝行か?」
 葛葉は蛇口から流れ落ちるお湯を見つめ、そんなことを呟いた。
「オイル、洗面器に垂らして効果を確かめてみてもいい?」
「え、……貰ってたんですね」
 マイヤが取り出したハッカオイルに、ナズナは苦笑する。そっと足先入れて、マイヤは目を見開いた。
「わわ……これ凄い、ひえひえ、すーすーだ」
「それ、上がった後もすーすーですよ」
 湯船の中から、狩魔が指摘する。足を洗面器から出すと、
「わわわっ、すーすーする!」
(「薄荷風呂、気になりはするが、流石に入るのはのぅ……?」)
 戀は口元まで湯につかり、その様子を見つめていた。
「ハッカオイル欲しいな」
 呟くマイヤ。願わくば、明王にならぬことを。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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